「車って・・・・・・これです・・・・・・か」
「そんなに引かないでよ。一応エンジンはGSR-VRのをスワップしてあるんだから。馬力に見合うだけ、駆動系と制動系も結構いじってあるのよ。ただ足回りの基本構成はオリジナルのままだからコーナーは抑えないとね。でも踏めば直線だけは本当に速いわよ。まあ典型的なチョクピーカートロね」
「は、はあ・・・・・・」
早く乗りなさいと急かし私を後ろに乗せ、病院の駐車場を出て街に繰り出す。何だろうこの違和感は。スモークガラスの後席に乗っているのに視線が・・・・・・別に私を見ているわけではないのだろうけど。
「それにしても若くて綺麗な女性がこれのハンドルを握っていると目立ちますよね。お姉のポルシェより視線を感じます・・・・・・」
「ありがとう。世辞が上手ね。まあそんなに若くないけど。視線? 慣れるわよ。そんなの。そのうち無いと淋しくなるわ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「それより、さっきの話本当? 信じがたいのだけど・・・・・・」
「はい。こういう事は大抵が私の想像通りの結末になりますから・・・・・・」
車を出してくれるという看護師さんの言葉に甘えて、今学校に向かっている。学院で何が起こっているか確かめる為だ。来てはダメといわれたけれど、それは裏返しの発言と思った。行って何が出来るか判らないけど。どうせ戻るのなら期をみたい。
行動力はともかくこれでも解析力は自信がある。車内で私なりの考察を話してみたのだ。看護師さんは都度驚く。あのお嬢様学院にこんな闇があるなんて思わなかったろう。途中、作業服店に寄り白衣と吊るしの事務服を買う。私は車に留まり看護師さんに買いに行って貰った。制服姿で防犯カメラに映る訳にはいかないから。会計はもちろん現金。これで私はラボの関係者を装う。
「で、白羽さんは・・・・・・黒幕なの? 」
「いえ。黒幕は三年生の榊杏とその一派。それと私の・・・・・・」
「そう。白羽さんは違うのね。良かった。でも、貴女の見立てでは犯人なのね? 」
「実行犯・・・・・・ではありますけど・・・・・・。白羽は結果としてその正義感に踊らされたか、台本にかかれた通りに事を運ばされている、仕組まれている様に感じます」
「そうなの・・・・・・可哀相な白羽さん。そんな状態の白羽さんにどう対応するの? 策はあるの? 私に出来る事は何でもするけど・・・・・・。出来る事なら穏便に済ませたいわね」
「白羽の事より、まずは私達の自己防衛からですね。取り敢えず街を出たらサングラスか帽子をお願いします。それとイメチェンにアクセサリーも付けましょう。派手な格好に白衣なら誰が見てもラボのドクターです。私も今から事務服に着替えます。学院までの私道は、最近監視カメラが増えたそうなので、些細な事も手は抜けません。出来る事ならドクターが自らハンドルを握るのは違和感があります故、私が運転したいのですが・・・・・・」
「カメラ? 」
「表向きは夜な夜な勝手に入り込む走り屋対策です。でもその割には他の対策が緩いとお姉が・・・・・・」
「実際は学院に対する進入車両、人物の監視なのね。貴女の見立てでは」
「はい。今学院の工事をしている業者も、元請けは白木なので無問題ですが下請けは相当な身体検査をして選んだと聞いてます。隣接場所での作業なのに、私達とは完全に遮断して作業しています。学院の意向は理解出来ますが、どうにもしっくりきません」
話をしながら車を走らせ街を出て長閑な田舎の県道を進む。そして水量の有る川を横に見ながら学院への私道に差しかかる。藪の中に車を入れて乗り換えをして、私がハンドルを握る事に。トルコン車だし、人も車も殆ど居ないここから先はどうって事無いからと強引に代わった。感触を確かめる様に慎重に車を走らせると突然切り開かれた場所に差しかかる。
刹那目に飛び込む、設置中のゲート、脇に置かれた戦車すら止められそうなコンクリートのバリア、此処は戦場? そう思う程の有刺鉄線の束を目にして車内の空気が重くなる。一服中らしく誰も居ないのはラッキーだった。以前から刑務所だったけど、これからはゲットーの中の収容所になってしまいそうな感覚に陥る。互いに無言のまま暫く走ると・・・・・・。
「ねえ今なんか音が・・・・・・。ほらあの先の所砂煙が立ち上がってる所。事故じゃないのかしら? 」
「そうですね。その可能性は高いと思います。あそこら辺はブレーキの利かない車を止める為の退避路が有りますから・・・・・・。察するにブレーキの逝ってしまったオーバースピードの車が突っ込んだかと。でもあの退避路の百メートル手前に今はかなりのバンプが有るので一時停止が奨励されていますし、日常的に此処に来る配送ドライバーならあそこに突っ込む速さでは走らないと思うのですが・・・・・・」
「無謀な走り屋って事かしら? でも怪我人がいたら見捨てられないわね。悪いけど寄り道して頂戴」
「それは危険です。既にテリトリーの中なのですから・・・・・・。先を急いだ方が」
「ごめんなさい。それは出来ないわ・・・・・・。私は、医療に関わる人間なんだもの・・・・・・寄って頂戴」
「だから、ここは左辺と右辺をxで割って、この公式を当てはめて考えてご覧。こっちはここから垂線を引いて・・・・・・」
「八代先輩、ありがとうございます。理解できる様になりました。蘇芳さんにもこんなに丁寧にご指導されていたんですか? 」
食堂での合同自習、一年生が僕に勉強を教えてと直訴しに来た。クラス一の俊逸千葉緑は病院。トップランカーの葉子もあれの後始末で居ないし、何故かネリーも居ない。仕方ないので僕が教える事になった。あまり得意でない数学だけど、下級生の問題ならと引き受ける事に・・・・・・。
「いや蘇芳には・・・・・・勉強については何も。バレエや柔軟、サッカーについては結構みっちりとやったけどね」
「そうなんですか。蘇芳さん、この間のテストでクラスでトップだったんですよ。先輩が教えていたわけじゃないんだ・・・・・・。なのに・・・・・・凄い」
「そうなんだ。蘇芳が花菱君や八重垣君より上とは意外だね。入試の結果を知ってる者としては・・・・・・」
「ニカイアの会ってそんな事も知ってるんですか、私の順位を教えてください、八代先輩! 」
「しまった。守秘義務違反だから今の事は忘れてくれ。いいね? 」
「はーい。判りました。じゃ代わりにデートしてください」
「蘇芳さんが身を引いたって事は、私達にも少しは可能性が有るって事だもの。私、お尻に自信があるんですよ。胸はコンプレックスだけど・・・・・・」
そう言って僕の手を摑み、制服の上からでも判るプリッとした臀部に手を誘導する。絶妙な感触だ。確かに自慢するだけの事は有る。
「おいおい、手を離してくれよ」
「こら、後輩。人の恋人に手を出すんじゃないの。別荘に行きたいなら話は別だけど? 」
「し、白木先輩・・・・・・。それじゃ八代先輩、ごきげんよう。また勉強教えてください」
「譲葉、ちょっと来て。本当に勉強教えていたの? 」
「おいおい。やきもちかい? 」
「馬鹿! 」
いきなり頭をグーで叩かれた。顔が真剣だ。事態に何か進展、いや悪展が有ったのだろう。葉子に連れられて食堂を後にした。カメラを取りに部屋に寄ってから向かったのはブルーシートの向こう。アンタッチャブルな場所・・・・・・。
「譲葉聞いて頂戴。ここで先生が三人も消えたのよ。そして物証を積んだあのトラックも。防犯カメラには学院を出る車が記録されているわ。残念ながら日光の加減とゾーンライトの焼きが邪魔して判別が出来なかったのよ」
「元々、あの車は荷物をいや証拠物件を載せて外に処分に行く予定だったじゃない? そう言う事じゃないの? 葉子」
「でも・・・・・・先生方全員と連絡が取れないの。あの車は二人しか乗れないし。それにね・・・・・・。作業員の人が争う音と悲鳴を聞いたと進言が。それにこの足跡。これは先生のパンプス。こっちは槙先生のと思われるワイドなフラットシューズ。これはヒールのサンダル。ここまでは良いんだけど、問題はこれ。どう見ても学院指定のローファーよ。それも一人じゃないわ。一人は奇異な位に大きい足跡・・・・・・」
「足跡をつけてみるかい? 森に続いてるね・・・・・・」
消毒していない足跡。辿るのは用意だ。止め足も何もしてないし、石の上を歩くマネもしていないから。それにしてもこの大きな足跡。僕は心当たりが有る。葉子にはもう少し黙ってるつもりだ。そして森を出て校舎、部活棟の前に来て戦慄した。
「おい、葉子。あれを見ろ」
「怒鳴らなくても聞こえるわよ。どうしたの? えっ、えー。うそ・・・・・・。泥棒じゃないのこれって! 」
天文部の搬入用の扉が開き、搬入用のホイストが地面に降りている。散乱する段ボール。ホイストの畚を点検してからダッシュで部室に向かう。校舎のドアは開いていた。階段を上る前に問う。
「葉子、部室の鍵は持ってるのかい? 」
「一応はね。"あの日"以降に誰かが付け替えてたり、増やしていなければ・・・・・・だけど」
「保健室の様に? 」
「ホントよ。勝手にあれだけの鍵をつけていたのよ。しかもそれが全部壊されていたなんて・・・・・・。つけたのはともかく、壊したのは女の仕業じゃないと思うけど譲葉はどう思う? 」
「どうだろ。女しか居ないこの学院で女を否定するって事は・・・・・・男? 作業員は全員集団で帰るし・・・・・・その線は無いと思うよ」
「そうよね。一人一人毎日毎日IDカードとタグを確認してるし・・・・・・」
「そもそも人間なのか? それとも腕だけサイボーグなのか、全身義体なのか、UMA、いやエイリアンなのか。僕には良く分からないよ」
「そんな事言って茶化さない。実は目星がついてるんじゃなくって? 」
「まさか・・・・・・」
妙に綺麗な手摺りに違和感を覚えながら階段を上り、最上階にたどり着く。廊下に出ると散乱する換気扇のカバーと足場にしたと思われる木枠が残されていた。
「ここから入ったのかしら。入ったところで暗室の鍵は中から開かないし・・・・・・ここを通れる人が怪力とは思わないな・・・・・・」
「入ったんじゃなくて、出たんじゃないか? 」
「だったらあんな風にバレバレの状況で外に出た状況の説明は? 私ならカバーを元の場所に引っ掛け、この散乱するゴミをあそこのダストシュートに投げ込んでから行くけど? ロスする時間なんてたかが知れてるわ」
葉子は僕と話をしながら、ちゃっちゃっと戸の鍵を開錠していく。鍵は無事だった。最悪ボンドでも詰められてると思っていたから意外だった。開錠して戸を開けると、そこは夜見紛う様な暗闇。慌てて壁のスイッチに手を伸ばす。明かりが点くと状況が・・・・・・。暗闇の正体は一面の暗幕。はやる葉子を手で抑えて呼びかけた。
「誰か居ないかー! 居るなら返事を。声が出せないなら何でも良いから音を出せー! 」
反応は無かった。それを確認してから奥に進む。
「暗幕は普段使わないから・・・・・・知ってる人じゃないと・・・・・・。割と直近まで誰か居た様よ。食材が散乱してる・・・・・・。それにベッドも乱れてるし、うわ、シーツ滲みだらけじゃない・・・・・・」
出されているコップの数から考えると 五人位が居た様に思える。
「暗室の入り口も変だわ。何時もはこんな所に望遠鏡を置いたりしないのに」
そうだ。僕がプリンターを借りに来た時、入り口はこんな風にはなっていなかった。それに流しに放置されている淫具の数々、薬の空瓶。ゴミ箱の食材の端材、それらを写真に収める。
「机にメモが有ったみたいだけど、剥がされているわ」
「無いものが有るってどうして判るんだい? 」
「此処にマジックで机に書いてあるのよ矢印付きで。先輩、このメモを読んでって。誰の字かしら。それに誰に対しての? 」
これは蘇芳の字だ・・・・・・。そうだ蘇芳は食堂に居なかった。アイツはまた何か問題に関わっていると言う事か。失踪の一件? だとしたら何処で嗅ぎつけたんだ?
そうだな、沙沙貴君達も全く見ないな。孝崎千鳥も然りか。可能性としてだけど確率は極めて高いな。この四人と"先輩"の計五人か。
「葉子。この件僕に預けてくれないか? 関わった人間に心当たりが有るんだ。君はあっちの方を始末しないといけないんだろう? 」
「そうだけど・・・・・・。あっちはもう私如きじゃ手が出ない状況よ。理事長の父と創業家サイドとガチガチのバトルが始まってるの・・・・・・。学院の闇がいっぱい詰まってるあの施設がある限りこれから先も問題が出てくるでしょうね。でもこっちの件は譲葉の方が適任かもねーしがらみが無い分。いいわ、貴女に任せる」
「ありがとう。恩に着る。うまく収めて見せるよ。それでなんだけどさ、こっちには入れないのかい? あのホイストのある部屋、ここは暗証番号が無いと開けられない仕組みでさ。連中はここを開けて出ているから機構的には生きてると思うんだけどね・・・・・・」
「そこは部長、副部長の二人が都度都度変えてるから知ってるのはその二人だけよ。私は知らないわ。大体がうちの資材の置き場なのに、余所の部活の資材が有ったりするの。料理部の食材や美術部の画材、園芸の肥料、保健室の薬品とかもね・・・・・・」
「それ本当? 」
「嘘じゃないけど、見たのは結構前の話だから、今どうなっているかは判らないわよ・・・・・・」
「料理部で食材の不適切な発注が露呈したことが有ったけど、食材自体が見つからない事からうやむやになった事が有ったんだ。その答えが此処に有るのかもしれない・・・・・・」
「それじゃ、譲葉もしがらみの人なのね・・・・・・。取り敢えず部長の和田先輩を呼び出してみる? それとも副部長の榊先輩? 譲葉は副部長と親しかったよね? 来てもらう? 」
「いや、今回は長たる人物の方がいい。和田先輩に連絡を取ってみるよ」
「そうね。そうしなさい。でもこの件深追いは禁物よ。貴女を失いたくないの。譲葉は無茶する事が有るから・・・・・・」
抱きついてきた葉子を受け止めてキスをかわす。葉子を壁に押し付けてから舌を絡め唾液をすすり飽きる事無く続ける。何時もならここで首輪をつけて僕を性奴に堕とすのだけど今日は何故か葉子が拒否した・・・・・・。
耳元の囁きを聞き入れお姫様抱っこでベッドに運び、着衣のまま身体をまさぐる。僕から葉子のスカートをたくし上げショーツの下に手を潜り込ませた。そこは既にじっとりと湿っている。包皮の上からクリトリスを刺激するとあっと言う間に勃起してきた。そして愛液も堰を切った様に出てくる。クリトリスへの刺激で軽く逝った葉子の服をきちんと整えてから、お姫様をおんぶして部室を出た。続きは夜にと囁いて・・・・・・。
「ふう。何とか止まったか。全くここが無かったらゾッとするな。おい白羽、怪我は無いか? うっ、イテぇ」
「はい。少しクラクラしますけど。それより荷台の皆が心配です。見てきます」
「おい、先に私を出せよ・・・・・・。ガソリン臭いから・・・・・・おい早く! 」
砂のトラップと水の詰まったプラスチックのドラム缶?に突っ込んだ先生の車。ぶつかる前に左のガードレールに車体をこすりつけたのが幸いしたのか、車の前側と左前は結構逝ってるけど、キャビンは辛うじて無事だった。先生はハンドルが歪むくらいに強く胸を打った様で、息をするのがとても苦しそう。ペダルが足に出られないと私に囁く。
私はシートベルトがかろうじて怪我を抑えてくれた。手も足も普通に動く。私の方のドアは開かないけど、窓ガラスがドアの中に落ちたのでそこから這い出る事に・・・・・・。
「沙沙貴さん孝崎さん、大丈夫? 」
「大丈夫なわけが有るかい! 体中が痛いって・・・・・・! 林檎はこめかみ切ったし、私は脚を打撲ちょっと歩けないわ。ちどりんは鼻血が・・・・・・」
「蘇芳さん、私達よりも先生が・・・・・・」
「どうしたの? 」
「頭と身体をしこたまぶつけて気を失ってるわ。しかも頭部の裂傷で二人とも血塗れよ。怪我の場所が場所だから・・・・・・早く病院に連れて行かないと・・・・・・。でも車がこれじゃあね・・・・・・」
無事な沙沙貴さんと孝崎さんを抱え出す。先生方を見ると結構深刻そうに思える。車の前に回り割れたプラスチックのドラム缶から水を汲み、タオルの代わりに私の制服を裂いて先生の顔を拭う。そしてそれはあっと言う間に真っ赤に染まる・・・・・・。
首を固定しようと外に放り出されて大破した車椅子の所に行って部材を見括ろった。持ち帰ると槙先生が車外に脱出して荷台に乗り込み、先生に囁く様な声で必死に呼びかけていた。
「美馬先生、鈴木先生、槙です判りますか? 」
首を固定して精一杯の声で何度も呼びかけるも返事は無い。呼びかけが涙声に変わる先生。そして神に祈る姿を見て、事態がただならぬ事を再認識する。絶望に包まれる場の空気。車の前に回って水を使い血を洗い流してから戻って来た沙沙貴さんも孝崎さんもこの様子を見てショックを隠せない。
「蘇芳ちゃん・・・・・・。私達何が出来るの? 携帯が通じるなら救急車を呼ばないと・・・・・・」
ハッとして携帯を取りにキャビンに戻り確認すると、圏外・・・・・・。もう一つのも圏外だった。二人に手で罰マークを出して知らせると泣き始めてしまった。同じく辛いだろう孝崎さんが気丈にも沙沙貴さん達を二人の見えない車の前に連れて行って抱き抱え慰めている。
「先生・・・・・・。 私のせいでこんな事に・・・・・・」
「お前のせいじゃない。これは運命なんだよ。私と関わってしまった事の。私が責任をとるからお前たちは気に病むな。とはいっても無理か・・・・・・
。白羽、発煙筒を焚け。お前の座っていた足元に有るから。残りの者はたき火をしろ。火が大きくなったらゴムを燃やして黒煙を出せ。ルームミラーを外してシグナルミラーに。フェンダーミラーはこじって上に向ける。少しでも見つかりやすくする様に・・・・・・頼む」
「・・・・・・・・・・・・」
今やれる事は一通り全部やった。それでも状況は進展しない。沈黙の時間が過ぎていく。蝉が鳴いているのが急に耳に飛び込んできた。真っ昼間の薄曇りなのに、ヒグラシばかりが鳴いている。葬送の様で神経を逆撫でされる。怒りに任せ鳴き声のする木に向かって砕石を投げると、何匹も飛び立って行った。静かになった思ったら今度は・・・・・・。
「おーい。どうしたんですかー。大丈夫ですかー」
幻聴?・・・・・・。何処かで聞いた声・・・・・・。えっ、もしかして・・・・・・?
「白羽さんじゃないー。今行くから待ってて。千葉さんも居るのよー。助けに行くから動かないで・・・・・・」
地獄に仏だ。キリスト教ではどう言うのだろうか・・・・・・。それはさておき、助けに来てくれた二人に事情を説明し、病院に昏倒する先生方を搬送する事に。携帯が通じない事を訴えると、主任さんがバッグから取り出したのは衛星携帯電話。病院に新規導入されたのでテストがてら持って来たとの事。元々は携帯の通じない学院内で使う予定だったそうだけど・・・・・・。実際の事故で使う事になるとはある意味良かったらしい。
そしてこれまた導入予定のドクターヘリのテストも兼ねて、望みうる最速のシチュエーションで先生達は病院に搬送されて行った。槙先生と主任さんも一緒に行ってしまったんで残されたのは、私達学院の生徒五人と、主任さんの車。私が街に行く用事も残ったまま・・・・・・。
「白羽はどうしてもネットの使えるところに行かないといけないんだな? 」
「はい、千葉先輩。どうしても動画ファイルの削除を実行しないといけないんです・・・・・・。一度晒されたら取りかえしがつかないから・・・・・・。あの子達の未来を守らないと」
「身から出た錆か・・・・・・。しかしあの女が皆を惑わしての事なんだな。大したタヌキだよ、榊先輩は。沙沙貴、何で私を睨むんだ? この期に及んでまだあのタヌキの肩を持つのか」
「・・・・・・・・・・・・」
「榊があの時お前たちをかばった恩義・・・・・・というならそりゃ間違いだ。あれこそ榊杏の仏の顔に惑わされたお姉の判断ミスだった。お前達に情けをかけたばかりに、白羽が先生達がこんな事になっているんだぞ? それに動画を榊に流したのって沙沙貴、お前だろうに」
この世の終わりが来た様な顔の沙沙貴さん達。微笑んでみたけど、目に入らない様だ。
「先輩、私は別に・・・・・・。孝崎さんも沙沙貴さん達も反省していますから・・・・・・。私に免じて許しては頂けませんか? 」
千葉先輩に叱責されて凹みまくる沙沙貴さん達をフォローするけど、未だに榊先輩を何処かで信じている様な素振りを見せる。孝崎さんはもうすっかりこっちの側に帰って来ていて千葉先輩の話に聞き入っている。
「お姉の怪我もそれほどでも無いし、白羽と孝崎が部活に真剣に関わってくれればこの件はそれで水に流すけど、白羽は先生達にやらかした分をどう償うんだ? あの身体を医者が見たら全部ばれるぞ? 学院として最低の不祥事だからなああいうのは。まあ未成年者のお前の名が出る事は無いと思うが・・・・・・。怪我が癒えても先生達はもう・・・・・・。まあ普通に失職だろうな。内通者が居れば、週刊誌が食いつくかもしれない」
「そんな・・・・・・」
先輩の言葉に取り返しのつかない事をしたと改めて痛感した。かごの中なら許される事でも、外ではそうはいかない・・・・・・。
「白羽、そんな顔をするな。ちょっと脅かしただけなのに、案外弱いなお前。あの槙先生が何とかしてくれると思うよ。白木から来た理事長に働きかけてもみ消してくれるだろうよ。謹慎は有っても復職するだろう。まあ飼い殺しに近いだろうけど。それに槙先生は意外と実力者だからな。そうじゃ無きゃあんなに慕われないよ。ラボの関係者を知ってる様だしそっちからもアプローチ出来るんじゃないかな? 」
「ラボ? 」
「更生棟の二つ名だ。皆は別荘と呼んでいる様だけど、中は映画のAKIRAのラボみたいだったって私の先輩が言っててさ。それで私はラボと呼んでる訳」
「じゃ中にナンバーズが居るって言うの? 」
「なんだ、沙沙貴のどっちかは食いつきがいいな」
「どっちじゃないです。林檎、妹です。今は黒子で見分けてください。話を続けて下さい」
「掌でなくて、お尻に焼き印が押されているって。そう、O嬢の物語のロワシーみたいに・・・・・・。超能力でなく性能力を高めた人身売買の元締めって組織。噂じゃ学院のシスターの大半はラボの出だって。戸籍が無いからいわばここで飼い殺しだよ。外に出られないままここで一生を終わる。ラボの中では遺伝子操作で子供を作っては売りさばくとも言われている。借り腹はいくらでも有るし。未婚受胎は十八番だし」
「作ってません? 幾らなんでも・・・・・・」
「まあ私も、全てそうだと思っていないよ。でも今日の事、私の実体験と白羽達の話聞いてると・・・・・・なんだその、真実味が沸かないか? 」
学院の闇、知れば知るほどに深い・・・・・・。いずれ調べざるを得ない気がする。でも今は自身の立場とあの子達の名誉を守らないと・・・・・・。
「それでなんですけど、私、ここから街までは歩いていきます。これでも脚は丈夫な方ですし下りですから。実際、入学の時には荷物引きずって街から学院まで歩いたことが有りますんで・・・・・・」
「おい。馬鹿言うな。歩いてきたって? この上り坂をか? しかも荷物転がして街からだって? お前の方が作ってるだろ・・・・・・」
「嘘じゃないです。私道移管でバスが廃止になっていたの知らなかったんで。途中タクシー拾おうと思ったんですけど来ないし・・・・・・。途中すれ違った車に手をあげたりしたんですけど、全部スルーされたし、暗くなってからは攫われたら拙いって思いまして通り掛かる車は隠れていなしました・・・・・・」
「沙沙貴、孝崎、お前たちも歩くか? ここで追手をしのぐか? 」
「いや・・・・・・その・・・・・・どっちも無理」
「だよな。そう言うわけで車で行こうか」
「誰が運転するのですか? まさか・・・・・・」
「そう、そのまさかだよ。私が運転する。なに、免許は無いけど、 今だって途中から私が運転してきたんだ。言うだけの自信は有るさ」
「どっちに転んでも・・・・・・だね。林檎」
「遺書でも書こうか。折角助かったのに・・・・・・」
「うそ、真ん中の席シートベルト無い・・・・・・ぃゃぁぁぁー。白羽さん、前と代わってよ」
ブー垂れる沙沙貴、孝崎を車の後部座席に押し込む。白羽は助手席。看護師さんが置いて行った白衣を羽織り、自前のメガネをしている。ドクターと言うには幼い・・・・・・アレだアレに似ている。
「白羽、お前白衣似合うな。メガネと相まって眼鏡屋のスタッフみたいだよ」
「言えてるー。前に眼鏡屋に行った時、今の蘇芳さんみたいな人がいっぱい居たわ」
「それにしても蘇芳ちゃんは何着ても様になるね。羨ましい・・・・・・」
「孝崎さんたら・・・・・・。先輩も凄く似合ってます。ドラマで見る庶務のOLさんみたい」
「白羽、サンキュー」
「先輩、違和感ないです。そのままでサラ金の店員さんで通りますね。本物感が凄い」
「ですです」
「沙沙貴、その微妙な言い回しはなんだよ。嘘でも良いからキッチリ褒めな! 」
「それにしても運転上手ですね。安心して乗って居られます」
「沙沙貴に孝崎。世辞でも良いから今の白羽みたいな事言ってみな? 」
「蘇芳ちゃん、世渡り上手だよねー、ちどりんもそう思わん? 」
微妙な空気に孝崎さんが話題を変えた。
「ねえこの古っぽいこの車、どこの車? アメ車の古いやつ? それにしては日本の古いお屋敷に来たみたいな感じ・・・・・・」
「国産だよ。アメ車っぽい形だけど、全然小さい。今のプリウスなんかよりも幅とか狭いんだ。それにしても手入れは良いし、レストアもいい仕事してるな。この走りのフィーリングはただモノじゃないよ」
「なに、無免許が通ぶってるんだか・・・・・・」
「沙沙貴ー、今言ったのはどっちだ? 正直に言えば音楽室の掃除当番一回増やしてやるくらいで済ますけど? 嘘ついたら・・・・・・そうだな選択授業、ガーデニングじゃなくてバイオリンに変更な。補助教員の私がしごいてしごき抜いてやるから。思うだけでも楽しいなーそれ。孝崎もそう思うだろう? お前はバイオリンなんだろう? 」
「苺ですよ。この鬼・・・・・・」
「私、今迷ってます。だって八重ちゃんが居ないのに・・・・・・バイオリンは辛い・・・・・・もん」
「おいおい。そんな事言わないでやろうよ。お姉だって期待してるんだから。その腕生かさない理由は無いだろ? お前がつけた腕の怪我を忘れてないだろう? そうだお前達、怪我の具合はどうよ? 」
「今頃聞くの・・・・・・。ありえないくらい遅いわ。林檎は血が止まったけど傷が残るかが心配。それに薬の影響も心配なんだ。私はまあ痛いけど平気その内治ると思うよ。孝崎ちゃんはやっと鼻血が止まったって。早く病院に行こう! 先輩急いで」
「急いでったって、捕まるのは最悪の悪手だからスピード違反はしないぞ。信号も安全第一で行くからそれは承知してくれ」
「えー」
「それにネットカフェも捜さないと。誰か心当たり有るか? 」
「・・・・・・・・・・・・」
「だよな。ム所暮らしが娑婆の様子知ってる訳ないよな、まあ私も含めてだけど・・・・・・。白羽、スマホで調べてみろ」
「まだ圏外です・・・・・・」
赤タンで半固定。ふっと息をつくと左前方に毒々しい看板が目に入る。
「ねえ林檎。あそこのラブホ、充実のネット環境だってさ。ナニをするところなのにネットで何するんだろうね? 」
「ブログやSNSに生配信でもするのかね? 苺姉」
「ご休憩じゃなくて泊まりなら有りだと思うけど・・・・・・。プライバシーに配慮、ラブホ革命だって・・・・・・。連れ込みみたいに変なお婆がイヒイヒごゆっくりどうぞーなんて出てきたら使いたくないよね。安くても」
「蘇芳ちゃん? 今なんて? 」
「良い機会だから入ってみない? ここでアレの処理をすれば良いじゃない。街のネカフェで迂闊にやるよりは安全でしょうし。ねえ蘇芳さん。先輩もどうですか? 社会見学を兼ねて」
何だかんだ言っても皆興味がある。でも・・・・・・。
「林檎の怪我の具合は? 寄り道は拙くないか? 余計な時間がかかったりした事で、傷が残ったりしないか? 端だけど顔だろ? 」
「・・・・・・・・・・・・」
「それなんですけど、二手に別れてみるっていうのはどうでしょう? 沙沙貴さん達はあそこからタクシーで病院に直行。幾ら運転ができるからって言っても、街中では無免許じゃリスクが有ります。先輩もテクニックはともかく、道や一通とかには詳しくはない様ですし。沙沙貴さん達はクレジットカード持ってるでしょう? 脱柵の時にも持ってたじゃない? 」
「今日は持って出られなかったよ・・・・・・」
「え,持ってないの? それは・・・・・・拙いわね・・・・・・」
「病院までなら私が出す。それ位なら持ち合わせがあるよ。元々はタクシーで帰って来ることを想定していたし。後で返せよな。お菓子付きで」
「じゃ、千葉先輩、お言葉に甘えさせてもらいますね。 で、私達はそこであれの処理してから一旦学院に戻るわ」
「えっ、戻るの?蘇芳ちゃん。それじゃ私達は向こうでどうするのよ? 」
「着いたらいきなり診察じゃなくって病院に居る筈の槙先生に先に見てもらって。保険証を持ってきてないでしょう? 先生の見立てで要治療ならそのまま診療して入院なら入院。診察治療して入院せずの場合も、主任さんや前に来てくれた時に会った看護師さんに声かけてみて。先生に保険治療できる様に交渉してもらってね。または診察の必要無しなら、早々に帰朝して・・・・・・」
「言うのは簡単だけどさ、私達どうやって帰るの? 蘇芳ちゃん達が病院に来なかったら帰れないよ? 先輩、財布に余裕有ります? 」
「いや、そこまでは・・・・・・」
「その事も槙先生に相談してみて。タクシー代くらいは出してくれるわよ。きっと・・・・・・」
「それは無いと思うけどな。車のローンと改造費で先生の財布には請求書しか入ってないって話じゃん。購買と学食で、主計のチーフの愛人をして何年もツケで食べてるって噂も有るのに。その車金をかけた車も廃車じゃね・・・・・・」
「じゃあ主任さんにでも借りて。白羽が責任を持って召天記念日に返すからって・・・・・・。出来ることなら、あの案件早く処理したいのよ・・・・・・お願い沙沙貴さん、私の我が儘を今回だけは通してくれないかな・・・・・・お願い」
泣き落とし。卑怯な技だけど効果は絶大だ。空気が変わるのを実感する。
「お姉の怪我が軽かったら、緑がどうしてもって事で車を出してもらえ。今一筆書いてやる。現金は最低限しか持ってないからなお姉は・・・・・・。996が地下に置いてあるから、お姉がダメならあの看護師さんに頼んで、運転の上手そうな人当たってみてくれ。槙先生は多分ドクターストップだろうからさ。何しろハンドルが曲がるくらいの衝撃だったからな。そうだ真夜中になるとあの道路封鎖されるから気をつけてくれな。お姉や手配できた運転手が戻って来れないと拙いからさ」
「これで決まり。じゃまずはタクシーの手配をしなくちゃ。蘇芳さんここでスマホは使える? 」
「おかしいな? これで開く筈なんだけど」
萩野さんの貞操帯を外す作業中の私。三つまでは順調に外れたんだけど最後の一つが・・・・・・。もう一度ノートに書いた方程式を見直す。ルービックキューブの様に一度やり方が判ると早かったんだけど最後に行き詰まってしまった。
「ごめんなさいね。もしすこしなんだけど・・・・・・」
「花菱さん、ありがとう。もういいわ。後は爪のヤスリで切るから・・・・・・」
手にしたヤスリでゴシゴシと鍵を削る萩野さん。身体をひねっての危なっかしい態を見て、私は手を出して止めさせた。手が滑って鍵のツルだけでなく本体も削ってしまっていた。
「ダメよ。それは。この鍵のツルは簡単には切れないわ。下駄箱のとは材質が違うもの。知ってるくせに・・・・・・。あれ? この本体のヤスリが擦れた所だけ数字の羅列が違う! デブコンで埋め直してる・・・・・・そうか・・・・・・だから・・・・・・ね! 」
紙に書いてキッチリ確かめる。やはり間違いは無い。この鍵だけが・・・・・・。削りだして番号の補正をしてから回す。カチャっと言う音と共に鍵が床に落ちた。フックを外して貞操帯を萩野さんの下半身からもぎ取る。それはとても軽く出来ていて驚かされた。鍵の方がよっぽど重い・・・・・・。肌が強く当たるところにはウレタンが貼って有る。そこに顔を近づけると、濃厚な萩野さんの匂いがする。
「恥ずかしいから、嗅がないで。意地悪」
「ごめんなさい。とても香ばしい良い匂いだから・・・・・・」
「私だけ嗅がれるのは嫌。花菱さんの匂いを嗅がせて頂戴」
言い終わるのを待たずに、膝まづき私のスカートの中に頭を入れてきた。そして・・・・・・。
「これって褌? そうだわ、お祭りで男の人がしていたのを見た事が有るわ」
そう言って尚も顔を押しつけてきた。ぐいぐいと鼻で押されてクリトリスが刺激される・・・・・・。湿ってくる感覚。
「いい匂い。花菱さんは匂いまで上品ね。それにもうぐっしょり。吸わせて頂戴」
「恥ずかしいから・・・・・・止めて。チュウチュウ吸わないでよ。意地悪」
濡れてぐしゅぐしゅの褌の食い込む部分を歯でかまれた。滴る汁を萩野さんが吸う。それもとても激しく、優しく・・・・・・。一気に達してしまった。
「あっ、出る、出ちゃう・・・・・・いやー」
そして失禁。その熱い迸りを萩野さんはこぼす事無く飲み干しスカートの中から顔を出した。
「とっても濃厚ね。ご馳走様。喉が渇いていたからちょうど良かったわ。ねえ、その褌が究極の下着なの? 」
「ええ。クラスでも何人もしているわよ。身が引き締まるし、立ち居振る舞いが正されるし。何よりも女である事を実感できるから・・・・・・これ無しでは居られないの。トイレに行きにくい時とアレの時だけ紙おむつしてるの・・・・・・。私、失禁癖が有って。褌をしていると結構我慢出来るんだけどね・・・・・・」
「そうなんだ。赤ちゃんなのねそこは。ねえ、花菱さん。褌ってどうやって着けるの? 私、あれ嵌められてから、ショーツは処分されてしまってて無いのよ。バレエの時だけタイツの下にナプキンを当ててたの。良い機会だから私に着けてくださらない? 」
「私の予備で良かったら今有るけど、それでいいかしら? 」
「うん。花菱さんのお肌に当たった物を使えるなんて・・・・・・忌まわしきアレも外せたし今日は最高の日だわ! 」
「それじゃ取ってくるから、裸になって着けっこしましょうね! 」