「槙先生、槙先生、直ぐに来てください。根本さんの容態が・・・・・・」
ナースステーションのソファで仮眠している私に誰かが絶叫する。その声は裏返り震えていた。根本? そうだ・・・・・・ 準無菌処置室が空いたんで移送になったんだっけ・・・・・・。でも一体どうしたんだ? さっきは大げさにミイラにしてしまったけどあれはあくまでも予防の為だったわけだが・・・・・・。
「すみません。今行きます。何が有ったんです? 」
「それが・・・・・・。言葉ではうまく言えません・・・・・・。まずいらしてクランケを見てください。バイタルは安定・・・・・・していますが、その・・・・・・普通じゃないんです・・・・・・」
最後は泣き声になって言葉を噤むナース。余程の事が起きている様だ。でもいったい何が・・・・・・。連れ出したのがまずかったのか? しかし・・・・・・。廊下を小走りに歩きながら必死に考えるも答えは出ない。
「槙です、入ります・・・・・・」
「貴女がアングレカム学院の槙先生ですね。僕は外科の・・・・・・」
「私は麻酔科の・・・・・・」
こんな時にもまずは名刺の交換か? 呆れながらも頭を下げ何人もとやりとりをした。名刺を見ると揃いも揃ってバリバリの第一線級の役職が刷り込まれている。駆けつけている若手のドクター、研修医も相当な人数。こんな時間にこの状況は一体なんなんだ。根本の担当の女性のドクターはやたらに居る上役の対応に追われている様で姿が見えない。。スーツ姿の此処の管理職と思われる男も集まって騒然としている。チラチラとガラスの向こうに寝かされているクランケの根本を見ては、記録したり相談をしたりと・・・・・・。モルモットなのかよと頭に血が上った。
「いかんな。私も医師の端くれだ。落ち着け落ち着くんだ」
一回廊下に出て深呼吸してから部屋に戻る。ガラスの向こうには完全な防護服の看護師が根本の介護をしている。そのガラスの縁には貼ったばかりのダクトテープ。まさか細菌? チラチラ聞こえる言葉は非科学的な物ばかりでオカルトの国に迷い込んだ様だ。まさか夢の続きなのか・・・・・・。想像を超える事態に頭が追いつかない。情けない事に再び軽くパニックになってしまった。根本の容態を聞き取る事が出来ないまま無為な時間が過ぎる。さすがに切れる私。
「一体何が起きたんですか。正確に教えてください。私はこの子の保護者です! 」
ドスの効いた声に驚いて皆一斉に私を見る。その目には優しさなんて全くない。宇宙人に向けられる目に近い。侮蔑、怯え、怒り、拒絶・・・・・・。
「槙先生、お呼び立てしたのに対応が遅くなりまして申し訳ありません。隣で防護服に着替えて下さい。私も一緒に入りますから・・・・・・」
そんな私に聞き慣れた声が。努めて冷静を装うけれど、何処か上擦ったトーン。声の主は担当の女性ドクター。その顔は青ざめて強張っている。専門のスタッフに手伝ってもらいながら無言で着替え、完全密封の宇宙服の様な服を纏う。ライフサポートのユニットを背負いホースを繋ぎ、スイッチを入れると濾過された空気の循環が始まった。教えられた手順で無線式インターコムの電気を入れドクターに話しかけた。
「一体何が起きたんですか? 」
「根本さんの身体に異変が・・・・・・。今は薬で眠らせています。症状がどこまで進むのか・・・・・・。臨床例は皆無な上、進行が早くて有効な手が打てませんでした。身体に起きている事態を知って彼女が正気で居られるのか・・・・・・。こんな特異な事象、ご家族に伝える勇気が私には・・・・・・」
「しかし、伝えない事には・・・・・・。私が出来る事ならなんでもします」
「でも、ご覧になられて・・・・・・果たして・・・・・・」
エアーのシャワーを浴び、光源を絶対に見ない様にしながら紫外線の照射を防護服服に当て、前室に入り、減圧している根本の居る部屋より若干高く調整されたレベルに気圧を下げる。減圧が始まると防護服が膨らんでいく。服の中の気圧が下がらない事を、服のブルーのLEDランプで互いに確認してから病室に入る。
「それでは入ります。インターコムの通話内容はこの部屋を出ると第三者にワッチされています。事故の時に対応するためです。承知してください」
「判りました」
仰向けの根本。一体この子に何が・・・・・・。
「まず目を見てください」
レスラーの覆面の様な覆いに酸素マスクを付けている根本。言われるままに瞼を剥ぐると・・・・・・。
「これは! 」
「ええ。虹彩が真っ赤に。瞳孔もいくらか赤くなってます。理由は不明です。色覚、視力については未だ確認をしていません。それだけじゃありません。次は腕を」
「! 真っ白だ・・・・・・。こいつは日焼けしていたはずなのに? 」
「ええ。しかし急激に彼女の肌から色が抜けて・・・・・・。静脈が浮き出てる程白く・・・・・・。それに・・・・・・そこの棒を当てて下さい」
鈍く光る重い金属の棒にグリップテープが巻かれている。言われるままに手に取り根本の肌に当てた。
「こうですか? 」
「滑らせる様に動かしてみて。その肌面を注視して下さい」
「! 」
「そう、磁力に反応して身体に生じる、紋様と突起が確認できますでしょうか。今確認されている盛り上がりの最高値は10mm程度です。磁力次第ではもっと高くなりそうですが、これ以上になると皮膚が裂けてしまう様なので。唯・・・・・・」
「唯? 」
「性器の所を見てください・・・・・・」
貫頭衣風の病院衣の裾を捲くると・・・・・・。
「これは! 」
「ええ。通常時でもクリトリスが肥大しています。通常値で44mm、径は17mm。此処には皮膚がありませんから、強力な電磁石を使っての最高値は120mm、本体太さは34mm迄、それに多数の突起、いやスパイクが確認されています」
「充血してるだけではないですよね。何故こんな事になるんですか? 」
「そう、磁性流体の様なモノが体液、血液に混ざっている様です。詳しくは未だ判っていません。後もう一カ所、舌が・・・・・・」
「舌が? 」
根本のマスクを外し、口を開かせて見るとそこには・・・・・・。
「スプリットタン・・・・・・。いや三つに割れてる・・・・・・。嘘だろ? これが現実なのか? 」
「舌も変形します・・・・・・まるで蛇の様に。そう蛇の舌の様に細く20cmに程に長くなりました。ここは磁石に反応するだけではない。任意で変形できるのではとの意見が大勢です。これも一連の事象の様ですが、どうにも進捗が早すぎます。こうなるまでに一時間かかっていません。それに舌と性器は共に出血等はありませんでした」
「体毛は? 」
「もともと薄い様ですけど、眉毛睫毛、腕、脚、陰毛を含め全部抜けました。頭髪も時間の問題の様です。この後元に戻るかは、権威のドクターに問うたら否定的な意見ばかりで・・・・・・」
「そうですか。可哀相に。白羽ほどではないけど、しっとりとした良い髪質だったんだけどな。この病状、この歳の女の子には辛すぎる話だ。大人の私達は何をしてやったらいいのか・・・・・・。進行を止めるのが先決だけど、それだけでは・・・・・・」
「ええ・・・・・・」
ドクターはその後言葉につまり、根本の顔にヘルメットで頬ずりをした。根本の唇が微動する。うわ言なんだろうが、私には人としての最後の挨拶に思えた。気丈でいた私も耐えきれなかった。私も泣いた。インターコムが聞かれているもお構いなく二人で泣き崩れる。
「先生、此処だけが未だにこの子の元の肌色が残っているんです・・・・・・。いずれ変わってしまうから・・・・・・。先生、触ってあげて」
その言葉に立ち上がって根本に一礼をした。防護服の手袋越しにだがキメラ化する根本の身体の中で、人間としての部位を維持する乳房と乳首を揉みしだく。おそらく今、この少女が人として見ている最後の夢に反映する様にと。
「ピ、ピピー」
想いを遮る様に鳴る電子音。それはライフサポートシステムの時間切れの警告音。その音に促され未だ泣き崩れるドクターを起こし、私も退出の準備をする。
「さあ、出ましょうドクター。」
前室に戻り着る手順と逆に服を脱ぐ。そしてその服は高温のオーブンで滅菌処理するのに運ばれていった。汗にまみれた私達。顔に髪の毛が付着して不快だ。渡されたおしぼりで顔を拭きながら前室を出た。私達に外で見ていたドクター連が執拗に話しかけてきてウザイ。此処にこのまま根本を置いてはダメだ。治す事も出来ない輩の玩具にされてしまう。しかし此処以外だと・・・・・・。
「すみません。ラボの所長に話をしてみますので暫く一人にして下さい」
そう言って強引に廊下に出て最上階の休憩室に向かう。移動しながら電話をしてみたけれど、繋がらない・・・・・・。イライラしながら支給品のウィルコムの電源を切る。私を追ってくる足音に振り向くと、一緒に部屋に入った担当ドクターが根本のデータの入ったタブレットを持ってきていた。
「これを。必要でしょう? 」
そうだ。私はあまりの事に何も持たないで来ていた。ありがとうと礼を良い、ベンダーのコーヒーを奢ると言うと、ご一緒させて下さいと先程とは全く違う優しげな笑みを見せた。
「そうだ、血液検査の結果は? 載っていないけれど・・・・・・」
夜景の綺麗な場所だけどその景色は目に入らない。タブレットを凝視し気になる事を問い質す。
「それが、検査機器が壊れてしまって入力がされていません・・・・・・。血に混じっていた何かが原因の様です。因って現在手作業でやっていますが・・・・・・夜故、人員が集まらず捗ってはいません。結果が判り次第入力されますので、リアルタイムでこのタブレットで見られます」
「そうですか。バイタルは? 」
「体温が低めですが安定はしてます。血中の酸素濃度も規定値に収まってます」
「低めって? 」
「三十三度五分です」
「そんなに? 低体温症は? 」
「今の所は。でも既にこうなっていますから・・・・・・。もう常識論では・・・・・・」
深く息を吐く。突然辞めていた煙草が吸いたくなった。自販機で買おうにもタスポの持ち合わせが無い。立ち上がろうと腰を浮かしたけどまた深く座り直す。その時ドクターの胸ポケットの角張った膨らみが目に入った。
「その・・・・・・。一本頂けませんか。禁煙中なんですけど・・・・・・どうにも」
「我慢は良くないですよ。メンソールですけど良いですか? 」
「はい。今そういう気分です」
ドクターも煙草に火を。お互いヤニーズだったことでふっと笑みを。でもそれも一瞬の事。紫煙を燻らせこれからの事を想う。
「生徒達はこの事を知っていますか? 」
「此処までの状況とは誰にも知らせていません。あそこに送られてから面会謝絶としてありますので新たに知る事は無いかと思うのですが。しかし沙沙貴林檎さんが発端の第一発見者なんで、すべてなかった事にするのは、隠し通すのは・・・・・・無理でしょう。入院しているお二人の先生には未だふせてあります。心労で容態に変化があってはいけないか思いまして」
「では、まだ沙沙貴妹だけが知ってるという事ですね」
「先輩・・・・・・。どうして此処に? 屋上に呼び出したりしてどういうつもりなんですか! 」
「あら。まだ先輩扱いをしてくれるの? 処女を捧げ散らした人に未だ少しは気が残ってるかしら? 見てよ苺、夜景が綺麗。良かったらもう一度やり直さない? 」
「この勘違い女。そんな事かけらも思ってないくせして。テメー煩いんだよ。何だったら、今此処から突き落とそうか? ゲームじゃないんだから落ちたら助からないよ。どうせあんたは死んだって、表沙汰にはならないんだよな? 」
「そうね。でもその前に、貴女のお友達の事で話が有るの。話を聞いて頂戴。終わってから私をどうかしようとするならして頂戴」
「笑かさないで。ガセを咬ます気なんでしょ。それには乗らない。帰るわ」
「私は保険をかけるのが得意なの。貴女はもう忘れたのかしら? お友達の蘇芳さん、足を怪我してるよね。このままだと蘇芳さんの足が腐るわ。今私の持っている薬を塗らないとね。信用するもしないも貴女の自由よ。一度傷口を見てらっしゃいな」
「それに本題の子はこのままじゃ全身がキメラ化してしまうわよ。根本小夜花って言う子。既に兆候が出てるのに。貴女それでも良いの? 苺は視聴覚室で私と一緒にテレビ映画のVを見たでしょう。ダイアナって女、憶えてる? ああいう風になってしまうわ」
「出鱈目をこくなよ。創作乙だな。まあいいや五分待て。此処に妹を連れてくる。妹があの子を見ているからお前の嘘を暴いてやるよ」
「はいはい。どうせなら蘇芳さんも連れてきたら? そろそろ酔いが醒めた頃だろうし」
「誰がお前に蘇芳ちゃんを会わせるかっての! 会わせたら蘇芳ちゃんは絶対あんたを殺しちゃうから。将来の有る蘇芳ちゃんにそんな事はさせない。林檎が悲しむ事は私が排除する。泥をかぶるのは私だけでいい」
「そう?。じゃこれをあげる。薬よ。蘇芳さんの傷口が黄ばんでたら、直ぐに塗りなさい。変色が始まると筋肉が腐るまで時間がないからね。最初は結構痛むけどね、進行するとあまり痛まなくなるから油断するのね・・・・・・。この薬を塗らない限り腐った所が毒になり、体内に進行し骨、関節が奇怪しくなる。そしてどんどん進行して白羽蘇芳は美脚を、あのミロのヴィーナスの様なスタイルもやがて命も全てを失う」
そう言って薬の入ったチューブを私に投げる、榊杏。その顔は嘘を言ってる様には見えない。しかしそんなヤバい傷ではなかったと思うし、この薬が逆に毒でないと言いきれない。迷う・・・・・・。でも本当の話ならあまり時間が・・・・・・。
「判った。蘇芳ちゃんの所に行ってから此処に来る。多少遅くなるけど待ってろ」
「ごゆっくり。流れ星でも見ながらゆっくり待つわ。そうそう小夜花ちゃんは朝までは平気よ。此処から先はゆっくりとしか変化しないから」
「それってもう・・・・・・なのか? 糞ったれ榊め」
「何だか病棟が騒がしいな。どうしたんだろ? お姉ちゃん? あれ居ないの? 」
「ゆかりどうしたの? 今トイレに行ってたのよ」
「良かった。なんか怖いからこっちで一緒に寝てくれないかなぁ? 」
「いいけど。少し窮屈よ。ゆかりは寝相悪いから落ちないでね」
「もー。お姉ちゃんが腕枕してくれるのに落ちたりする訳ないって・・・・・・」
ゆかりのベッドに入り身体を寄せる。そこに居るのは何時もの妹のゆかり。
「ねえ、ゆかりは身体の事なんだけど、何処もなんともない? 」
「どうしたの? 」
「ほら小夜花ちゃんの事よ。あの子は何か発症したって聞いたのよ。それも重症な・・・・・・」
「私は平気よ。少し頭が痒いけど。それは良く有る事だし。でも小夜花の事、それ本当なのお姉ちゃん? 」
「看護師さんがトイレで吐いていて・・・・・・。介抱してあげた時そんな事を口にしていたのよ。それで、本当はこんな事言いたくないんだけれど、小夜花ちゃんと暫く距離を取らない? 平たく言えば別れるって事。酷い事を言ってるのは百も承知。ゆかりにはあの子はもう相応しくない。学校に戻ったらアミティエを解散する様に進言するわ。ゆかりが私を殴るなら気の済むまで殴って良いし、ゆかりがこの事の代償を望むならなんでもする・・・・・・」
「そんな事は出来ないよ。小夜花とは小さい頃からの・・・・・・。そんなのお姉ちゃんだって知ってるじゃないの」
「もちろん知ってる。知ってて言うの。それ位ヤバいの。感染、伝染するかもしれないって。最悪の場合もうずっと施設に隔離されちゃうらしいの」
「でも・・・・・・。私達は・・・・・・親友だから・・・・・・。そんな時に別れるなんて親友のする事じゃ・・・・・・ない」
「でもね今はそんな事を言ってる場合じゃないの。お願いだから言うことを聞いて。聞き分けの無い事を言い続けるなら、今すぐ学院辞めてゆかりを拉致して実家に・・・・・・逃げるわ」
逃げると言った私の言葉に、ゆかりは私の頬を貼った。目に涙を浮かべながら。
「私を卑怯者にしないで! 」
「だったらゆかり、貴女自身の目で確かめて。私はその判断を尊重するから。ゆかりの判断に100パーセント従う。絶対にノーは言わない」
「ここは? 」
「起きた? 蘇芳さん。騒がせちゃったかしら? ここは最初の病棟よ。うるさくしてごめんなさい」
「いえ。うるさいのは気になりませんでした。唯、足がなんだかおかしくって。何だかとても痛むんです・・・・・・。身体が柔かかったら目で見えるのに。まあ全て自業自得なんですけどね。お浣腸のお仕置きも。でもお酒が美味しくって。また酔いたい」
「あらあら、不良少女だこと。そんな事より足、ちょっと見せて。少し傷の周りが黄ばんできてるわね。ガーゼで拭き取って。消毒をしてお薬を塗っておきましょう」
「お願いします。主任さん。優しくしてー」
未だ少し酔っている様な蘇芳さん。あんな事が有ったのに汚れた雰囲気は全くない。それどころかより一層美少女感が増した気がする。しぐさも声も全てが愛おしい。うつ伏せになってもらい膝を曲げ足の裏を私のほうに向けてもらう。薄いパジャマ姿。潰れてむにゅっとした乳房がとても大人っぽい。パジャマの上からでも張りがあるプリッとしたお尻。カモシカの様なふくらはぎ。高いヒールでもこなせそうな大きな足・・・・・・。
「うっ」
「ごめんなさい。滲みたかしら? 」
「ええ。でも処置してくださるのに、私こそ我慢が足りませんよね」
「なんか傷口がじくじくしてるわね? 少し痛むけど我慢してね」
外科は専門じゃないけれど、何だか傷口が普通じゃない気がする。一応、ハサミで皮膚を少し切ってたまたま持っていたシャーレに入れた。検査に出す為に・・・・・・。そして注意を逸らす意味で話題を振った。
「蘇芳さん・・・・・・。貴女本当に美術品みたいね。肌も綺麗で。キラちゃんが惚れたのも判るわ」
「私はアキラみたいにスラッとしたスタイルの方に憧れます・・・・・・。私みたいだと、何を着てもいやらしい視線が・・・・・・。でも褒めてくださってありがとうございます。主任さんだってここの病院で一番お綺麗ですよ」
「あらお上手。でも貴女には社交辞令なんて似合わないわ。もっと私が一番! みたいに生きてみたら? 勿体ないわよ? 」
「でも・・・・・・。目立ったりするの本当に嫌いなんです。昔、ピアノの発表会で失敗してから・・・・・・。それから人前で何度も何度も恥をかいて・・・・・・消極的になってしまいました」
「そうなの? 今の蘇芳さんならそんなの平気だと思うわよ。だって蘇芳さんと肌を重ねた人は、今の蘇芳さんの積極性を知ってるもの。愉しい事に貪欲な。そうそう孝崎さんだっけ? この間来た時に私が服を貸した子。あの子芸能人してたんでしょ? コネ使って蘇芳さんもそっちの世界に行ってみれば良いのに・・・・・・胸はあの子の方が大きい様だけど、蘇芳さんの方がずっと美人だもの。絶対に成功するわ」
「さらっと恥ずかしい事言わないで下さい。主任さんこそ、色々な事を教えてくださったわ。女同士の愛し方のイロハを。ともかく私は芸能界とかには興味無いです。男女問わず大人が怖いし、特に男の人、孝崎さんからその辺りの怖い話し聞いていますし・・・・・・」
「大人・・・・・・ね。私は怖い? 」
「主任さんは・・・・・・。別枠ですよ」
「ありがとう。全く、たらしの素質が有るわね、す・お・う・ったら。ちょっと薬を持ってくるからいい子にしてて」
蘇芳さんに、ディープキスを咬まして部屋を出た。戸惑う様子も無く、当たり前の様に受け止めてくれる。このまま男を嫌いなままで良いのか、少し心がチクッとした。
「蘇芳ちゃん、今良い? 」
「い、苺さん? 」
「今の・・・・・・見てた? 」
「うんばっちり。林檎には内緒にしておくよ。今はそんな事をしている場合じゃないんだ」
「どうしたの? 小夜花がどうかしたの? 」
「さすがに感が良いね。でもそっちじゃないんだよ。本題は。蘇芳ちゃんの足の怪我の事で来たんだ。今、凄く痛くない? 傷口は悪化してない? 見せて頂戴」
「今はそんなに痛くない。ちょっと前まで凄く痛かったの。私の事に気にしてくれるの? あんな態を晒しちゃったのに」
「友達だからだよ。それに林檎の最愛の人なんだから気にするのは当たり前だし。それに・・・・・・。痴態を晒したのは私の方が先だもん。おあいこだよ、蘇芳ちゃん」
「ありがとう。林檎さんは? 」
「そうだ。傷早く見せて」
「うん。これでいい? 今主任さんがお薬を」
「だめ。そんなの待ってたって治らない。これを塗らないと足が腐るの。早くしないと、取り返しのつかない事に・・・・・・。お願いだからこっちのお薬を塗らせて」
腐る? 鬼気せまる苺さんの顔。あまりの迫力に頷く私。足を差し出し薬を塗ってもらう。すると足が凄く熱くなっていく。とともに、傷から何かが出て行く。多分膿の様な物だろう。熱いものが出るたびに拭き取られ、屑籠にガーゼが溜まっていく。そして漂う腐臭。塗られてからの痛みは、さっきとかなり感じが違う。決して不快なものではない。
「蘇芳ちゃん、蘇芳ちゃんのこの傷、変な菌に感染していたんだ。そしてその特効薬を貰ってきたんだよ。嘘かと思っていたけど、効果抜群みたいで私も驚いてる」
「誰に貰ったの? 」
「言いたくない」
「言って! 」
「榊・・・・・・杏・・・・・・」
「嘘・・・・・・。此処に来てるの? だってあの人は・・・・・・」
「うん。言いたい事は判る。でも現実に榊は此処に来ていて、私は会って話をした。アイツはいろんな事を知っていたよ。蘇芳ちゃんが足怪我した事も。それでこれを寄こした。結果、傷の周りの黄ばみは消えた。蘇芳ちゃんは今は傷の事だけ考えてて」
「傷自体はどう? 」
「かなり治ったと思う。素人の私がみての判断だけどね。それじゃ私は林檎の所に行ってくるから」
苺さんは薬を私に手渡しそう言って部屋を去っていった。追いかけようかと思ったけれど主任さんを袖には出来ない。断腸の思いで諦めた。
「蘇芳さん、遅くなったわ。傷はどう? 見せて」
まずは何も言わずに主任さんにそのまま見せた。
「これは・・・・・・。膿? 誰かが何かしたのね? 教えて蘇芳さん 」
「主任さんが出て行って直ぐに、苺さんが来てこの塗り薬を・・・・・・」
私は主任さんに薬を渡した。組成の表記が全くないチューブ。マジックでIB 2020とだけ書いてある。しげしげと眺め、臭いを嗅ぎ、訝る主任さん・・・・・・。
「蘇芳さん。この薬預からせて。足の具合から効果は有る様だけど、副作用が心配よ。それにしてもこんな薬一体何処から・・・・・・。蘇芳さんは聞いて無いの? 」
「・・・・・・・・・・・・」
「そう。なら仕方ないけど。私やドクターの相談無しに怪しげな薬を使っちゃだめよ? 」
「はい・・・・・・。ごめんなさい」
優しく叱責する主任さんに、涙がこぼれてきた。とっさに袖で拭うと・・・・・・。
「だめよ。そんなことをしては。腫れてしまうわよ」
「私が舐めてあげる・・・・・・」
「えっ」
いきなり押し倒されて舌で目の周りを舐められた。周りだけでなく眼球も。一体どうしたんだろうなんか怖い。あの薬を嗅いだから?
「蘇芳さん、終わったわ。蘇芳さんの目玉食べたいくらいだったわ。それじゃこの薬を検査に回すから。そこの眠剤飲んで寝なさい。朝になったら色々と有るからね」
「はい・・・・・・。主任さんも仮眠を取ってください。目にクマが・・・・・・」
「え! 」
「冗談です。ごめんなさい・・・・・・」
「そう言う事言う子は、またお仕置きよ? 好きなんでしょああいうの」
「うん・・・・・・。私って、そんな女なのかも・・・・・・」
「林檎? 何処に居るの? お姉ちゃんだよ、出てきて 」
「ここに居るよ。トイレの一番奥の個室・・・・・・」
声を確認し安心した。榊が先回りしていたらとやきもきしていたから。でも声に元気が無いのが気になる。
「林檎、開けるよ? 鍵開けて」
「鍵はかかってないから・・・・・・」
「林檎! どうしたのよ、これ・・・・・・」
グシャグシャの顔。でも無理に笑顔を見せようとする。むせて鼻水がだらっと垂れて服を汚していく。
「汚くてごめん。吐き気が酷くて。吐くにも身体が痙攣して的が定まらなくてこんなになっちゃった」
個室の中は吐瀉物で惨憺たる状況だった。異臭は惨状の程度を思えばそんなにだけど、それでも酸っぱい匂いが満ちていた。
「それ脱ごう。ばっちいよ。脱いだら身体を拭くから。タオル持ってくる」
「ありがとう、苺姉。でも・・・・・・」
「何? 」
「何でも無い。気をつけて・・・・・・」
給湯室に進入しお湯をゲットし、次にリネン室に入ってタオルを籠いっぱいと身体に纏うためのシーツを持ち出した。誰にも見つからないで事を成すのはこれが限界。着替えは諦めざるを得なかった。
「林檎、どう? 少しは良くなった? 」
「うん。もう出るもの何にも無くなったみたい・・・・・・。気分は未だに最悪だけど」
お湯でおしぼりの様に温めてタオルを手に林檎の顔を綺麗にしていく。
「何か変な物食べたの? 」
「あのね・・・・・・。私、見ちゃったんだ・・・・・・。そうしたら・・・・・・」
「待って。それって根本ちゃんの事? 」
「! なんで・・・・・・。どうして知ってるの? あの子が、あの子が・・・・・・」
そこでまたえずく妹。背中をさすって介抱する。
「ほら、蘇芳ちゃんの部屋でお仕置きをしてから、こっちに戻って来た時、ドクターの隙を見て包帯を解いたあの子を見たの。そうしたら、眉毛が無くて目が真っ赤になってて瞳が動物っぽくなってて・・・・・・。それに肌の色が白く、そうまるで白蛇みたいに。それに舌先がが割れてて・・・・・・」
そこまで話してまたリバースしてしまう林檎。再び顔は涙と鼻水、そして泡立った胃液でグシャグシャになっていた
「嘘・・・・・・」
「嘘じゃないんだよ。お姉ちゃん。見たんだ。あの子、紛うことなき人間なのに、人間なのに・・・・・・。あの子は・・・・・・」
「林檎、落ち着いて。それ、その事で話が有るの。あの子ね、何か有って急にああなってしまったらしいの。その事誰にも言っちゃだめよ。蘇芳ちゃんにも、孝崎ちゃんにも、先輩たちにも」
「うん。言わない。どうせ信じてもらえないもん。でも苺姉は信じてくれるんだ。うれしいよ」
「林檎、最上階に休憩室が有るからそこで休もう。さあそうと決まったら、この汚したもの全部、このビニールに詰めて。行動隠匿には忘れ物はダメだから」
「でも、脚がなんだかうまく動かせないよ。痙攣してて」
「じゃあ、おんぶするよ。エレベーターまでくらいならなんとかなるし」
「やっぱり、苺姉はお姉さんが板についてる」
「何よそれ? 」
「お姉・・・・・・」
「私にも聞こえた。あの二人の言ってた事・・・・・・」
「小夜花に何が有ったのか、あの二人に聞き出す。追うよお姉」
「待ちなさい。落ち着くのよ。ゆかり! 」
「あんなの聞かされて、落ち着いてなんか居られない。あの医者の数といい、面会謝絶なんて普通じゃなさすぎ! 」
「いいから落ち着きなさい」
後ろからタックルして、妹を床に押し倒す。リノリウムの床がひんやりして気持ちいい。
「ちょっと貴女達、何してるの? 夜中の病院でして良い事じゃないでしょ! 乳繰り合いでは無さそうね」
「鈴木先生、美馬先生。先生方こそこんな時間に、何を・・・・・・」
「私達は・・・・・・。そう、ただのお散歩よ。何しろずっと寝かされていたから筋肉が弱ったみたいで。それに正直,寝飽きたの」
私達を挟み込む様にしゃがむ先生達。なんか様子が変だ。
「すいません、用事が有るんでそこを退いて下さい」
「用事って? こんな真夜中に? 」
「はい。緊急の用事で。お願いです。エレベーターに乗せて下さい」
「どうします、美馬先生? 」
「私達も同行してみましょうか」
「和田さん、関本さん。私達も一緒なら、許可を出しますけど? 」
「それは・・・・・・」
「お願いします。先生方」
「ゆかり! 」
「で、何の用事なの? それ聞かなくっちゃ答えようが無いわ。まさか肝試しとか言わないわよね」
「親友の根本小夜花の事です。小夜花が今大変なんです。その事で・・・・・・」
「だったらまず、ドクターの所に行きましょう。この階に有るでしょう先生の部屋。上には病棟と休憩室しかないわ。行く理由には・・・・・・」
「分からず屋! 」
妹はそう捨て台詞を吐き階段で上に。しかしここは四階。ゆかりの今の体調では相当に時間が掛かるだろう。私は途中でへばるであろう妹を階段で追い、先生方にはエレベーターで上に行って先回りして貰う事に。
「先生方はもう平気なのですか? 何か異常な症状が出ていたりしませんか? 」
先生は二人顔を見合わせた。
「和田さん、妹さんを確保してからでいいから。その辺りのお話、詳しく聞かせて頂戴」
「林檎は上に来ないで。休憩室で休んでて。私は屋上で疫病神を退治してくる。アイツには積もる恨みも借りも有るから。ゆっくりしてて」
「うん。でも無茶はしないでよ、苺に何か不測の事が有ったら私・・・・・・。一応護身用に何か持ってるんでしょう? 」
「一応。大丈夫、大丈夫使わないで済むよ。林檎は心配性だね。相手は手練、そこに逆につけ込めるかもしれないから」
「お前さん、待って」
林檎がエア切り火で、私の無事を祈ってくれた。よし、やるぞ。気合を入れるために顔を叩く。
「あら。思ってたよりも早かったわね。それに一人で来るなんて。嬉しい」
「ンな事はどうでもいい。蘇芳ちゃんとあの子の現状を確認した。私達はどうすれば良い? 」
「その前にそこのドアの鍵を掛けて。話はそれから」
ドアの所に後付けされた鍵が付いている。明らかに不自然な中から開かない鍵。
「これで誰も来ないし、私達も逃げられないって訳。腹を割って話をしましょう。まずは蘇芳さんの事。薬は塗ったかしら? 」
「塗った。傷から膿が凄く出たよ。痛みの事はそんなに痛くないって言ってた。それで良いのか? 」
「そう。間に合ったみたいね。経過時間から考えると、傷に近い部署の関節が相当痛むころかな? でも一週間もすれば完治するはずよ」
「詳しいじゃない。マッチポンプってことか? 」
「それはちょっと違う。あの子の体質と土の中の菌が反応したって事。あの子は将来に渡ってこういう怪我をすると、こうなると思って」
「それは破傷風に近いものと言う事で良いんだ? それにしても何で直ぐに手が打てた? 」
「知りたい? 皆の身体のデータは学院の関連施設で掌握してるの。今回は蘇芳さんに関してはそれがうまく言ったって事。今起きてる事態に関わってる根本的な要因を教えてあげる。それは料理部の食材。そのいくつかに人体に影響を及ぼす成分、物質が混じっていたの」
「何を言っているんだ? 」
「貴女も、何かしらの反応が出るわ。でもホルモンの過多とかそんな感じだと思う。貴女達は蘇芳さんと血の交換をしたその方が問題ね。これから先ずっと血を飲んだりしないとダメになってしまったのだから」
「おい。一体何を。何でそんな事も知ってる? お前は一体・・・・・・。それしてもに食材の話は本当なのか」
「色々と知ってるわよ。だからこそ薬の手配も出来たし。ただ根本さんは進行が予想より早くて。あの子には悪い事をしたわね。同じ様な立場の関本さんはああならなかった。元々の体質が影響したのだと思う。食材の話しもそうよ。八代譲葉はわりに影響が出た方。影響が薄いのは部長の桜木とかね。あの子火を通すのが得意だからかな」
「過剰な食材の噂は聞いた事が有ったけど、まさかそんな・・・・・・」
「あら。少しは知ってるのね。新入生が知ってるなんて意外だわ。でももう手遅れよ。症状が出るくらい摂取してるもの」
「他にこの事を知ってるのは居るの? 」
「正式に知ってるのは居ないわね。おそらく苺ちゃんが一番知ってるよ。それで話が有るんだけどな、根本さんの事」
「あの子、ラボが想像したより進行が早くて・・・・・・元にはもう戻らないわ。だけど、これから先、進行を抑える事は出来る。貴女達秘密を知ってる二人、蘇芳さんを抱き込めば三人ね。貴女達で彼女を守ってあげて。アングレカムは閉鎖的だけど、これからはそうもいかないでしょう。白木は開かれた学園にしたい様だし。ラボも今まで程大っぴらに動けなくなる。そこで秘密を知ってる貴女達に託したい」
「これ以上知ってる人を制限して秘密を保持すると? 」
「そう。今日は切れてるわね。察しが良くて助かる。知ってしまった人は、地獄の底まで一緒にね」
「あんたはどうなんだ。首謀者なのか? 実行犯なのか? それとも巻き込まれた被害者を気取るのか? 先に地獄に落ちたらどうよ? 」
「そうね。実行犯かな? だってあたしは小さい時からずっとラボの駒なんだもの。で、このファイルに今までの事、これから貴女達が成す事が記録されてるから。根本さんを頼むわよ。そうそう、もうすぐしたらその仲間に加えて良い人が現れるからその子もヨロシクね。ポケットに仕込ませてるのはICレコーダーかしら?もう説明はしないから後で何度も聞き直して」
「おい、何終わらせてるんだよ。ここから逃げられると思っているのか。過去の経緯から全部聞かせてもらうまでは、飛び降りとかはさせない」
榊がファイルを足元に置き、前屈や伸びをしておもむろに服を脱ぐ。下着も脱ぎ靴も揃え全裸になった肢体が月明かりに照らされる。均整のとれたスタイルに暫し目を奪われる。かつて愛し合った時も、榊先輩は決して見せない箇所が有った。
するするっと転落防止のフェンスに近付く。そしてベリーロールの様に飛び越した。しまった見とれて一瞬反応が遅れた・・・・・・。
「じゃね、苺。縁があったらまた会いましょう。今度有った時は初めて出会った時みたいに、先輩って呼んでね」
そう言った刹那、榊の背中からコウモリの様な羽根が生えてあっと言う間にリーチの二倍くらいに広がる。私に投げキス一閃し、バタバタと羽ばたき宙に舞った。そして闇に消えて行った
「嘘だろ・・・・・・」
慌てて頬を抓るも、痛い。それに残された服、鍵、ファイルがその存在を肯定する。それにしても・・・・・・。こんなの話して誰が信じるんだよこれ・・・・・・。
「槙先生じゃないですか。どうしてこんな所に? それにそちらの方は? 」
「美馬先生、鈴木先生。あなた方こそ此処にどうして? もう歩いても平気に? こちらの方は根本の担当のドクターです」
「実は、関本さんが沙沙貴さんを追って此処に来るというので先回りを。何だか大変な剣幕だったもので。学外でのトラブル、大事にはしたくありませんので。それで、件の沙沙貴さんは何処に・・・・・・」
「沙沙貴? いや来てない。此処には私達二人だけですよ、先生方。関本の事は来たら私が抑えますから、戻っていただいて結構です」
「あら、随分つれない事を仰るんですね。私達も関係者なんですよ、槙先生」
何かが違う。何時ものお二人じゃない。美馬先生が周りを一瞥してニヤリとした。
「槇先生。沙沙貴さんですけど、ソファーの後ろに居るんでしょう? かくれんぼしてる場合じゃないわ」
何故判る? あの位置からは絶対に見えない場所なのに・・・・・・。
「自分で出られないなら、引きずり出すけど、槙先生? 」
「どうして判ったんだ? 」
沙沙貴が来てから随分時間が経っている。隠れた姿を見られたって事は無い。気配は完全に消してる。あいつはそういうのは得意中の得意だ。世が世なら狙撃兵か自爆テロリストに向くだろう。それはともかく、足跡が有るわけでもないし一体・・・・・・。
「私、死の淵から回復して、耳が凄く働くようになったの。集中すればどんな小さな音も判る。場所の特定もまず外さない。でも鈴木先生は私以上に凄いの。人の心を・・・・・・」
「美馬先生のと違って私のは、する事をしないと発動しないから汎用性は無いわ。だからあんまり役には・・・・・・」
「あらあら、御謙遜を」
「沙沙貴さん出てらっしゃい。私達は貴女達の見方よ。根本さんの事、全部知ってるわ。それで相談が有るの」
沙沙貴に対し指を鳴らしてかくれんぼを止めるよう促した。
「先生方、ご無沙汰してます。お怪我が良くなり、何よりです。それで相談って? 」
「貴女は妹さんね。内容は根本さんの今後よ。屋上で話しましょう。お姉さんを交えて。槇先生も来て下さい。鈴木先生、その人を・・・・・・お願いします」
美馬先生が鈴木先生にそう言うと、ドクターの所にすすっと近づきキスをして押し倒した。くちゃくちゃと淫美な音が響く。何秒かして起き上がる二人。
「済んだ? 鈴木先生」
「はい、美馬先生。暫くはこの人、私の意のままです」
「それじゃあ、関本さん達が来たら此処で足止めをして」
とろーんとした目で、言われるまま復唱をするドクターの姿を見ると先の話、信じざるを得ない。一体何が起きている?
「さて、トラップは設置できたわ。それじゃ上に行きましょう。早くしないと朝が・・・・・・」
「鍵がかかってるわね。槙先生、壊してくださる? 得意でしょう? 」
「・・・・・・・・・・・・・」
「槙先生はもっぱら付ける方が得意で壊すのは・・・・・・」
「そうでしたね、鈴木先生。壊しまくったのは白羽・・・・・・。呼んできます? 」
「蘇芳ちゃんを巻き込まないで下さい! 」
「林檎ちゃん、そんなに熱り立って。あの子だって素手じゃ無理よ。さてどうしましょうか」
暫くあーだこーだ小田原評定。突然静かにしてと、美馬先生が私達に威圧的に諭す。
「開くわね」
「うわ。皆さんどうしたんですか? 」
美馬先生の言う通りドアが屋上から開いた。耳がスーパーな事は本当の様だ。開けたのは苺姉。まずは苺姉が無事だったのが嬉しい。一も二もなく抱きしめて無事を喜ぶ。
「話が有るの、戻って」
「ええっ? 」
「これからの大事な話しよ。根本さんの事がメインだけど、それは貴女達にとっても重要な話。槙先生があまりにラボ寄りなんで私達が話を進めます」
「美馬先生でしたよね? お怪我の方は? 」
「こちらの鈴木先生共々、一応回復したわ。貴女達や孝崎さんて言ったかしら? 今回の事で色々面倒をかけたわね。で今から話す事がその面倒の最後」
「まずは、鍵をかけて。この鍵は元々のじゃないわね? 」
「多分、榊先輩が・・・・・・」
「榊だって? 」
榊の名前が出て先生方は、一様にびっくりしていた。その中でも槙先生の驚愕っぷりは・・・・・・。
「本当なのか? 沙沙貴。だってあいつは先行してイギリスに行ってるはずだろう? 」
「見た目、声、それに経験値は榊杏のものでした。ただ・・・・・・」
「榊杏がここから立ち去る時、背中から羽根を出してそこから飛び立ったんです・・・・・・」
「おい、冗談だろ、羽根だって? 」
「本当に見たんです。そこで全裸になったらフェンスを軽々飛び越して外に出て、あそこから飛び立って行きました」
苺姉の指さした場所には、脱ぎ捨てた衣服が有り、フェンスはかなり高いし最上段はバラ線が張ってある。並の人間ではとても出来ない。
「榊さんって、地味で運動は不得意だったわよね? 鈴木先生」
「ええ。少なくとも私の知ってる榊さんは・・・・・・」
「私も、榊を良く知ってる。でも、根本の一件然り、もう今までの常識が通じない。私は沙沙貴を信じる」
「槙先生・・・・・・ありがとう。少しだけ見直したよ」
「苺姉、ここで榊・・・・・・先輩となんの話を? 」
「それはこれを聞いて・・・・・・」
「これは? 」
「ICレコーダー。千葉先輩の私物から失敬したんだ。悪いと思ったけど、私の言う事信じない人多いし。でもプロ御用達の音楽用だけあって、ちと大きいけど性能は良いみたいだよ」
そして・・・・・・再生すると、明るい月夜なのに、真っ暗な洞窟に居る様な暗澹たる空気が漂っていった。その後、先生方の持つ資料、実際に触れた槙先生による根本さんの症状が伝えられ、苺姉は所構わずさっきの私の様に吐きまくった。私もきつかったけど、出す物は既に胃の中に無くなっていたから・・・・・・介抱役に。
「それでなんだけどな沙沙貴、これは他言無用。白羽にも言うな。白羽の怪我の事は私から担当のドクターに話す。念押しだが根本の事は絶対に言うな。先生方、了承してくださいますか? 」
「私達はそれでも良いけど、沙沙貴さん達は言いたい事が有る様よ? 」
「蘇芳ちゃんは、お仕置きの時の状況から根本ちゃんの事を気に病んでいます。薄々感付いてます。アミティエの子が大変な事になっているって。それに関本さんも察してるんでしょう? 」
「蘇芳ちゃんも抱き込んだ方が絶対良いです。私達も蘇芳ちゃん無しでは生きていけないし、それは蘇芳ちゃんも同じ。定期的に血を交換しないと・・・・・・」
「それなんだけどな、あんな機械無しでも何とかなりそうだぞ? 未だ詳細が来てないけど」
「でも結局、蘇芳ちゃんと私達はそういう関係を続けなきゃいけないんでしょう? 」
「そりゃそうだけど、三日に一回、鼻血をすする位でもなんとかなると言う連絡が来た。後はお互いの性徴状況を見て・・・・・・」
「しっ、静かに。ドクターの所に人が来たわ」
「来たのは、和田って子の方。関本さんじゃないわ? 」
今まで黙っていた鈴木先生が、突然話し始めた。そして・・・・・・。
「やっと帰った。もう限界。リモートを解除するわ、少し休ませて・・・・・・」
「お疲れ様です、鈴木先生。私が膝枕して差し上げます」
「ありがとう・・・・・・」
鈴木先生は刹那寝ついた。いや失神した方が正しいか。この能力は相当に集中力と体力が居る様だ。
「それにしても、沙沙貴達を追っていたのは、関本であって和田じゃなかった。一体何が有ったんだろう」
「槙先生、それは後に回して。今は蘇芳ちゃんを巻き込むかだよ。蘇芳ちゃん、委員長たちとアミティエだったのに、別れさせられて、黒沼さんと組んだら死別、そして今度は理由も無しで失踪じゃもう限界を超えるよ。それに蘇芳ちゃんは何も言わないけど、ガッキーが居なくなってる事も相当にショックなんだと思う」
「八重垣か・・・・・・」
「そうね。こう立て続けに自分の周りを大事な人が去ったりすれば・・・・・・。あの子にはラボも一目置いてるんでしょう? 槙先生。もし自死とかで失ったら・・・・・・」
「此処にいる皆全員、検体行きだよ、間違いなく。じゃなきゃ・・・・・・やめよう吐きそうだ」