「ご主人様、お疲れ様です。これからの一時、前列五十四号と百十三号の二匹の牝と後列のDNNの二個体がお世話を担当します。ご主人様のいかなるご要望もお受けいたします。存分にお使いくださいませ」
床に正座する四人のヒトガタ。私達の姿を見て腕を前に投げ出して土下座の体勢になる。すると間髪を入れずにナンバーの若い五十四号が口上を口にした。まあなんともシングルのナンバーズと比べると言葉遣いが軽いしダサい。こいつは外来の牝だからまあ仕方がないか・・・・・・。本来なら鞭で即刻訂正させるところだが、今の私はかなり疲れている。あまり教育的指導をしたくない。幸いというか普段は同伴しないチーフが今日は居る。チーフに、ここ私専用の浴場での奴隷の心得を教え込んでもらおう。今の私は唯々癒されたいのだけなのだ。
五十四号が口上を述べた後、順々に体を起こしていく二匹の牝と二つのDNN。髪にはタオルを巻きアップにして有るので首輪が細い首にとても目立つ。背を起こし終えると背筋を伸ばし手を自分で後手に組む。奴隷としての躾けの初歩だ。ナンバーズは腕を高い位置で水平に保ち二の腕を手で摑む様な姿を維持し胸をせりだしてさすがの姿勢。及第点の出来。
一方、DNNの方は床の方に腕が下がり、お尻の少し上に手首が位置しどうにも締まらないしみっともない。腕がびしっと伸びていれば、それはそれで決まるのだけど。それをチーフが指摘し直ぐに直させる。
ナンバーズの二匹の身体には、格に対応した素材のボディピアスが誇らしげに輝いている。乳首、臍、耳、舌、性器。その中でも鼻中隔に付いているセプタムは特別の意味を持つ。奴隷の証として私が直々に付けるのだ。セプタムには奴隷の序列の番号が掘られている。素材も格で異なり、シングルのナンバーズはプラチナ、十番台はゴールド。三十番台迄がシルバー。五十迄がチタン、百までがステンレス。それより下のナンバーズコード無しのただの黄銅。それでも付けていられるのは奴隷の中では栄誉。無いものも居る。それがDNNと呼ばれる牝以下の存在。
DNNとは、ナンバーズ未満の存在を示すここでの言葉。まあ簡単に言うと奴隷見習いの様な者だ。大多数が児童で、若干の幼児が混じる。ここで生れた者や、拾ってきた子。まれに闇市で売られていた女や母子を買ったケースも有るけれど、それでも二束三文で売られていた者だ。もうすぐここに創られた者が加わるだろう。
もちろん言うまでもなく私のテリトリーに男は不要だ。必要なのは女だけだ。いずれナンバーズに成るために厳しい調教を、教育を。癒し、そして洗脳。マインドコントロールが固定し元に戻らないと成った時、初めてナンバーズへの道が開かれる。その段階で外に売られる者も少なからず居る。放逐ではなく、優良な顧客に請われて泣く泣くだ。ギブアンドテイク。海外には色々とコネがある。これは先代、先々代から面々と引き継いでいるものだ。ナチスとバチカンが繋がっていた様に想像もできない繫がりが存在する・・・・・・。
ただし洗脳処置に失敗、遺伝子上の問題から不適と判断される、等々ドロップアウトして地下に幽閉されている者も若干ながら居る。一生ここで飼い殺し。一度下に送り込まれた者の秘密が外に漏れる事は絶対にあり得ない。しかしそれはラボ内での公然の秘密で恐怖の象徴。一般の世界のサーカスに売られると同じ様な意味だ。
ナンバーズとして優良すぎる者は、イニシエーションを済ませ名前をつけて養女にすることもある。そう私の家族に迎えるわけだ。身体が朽ち果てる迄の長い時を共に過ごす為に。
ナンバーズやDNN以外にもここに関わる者は居る。いわゆる別枠の存在が幾つか有る。一つは資質を見込んで私が直々にバイオサイボーグ化した存在。学院卒業後、進学を取りやめさせて引き入れたチーフを始めとするOGが主体の侍女達。また近年増えつつある在学中に処置をした、榊、根本などだ。既に身体が変質しているけれど、人間としての生活が可能な状態の女達。これもまた私の子供だ。
二つ目として、三年の桜木、今の沙沙貴や白羽の様に日常生活に間接的に私の影響が必要な存在。これは料理部の食材に混入させた物質で性徴に影響が出た生徒達が主だ。定期的に私の部下が投薬、施術、透析、治癒をする。いずれ、上記の一の道になるか下記の三の道に流れるは本人の資質や体質で振り分けられる。
三つ目が関本たちの様に、ここで頭の中を弄られてから記憶を消して元に戻して所謂「草」となった者達。これは卒業生の半数近くが該当するだろうか。
四つ目は私の親族。バスキアの直系と、小御門の様な親等の少し離れた者が存在する。
最後五つ目として私がスカウトしたドクター達。私の高度なマインドコントーロールによって私の右腕として存在している。彼女らは奴隷以上に奴隷だ。私が求める結果を出すためには人が死のうが片輪に成ろうがうじうじ悩んだりしない。まあ心が壊れない様に頭の中も若干弄っては有るのだけど。能力は非常に優秀。それはもうこの分野のノーベル賞が有ったら彼女達が独占するだろうと思う。
話を戻す。奴隷は格上と居る場合、決して目を合わせない様に指導されている。体を起こした目の前の牝共も伏目がちに自分の前の床を見つめている。言わばステイの状態だ。五十四号、百十三号はさすがに良く実行している。
幼いDNNの二匹はまだまだ指導が足りないのか、ずっとその姿勢を維持できない。私が咳払いをすると、チーフが間髪を入れずに鞭を鳴らす。それを聞いたナンバーズは、即刻指で後ろに居るDNNに指示を出し修正させる。上の者の指示は絶対だ。こういう不作法は減点の対象となる。
尚、私室以外での私語は原則禁止。これはシングルであろうとDNNだろうと同じ。もっともマインドコントロールが機能していると、私語などはまずしない。
五十番より若い数字を持つのナンバーズは施設内である程度の範囲で着衣が許されている。身だしなみ程度の化粧も髪のアレンジもだ。シングルになるとそのあたりはかなり緩く衣服や靴も原則フリー。
もちろんセプタムを始めとする全身を彩るピアス、彩色、くびれを作るコルセットや頭を吹き飛ばすだけのプラスチック爆弾を内蔵した首輪を外す事は許されてはいない。但し装飾は可で、スカーフを巻こうがリボンを付けたり色々とお洒落をしている。五十番以降のナンバーズは首輪は支給品そのまま。全裸かレザー等の拘束具を身につけて暮らしている。但し、普通に直立での歩行、生活が許可されている。
もっとも私や上官たる侍女達、ドクターが命令すればこの限りではない。その一例としてポニーとしてのトレーニングをする時などだ。またDNNは移動する時は四つ足以外は許可されてはいない。もちろん首輪は必須で馬銜、手枷、足枷を鎖やパイプで繋いでいる。牝としての矜持を身につけるためには欠かせないのが拘束による自由の剥奪だ。これを緩める気は毛頭ない。
しかし、そうはいっても子供なのだ。骨や身体の成長に問題が出ない様に歩行以外は立っての生活が保証されている。もちろん成長に必要な栄養は十分に食させ、適切な運動、指導、教育を施し健康体に飼育する。それは私の義務なのだ。狂っているとはいえ医者の矜持と言った方が適切か。
「それでは始めてくれ。ナンバーズ、お前達はチーフに付け。私と同格の者とすると心得よ。DNNは私に付け」
それを聞き、チーフが顔色を変えた。同室しているのも異例なら、格上の私をさし置き、奴隷の使用は普通あり得ないからだ。
「滅相も御座居ません。ご主人様からナンバーズをお使いになって・・・・・・」
「ほう、私の命令に背くと? 」
暫く逡巡するチーフ。腹を括った様だ。
「いいえ。出すぎた事を口にしまして申し訳ありません。謹んでお受けします」
私が指を鳴らし、顔を起こさせて手でサインを送ると、ナンバーズの二人が立ち上がり、チーフを抱き抱えてマットに寝かせた。ローションやソープを手に取ってチーフにとりつき、まずローションでマッサージを始める。私の様な上の立場の者が同席している中、愛撫される事に慣れていないチーフが困惑し、快感に溺れる様が愉快だ。下位のナンバーズとは言え一旦事が始まればそのテクニック、上位との差は格ほどの無い。しかし上に上がるには性技だけではダメなのだ。とはいえあいつらはいいセンスしている、惜しい。
「なかなかだな・・・・・・」
逝きまくるチーフを横目で見ながら、私はDNNの二匹に声をかけた。ここに来る前に牝からレクチャーが有ったはずのDNN。それとは全く異なる状況に戸惑っているのが判る。おそらくは最初は良く見ていなさい、何もしなくて良いからと言われたんだろう。
「なにを見ている? こっちに来なさい。グズグズしてると・・・・・・」
ビクッとして慌てて正座を解くと、二匹は身体の後ろに置いてあった一式の入っている籠を、二人で口に銜え、並んだまま四つん這いで私の元に来る。それを置き、改めて正座をすると三つ指をつき頭を下げる。すると予期しない行動に出た。
「ご主人様、今お話をして宜しいでしょうか? 」
「なんだ? まあ良いが手短にしてくれ」
この会話をチーフが聞き止めていた。牝が主人に口をはさむなど言語道断。驚きのあまり素に戻る。中断させナンバーズ達に怒り、事態を収拾しろとお尻を手で叩いた。しかし二匹の牝は動かない。謀反とも思える行動に繰り返し叩くチーフ。真っ赤になって晴れ上がるナンバーズの尻。業を煮やしたチーフはマットの牝を足蹴にして放置し私の所ににじり寄る。
「チーフ、私が良いと言ったんだ、かまわんよ。まあ君が後日この件で指導する、しないのは自由だ」
チーフはそれを聞き暫し再び逡巡する。チラッと牝達を見、ふっと息を吐き腰を落とし片膝をつき、私に頭を下げて牝の待つマットの上に戻っていくチーフ。
「で、話とはなんだ? 」
私の許可が出た事で身体の一回り大きな少女が、大きく深呼吸して身体を弛緩させた。相当に緊張していたんだろう。手は震え、口を開く迄、何度もつばを飲む。歳の頃は二桁になった辺りか。タオルから垣間見える髪の毛は金髪。伏目の奥にブルーアイ。長い睫毛。肌は陶器の様に白い。鼻は高くセプタムが似合うだろうなと思った。
「お話と言うのは、私達姉妹をオークションで二人を一緒に買って頂いた事です。ご主人様が入札していただけなかったら、私達はバラバラに別人に売られてしまう状況でした。ご主人様が相場の何倍もの入札をして頂けなかったら・・・・・・。あの時のご恩を私は決して忘れません。こうして暮らしている事が奇跡の様で・・・・・・その事でどうしてもお礼を申し上げたくて・・・・・・その機会を造って下さって感謝の念に耐えません。これからも妹共々、私達をご指導、ご調教お願いします。まだまだ未熟者ですが、必ずあの時のご恩にお応えできる様なご主人様の忠実な奴隷になりますから・・・・・・」
「わ、私からも・・・・・・。お姉ちゃん、いえ姉と一緒に買って頂き・・・・・・とても嬉しかったです。これからも私達はこの命、全てを捧げご主人様のために尽くす次第です。ご主人様のお役に立てる様な立派な奴隷に、早くなりたいので姉共々ご指導、ご調教をお願いします」
続いて小さい方の少女が口上を。そうだ思い出した、この二人は・・・・・・。一年前海外のオークションでバラ売りされそうなのを、白人のヒヒオヤジ達と競り合いの末、幾らか予算オーバーになったけれど落札したんだっけか。プロフィールには両親は死別。出自の詳細は不明。購入後の制限無し。それだけが記載されていたのを思い出した。制限無しとは、四肢切断だろうが、目をくり抜こうがなんでもOKという事・・・・・・。
どちらかに東洋人の血が混じっているおそらくはクォーターだろう。教会の施設で飼われていたのが余剰との事で売りに出されていたんだっけ。あの時は現状渡しと言う事で手足は拘束されて髪は痛み、全身糞尿まみれの姿だったな。ずっと二人で抱き合って震えていた。
「そうか、あの時の姉妹か。元気そうだな。あの時は汚くて臭くて高い買い物をしたと思ったけれど、存外綺麗になったな。中東の俄か成り金に渡さなくて良かった・・・・・・それにしても・・・・・・」
私の独り言に身体がビクッとする。
「あの時の姉妹がこんなに化けたか・・・・・・。よし、その想いを行動に示してみろ。ここで学習、身体に刻み込んだ指導の結果を、私に全部見せてみろ」
私の話を聞き終わると、姉妹は体を倒し床に付け手を伸ばし土下座のポーズに。土下座と違うのは掌を上に向けている点。これは私は貴女のする事なさる事を、なんでも受け入れますというポーズ。指を鳴らすと、二人は体を起こし四つん這いになって近づき私に絡み合う。二人は目が潤んでいる。それでは全身をお清めします。かすかに聞き取れる位の涙声。私の身体を舐めていく二人の幼女。技量は拙いけれどハートで補う、大人の牝と違う至高の時間が始まった。
「お姉、まだ寝ないの? 」
「うーん。まだ無理。蘇芳の怪我で・・・・・・当初の予定は全滅。一からやり直しなんだもの。弾けない部分は私が打ち込んでおかないと」
病院側の好意で、災害時用の空きスペースを借りる事が出来た。ここは演奏するロビーと扉一枚で繋がっている。ここに機材一切を持ち込み、病気では無い私達はここで寝泊まりをしている。
お姉はノートパソコンに向き合い、MIDIのデータ入力に忙しい。一部は私が専用の鍵盤で実際に弾いて入れたけど、お姉は数値入力派だ。譜面から直に入力できる。しかもニュアンスを瞬時に数値に変える才能がある。これは手を怪我して弾けなくなったお姉の努力の賜物。
今回、白羽が演奏するはずのピアノは怪我の負担の為に取り止め、あいつの負担にならない楽器に変更したりした。しかし提供してもらったビンテージのシンセサイザーには幾つかの影響が残ってしまっている。この件では部長の私が関係者を周り、頭を下げ捲くる事に・・・・・・。幸い大事にはならなくてホッとしたが。
「でも、提供してもらったアナログシンセは足の操作、要らないんでしょう? 」
「5やVPの方わね。でも、ムーグのリベレイションの方は立って弾くから・・・・・・。足の具合を見て見ないとなんともだけど、あの重さだとさすがに・・・・・・寄り掛かっても無理っぽいしね」
病院のドクターの中にアナログシンセのコレクターが居て、いい機会だからとねじ込まれたのだ。アープやらプロフェット、ムーグetc・・・・・・。中でもリベレイションの方は日本で実働するのはレアらしく、是非とも使ってくれと懇願されていた。背の高い美少女の蘇芳が弾けば話題になる事請け合いだったんだけど・・・・・・。
「良くもまあ昔の人、あんなゴッついのを肩にかけて弾いていたよね。ふるーいキーボードマガジンに笹路さんが弾いている写真を見た事が有るけど・・・・・・」
「笹路? マライアのね。蘇芳さんの体力ならと思って貸してくれるのを承諾したのに。全く・・・・・・。ピアノも運び出す人工の見積もりして業者も手配したのに・・・・・・」
「で、キャンセルの代わりに手で全て出来る電子ピアノを借り出したと。あれならあの足でもなんとかなるものね」
「まあ・・・・・・ね。でも折角此処にはいいグランドピアノがあるのに・・・・・・悔しいじゃない。それより、緑はどうなのよ。準備は済んでるんでしょうね? 」
「私は大丈夫。一応これでも学院の客員講師なんだから。学院から来る部員の子が気がかりといえば気がかりだけど、即興に強い使える子を入れたんだから腕前は心配はしてないわ。ここに来てさえ来ればなんとかなるよ。それの方が余程心配。理事補佐の白木葉子がこんなイベントの為に車を出してくれるのかね? 」
「それは大丈夫。ここは白木のグループ内の施設だし、既にここを借りてるじゃない? 。この部屋って理事長の鶴の一声で借りれたんだし。アングレカムの名は大ぴらにはしない約束だけど、成功すればまあ利用するでしょう? 色々と。さっきもメールをFAXと一緒に送っておいたわ。まあいざとなったらポルポルを飛ばして迎えに行くから」
「それこそ心配だよ。まだ身体完調じゃないのに・・・・・・」
「なによ、心配してくれるの? 」
「当たり前。お姉にまた何か有ったら・・・・・・」
ありがとうの代わりに私を抱きしめるお姉。そしてキス。蘇芳と関わってからお姉との関係は一線を超えつつある。
「お姉、まだ寝ないのなら・・・・・・。一旦手を止めて・・・・・・。その、あの・・・・・・緑に、いっ、いやらしい事、して・・・・・・そうじゃないと身体がモヤモヤして」
「まあ、お下品。緑、あの子の、あれを見たから? 」
「うん。蘇芳ののあんな姿を見たら・・・・・・ね。私、蘇芳にラブホで強引に手を出されて・・・・・・拒めなくて・・・・・・。逝かされちゃって・・・・・・マゾっ気を意識したの。そんな蘇芳に逆にお浣腸入れて・・・・・・恥ずかしさ、苦しさに感じて悶える姿を見せられて・・・・・・今度はサドっ気が湧いてきた。もう頭の中が混乱してる。相手は女だし、私自身にこんな性癖が有るなんて・・・・・・。お姉の事はずっと特別の存在と思っていたけど、私自身はノン気と思っていた。セックスの関係なんて・・・・・・。今の今まで。女の園で誰にも・・・・・・あの小御門にだって、ときめいたりしなかった私なのに・・・・・・」
「緑・・・・・・。私もあれには興奮したわ。顔に出ない様に努めて冷静にしていたけれど、身体、子宮は正直で・・・・・・。あんなに濡れた事今まで無かった。子宮が農にすり変わって・・・・・・。なんと言うか、そう疼いたの。あんなのを見せられて私・・・・・・。聖堂であの子を弄った時にはこんな状況にはならなかったのに、私もヤバいよ・・・・・・」
「ねえ、演奏会終わったら、学院に帰る前に蘇芳を巻き込んで・・・・・・ここで・・・・・・しようか。打ち上げ会と称して連れ出して。この気持ちを精査したいんだ。このままだと・・・・・・」
「でも、蘇芳にはあの双子と千鳥ちゃんが居るわ。それに天文部の子達が居るでしょう。あの子だけが来てくれる可能性は? 」
「双子はあの包帯の子と槙先生が一緒みたいだし、まず平気。相当の重症らしく今も面会謝絶。演奏会は途中まで見て、それから学院に戻るんだって」
「重症なのに学院に戻るの? 」
「うん、なんでも新寮の先にの空き地に、良く判らない建物が新築されていたんだ。なんでそんな所に建物がと思っていたけど、ラボの離れらしい。そこに収容するらしいよ。学院には判らない事が多いけど、多分間違いないと思う。時間が経ってじわじわと点の情報が線になってきた」
「緑。あんまり変な詮索はしないで。私達にとってアングレカムはただの通過点よ。利用するそれだけでいいの。ただ、使える仲間を確保する場所」
「そうだね。自重する。まずは演奏部を軌道に乗せ商業活動への取っかかりを確保しないと」
「今回の演奏を千鳥ちゃんの家族が見に来る様に手配したわ。もちろん、本人には内緒。あの子の父親は使えるから」
「孝崎、居てくれて有り難かったけど、ショービズの世界からから何でこんな女学院に来たんだろう? 」
「それ、千鳥ちゃんは目を患っているらしいわ。療養を目的にアングレカムに来たらしいの。本人は言わないけどね」
「そういう事か。目つきが変な時がたまに有るよね。そうかそういう事ね。てっきり枕営業を断って干されたのかと思っていたよ。あの凶悪な身体つき、二年にも三年にも中々居ないからさ」
「あの父親の子に手を出す馬鹿は居ないわよ、緑。暴力団も一目置くって言うのに。興行でのトラブルを一手に処理してた切れ者よ」
そんなに凄いのが父親なのかあいつ。なら尚の事何故アングレカムなんかに放逐されたんだ。普通に芸能プロ御用達の病院にかかればいいのに・・・・・・。
「お姉確認するけど、前半は孝崎が歌って私達がサポート。後半が孝崎にもこっちに入って貰ってのインストゥルメンタルメドレーで決定だね」
「そう。千鳥ちゃんには自分の持ち歌以外にオープニングに歌う国歌、オーディエンスの年齢層を考え歌謡曲、JPOPを何曲か見繕って貰ってる。もちろん譜面も。本当は今欲しいんだけど、明日の朝ギリギリみたい。私達の曲の譜面は渡してあるから」
「まあ、あいつもプロの端くれだったんだから任せて良いんじゃない? 衣装はあれで決定? 」
ビニールに包まれて吊り下げられている衣装達を指さす。
「そうよ。人数分のドレスや靴、アクセサリーも届いてるわ」
「うん。でも、なんか多くない? 」
「召天記念日にも持っていくんだって。あっちは制服でいいのに・・・・・・何を考えてるんだか? それにお色直しよろしく着替えるプランでいるみたいよ。看護師さんに根回しして手伝ってもらう算段付けたらしく、挨拶されちゃったわよ、明日ヨロシクって」
「マジで? お姉、私達も途中で着替えるの? 」
「しなくて良いんじゃない? 大体、私達はそんな時間無いわよ。楽器を入れ換えたり裏方の用事も有るし、歌姫様みたいには・・・・・・」
「してその孝崎は? 」
「千鳥ちゃん、また出て行ったわ。なんか電報を貰って飛び出して行ったんだけど・・・・・・」
「電報? 今時? 祝電かねえ? あいつも変だけど、周りも変なの多いのかね? 」
「じゃあ私達も・・・・・・。一段落したから・・・・・・変になろうか? 緑、鍵を閉めて・・・・・・」
「ゆかり? 何処に居るの。返事して、してよ。お願いだから・・・・・・」
夜の病院に私の声が響く。小声でしか呼べないけれどそれでもこの静けさなら絶対に聞こえるはず。今は脚がつり、最上階の休憩室で水道の水を飲みながら足を揉み、ひたすらゆかりの名を呼び続ける状況だ。
私を置いて階段を上って最上階に向かったはずなのに、上まで行っても何処にも居ない。戻って何度も調べ、途中の階も隈なく全部見たのに・・・・・・。
「まさか、飛び下りたり? 」
慌てて窓の外を見る。乗り出して下を見ても何も無い。良かった・・・・・・。ホッとする反面不安が募る。ふと視線を病院の隣の駐車場に動かした。見るともなしにだ。しかしそこには・・・・・・。トラックの荷台に何か白い物が見えた。
「ゆかり! ゆかりだわ。どうしてあんな所に・・・・・・。今行くから無事で居て! 」
小さいし暗いから見間違いかもしれない。でも私の直感があれはゆかりだと。最上階からエレベーターを使い降りるのが最速。しかし一階から呼んでも中々来ない。誰かが上りを各停した悪戯をしたのだろうか。高速が売りのエレベーターなのに遅々として来ない。
「遅い! 」
やっと来たエレベーターに毒づきドアを蹴る。怒りもせずにスーと開くドア。
うっ、なんだろう? 籠の中の空気がとても獣臭い・・・・・・。戸が閉じ、下に下がるとその感じは消えた。普通に蒸し暑い夏の夜の空気だ。一階に着き、扉が開くのももどかしく半開きの中を強引に出る。待っててゆかり・・・・・・駐車場目指して走る。トラックの荷台にゆかりが・・・・・・。
「ゆかり! しっかりして! 私よ、わかる? 花子よ? 」
ゆかりは下着姿で気を失っていた。ゆすっても叩いても意識が戻らない。生活反応はある。息をするたびに胸が動くし、脈も。暗いから良く判らないけど血の海という事も無く、危機的な外傷は無さそうだ。しかし、猫が引っかいた様なすじ状の傷と首に少し血の後が・・・・・・。でも今はそんな事は後回しだ。ゆかりを医師に見せないと。
「ゆかり、おんぶするから落ちないでね。お姉ちゃん頑張るから! 」
返事は無い。でも声をかけしっかりとおぶってダッシュで走る。何度もよろけた。でも走る、この子は私の大事な・・・・・・。どれ位時間掛けたのか、息が上がり酸欠の頭、全身に乳酸が蓄積した身体。それでも着いた。なんとか夜間外来のドアの所にたどり着き、必死にインタホーンに向かって呼びかけた。
「どうなさいました? 」
「助けて! 妹を、妹を助けて! 」
「落ち着いて。今行くから待っていて・・・・・・」
その声を聞きながら私は地に伏した。良かった、これでこの子は・・・・・・。
「来たわよ。姿を見せなさい。書いてある通り、一人で来たわ、誰にも言ってないし、つけられてもいない。だから薬を寄こして」
「あなたが孝崎千鳥だって証明をしなさい。方法は自分で考えなさい。他の人には渡せない物、貴女の病状に合わせて調合した特注品をあげるのよ。それが成されないなら無理」
ボイスチェンジャーを使っている様な声。横柄な物の言い方・・・・・・。電報に私の秘密の事実が簡潔に書いてあった。それと病気の薬を渡すとの記載。結婚式の電報にもこっ恥ずかしいキャラクター物の電報を受け取ったのは夜も更けてから。慌てて時間の指定に間に合わせたのに・・・・・・。ここは病院の地下二階の関係者用の駐車場。
「何を言っているのよ。私の証明を? 私は私。他の誰だって言うのよ! 電報を見てここに来た、それで十分でしょう! 」
「仕方ない。レベルを下げましょう。靴のサイズは23.5? 」
「そうよ」
「クラスの級長の名は? 」
「花菱立花」
「カツレツは好物? 」
「好きよ。最初は違ったけど・・・・・・」
こういう意味が良く分からないやりとりを暫く繰り返した。暫し沈黙の時が流れ、さっきと違う人と思われる声が・・・・・・。
「どうも、質問の答えから判断するにお前は孝崎千鳥と判断するに少し及ばない。服を脱ぎ裸になれ。拒否すればお前の目は永遠にそのままだ 」
それを聞き終わると同時に私に車のヘッドライトが点き、私を包み込む。眩しい! でもそれはかつて浴びたスポッライトを思い出させた。そしてあの世界に戻れるなら、目が治るならと、私は決断した。
「いいわ。脱ぐから、しっかり目に焼き付けなさい」
ぱっぱっと脱ぎ裸になった私。光の方に向かって歩く。途中ターンを入れてランウェイを歩く様に。
「止まれ。なんでも良いから歌ってみろ」
私は、学院に来て寮の裏で歌った、えりかとの思い出の歌を何の思慮もなく選択した。そして歌う。歌い終わると二人分の拍手が聞こえる。
「貴女はやっぱり孝崎千鳥ね。薬を渡すからそこから動かないで」
一つのシルエットが私に向かって近付いてくる。途中で何かを捨てて。そして生での声が聞き取れた。
「お久しぶりね。孝崎さん。元気そうで安心したわ」
「ダリア=バスキア! 」
「先生ってつけてくれないのね。まあ仕方ないわね。これ薬よ、貴女の目のね。詳しい事は中の資料を読んで。治験はしてないけど、この薬は貴女と私とあの子の組織から遺伝子治療の権威が創ったもの。まず変な副作用はでないと思うわ」
「一体今で何処で何を。槙先生はあんたとえりかの生存を信じていたから、私も信用してたけど・・・・・・。あの子って言うのはえりかなのね。そうなんでしょう? 」
「そうよ。八重垣えりかは生きているわ」
「そこに、車に居るんでしょう? 会わせて! 」
私はダリア=バスキアの脇をすり抜け、車に。
「えりか居るんでしょう? えりか! えりか! 」
ドアを開けて中を覗いた。しかし、そこには誰も居ない。その代わり大きなカメラが据えられていただけ・・・・・・。
「バスキアー! えりかは何処よ。出しなさい、今すぐここに! 」
私は逆上しダリア=バスキアの元に戻り、体当たりをした。呆気なく後ろにしりもちを付くのが不思議だったけど、これ幸いと馬乗りになり胸ぐらを摑む。薄手の夏服だったせいか、ビリッと破れ胸が露わになった。
バスキア、あんたブラもしてないの? こんな巨乳で半透けの服着て。それに何この乳首のピアス。これが神に使えるシスターなん? 」
「・・・・・・・・・・・・・」
「何とか言いなよ。この恥知らずな身体で、うぶなえりかを誘惑したんだろう? 言えよ、しましたって! このアマ・・・・・・」
あくまでも無言のダリア=バスキア。目には屈辱からか涙が出て顔の横に湖を。乳首のピアスを指でつまみ、ぎゅーっと伸ばしてみるとさすがに声を出した。
「痛いです、孝崎さん。そこを弄るのだけは止めて・・・・・・。貴女には色々と謝りたい事が有ったから今日は貴女がしたい事を受け止めるけど、乳首だけは止めて・・・・・・千切れちゃう。ヴァジャイナなら存分になぶって・・・・・・」
「何よ、それ。もしかしてマンコの事? イヤだよあんたみたいな女のそんな所、触りたくもない。どうしてもして欲しいなら・・・・・・そうねーだったら今すぐえりかを返しなさいよ、出来る? 」
「無理です・・・・・・」
「この泥棒猫風情が。まあいいや、それでえりかはどうしてるの? 答え次第では相手してやってもいいわよ? 淫乱シスター」
「今はまだ、アメリカの施設に。車のカメラでモニターしてる・・・・・・。そこに捨てたインカムで話が出来るわ」
ダリア=バスキアを突き放し、捨てたインカムを拾いに走る。そしてカメラの前に立ち、えりかに呼びかけた。
「えりか、えりか、えりか・・・・・・」
「うるさいよ千鳥、えりかえりかって。それにしてもお前いい身体してるな! 」
「会いたいよー、えりか。いきなり居なくなっちゃって、どんだけ心配したと思ってるのよ・・・・・・」
「悪い、悪かった。急な事情が有ってさ、千鳥には辛い時間を過ごさせてしまったな、本当にごめん。でも、もうすぐまた一緒になれるよ。もう少し時間をくれ」
これはまごう事なき、八重垣えりかの声だ。久しく聞く事が出来なかった恋人の声。懐かしい気持ち、会いたい気持ち、今ここに居ない、抱き留められない、綯い交ぜの感情が私に滝の様な涙を流させた。
「千鳥、またお前と話をしたいし、匂いを嗅ぎたいし、キスもしたいし、セックスも・・・・・・したい。早く会いたいよ、千鳥。クラスの皆と仲良くしてるか? 」
「うん。私も、えりかとセックスしたい。えりかが望む事、私なんでもするよ? 3Pだって、露出だって、SMだって、もっとイヤらしい事でも、もっと恥ずかしい事だって平気。私が馬になってえりかの車椅子を牽いてピクニックなんてのも・・・・・・」
「それは・・・・・・。でもうれしいね。私は千鳥にてっきり忘れられてると思っていたから」
「それは誰かに乗り換えたって言う感じ? 」
「ああ。花菱とか匂坂や白羽も資質が有ったからな・・・・・・」
「酷いなぁ。私はえりか一筋なのに。えりかこそ、バスキアのオバンに惚れてたじゃない。私がどんだけ嫉妬したと思うのよ」
「それなんだけど、会ったら先生を交えて話したい事がある。これからの事を」
「ちょっと。あんたまだオバンと切れて無いの? 」
「ああ。その事でどうしても千鳥には納得して欲しい事がある。これは繰り返すけど、お前と私の将来の事なんだ」
えりかの声のトーンがさっきまでと違う事に気がついた。本気で何かを訴えている。別れとかそういう事じゃないレベルのシリアスな話。
「判った。えりかがそういうなら信じるし、帰ってくるのをいつまでも待つわ。ところでオバンの胸のピアスはえりかが付けたの? 」
「違うよ。私じゃない。私がしたのは、先生のお臍だよ」
「呆れた。私だったら何処に付けてくれる? 」
「やっぱり、クリトリスだろう? お揃いにしようぜ。それにびらびらにも対で」
「八代先輩みたいに、鍵でも付けるの? 貞操帯代わりに」
「マジ? パイセンそんな状態なの? そういう方面は疎いと思っていたのに」
「でもこれ内緒の話だから他言無用よ。えりか胸大きくなった? 」
「なんだよいきなり。そうだな、大きくなったというか、育ってるって言う感じだよ」
「そう。進歩無しって所ね。ねえ、沙沙貴さん達はバイオテクニック? でこれから加速度的に大きくなるそうよ。蘇芳さんの遺伝子を使うとか何とかで背も蘇芳さん以上になるみたい」
「バイオテクノロジーって奴じゃねえの、千鳥。そうか、あいつらそんな卑怯な手を。でも、身体はこっちも手を打ってあるから会ったらびっくりするぜ千鳥。早く見せてやりたいよ。それにしても千鳥の胸は至高だな、形も大きさも乳首の色も、パーフェクト完璧だ」
「もっと褒めていいよ。ねえ揉みたい? 揉みたいんでしょ? でもダメ。今後一切私以外の女に手を出さないって血判を押してから! 」
向こうには私が見えているのにこっちにはえりかが見えないのは悔しい。それでちょっと毒づいてみた。そして・・・・・・。
「えりか。オバンの事だけど、私まだ納得してない。お仕置きしていいかしら」
「じゃその前に先生と話をさせてくれ、話はそれから」
私はカメラの前を一旦離れる。その前に車のライトを消す。免許の無い私でも、付けっぱなしのライトの行く末はどうなるかぐらいは判るから。
「ほら、来て。えりかがあんたに話が有るんだって」
ダリア=バスキアの手を強引に引っぱり、えりかの目であるカメラの前に連れ出した。そしてインカムを渡して話をさせ、私はそれを側で聞く。しかしえりかの声は聞き取れなかった。
「はい。判りました。これから帰朝まで千鳥様のご指示に従います」
そう言ってインカムを外し、インカムに向かって一礼をした。こいつ何をしてるんだ? 呆気にとられる私にインカムを寄こすと、いきなり床に正座したんで思わず頬を抓ってみた。痛い・・・・・・じゃん。インカムから私を呼ぶ声で我に返った。
「えりか、どうしたのよ? 何を言ったの? オバンが急にしおらしくなって、きもいんだけど」
「お前さ、オバンは止めろよ仮にも担任の先生なんだから・・・・・・」
「そうね、クラスを見捨てて行方不明になって、戻って来たと思いきやこんな有様で。えりかは馬鹿なの? つーか、えりかはオバンの弱みでも握ってるの? 」
「そんなんじゃないんだけど、そんなものかな? うーん、良くわかんない」
「それじゃ全然意味わかんないよ。えりか、早く帰ってきて・・・・・・。会いたいよう・・・・・・そっちは私の顔を見てるなんてずるいよ。じゃいいんだね? お仕置きしても」
「良いけど、怪我は絶対にダメ、痕が残るのもダメ、精神を壊すのはまあダメ。まあお手柔らかにな。それでする時はカメラの前で頼むよ」
「禁則事項が多いわね。まあいいわ。戻ってくるまでのおかずにしなさい、えりか」