※この作品はR-18です。

白羽蘇芳という生き方   作:抱き枕50

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補充兵の初陣

「どうしたマリア? ヨーコの言うリミットはお昼の食事なんだからさっさと行こう! その前に購買でキンキンに冷えたクーリッシュを全種類買い込もうぜ! 」

 

「こら。ヨーコじゃなくて葉子先輩でしょう。きちんと先輩を付けなさいって。急く気持ちは判るけど闇雲には捜せないわ。突然のこのミッションだけどファビアナは何にも疑問に感じないの? 」

 

「何処が? 別に・・・・・・」

 

全く。呑気と言うか、能天気な。今朝方朝食もそこそこに葉子先輩に呼び出されて直々に特別な指示を貰った。私達、転入生の四人で人捜しだと言う。ターゲットに関する資料は墨塗りの在校生ファイルが一枚。ともかく捜せと。何か急な事が起きた様に思える。

 

 

「この・・・・・・葉子先輩から頂いたこの指示書よ。裏があるというか・・・・・・担がれてない? 私達の実力を検査するとかそんな感じのテストじゃ? 」

 

「何のテストよ? 見つけられ無ければ、特待生待遇の剥奪とかかい? こんな事で追い出すのかよ、ヨーコ、シット! 」

 

「そんなんじゃなくって、言葉の裏を読みなさいとかよ、ファビアナ。例えば足跡にしても、実際の足跡じゃなくって、痕跡を捜しなさいってこと」

 

「え、えー。マジ? マジで石膏で型取ろうかと思ってた」

 

「しっかりしてよ、ファビアナ。一番日本が長いあなたがそれじゃあ・・・・・・だとすると・・・・・・。あの子達にも確認を取った方がいいわね」

 

「ああ。ネーナとビアンカね。あの二人、これの意図読めるのか? キレっキレのマリアは別にしてもさ、アイツら私よりもアホだろ? 」

 

 

「アホって・・・・・・。理解できなくて当たり前でしょう。あの子達は私達みたいな日系じゃ無いし、私達は日本での暮らしもそこそこ長いけど、来たばかりのあの子達では無理よ。私が漢字に判る範囲でフリガナと英語を書き添えておいたけどどうかな? 意思疎通なら英語が一番通じる同士の私とビアンカが組んで、似た言語のスペイン語のネーナ、ポルトガル語の貴女が組めば良かったんじゃなくって? 葉子先輩の指示でこういうチーム割にしたけど・・・・・・」

 

「誰が、アルヘンティーナなんかとペアを組むかよ。ネーナの事は良く知らないけど、どうせアイツも同じだよ。美人だろうがアルヘンティーナに変わり無い! だからマリア。仲良くしような。マリア愛してるよ」

 

 この暑苦しい陽気の中、ファビアナは私をがっしりと抱きしめ強引にキスを。しかもねっとり濃厚に。離れしろに茶目っ気たっぷりにウインクするファビアナ。

 

「もう。からかわないで。もうファビアナったら・・・・・・」

 

この子はどうも本気なのか、そうじゃないのかが、分かりにくくて困ってしまう。

 

「同じチームでフットボールするんだからあの子達と仲良くしてよね。ひいては在校生とも。花菱さんとか匂坂さんとても良い人だったよね。話し戻すけど、ビアンカとはここに来る事が決まっての面接の時、膝詰めて話をしたけどいい子よ。ネーナとはまだそんなに話をしていないけど、悪い印象はないわ。ただあの子はどうにも無口というか・・・・・・」

 

「ネーナの事なんて気にするな。あんな根暗はどうせすぐに辞めちまうよ。国に帰ってタンゴでも踊ってれば良いんだ。それともマリアは私よりアイツが良いって言うの? 脚は私の方が長いし貧乳じゃんアイツ」

 

 

「全く、何拗ねてるのよ・・・・・・。聞き分けの無い子には今後一切スイーツを奢ってあげないわよ! 」

 

「許してマリア様! 」

 

「ファビアナったら・・・・・・」

 

 

 私はマリア=加藤=マーチ。ここ聖アングレカム学院に転入してきた四人のうちの一人。四人は運動能力を特に買われて特待生待遇で誘われた。作りかけのサッカー部の補強というか、単純に補てんの意味合いなのかもしれないが、とにかく部活を優先させる事それが私達に求められた。だから転入の試験も無いし、過去の成績も素行も問われ無かった。ただ部活の結果を出しなさいという事と、理事長、特に理事補佐の白木葉子の指示には従う事。遵守すべきはそれと早急な日本語の習得だけ。だから授業は出ても出なくてもいいし、赤点も落第も全く関係ない。事故と怪我についてもある程度は見てくれる書面を交わした。

 

不満な点は外出等あまり自由が無いここだけど、私達には割と居心地がいい。此処に居ればお金の心配はないし、治安も良いし。何しろ食事が最高に美味しい。

 

 ちなみにサッカーでのポジションはディフェンダー。何処でも守れる。聖アングレカム学院のサーカーチームFLOWERSには監督もコーチも居ない。それを一人で担ってきた10番の選手は今年一年間の海外留学だという。代わりに私がその任につく事を指示された。ただ、その経験は無い・・・・・・。

 

 

 ファビアナはラテン系のとても明るい子。自由奔放過ぎる面も。ただ、出自の詳しい事は語りたがらないのでその話題はタブー。脚が私達の中で一番長い。そのわりに足技は巧みでインサイドでもインステップでもアウトサイドでも、右足でも左足でも何処からでも打てる。キック力も強力でそのシュート能力は図抜けている。私達の中で日本語が一番達者。次が私でビアンカ、ネーナの順で下手になる。

 

 

 ネーナはドイツ系のアルゼンチン人。日本に来たばかりで誰も知り合いが居ない状態。理事長の仕事の繋がりで来たらしい。彼女もまた言葉の事を別にしてもあまり自分の事を語らない。無口でスリムで長身のスタイルが良い美人。脚も細く下世話な表現だとわかめ酒は出来ない。小顔で八・五頭身のシックスフッター。モデルの経験も有るらしい。身体能力は高く全身が筋肉質。高飛びの選手の様だ。因みに体脂肪が少なすぎて水に浮かないとは本人談。

 

 ビデオで見ての判断だけどフォワードとしてのポジショニングに優れ、空中戦が得意なファビアナとは違うタイプの点取り屋。日本語は私達の中で一番下手。でもスペイン語、ドイツ語、それに片言ながらに近いけど英語も話せる。本人は公言しないが持ち物から判断するに日本文化には一番興味を持っていると思う。

 

 

 ビアンカは英国系のポーランド人。四人の中では一番グラマラス。と言うかアマゾネス体格と言った方が正確か。だけど顔の線は細く顔だけ見てると妖精の様に見える。背もネーナを少しだけ上回り一番高い。格闘技系の体格をいかしてキーパーをする事になっている。見た目の割りには瞬発力、ジャンプ力が有り最高到達点は3mにも達する。もともとはウエイトリフティングをしていたという。故にサーカー歴は短い。

 

両親は新体操選手だったブルガリアのビアンカ・パノバの演技にいたく感動してビアンカの名をつけたとの事。お互い顔は東欧の美人顔ではあるが・・・・・・。体格は超スレンダーのパノバさんとは・・・・・・。これを言うとビアンカはすぐに拗ねてしまう。性格は優しく、涙もろい。イギリスでの生活が長く英語が完璧に通じるので私的にはありがたい。

 

 

 それにしても、だ。私達ですらうまく行かないのに・・・・・・。ネーナ達は途方に暮れてると心配になって、支給されたハンディタイプの無線機で連絡をしてみると、案の定だった。ネーナ達は二人の意志統一が全く出来ていなかった。片言でのコミニュケーションに言葉に加え、指示書や資料を埋めつくす暗号の様な漢字では当然の帰結。今のまま指示通りのチーム分けではうまく行かないのは確実だ。そこでここからは自分達で判断して進める事にした。

 

 

「ファビアナ。ネーナ達と合流して一緒に廻るわよ。ネーナ達は今こっちに向かってる。それにしても、何処を捜していいのか皆目検討がつかないわね。まともな地図はともかくとしてもポンチ絵すら貰えないなんて・・・・・・。話を聞こうにも向こうに居る建設作業員とは接触厳禁だし。それにしても暑いわね。クーリッシュは全部食べちゃったし・・・・・・。毎年の事だけど日本の夏は湿度が高くてベタついて本当に嫌」

 

 

 ファビアナに愚痴ると彼女もまた苛ついた顔でシャツの左右の裾を結んで留めていた。

 

「小奇麗な制服じゃなくて、この軍服みたいなカーキ色の作業着とブーツ。汚れて来いって事かなぁ。それにしてもサイズが小さいよねこれ。典型的日本人仕様だよ。胸のボタンは一つも止まらないし、裏地に乳首はすれるし、短いから臍は出るし。私でこれなんだから、ビアンカなんて超人ハルクみたいにビリビリに破けてるんじゃないの? 」

 

「そうね。あの子だと・・・・・・あり得るかも。でも此処には誰も居ないもの。男だけじゃなく女も。藪こぎしないなら服装に少々の難が有っても問題無いでしょ? それよりファビアナ、ノーブラは止めなさいよ」

 

「だってさ苦しいんだよ。向こうじゃ着けた事無かったし。周りの子も殆どノーブラだったよ? マリアだって結構大きいじゃないさ。苦しいだろう? 」

 

「苦しいのは合わないからよ。今度良いお店に連れて行って上げるから、これからは着ける様になさい。今は良いけど早く垂れるわよ。ああ、それにしても何処に居るのかしら、ターゲットは! どんどん時間が・・・・・・」

 

 

 私が再び苛つくと、ファビアナが私の頭を軽く叩き、姿勢を低くする様に促した。

 

 

「あれがそうなら良いんだけどなー。 向こうに人間かエイリアンか判らないけど直立して動く何かが居る・・・・・・」

 

「どこよ? あの茂み? 」

 

違うとばかりに目標に向かって指を差すファビアナ。でも私には見えない。ファビアナは目標にオンサイトしているらしく動きの詳細を私に伝える。

 

「もう、一体何処よ。担いでない? あそこの茂みの所? 何も見えないわよ? 」

 

 

「その向こうの向こうに川が有るだろう。そのまた向こうの森の入り口の所さ」

 

「嘘、遠すぎ。あんた視力幾つよ? まさか5.0とか言わないで・・・・・・」

 

「少なくとも2.0以上は有るよ。学院の機械ではそれ以上測れないから・・・・・・。それはともかく、何かが居たのは確実だ。向こうはこっちに気がついたみたいに急に隠れたんだから。行こう! 痕跡が残ってるうちに」

 

「待って。まだ二人が・・・・・・」

 

「待ってたら間に合わないよ。チャンスを逃したくない、私一人で行く」

 

「ちょっと、待ちなさいよ。何か有ったらどうするの? 」

 

「平気平気。相手が人間なら絶対に負けないから。今は習っていないけど、子供の頃は空手の強化選手だったんだよ」

 

 

 ファビアナはそう言って、私に向かってパンチとハイキックを繰り出す。速い! 私は全く反応出来なかった。スピードに気押され、ただ尻餅をつくだけ。当てる気が無いのは判っているけれどそれでもビビッた。倒れた私を余所にシャドーのコンビネーションの一連を繰り出してウインクし、倒れた私の腕を取って起こすファビアナ。あれだけの技を見せたのに息一つ乱していない。これならフラットウッズモンスターにだって負けないだろう。任せても平気かな・・・・・・。

 

「ヤバくなったらだけど、今太陽が出ているから時計の裏蓋の鏡面を使ってシグナルを送るよ、良く見ていてくれ。SOS位は判るだろう? トントントンツーツーツートントントンだよ」

 

そこまで考えているとは。この子小さいころ一体何を? でもまあなんとかなりそうかな。

 

 

「でもどうやって行くの? 途中の川に橋なんて無いじゃない」

 

「ん? 浅ければ歩いて渡るし、足がつかなければ普通に泳いで渡るよ? だって飛び越えるには幅が有りすぎるしさ。マリア達も安全が確認できたら 合図するから渡ってきて」

 

 

 「あのね今ここで少しアレなんだけど・・・・・・・・・・・・・。私、泳げないの・・・・・・小さい頃にね、沼で溺れた経験があってねそれからどうも」

 

 恥ずかしさで顔が真っ赤になる。子供の頃のトラウマで水が怖い。何度か脱カナヅチを図ったのだけど・・・・・・。

 

「マジかよ。深そうだったなら迂回して来るといい。上流なら川幅も狭いだろうし、水の中に渡れる様な石が置いてあったりや川の曲がっている所に紐付きのボートが有るかもしれない」

 

 ファビアナは意外な事に私が泳げない事をからかわなかった。その優しさが嬉しかった。

 

 

「危ないと思ったら立ち向かわなくても良いから逃げなさいよ。私達も必ず行くから」

 

「オブリガード、マリア」

 

 そう言ってサムアップ。一瞬空を仰ぎファビアナは上半身を前後左右に倒し、交互に左右のアキレス腱を伸ばしたと思ったら、奇声を上げ猛烈なダッシュで私の前から小さくなる。速い! GIブーツみたいのを履いているのに・・・・・・。

 イノシシの様に草原の中を一直線に走っていく。途中転んだらしく、一瞬見えなくなったけど、すぐに立ち上がり走り出した。姿がかなり小さくなった時また姿が消え、今度は視界の左にケシ粒の様な姿が。

 

「川に流されながらもちゃんと渡ったのね。凄いなぁ。ここの川の水、湧き水で冷たい筈なのに。頑張って、でも無理はしないで・・・・・・」

 

 私は手にロザリオを握りしめファビアナの無事を神に祈った。

 

 

 

「ハーイ。マリア、あれ一人? ファビアナは? 」

 

 ビアンカが私の帽子を叩いて声をかけてきた。ネーナは無言で手を上げただけ。二人に指で件の現場を差すと、口笛をヒューと鳴らすビアンカ。ネーナは無言で現場の方を見てからヤレヤレと首を振りしゃがみ込む。やおらペットボトルに詰めてきた湧き水を飲み干す。今は真夏、水は欠かせない。私達も自分の水をぐいぐい飲み気合を入れ直す。

 

 

「二人ともお疲れの所悪いけど、ファビアナがあそこに何か見つけたみたいなの。さあ一緒に行きましょう。課題をクリアできるかもよ? 」

 

「オーケー、マリア。ネーナ、カモン! 」

 

 ビアンカがネーナの袖を引っ張って立たせた。だるそうな表情ネーナ。対照的にビアンカは元気溌剌と行った感じだ。私の後を続きファビアナの歩いた後を進む。此処には道は無い。ファビアナの歩いた跡だけが道になる。転んだ場所にはドリーネが穴をあけている。覗くととても深かった。ファビアナが下まで落ちなかった事を神に感謝した。

 

川岸まで来ると乱雑に脱いだファビアナの作業着とブーツが。水辺まで降りてはみたものの想像していたよりも流れは遥かに速く石に白波が立ち、夏なのに水は肌が切れそうな冷たさだった。

 

 

「マリア。服もブーツも此処に有るって事はファビアナはランジェリーに靴下で向こうに泳いで渡ったんだ? 」

 

 問うて来たビアンカにそうよと頷くとフーンとビアンカは手を川の流れに入れた。

 

「冷た! なにこれ。氷河の溶けた水? 良くこんな所を泳いで渡る気になるね・・・・・・。野人ファビアナらしいわ。つーか、この流れ早すぎるよ。私には無理」

 

 私達は川岸に佇み、暫しの間無言で向こう岸を見続けた。

 

 

「この流れだとあさ塗った虫よけ、殆ど流されちゃってるだろ。ファビアナは今頃、モスキートでヤバいんじゃない? ブラジル人は平気か? アイツ頭大きいし」

 

「何よそれ。不謹慎よ、ネーナ! 」

 

 突然口の重いネーナが放った軽口。私はすぐに言わんとした事に気づいた。一方ビアンカは暫しぽかーんと。でも私が叱責した事で気がついた様で、ニヤニヤしながらネーナとハイタッチを。やれやれだ。こんなんでチームがまとまるのか不安になった。

 

 

「とりあえず、上流から渡れそうなところを探しましょう。ネーナはここで待っていて。無線機を置いていくから」

 

「オーケー、リーダー。音楽でも聞いて待ってる」

 

 

 そう言ってビアンカと一言二言言葉を交わす。終わると木陰に移動して脱ぎ散らかしたファビアナの服を敷物にし、さっとポケットからDOPを取り出して河原で横になった。

 

「じゃあね、ネーナ」

 

 もう聞こえないのか返事は無かった。

 

 

 

 「確かこっちなんだけどなあ。にしても蚊がウゼー」

 

振り返ってマリアのいる位置との関係性を見ようとしたけど、どうも良く分からない。周りを見回して枝が下まである登り易そうな木を見つけた。登って位置関係を確認しようとした時、森には不似合いの臭いに気づく。裏に廻ると木の幹から下に垂れる溜まる黄色の深い水たまりが目に入る。そこから臭気のある湯気が。

 

「これは、オシッコの跡・・・・・・。これほどの量は一人じゃないな。否、人間とは限らないぞ、冷静に状況を判断しろ、するんだ私。じゃこれは犬? いやここに野犬は居ないって聞いてるし、そもそも量が多すぎる。巨大な動物? グリズリーは日本には居ないはず。足跡は・・・・・・。有る・・・・・・だけどこれは・・・・・・。ブーツを履いた人間の足跡だ! でもこっちのは、四つ足、おそらくは人間の・・・・・・。まさかそんな? 」

 

足跡を追い少し移動すると漂ってきたのは糞の臭気。臭いの元は真新しく掘り返し埋め直した所。

 

「臭いな・・・・・・。今度は糞かよ。ため糞か? 違うな・・・・・・糞の殆どは土の下か。わざわざ掘って埋め戻してあるって事はタヌキとかじゃない・・・・・・。覚悟を決めて追う必要がありそうだ」

 

 

 河原に戻り石を手に持ち武器代わりにして、私に不快な糞尿の臭いに辟易しなから足跡を辿り森の奥に進むと、段々地面が湿気てくる。足跡から滲み出す水がびちゃびちゃからぐちょぐちょに変わってくると、植生も代わりシダやこけが増えて不快感が増す。都度都度靴下を脱ぎ水を絞る。植生が変わって程なくすると少しばかり開けた場所に出た。

 

開けたと言っても所詮森の中。上空には木が被さり空は少ししか見えない。水が染みだしていて湿度が高い影響かこの場所だけが不思議と靄っている。そしてカビ臭い独特の臭いが先程の糞尿の臭いの代わりに纏わり付く。

 

霞んだ空気に日の光が天使のはしごを何本もかけている。その光の照らすそこにはテーブル状の岩と古い西洋の墓石が幾つか有った。日本なのに? 一瞬中世の墓地を思わせた。墓石には最近になって活けられたと思われる花が。足跡はそこで消えていた。

 

 

「こんな森の中に墓地かよ。私が見たのはゾンビだって言うのか? こんな日中に? まあそれはおいおいとして・・・・・・。これ何の花だろうこれ? 見た事無いな。綺麗な花だけど・・・・・・。ちょっと失敬するか」

 

 抜き取って髪にその花を挿した。冷えた身体を温めようと墓地の端に有る平らで大きな一枚岩の上に仰向けに横になった。

 

 腕時計、濡れた靴下とショーツを乱暴に脱ぎ捨てて全裸になる。生れたままの姿。いや手足に着けているミサンガが有るから厳密にはそうではないか。手足を目一杯伸ばし深呼吸。石は適温に温まっていて心地良い。潰れない様にと髪に挿した花を弄ると、甘い匂いが急に強くなり,なんともいえないいい気持ちに。

 

「あー、気持ちいい。空気は湿気は有るけどこの石の上は乾いていて快適ー。向こうと違ってここは何故か虫が居ないのがいい。なんだ? あれ? 眠い・・・・・・」

 

 花の香りを更に強く感じた時、あっと言う間に意識が飛んだ。

 

 

「うーん。寝ちまったのか? って、おい。身体が・・・・・・なんだこりゃ? 」

 

 どれ位寝ていたんだろう。場所は同じ石の上だ。しかし起きようと思ったら身体が動かない、いや動かせない。大の字に固定されている。手首足首が何者かの手で握られて居る感じで力自慢の私が全く動かす事が出来ない。その手の様な物はとても冷たくまるで氷の様だ。

 

 もっと異常なのは目を開けているのに、霧の中の様に何も見えない事だ。何処を見ても真っ白。寝る前の霞なんてレベルじゃない。明るさは有るものの日の光は感じられない。昔本で読んで戦慄したバミューダトライアングルに迷いこんだのかと思うほど。目が開いていようが閉じていようが関係ない。寝ているからまだ良いけどこれではとても立っては居られない。理由は不明だけど私は全く視覚を喪失してしまった。

 

 

「誰だ? 私にこんな事をしたのは? 答えろ? ネーナか? それともゾンビか? 返事をしろ! 」

 

 

 返事は無い。でも気配は有る。おそらく複数の人と何かの気配。獣か家畜かそれとも・・・・・・。口笛の音が聞こえ、気配がこっちに近付く。足音じゃない。何かをずるずると引きずる音だ。ヤバいヤバすぎる。怖がりではないがこれはあまりにも怖すぎた。

 

 

「来るな! 来るな! 」

 

 有らん限りの大声を出した。出したはずだけど、渇きから喉が痛み嗄れた声に。出し続けた声をものともせず、ゆっくりとだけど確実に近付いてくる。気配は石の上に乗ってきた。ガシャガシャと重い鎖と思われる金属の音とゴツン、ズシーンと石と石の当たる音がする。

 

 

「エストウ コン メード・・・・・・」 

 

 冷たい水での冷えも有ったせいか、私は恐怖で失禁した。気配は石に滴る私の尿を啜っている。ピチャピチャする音と時折ズズッーと啜る音が聞こえるからだ。そして低いが軽い男ではない、だからといって女でも無い様な変な声が耳に入ってきた。

 

 

「お前は何故此処にいる。ここは神聖な場所だ。お前の様な者が入って良い場所では無い。何処から何をしにきた? 」

 

「川を泳いできた。理由? 人を捜しにきた。それだけだ、離せ! 自由にしろ! 」

 

「人? 」

 

「そうだ。金髪の学院の先輩だ。名前は忘れた」

 

「そうか。その言葉、嘘かどうか身体に聞いてみる」

 

 

「ピシッ」

 

 これは、鞭の音? 鳴った後、啜る音は消えた。すると何か粉の様な物が身体に撒かれ、瞬時に身体が火照って痒くなる。気が狂いそうな程に。今唯一自由になるになる頭を左右に降り必死に耐える。

 刹那私の身体を這い回る無数の人と思われる舌を感じた。身体の傍に何かが存在しているのに何故か何も見えない。ただ気配だけが有るのは恐怖以外の何者でも無い。

 

「やめろ、気色悪い。私から離れろ。離れろ糞ったれ。私としたいならささっとすりゃいいだろう。小さい頃から身体を売って金稼いでいたんだ。セックスぐらいどうって事無い! 」

 

「愚かな・・・・・・女だな。強がったところで結果は変わらん」

 

 誰が呑まれるか! 強がる心とは裏腹に状況は変化をし始めた。舌で舐められた場所は徐々に痒みが消え、身体が火照りを通り越して熱くなってくる。全身から吹き出す汗。夏だから暑いのは当たり前だけど、これは違う。皮膚直下から身体の中、芯から燃える様に・・・・・・。舌は手の端から胴に進み、行き着く先は左右のオッパイ、乳首を。足から進むは勿論付け根の性器だ。そこに達する頃には性器から出た愛液が失禁した様に濡らしていた。

 

「やめろ。やめてくれ。頼むから。あー、あー。いい、気持ちいい。でも止めて、お願いだから。パーラ・・・・・・」

 

 

「心にもない事を。本当に止めていいのか? お前」

 

「お前? 誰だか知らないが失礼だな。私には母が付けてくれたファビアナって言う名前が有るんだ! あ、あ、気持ちいい、気持ちいい! 」

 

 

「お前、ファビアナという名なのか・・・・・・。こいつは驚いた。噂は耳にしていたが。そうかお前が五十四号の・・・・・・。なら先の問いは新たな意味を・・・・・・」

 

「五十四号? なんだそれは? 貴様その声、そのアクセント、日本人では無いな? 」

 

「お前に質問なぞ許していない。聞いているのだ。続けていいか止めていいかを問うているのだよ、ファビアナ。頭で考えるな、子宮で考え答えろ」

 

 「・・・・・・・・・・・・・」

 

 答えをしないでいると、不意を突き今度は熱蝋の様な物を身体に垂らされた。お腹、子宮の上辺りにポタポタじゃなく、どばっと大量に。そして性器にも。熱いけどとても甘美な刺激。今度はさっきと違う別の何かが身体に撒かれた。それはおそらく、蟻。うごめく虫に全身を犯され、一部は体内に侵入した。膣、尿道に蠢くその感覚に私は墜ちた。

 

 

「もう一度聞く。止めるか? それとも? 」

 

「続けてください。お願いします! い、逝かせて」

 

「そんなに懇願されたら仕方ないな。ただ蟻はもう仕舞だ。アレを摂取してないお前の尿はこいつらと相性が悪い。希少な種がどんどん死んでいく。今度はまたDNNがお前の相手だ」

 

 

 DNN? 何だか判らないけどそんなのどうでもいい。もっと気持ち良くなりたい、して欲しい。快楽の海に溺れてみたい。再び鞭の音が石を叩く。

 

「そこ。そこよ。舐めて、お願い! 」

 

「お願いしますだろう? ファビアナ」

 

「ペソ・ミウ・デスクウパス・・・・・・」

 

「いいだろう。ほれ逝け」

 

 再び鞭の音。今度は石じゃなく気配を叩く音がした。それを合図に乳首もクリトリスもラビアもアナルも舌で執拗に舐め回された。

 

 

「嘘、さっきの舌と今回の舌は全然違う・・・・・・。全然イイー」

 

舌は人間のそれではなく猫の舌みたいなザラザラなものや爬虫類のチョロチョロした物も・・・・・・。その刺激は人間の舌では味わえない様な快感を私に与えてくれた。特に尿道に侵入してきた舌は・・・・・・。

 

「ああ、身体に電気が走るみたい、とってもとっても気持ちいい。尿道もクリトリスもアヌスもがジンジンしてたまらないです・・・・・・。ぐはっ、くー。しっ、子宮がうずく、うずいて・・・・・・」

 

「うずいて? 」

 

「気が狂いそうです。気持ち良すぎるー。性器全部、下半身が痙攣して、して壊れる! あ、ああ。中に何かが入ってくる。ふ,太い、あ、熱いー壊れちゃう。このまま壊して! 」

 

 脳が快感ボケしてきた時、それはきた。作り物のディルドウをなんかじゃない、熱い血潮が通った様なとても太い肉棒。でも良くあるキノコの様な形では無く、決して人間の男の物じゃない。トウキビの所々を節くれ立たせた様な形。動物の? それも何か違う。不思議な物が私の中を押し広げて子宮を突き捲くる。圧倒的な圧力。私の中は限界まで拡張され肉棒の形に変形した。

 

「お腹が破けちゃいますから、そんなに激しくしないで・・・・・・。あん、そんなに弱くしちゃダメ・・・・・・。そう、それ位で突いて・・・・・・。いいわ、もっと突いて! 」

 

 お腹から突き破って出そうな、子宮が突き壊される様な、それでいてもっと欲しい気にさせる・・・・・・。なんなのこれは・・・・・・凶悪なのに何故か愛おしい。それが証拠に子宮が感極まって泣きまくってる。

 

 

「快感の地獄はどうだ? 自分でもどうなってるか判ってないだろうな。マンコから白濁した本気汁がダダ漏れだよ。淫乱女のファビアナ」

 

声の主がそれを指で掬い取り、私に舐めさせる。屈辱。でもそれすら快楽を増幅する。

 

「美味しい・・・・・・。あ、あ、あ、逝く逝く。逝かせて。このままじゃ・・・・・・本気で狂う前に、お願いします・・・・・・フィニッシュを下さい」

 

「今日は挨拶代わりだ、ここまでにしてやる。一応お前の中に快楽の種を創っておいてやるから。我慢できなくなったらまでそれを使え。じゃあな」

 

 それが聞こえたと同時にお腹の中で暴れていた凶悪なモノは消失した。代わりに何か道具が入れられグニョグニョと動き、子宮の所にチクッとした痛みと共に何かが行われた、私は再び失神した。目が覚めるまでの間に手足は自由を取戻し、ホワイトアウト状態の霧は薄くなっていった。

 

「雨? 」

 

 雨粒で目を覚ます。相変わらず空気は霞んではいるけれど、さっきよりは目が見える様になった。霞んでいる空気の向こうにターザンの様な布切れを纏った女の後ろ姿と、全裸に四つん這いのムカデの様に連結され一列縦隊の複数の牝奴隷。

 

 目を凝らすと牝奴隷の全員の首には首輪に手枷足枷。お尻と頭が密着する様に先頭の牝奴隷のマンコに刺さったディルドウを後ろの牝奴隷が口に銜えさせられる状況で連結させられている。最後尾の牝奴隷はタイヤの様に回転する重い石の固まりを引きずっていた。痕跡を消す道具と思われるがそれにはロッドが付いていて石が回転すると牝奴隷に挿入されているディルドウがピストン運動する仕組みに見えた。

 

 昔、曾祖母に聞かされた高慢な移住者による現地人の女の扱いの話、描写そのままだ。追いかけないと・・・・・・。今ならまだ追いつける。でも身体がとても重い。加速装置じゃなくて遅延装置のスイッチが入った様。自分だけ違い時間軸に居る様だ。あっと言う間に追うべき物は消えていく。雨は急に本降りになってきた。

 

 

「雨が強く・・・・・・ ま、まずい・・・・・・。あ、跡が消えてしまう」

 

 私達を見ていたかの様に突然降りだした雨。南の島のスコールの様に降り、地面はあっと言う間に水浸しになってしまった。真上の空は悪魔の様に真っ黒で雷の可能性も有る。ここに留まるのは非常に危険だ。早く安全な場所に行かないと・・・・・・。腕時計を嵌め、再びぐしょ濡れになってしまったショーツを手に取り絞って履こうとした時、身体の中に何かが入れられている感覚に気づく。

 

「アレがまだ入ってる? でも抜いて行ったはず・・・・・・。私の身体に何が・・・・・・」

 

 時計を見ると外した時に見てから二十分が経っていた。意識の上では二、三時間は経っていたのだけど・・・・・・。

 

 

 

「ファビアナー。何処に居るの? 返事をしてー。怪我をしてるの?、ファビアナ! 返事をして・・・・・・」

 

「ここだよ、マリア。ビアンカ」

 

 墓地を離れ、森の奥に見つけた物置小屋で雨宿りをしていたら、遥か上流を迂回してきたマリア達が迎えに来てくれた。私の勝手な行動に言いたい事は有るだろうけど取り敢えずは二人と抱き合って無事を共に悦ぶ。小屋に入ってから、今の今までしていた自慰の事は勿論マリア達には内緒。私の声は雨音が消し、湯気と共に漂う淫臭は小屋のカビ臭さが消してくれていた。

 

 

「良かった無事だったのね。怪我はしていないの? それにしても凄い雨ね。川も水量が凄いわ。上流に行ったら潜り橋が有ってね。そこで渡って川沿いをここまで歩いてきたの。でもこの雨で橋は水の下。もうあの場所から川を渡るのはもう無理なの」

 

 がっかりとした表情のマリア。よしよしと私はマリアの頭を撫でてあげる。その姿を見てビアンカは驚いた表情を見せた。マリアはそれに気がついていない。体格と違い初なビアンカを少しからかってやろうか。もっと密着させベタベタしながらマリアと話す。

 

 

「どうしようか? 私、別段怪我はしていないからさ。距離を歩くのは平気だけど? 」

 

「今対岸のネーナが帰るに最適なルートを聞き出してるところ。ここから学院に直接聞き出せないから。雨がやんだらその指示に従って帰れる筈。それにしてもどうだったの? 誰か居た? 何か有った? 」

 

「誰かが居た痕跡は有った。でもこの雨で全て消えてしまったよ。まあこんな事も有るさ。それより課題の方は? 」

 

「ネーナが言うには捜索対象者が自ら出頭してきたらしいの。こんなことなら食堂辺りでサボっていれば良かったわね。全く、とんでもない日だこと。ファビアナ? どうしたの腹立っていないの? 」

 

 

 腹が立つ? 今の今までそんな事は思わなかった。此処に来た事で日常ではあり得ないほどの性の快感を得た。男としたセックスなど全くお呼びでない。自慰をしても今迄の比ではない。しびれる様な快感。それが全てにすり変わってしまった。身体の中の違和感も相変わらずだが不思議と怒りが沸かない。

 

「うーん? なんだろう。良く判らない,判らないんだ。何だろう今までこんなことなかったのに・・・・・・。今自分の感情が良く判らない。とても奇妙な感覚だ・・・・・・」

 

「ファビアナ・・・・・・? 」

 

 

「身体が冷えたり、疲労で混乱してるんじゃない? 」

 

 ビアンカが話しかけてきて私をハグをしてきた。ぎこちなく純粋に心配からの行為だ。ビアンカの気持ちが心を浸食して私が泣くとビアンカも釣られて泣く。マリアも釣られて・・・・・・。その時無線の呼び出しが鳴った。マリアが無線を手に外に出て行く。小屋の中では感度が良くないのだろう。ビアンカは抱きしめる力を緩めないので少し息苦しい。

 

「ビアンカ、もう良いよ。ありがとう」

 

 名残惜しそうなビアンカと離れマリアを追い部屋の外に。軒下でをメモを取りながら弱い通信を懸命に聞き取る姿にきゅんと来る。その姿を暫し見つめた。

 

 

 

 

「戻れる様に引き続き上とコンタクトを頼みます。ありがとうネーナ。体調? 私とビアンカは問題なし。ファビアナに若干の不安有り。先輩に報告の必要はないけど一応知っていて頂戴、ネーナ。じゃまたね」

 

 途中から私を見つめるファビアナの視線には気がついていた。友人以上恋人未満といった感じのクールで有りながらもホットな視線・・・・・・。

 

「ファビアナ。何時から居たの? ネーナが学院に戻って帰り道の情報を入手してるの。学院からだと電波が弱くて・・・・・・。ここが何処だか判って無いみたいでもう少し時間が掛かりそう。ちょっとファビアナ、脚! なんだか足に変な痕がついているわよ。怪我したんじゃないの? 」

 

「痕? 」

 

「何よ。気がついてないの? 見た感じ内出血みたいだけど、なんともない? 痕から判断すると何だか手で強く掴まれたみたい。幽霊にでも会ったの・・・・・・なんて冗談よ。何よーそんなに驚いた顔をして。それにしてもこんな小屋が有って良かった。そこの花畑の管理に使っているのかしらね、何の」

 

「花畑? そんな物何処に有った? 」

 

「何よ、しっかりして! 有ったじゃない。そこの先。少し開けた所に白い花が一面に咲ていて綺麗で・・・・・・もしかして目が変なの? 」

 

(あそこに? 花畑だって? マリアは墓地を見てないのか? どっちかが幻を見たというのか? )

 

「マリア、重ねて聞くけどフラットで大きな石のあった所だよな? 」

 

「ええ、そうよ。あそこの大きな石のある所よ。傍に有った小さいけど手入れのしてあるお花畑。あなたそこにいたんでしょ? 貴女の髪にそこに咲いていた花の花びらがついているし。それにあそこでこれを拾ったんだから。これって切れると願いがかなうんでしょう? ねえ何の願い? 」

 

 私はファビアナに拾った物を見せた。いつもファビアナがしているミサンガ。切れて泥にまみれて汚れているのを大きな石の横で拾ったのだ。

 

 

「マリア、手のも足のもミサンガは切れたりしてない。そいつは私のじゃない。でも気になる見せてくれ」

 

 鬼気せまる様な顔で私の手から拾った物を奪った。見るうちにどんどん顔色が険しくなっていく。

 

「これ、本当にそこで拾ったのか? 」

 

「そうよ。どうかしたの? 」

 

(これは、私の母の物に似ている。いやまず間違いなく母の物だ。ここに印が。なんであんな所に・・・・・・)

 

「ねえ本当にどうしたのよ? 返して。ファビアナのじゃないなら貴女が持っていたってしょうが無いでしょう? 私が拾得物として先輩に届けます」

 

 

 ファビアナが惚けている間に拾ったミサンガを奪い返す。

 

「何をするんだ、返せ」

 

「ふーん。心当たりが有ってぇ、大事な物なんだ? 事情を詳しく説明してくれれば返してあげても良いわよ。話しなさいな楽になるわよ」

 

「マリア・・・・・・。それは・・・・・・」

 

 

 

 そこまで話した時、ネーナから待望の帰路の連絡。川の下流に水道の鉄管が川を横断しているところが有り、そこの管理用キャットウォークから渡れるとの事。但し、学院まではかなりの遠回りになる。

 

 それともう一つ、不確定ながらとの前置きで、天気が回復する状況が有り、もし晴れたら葉子先輩の父である理事長がここに自分の所有するヘリを出すという。無線機の電波の強さを測り植生の情報と見比べてでおおよその場所を把握したらしい。いい申し出なのにファビアナが猛反対した。いつもと違うドスの効いた声で。

 

 

「ここを離れて川沿いを歩いて帰るべきだ。理由? 言いたくない。ここにヘリはダメだ」

 

 

「何よそれ。ヘリに乗るべきよ。雨に濡れたの草原は滑るし濡れるし危なすぎます。まして此処にはドリーネが有るのよ? 貴女も嵌まってこけたでしょう? 私もビアンカもこれ以上道の無いところを歩くのは嫌よ」

 

「いいや。歩くべきだ。リーダーは君だけどこれだけは譲れない」

 

 重ねて説得をしても頑ななファビアナ。ビアンカには水の補給をという事で少しの間退室して貰い、サシでファビアナと話をする。

 

「ねえ。納得いく理由を聞かせて。なんなのよ依怙地になって。もしかしてヘリが怖いの? 」

 

 

「違う。そんな矮小な事ではない。此処には誰も近づけてはいけない。何人も此処に居てはいけない。ここの事を忘れろ。誰にも話してはいけない。話した者は地の果て迄追って処刑する。今すぐに立ち去るのだ。そうしないとお前たちには悲劇的な死がやってくる」

 

 

「ファビアナ? 何を言っているの? さっきから声が変よ。一体どうしたっていうの? 何よ死ぬって・・・・・・」

 

 ミサンガを取った時と全然違う全く精気の無い能面の様なファビアナ。まるで何かが憑ついたような抑揚の無い口調。そこまで話してファビアナは白目を剥いて床に倒れた。

 

「ファビアナ! しっかりして。どうしたの! 」

 

 頬を張り、脈を取り、瞳孔を確認する。程なく意識が戻ったファビアナ。

 

 

「あれ? 私どうしたんだ? マリア、何故泣いている? 」

 

「よかった、元に戻った」

 

 ファビアナを押し倒してキスを。何でなのかは判らないけど、小屋に居たファビアナを見た時に今まで持った事の無い劣情を感じていた。激しく舌を絡ませてもファビアナは拒まない。それどころか上気したファビアナは私を見透かしたかの様に私の手を掴みショーツの中に導く。グシャグシャの性器を弄せらせた。火傷しそうな位に熱い。指の動きに合わせてファビアナの息が荒くなる。もちろん私も・・・・・・。

 

「マリア、マリアはこんなはしたない女は嫌い? 」

 

「嫌いじゃないけど、もう少し慎みが欲しいわね。何時もこれじゃ毎日オムツが要るもの」

 

そう言ってのフレンチキス。ちょうど帰って来たビアンカが溶け合う私達を見てしまった。

 

 

「やっぱり、マリアとファビアナはそうだったんだー。ねえ、何時からなの? 何処まで? ヨーコには内緒にしてあげるから、帰ったらアイス奢って」

 

 

 アイスの約束をさせられ、照れ隠しに小屋を出てネーナに無線で連絡をすると、程なく天気が回復するからとの知らせ。私はファビアナの事を伏せつつ乗り込む場所を思案した。結果、ヒーローは一旦草原に降りて先にネーナを乗せ、その後ここから川岸まで移動した私達を、障害物の無い川の上で、ホバリングしたままピックアップし、ここから脱出する事に。

 

 ヘリは普段、街の病院に貸し出されている物だが、今日は朝から学院が使うのでこっちに回航されていた。午後からは病院にという事だったけれどその帰りの運行を前倒しをしてに運良く私達が使える事になったわけ。

 但し万事オーケーでなく、私達は学院じゃなく病院に連れて行かれてしまう事になってしまうのだけどね・・・・・・。

 

 

 

 

「蘇芳さん、いらっしゃい。これで後は千鳥ちゃんだけね」

 

 部屋に入って見回すとクラスの子が居た。それに見た事だけで挨拶すらした事のない上級生も。思わず固まる私。

 

「どうしたの? そんなにびっくりした顔をして」

 

「だって。今日のイベントは私達だけじゃ? え、えっ・・・・・・」

 

「私達だけじゃ手薄だから学院他からから呼ぶって言っていたでしょう? 非礼を謝りなさい」

 

「ごめんなさい。てっきり私達だけだと思ってましたんで・・・・・・」

 

 

「良いって事よ。白羽さん。そんな些細な事。私は貴女を存じてるけど、私の事は知らないだろうから改めて自己紹介を。三年の稲葉千尋。チェロ担当です、今日はよろしく」

 

「次は私で良い? 私は、二年の泉谷です。担当はマリンバです。楽器的にアレなんですけど、千葉さんに無理を言って参加を・・・・・・。皆さんのお邪魔にならない様に、サポートに専念します」

 

 まずは上級生が挨拶をしてきた。こちらこそと頭を下げた。次にクラスの子が・・・・・・

 

「西田です。ヴィオラ担当です。今日は白羽さんと一緒に出来るという事なので・・・・・・とても嬉しいです。何しろあの白羽さんと一緒になんて夢の様で・・・・・・。教室では私の様な存在は白羽さんに迂闊に話しかけられないので・・・・・・。ああ、手が震えちゃう」

 

「何それ。同じクラスなのに。白羽さん、貴女はクラスで何やってるの? 牢名主なの? いい機会だからハグしてあげて白羽さん。いいでしょう減るもんでも無いし。皆の為にも成るんだから! 」

 

 冷子さんが上から目線で私に要求する。どうもこの母に生き写しなこの人の言う事に強く出られない。縮こまる西田さんの所に進み、顎をクイッと上げグッと抱きしめる。驚く彼女を余所に抱き秘める手に力を入れ続けた。

 

「嬉しい。今迄生きてきて一番嬉しい。あの白羽さんが私をハグしてるなんて・・・・・・」

 

 

「それ位で良いんじゃない? 」

 

冷子さんの声に従ってハグを解いた。涙ぐみ倒れかかる彼女を、上級生がさっと抱き抱えた。さすがというか手慣れているというか。どうも昨日今日の知り合いではない様だ。

 それを確信したのは、西田さんを抱き抱えた稲葉さんの挑戦的な目。明らかに私を恋の邪魔者として見ている。やれやれだ。私のイメージって恋の略奪者のイメージなんだろうか? 泉谷さん視線を意識的に避けている気がする。

 

「西田さん、大丈夫? 今日はよろしくね。稲葉先輩も泉谷先輩も、私が足を引っ張らない様に頑張ります」

 

「白羽はその足で良く言うよ。無理して歩いてる様だが、治ってないんだろう? 」

 

 緑さんが満を持して? 茶々を入れてきた。そう緑さんと冷子さんにはこの足の怪我でかなりの迷惑をかけてきたので、ここは大人しく・・・・・・。

 

「この怪我で皆さんには多大なご迷惑をおかけしました。今後この様な事が無い様に心を律して生きていきます」

 

 

「大仰だな。この間のアレが相当堪えたのか? 」

 

「いえ。決してそんな・・・・・・。あれくらいなら別に。機会があればまた・・・・・・しますか? 」

 

 茶化した本人が赤くなってるじゃない。またラブホと同じ事しちゃおうかしらね、緑せ・ん・ぱ・い。

 

 

「千葉さん、何か有ったの? 白羽さんも悩み事なら話して。これでもカウンセラー志望なの。色々相談に乗ってた榊ちゃんが急に居なくなって淋しい」

 

「稲葉先輩、今はまだ平気です。でも行き詰まったら・・・・・・」

 

 

 冷子さんが手をパンパンして場を戻す。

 

「はいはい。無駄話は終わりにして。その構成の資料に目を通して頂戴。私は千鳥ちゃんを捜して連れてくるから。緑、貴女がリーダー役を引き継いで子細の説明を」

 

 出て行った冷子さんを一同見送り、ミーティングは続けられた。緑さんの不満げな顔を余所に。

 

「ったく。孝崎には甘いんだよな。お姉は。構成の変更のことだって・・・・・・。いくら今日ここにアイツの父親が来るからって・・・・・・ふー。それではミーティングを始めます。演奏部としては召天記念日のプレイベントに成りますが、今後の活動資金的にも重要な意味を持っていますので、ミス無く成功させましょう。それでは病院の方からご説明を」

 

 

「ご紹介賜りました事務局の尾崎です。本日は私どもの病院で、この様なイベントを開催の運びとなり・・・・・・」

 

 

 事務局の人の話をメモしながら、頭の中は別の事を考えている。 裏が有るの? 何? 孝崎さんの父親が? そういえば芸能界のかなりの実力者だって聞いた事が有るわね。それにしてもこれって・・・・・・。

 

 ミーティングは私達学生と病院の事務方の担当者一名で始まった。まずは何故ここでこういうイベントをするように成ったかの説明が病院の人から有り、そのあとを演奏部部長の緑さんが引き継ぎ、演目の説明を・・・・・・。

 

「ではここまでで質問ある人は挙手を」

 

「緑さん! 」

 

「部長だ、白羽! それに挙手をするように言ったろうに」

 

「はーい。ふー。部長。これってなんなんですか? サプライズイベントって」

 

「白羽は、順繰りとか意識しろよ。空気の読めない奴だって言われるだろ、し・ら・は・ね。追って説明するから待っていろ。稲葉先輩と泉谷、それに西田さんもこれに関して何も聞いて無いですよね? 」

 

「ええ詳しくは。私達はここに来る途中にヘリの中で簡単な説明を受けただけですから」

 

 

「正直に言うと私も良く知らない。ここの部分は孝崎父の会社と病院側の事務方じゃなく看護師側の企画なんで詳細は不明。尾崎さんも知らない、正にサプライズなんだ。但しその時間には道具の搬出も始まっているので、私達は手持ちの楽器で多少音響のお手伝いをするだけだと思う」

 

 

 会話の流れが切れた瞬間、見計らった様にロビー側の扉が開いて、テーラードスーツに身を包んだ妙齢の女史が資料手に私達の部屋に。事務の人と名刺交換をしてから場を仕切った。

 

「それは私の方からご説明します。私は孝崎企画の渉外担当、孝崎千草です。ご説明に伺うのが遅くなりまして申し訳ありません」

 

 似てる! この人は孝崎さんのお母さんだと瞬時に理解した。髪質も輪郭も目もそっくり。それに声。とても綺麗な声。私にもこんな声が出せたなら・・・・・・と。

 突然ドアがノックされて冷子さんと孝崎さんが戻って来た。私を見て孝崎さんが遅くなってごめんねと手で謝る素振りを。私も軽く手を動かして応える。

 

 

「千鳥ちゃん連れてきたわよ。緑、どこ迄話を進めたの? あのー、失礼ですがどちら様でしょうか? 」

 

私を見て笑顔で手を振る孝崎さん、冷子さんの様子に何かを感じ取った様だ。訪ねた先に顔を向ける孝崎さん。

 

「お母さん! ど、ど、どうして此処に? 」

 

「久しぶりね。千鳥さん。今日の結果次第で貴女の去就が決まるの。死ぬ気で頑張りなさい」

 

 

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