「白羽です。先生いらっしゃいますか? 夜分遅くに失礼します。先生?、槙先生? 白羽です・・・・・・」
コンコン、コンコンとドアをノックする。ここは学園側の保健室。普段ならとっくに電気が消えているのに、今日は何故か煌々と電気が点いている。
「・・・・・・・・・・・・」
あれ? 返事が無いって居ないのかな? 出在の表示札は表を向き、此処に居る事に成ってるんだけど・・・・・・。大した用事じゃないし、出直そうかしら・・・・・・。そう考えて立ち去ろうとした時、中から物音が。誰か居る!?
「先生、居るんですか? 居るんですね! 大丈夫ですか? もしかしてお怪我を? 先生、戸を、鍵を開けて下さい 」
「貴女、白羽さんなの? 私、榊よ。ここに軟禁、ううん監禁されているの。出ようにも外から鍵をかけられていて出られないのよ。多分この鍵は先生が勝手に付けた鍵だから・・・・・・多分スペアは何処にも無いわ。壊すかピッキングしないと開かないと思う」
「それに私達、相互に拘束されていてベッドから動けないの・・・・・・。それでなんだけどね・・・・・・この事は少し訳ありでおおっぴらに出来ないの・・・・・・。勝手なお願いだけど察して下さらないかしら? 秘密にして、白羽さん・・・・・・」
苦しそうで消え入りそうな声で話す先輩。外から鍵をかけられていて出られないってどういう事? しかも拘束されているって。それに大事に出来ない理由って・・・・・・一体ここで何が? 今、私達って言ったけど、他にも誰か居るのかしら・・・・・・。
「先輩、私のお友達に鍵にとても明るい子が居ますから、その子を急いで連れてきますから・・・・・・。だからもうちょっと待ってて下さい」
「しっ、白羽さん? 話聞いてた? 」
急いでその場を離れ、寮の八重垣さんの部屋に向かった。彼女は公言はしていないけど鍵開けが得意なのだ。寮の部屋の鍵などものの三分も掛からないで開錠してしまう。
しかし・・・・・・。彼女は寮の自室に居なかった。それに同室のアミティエの孝崎さんも居なかった。妙に散らかった部屋が不自然さを表している。二人で出掛けるのは介助の関係で当たり前としても、こんな夜中に居ないなんて事は今まで無かったのに・・・・・・。いつもの場所に鍵開けの道具だけは見つかったけど、私には使い方が良く判らない。
「なんで二人はここに居ないの? この部屋で何か有ったの? 」
保健室で思った事と同じ様な事を呟いた。推理は得意な方だけどまだ全く考えがまとまらない。取り敢えず状況をメモして部屋を後にした。再び保健室に戻る途中、ふと思い立ち外に出た。学院の改修工事にに来ている業者の工具箱から使えそうな道具を盗み出す。まるで宝の山に思えた。この女性専用の部外者は立ち入り禁止の刑務所みたいな学院で、工具を盗られる事なんて想定していないのだろう。工具箱の大半に鍵はかかっていなかったのが私には幸いした。
「白羽です。すみません。鍵開けの上手な友達が何故か居ないんです。だから私がドアを壊します。もし側に居たら破片が飛び散るかもしれませんのでドアから離れて下さい」
「・・・・・・・・・・・・」
返事は無かった。それほどまで事態が切迫している? 引き戸の隙間に大きめのバールを差し込み力任せにコジる。大柄な体格故、力には自信がある。何度か繰り返すとボコッと大きな音がして鍵が外れた。それを三カ所で計九回繰り返し、全ての鍵を破壊した。途中、アクシデントが有り時間が掛かってしまったけど。そして戸車の所に特大の鉄道バールを入れて持ち上げ戸車を変形させ無理やり脱線させて戸を外した。
「大丈夫ですか! 」
呼びかけながら、部屋に入るとそこには・・・・・・。虚ろな表情のままベッドで半身を起こしている孝崎さん。木で造った年代物の足枷を嵌められ枷同士を鎖で繋がれて動けない様に拘束された、榊先輩、沙沙貴苺さん、沙沙貴林檎さんがそこにうずくまって居た。
「白羽さん、助けに来てくれて本当にありがとう。詳しい事は後で話すから、一刻も早くここから逃げたいの。これを外して・・・・・・」
「なんでこんな物が・・・・・・子供しか居ない様な学院の保健室に有るのよ・・・・・・」
本では見たことのある足枷。体液が滲みこんだ様な木の質感。一体何人の人に使われてきたのだろうか。そしてその人達はどうなったのか・・・・・・。
「私のも外してよ、蘇芳ちゃん。養護の先生が鬼の表情でさ、こんな奴隷に使う様なものを使うんだよ・・・・・・本当に怖かった。逃げようにも身体が恐怖で動かなかった・・・・・・ほらここ見て、枷が擦れて血が・・・・・・」
「苺姉はビビッて暴れたからだよ。私は大人しくしてたから・・・・・・」
「林檎、こんな時におしとやかアピールは入らないよ。うざいよ。媚び売って。それよりも外せる? 壊すしかない? 早く歩ける様にして・・・・・・お願いだから。トイレに行きたいんだよ・・・・・・」
「判ったわ、やってみる。でも、金具が弾みで飛んで行ったりしたら怪我をしちゃうから、お布団を顔と身体に巻いてね。こんなになったら拙いもの。私の顎を見て・・・・・・」
「白羽さん、何か当たったのね、かなり痣になってるわ」
「蘇芳ちゃん、それ早く冷やした方が良いよ。保冷剤はそこの冷蔵庫に有るから」
「蘇芳ちゃん、そんな顔にしちゃってゴメン。痕が残ったりしたら、どう責任を・・・・・・」
苺さんに、うざい言われてショックを受けた感の有る林檎さん。その林檎さんが、私の顔を見て泣く。彼女の頭に手を当てて撫でて慰める。
「最後の鍵を壊した時、バールがずれて弾みでここに当たったの。顔めがけて飛んできたから・・・・・・瞬間死ぬかと思った。幸い尖ったところじゃなかったから良かったんだけど。正直焦ったわ。でも平気よ。治るから気にしないで」
「平気なの? ごめんね蘇芳さん。私達のためにそんなになってしまって・・・・・・。でもどうして私達がここに居るって判ったの? 」
「いえ、たまたま先生にアキラの事でお礼を言いにきたんです。そうしたらこんな事に出くわして・・・・・・」
「偶然なのね・・・・・・」
話をしながらとはいえ手は着々と仕事をこなしていく。今度はバールの扱いに幾らか慣れたので、ドジる事無く一つ一つ着実に金物を破壊していく。しかし数が多い。どうしても時間がかかる。全てを壊し枷を外し終えたのは突入から一時間を過ぎた頃だった。早くしないと最初の見回りが来てしまう。
外した戸をレールに無理やり押し込み、鍵の所には白いバンデージを貼り、ぱっと見バレない様にして立ち去る。途中バールをバレない様に元の所に返した。
意識の朦朧としてる孝崎さんは歩けないので一番力の有る私が背負う事になり、バールを沙沙貴さんと榊先輩に持って貰っていたのだけど、ずっと重い重いとこぼしていた。『私はゴリラじゃネーよ』そんな陰口もうっすらと聞こえる。鉄道バールは特に重く、沙沙貴さん達が二人でやっとな有り様では致し方ない。
孝崎さんをおんぶすると豊満な胸の膨らみが背中に当たる。平時なら意識するところだけど、今はそれどころでない。一刻も早く誰も来ない場所に行かないといけない。
「取り敢えず、ここに落ち着きましょう。ここには全てが置いてあるから。孝崎さんはここに寝かして。それが済んだらまず暗幕を引いて光が漏れない様に。次にお湯を沸かしてインスタントのラーメンでも食べましょう。ここ、この間新しくIH入れたの。火が出ないからバレにくいって意味でより安心よ」
幾つかの候補の中から選んだのは、天文部の部室。電気錠の暗証番号を知ってる榊先輩の手招きでこっそりと部活棟に侵入し、最上階の部室に隠れた。
先輩は手際よく暗幕を引き、目張りをする。そして小さな電池式のLEDランタンを灯した。沙沙貴さん達がお湯を沸かし、カップラーメンと焼きそばを人数分作る。その間私は孝崎さんを看病する。服を脱がせ、沸かしたお湯の残りを貰い身体を、顔を、丁寧に拭く。
そして白木先輩のネーム入りの秋から配布されるジャージの試作品がたまたま置いてあり、それに着替えさせた。私の腕の中で彼女はずっとうわ言を繰り返している。目には生気が無く、いつもの目力が全く無い。それどころか口も締まりがなく、幾ら拭っても涎が垂れてくる。脱がした服には赤ちゃんの服の様に涎の跡がべっとりと残っていた・・・・・・。
「先輩、沙沙貴さん、事の顛末を教えて下さい。一体何がどうしたのですか。あんな非道を先生が? 孝崎さんも・・・・・・何をされたの?・・・・・・」
「何から話から良いのかしら。そうね白羽さんは孝崎さんの部屋に行ったんでしょう? そこで何を見たの? 」
「何って・・・・・・。部屋はかなり荒れていました。整頓好きの孝崎さんの部屋とは思えないほどに。そして居ると思っていた二人が居なかった。孝崎さんは今ここに居るけど八重垣さんは今何処に? 」
「それが判らないんだよ、蘇芳ちゃん。今日お昼っからずっと捜してるんだけどね・・・・・・」」
「ずっと居ないの? だって八重垣さんは車椅子よ。自力で遠くになんて絶対に行けないわ・・・・・・」
「連れ出した人は判ってるんだ。で、その人も行方不明。その人絡みでちょっとした事故が起きて、千葉先輩が街の病院に今行ってる。冷子さんが怪我をしてしまったんだ。先生は今も学院の敷地の中でガッキーと連れ出した二人を捜してるんだと思う。誰にも知らせずに・・・・・・」
「その人って誰? 暈さないで。お願いだから全部話して」
「その前に、食事をさせてよ蘇芳ちゃん」
「苺姉、孝崎ちゃんにもOS1を飲ませないと・・・・・・」
林檎さんがそう言って、苺さんを一瞥する。そして備品のOS1を私に手渡した。孝崎さんを抱き抱え、少しづつOS1を飲ませていく。
「そんな事が? 槙先生がこんな事を? 嘘・・・・・・」
「信じられないのも判るけどね・・・・・・」
沙沙貴さん達、先輩と食事をしながら全ての経緯を聞いた。あの先生がバスキア教諭が企てた八重垣えりか誘拐の秘密を守るために、薬を使い孝崎さんを昏睡させ、沙沙貴さん達を監禁したというの?・・・・・・。今ここに到っても信じられない。
確かにバスキア教諭と養護の先生には深い関係が有りそうだった。退院した時に聞いたバスキア教諭の媚びる様な甘ったるい声はそれを感じさせたのも事実。だからって・・・・・・。警察に連絡をと思っても良い手が浮かばない。
「助けて林檎さん、・・・・・・八重ちゃんが、攫われたのよ。あんた何様よ八重ちゃんを返してよ。私の女なんだから返してよ、この泥棒猫、悪魔・・・・・・」
孝崎さんがうなされて、大きな声でうわ言を叫ぶ。私に抱かれているのに林檎さんと勘違いしているところから判断すると相当混濁している。先の話だと、実際の拉致現場は見ていないのだろうけれど、薬の副作用が幻覚を見させているのだろうか。不憫だ。思わずギュッと抱きしめた。
「先輩、孝崎さんはこのままで回復すると思いますか。無理なら早く病院に連れて行かないと・・・・・・」
「ここで寝ているよりは病院の方が良いのは間違いないでしょう。けどそれは難しいでしょうね。このまま普通に病院に行ったら、虐待発覚で即警察に通報されてしまうわよ。この状況では外には出せないと思うわ。学院的にね。私的にはこのまま良くなる事を期待するけど・・・・・・。そうね明日一日待ちましょう。それで改善しなかったら、私達で何とかしないとね。学院に助けを求めてもすべて無い事にされてお終い・・・・・・それは悪手だもの、今は自重して」
「・・・・・・・・・・・・」
なんだろう。何処か高見からの発言に聞こえる。治るから高を括っているのだろうか。何だか腹が立ってきた。私の手の中の孝崎さんを抱く手に力を込めた。私の元気を分けて上げたくて。
「ねえ、蘇芳ちゃんは、寮に一旦戻った方が良いよ。私達は先生に捕まった立場で言い逃れできないけど、蘇芳ちゃんは先生に会って無いんだから、今日の事は心に仕舞って隠匿して、何聞かれてもすっ惚けて普段通りにしてた方が良いって」
「そうね私もそう思う。私達はフックマンにでも助けられた事にしておくから。明日のお昼頃までにはここを出てニカイアの会と理事の代行に事情を話してみる。蘇芳さん、そこに黒い合羽があるからそれ着て行きなさい。顔にも墨を塗った方が良いわ。蘇芳さんは色白だから・・・・・・」
「でも・・・・・・」
先輩が自分の腕時計をコンコンと叩く。
「学院の警報システムが働くまで、後十分位よ。保健室の状況から作動するのは間違いないわ。そうすれば校舎全部にロックがかかるから簡単にここ部活棟を出られなくなるわ。早く行って」
速攻で着替える。制服を脱ぎ今ではレアな黒いごみ袋に入れる。合羽を着るも素肌に裏地の無い合羽どうにも不快だけど仕方がない。靴を履かずに厚手の靴下を重ねて履いて足音を消すようにする。合羽も黒のビニールテープを要所に巻きばたつきを抑え音を消す事とシルエットを小さくする事に留意した。こういう時は先程の破壊作業と異なり私の大柄な身体が恨めしい。
髪は纏めて毛糸の帽子の中に隠すことにして合羽のフードを使わない様にした。真夏に毛糸の帽子はアンマッチだけどそれも狙いの一つだ。この部室には本当にいろいろな物が有って助かる。
そう、フードを使わない理由。その主意はフードを使うと細かい音が聞き取りにくくなるからと言う事とと、フードの端の透明なビニールの部分が光って見えるのを嫌ってだ。
そして孝崎さんの内線無線電話を渡された。人知れず情報交換が出来る様に。各人とハグをして天文部の部室を出る。もう残り時間はいくらも無かった。
「開けて頂戴」
「ハーイ。今開けますー。蘇芳様ーこんなに遅くなってどうしたんですか? 」
小夜花がドアを開ける。そして私を見て声を上げた。
「ひぃ! 誰? 」
「静かにして。居るのは小夜花だけなの? ゆかりは? 」
「ちょっ、すっ、蘇芳様、一体どうしたんですか・・・・・・。それにそのキャットスーツみたいなカッコに、正ちゃん帽に特殊部隊みたいに汚した顔は一体・・・・・・。えーと、今部屋には私だけです。ゆかりは蘇芳様の事を捜しに外に行ってます」
「それは拙いわ。小夜花、ゆかりに直ぐに戻る様に言って。早く! 」
「えっ? はい判りました。捜して連れ戻してきます」
「非常ベルが聞こえたら、直ぐに戻るのよ。最悪戻れなかったら他の部屋でも良いから部屋の中に居なさい。絶対に部屋の外には居ないでね」
小夜花が私の言葉に気押されて慌てて出て行く。まず制服を袋から取り出しハンガーに掛けた。次にウエットティッシュで顔を拭き、テープでぎちぎちに固められた合羽に、はさみを素肌の上を滑らせて切り裂いていく。そしてゴミと化した合羽を細かく刻んでベッドの下に隠匿した。すべてのゴミを綺麗にかたし、ごみ箱を空にした後、纏めた髪を解き、帽子を机に仕舞った。余裕が出来た所で、鏡を見て顎の痣を確認する。
「ここで良かった。少しでもずれていたら歯が折れていたかも。ううん、メガネを弾いて目に刺さっていた可能性も・・・・・・」
そう呟き、貰ってきた保冷剤を顔に当てる。すると校舎の非常ベルが鳴り始めた。寮とは系統が違うらしく寮は静かなままだ。ほぼ同時に部屋のドアが開き、ゆかりと小夜花が帰って来た。
「一体何が起きたんです。事故ですか? それとも事件? 蘇芳様は無事なんですか? 」
「心配かけてごめんなさい。後で詳しく話すから。今はベッドに隠れて。見周りが来るわよ。今日はいつもみたいに甘くは見てはくれないと思うから、早くしなさい」
しゃかしゃかと梯子を上がる二人を見てびっくりした。何って、二人とも裸エプロンに褌姿で、部屋の外に出ていた事に気が付いたから。二人が布団に潜るのを見届けてから私も布団の中に入る。
「ゆかり、小夜花。貴女達、そんな姿で外へ出てはダメじゃないの! ペナルティとして今日は全裸で寝なさい。これは命令よ。私もそうするから文句は言わないで」
「蘇芳様一体どうしたんですか。変ですよ、裸で寝る事はともかく、さっきのカッコにしても非常ベルが鳴るのも予告してましたし。また潜入案件なんですか? 」
「後で話すから。今は静かにしなさい。寝たふりをするのよ、返事は? 」
「はい・・・・・・」
「ガチャ」
鍵を開ける音がする。静かにドアが開けられていく。見回りの先生と寮監が音を立てずに侵入して部屋の中を懐中電灯で照らしている。声の感じだと廊下にバックアップメンバーが居る様だ。侵入者に気が付かないふりをしていると、荷物やごみ箱、クローゼットの中も点検している。カーテンをずらし窓の外を見ている様だ。一通り見た後、懐中電灯を消してをベッドの私に近付いてきた。サーモカメラで布団の中に隠れた者が居ないかチェックしているらしい。裸で寝てるみたい。そんな呟きが聞こえた。バインダーに挟んだチェックシートに記入する音が聞こえる。そしてテーブルにそれの複写の控えを置いて先生達は立ち去って行った。
「二人とも起きてる? 」
「起きてます。今晩はどうしたんですか? いつもはドアからチラッと覗いていくだけなのに・・・・・・」
「蘇芳様は事情をご存じなんでしょう? 良かったら、お話をお聞かせ下さい」
「秘密厳守よ? 判ってるわよね? 私の許可無く他人に漏らしたら、そのきれいな髪を五厘に刈るから覚悟しなさい」
「はい。蘇芳様」
「いい返事ね。話をする前に少し時間を頂戴。取り急ぎ連絡したいところが有るの」
先輩に布団の中から連絡を取った。寮の見回りがいつもと違うことを伝え、沙沙貴さんや先輩が居ないのがバレるのは時間の問題だと。先輩の留守からそこが疑われるかもしれないので用心してくださいと話して通話を切った。
「林檎-。私達は寝るからあんたも早く寝なさいな。また手紙を書くの? 本当に好きなんだね蘇芳ちゃんの事。私は蘇芳ちゃんをお友達だと思うけど、林檎みたいな恋愛感情は全く湧かないわ」
何だか、やたらと私のことをディスる姉に苛つく。苺姉は空気も読まずに話を続けた。
「この間先輩から林檎の撮った動画の事を聞かされたんだ。でも見せては貰えなかったよ。偏見とトラウマを植え付けかねないって。そりゃ前に根本さんへの首締め事件とか有ったけどさ・・・・・・。それでもまだ疑義が有ったよ。担がれてる? って。でもさっきの鍵を壊した馬鹿力とその愉しそうな表情見てると、二人をボコボコにしたのがくっきりとイメージ出来た。私はごめんだけど、林檎は本当にあの暴力ゴリラ女が良いの? あんたもそろそろ目を覚ましたら? そりゃ比類無き超絶美人ではあるけど・・・・・・。実のところ八代先輩も持て余したんじゃなくって? 」
「苺姉、そこまで言う? この間まで応援するって言ってくれてたじゃないのさ・・・・・・。私思うんだけど・・・・・・苺姉だって榊先輩の事さ、以前程好きじゃないんじゃないの? 上手く行ってないからって変な事言わないでよ。孝崎ちゃんの事だって二人してあんまり面倒看てないじゃんさ。何でよ? 一人暗室に押し込んで」
「林檎、それ以上言ったら殴るよ。先輩との事は私の問題。林檎は自分の事だけ考えてな。孝崎ちゃんの事は悪いと思ってる。でも今は一人夢の中に居る方が良いってのが先輩の見立てだからだよ。それもまあ、林檎から見たら勝手な言い草だろうけどさ。先輩も呼んでるし、向こうで寝るわ、じゃーね」
苺姉は言うだけ言って、乱交ベッドと呼ばれるキングサイズのベッドのある隣の部屋に消えて行った。手紙を書き終えポケットしまう。私は電気を完全に落とし、暗幕をずらし外を見る。遠くで光が動いている。それも複数。何か有った様だ。遠目には蛍が舞っている様だ。気になる・・・・・・棚に有った双眼鏡を持ち出す。かなり大きく重くて私には辛い。うまく支えきれないけど、明るく見える事肉眼の比じゃない。ガラスに押しつけて何とか固定出来た。レンズの先に見えた物は・・・・・・。
「夜分遅くに失礼します。白木さん、八代さん、お話があります。起きてください」
僕と葉子は、夜中に突然起こされた。その前に非常ベルが聞こえていたので、ある程度の予想していたけれど。それは葉子も同じ様だった。入ってきた先生に聞かされた話はあちらこちらが暈されていてどうも良く分からない。保健室が壊されているのは確かな様だ。生徒の誰かが何かしでかしたらしい。生徒が夜に捕縛される案件は年に何件か有るので、そうは驚きはしないし処理も手慣れた物だけど・・・・・・。今回はどうもそうではない様だ。葉子はそういう事案を体験した経験はまだ無い。沙沙貴姉妹の一件は有ったけど、アレは葉子にとっては傍観者に近い。だから今回の事にとても驚いている様だ。
「それで申し訳ないのですが、確認の為ご足労願えますか。場所は川の処です」
「川? こんな夜中に? 二次災害は平気なの? 譲葉はどう思うの? 」
「そうだね。かなり危険だけど、行かないわけにはいかないよ。警備員室のHIDライトの用意をして下さい」
「はい。既に用意してあります。へッドランプもペツルウルトラを用意しましたのでご安心を。私も同行します。非常に重大かつ微妙な事ですので・・・・・・。詳細は現地で説明します。既に寮監、その他も行ってます」
「譲葉、支度なさい。小御門ニカイアの会会長代行にも連絡して。非礼は承知です。他の者には悟られない様に。早く! 」
葉子・・・・・・。情事を見られてから犬猿の仲となっている、ネリーと葉子。それなのに声をかけるというのは、如何に深刻な問題があると言う事を認識したから・・・・・・。ニカイアの会の会長は守秘義務を要求される時点で普通の生徒とは立場が違う。生徒には隠匿したい事が起きたと想像がつく。おそらくは生徒自身の事で。ネリーはベルが鳴って気が付いたという。そしてこんなことになるだろうと既に着替えていた・・・・・・。
「まぶしいわ・・・・・・」
ここは何処なのかしら。固いベッドから身体を起こす。どこもかしこも真っ白だ。目が良く見えないのがもどかしい。ここは病院かしら。でも窓も無いし設備の類も何も無い。ベッドだけが置いてある。マンガで見るラボ。研究所をイメージした。天井にある監視カメラがその考えを後押しした。
「見てるんでしょ。ここは何処よ。答えなさいよ」
カメラに向かって叫ぶ。そしてベッドを降りてドアを叩く。ドアには古めかしいドアノブが付いている。試しにノブを回すとあっけなくドアは中に開いた。でも外に出るのは躊躇した。私は全裸だったから・・・・・・。意を決して廊下に出る。非常灯だけが点く暗い廊下。その中にガラス窓から廊下に明かりが漏れている場所がある。そこに近付きこっそりと覗くとそこには・・・・・・。
「あの女じゃないの! 白衣なんて着て何してるのよ。ここは学院なの? 」
そう思った刹那。私は意識を失った。気が付いた時にはベッドに大の字に縛られていた。周りを見回すと沙沙貴さん以外のクラスの子がほぼ全員立っている。私は裸。皆はローブみたいのを着ている。聖歌隊みたいだ。
「助けて! 」
そう絶叫した。しかし声が出ていない。喉が機能していない。そう思った時、強烈に焼ける様な痛みが襲ってきた。全身をじたばたさせて痛みに耐える。それを冷たく見ているだけのクラスメート。私ってそんなに嫌われていたの・・・・・・。そうだ白羽さんは? 花菱さん? はあの二人なら助けてくれる。そう思った。
「孝崎さん、横向きなさい。貴女の目でも良く分かると思うわ」
さっとクラスメートが横にずれて隣のベッドが見える様になった。そこに見たのは私と同じ様に裸でベッドに縛られた白羽さんが。反対側に振り向けばそこには花菱さんが同じ様に括られていた。
「裏切り者に、罰を。さあ匂坂さん、皆に指示をして頂戴。爪を剥がしてもいいし、割礼しても良いわよ。針を刺してもいいし。薬もいろいろあるわ。さあ始めましょう! 」
白衣を脱いでボンデージルックになったあの金髪女が気勢を上げる。と同時に皆が私達に襲いかかってきた。私の乳房は針の山にされた。乳首にもピアス、鼻隔に穴をあけられセプタムを付けられた。低周波治療器をが下半身を苛む。二つの穴に空気で膨らむディルドゥが挿入される。その時潤滑剤として獣の精液を使われた。広がった穴に痒みを伴う薬を塗ったバイブレーターのディルドゥが入れられで私を狂わせる。お尻の穴には金属のフックが入れられて強烈な違和感を感じる。絶え間なく垂らされる蝋。薬のせいか気を失う事が出来ない。目も綴じられない様に細工された。快楽の地獄に堕ちたのは白羽さんも花菱さんも同じ。違うのは二人は声を出せるということ。片時も病む事無く甘く切ない喘ぎ声を出している。
そしてふと気が付くと私は変わらないが、周りが一変した。白羽さんも花菱さんも責めていたクラスメートが消失した。そして針の山だった乳房が元に戻っている。代わりに私の視界に八重ちゃんが入ってきた。声かけるも相変わらず声は出ない。金髪女が私の身体を拘束し直す。抵抗しようにも身体が動かせない。ベッドに大の字から革の拘束具を使用し高手後手に固定し直された。そして顔にも拘束具を付けられた。レザーの隙間から紡錘形に乳房が飛び出している。痛いけど何だか誇らしい変な気持ちが沸き立つ。緊縛された私は座面を起こしたベッドに寄り掛かる。
「良い形ね。この拘束具付けておっぱいがだらっと垂れないなんて若い人はさすがね、孝崎さん。えりかは嫉妬から気に入らないっていってるけど。まあそれはいいわ。貴女はそこで私とえりかが愛し合うのを見ていなさい。この子をリライトして生まれ変わらせるの。貴女の痕跡を消すわ。完全に私のモノにするのよ。これからね。貴女はそれを見届ける良いわね」
何時の間にか隣にダブルのベッドが出現した。二人はその上で絡み合う。八重ちゃんは金髪女の名を叫びながら、何度も達している。私は泣きながらそれを見る。見たくないけど、目が閉じない私は見続けるしかない。顔は固定されているので逸らすことも出来ない。
「酷いよ。止めて・・・・・・」
「止めないわ。当たり前でしょう。えりかが求めてるんだから。この子好きモノよ。私の腕をくわえて離さないわ。後ろの穴にも入れてダブルフィストにする? えりか? 」
「はい、入れて下さい。先生・・・・・・。八重垣えりかは先生の物です。自由にして下さい。お願いです。気持ち良くして下さい。壊れても良いですから・・・・・・」
「八重ちゃん!」
「どうしたの孝崎さん。気が付いたかしら。ひどい汗ね。着替えが無いから、清拭の後は裸で寝てね。あ、貴女はまだ起きてはダメよ」
先輩が寝ている私のジャージを脱がす。すごく手慣れた感じだ。私の身体をチンして温めた濡れタオルで身体を拭いていく。ショーツかと思っていた下着は紙おむつだった。寝ている間に取り替えたらしい。中はさらさらだけど性器はグショグショだった。透明ものだけでなく、白濁したヨーグルトみたいのも出ている。かつてこんなにも濡らした経験は無い。まるで失禁した様だ。先輩は表情一つ変えずに性器を拭き、おむつを取り替えていく。私の表情を読み取ったのか三年になったら実習するのよ。介護の時間にと呟いた。
「終わったわ。これ飲んで。飲み終わったらまた寝ましょう。孝崎さん」
身体を起こされ渡されたのはゼリー飲料。ずるすると四つほど一気に飲み干した。お水を渡され口をゆすぐ様に言われた。口に水を含みぐしゅぐしゅして先輩の持ってきた洗面器にゆすいだ水を吐き出す。
「嫌、もう寝たくない。あんな夢見るのはもう嫌・・・・・・」
「ダメよ。貴女は寝るの。辛い夢でも夢は夢よ。落ち着けば良い夢に変わるわ。きっとね」
先輩に向けて、首を振って拒絶する。
「仕方ないわね。睡眠導入薬を使うわよ。って貴女もうさっきのゼリードリンクの中に入ってるのを飲んでるんだけどね・・・・・・」
「もうひとつ言うとね、エッチになる薬も投与してあるのよ。カプセルに入れたものを貴女の膣に。そろそろ溶けるんじゃないかな。もっともっとイヤらしい夢を見て頂戴。それじゃおやすみなさい、ち・ど・り・ん。言っておくけどここは外鍵をかけるから。勝手に出られないからね。トイレ? 何のために紙おむつしてるのよ。頭悪いわね」
先輩がそう言った時には、私はもう意識が無かった。
「先輩、孝崎ちゃんに酷い事しないで・・・・・・」
「苺、私に意見するなんて随分えらくなったわね。でもまあ、壊す気はないわよ。結果壊れることは有ってもね。白羽さんが現れなかったらこんな事にはなってないのにな。予定通りなら孝崎さんを二度も昏倒させる必要は無かったのよ。それにしても予想外だったわ。鉄で出来た鍵を粉砕する様な子が学院に居るなんてね。イレギュラーにも程が有るわよ。もうこのキーはゴミね」
「先輩・・・・・・」
暗室の中の孝崎ちゃんに心の中で手を合わせた。ゴメンね・・・・・・と。