まったく、本当に嫌になる。
何回俺のヘルメットに傷を付けるんだ。
まったく、本当に嫌になるね。
このM16ももう何代目か分からない。
4代目辺りでもう死因は分からない。
だって、機関部の損傷だもの。
ああ、ふぁっくふぁっく!
くそくそくそくそ!
耳元をビュンビュンと鉛が鈍い音で通過する。
何度経験、体験しても慣れないどころか聞く度に背筋がぶるりと震えて仕方が無い。
ベースに戻ればうら若いナースやむちむちの色っぽいメディックが傷を癒してくれる。なんてことは無い。
大抵は目に隈を作り、胸のでかいメディックもいるにはいるが日々の激務に追われ、抱きたい、などという欲はどうしても生えやしない。
けれど、なかなかどうして、こういうくだらない話を思い浮かべ、話せばこの恐怖はいつの間にかいなくなる。
最初はよくある戦争映画のセリフを真似して吐いていたが。
あれの効果は本当に凄くて時折痛覚が薄くなる気がする。
メディックに言わせればただアドレナリンの分泌が上がっただけだと言う。そんなことは無い。
一瞬、空気の振動が一つに減る。
身を捩り腰を浮かせ、M16をスナップで5発。
敵が塹壕に隠れる。と言っても土を掘って掘って掘って作る塹壕ではなく。四角形の骨組みに麻のようなモノを巻いてその中に1片15×10程度の鉄くずをパンパンに突っ込まれた盾。銃弾は巻物を貫いても鉄くずに弾かれるまたは跳弾し中に喰い込んでもまた鉄くずが、それに更に鉄くずがその勢いを止める。
ロケット弾が直撃しても重なり合った鉄くずが勢いを殺し、本来の威力を発揮できない。
欠点らしい欠点が見当たらないが、銃撃を防ぐ鉄くずを、鋼鉄を運んでなかに入れていくのだから時間と労力がかかり、基本基地周辺に設置することがセオリーのそれが前線にある。
ふざけていやがる。
いったいどこから運んで来たのかは検討が付かない。
ふぁっく。
ズガガガガ!
遠くから鈍く低い音が飛来し、鉄くずを叩く。
破けた箇所から鉄くずがこぼれ落ちる。
けれどほんの少し。
「こちら、ホーク02! 貴方の敵を教えます! 前方の鉄くずに2人! 右の枯れ森にソロスナイパー! 排除まで3カウント! 3! 2!」
少し間があってチュン、と可愛い音が聴こえた。
「スナイパー……! ちっ!」
もう一回音が聴こえて。
「ソロスナイパー完全に排除!」
「了解、ありがとう、現状残っている味方は?」
しばしの間があって。
「貴方の後方に4名の一分隊が1番近い位置……凡そ200m先!」
「ふむ……」
少し頭を上げてしまった。
ヘルメットに鉛が掠める。
ふぁあああっく!
「残り26と1マガジン……か」
「こちらからの射線では敵を捉えれません」
射撃がやむ、3発撃つ。
間を開け更に3発。
右に転がって更に3発。
少し間を開けて5発。
腰を下げて、遮蔽物に隠れながらマガジンを抜き新しいマガジンを換装する。
一瞬足りとも迷わずに右太股のコンバットナイフを抜いて右手で握っていたM16のグリップを左手に移し右手でナイフを握る。
「なっ、てっ、敵!」
ガガ! ガガッ!と音を立てて計4発の鉛弾が敵の腹部、胸部、首を穿つ。
「なっ! こっ! のっ!」
あたふたあたふたとAK47を構え、狙いを定めようとする。
鉄くずを飛び越えて右手のナイフの刃で銃身を捉え、俺とは逆方向の斜め上に押上る。
数発の射撃が行われるがもちろん俺に当たるはずも無くて。
左手で握ったグリップを天に掲げて、そして、上手く力が入らない左手を振り下ろす。
「ぐああ!!」
右肩に着地した凡そ1.2キロの重さを持ったバレルグリップは―もちろんバレルグリップ自体が1.2キロを持っている訳ではない―敵の肩を砕く、とはいかずともそれなりのダメージを与えた様だ。
「ぐっ!!」
左手で握っていたAKから手を離しそのまま左太もものサイドアームに手が伸びる、その前に。
「シッ!」
俺の右半身を前に捻り、右手のナイフを首元に突き刺した。
「あがっ!」
右足で敵の左足を払い、押し倒す。ナイフがさらに奥に刺さる。
もう絶命寸前だと言うのに彼はサイドアームを引き抜いた。
引き金を引く寸前に。
「やめとけ」
ナイフを手放した右拳の裏で手首のすぐ上を殴り飛ばす。
鉄くずに9mm弾が吸い込まれる。
「こちらサーペント01、敵兵の無力化に成功」
「こちらホークス、了解、今そちらにヘリを送る、明日の任務に控えてくれ、オーバー」
凡そ20分を掛けて行われた、第三部隊の無力化が終了した。
太平洋第一ベース。第3医務室。
「んんっ……」
眠たそうな目元に酷いくまを浮かべて背伸びを伸ばす。
揺れた胸に目が否応なしに吸い込まれる。
「……猿ね」
眠たそうな声色に呆れが混じっているのがわかった。
「……こっちはいつ死ぬかもわからない戦場から帰ってきたんだ、本能的に子孫を残そうとするのは――」
「極当然の自然の摂理……よね、聞き飽きたわよ」
メディック――エイミーは「はぁ……」とため息を吐くと真っ黒なコーヒーをぐいっと飲み干した。
「いつもそう言いながら、結局は怪我らしい怪我をする訳でもなく、致命傷だけは負わないのよね、オマケに彼女ナシ」
思わず苦笑いが零れる。
「ははっ……なら今夜相手してくれるのか?」と冗談めかして聴くと。
「激務が明日で終わるのよ、そんな時に貴方の相手なんてしてられないわ」とどこか怒った様に返された。
「つれねぇやつだ」と笑うと「そうね、本当につれないわ」と言う。
どういう意味かと首を傾げると。
「なんでもないわ、ほら、手当終了」と左腕を銃弾が掠めて出来た傷に貼られた絆創膏を軽く叩く。いてぇ。
「つー……。怪我人にひでぇ対応だ」
「なら、もっと怪我らしい怪我してから言いなさい」
と言われる。
シッシッとコーヒーを持っていない逆の左手で出ていけと無言で言われる。
しかし、まぁ、後ろに新兵と思われる負傷者が来たので出るしかない。
「へいへい……ありがとよ」
と言うと「仕事だから」と返ってきた。
彼女にしては珍しい物言いだった。
驚き何かあったのかと聞こうとすると新兵の傷の手当が始まり、後ろから。
「よぅ、カイル、帰ってたのか」
と野太い声が聴こえる。
もう随分と聞き慣れた声に振り向くと。
「ああ、つい1時間もしないまえにね」
と返す。
「はっはっは、そうか、さすが、仕事がはええ、飯は食ったか?」
とデザート柄の迷彩服に身を包んだ黒人の男――ジェイク軍曹がバシバシと俺の右の肩甲骨辺りを叩く。
昔はこれをされると一撃は耐えれても二発目でよろけると言うのがお決まりだった。
「いえ、まだです、レーションは食いましたが、あれは飯ではないですし」
と言うと軍曹は真剣な表情で頷くと。
「……うむ、ただでさえマズイのに、砂塵のトッピング付だからな…」と悲壮な声で呟いた。
砂漠地域でレーションを食えばパサパサなのにジャリジャリと砂が交じる事がある。
食えたものではない。
「ここの飯は旨いぞー? なんでも本国のみならず日本、フランス、イタリアのレストランで一店舗に滞在する時間は少なくとも持ち前の才である程度の味付けや調理の仕方を会得した若い料理人がいるらしい」
「へぇ……それは凄いですね」
兵士にとって勤務中に得られる数少ない娯楽である飯は、当然不味ければ士気は下がるし美味ければ上がる。
ならば、レーションだってもう少し美味くても! と誰もが思うのだけど、コストやら難しいやらでなかなか現実的ではないようだった。
政府のお偉いさん曰く、「その代わりベースの飯は美味くしているだろう」との事。
カリフォルニアでの戦争の時に味わったゴムみたいな肉の味は忘れない。
しかもそのセリフを聴く前日だったからその日の兵士の士気はまた違う意味で上がっていたし荒れていた。
前線ではそのお偉いさんの名前を叫びながら敵を撃つ兵が多くいたし、自分もその中のひとりだった事は記憶に新しい。
そんな事を思い出している間にも軍曹との話は弾んだ。
やれ、昨日の映画は面白かっただの。見れなかった俺に対する当てつけですか。
やれ、隣の小隊に若くてイイ女がいただの。珍しいですね。
やれ、奥さんに3人目が出来ただの。おめでとうございます。
食堂に付くと兵士の声が一際騒がしい。
時折金属音がカンカン! と音を立てて香ばしい匂いと共に油が熱される音が聴こえ、食欲を盛大に刺激される。
「……美味そうですね」
「だろう? ああ、これが明日の朝以降丸一日お預けかと思うと暗鬱たる気分になるな」
とげんなりとした表情と、声で言う軍曹の顔は、本当に残念そうで。
思わず笑いが吹き出しそうになった。
それに気付いた軍曹は。
「……むぅ、お前も食えばわかるさ、嫁さんの飯より旨いと言ってもいいさ」
「怒られますよ?」
「いいさ、嫁さんの飯はココには負けるが、俺に対する愛情は他所の何処にも負けやしねぇさ」
とニコニコとした笑顔で言われると、こう、なんだろう、砂糖を吐くんではないかと錯覚する。
事実、何度か軍曹の家にお邪魔した事はあるのだが、綺麗な奥さんと可愛らしい子供に囲まれる軍曹は本当に幸せそうだった。
「……そうですか、ヨカッタデスネ」
「おいおい、なんだ? 嫉妬? しているのか?」
「辞めてくださいよ、嫉妬なんてしませんし、する意味が無いじゃあないですか」
「……んむ? そうか? 褒め言葉? か?」
「……あー、はいはい、そうですそうです」
「んむ?」
「サッサっと飯取りに行きましょう、腹減りましたよ」
と言うと。
パンッと、手を打ち鳴らして。
「おおっ! そうだった! 今日は中華系みたいだな……美味そうだ」
とだんだん声のヴォリュームが小さくなっていくのを無視して。
取り敢えず鍋に入れられた、酢豚やチンジャオロースを小分けに盛り付けてチャーハンを注文し席に着く。
同じく向かいの席に座った軍曹のプレートをみるとチンジャオロースがこんもりと積み重なっていた。
「いただこうか」
と軍曹が驚いた事に箸を取り出してチンジャオロースをひとつかみ口に放り込む。
「んんっ、うめぇ」
「軍曹箸使えたんですね」
「お? ああ、いや昔アジアの方に行くことがあってな、そこで箸で飯を食ったことがあってな」と言う。
「へぇ」
俺はフォークを手に取って、酢豚を口に放り込む。
「おお……旨いですね」
「ああ……酒でもあればなぁ」
しみじみと、唸るが軍曹はかれこれ5年は禁酒しているはずだった。
「酒辞めてるんですよね?」
「ああ……だが、こうも旨いと酒片手に飯を喰らいてぇ気分になるもんだ」
「そうなんですか? 俺は酒あんまりやらないんで、よく分からないです」
「ん? そうなのか、結構呑んでたからおりゃあてっきり」
「あんなに酒を呑んだのは後にも先にもあの時だけですよ」
5年前に20のお祝いだと軍曹の家で呑みあった日があったが、その時にお互い飲み過ぎて、軍曹の奥さんにこっぴどく叱られた挙句に軍曹は禁酒の命を受けた。
しばらく話をしながら飯を喰っていると頼んでいたチャーハンが届けられた。
レンゲ、とかいうスプーンでチャーハンを食らうとこれまた旨い。
「……ここ、色々金かけてますね?」
「ああ、その分他の金をこっちに流しているんだそうだ、購買に行けばわかる品揃えが必要最低限、しかもそのどれもが殆ど各々が持っているものだから近々購買も無くなるそうだ」との事。
「へぇ」と返すと軍曹がまた、話を変えた。
そんな調子で飯を食い終わってトレイを返却棚に返そうと席を立とうとした頃、出入口に現れた三人組が目に入って視線が止まった。
珍しい男女の割合が1:2でそれも綺麗な、いわゆる美人に格付けされる部類の女性だった。
「おい、カイル! あれだ、あの美人だ、さっきいってたろ? 珍しいとは思わないか? 入隊動機を聞いても当たり障りのない答えをつまらなささそう答えやがるんだ、しかし、有力だと思われた大切な人を失った復讐にっちゅー動機も、このご時世に? って言う意見に叩きのめされるんで、今や謎のクールビューティだとか、そんな感じで好き放題言われている、今の注目どころだな」
と聞いてもいないことをべらべらと軍曹が教えてくれる。
特に興味もない、聞いても湧かなかった。
そんな事を軍曹に言うと。
「お前……ゲイなのか?」
とマジトーンで、身を少し遠ざけられた。
少しイラッときたのは仕方が無い事だと思う。
「いえ、そういう訳ではないですが、もちろん男なんで女に興味がないとかそういうんじゃあないんですけれど、特に知りたいと言う気持ちが無いってだけです」
「ふぅん、そうかい、珍しいねぇ、あんな美人」
「そうですね、美しい、けれど、まぁ、映画だとめっぽう強かったりするじゃあないですか」
「まぁ、なぁ、けど、ああいうのがヒロインでなんぼだろ?」
「それは主人公になってから言いましょうよ……って、あなたにはヒロインが、既にいるじゃないですか」
「おうおう、嫁さんの話はよそうや」
「怒られますよ?」
「……よそうや」
疚しいことでもあったのだろうか、遠くを見ている。
まぁ、軍曹に限ってそんなことは無いと、信じている。うん。
今度こそトレイを返却して立ち去ろうと彼女の横をすり抜けようとして、ぐいっと左腕を掴まれ、引かれた。
ちょっと、軍曹、なんですか?
と思うも、軍曹が居るのは俺の右横。
となると、通り抜けた筈の美人兵士だろうか。
顔を向けると美人兵士が、俺の腕を右手で掴んでいた。
「……あの? なにか?」
するとハッ、としたように。
「え、あ、」とそんな言葉を繰り返し、なんとか言葉を紡ごうと頑張っているようだった。
普通そういうのって男が君に話しかけた時の対応だよね。
みると、彼女の隣にいた男女もこんな彼女の、姿を初めて見たのか呆然としている様だった。
「あの!」
その高く澄んだ声が目の前の女性兵士の声だと気付くのにそう時間はかからなかった。
「……うん?」
「あ、えっと、あの」
俯いて、少ししてバッと顔を上げて少しだけ潤んだ瞳が俺の顔を覗き込んだ。
えっ、えっ? フラグたった? ねぇ? 初対面だよね?
「カイル軍曹で間違いないでしょうか!」
「……あー、うん? そうだけど……」
答えるとパッ、と笑顔を浮かべてすぐ思案顔に戻った、かと思えば羞恥に耐えるかのような恥じらい顔になり、おずおずと尋ねてくる。
「あ、あの……わ、私のことを覚えていないでしょうか?」と。
……なんでアフガンにしてたんだろう。
評価、換装、違う、感想お待ちしてます!
Thank you for reading!!