でも女→男は仕草が…。癖で階段とかズボンなのにお尻に手を当てて歩く男子って…
……まぁ、それはそれで。
ではでは戦闘描写が多めの12夜、どうぞごゆるりと。
●●●
「グ、ギギ―――グルラァアアアッ!!!」
吠えたことにより竜の口内の血が周囲に飛び散り、腐乱臭に似た生臭さが鼻を突く。
こちらを見据える瞳が、爛々とした深紅の光を帯びた。
「…自分の身は自分で守れ。死にたくなければ逃げるなよ」
そう言い残し、白が空気に溶け込むように体を揺らし、“消えた”。
……うわぁ、早すぎ。
初動を捉えた私は、心の底から白の動きに畏怖した。
単純に地を蹴り、周囲に群生する木を蹴って蹴って加速。
消えたと錯覚させるほどの速度は、まさに疾風。
ほんの一秒後は青白い光を纏う体が残像となって、目で追えなくなる。
「…ギ、ギ」
白の立体的な動きにそこそこ慣れている私と違い、その動作は初見であろう目の前の竜は、混乱しているのか、辺りを見回していた。
……蹴った。
ゴ、ギィンッ!!
こちらから見て竜の左側にある木が大きく
全ては目で追えなかったが、青い光によって察することはできる。
木を蹴って勢いをつけ、竜の頭を割れた翼刃で打ったのだ。
まともに翼刃を食らった竜は、よろけ―――
「――、ガァ、グルァガァアア!!!」
「――――ッ!かってぇ!!」
ダメだ。まともに効いていない。
白が愚痴をこぼしながら私の横に着地した。
「無理だ無理!骨が強固すぎて脳が揺れねぇ!!」
「割れてない方で断ち切りなよ」
「…やってみる」
少し間が開いたことが気になるが、再度白が地を蹴り、木々を蹴って加速を始める事を確認すると、私は私なりに出来ることを始めた。
背電殻と蓄電殻を全開、帯電毛を介して全身に雷を回す。
蓄電殻を閉めることは難しいが、開くことは容易なのだ。
青みを帯びた金雷が、全身で爆ぜる。
空気中に走る雷鳴は破裂音と相違ない。
「スゥ―――」
息を吸い、
「ォォオオオ――――ッ!!!」
最大限の敵意を込め、吼える。
感情に呼応するように、雷が地を縫い、薄暗かった場を照らし出した。
竜が、一瞬怯んだ。
「―――ルォアッ!!」
タイミングを見計らったのか、その隙を逃さず、白が竜の首に一撃を叩き込む。
潰れていない、白い翼刃は、振り下ろすと同時に青白い真空刃を纏い、断ち切r――――
「ガゥウウフルアア!!!」
竜が狂ったように顔を振り回しながら炎を吐き出した。
大きく吐き出すのではなく、小さく、勢いよく吐き出したそれはさながら散弾。
真空刃はそのままブレスを切り裂いて首に到達したが、翼刃は炎の勢いに負け、元々軽い白は仰け反る形となって勢いを殺される。
しかし真空刃はそのまま竜の首元へ吸い込まれるように―――
…私は、目を疑った。
ぬるりと、滑るように真空刃が首を抜けて行ったのだ。
大きく切れ目の入った竜の首下にある大地と違い、竜の首には小さな切り傷しか見えない。
素早い動きでこちらに返ってきた白と、竜から目を逸らさずに会話する。
「無理?」
「…ダメだ。毒と血を被りやがってぬめりが強すぎる」
「――――じゃあ交代、私がやる」
「お前まともに戦えんのか?」
「危なかったら助けてね」
戦うのは怖いが、死ぬよりまし。
なにより独りでは無いおかげで、なにかあったら助けてもらえるという、根拠のない確信が心の奥にあった。
深く深く息を吸い込み、全身の筋肉を怒張させ、張り詰めさせる。
土に深く爪をめり込ませ、前傾姿勢に。
―――竜がこちらに向けてブレスを吐き出した。
それも先程のようにバラバラではなく、集中的に、だ。
大技を繰り出すために構えているこちらには、回避なんてできやしない。
これ程の勢いを真正面から喰らうのはマズイ―――
「ルァ!!」
真空刃が、ブレスを縦に切り裂く。
竜の顔までは流石に届かなかったが、ブレスを止めることに成功。
……ありがとう。
心の底から白に感謝の言葉をつぶやくと、私は思い切り地を蹴った。
雷で活性化している上に、限界まで張り詰めさせた筋肉は、瞬発力を跳ね上げる。
地を走る雷のような速度で、竜に向けて突進。
すれ違いざま、異常なほどに発達した角が、竜の右翼付け根を大きく切り裂いた。
「…ッ!」
驚いたように通り抜けた私の方へ振り向く竜。
だが、まだまだ私の攻撃は終わっていない。
振り返った龍の顔に、瞬発的に爪を叩き込み、怯む隙すら与えず放電。
ほんの一瞬、ビクンと跳ねた体が、雷を通したことを教えてくれる。
動きが止まったところをバク転。
尻尾を用いて顔下を思い切り打ち上げる。
「白!」
「ここでかよ…ッ!」
私は更に息を吸うと、空気中に薄く、雷光虫を呼び寄せる雷を放った。
戦いが怖くないのは、初めてかもしれない。
○●○
「ル、ヴ、アァアアアア!!!」
竜が口から血をまき散らしながら吼える。
前方の疾風、後方の狼。
しかしこんな状況でも、狂気的な竜は、負ける事など微塵も考えていなかった。
勝つのではない。喰らうことが、至極当然。
「フゥウウウッ!!」
「ガル゛ルルルッ!!」
敵対する二匹が威嚇に対抗するように吼えるが、竜にとっては弱者の遠吠えにしか聞こえなかった。
事実、先程喰らった攻撃も、何一つとして大事になっていない。
纏う毒と血液がすぐさま凝固して止血となり、傷にならないのだ。
―――竜の動作は、非常に滑らかだった。
滑るような動きで白疾風に向けて突進。
当然、速さでは劣っているため躱されるが、元々狙いは“そちらではない”。
金雷公の方へ振り向きながら肺を一気に潰すように体を折り曲げ、火炎袋に溜めた炎を喉で潰して勢いよく吐き出す。
散弾のようでも、視界を潰すほどの太さでもない。
喉を狭め、高圧で細線の一本線。
「ギャッ!!?」
雷を纏った強固な甲殻すら焼き切るほどの威力に、金雷公の左肩から胸を通り右肩へ、一直線に焼けて血煙が昇る。
竜にとってその光景は、少し見慣れていなかった。
いつもなら断裂間近の致命傷を負わすはずなのに、どうしてこの竜はまだ体がくっついているのだろう。
“ ”
思考するほどの理性無き竜は、金雷公の硬さに苛立ちを得ながら動いた。
致命傷までいかなくとも、ここまでの傷には慣れていないらしい金雷公は、痛みより驚きによって動けない。
飛び上がると同時、地に足を叩き付けるようにして攻撃を開始した。
体表の毒液を散らし、吼えて牽制する。
久々の本調子まで、もうすぐだ。
○○○
「何止まってんだ馬鹿がぁぁ!!」
竜の突進を回避した直後、金がブレスを喰らって動きを止めたのを見た。
死にはしないだろうが、直撃はマズイ。
……間に――――合えッ!!
後方に飛んで木を蹴り、金の方向へ加速。
雷を纏う甲殻に触れるのはあまり好ましくないが、致し方ない。
抱きかかえるようにして、金を竜の攻撃範囲から離脱させる。
重さゆえに突き飛ばすに近しいが、何とか二匹揃って離脱できた。
接触時に、金の身体が震えているのを感じて、罪悪感を得る。
戦闘慣れしていないのは、すこしぎこちない動きと立ち回りから分かっていた筈なのに。
いささか、無理をさせ過ぎてしまったようだ。
「―――大丈夫か?」
竜の背が土に深く入り込み、動けなくなっているのを見ながら、体を密着させて声を掛ける。
叱責はしない。
否、こんな状態の金に、厳しい言葉を浴びせるなど、出来やしなかった。
師ならばこんな時、ぼろくそに言うだろうが、俺はアレとは違う。
「白、ごめ…ッ」
えずき上げるように、金が引き攣った喉から声を漏らした。
よく見てみれば、胸に出来た傷はそこそこ深い。
あまり動けば、傷が開いてしまうだろう。
「いや、いい。不慣れなのに頑張った方だ」
「…でも」
「いいから。―――お前にはこれから、あることを行ってもらう」
不思議そうな顔をする金。
話しているおかげか、いつの間にか震えは止まっている。
このまま戦闘を続けさせるのは良くない。
先程思い出したことを実行するため、一つ、お使いに行ってもらおう。
「急がなくてもいい。だから何かの肉をもってこい」
「…?もってくればいいの?」
「あぁ。それだけでいい」
……っと、起き上がりやがったか。
竜が体勢を立て直した。
「さぁ、行って来い!出来れば美味いのがいいな!!」
「……良く分かんないけど分かった」
森の奥へと走っていく金を見送りつつ、ため息を吐いた。
爛々と光る深紅の目が、こちらを見据える。
竜の口からは、空腹からか血と唾液の混ざった液体が垂れ、死臭に似た腐敗臭が周囲を漂う。
……頼む。早めに帰って来てくれ。
この竜に関して、関わってはならないと聞いている。
つまり、それほど危険だという事である。
先程までは“何とか”戦闘の形をとれていたが、師が、“警戒しろ”“極力近づくな”と言う程の竜だ。
両者が生き残るためには、思い付く方法など一つしかない。
金が返ってくるまでどれ程の時間持つかは、未知数である。
●●●
……美味しい肉…ってなんだろう。
胸のズキズキとした傷の痛みに苦しみながらも、森の中を走り抜ける。
体力消費を抑えるために蓄電殻を調整し、纏う雷はいつもの金雷程度。
―――いつの間にか雷光虫が背や、肩の毛に集まり、金雷を灯しているが、今はそんな事すら気にかけていられない。
……っていうか獲物が少なすぎない?
そう。走り抜けてきて、未だ獲物の一匹すら見ていなかった。
骨、屍肉、腐敗した臓物などなら地に落ちているのをよく見るのだが…
生きて動くものが、虫以外全く見えなかった。
「いっつぅ…」
先程見つけたアオキノコを噛みながら、周囲を見渡す。
遠くの方から竜たちの遠吠えや、鳴き声は聞こえるのだが、近くからは何一つとして聞こえない。
さて、どうしたものか――――
……空。
良く晴れた空を見上げれば、悠々と風に乗る竜がいた。
だが、大きい。
先程は白がいたからこそ戦うことが出来たが、独りだと、大きいのは無理だ。
でも早く戻らなければ、白が――――
もう、怖さは捨てた。
痛みにも、随分と慣れた。
一番怖くて痛いのは、また独りに戻る事。
「フゥ―――……ッ!!」
足に力を込め、跳躍した。
空を飛ぶ竜の側面に並ぶと、
「ォア!!」
「GYA…!?」
金雷を纏わせた両手を用いて、地へと叩き落とした。
白の元へ早く、帰らなければ。
胸から零れた血は甲殻の上を走る雷によって蒸発、金色の甲殻に赤く、乾いた跡を残していた。
―――叩き落としてから確認した事だが、この竜は見たことが無い。
頼むから、私よりも強くない事を願うばかりだ。
○○○
「ギルゥァアア!!」
「ルヴゥウウウ!!」
木を蹴って蹴って蹴って―――
隙が見つかれば飛び掛かり、潰れていない翼刃を振るう。
しかし甲殻に付着した血と毒の滑りが強すぎて、まともに刃が通らない。
深紅の残光と、蒼白の残光が交錯する。
「グォエ…ッ!」
「ッ!!」
竜の吐き出した、赤い何かを、素早く躱す。
べちゃりと粘質な音を立てて木に当たったそれは、白い煙を出しながら、ジュゥウ…と焼けるような音を立てた。
……胃液でも吐き出したのかこの竜は…!?
炎を吐き出す事には驚かなかったが、胃液をブレスとして吐き出すのは予想外だった。
鼻に入って来る血生臭さの濃厚さが増す。
恐らく、胃液が多量の血液と混ざっているのだろう。
それも獲物の、だ。
どれ程の捕食行動を繰り返せばこれほどまでになるのだろうか。
……ぐ、体力が切れてきた…!!
それよりも重大な問題があった。
一見、こちらが竜を翻弄し、優勢に見える状態だが、決してそんな事は無い。
ゆっくり狙いを定めてブレスを吐き出す奴と、攻撃を当てられないように木を蹴って動き続けるこちらとでは、運動量が違い過ぎた。
つまるところ、体力の限界が間近に迫っているのだ。
挙動に影響の無いよう安定させ続けていた息は、着実に乱れ始めてきているし、木を蹴る速度も少しずつ落ちている。
だが、真正面からこの竜と戦っても、勝ち目はない。
攻撃をしても、効いていないのだ。
痛みは蓄積されているだろう。
が、傷付きづらく血は流さないでどうしようもない。
……金はまだか――!?
未だ帰らぬ金を待ち望みながら、木を蹴って竜の身体に連撃を見舞う。
蒼白の瞳は、いつしか対する竜と同じ、深紅の光を宿していた。
●●●
「ムンッ」
ベキ
倒れ伏した竜の首元に前足を置き、黒緑の甲殻の上から勢いよく押し込むと、そんな音が聞こえた。
ビクン、とひと際大きく痙攣する竜。
「G、RA…、GI…」
泡を噴き出しながらゴヒュゴヒュと音を立てて鳴き声にならない何かを口から漏らしているが、関係ない。
……終わった、かな。
バチンッ
角から背にかけて金雷が走り、音が弾ける。
勝てたのは、相性が良かったと言うべきか。
私と同じような雷を使う竜だったため、単純な力比べになり、勝てたという訳だ。
……痛。
傷まみれの身体を動かしつつ、体の末端が細かく痙攣する竜の腹を尖った爪で突いた。
決して柔らかくはない皮膚だが、容易く刺さる。
そのまま一気に腹を割き、臓物を引き摺り出した。
まだ暖かいそれらを千切って地に放り出すと、腹の内側に爪を入れ、かき回す。
そうしてある程度肉を引き摺り出すと、ため息を吐いた。
勝てたという実感よりも、下手をすれば死んでいた、という恐怖に、足が震える。
……早く、戻らなきゃ。
肉を銜えると突き動かされるように白の元へ走り出す。
白は無事だろうか。
木々をすり抜け、土を蹴り、走って、走って――――
「
あの戦場に飛び込んだ。
目に入ったのは、竜の顔前で動きを止めた白。
息は切れ、表情は苦痛に歪んでいる。
「ル――…ア゛ァ!!」
脚に力を込め、突進。竜を軽く吹き飛ばし、肉を置いて白に話し掛けた。
「無事?」
「ゼェ…ゼェ……ぇあ、有事」
「見て分かる。肉を持ってきたけど」
「…どんな竜のだ?少なくとも小型の大きさではないが」
「黒緑の竜。雷を使ってたかな」
「―――ライゼクス、か。よく勝てたな」
と、竜が攻撃をやめ、こちらの足元に置いてある肉を興味深そうに覗き込んでいる。
白がその様子を一瞥すると、口端を上げた。
「丁度いい。金、全力で帯電しておけ」
「…また?倒れるかもしれないよ?」
「そん時はそん時だ。よし、肉から離れるぞ」
白の指示に従い、ゆっくりと後退する。
するとこちらの事を忘れたかのように、竜が肉を食べだした。
「金、全力でアイツの腹に一撃を入れて来い」
「?白がやらないの?」
「俺は反対側から打つ」
「分かった」
白が木を蹴って竜の裏側に回った。
タイミングは、合わせてくれるらしい。
蓄電殻を開き、雷光虫を活性化。
「フゥウウ――――」
息を吐き出すと、全速力で竜の腹に角を向けて突進。
角は滑って刺さらないが、頭にいい感触がした。
確実に、“入った”。
「ウ、ロオォエ…!!」
と、竜の挙動がおかしい。
あれほど余裕の顔をしていたのに、今に限っては苦しむような…
「よし、逃げるぞ」
「ガゥァ!?」
尻尾に体を巻かれていきなり飛び立たれ、驚きの声を上げる。
「とりあえず雷を収めろ。痛い」
言われた通り、出来る限り蓄電殻を閉めた。
「―――逃げるの?」
「あぁ、勝てん」
苦々しげな表情でそう呟かれたので、思わず話題を変える。
「…あの竜に何があったの?」
「あぁ?いや、嘔吐しそうだったからだと思うが」
「それで苦しんでたの?」
「多分な。ま、これでもう俺らを追ってはこないだろ」
「?」
「あいつは地に落ちた自分の吐瀉物すらも食べる。そうして一緒に土ごと食べて、満腹になる。そして腹が膨れたら、寝る。俺らを襲っていた理由は空腹だから、それさえ無くせば襲ってこない」
「…いつも土を食べてればいいのに」
「そんな知能も無い。吐瀉物と一緒に食べたから土が食べれるんだ」
「???」
「あー簡単に言うとな、あいつは土が食えることを知らない」
その言葉で、ようやく意味が分かった。
自分でも食べられるものが分からないのだ。
口に入れば食べるが、動くものは食べられるという本能以外の判断基準が無い。
「へぇ、馬鹿だね」
「俺もそう思う。っと」
森を抜け、砂浜に降り立った。
先程の恐怖感で感情が麻痺しているせいか、海を見ても何も思わない。
いつの間にか、空が紅くなり始めていた。
ゆっくりと、寝転がる。
全身傷だらけだ。少し休みたい。
「応急処置でもしておくか。キノコ採って来る」
「わかった」
さくさくと砂の上を歩く音が聞こえ、あとは波の音しか聞こえなくなった。
黒緑の竜との勝利に浸るほどの元気はない。
私はため息を吐くと、潮風を思い切り吸った。
相変わらずの変な香りに少し咽る。
同時に嗅いだ血の匂いは、きっと私のだろう。
今日はちょっと、頑張りすぎた。