え?ブラを着けずに狩りをすると擦れて硬くなった乳首が防具に巻き込まれて超痛い?
……以上、経験者ハンターは語る、でしtグフアッ!?
ゲフッ…ゴハッ……では13夜、始まります…
●●●
―――うぅ…痛い、痛いよぉ……
鱗を、甲殻を剥ぎ、血を流して独り泣く夜。
冷たい岩肌が、なお一層寂しさを増幅させる。
―――グゥ、ゥウウ…ッ……
群れの皆が集まって寝る場とは離れた、居心地の悪い岩場。
縄張りの端も端のこの場所は、決して安全な地とは言えなかった。
迂闊に寝れば鳥竜種に襲われ、油断すれば縄張りに入ってくるほどの強い飛竜に殺される。
だが私は、何があろうと絶対に縄張りの中心には行こうとはしなかった。
光り輝くこの甲殻は群れから忌み嫌われ、迫害されるからだ。
…いつしか私は、この甲殻、鱗が全て剥げれば、皆と同じになれるのではないかと、淡い羨望を抱いていた。
痛みを悲しさで忘れ、爪を引っ掛けて自ら甲殻を剥ぐ。
岩肌は、流した血の跡が黒く点々と残り、奇妙な斑点模様を描いていた。
涙は、決して枯れなかった。
親の顔すら忘れて尚、ひたすらに温もりを求めて、すすり泣く。
親に甘える幼さは、歪んで捻じれ、ただただ皆と同じになりたいという、強い願望に。
―――随分と、悲しそうだね。
そうして痛みよりも、悲しさに泣いている中、ふと声がしたので、その方向へと振り向いた。
そこには、薄い雲によって歪んだ三日月を背後に、一匹の竜が。
不思議な事に、見たことも無いその竜に、私は警戒心を抱かなかった。
―――そんなに綺麗な甲殻を、どうして?
透き通るような鳴き声が、耳の中に入って来る。
私は、どうして話が出来るのかを不思議に思わない程、心に余裕が無かった。
喉を震わせ、掠れた言葉を返す。
―――私だけ…違うの。
涙がボロボロと流れる。
―――私だけ、が…皆と、違うから…
つっかえつっかえで、ぼそぼそと口を開いた。
こんな事を話したのは、この竜が初めてだった。
歪む視界で、竜を見上げる。
視線が合ったような気がしたが、歪み過ぎていて良く分からない。
―――そう。でもボクは皆と違う、その甲殻が好きだけどな。
私は耳を疑った。
―――ほら、見てごらん?月明かりを受けるその甲殻は、ボクと同じ色だよ。
そういってヒラヒラと羽を揺らすその竜に、私は初めての感情を得た。
私は心の奥底で、確信していた。
この感情は、決して離してはならない、と―――――
●●●
「おい…金?」
「…くぅ……?」
掛けられた声に、ぼんやりと目が覚めた。
「傷に色々塗るから起きろ」
「ぅえ…?」
まだ頭が働いていない。
白の言ってることは耳に入って来るのだが、理解が追いついてくれないのだ。
「いいから。ほら腹見せろ」
「ん―――……」
「はぁ…ひっくり返すぞ。…っと重てぇ」
「ガゥア」
うつ伏せから転がされ、ようやく意識がはっきりとする。
「…ぇあ、私の傷とかどんな感じ?」
「やっぱ鱗とか甲殻の薄い腹側は血の跡があるな。深い傷…は、あんまりないか。じゃあ塗ってくぞ」
「何か…滲みるね。―――痛い痛い!?突然凄い滲みてきた!!」
「オイ、暴れるな!お前の爪って結構危ないんだよ!!」
腹の下が痛い。なんかもう滲みるという次元を超えて痛い。
しかし白を傷付けるわけにもいかないので、グッっと身を丸めて痛みを耐える。
「今回は見覚えのある草とかいろいろ混ぜ込んだから効き目はあるぞ」
「でも痛い」
「…そう我儘を言うな」
白が聞いたことのないような困ったような声を出すので私は困惑し、互いに沈黙する。
―――そのまま少し時間が経ち、ある程度痛みが治まったので、ゆっくりと起き上がった。
空は朱に染まり、真っ赤な太陽の光が網膜に刺さる。
「―――夜になったら俺の巣へ向かう。分かってるな?」
「?あの竜はいないんじゃないの?」
「んぁ、別にあの竜だけが面倒な訳じゃない。巣の近海にも面倒なのがいるんだ」
「ふぅん…」
頭の中で言葉を咀嚼し、ふと一つの事に気付いた。
……それって、白の巣の近くは危険ってことじゃないの?
慌てて白に確認する。
「ねぇ白、白の巣の周りって危険?」
「いや、俺の巣に近づく竜は少ないなぁ」
「…どうして?」
「着いたら教える。見たら分かるだろうし。それより胸の傷に塗るぞ」
「ヤダ!絶対痛い!!」
「我慢だ!ほら、大人しくしろ!!」
顎に軽く衝撃が走り、僅かに視界が揺れたと思うと、力が入らなくなる。
白お得意の、いつものだ。
口に含んだキノコと草を噛み潰したものを、舌にのせ、私に見えるように見せてくる時点で、悪意しか感じられない。
倒れ込んだこちらの胸元に、ねっとりとしたそれが近づく。
「え、ちょ――――グル、ァアアアア゛……ッ!!!」
「えぇい、断末魔みたいに騒ぐな!変な竜を呼び寄せたらどうすんだ!」
「ギ、ギギギ…」
「くっそ、歯軋りが耳に障る…!」
痛みを超え、チカチカとする目の前。
歯を割れそうなほどに食い縛り、必死になって痛みに耐える。
ここまで痛いという事は、相当酷い傷なのだろう。
―――この時の私は知らなかったが、胸の傷に関しては、痛覚が軽く麻痺していたらしい。
麻痺しているという時点で、傷の酷さが窺える。
「…暴れるな。傷が広がるぞ」
「ギィッ…フゥ――ッ、フゥ―――ッ」
呼吸が苦しく、息が乱れた。
視界が歪み、頭が痛い。
「…動けないほどだったら、一日動かずに安静にするぞ」
「グ、ガ、ァ…」
何とか動くようになってきた体を丸め、痛みを耐える。
白の鳴き声が、頭に入って来ない。
……あ、ダメ。目の先が真っ白に―――
ヴァチッ!
―――そう言えば、雷光虫がまだ潜んでるんだっけ。
真っ白な視界の中、自己主張の激しい金雷が見えた。
どうも、白は金雷に好かれているらしい。
毛に潜んだ夥しい数の虫たちが、蓄電殻から漏れ出した雷によって、ざわめき出す。
「―――またかオイッ!!」
―――白の速度も、雷には勝てないようだ。
白が帯電毛の異変に気付いた時にはもう遅い。
興奮した雷光虫が、既に私たちの周囲を非発光状態で飛び回っていた。
ッ―――ヴァヂッ!!…ヂ、ヂッ―――!
雷光虫を介して私の雷が通電し、砂浜を金色に照らす。
「あ、ガ、ガッ…!!……ッ…」
……ごめん白。
末端を痙攣させながら倒れ伏した白に、心の底から謝り、夕日を見上げた。
胸の痛みが、収まらない。
…白の口から黒い煙が出ているが、大丈夫だろうか?
「クゥ…カ……ッ」
ここで私の視界が黒一色になった。
あまりの痛みに、私の意識が強制的に落ちたらしい。
こんなに痛いなんて、胸の傷はどれ程に酷かったのだろう?
私は真っ暗になった思考で、ぼんやりとそんなことを考えた。
―――夕の朱色に染まった浜辺で、二匹仲良く倒れ込む。
今襲撃されたら、終わりだろう。
○○○
「さて、夜になった訳だが…なぁ金」
白が忌々しげにつぶやく言葉に、私は目を逸らした。
細かく、比喩も含めて描写するならば、私が人間で言う正座をして、倒れ込んで顔を上げた白に睨まれているのだ。
ゆらゆらと首を動かす白の動きに合わせて、瞳の紅い光が尾を引き、私の角を照らす。
日は既に沈み切り、私の雷は身を潜めた今では、半月より少し満ちた月の光だけが浜辺を照らしていた。
「言いたいことは、あるか?」
それは、押し殺すような声。
呟かれたその言葉には、重みがあった。
遂に私は半泣きになりながら、降伏の証、腹を見せる。
「ごめんなさいいいい……!!」
「それで済むか馬鹿金が――ッ!!」
怒号と悲痛の咆哮が、空しく鳴り響いた。
結局、白は今でも麻痺して動けず、私は先程、ようやっと失神から立ち直ったところだった。
失神するほどだった胸の痛みはある程度収まり、何とか意識は保てている。
「お前、大放電した後に失神とか馬鹿じゃねぇの!?敵来たらどうするつもりだったんだ!!」
「……何とか…」
「ならねぇよ!動けなかったら何も出来ねぇに決まってんだろ!!」
「だって…」
「…いや、まぁ……何とかなったらいいんだが」
白の瞳が赤から、元の紫色へと戻った。
「お前が発情期に入ったのっていつだ…?」
「…何の話?」
「は?いやだから発情期に入ったのっていつだ?」
「…はつじょうき?」
「あぁ?」
「ん?」
話がかみ合わない。
そもそも、“はつじょうき”という言葉を、私は知らない。
白が怪訝な顔をしながら、鼻から息を吐き出す。
「…いや、いい。じゃあ聞き方を変える。お前が蓄電殻を上手く扱えなくなったのはいつからだ?」
「白に出会った…日、から?」
「―――そうか」
何故そんな事を訊くのか分からないが、白にとっては必要な事だったらしい。
白の瞳が、今度は青白く光る。
コロコロと色の変わる白の瞳は、とても綺麗で、いつまでも見ていたいとすら思えた。
「じゃあ移動するか」
「…大丈夫?」
「動けるか、という意味で訊いているのか?」
「頭」
「そっちかよ!?」
しかしある程度は動けるようになったようで、フラフラとではあるが、白が立ち上がる。
確認するように翼刃をギシギシと動かし、砂の入り込んだ毛の違和感からか全身を震わせた。
「羽ばたきは…まだ無理だな」
「休む?」
「少しな。しかし心配なのは、お前の方だ」
「…ま、まぁ、激しく動かなければ?」
「そうか。じゃあ飛べ次第移動を始める。それまでに蟲を全て逃がしておけ」
そう言って、白はその場に身を伏せた。
体が自由になるまで回復に徹するらしい。
私はゆっくりと立ち上がると、ぶるぶると身を震わせ、毛に入り込んだ虫たちを逃がしていく。
金雷を宿した虫たちがぼんやりと発光しながら飛んでいく様は、幻想的で、自分で言うのも何だがいつ見ても飽きない。
―――しかし、この虫たちも、もう長い命ではないだろう。
雷光虫の体内にある雷の増幅機関にだって、限界はある。
私の金雷は、雷光虫にとってあまりにも強すぎた。
時には、金雷によって黒焦げになる虫がいるほど。
しかしながら、雷光虫は私に寄る事をやめない。
この金雷が彼らの何を刺激しているのか分からないが、命を捨てさせるほどの何かがあるようだ。
……全部逃げたかな。
金色の光が体から立ち昇らなくなった。
蓄電殻は今のところ安定しているし、放電の恐れは少ないだろう。
白に近づき、隣に腰を下ろす。
「…なんだ?」
「何でもないよ」
「そうか」
そんな言葉を交わし、意味も無く厚みのある尻尾でバタバタと砂浜を叩いた。
いつの間にか風は止み、竜の鳴き声も聞こえぬ今では波の音しか聞こえない。
「―――なあ、金」
そんな静けさの中、白の声が耳に入ってきた。
何とも言えぬ白の声音に、少しだけ私は戸惑う。
「何?」
「どうして着いてきた?」
またその話か。
そう言い返そうとしたが、決してふざけている訳ではなく、真剣に訊かれている気がして少し押し黙る。
白が尻尾をゆらゆらと揺らし、目を開いた。
「―――寝ながら泣くことと関係とかあるか?」
「…あるのかも、しれないね」
空を見上げて考えてみる。
この短い間に、色々な事があった。
しかし、昔の事を忘れられる訳ではない。
毎朝目元の濡れる癖は、まだまだ治っていないようだ。
「良く分からない、っていうのが正直なところだなぁ」
「それは難しいな」
「難しいねぇ」
でも、
「今が楽しければ、それでいいや」
「…悦楽主義者め」
「?」
「―――いや、そろそろ行くぞ」
立ち上がった白に追随するようにして腰を上げる。
「…虫は逃がしたな?」
「大丈夫。ついでに言うと蓄電殻も閉まってるよー」
「―――心配なのは、匂いだけだな」
「何の話?」
「こっちの話。ほら暴れるなよ」
胸の傷を気遣ってか、優しくスルスルと巻き付いてくる尻尾を受け入れつつ、大きく欠伸をした。
白が羽ばたくのを見ながら、少しだけ考えに耽る。
―――昔を断ち切ることは、出来ないのだろうか。
あの頃をすべて忘れ、無かったことに…
「じゃあ――行くか。長いぞ」
「…うん」
脚が地を離れ、空を飛ぶ感覚にも慣れ始めていた。
……よく持ち上がるなぁ。
軽々と空を飛ぶ白に感嘆を得つつ、これより先に思いを馳せる。
始めは岩場、次は渓流。
巣を変えるのは、これで三度目となる。
「…速度上げるぞー」
足を離した地に、過去を置いていけるような気がして、少しだけ気が楽になった。
逃げるようにして已むを得なく巣を選ぶのではない。
自らの意志で行きたいところを決める。
「疲れたらどっかで休憩入れるぞ」
「頑張ってねー」
「はいはい」
そんな選択肢をくれた白に、私は心から感謝していた。
私の胸にある傷は、まるで過去に受けたトラウマのように、深かった。
しかしその上に塗られた、薬草などの混合物が、綺麗にその傷を隠している。
それがまるで、傷が治る頃には白が私の過去を覆い隠してくれる事を暗示しているようで。
そんな思考を抱き、私は目を閉じた。
毛を揺らす潮風が、心地良い。
きっと白が起こしてくれる頃には、私の見たことのない世界が広がっているだろう。
―――月夜に照らされながら海面すれすれを飛ぶ、奇妙な影があった。
その影は、かなりの速度を出しながら飛行を続ける。
彼らの飛行機能を任されている翼刃は月明かりを受け、眩しいぐらい白金色に輝いていた。