悩む“人”は多くいますが、動物界では早漏な雄ほど優秀です。
……交尾中の白が早漏気味なのは、そういう理由。
ではでは、タグに淫乱系チョロイン竜を追加してから初話の十八夜です。
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「―――ッ!?」
白の隣でウトウトしていた夜。
孤島に何かが入ってきたという事を感じて思わず立ち上がった。
“殺す”
ここからでも感じる威圧感が、直感を超えた何かに訴えかけてくる。
恐怖に思考が縛られるようで。
そうして立ち上がったまま動けなくなった私の顔を、白が舐めた。
たったそれだけでも、下半身が少し疼いてしまう。
「…落ち着け。で、とりあえず座れ」
「……」
「ほら、深呼吸」
白に言われた通りに深呼吸。
大きく息を吐いて、吸って、吐いて。
昼の残り香に鼻孔が染められ、気分の高揚によって恐怖が上書きされた。
指示を仰ごうと白を見れば、白も紫瞳が青く光っている。
落ち着けと言っているが、白もそこまで落ち着いている訳ではないらしい。
一緒にいて知ったことだが、白の瞳が赤色を帯びている時は怒っている時や我を忘れる程の興奮。つまり気性が荒いときだと分かる。
そして瞳が青色を帯びている時は気分の高揚。テンションが高いときや、何かを考えているとき。
瞳の色の違いで白の気分が分かるという事を、つい最近知った。
今は青。つまり何かを考えているとき。
傍に寄り添い、白の背に顔を埋める。
白色と紺色の軟毛の触り心地がよく、ついつい頬で楽しんでしまう。
「…さて」
「んー」
もそもそとくすぐったそうに背を震わせた白が、顔を巣の外へ向けた。
様子を窺うと、少しも動じていない。
ゆっくりと動く威圧感の塊を肌で感じつつ、先程と同じように白の横へ身を収めた。
「……こっちにくるのか?」
「来なさそうじゃない?」
気配は遠ざかり始めている。どうやら孤島の奥へ向かっているようだ。
少なくとも、巣へ向かってきているようには思えない。
「じゃあ寝る」
「え、ちょっと白」
棘を収めた尻尾でペチペチと私の甲殻を叩き始めた白。
目を細めているところを見るに、どうやら普通に眠たいらしい。
白の上に乗ると、そののまま横倒し。
白の体を私が抱いて寝るような体制になる。
「暑いんだが…」
「いいじゃない」
腕の中で白が身を捩るが、決して逃げようとはしていない。ただ自分の楽なように体勢を変えただけ。
白のふさふさとした頭の毛に顔を埋めて深呼吸。
鼻が敏感な私は気に入った匂いがあると何度も嗅いでしまう癖がある。
「…何か恥ずかしい」
「白のそういうとこ好き」
「……そうかい」
「ワフ」
息を吐くと、白の体から硬さが抜けた。
存分に白の匂いを堪能できるようになったので、遠慮なく吸い込ませてもらう。
―――抱きついたまましばらく経ち、ふと白が耳を揺らした。
「明日は…巣穴から出ない方がよさそうだな」
「…最近見かけた変なのが原因?ほらあの…尻尾が刃みたいな奴」
「それもそうだが、人が大量に来ると思うからな…」
「……ッ」
巣の近く。孤島の広場と呼称する場所で、あの威圧感が突然現れたことに息を詰める。
しかしいつもそういう事に敏感な白が先程と同じようにピクリとも動かない事に、まず違和を得た。
抱き着いていた白から離れると、ちょっとだけ距離を取る。
「…金?」
「……」
外で何かが吠えているが、私にとってはどうでもいい。
「白さ、なんか変じゃない?」
「……そうでもないだろ」
「言いたくないならいいけどさ、違和感がありすぎて…ちょっと怖い」
その言葉に、始めて白の表情が歪んだ。
怒っている訳でも無く、悲しんでいる訳でも無い。
複雑な感情を含んだその顔からは、何も読み取れなかった。
外から感じていた威圧感はいつの間にかまたなりを潜め、白が外を見る。
「…知ってるんだよ。これ」
「え」
「昔…つっても俺が幼竜の頃だけどな、一緒に暮らしてた竜と仲が良かったんだ」
「…そう」
あまり自分の事を話そうとしない白に、無理矢理話させてしまった事に罪悪感を得た。
「強くて、怖くて…でも優しい。そんな竜だったよ。金が来る前に何度かこの島に来たこともあったし」
「…ごめん」
「別にいい。お前との壁は極力無くしておきたいしな」
尻尾でちょいちょいと手招きされたので近寄ると、今度は白が上に乗ってきた。
白まで私と同じように背中の雷電毛の匂いを嗅いでくるので、顔に熱が昇る。
こう、何と言うべきか。交わるのは恥ずかしくないのだが、慣れない事をされるのはちょっと苦手だ。
「…でさ、その竜が来てるのに挨拶とかしなくていいの?」
結局私は、恥ずかしさを隠すように無理矢理話題を変えた。
すると白はまた顔を歪める。
今度の表情からは、ちゃんと感情が読み取れた。
渋み。
仲が悪いわけじゃないけど会いたくないんだよなぁ…
そう、顔が物語っていた。
ここまではっきりと白の気持ちが読み取れたのは、初めてかもしれない。
「…ま、まぁほら、金を一人にしておくのは心配だからさ…?」
露骨な反応を見せる白に、最早恐怖を通り越してどんな竜なのかちょっと気になってくる。
―――ただ確実に分かるのは、近くであの威圧感を放たれたら私は言葉を発せないだろうという事。
「…あぁ、そう」
私の上で一安心したように息を吐く白に、ちょっとだけ背から雷を滲みだす。
「い゛だッ!?」
思わず私の上から飛び退いた様に笑ってしまうと、不服と言う風に目を赤く光らす白。
冗談だって、と伝えて大きく伸びをすると、白も警戒を緩める。
さて、そろそろ寝ようかな。
横で丸くなった白に尻尾でぺシぺシと叩かれながら、そう思う。
―――そして、来た。
「ぅ」
一瞬で目が冴える。
反射的に起き上がってしまい、隣の白がこちらの挙動に驚いたように立ち上がる。
「あー…ほら、危険なのじゃないから。落ち着いて深呼吸」
威圧感が徐々に近づいてくるというのに、白は表情を変えない。
落ち着いて諭され、ゆっくりと深呼吸。
今度は白の匂いを強く感じ、警戒心が安らいだ。
「…近いけど、大丈夫?」
「今まで一度も気付かなかったんだ。大丈夫だって」
ル゛ォ―――……
外から断末魔が聞こえてきて、私は身を震わせる。
「ね、ねぇ、私殺されないかな!?」
「安心しとけーまずこっちに来ないだろうから―――」
「よっと」
入り口から堂々と入ってきた姿に、心臓が一瞬止まり、すぐに鼓動が跳ね上がった。
月明かりに照らされずともわかる、血塗れの姿。
防具や武器は無いけれど、特徴的な姿に間違いは無い。
それは竜などでは無く、見紛うこと無き人間だった。
「―――ッ!?」
身を硬直させたこちらに、白がゆっくりと耳元で語りかけて来る。
「いいか、黙って何もするなよ?安心しろ。敵じゃない」
「あっあーんんッ…ゲホッ…『シュイ―――ルァア゛―――――』」
無言でこくこくと頷くと、その反応に満足したように白は何かの鳴き声を発し始めた人間の方を向く。
……安心して白。言われなくても何もできないと思う。
こちらを見る真っ赤な瞳の恐ろしさに、私は冷や汗を流した。
○○○
「あっあーんんッ…ゲホッ…『久方ぶりと言うべきか?星の子よ。このようなところで暮らしていたとは気付かなんだ』」
懐かしい声だ。あの頃と何も変わっちゃいない。
それにこの発音。意味を理解するのに少しだけ時間が掛かってしまう。
「……相も変らぬ話し方だな、喰。解すのに時間が掛かる」
その竜の名を口に出すと、憶えてたんだ!と言う風に表情が変わる。
――しかし、難しい話し方は変わらない。
『人と交わりて話し方が変われど、決して元は変わらぬ。竜であることを忘れた訳では無い』
意訳すると…人間と一緒に暮らすようになったけど、竜として暮らした時は忘れてないよ、か?
「…そうかい」
その返答に俺らから視線が外れ、夜闇でも目立つ赤瞳が巣穴の壁を見渡し、どこか納得したように何度か頷いてこちらに視線が戻る。
『…ふむ、竜の遺産を解せたか?主は昔からこういった事を好いていたな』
あー…竜の遺産は読めた?君は昔からこういうの好きだよね。ってことだから?
「まだここのは全ては読めてない。十五段目で読み方の限界が来てる」
『ふむ、十五段目、か……。得心した』
壁に書かれた十五段目を見て、にんまりと笑みを浮かべる喰。
この竜はいつもこうだ。言葉面が硬いのに、表情は非常に豊か。
いつも師の意訳を一緒に聞いて、そうそう、これが理想!と言った風にうなずいていたことも懐かしい。
だからこそ、自分の中の喰に対する意訳もだいぶゆるいものになってしまっているが。
―――ふと隣の金が身を固めるのを感じた。
何かあったのかと見てみれば、喰の瞳が真正面から金を捉えている。
『…星の子よ、一つ問う。いかでその竜がこの場に存ず?』
一つ聞きたいんだけどさ、どうしてその竜がここにいるのかな。…ってことは。
……やはり来るか…!
予測していた質問に、言葉に詰まる。
そう。そうなのだ。
喰は師ほどでは無いものの、過剰なほどにこちらの身辺環境を気にする。
特に色事には、顕著な反応を示すのだ。
「友人だ。気になるか?」
言い切って質問を返すと、表情が面白くなさそうに歪む。
『主が其の竜といるなど…
「……アンタには関係の無い事だろう?」
『情を交わしたとて同胞に勝るとは言えまい』
……バレてたか!
喰は鼻がいい。事後の匂いから関係を悟ったのだろう。
友人と言う言葉が嘘だとバレていたという事は、これ以上金について何を話しても嘘だと捉えられかねない。
下手をすると、金の首が危ないのだ。
せめて今日ばかりは巣内の空気を喚起して自粛すればよかったと後悔するが、もう遅い。
刺激しないよう言葉を選び、慎重に発言する。
「……通常種の事か?俺は俺と同じコイツを選んだよ」
『
「……まだ生まれて短いんでな。だが悪くないだろう?」
『不束な事に星が何と言うかは我にも分からぬがな』
「言うのか?」
『主を
「……防ぐ手立ては?」
『言伝役の我を殺めるがいい。全身全霊をもって歯向かうがな』
「無茶を言うな」
「…さて、喉も疲れたし私はこの辺で帰らせてもらうよ」
「……帰るのか?」
「っと、人の言葉で言っても分からないよね。『星が降る日を待ち望むがいい』あ、あと『十五段目は“灼熱の天候、隕石が雨”』だからね―――!」
人間の言葉と喰独特の鳴き声を混ぜた言葉を残しつつ、ひょいと巣穴から降りて行った濃厚な血液の匂いの塊は、見えなくなるとそのまま気配を消した。
そしてようやっと呼吸が出来たとでも言いたげな金が、入口から目が離せないまま尻尾でベシベシ体を叩いて来る。
「な、なんだったの今の…!?」
「はーい、落ち着いて深呼吸ー」
「ス―――…んむ!?」
口を開いた金の口に舌を突っ込む。
歯茎をなぞり、舌を舐めた。
「…晩飯はケルビ!」
「おおお、正解!っていうか一緒に食べたじゃん。…じゃなくて!」
……チッ、誤魔化せなかったか。
喰の事を一から説明するのは少し面倒だし、少々省かせてもらおう。
「さっきのは人に見えたかもしれないけど竜だ。そこだけは分かってくれ」
「…まぁ、いいよ。で?なんて言ってたの?」
……へぇ、あの鳴き声って金には聞こえないんだ。
なら好都合。ありがたく内容を改変させてもらう事にしよう。
「ただお前が違う種をパートナーに選んだんだーってのと、お前の師に言っとくぞーってことぐらい」
金に対する敵意をすべて除いて意訳、それを伝える。
「視線がこっちを殺してやろうかってことをひしひし伝えていたんだけど」
「―――気のせいだろ。あの気配はいつもの事だし」
心当たりがありすぎるので、数瞬の間が空いてしまった。
しかし金は先程の緊張感が残っているのか、こちらの言葉が入っているようで入っていない状態だ。誤魔化せる。
「…寝るぞ。今日は休め」
「目が冴えて眠れそうにない」
「あー?」
いつもは真っ先に人の隣で寝るような奴が珍しい。
逆に言えば、喰がそれ程怖かったという事だろう。
……ま、今日ぐらいはいいか。
「こっち来い」
「んー…っと」
金の方が体長が大きいせいで上手く抱えられないが、金の顔を胸に埋めさせるようにし、翼刃が引っ掛からないように寝転がる。
こういった寝方は初めてだが、悪くない。
―――ただちょっと肥大した方の角が顎に引っ掛かるが、この程度は我慢。
「いい匂い」
「―――そうかい」
先程と同じような発言をされたが、今度は恥ずかしくない。
ゆっくりと金の呼吸が安定していくのを感じ、入ってきた微かな夜風が頬を撫でる。
――――目覚めた翌日の早朝、胸の中の金の目元は、初めて濡れていなかった。
この章は白と金がイチャイチャするのが主です(口から砂糖どばぁ)
さて、喰の口調ですが非常に悩みました。
『JK語』か『古風な口調』のどちらにするのか…と。
長生きな竜が独自の言語を習得、それがJK語ッ!っていうのも面白かったんですけどね。…作者が解読できなかったので古風な口調にしました。
現代の言語は、古語より解読が難しいです(遠い目)