あの透明感に、曲線から直線へと変形できるなど、ガラスは素晴らしいものですね。
……うーん、曲線を描く透明ガラスには、不思議なエロスを感じてしまいます。
さて、騒ぎ明けの不穏漂う二十七夜です。どうぞごゆっくり。
潮騒の音が巣の中に侵入しては、淡く耳元で囁いては消えていく。
入口より差し込む月明かりは相も変わらず眩しく、夜空は雲一つない。
いつしか日が沈んでから起きるようになり、太陽が見える頃に寝るようになってしまった。
金が身動ぎをした様子を目に収めながら体を伸ばす。
―――ここ最近、何やら騒がしかった孤島も静かになった。
クルペッコが孤島に住み着いて以来、随分と騒がしかった最近を思い出し、未だ消えぬ周囲の濃厚な血の匂いに、嫌なものだとため息を吐いた。
「うぅ…お腹痛い…頭痛い…気持ちわるぅう…い……」
細く、湿った声で弱音を漏らす金に、尻尾を顔に当てて軽く冷やす。
天空山で金は思い切り黒い粒子を吸い込んでおり、その影響により時間差で現在ダウン中である。
「交尾したい…けど動きたくない…」
「今は大人しくしてろ。無理すると一気に悪化するぞ」
こちらに腹を見せる形で寝転がった金は、湿った咳を零す。
咳が収まった頃に口に木の実を砕いて口移しで与えると、隣に寝そべった。
「噛め」
「うぇ…」
「飲まなくていい。噛め」
顎が動いているのを見て、尻尾で密着するよう引き寄せる。
「しばらくは動くのダメだな」
「まずぃ」
「あー動かなくていい。俺の口に移せ」
「ん…」
その場に吐き出されても困るので、捨てるためにこちらの口に移してもらう。
歯を当てぬように口先を合わせ、噛み砕かれた木の実が舌で送られてきた。
実の苦みと唾液の甘みが混ざった味を感じ、舌を絡めるようにして受け取る。
ゆっくりとした動きで口を離せば、蕩けた表情の金。
「…?」
「キュ…ガゥゥ…」
喉奥から息を漏らすようにして体を捩らせ、息を荒くする金を置き、巣の外に出て口内の実を吐き出す。
そして水で軽く口を濯ぐと、周囲を気にしつつ巣へ戻った。
「…おい」
「キュッ」
ビクリと体を震わせてこちらを見る金の前足が、性器に伸びているのを見て、思わずため息を吐く。
僅かに漂う愛液の濃い匂いが、金が興奮している事を教えてくれていた。
「触るな。寝ろ」
「えー…白がしてくれないから…」
「今はそれもやめろ。治ったらしてやるから」
「…じゃあさっきのもう一回して」
その言葉に首を傾げる。
さっきの、という事は木の実をもう一度食べたいという事か?
肉食の身でありながら実の味が好きとは中々変わった好みである。
……そういえば昔、金がそんな勘違いしたこともあったな。
出会ったばかりの頃だ。
傷を負い、一回目の治療を失敗し、口内がズタズタに裂けた状態でアオキノコを頼めば、最後に好物を食べたいのかと勘違いされたのだ。
まだ一度も交わっていない、本当に懐かしい頃の記憶。
そんな記憶に、零れるようにして笑みが出た。
「ねーしろー…きーてたー?」
「あーハイハイ、木の実食ってろ」
「何の話してる!?さっきのしてって話だよ!?ンゲッフゴフ!!」
「落ち着け落ち着け」
何をして欲しいのかぐらいは分かっている。
するりと近づき、ゆったりとした動作で鼻先をつけ、顔の角度を変えて口先を淡く付けた。
そのまま金の横に寝転がり、尻尾同士を絡めて強く密着する。
「…満足か?」
「ん…寝る」
「良し」
暫くすれば寝息が聞こえ、時折咳を交えながらも落ち着いた様子の金に、溜め息を一つ。
するりと身を離し、巣穴の外へと飛び出した。
○○○
孤島の隣、モガの村には現在ギルド職員が数名滞在している。
狂竜ウイルスに感染した竜が複数いたとの事で、その後始末をしているのだが…
「最上さん助けて!」
「最上さんちょっと手をお借りしたくて…」
「最上さん、明日これをお願いしても?」
「…お前ら自分の仕事ぐらい頑張れよ……」
「むっちゃん、頑張れ」
「はぁ…やるかぁ」
その後調査役として出張先から呼び戻された最上とアリーシャは、ギルド職員の手伝いをさせられていた。
アリシアは“出張先で”片腕に重傷を負ってしまったので、現在補佐として最上の傍にいる。
「アリシア、そっちからE-21の報告例取って」
「えーっと…『盾蟹の狂竜化報告例』であってる?」
「あってる。…おーうありがとう」
多数の報告例と報告書を照らし合わせ、万が一にでも事後処理を間違えないように資料の訂正を行う。
何かの間違いで狂竜ウイルスに感染した竜の屍を市場の流通に平然と流すわけにはいかないのだ。
しかし一番の問題はと言えば、
…怪我人が多すぎるな…
確かにG級のハンターは殆どは連絡が取れなかった、または即日に間に合わなかったことだろう。
しかし、数を選び、実力での選出をしなかったとなると上の能力が問われる事態である。
タンジアの集会場では大きく『参加者急募、倒した分だけ追加報酬』などと書かれて壁に貼ってあったらしい。
そんなもの、誰もが飛びつくに決まっているではないか。
そのせいで報酬の分け前計算や事後処理に時間が掛かり、更に怪我人への配慮手当計算などやる事が多くなっている。
今回のこの件は上の無能が独断を多く織り交ぜて行ったそうなので、嬉しいことに首が飛ぶ筈だ。
腐った上が飛べば、ハンターのこちらも幾分か楽になる。
「…ここ発見者だれだっけ」
「むっちゃん見せて。えーとわかんない。後で問い合わせよ」
「了解。次、えーっと、C-14」
「あ、それ職員さんが終わらせてる。B-3から7でもいい?」
「はいよ」
回ってきた資料は水中での戦闘記録。
幼竜が多く、未成竜などの屍が多く見られた、と。
功績を残したハンターは…
「あれ、イルメラ少年いるじゃん。あとクソ童顔」
「あー水中戦得意だからねあのバカ。つーかアイツいてこのクエスト受けたとか馬鹿なの?はぁ…ごめんむっちゃん少し外の空気に当たって来る」
「おーう」
アリシアが外へ出る姿を見送り、大きく伸びをした。
机に向かう作業は、やはり慣れない。
○○○
少し熱気の篭っていた小屋から出れば、良い潮風が頬を撫でる。
モガの村長がいつも通り村の端で煙管を吹かしていたので近寄ると、振り向かずに話し掛けられた。
「よお。資料はどうだ?」
「上が無能って事が良く分かった。…イルメラ君は大丈夫?」
「今はゆっくり休んでるよ。暫くはテーリアが離さんだろうな」
「テーリア…あぁ、雑貨屋の。最近物忘れがひどくてね」
「ババア」
「うるさい見た目クソジジイ」
「…老い先短いジジイは大切に扱え」
「はいはい。少しタンジアの森に出るから許可頂戴」
「夜の風は体を冷やすぞ」
「気をつけるよ」
頂戴と言えばダメは無い。
一言声を掛ければ森に出られるので、採取クエストを介すより楽なものである。
因みに服装はごくごく普通に赤いシナト村の装束だ。
高所の風を受ける想定をされた服なので、風を通しにくい。
そのままハンターナイフ一本を持ち、軽い足取りで森に入れば、
『すまんな呼びつけて』
『星の負い目は我にもある。時期も悪かろうて、致し方無し』
ふらりと近くに音も無く現れた空と言葉を交わす。
どうやら寄り添う番が狂竜症を発症したらしく、その処置に困っていると先日尋ねてきたのだ。
以降、聞き覚えのある呼び声が遠くより聞こえると、ひっそりモガの森にて薬を渡している。
布に包んだ狂竜症に効く漢方を空に渡し、そのまま村に帰った。
「ただいま」
「おーう早かったな。はよ仕事に戻れ」
「言われなくても。むっちゃーん、大丈夫ー?」
「俺は大丈夫だが周りがヤベェ!」
どうしようもない“後輩たち”に苦笑を一つ。
「ほらー頑張ってー?アドバイスとかあげるからさ!」
いつだってそうだ。いつだって、私は今を必死に生きて。
そんな今の幸せだけしか、私には見えていない。
○○○
するりと帰ってきた巣穴の端に漢方を置き、また金の傍に寄り添うようにして寝転がる。
背の方に回っているので背の毛から嗅ぎ慣れた匂いがし、思わず鼻を埋めた。
「……ん…」
くすぐったそうに体を震わせた金が、尻尾で軽くこちらを叩く。
薄っすらと意識があり、覚醒しているのだろう。
尻尾を絡めると、満足したようにそのまま呼吸が落ち着いた。
……早く治まると良いんだが。
自身の体は狂竜ウイルスに対する抗体を持っているため、発症しない。
その抗体は何度も感染し続けた結果によるものなので、発症時の苦しみは嫌と言う程分かる。
星のクソババアのせいで幾度と咳き込み、頭痛腹痛に苦しみ、吐き、悶え苦しんだかが今でも思い出せる。
―――そして憎しみが再燃した。
「すぅ…」
金の匂いによってすべてどうでもよくなった。偉大。
さて、ここからが本格的に金にとってきついのだが…
―――徹底的な禁欲になる。
交尾も自慰も、体力を消費するため好ましくない。
なので金には我慢を強いる事となってしまうが…頑張ってもらおう。
……寝るか。
金より早く起き、金より遅く寝れば彼女の全てを監視できる。
暫くすれば意識が暗く、霞んでいき…
「…寝た、よね。…よいしょっと。…ゲホ。はぁ…いい匂い。白の匂い…ぅああ…嗅ぎ慣れた、交尾の匂いがする…」
完全に意識が落ちた後に巣穴の中で発せられたその言葉に、気付くことが出来なかった。
○○○
白の顔を見て、白の息を顔に受け。
自らの秘裂を触る背徳感に背筋が震える。
吐く息は熱を持ち、秘裂周辺の毛は愛液で湿っていた。
うつ伏せになり、顔を横に向けたまま丸い爪で腹を触れば、奥が締まるような錯覚に襲われる。
奥が疼き、膣壁を掻いて欲しいという衝動に駆られ。
「……ぁ…」
荒い息を抑え、熱を持つ体を鎮めるよう爪で秘裂に触れた。
湿った音が耳に入り、聡い白が起きぬよう静かに、そしてゆっくりと大陰唇をなぞるように爪で掻く。
絡み付くよう愛液で指が湿り、喉奥から声が漏れるのを必死に抑えながら押し、なぞり、震えるほどの快楽に溺れていき。
「…」
息を殺し、白に顔を近づけながら自慰に耽る事の、なんと背徳的で甘美な事か。
薄く寝息を立て、温かなそうな白と紺の毛を揺らしながら寝る白が目を覚ませば、普段見せぬ姿を見られてしまうという事を自覚し、更なる熱が胎と顔に篭る。
徐々に長い爪を膣に挿れて行けば、閉じた肉ヒダが掻き分けられる感覚に息が詰まった。
奥が鈍い痒みにも似た疼きを帯び、強く、尖った白の肉棒で引っ掻き、押し潰すように突いて欲しいと理性では無い、自らでは無い何かが強く求めている。
しかし、彼を起こすことは出来ず。
「スゥ――…」
少し体勢を変え、白の腹に鼻を寄せた。
白はよく水浴びをするが、細かな汚れや臭いは落としきれない。
彼の匂いは決して悪臭ではない。悪臭ではないが―――
……ぅあ、濃い、落としきれてない精液の匂い…ッ
交尾の精液の、愛液の、互いの溶けるほど混ざったような匂いが、毛に、鱗に、彼の体に、染み付いていた。
噎せ返るようなただの交尾の匂いではなく、“白の匂いに染まった”交尾の匂い。
――――興奮が抑えられない。
爪先で肉ヒダを削るように強く掻き、溢れ出る愛液を掻き出していく。
疼き続ける奥を慰めるように、音を立てず、ゆっくりと強く刺激して。
―――白が欲しい。
欲に塗れた雄で、理性を染めて欲しい。
痛みにも似た快楽で、それだけに純粋にさせて欲しい――
腰を打ち付ける音と、愛液と膣ヒダを湿った音を聞かせて欲しい――――……
……この寂しさを、白で埋めて欲しい――――…
「…ぁ、きゅ……ッ…」
快楽を耐えるように身を丸めて甘い絶頂を迎え、白の顔を見ていれば視界が滲む。
彼といる筈なのに、何故か寂しさが胸を締めていて。
―――起きて欲しい。ふと目を開けて、泣いているこちらに優しげな眼で抱き寄せて欲しい。
そんな望みも、恐れから彼を起こせず。
「…げふ、ぁれ……?」
何故か急激に眠くなっていく。
疲れだろうか?指先がぼんやりとしていて良く分からない。
気がつけば涙が目横を流れていく感覚すらも曖昧になり。
深い水に落ちるようにして、急激に意識が落ちた。
巣穴の入り口からは、夜闇に輝く星々の光が入り込んでいて。
“うっすらと濁った”、金の煌く甲殻をキラキラと光らせていた。
もう暫くすれば朝となり、暗い空が白くなっていく。
白がその空の色を見るのは、まだ先の事だった。
金ちゃんの自慰が久しぶりに書きたくなったけど書いてて何故か寂しくなった。
何ででしょう?…きっと、白と幸せそうな交尾をする金ちゃんが、私は一番好きなのでしょうね。