すごく…多いです…
……どうでもいいですが、ケモ複乳は好きです。とても。
どうしてシリアスな雰囲気をここでぶち壊すのか分からないですが、それも様式美な二十八夜です。
―――息が浅い。
その事実に気がついた瞬間に、眠気が吹き飛んだ。
すぐさま身を起こせば、辺りに充満する粒子の量にゾッとする。
まだ太陽が出ている時間だが、眠さなど既に欠片も無い。
即座に近寄って金の体を見る。
金の体は治まっていた筈の紫斑点が広がり、体温もかなり低下していた。
何より意識が無く、呼吸も浅い。
症状から見て、抵抗力が負けたのだろう。
体力は余裕あると思ったが…予想以上に消耗していたか。
……こうなってから時間はどれだけ経った…ッ!?
急いで換気。
カリッと体を爪で僅かに切れば、流れる血は紫がかっている。
かなり進行している状態で間違いなかった。
いつ完全に感染して暴れ出してもおかしくは無い。
その緊急事態に、白は珍しく焦る。
喰から貰った薬草はあくまで進行を遅らせる薬だ。
その間に抵抗力が勝つ為の物なので、相当進行した今に使っても対して意味がない。
体温維持の為に尻尾を用いて入り口より入ってくる日光に当てる。
あまりにも力が入っていない、その重さにゾッとした。
既に体からキラキラと光る粒子が立ち登り、全身に回っていることが伺える。
頼むから戻ってくれ。
白は必死に薬草を口移ししながらそう願った。
―――始めの変化は、息だった。
あれだけ小さかった息が、徐々に大きくなり。
緩慢な動作で身を丸めた金。
次の変化は、体の色だった。
甲殻に、肌に透ける血液は、徐々に“紫”に染まり。
吐き出す息は、濃厚な粒子を吹き出して。
「…ルァ…」
「…金」
「ルァ゛ア゛ア゛アアア!!!」
「金!!」
立ち上がろうとした金に対し、咄嗟に顎を打ち抜いた。
しかし、頭が揺れても動きが止まらない。
「金…オイ、ふざけてる場合じゃない…ッ」
「ル、アォ゛、アアアア!!」
瞳の色は赤。既に正気ではない。
もがくように暴れる金を取り押さえ、白は顔を寄せて吠える。
「まだ戻れるッ!帰って来い!!」
「ル゛ゥ゛ウウウ…ッ!!」
歯を剥き出した唸りに応じて雷光虫が集まり、そして遂に。
「ゥオォオオオオオオ―――ッ!!」
狭い巣内に金雷が走る。
触れていた箇所が弾かれ、焼ける様な痛みとともに痺れが全身を蝕んだ。
「ウゥ゛ウ…」
「お、い…待て…ッ!?」
動けない白を見降ろし、金は巣穴から飛び出した。
制止も出来ない。
日光に煌めく、紫金の甲殻。
「――グルォ゛…ッ!」
完全に感染してしまった。
そう実感すると、視界が湿る。
戻る術はもう殆ど無い。
克服は、完全に感染せずに打ち勝った場合のみが確認されている。
星が言うのだから、信憑性は高い。
「く、そ…」
体を引きずり、巣穴から落ちる。
エリア5。目の前には検査をしていて、金の出現に腰を抜かしたギルドの職員達。
「ルァアアアアアアッ!!!!」
八つ当たり気味に吠えた白に、漸くギルド職員は信号弾を上げた。
○○○
「は!?金雷公の討伐!!?」
夕暮れを背に、フルニアは龍識船の甲板で叫ぶ。
最近古龍の情報を求めて高高度の調査を龍歴院としていたところに舞い込んできた急な知らせである。
当然の反応だった。
「同時にして白疾風も出現。何やら人には興味が無く、二匹で争っている模様です」
「…じゃれ合いではなく?」
面倒そうな話に、フルニアは思わずため息を吐いた。
しかし、龍識船に乗り込んできたギルド職員は首を振る。
「明確な敵対です。モガの村の方に被害が出る可能性があるため、金雷公の対応ハンターである貴女に早急な依頼です」
「…それは、誰の指示?」
「いいえ、“誰でも”」
「成程言えないか。じゃあギルド上層部に伝えな。“それは我らハンターが手を出すべきでは無い”ってね」
「承りました」
首を振って気球へと戻るギルド職員を尻目に、ため息を吐く。
フルニアが行かない理由は、幾つかあった。
以前負った怪我もそうだが、まず何よりモガの村にいる最上夫妻に失礼だ。
「おーいフルニア、何かあった?」
「ん、いや、ケロちゃんには関係無い事よん。私の仕事の話」
遠くで船首の補強作業を終えたクニケロマが寄ってくるが、フルニアは首を振って応える。
「それにおっさんに言われた事も気になるんだよなぁ」
「…何か言われたの?」
「“白疾風だがな、見かけた各ハンターから聞いた話だと少し賢すぎる。狩るのは切羽詰まってない限りやめておけ”って」
「どういう事?」
「獣じゃ無いって事。確かな理性があるように思えるんだよねぇ。仲良くは出来そうに無いけど」
「ふぅん…まぁ、そうだろうね。フルニアがボロクソやられてたし」
以前渓流で白疾風に惨敗した事は事実だ。
フルニアは歪んだ笑顔で手をヒラヒラと振る。
「油断油断。そんな日もあるって」
「死ななかっただけ幸運でしょバカ」
クニケロマの言葉に、フルニアは息を吐く。
「…おっさんとアリーシャさんがモガの村にいる限り、私が行く必要は無いのになぁ」
ギルドは理由のない指示で動かない最上夫妻を邪険に思って自らに直々に依頼を飛ばしてきたのだろう。
どうしても金雷公を研究したいらしい。
報告されて間もないのに、すぐにこちらへ報告が来たという事が確たる証拠だ。
「…バカだなぁ…本当に」
あの夫妻がいる限り、その場で人に傾いた行いは出来ない。
あの人たちは、良くも悪くも人と竜に平等だから。
○○○
孤島で逃げ損ねたギルド職員全員が、違和感を察知した最上とアリーシャに抱えられ、モガの村に避難を完了。
ギルド職員の宿泊用として準備された家の中で、最上は若いギルド職員達に詰め寄られていた。
「まだ計測器や回収しきれていない竜の死体が残っています!何故孤島に行ってはいけないのですか!?」
「いやぁ…危険だからだろ。二つ名が出てきちゃったし」
「最上さんが討伐してくださればいいじゃないですか!」
「落ち着けって。俺が軽く狩れる相手でもない。危険を冒してまでわざわざ手を出す必要もない」
ああ言えばこう言う進まない問答に、ついぞヒートアップしたギルド職員は、ヒステリック気味に叫ぶ。
「落ち着いてられますか!?残されたものと同時に、貴方は“貴重な資料”を見逃すつもりですか!!?」
ギルド職員のその言葉に、最上からは笑みが消え、アリーシャは瞼を上げた。
「「訂正しろ」」
一転して重い空気の中で、最上は指でコンコンとテーブルを叩く。
「お前らは勘違いしているな。俺ら人は、竜の上に立ってはいない」
重ねてアリーシャが、最上の横で言葉を紡ぐ。
「君らが資料と言っていい程、竜の命は軽くない。そもそも命に価値をつけるなど、私は認めない」
「そこのお前が言った今の言葉は、臓器の色が知りたいからと隣の奴を平然と殺して腹かっさばく行為と同じだ。分かるか?」
ギルド職員は押し黙る。
「ギルドの理念は自然を守る事。それは竜も人も同じだよ」
「絶対に間違えるな。上の一部は勘違いしているようだが…“人の為だけ”に傾いた殺しは自然を壊す行為だ」
最上はテーブルに置いてあったペンをクルクルと指で回し、茶目っ気のある笑顔を浮かべた。
「ま、村まで来たら狩猟するかもしれんが、現状はその限りじゃない。当分は放置で、孤島に残る竜の屍の回収も後でいいだろ。腐りそうだったら回収の護衛にはなってやるが」
「…んま、本当に困ったらまず相談してね。ギルドの上が馬鹿みたいにハンター投入したせいで、今各地も忙しくて手が回らないらしいから」
遠回しにギルド職員に、本部に相談しても無駄と釘を刺し、アリーシャは目を閉じて思案する。
……番の竜…金雷公に何かあったのか…?狂竜症が発症するのは先の筈だけど…
報告に上がった金雷公と白疾風が別個体とは思えない。
夜中にひっそりと孤島に出てみるかと決め、最上に耳打ちする。
「夜中に私が調査に行ってくる」
「…了解だ。しかし腕は大丈夫か?」
包帯に包まれた自らの腕を見て、アリーシャは少し悩むように眉を寄せた。
「ちょっと怪我するかも」
「……殺るのか?」
「いえ?彼らは危険では無い筈だから。私は手を出さない」
「まぁ、白疾風に連れ去られても帰ってきてるから心配はあまりしていないが…無茶はするなよ」
アリーシャに月迅竜の友人がいるという以外に竜側の事情を知らない最上は、アリーシャの言葉に若干の抵抗を示しながらも頷いて許諾。
「一応夜に計測器ぐらいなら取って来てあげる。どこに何があるのかを聞いておくわ」
黙っていたギルド職員達は、申し訳なさそうに、孤島のマップをテーブルに開いた。
○○○
孤島の夕暮れは、とても美しい。
夕陽が海を、開けたエリアを眩しい橙に染め上げる光景は、正に絶景。
しかし、ハンター達にこの時間はあまり好まれない。
何故なら、眩しすぎて狩りに支障をきたす可能性があるからだ。
そんな眩しい時間帯の、滝が落ちるエリア3。
「フゥ――…フゥ――…」
苦しげな浅い呼吸を繰り返し、金がエリア1へと繋がる道を睨んでいた。
「グルル…」
立ち塞がるように唸るは、白。
瞳は既に青の残光を引き、臨戦態勢である。
白は考慮していた。
金が、村の方へ向かいかねないという最悪の可能性を。
感染した体は、狂ったように目的なく破壊を繰り返す。
そこが住処だと主張するように、場を荒らし、破壊によって場を整えて。
故に感染した竜が一匹いるだけで、周囲の生態系が予想外の大打撃を食らう事がある。
それは人も、例外では無い。
「行かせねぇ…」
村に行けば、喰がいる。
そして同時に、星から鬼のようだと聞いた、喰の番もいる。
行けば、確実に殺されてしまうだろう。
「ウゥ…」
紫の息が苦しげに漏れ、同時にして金雷が弾けた。
既に雷光虫の様子もおかしく、時折フラフラと異常な量の金雷を宿して周りを飛んでいる。
金の瞳が、ギョロリと動いた。
前脚へ急激に雷が溜まり、濡れた地面からは湯気が立ち昇る。
軽いフットワークで距離を詰められたかと思えば、相当な速度で足裏を叩きつけられた。
身を捻って躱すと雷に当たるので、大きく後ろに回避。
そして飛びつくように尻尾で金の体を巻くと、遠くへ投げる。
あくまで目的は先へ行かせない事。
運が良ければ体力が切れてその場へ倒れてくれる。
傷を負わせるには少し怖い。
平然と動いてはいるが、体は衰弱していた金のものだ。
うっかり殺してしまう可能性がある。
先にも進めないが、後にも引けず。
白が睨む先で、金は諦めたように俯いた。
夕暮れの紅を背に、強烈な音を発して金雷が全身を舐めるように走る。
逆立つ毛に潜んだ雷光虫達が暴れるように周囲へと飛び。
背電殻は全開。体に残る全てを燃やし尽くそうかと言う勢いで放電し始めた。
「…ォ゛オォオオオオオ――――ッ!!!」
湿った地からは湯気が昇り、遠く離れた白の足裏には、痺れにも似た刺激が走る。
未だ聞いた事もない、金の殺気を孕む激情の声が轟いた。
オナって命の危機に瀕する。
性欲の危険性に笑えない…
さて、お気づきかもしれませんが、番外だった人達が本編に深く絡むようになってきました。
竜たちの生き方の“番外”であった人達が、生き方の“本編”に絡むようになった事。
それが何を意味しているのか。そう考えるのも面白いですね。