書き始めれば止まらないもので、どうにか更新までこぎつけました。
……いつの間にやら新章突入です。
新天地はあの場所。混沌とした生態系蠢く三十一夜が始まります。
三十一夜 言葉無き獣
未知の樹海。
ギルドですら全容の掴めない、謎の地域。
古龍を含む多種多様な竜の目撃情報、再現不可能な装飾品に武具など、ギルドの研究者が常駐している程に、その“未知の樹海”には価値があった。
しかし、ハンターにとってその場所は、悪夢と呼ぶに相応しい。
視界と動作を遮る蔦、木々、遺跡。
獣竜、牙竜、飛竜、古龍と予測のつかない竜種に乱入される可能性。
これらの要因に、殆どのハンターは良い顔をしないだろう。
だが、リターンはあった。
“再現不可能な”装飾品に武具。
ただその一点が、ハンター達を呼び寄せる。
未知の樹海。
そこは、混沌とした生存競争の舞台。
そんな場所に、今日もまた新たな竜が二匹飛び入った。
樹海は全てを受け入れる。
混沌の生存競争は、来るものを拒まない。
○
そこに入った経験は、孤島に巣を作る前だった。
天空山から出て、どこに巣を作ろうかと悩んでいた時期。
ふらりと入ったその樹海は、とんでもない場所だった。
鬱蒼と茂る植物。
それらに埋もれた遺跡群。
そして何より、“速すぎる食物連鎖”。
当時、様子見から一時的な寝床とした遺跡は近くに人と竜の気配が無く、妙に静かだった事を覚えている。
だから、俺は迷いなくそこを選んだ。
一直線に空を抜けた先。
視界には密林が広がっている。
体力は既に限界を迎えていた。
短くなった尾はバランスを崩し、飛行を困難なものとした。
飛行中に竜と遭遇すれば、確実に負けていただろう。
だが、飛び切った。
金を抱えた状態で飛び切ったのだ。
「…」
金は意識を失ったまま、動いていない。
見覚えのある遺跡に降り立つと、そのまま倒れこむ。
大量の汗が遺跡を濡らした。
どれだけ飛んだのかも覚えていない。
空は暗く、数日は経っている気もした。
相変わらず、ここには何の気配もない。
不気味なほど静寂な遺跡の影に金を引きずると、体を丸めた。
体が重い。少し休もう。
そう考えるも、無意識のうちに朦朧とした思考を手放していた。
○
目が醒めた。とは、少し違う。
気がついたら、そこにいた。
ここは何処だろうか。
何も思い出せない。
頭がぼんやりしている。
体を起こそうとして、そのまま崩れ落ちた。
踏ん張ろうとしたはずが、地面の感触すらなく。
視線を落とせば、前足が無かった。
「……?」
訳が分からなかった。
しかし自覚してしまえば、意識を醒ますほどの激痛が体を走り抜ける。
「ガ、ァッ!!?」
背を仰け反らせ、痛みへの拒絶が喉を震わせた。
地を転がり、許容できぬ感覚に吼える。
歯を剥き出し、血を吐くように。
───ふと、何かの匂いがした。
何の匂いかは思い出せない。
ただ、その匂いは大切なもののような気がして。
痛みが僅かに引くのを感じて、軋む頭を地に擦り付けた。
「…金?」
「……」
そこに何かがいた。
視界が霞んでいる上に暗いので明確な姿はよく見えないが、その姿には見覚えがあるような気がした。
何か、伝えたいことがあった。
燻るような感情に、顔を顰めた。
敵意を抱けない。近くにいても不快さも警戒も抱くことは無く。
「がぁぁ…」
日が顔を出し、夜が明ける。
日光の下に良く見える、黒白の体に、紫色の瞳。
この竜を見て心に突き刺さるような“辛さ”は一体何なのか。
―――そこの竜を、知っている筈の竜を、私は思い出せなかった。