───日中は痛みに呻き、寝ては魘されて起きてを繰り返す金に寄り添い続けて数日が経過した。
夜風を浴びながら星空の下で狩りを終えたので、金の元へと戻る。
「んがぁ」
「はいはい、肉な」
慣れ、というより親に対する懐きに近い振る舞いで甘える金の前に、狩ってきた死体を放る。
全身に拡がる紫の斑点はだいぶ薄まり、腹下の皮膚を見れば、体から毒素が僅かではあるが抜けている事がわかった。
しかし断ち切った前足は戻らないし、記憶も戻るかどうかはわからない。そんな曖昧な状態だが、番で或ることを決めたが故に、未だ隣に居続けている。
「……んぐ、きゅ…わふ」
「はいはい、ありがとよ」
何を言っているかはわからないが、共に居るためある程度の意思疎通はできるようになってきた。
雑に食い終えた死体から僅かばかりの肉を拝借し、食べ残しを引き摺って捨てに行く。
動けないからこそ、腐敗するものを周囲に置かず、現在の場所に他の竜を寄せないための工夫を凝らしていた。
「………」
捨て終えた帰り、木陰から金を覗く。
体を丸く縮こまらせ、怯えた目で周囲を探る姿は、親を見失った子供と称するにはあまりにも惨めな様子だった。
群れで生きる種にも関わらず、群れず一人で生きていた金。
記憶を失ったと言うのならば、一体どこまで精神が逆行しているのか。
鼻息をこぼせば、金がこちらへ勢いよく振り向くのが見える。
怯えた表情は一転し、目元を緩ませながら緊張を弛緩させた。
短くなった尾を揺らしながら己が近付いてくるのを待っている姿は、先程の怯えを一切感じさせないほど楽しげで。
「帰った」
無言で首元に頭を擦り付けてくる姿に、随分慣れたものだと目を細めた。
●
飢えていた。
親に疎んじられ、餌すら碌に取れないまま、成長していく肉体。
口に含み胃に落とした全てを奪い、骨は伸び体は育ち続けて腹が空く。
群れにおける奇異とは、迫害以外に道が無い。
産んだ胎など覚えておらず、恐らくば親である者から何かを貰った記憶は薄い。
乳を飲んだのか、はたまた違う何かを啜って生きたかは記憶に無く。
金色を纏う牙竜は、常に何かに飢えていた。
「シィ、リュリイ」
器用に喉と舌を使い何らかの言葉を発しているであろう白黒の竜に、無くなった足の痛みを気にせずに必死に擦り寄る。
庇護されているという事実を認識した時、思考の全てを押し退けて湧き出した愛への渇望は、異種であろうとも甘えるという不慣れな憧れを実施してしまうほどには、その虐げられた記憶しか無い心は拗れていた。
竜としての精神は記憶の欠落により未熟で拗れた形へと回帰し、より竜らしくも歪んだ状態になっている。
「……ル」
舌で不慣れに毛を撫でれば、お返しに舌で毛を繕って貰える。
甘えて擦り寄れば、ふわふわな顔を寄せてくれる。
動けず空腹に腹を鳴らせば、笑うように息を漏らして肉をくれる。
眠い時に声を出せば、体を寄せ長い尾を絡ませて体温を教えてくれる。
誰よりも、己の知る何よりも甘く、優しく、己を愛する存在。
体の形が違うなど、そんな些細な事はどうでもいい。
ただ今まで飢え続けた愛に満たされるように、全てをもって白黒の竜へと甘えていた。
『好き』
親愛なのか、はたまた恋情なのか。
それを明確な言葉にできるほど、賢くはなかったが。
ただ、それを伝えたいがままに白黒の竜へ体を擦り付けた。
そうすれば、匂いが体に移っていく。
独特な、いつまでも嗅いでいたい匂い。
包まれるように、己の体が白黒の竜の匂いに染まっていく。
───胎の奥が疼く。
今の己は知らぬ、交尾の快楽を体が無意識に求めていた。
この数日間、匂いに満たされるたびに胎の奥が絞まるような熱を生じさせている。
今日は、それが一際酷かった。
痒みにも似たそれを慰めて欲しいと、知らず知らずのうちに僅かに尿の混ざった愛液が秘裂を濡らして。
全身の痛みより、胎の疼きばかりを意識してしまう。
擦り寄った白黒の口元へ鼻先を当てて、懇願するように鳴いた。
『あつい』
紫の瞳を見つめ、喉が締まったように鳴く声は蕩けたように甘く。
『あついの』
未だ知らぬ快楽に焼かれているように、全身が火照っていた。
愛液は大陰唇を伝って地へと染みを作る程に溢れ出し、“痒みに似た疼き”を訴える秘裂は、何かを欲しがるように膣口をくぱくぱと開く。
動きを止めた白黒の竜の首を甘く噛んで引きながら、痛む体で這いずって歩き、熱を冷ましたいと腹を見せるように近くの草むらへと背を預けた。
服従を示すような、腹を見せる無防備な姿。
白黒の竜にとっては見慣れた筈の腹。
後ろ足を外に広げているせいか大陰唇は口を開くように開き、蠢く膣内から涙のように愛液が溢れていくのが見えて。
あつく、あつく、あつい。
火照った体を冷まして欲しいと願う竜の目に映ったのは、白黒の竜の下腹部に見える桃色のそれ。
交尾の記憶など無く、それが何か分からないにも関わらず、竜は蕩けた表情に喜色を滲ませた。
『ちょうだい』
呂律が回らない。
ただ、この疼きを止めるためにそれが欲しかった。
ぐぱ、と誘うように膣口が動いたのは、偶然か、無意識か。
のしかかるように上に覆い被さった白黒の竜の陰茎が、膣口に触れた。
「きゃ、ぅ……ッ」
ずるりと滑り込み、勢いよく胎の奥に当たった先端により、弾けるほどの快楽が背筋を抜ける。
痛みを置き去りにするほど呆気なく迎えた絶頂により背を丸めても、白黒の竜は止まらない。
上下に振られる腰は無造作に肉棒を奥へと突き立て続け、これ以上無いほどの快楽が脳へと迸る。
愛液を泡立てながら、腰を、肉棒を何度も打ちつける白黒の竜。
その赤に近づいた紫の瞳を向けられ、金色の竜は首を退け反らせて快楽に啼き叫んだ。
「グキュ、キャ、ギュウゥ……!!」
喉奥で濁った鳴き声を、爆発しそうな快楽から逃げたいという意思と共に吐き出して。
快楽に耐えきれず、ぴゅ、とピストンに合わせて尿を噴く。
その臭いに充てられて、白黒の竜は金色の竜の首へと強く噛み付いた。
「ル゛ゥウウ…!」
甲殻が軋む感覚と共に、耳の近くで聞こえる唸り声。
所有物だと言われるような、強い意志に、心の全てが征服されたような感覚に痺れが走る。
泡立ち白く濁った愛液は互いの下腹部を繋ぎ、密着してはまた離れて糸を引き。
胎の痒みを引っ掻くように、雄が膣壁を擦っていく。
強すぎる快楽に口の筋肉は弛緩し、舌と涎を口外に零しながらも嬌声は止まらない。
そして白黒の竜が一際強く腰を打ちつけると体を震わせ、膣奥で精液を吐き出した。
「ギ…ッ!?」
子宮口、胎の奥に放たれた精液は火照った膣内より遥かに熱く感じられ、その強すぎる刺激は金色の竜の全身を緊張させ。
膣壁は肉棒から一滴たりとも残しはしないとばかりに強く収縮し、その刺激に白黒の竜が顎の力を強める。
痛みと快楽の共挟みとなった金色の竜は耐えるように足に力を入れていた。それは白黒の竜を抱きかかえるような形となり、互いの体温を感じながら射精の余韻を過ごす。
やがて、白黒の竜がゆっくりと地に前足をついて腰を浮かせば、肉棒がぬるりと抜け、逆流した精液が膣口から溢れて下腹部の毛を濡した。
やがて精液を逃すまいと収縮する膣壁は、膣内に入った空気をごぼ、と音を立てながら吐き出す。
時折下腹部を痙攣させていた金色の竜は、やがて膀胱に僅かばかり残った尿を漏らし、そのまま立ち上がることが出来ずに秘裂を晒していて。
強すぎる快楽に意識が薄れ、金色の竜が気絶するように眠り始めたのを見て、白黒の竜は後悔と親愛を混ぜたような複雑な顔で、隣に寄り添った。
───互いの匂いが混じり合った空間は、白黒の竜にとってどこよりも落ち着く場所だったから。
金色の竜の血を口内に感じながら、白黒の竜は目を閉じる。
金が悪夢を見ないようにと、願いながら。