※この作品はR-18です。

金雷公は白疾風と幸せになるそうです   作:指ホチキス

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注意

タグ:モンハン・ガールズラブ・オリ主・性的描写・残酷な表現・R18・文字数45000弱・独自解釈


この番外編は、一章で登場したハンターを主人公として書き綴ったものです。

それでは暇つぶしにお目汚し下さい。
結構長めです。


間話
白昼 豪剣の百合姫


     ●●●

 

 

「えぇっと…?」

 

 

それは朝、目を覚まして5秒の事だった。

疑問符から始まる朝など何度目だろうか。

まぁそれらはすべて同じ理由であるのだが。

 

上半身を起こした私の横で全裸の女性が眠っている。

 

「あー」と、薄く呟く。

心当たりはある。が、こうなった理由は分からない。

とりあえず顔を確認。

艶のある黒い髪。垂れた目尻。綺麗な鎖骨に控えめな胸のそれぞれに点在する少し黒ずんだ―――

 

……おっといけない。

 

いつもの癖で下の方までまじまじと見てしまった。反省反省。

さて、この髪と顔は―――

 

……確かハンターの…京香だったよね。

 

一昨日辺りからドンドルマの大老殿で一緒にクエストをこなしていたハンターだ。

年は25で私より上だった筈。

いつか誘おうとは思ったけど…三日と経たずにヤっちゃったか。

 

……と、いう事は。

 

そっと京香の下腹部から下に掛かる毛布を捲る。

そこには――――

 

 

「あ、やっぱり?」

 

 

酔った勢いに任せてやった時の印、見事なキスマークが臀部に残されていた。

 

 

     ●○●

 

 

雪山に抱かれたポッケ村。

周辺でクエストをこなしたハンターが泊まっていく事もあり、賑やかではなくとも、評判の良い所である。

急な斜面に最近建てられた宿は物好きなハンター達に人気で、わざわざそこに泊まりたがるハンターも後を絶えないらしい。

そんな村の宿の一室にて、少女と女性がベッドに寝転がっていた。

 

 

     ○○○

 

 

横にあるテーブルに散乱するジョッキとシナトマトの残骸に少女が溜息を吐く。

確か昨日はクエストが早く終わり、夕方辺りから飲み始めた記憶がある。

最初はサシミウオを肴に度数の弱い達人ビールで楽しんでいたのだが、徐々に物足りなくなり、アイテムボックスから秘蔵の黄金芋酒と幻獣チーズを取り出した辺りまでは覚えている。が、そこから先は曖昧にしか覚えていない。

 

……しかし酒癖には定評のある私だ。何かやらかしてなければいいのだが。

――――いや、もうヤってたか。

 

 

「京香、怖くなかったの?」

「えぇ、フルニアが優しくしてくれたし…」

 

 

先程目覚めて顔を真っ赤にした女性に、優しく語り掛ける少女。

少女の名はファルミニア・ソレイン。英雄と呼ばれたハンターである。

 

 

「……ホントに優しかった?」

「態度は優しかったわよ。動きは…ね?」

 

 

更に顔を赤くした女性に、ファルミニアは更に深く溜息を吐いた。

 

 

「お尻とか痛くない?大丈夫?」

「…ちょっとヒリヒリするかな」

「…そう。軟膏とかいる?」

「多分大丈夫」

 

 

年上である京香に心遣いをするファルミニア。

少女なのに紳士である。否、淑女、と言うべきか。

と、少女が腰まで下ろしていたウェーブのかかる金髪を革紐を使い、一つにまとめた。

 

 

「――うん、そろそろ私は龍歴院の方に行くわ」

「あら流石フルニア。切り替えの速い事」

 

 

自らを愛称で呼ぶ京香に苦笑で返す。

 

 

「知り合いに用事があってね。ついでに夜の用事も」

「ふふ、噂に聞いてた通りね」

「噂?何の?」

「あなたのよ。“豪剣の百合姫”様」

 

 

少女は自らの称号に顔を引き攣らせた。

本来は名誉と栄光の為に与えられる称号なのだが、これまでの所業から皮肉としか思えないのだ。

特に百合。

 

 

「どんな噂?」

「その姫は女を寄せる肉欲の百合、って噂」

「………それだけ?」

「うぅん。他にも“女だったら無差別捕食の恐暴ハンター”とか、“ギルド職員を雌に堕とす百合”とか、“逃げることを許さぬ夜の豪剣”とかね」

「…随分酷いね」

「でも事実なんでしょ?」

「あながち間違っちゃいないかな」

 

 

ベッドの上でクスクスと笑う京香にインナーを着ながら顔を顰める。

 

 

「にしても若い少女にそりゃないって」

「若い?誰が?」

「失礼なッ!?私だよ!!」

「…え?」

「………そろそろ泣いていい?」

「え、あれ、若いって言える年齢だったっけ?私まだ知らないんだけど」

「…京香、私京香の10歳年下」

 

 

10秒沈黙が流れる。

 

 

「15!?まだ子供じゃないの!!」

「子供じゃないし。ハンターという職に手ぇ就けてます」

 

 

すると京香がベッドから立ち上がり、こちらの肩を掴んだ。

京香の170近い身長に、160弱しかないこちらは妙な圧迫感を受ける。

 

 

「う、嘘は良くない…よ…?」

「嘘じゃないよー。…なら基本誰にも見せないギルカ見る?」

「…見る」

 

 

ギルドカードは身分証明としても使われる。

発行元はギルドの為、嘘はない。

それならばと、少女が手を一度打ち、軽く声を上げた。

 

 

「おーい、コルカー?」

 

 

声が部屋に響いて二秒。入り口のドアが音も無く開く。

 

 

「――――また片付けですニャ?」

「あら可愛い。オトモ雇ってたのね」

 

 

控えめに現れたのは一匹の白アイルー。

コルカと呼ばれたそのアイルーは、少女の手招きに首を傾げつつ近寄る。

すると主人が口に手を翳したので耳を近づけて―――

 

―――フッ

 

 

「フニャァァァ!?」

「あひゃははは!!」

 

 

突然耳に息を吹きかけられ、驚いて飛び退くオトモに笑い転げるフルニア。

その様に呆然とする京香。

 

 

「あー面白い。いやーごめんごめん。」

「………ご主人」

 

 

涙を拭って謝罪するフルニアをこれ以上無いぐらいのジト目で見るコルカ。

しかし反省とは程遠い笑顔で頭を撫でられる。

 

 

「やーん、ご主人って呼ばないで、って言ってるでしょ?」

「…ご・しゅ・じ・ん、何の用ですか?」

「あ、うん。ギルカ持って来て」

 

 

コルカの初めからそう言えよ…とでも言わんばかりの視線にケタケタと笑うフルニア。

 

 

「いつもの場所に置いてあるニャ?」

「多分。あ、そうそう」

「?」

「―――」

 

 

フルニアがコルカの耳元でそっと何かを呟く。

するとコルカが嫌な汗を流し始めた。

 

 

「ニャー…」

「口答えはだめ。さ、行った行った」

 

 

しぶしぶといった足取りで部屋を出ていくコルカを尻目に、インナーを着る作業を再開させる。

 

 

「仲良いのね」

「あはは、きっとコルカが聞くと喜ぶよ」

 

 

お互い笑いながら、京香もインナーを着始める。

 

 

「…そういえばフルニアって胸どうしてるの?」

 

 

純粋に不思議だったのか、年齢としては異常に実った乳房をまじまじと見て首を傾げる。

本来胸の大きいハンターは少ない。

理由は大体二つ。脂肪より筋肉が勝ったか、ハンター業以外の巨乳の方々曰く、狩りの時に邪魔だからハンターにはならない。との事だ。

その少数の一人であるフルニアは、その視線に薄い快感を得つつ答えた。

 

 

「胸防具で押さえつけてるかな。痛くならないように加工の時に考慮してもらってる」

「…恥ずかしくない?」

「あーほら、ナグリ村…今はキャラバンか。まあそこの加工屋の女の子に仲介頼んでるから」

「成程ね。…あの子も“食べたの”?」

「……誘ったことはある」

 

 

その時のことを思い出して苦笑いが込み上げる。

 

 

「いや、私と同じで見た目年齢と実年齢が結構違くてね」

 

 

子供(幼女)と“人生経験豊かな”女性に手を出すつもりはない。

無差別と言われても超えてはいけないラインがあるのだ。

と、その言葉に溜め息交じりに笑う京香。

 

 

「あなたのそれは本当に15なら最早詐欺じゃないかしら」

「褒め言葉と受け取っとくよ」

「褒め言葉よ。で、その子いくつだったの?」

「12」

 

 

5秒間が開く。

 

 

「見えないわね」

「やっぱり?」

「…なんか相対的に自分の年齢が際立つわ」

「京香は若いよ?」

「……なんかフルニアに全て負けた気がする」

「あはは、そんなこと無いって」

 

 

と、ドアが開いた。

 

 

「持ってきたニャ」

「お、ありがと。はい、一応ね」

 

 

コルカが持ってきたギルドカードを京香に渡す。

そのギルカを受け取った京香が固まった。

 

 

「確かに15だね…」

「ねー?言ったじゃーん。ありがとねコルカ」

「ニャ」

 

 

じりじりと後ろへ後退り警戒するコルカに、何もしないとヒラヒラ手を振って示しつつ、お礼を述べる。

 

 

「15かぁ…」

「というか自分で言うのも何だけどさ、私って結構有名だと思うのよ」

「そうね。私もそう思うわ」

「うん。でさ、私の年齢知らない人多すぎじゃない?」

「そうなの?」

「そうなの」

 

 

受付嬢には驚かれ、ギルド職員からは疑われ、他のハンターからは首を傾げられた思い出が蘇る。

正直私の実年齢を初めて会った時に当てた人はいない。

まぁ、まずハンターになった年齢に問題があったと思うのだが。

 

……あ、そーいや、一人いたか。

 

ただあの人はノーカン。何故なら冗談で言ったのが当たったパターンだから。

 

 

「なんかさ、私そんなに老けて見えるのかな……」

「うーん…裸見ると尚更子供には見えないからね…」

「そう?」

 

 

これは聞き返しておきながら自分でも何となく分かる。

身長は年にしては小さいほうなのでまだ大丈夫。

ただ無駄に発達したおっぱいと、結構もさもさした陰毛が問題だと思う。

 

……これじゃ15とは見えないかもなー

 

インナーを着ても張り出す胸に視線を下ろす。

 

……ただこれはこれで邪魔なんだよね。

 

足元が良く見えないから危ないし、胴装備作成の時、ちょっと素材を多めに渡さないといけないのだ。

文句を言おうにも悪いのは自分だし、なにより加工職人の申し訳なさそうな顔に何も言えなくなる。

結論、おっぱいはいらない。

 

 

「おっぱい無ければ良かったな…」

「喧嘩売ってる?勝てないけど揉むわよ」

「おっきくなるよ?」

「じゃあやめとく」

「…ごめん」

「…いいのよ」

 

 

この時妙な絆が生まれた気がするのは、私の気のせいだろうか。

 

 

      ●●●

 

 

「わー!フルニアさんじゃないですか!!」

「おっはよ」

 

 

龍歴院管轄の集会場に入るなり聞こえてきた声に挨拶を返す。

ほぼ全ての受付嬢の顔馴染みであるため、有り難いことにクエストが受けやすくて助かる。

…正確にはほぼ“体馴染み”な気もするが。

とと、本題に移ろう。

 

 

「ケロちゃん来てる?」

「ケロ、ちゃん…!?……あぁ、クニケロマさんの事ですか。まだ見てませんね」

「う~ん、そっか。まだ寝てんのかな…ありがとね」

「いえいえ、お気になさらず」

 

 

さて、こちらを呼び出しておきながら寝坊とはいい度胸じゃないか。

 

 

 

「ケロちゃんってベルナの専属だから家はベルナにある…筈?」

「途中から自信が無くなったからって何故こちらに振るんですか。でも答えちゃいます。そうですよ、あってます」

「おぉ、本当にありがとね」

「お気になさらず(―――)」

「?」

「いかがなさいました?」

「…いや何でもないよ」

 

 

何か聞こえた気がしたが…とりあえずケロちゃんの家に行こう。

軽く手を振って受付嬢に別れを告げると、ベルナ村へ向かうことにした。

しかし寝坊した相手に手土産も無くていいのだろうか?

 

 

……

 

 

「ニャンコックー。お昼ご飯頂戴。え?食べ過ぎは良くない?いいのいいの。あー…ついでにトウガラシとか余ってる?…え?モグモガ―リックと混ぜて粉にしたのしか無い?――――――ナイスニャンコック」

 

 

     ○○○

 

 

「失礼しまーす…」

 

 

扉代わりの厚い布をくぐり、ひっそりとクニケロマの家へと侵入する。

予想通り、綺麗に整頓された部屋の中で、たった一つだけ浮いたように存在する、ぐしゃぐしゃのベッドの上にクニケロマはいた。

 

 

「……」

 

 

スッと抜けるように伸びたしなやかな肢体、横になった状態でも形の崩れない綺麗な乳房、窓から入り込む光をキラキラと反射する色の抜けた銀髪。

そして何よりも目に入ってくるのは…18歳と思えぬ線の細い整った顔立ち。

容姿と主な使用武器から、東方で清楚を意味する花を用いて、“轟撃の桔梗”との称号を貰ってるのも納得できる。

しかし―――

 

……何故裸なのだろう。

 

寝相が悪いのは知っている。

暑い日は寝惚けながら服を脱ぐ癖があるのも知っている。

しかし肌寒さが増してきたこの時期に服を脱いで寝るのはどうしたものだろうか。

可愛らしい桃色の毛布は床に落ち、枕は頭とは真逆の足の下。

白磁のように白い肌が一層肌寒さを想起させる。

しかし私の頭の大半をしめていたのは、柔らかそうな双丘の真ん中に点在する綺麗な桃色の突起物だった。

地肌を撫でる隙間風の寒さのせいなのか、しっかり硬くなっているそれに目線を奪われる。

 

……さて、どうしたものか。

 

①欲望に身を任せてそのままベッドイン

②持ってきた粉を鼻先で振り撒く

 

 

「……んぅ」

 

 

選択肢に悩む中、目線の先のクニケロマが身を捩り、シーツに敏感な部分が当たったせいか悩ましい声を上げた。

 

 

「――――はっ」

 

 

気が付けばクニケロマの隣に寝そべっていた。

 

……い、いつの間に!?

 

自分でも驚く程の速度だ。

口と口が触れ合いそうなほどの密着感に息を呑む。

何度か夜遊びはしているものの、寝ている相手となると背徳感が増す。

体はうつ伏せになっているため、よく締まった臀部が視線の端に見える。

 

 

「フ―――ッ」

 

 

自分を落ち着かせるように深呼吸。

ゆっくりと骨盤から太腿へと指を這わせる。

 

 

「んん……」

 

 

くすぐったさゆえか、手で軽く払われた後に、クニケロマが寝返りをうった。

こちらに腹を見せるような姿勢に変わり、息を呑む。

 

……む、胸が腕で押しつぶされて…!

 

大きめの胸が腕に押しつぶされて素晴らしい事になっていた。

そーっと押しつぶしていた腕を後ろに回し、胸を開放する。

――――目の前に美しい乳首が現れました。

 

①掴む

②触る

③吸う

④―――――

 

結果数瞬の内にいくつもの選択肢が頭に浮かびました。まる。

 

……いけないいけない。脳内が報告書のようになってしまった。

 

慌てて我に返る。

とりあえず始めは無難に優しく揉むことにした。

 

もっちりとした触感に、ふぉぉ…などと感嘆の声を上げつつ、くにくにと形を変える双丘に目を奪われる。

私自身胸はある方だが、これほどではない。

 

 

「ぅん…ぁ……」

 

 

必死に鍛えてきた手捌きによって感度と反応は良好。

この技術が無ければハンターになるのが遠かったのだな…としみじみと思う。

 

……しかしこの艶やかな反応、我慢できません。

 

ゆっくりと乳輪をなぞるように指で円を描く。

それだけでクニケロマの長い脚が艶めかしく、うねるように動いた。

いつの間にか私の秘部は濡れそぼリ、インナーを越え、太腿をつたってシーツを汚している。

それはそっと指を当てれば、ヌチュ…、という粘質な音が耳に響くほどだ。

クニケロマの顔を見る。

少し息を荒げ、上気し、薄く紅色を帯びた顔はなんて美しく、綺麗なのだろうか。

そっと顔を近づけ、そのだらしなく開いた唇を奪う。

たったそれだけで脳髄が痺れるような錯覚を得る。

舌は奥まで入れない。下手をすれば噛み切られる可能性があるからだ。

歯をなぞり、歯茎を味わい、唇を軽く吸う。

クニケロマの甘い唾液を味わうように唇に塗れば、ぬるぬるとした舌触りの快感に身が震えた。

 

 

「…ぅあぁ…あ……!」

 

 

それだけで自然と自らを慰める指が速度と力を増す。

いつしかヌチヌチという音はグチョグチョという音へと変わり、指も一本から二本へと変わっていた。

挿入した指を、粒々とした感触の天井にあわせて強く押すようになぞる。

指に押し出された下腹部がデコボコとしているが、もはやそれぐらいが丁度いい。

 

 

「う゛、ぁ゛…!」

 

 

軽くイキかけ、歯を食いしばって耐えた。

クニケロマの口を吸いつくように奪う。

息苦しさゆえか、淡く身を逸らすが、胸を強調するようなそのポーズに私のテンションが更に高潮するのを感じる。

最早クニケロマの胸を弄っていた指はもう私の胸にあり、緩急をつけて摘まんだり引っ張ったりを繰り返していた。

 

 

「…フフ」

「んむ!?」

 

 

突如唇を奪われた。

甘い香りに思考が止まる。

目の前を染めるのは白と銀の色。

あまりの出来事に口から出たのは驚きを含んだ呂律の回らない声。

 

 

「あ、ちょ、ケロちゃんッ!?いつ起きッてか私もう余裕なくっ、て!」

「イっちゃえばいいと思うよ?」

「おぉ゛!?ちょっ、マジ無ッ理、無理だからぁ!!」

 

 

細いクニケロマの指がこちらの陰核を擦る感覚に頭が真っ白になる。

いつの間にかこちらの耳はクニケロマの舌に犯され、快感以外の感覚が曖昧になり始めた。

 

 

「ふぅん…相変わらず可愛いねぇ」

「ぁ!耳弱ぃ、のに――!」

「うン、しゅってりゅよ」

「しゃ、べら…ないでぇ……」

 

 

もう限界に近いというのに、耳朶に響くクチュクチュという音と、舌のぬらぬらという感覚に意識を持って行かれそうになる。

そして遂に、

 

 

「ていっ♪」

「お゛―――――ッ!!?」

 

 

陰核を強く押し潰された感覚に、私の堤防が決壊した。

 

 

     ○○○

 

 

「うぅ…ごめんよぉ……」

 

 

シーツを汚したことに平謝りするフルニア。そしてそれをみて苦笑するクニケロマ。

 

 

「いいのよ。シーツもそろそろ洗いたかったし。あ、コルカちゃんに任せても?」

「うん。コルカ―?」

 

 

首の動きで数えて10秒。

扉が音も無く開いた。

 

 

「お片付けですかニャ」

「そ。頼める?」

「…ハリマグロ10」

「……カジキマグロ5」

「全力で頑張るニャ」

 

 

クニケロマからシーツを受け取り、的確な質問をいくつかして、外へと駆けていくコルカを見送る。

一息ついたところでシーツの無いベッドに座るクニケロマの隣に座った。

 

 

「改めて、やぁ、悪かったね。寝坊して」

「まぁ…久々に攻められて楽しかったから」

「あー、基本的にフルニアがリードする側だもんね」

 

 

クニケロマの懐かしむような視線に苦笑いしつつ、相槌を打つ。

 

 

「だって誘うのがこっちだしー」

「それもそっか」

「いやーついつい綺麗な女の子見ると声掛けたくなっちゃうもんでね」

「まったく…私の称号の桔梗が泣いてる気がするわ」

「ははは、それなら私の百合は確実に咲き誇ってるだろうなー」

 

 

その言葉に声を上げて笑うクニケロマ。

 

 

「確かにね」

「でしょ?」

「あー話変わるけど今日何のクエストに行くんだっけ?」

「オスト・ガロア。ほらあの…頭が二つある変なの。多分前に撃退扱いになったやつだと思う。依頼を出したのはベルナ集会場のギルドマネージャー。ルミャノちゃんいわくなんかヤバいらしいよ」

「ルミャノちゃん……?あぁ、古龍観測隊になったんだっけ。というかギルドマネージャーが依頼するレベルに酷いの?」

「落ち着いてたと思ったら古龍観測隊の飛空艇が古代林の奥地にて消息不明。隊員も行方知れず。その件について調べに行ったギルドナイトが重症って感じ」

「あー…というかなんでギルドナイト?」

「ハンターズギルド側も報告に焦ったんじゃない?で、舐めてかかったらこっぴどくやられてどうしようもなかったからこっち側に討伐依頼を出したってこと」

「よく知ってるわね」

「んで、龍歴院もまだ招集すら掛けてない。やっぱギルドと違って抱えてるハンターの質が問題かな…。一応情報を仕入れてからすぐにベルナ集会場のマネージャーに相談、ケロちゃんと行くってことで予約は取ってるよん」

「…怖いぐらい早いわね。じゃあ急がなくちゃ。遊ぶお金が無くなるわ」

 

 

クニケロマはギルド直属のハンターではない。

ギルドと提携を結ぶ龍歴院という機関に属した数少ないハンターだ。

龍歴院が重く見た事態には、そこそこの腕を持つ龍歴院のハンターは、必ず招集を掛けられる。

そしてその招集が遅れ、討伐までもが遅れると、モンスターによる被害額が増していき、ハンターに支払われる報酬が減っていくシステムがある。

が、まだその招集すら掛けられていない。つまり今が最も報酬が多いのだ。

しかし龍歴院と古龍観測隊が警戒、重く見るような事態を、お金稼ぎ程度にしか思っていないことからこの二人の実力が窺える。

 

 

「だからこっちにまでフルニアが来たのね。狩りが終わった後の夜は―――」

「うん、今日は空いてる」

「なら頑張ろうかしら」

「そんなのでテンション上げるのかー」

「大事よ?肌の為にも」

「…まぁそうだね。ほい」

「っと?」

 

 

突然アイテムボックスを漁っていたフルニアから手渡された淡い光を宿す青い石に、目をぱちくりさせて戸惑うクニケロマ。

 

 

「これは―――」

「ほら、ケロちゃんが欲しがってた霊水晶。あげるよ」

「なッ!?こ、これがあの!?」

 

 

―――タンジアの港―――

そこはギルドや、その傘下が管轄する中でも、動きの制限される水中に生息するモンスターを多く扱うことと、受注条件の限られたG級を取り扱うことから、難関と言われているクエスト受注場所。

そこで取り扱われるクエストは危険度が高いものが多く、ハンターの中でも相当な腕を持っていなければ、命を落としかねないものがごろごろ存在する。

例えばそんな港で稀に見ることの出来るクエストの中に“砂海の大遊宴!!”というものがある。

酒好きな砂漠の街の長からの依頼であり、宴とついていることから宴会を想起してしまうが、そのクエストの難易度は洒落にならない。

神々しき角を持つ―――ジエンモーランの亜種の討伐が依頼内容なのだ。

 

タンジアの港は水中抜きにしても、そういった危険なクエストを多く扱う。

 

その港で、実力をもって信用と名声を勝ち取った二人組がいた。

フルニアはそのうちの一人と知り合いなため、ある程度、タンジア限定のモンスターから入手できる素材の取引ができるのだ。

そのハンターがいらない、と言った珍品として扱われるような素材から、希少なものまで様々な物が。

クニケロマに渡した霊水晶もその一つ。

 

 

「うわぁ…綺麗……初めて見たよ」

「だよねー。私もこれが取引に出るとは思わなかった」

「え?取引…?これまさか裏ルートで、とかじゃないよ…ね?」

「違う違う、ちゃんとした取引、っていうか交換だよ」

 

 

なら、と言って顔を綻ばせるクニケロマに、こちらも嬉しくなる。

 

……千刃竜の鏡玉をぶち込んだ甲斐があったかな。

 

向こうも人生経験が豊富なだけある。

興味が無い振りをして交換しようとしたらレートを一気に跳ね上げられた。

なんとか余ってた鏡玉で取り付くことが出来たが…遺憾である。

しかしその程度、ケロちゃんの笑顔のためなら安い。

 

 

「何だかんだで知り合って長いしね。インテリアにでもどーぞ」

「うん、そうする。ほんとにありがとね」

「よし、じゃあさっさと準備しちゃえ」

「ほいほい」

 

 

立ち上がってアイテムボックスから防具を取り出し始めたクニケロマのお尻を凝視しつつ、私はゆっくりと待つことにした。

 

 

     ○○○

 

 

「おはようございます」

「あぁおはよう」

 

 

クニケロマが日課であるギルドマネージャーに挨拶をする。

 

 

「フルニアちゃんから話は聞いとるよ。行くんだろう?オストガロアの元に」

「えぇ、フルニア、準備は?」

「ギルド条例に引っ掛からない程度には万全」

「…ならいいんだけど」

 

 

以前、この集会場で、禁止されているG級装備のまま入ってしまい、厳重注意を食らった事が思い出される。

しかし万全と言う言葉は確かに正しい。

全身金色、その眩しい装備は――――

 

 

「清々しい程の素材狙いだね…」

「ち、違うし!今他の装備が洗濯中なだけで…!」

「…フルニア、例えばシルバーソルはどうやって洗うの?ブラウスなら分かるけど…」

「グッ……」

 

 

えぇ!ゴールドルナ装備ですよ!!何か文句でも!?

 

そう。龍歴院がなんとか、って言うのはただの口実。

実際はただレアな素材が欲しいだけです。申し訳ありませんでしたぁ!!

 

 

「うん、まぁ…武器は本気だから大丈夫だとは思うんだけどね」

「いや、武器は本気でしょう?普通」

「その理論だと防具はいつもふざけてるってことにならない?」

「…逆に今まで本気だった事が数えるぐらいしかない気がする」

「…え?」

 

 

本当の事だから困る。

しかし武器はいつだって本気だ。

 

…と、言う訳で、今回の武器は何となくこれにしてみた。

 

“滅剣ダークディング”。恐暴竜の大剣だ。

以前素材が余った時、一気に生産、強化したが、割と使ってなくて今回掘り出した、という感じの一本。

ふざけてはいない。性能は高いし、重さも手に馴染む。

ちょっと問題があるとしたら、どこからか吹き出る赤黒い粒子が目に沁みるぐらいである。

 

 

「じゃあ行こ」

「あれ?コルカちゃんは?」

「休養中。ああみえてちょっと無理させちゃってね」

「そうなの…ってもう一匹いなかったっけ?あの…金の」

 

 

その言葉に鈍い汗を掻く。

 

 

「ユニオンはね…盛ってどっか行っちゃった」

「…仕方ないような仕方なくないような」

 

 

その会話にギルドマネージャーが目を細めた。

 

 

「…この二人だって分かっていても少し不安だわぁ」

「ギルドマネージャー、やめて下さい。冷や汗が止まらなくなります」

「ま、頼んだよ、お若いの」

「頑張ります」

 

 

ディノS装備のクニケロマがそう呟くと同時、ラッパの音が響き渡った。

決戦場となる竜ノ墓場へと送ってくれる古龍観測隊の気球が到着したようである。

 

――――特殊クエスト 奈落の妖星 目的地の龍ノ墓場へ向け出発――――

 

 

     ○○○

 

 

「お元気そうで!」

「フフ、ここ最近会ったばかりじゃん」

「そうですけども…」

 

 

三人が入ると少しキツイ、と思う程度の広さの気球の中は、竜ノ墓場という仰々しい名の場所に行く途中だというのに―――随分と賑やかだった。

 

 

「ルミャノちゃん、あなたもやっぱり……」

「あはは…食べられちゃいましたねぇ」

「やっぱりか…」

 

 

幼い頃から、見てきただけに複雑な心情だ。

昔はクニケロマが上手く言えず、「ウニケルマおねーちゃん」と言って遊びに来たのが本当に懐かしい。

女の子から少女と呼べる年齢になり、好奇心の強さから古龍観測隊になるんだ、と言った時には子供特有の将来話か。と話半分に聞くだけは聞いていたが…史上最年少と同じ年齢で本当に古龍観測隊に入隊したと聞いた時には驚いたものだ。

…足用の爪切りが見つからなくて使っていた鎌蟹の劣爪の狙いが逸れて指に刺さる程度には。

 

そして様々な現場で活躍しているとは聞き及んでいたが…

 

 

「古龍観測隊の女にとって貴方は通過儀礼みたいなものなのかしら」

「気球の開放感っていいよね。置いてある器具も壊しちゃいけないんだろうなー」

「話を逸らしているつもりかもしれないけど逆に定まっちゃってるわよ?それ」

「いっけね」

「………ルミャノちゃんは普通の男と幸せになると思ってたのに」

 

 

しかしフルニアと古龍観測隊の関係上、接触は仕方ないと言えば仕方ないことだ。

フルニアは村や街に被害が出そうな龍が発見された、との情報が耳に入った瞬間に、そのクエストを引き受ける。

こんな感じの彼女だが、実力は相当だ。

でなければギルドは、年齢詐称でハンター資格を剥奪している筈である。

彼女は危険と判断された龍を狩るために、各地を回ってはクエストをこなしていく。

そして、そのクエストのほとんどが古龍であるため、観測隊との接触は避けられない。

結果、観測隊の女性はフルニアの魔の手に絡め取られる。

観測員は気球に単独、問題を避けるため、多くても同性のペアが乗るぐらいだ。

基本的に20より上の年齢の女性が就くような職業である古龍観測隊。

忙しさに、男との出会いも何もない仕事だ。欲求不満の溜まり具合は相当だろう。

 

 

「ルミャノちゃんにはどうやって言い寄ったの?」

「え?こう、クエストが終わって帰る時に気球の中で押し倒して、唇奪って、服脱がして――――」

「レイプじゃないの!!」

「違うよ!だって抵抗しなかったもん!!」

 

 

完全に犯罪者を見る目でフルニアを見る。

と、ルミャノちゃんが照れくさそうに笑った。

 

 

「実はフルニアさんの地上を見下ろす顔に見惚れた直後の出来事だったので…このまま流されるのも悪くないかな……って」

「…フルニア、貫通は?」

「してない」

「…ならいいか。ルミャノちゃん、あんましフルニアに近づいたらダメよ?この百合姫はのめり込むと抜けなくなるからね」

「クニケロマさんはどうなんですか?」

「…頭までズブズブ」

「あーじゃあその、っと現場の近くまで来ました。仮キャンプに下ろしたらすぐに離脱するのでご武運を!!」

 

 

ルミャノちゃんが最後に何を言おうとしたのか気になるが…時間が無い。

持ち物をポーチに纏め、武器を背負うと、高度を下ろしていく気球の中は静かになった。

 

―――ロゥォォォ…

 

遠く、下の方で聞き覚えのある音が聞こえる。

さて、いざ狩り行こう。

恐れるものなど何もない。

 

 

――――特殊クエスト 奈落の妖星 龍ノ墓場到着より開始――――

 

 

     ●●●

 

 

フルニアは強風に煽られつつも、何とか空へと昇って行った気球を見送り、青いアイテムボックスを見た。

 

……応急薬を6つ、携帯食料を4つ、携帯砥石を2つで、後は…大丈夫か。

 

ボックスから目を外し、周りを見る。

苔むした尖った岩場に、墜落した観測隊の飛空艇の残骸が散らばり、何とか残った骨組みとプロペラは、カタカタと風に揺らされ音が鳴るのみ。

 

下の、数多のモンスターの残骸が積み重なる決戦の場に降りる時、目の前に見える絶景に息を飲むのはなぜだろう。

そこそこの高さに位置するこの場だから見られるこの景色は、いつ見ても美しい。

眼下に広がる霧のかかった古代林と、強風によって走るように流れる上空の雲の間に見える太陽の光が目に染みて。

 

ふと頬に涙が伝う。

 

口から零れた言葉は、何よりも哀愁を帯びていた。

 

 

「アイテムポーチ忘れた…」

「はぁぁぁ!?」

 

 

問題発生。

座る時に邪魔だから、と外していたポーチをそのまま気球に忘れてきてしまった。

完全にパニックである。私ではなくケロちゃんが。

 

 

「ど、どうするのよ!?戻れないのに!!」

「え?うーん、回復薬5個頂戴。それで大丈夫」

「…あ、そっか。フルニアなら大丈夫ね」

 

 

私の落ち着いた声に、ケロちゃんも落ち着く。

有り難く回復薬を5つ貰い、装備のいろんなところに詰め込み、手でお礼をする。

 

 

「さ、じゃあ行こうよ。骸龍なんて久々だなぁ。古龍の中でも珍しい種だし」

「そうね。最近は目撃情報も無かったぐらいだもん」

「あ、目撃情報と言えば二つ名。ケロちゃんは何の二つ名を追ってるんだっけ?」

「…燼滅刃。まだ一匹しか見てないわ。しかも逃げられたし」

 

 

ギルドで最近見つかったとされる二つ名のモンスター達。

それに対して主に、各地のエース級のハンター達に、ギルドからの指示があった。

二つ名モンスター達の、発見と捕獲、やむを得なければ討伐をしてほしい、と。

しかし実状、発見はあっても、異常な強さにどのハンターも瀕死にすら出来なかったらしい。

私の担当は金雷公だが、本来の仕事である古龍巡りに、まったく進んでいない。

故郷のユクモ村の辺りでは目撃情報がいくつか出ているらしいが…。

しかし、

 

 

「ケロちゃんから逃げるなんて相当だねぇ」

「動きが変なのよ…どこのハンターもそう言ってるわ」

 

 

ギルドの予測では、骨格と筋肉の付き方から原種と異なっているらしい。

未だ不確かな情報しか存在せず、真相は定かでは無いが。

 

 

「っと、じゃあ行きましょうか。時間が無くなっちゃう」

「そうね」

 

 

ケロちゃんの瞳孔を見れば、髪や肌とは対極に位置する漆黒の目が、スイッチを切り替えるように、スッと細くなった。

いつものその癖に、なんとなく笑いが込み上げて。

 

 

「よっと」

「フ―――」

 

 

2人揃って崖の先から決戦の場へと飛び降りた。

 

 

     ●●●

 

 

ガシャン!!ガラガラガラ―――

 

 

着地の音と、それによって跳ねた骨と骨が激しく触れ合って、独特の音を響かせる。

その音に今回の狩猟対象がこちらに振り向いた。

グ、ガガガgggg……バキバキベキ……

下半分が沈んだその巨体が、大量と呼ぶことすら生温い程の骨と擦りあい、押し退け、折れ砕ける音が無数に積み重なる。

しかしそれよりも気になることが一つ。

 

 

「…おっきー」

「う、うん…」

 

 

大きい。以前見たときはこんなに大きくなかったと断言できる程に大きい。

というより纏う骨が厚く、強固になっただけかもしれない。

ともかく大きく太いのだ。何と言うか…二つの首と頭が。

 

―――ガチガチガチ!!

 

と、気を取られていれば、オストガロアの口が歯を鳴らす。

この予備動作は―――――

 

 

「「あ」」

 

 

ルォ゛ゥゥゥウウウヴヴ―――!!

 

 

「ぐっ…」

「ッ―――」

 

 

とんでもない轟音に慌てて耳を塞いだ。

真正面からモロに食らった所為なのか、全身を叩かれているかのようにすらも錯覚できる。

 

 

「あー耳いったい…」

「―――――」

「…?」

 

 

隣のクニケロマが口をパクパクさせている。

どうしたのかと思ったが、すぐに何が起きたのか理解し、確認に入る。

まず耳を澄ます。

少しの耳鳴り以外何も聞こえない。うるさい程に聞こえていた骨の破砕音すらも。

 

……突発性の難聴か。

 

以前もこんな事があったな…と思いつつ、フルニアは手早くクニケロマにハンドジェスチャーで伝える。

するとクニケロマは、軽く顔を顰めた後、手を下に下げるような仕草をした。

恐らくはどのレベルか聞きたいのだろう。

経験から、5段階中の2程度だと判断。指を二本立て、その後、“散開、左”をジェスチャーを示す。

クニケロマはそれに頷き、オストガロアの元へと駆けだした。

 

……さぁて、行きましょうか。

 

フルニアもクニケロマの狙う右首とは逆の左首へと走り出す。

早くも不安な始まり方だが、どうしたものだろうか。

 

 

     ●●●

 

 

……まったく、何してんのかしら…

 

クニケロマは割と愛用している“星砕きプロメテオル”をオストガロアの首元へと叩き下ろしつつ、もう片方の首を攻撃するフルニアを見た。

 

 

「ぬん!!」

 

 

何故か涙を流しながら剣を振るうフルニア。

その様は相変わらず豪快で、強引で、何よりも―――綺麗だった。

美しいとしか言葉が出ないようなほど洗練された大剣の軌跡は、殆どのハンターが見惚れるものだ。

粗削りな自分とは違う“ソレ”に、己は何度も羨望した。

それは初めて一緒に狩猟へと行ったその日から。

 

 

「おっと―――ハァ!!」

 

 

オストガロアの首が細かく震えた。

以前見たその動作に、回避するため構える。

首の叩きつけをギリギリで回避、その足を掛けるところだらけの首を踏み、跳躍、力を溜めていた武器を敵の頭へ、お返しとばかりに全力で叩き付ける。

いつも通りの、気持ちの良い手応えが―――

 

 

「え……?」

 

 

…おかしい。

頭に叩き付けたときの“あの感触”がなかった。

やはり古龍だから、では片付けられない。

テオ・テスカトルも、クシャルダオラでもあの感触に例外はな――――

 

ドッ

 

突如わき腹に衝撃が走る。

痛みは殆どない。衝撃波が伝播するように吹き飛ばされたからだ。

倒れた先で、慌てて立ち上がり、その場から飛び退く。

 

ズズズ…バキバキバキ!!

 

危なかった。先程までの場所に下から突き上げるように首が出てきたのだ。

 

 

「フルニア――!ありがと!!」

 

 

まだ聞こえないだろうが、“一度助けてもらった”分のお礼を叫ぶ。

ボーっとしていた私を蹴り飛ばしたのは彼女だろう。

流石は古龍を狩る側のエキスパートだ。状況判断力が優れている。

当然返答は無い。むしろ気が付けば彼女の姿が見当たらない。

視界内に見えるのはオストガロアのみ。

無事だと良いのだが……

 

 

「はぁぁぁっ!!」

 

 

しかしそれを考えるのは無意味だ。

彼女ほどのハンターがその程度で致命傷を負う訳がない。

今私に出来るのは、この古龍にダメージを与えるのみ。

集中しなければ。

 

プロメテオルを振り下ろす。

――オストガロアの顔がこちらを見据えた。

厚く骨を纏う首を蹴って跳ぶ。

――纏っているだけとは思えぬ骨の強い反発力に、高く跳べた。

そのまま勢いをつけて叩き下ろす。

――骨の破砕音が耳朶に響く。

そして勢いのままプロメテオルを跳ね上げる。

――首を逸らして怯むオストガロア。

そして最後に、

 

 

「スピニング―――――」

 

 

ハンマーを首相手に、地へ付けないよう、遠心力任せに力いっぱいに叩き回す。

 

1周目に纏う骨を削り、

勢いのついた2周目には削った骨を叩き割り、

更に勢いのついた3周目では骨の奥へと一撃を見舞い、

4周目では肉を叩く良い感触が手に届く。

そして――――

 

 

「メテオォォォォ!!!」

 

 

最後に全力で回した遠心力の勢いで、ハンマーを叩き下ろす。

 

グ、ガッ!!

 

鈍い、鈍い音が響いた。

肉の奥、硬い感触が手に届く。

 

ル゛ア゛ァァァ…

 

断末魔のような声を残してバキバキと音を立てながら地へと引っ込む首に、溜息を吐いた。

 

……まず一回。

 

以前よりも纏っていた骨が相当硬い。

討伐にはかなりの時間を要しそうだ。

 

とりあえずポーチから砥石を取り出し、ごちゃごちゃした思考のアジャストついでに武器を研ぐ。

 

シュリ…シュリ…

 

この音はいつだって私の集中力を高めてくれる。

思考が一本化、一旦全てをわすれt

 

 

「ど―――っせぇえい!!」

 

 

……このタイミングは狙ってやってるのかな?

 

思わず声のした方を振り向いてしまった自分に嫌気が差しつつ立ち上がる。

どうやらフルニアの方も首を引っ込ませることが出来たようだ。

 

 

「返答はいらない!本体を襲撃!!」

 

 

フルニアの高い声が周囲に響く。

指示は的確だった。

武器をしまい、おおよそ15歩程離れていたオストガロアの体へと走り出す。

既にフルニアは、刃の通らない硬い体を大剣で打ち続けている。

私もその横に並び、ハンマーで打ち叩き始めた。

 

ギン―――ガッガッ―――ギィン―――

 

硬い。ただ硬い。

二人の武器が弾かれ、独特の音が鳴る。

 

 

「お!?」

 

 

突然フルニアが奇妙な声を漏らした。

こちらはそちらを向かず、攻撃を続けながら声を掛ける。

 

 

「何!?」

 

 

そして声を出してから気付いた。どうせ聞こえていないのだと。

しかし、

 

 

「聞こえる!聞こえるようになってきた!!」

「それ本当!?」

 

 

思わぬ報告に声を上げた。

突発性としては回復が早かったので、後が随分と楽になる。

 

 

「ケロちゃん!一旦体制を立て直そう!!多分潜るよこいつ!」

「りょーかい!」

 

 

とりあえず後退、様子を窺う。

 

シュリ…シュリ……

 

 

「余裕ねぇ」

「いや刃毀れが気になるのよ。…あぁもう!携帯砥石だからやり辛い!」

 

 

どこら辺に刃毀れがあるのか分からない外見の武器だが、使っている当人には分かるのだろう。

 

ズズズズ―――ギッ、ベキベキ…

 

巨体が動いた。

何となく二枚貝の貝殻のような外見だなぁ…と思いつつ、動作を確認する。

フルニアの言う通り、骨を砕きながら地へと潜っていくオストガロアに息を呑んだ。

 

……解析の難しい古龍の動作を見逃さないとか、ほんと恐れ入るわ。

 

異常なほどの観察眼をもつこのフルニアというハンターは、一体どこで知識を得ているのだろうか。

毎度毎度不思議に思う。

 

ゴゴゴゴ……

 

不自然な地響きが下から聞こえてきた。

この攻撃なら対処方法ぐらい分かる。

その場から全力で前転回避。

 

ゴッ―――ガラガラガラ…

 

骨の大地から勢いよく首が飛び出た。

剥がした筈の骨が全て元に戻っていることに、今までの行動の意味を問いたくなるが、ダメージが入っていることは理解しているため、グッとその気持ちを抑える。

 

ゲガルァグルァ――

 

吼える、というよりかは口から漏れ出てしまったかのようなオストガロアの鳴き声に鳥肌が立つ。

 

……キッモ!

 

以前も聞いたこの鳴き声は本当に苦手だ。

嫌な音、というよりか、耳障りが非常に悪い。

 

ズ――メキメキメキ…

 

首が骨の中へと引っ込んだ。

行動の度に聞こえてくる骨の破砕音が、耳に残る。

前回はクエストが終わって三日は残った。

 

…ほんと大っ嫌い!!

 

しかし龍歴院から派遣されたギルドマネージャーが依頼主のこのクエスト。

私が避けて通れるクエストではない。

 

 

ゴゴゴゴ…グァ――!ガラガラガラ…

 

 

再度首が飛び出てきた。

 

 

「フルニア!前みたいなことしないでよ!?」

「勿論。分かってんよ!」

 

 

青く発光する高圧ブレスが頭を中心に、放たれ、円を書くように動き出した。

安置である首の根元に避難しつつ、根元をフルニアと集中攻撃する。

硬い。この硬さはおかしい。

だがめげる事無く骨を削り、打ち続ける。

 

ガィン―――ギン―――ガンッガンッ―――

 

いや、そんなことより、

 

 

「あんたの武器さっきっから目に沁みるんだけど!?」

「あ、やっぱり?私もそう思うんだよね」

 

 

フルニアの振るう剣がこちらの近くを通るたびに涙が流れる。

先程フルニアが涙を流していた理由はこれだったのか。

しかし沁みる。赤黒い粒子が目に沁みる。というか痛い。

さすが悪名高いイビルジョー。武器まで駄目だ。

 

…謎の偏見を頭の中で論じつつ、手を休める事は無い。

 

 

「おぉッ―!?」

「フルニアッ!!」

 

 

突如、オストガロアの首を挟んで奥にいたフルニアが、青い残光を残して右に吹っ飛んだのを見る。

もう片方の首が放ったブレスがたまたまフルニアの位置を通ったのだ。

驚いて一瞬止まるが、すぐに思考を切り替え、武器を収めて距離をとる。

吹っ飛ばされたフルニアの方を見れば、既に立ち上がり、粘液塗れの自分の体を見回していた。

 

 

「運がないなぁ…。ねぇ、この青い光かっこよくない?臭いけど」

「そうね。とりあえず目に痛いからそれをどうにかして頂戴。臭いし」

 

 

ピッピッと手に付いた粘液を払おうとしているが、まったく払えていない。

その様子にため息を吐く。

 

 

「あんた前も経験してんだからどうにかしなさ、い」

「おっ、出たねー」

 

 

ズズズズズ…ザァン…

 

骨の大地の孤島の途切れ目、粘液の溶けだした透明度の高い水色の海とでも表現すればいいのだろうか。

その海からオストガロアが浮上し、遊泳し始めた。

幽霊船を想起させるその見た目は―――結構好きだ。

 

 

「さ、私は切り込むけどケロちゃんは?」

「届きにくいからバリスタ。あの水臭くてやだし」

「りょーかい。頼んだよ」

 

 

粘液塗れのまま走り出したフルニアに若干の不安を得つつ、私もバリスタ発射台へと走り出した。

バリスタの反動を抑えられる技術が欲しい…などと思いながら。

 

 

     ●●●

 

 

……あれ?柔らかい?

 

大剣で露出したオストガロアの甲殻下の側面を切り付けつつ、ふと気が付いた。

前回は新種だからとはしゃいでいて、覚えていることが少なく、ひっそりと反省会行きだった記憶が甦る。

 

 

「おっと」

 

 

噴出口のような部位から飛び出てきた粘液の塊を躱しつつ、溜め息を吐いた。

 

……古龍相手だとテンションが上がっちゃうんだよなぁ。

 

いつも思う。私は考えがちょっとずれている、と。

街を襲撃する古龍を多く狩っていることから、救世主、実力者、などと勘違いされているが、実際は違う。

ただ古龍が好きなだけ。狩る理由なんてたったそれだけだ。

 

だから古龍を狩る時は、テンションが上がるし、何よりも集中できる。

 

一種の病愛に近いものかもしれない。

この事を知っていたのは、今はもういない、母と父ぐらいだろう。

 

 

「むんっ―――せいやぁ!」

ゥ゛、ル゛ァアアア―――ッ!!

 

 

だからこそ、ハンターになる前から古龍を調べ、ひっそりと危険地帯の近くに行っては望遠鏡で観察したものだ。

 

だからこそ、

 

……この古龍を知りたい――!

 

そのために、全身全霊をもってこのオストガロアを討伐しなければ。

武器を逆手に持ち替え、バックステップ、地へと大剣の刃を当て、そのまま開いた間を全力で走る。

 

 

「食らァ…えぇぇ!」

 

 

骨の大地を引きずった大剣があまりの勢いに、火花を散らした。

いつの間にか粘液は固まり、動くごとにパラパラと剥がれていく。

 

 

ギギギギギギギ…ッ!

 

そしてそのまま…力任せに跳ね上げる。

 

 

「地・衝・斬!!」

 

 

凄まじい音と共に、蒼黒い血が、肉片と共に飛び散った。

決して快いと言い難い感触が手に伝わり、断ち切ったのだと実感する。

 

 

ゥゥ゛ルァ゛―――

 

「お!やっぱ効いてる!」

 

 

口周りの骨をカタカタと鳴らしながら怯んだオストガロアに、内心でガッツポーズをしつつ、一旦距離をとる。

と、

 

ブォ――――ヴァツッ―――!

 

 

「あぶなっ!ちょっとケロちゃーん!?」

 

 

顔の真横を通ったバリスタに、抗議の声を上げた。

見事に先程、地衝斬で切り付けた部分へと正確に当てた腕は凄いと思う。私には到底無理な技術だ。

 

……しかし、タイミングというものがあるでしょうに!!

 

 

「あーごめーん!!この台の動く限界位置ギリギリだったからさー!!」

 

 

……タイミングとしては正しかったようだ。

 

何か言いたい気持ちが一瞬で萎える。

だって返せる言葉など、じゃあ仕方ないよねー。の一言だもの。

 

 

「…やっべ」

 

 

いつの間にかオストガロアがこちらを向いていた。

…二つの口から粘液を垂らしながら。

 

 

「ぬおぉぉぉぉぉ!?」

 

 

全力で急旋回、そのまま龍の方向を見ず、骨の大地に身を投げるように、言葉通り、全力で五体投地した。

その状態で、高圧の粘液ブレスが、先程まで私がいた位置を、寸分違わず下から上へと薙ぎ払うように放たれるのを確認する。

 

……あっぶなぁい。

 

気の抜けたような感想だが、これが素の表現。

しかしそんな緊張感のない内心とは裏腹に、全力で遠ざかるように走り出す。

内心と外見が一致しないのはよくある事だ。

そしてなんとかケロちゃんの元へとたどり着く。

 

 

「フルニア!大丈夫!?」

「足の先に粘液が付着、それ以外は特になし」

「OK、じゃあどうする?」

「前回はあのまま下へと潜った。今のうちに砥石でも研ぐのが―――」

 

ゴッ

 

「最適じゃない…ね。見たこと無い予備動作だ。主にブレス攻撃に注意必須」

「そうね。同感よ」

 

 

二つの口から明らかに粘液ではない光、というより雷が漏れ出ている。

色は鮮やかな赤と白の混合。

周囲にまで赤い粒子を散らす様は見るからにヤバそうな雰囲気である。

しかし私の内心は湧き上がっていた。

前回は一度も見ることの出来なかったこの動作は、どんな攻撃の予備動作なのだろうか。

一気に視野が広がり、周囲の音が歪んだように曖昧になる。

私はオストガロアの口元へと集中した。

 

 

     ●●●

 

 

……出たよいつもの…

 

異常なほどに興奮した、最早獲物を見つけたイビルジョーのような目をしたフルニアに若干引きつつ、溜め息を吐いた。

いつもは可愛いたれ目なのに、脅威と呼ばれるような龍、主に“強い”古龍に対面すると、目尻が吊り上がった後、瞳孔が全開とでも言わんばかりに開き、瞳が充血するのだ。

それは彼女の灰色の瞳と合わさり、紅い湖に朧月が浮かんだように見える。

恐らく、だがこの姿の彼女を見た者は少ないだろう。

彼女と肩を並べるようなハンターではないと、脅威と称される古龍のクエストに連れて行ってくれないからだ。

 

 

「……」

 

 

ここにきて今更だが、信用されてんだなぁ…としみじみ感じる。

それにしても彼女の癖がここで出たという事は、彼女がオストガロアを強敵だ、と認識したことになる。

きっかけは明らか。あの口から漏れ出た赤い光だ。

 

 

「ちょ、フルニア!?」

 

 

それは突然だった。

フルニアがオストガロアの元へと走り出した。

それに対し、こちらは何もできない。

あの状態だとこっちの声ですらまともに聞こえていないだろう。

 

そして遂に、

 

 

「うわ、来た!!」

 

 

その二つの口からブレスが放たれた。

粘液の青い光とは真逆。赤光の光線と例えるべきそのブレスは、何物にも似つかない。

否、色なら近いものが一つだけあった。

 

以前、本当にトラウマとなりかけた依頼、“白光”という謎のクエストに出てきた恐ろしい竜が落とした雷が近い色だった気がする。

しかし狙いがおかしい。

首元に撃ち付け――――

 

ぐいん。

 

「おぉわ!?」

 

 

オストガロアの口が赤光ブレスを地面に撃ちつつ、ゆっくりと上を向いた。

当然、ブレスは口の動きに追随する。

上へと打ち払われるようなブレスの赤い光に視界が染まった。

 

慌てて横へと五体投地、ギリギリでかわし―――

 

ガギッ

 

「――――ッ!」

 

 

ていない。否、躱しきれなかった。

 

タイミングが遅れたことによって、脛から下がブレスに飲み込まれたのだ。

足先が強烈な水流に飲み込まれるかのように、弾かれる。

踏ん張ることも出来ないため、ブレスの方向に、斜め上へと吹き飛ばされたように吹っ飛んだ。

上に撃ち払われるような形が何よりも行幸だった。

最後まで、全身ごと巻き込まれるような事にならずに済んだからだ。

が、

 

ドサッ

バキバキ…

 

 

着地姿勢など存在しない。

背中から、骨という突起物まみれの大地へ着地、破砕音と共に、全身を衝撃が走り抜ける。

防具が無ければ本当に死んでいたかもしれない。

そんな痛みに起き上がることが出来なかった。

 

 

「げ、フ…ゲッホゲホ!!」

 

 

呼吸が全て、詰まるような咳へと置き換わってしまう。

当のオストガロアは一旦落ち着いたようで、追い打ちのブレスは来ない。

と、明るかった視界が暗くなった。

あ、死んだ?と思ったが、未だに痛みは消えてくれない。

 

 

 

「大丈夫かい?」

「あー…ゲホ、う、ん。ちょい辛い」

 

 

こちらを覗き込むフルニアの顔で影が出来ているのだ。

まだ昼で、上も明るい為、逆光で表情は見えない。

もしも心配そうな顔をしていたら…と思うと、胸がキュッと苦しくなる。

己の至らなさで、フルニアにそんな顔をさせてしまうなんて、情けなさと罪悪感が凄まじい。

 

 

「…ごめんね。いつもみたいに突っ込んじゃって」

「―――ッ、い、いや、大丈夫。今回のこれは私の自己責任。フルニアは悪くないよ」

「……ごめん」

 

 

案の定、だ。

声音からして、フルニアは申し訳なさそうな顔をしているに違いない。

…悪いのは私なのに。

 

 

「立てる?」

 

 

差し伸ばされた手を取るのが少し辛い。

 

 

「…えぇ、立てるわ」

 

 

彼女の手を握り、引き上げてもらう。

グローブ越しなのにフルニアの手の温度が伝わった気がして、少し心臓が高鳴った。

 

……優しすぎ。

 

彼女に女の子、女性が惹かれる理由が良くわかる。

 

ゴゴゴゴ―――

 

地響きが鳴り始めた。

 

 

「さ、来るよ。構えて構えて」

「はいさー」

 

 

なるべく気楽に返事を返す。

慌てず立ち上がり、ゆっくりと武器を構える。

否、“ゆっくりとしか構えられなかった”、が正しいか。

ブレスの当たった右足を中心として、感覚が薄くなっている。

プロメテオルもほぼ左腕で持っているようなものだ。

心からどちらを持って行こうかと迷っていた“崩槌オテルカムルバス”を選ばずに良かったと思う。

あの重さだったら確実に一旦休みだった。

と、フルニアが顔を顰めた。

 

 

「…右半身、足から腰、右腕もだね。痛む?」

「ッ、…いえ、ちょっとすれば元に戻ると思う」

 

 

バレている。

本当に観察眼の優れたハンターだ。

こちらの隠し事すら全て知っているのかもしれないレベルである。

するとフルニアが何やら自身の全身をまさぐり始めた。

 

 

「っとあったあった。じゃあこれ食べて」

「と?」

「うちの故郷のお土産の温泉タマゴ」

「…ポーチ無かったんじゃないの?」

「……ちょっと言い難いとこに入れたまんま忘れてた。あげる」

「私はゴミ箱じゃないのよ?」

「大丈夫!賞味期限は曖昧だから!!」

「ダメじゃないのそれ!?」

 

 

しかし殻を割ってみれば、痛んでる様子は無い。

覚悟を決めて、口に含んでみれば、濃厚な半熟タマゴの味が広がり、

 

 

「…美味しいわね」

「ホント!?あっぶな!!」

「不安なのよその反応!!」

「おっと、そんなことより来たよ!」

「そんなこと!?」

 

 

しかしオストガロアが這い出てくるのも事実。

温泉タマゴのおかげなのか、ちょっと痛みも引いた気がする。

また首を破壊しなければ――――

 

 

ズズズ――バキバキバキ!!

 

 

「…ハハハ、なにあれ」

「…私が分かるわけないでしょう?」

 

 

オストガロアは変態だ。

…あぁ、いや、間違えた。

“オストガロアが変態した”

 

私もどうなっているか分からない。

いや、むしろなんかもう…どうなっているか分からない。

同じこと二回繰り返した気がする。気のせいか。

 

 

「ケロちゃん。私ちょっと頭が働いてない」

「私もよ」

 

 

何かよく分かんないけど胴体だと思っていた部分が顔だった。

もう帰って寝たい。

 

 

    ●●●

 

 

「ケロちゃん。私ちょっと頭が働いてない」

「私もよ」

 

 

なにこれ。というかどうしようこれ。

今まで私たちが攻撃していた部分とは別に頭が出てきました。

 

……いや、状況を整理しよう。

 

まずケロちゃんが動きづらそうだったから、タマゴ渡して、オストガロアが地から這い出てきて、向きが逆だったからやっぱ古龍だし頭おかしいんだな、と思って見てたら、本体だと思ってたののこちら側がガバァ上がって、小さな触手の間にイカみてぇな口と、黄色く光る目が出てきました。

何言ってるか自分でも分かんなくなってきましたよ?

 

しかし間違ってはいないためにどうしようもない。

 

やっぱ古龍、というかやはり古龍。

生態というか存在がおかしい。

 

 

ギ、ギュギギギュリィィィィ!!

 

 

というか鳴き声もさっきと違う気がする。…うるさっ!

古龍観測隊はこのことを知らなかったのか…?

 

……あ、戻ってこなかったんだっけ。

 

とりあえず落ち着こう。

はい吸って――――

 

 

「ゲッホゲホ!」

「馬鹿、何してんの!」

 

 

オストガロアが吼えたときに散らされたガスをおもっきし吸い込みました。辛い。

しかし逆に落ち着けた。

さて、

 

 

「何処を攻撃する?」

「え?いや…今まで攻撃してた首じゃない?あの本体はガスにまみれてるし」

「…だよね」

 

 

発光する、いかにも有毒です。と自己主張するような青いガスにまみれた顔を見直す。

恐らくあれが本物の顔だろう。

いや、二つの顔も多分本物ではあるのだが。

 

しかしあのガス、予想以上に厄介なのだ。

吸うだけで肺が侵され、触れる時間が長いと体がネバネバする。あと臭い。

 

 

「じゃ、いこうか。動ける?ゲホッ」

「動ける」

「OK。じゃ私は右」

「なら私は左ね」

 

 

そしてそれぞれの狙う首へと走り出した。

 

 

     ●●●

 

 

……ホントに効き目凄いわね。あのタマゴ。

 

痛みが引いた手足に驚きを隠せない。

本当に効いたのだ。

 

 

「はぁぁ!」

 

 

プロメテオルを叩き下ろす。

叩く

叩く

叩く

 

首が逃げるように潜るが、狙いを変更、ガスの出ていない本体の側面を狙う。

 

ダン!ダンッ!!

 

肉を打つ良い音がする。

意外と柔らかい為、手応えもいい。

 

 

「っと」

 

 

下から間欠泉のように吹き出た粘液を注意深く躱し、そのまま横殴り、叩き下ろしのコンボへと繋げる。

もう油断で攻撃を食らうなんてありえない。

言い切るレベルの覚悟だ。

フルニアを気遣わせたくない、迷惑を掛けたくない。

彼女のことが本気で“好き”だからこそ、そう思う。

 

彼女の中では私なんて各地にいる女の一人でしかないなんて分かっている。

だが、それでも、“彼女に”恋してしまったのだから仕方がない。

 

 

「……」

 

 

男に興味を無くしてしまった自分に、自身でも困惑している。

昔、娘だと言えるような年の頃は、男の人と結婚して、幸せにハンターを引退する予定だったのに。

だがフルニアを責めるつもりはない。

彼女の遊びに、本気になってしまったこちらが悪いのだから。

 

 

「はァッ!!」

 

 

そんな複雑な心情をぶつけるかのように、オストガロアを叩き殴る。

下からこちらを狙うかのように吹き出る粘液に攻撃を阻害され、こちらのストレスが増していく。

 

 

「ッ」

 

 

苛立ちに押されるように助走をつけた。

オストガロアの胴に足を掛ける、というより、蹴り上がるような勢いで宙を舞った。

最も高くなったところで腰の横に柄を置き、力を溜める。

そして落下の勢いと合わせ――――

 

 

「せぇッ――――いァ!!」

 

 

溜めた力を開放、全力で振り下ろした。

肉を打つような手応えじゃない。

最早それは、砕くような手応えだった。

 

いや、実際に背中とでも言うべき箇所の一部が割れた。

 

 

ギュルリイィィイィ!!

 

 

しかしオストガロアは怯まない。むしろ激怒したような声を上げた。

その声と同時に、地から青い光が溢れだす。

 

 

「ケロちゃん!一回引こう!!なんかマズイ!!」

「OK!」

 

 

フルニアの緊迫した声に、己の劣情を晒さないよう、溌剌と答える。

そして私は一旦様子を見るために、モドリ玉を下へと叩き付けた。

 

……そういえばフルニア、モドリ玉…!?

 

 

「フルニア、あんた馬鹿なの!?」

「何だt―――!?」

 

 

思わず返してしまったかのようなフルニアの言葉を半ばに、私の視界は青く染まる骨の大地から、“青い光に包まれた”岩場へと移り変わった。

 

 

「なっ――――!?」

 

 

     ●●●

 

 

……ヤバいなー、確実にミスった。

 

ポーチを忘れたからモドリ玉がない。

ブラキディオスの粘菌を纏ってこちらを攻撃してくる首を躱しつつ、何とか距離を取り、全貌を見る。

 

片方はケロちゃんが引っ込めることに成功したのか、どこにも見当たらないが、私が担当していたもう片方は、頭だった箇所がほとんど粘菌に包まれながら、未だうねうねと動いている。

 

……駄目だなぁ、私。

 

ちょっと劣等感が顔を出すが、すぐに頭から追い出す。

後退が出来ないなら逃げるよりまず観察が一番。それ以外は二の次だ。

 

 

まず首。

砕竜の粘液が顔を包むようにあり、首には一切ついていない。

始めは驚いたが、そういう生態だと思うと面白い。

そして確信に近い事なのだが、多分あれは顔と呼べるものではない。

恐らくは触手に近い部類のものだと予測できる。

だって…

 

……あれ、肉が無いよね。

 

よく見ると肉が見えない。皮の代わりに骨があるだけだ。

骨の内側なら確かに肉と判断はできる。が、

いくら古龍でも流石に“骨と肉が逆”の古龍など存在しないだろう。

目と口に見える箇所は、触手の発光する箇所が見えているだけと、粘液で何かの竜の顎と頭蓋骨を接着したと考えられる。

 

だから咆哮時、あんなに顎がガタガタとおかしなを挙動していたのか、と合点がいく。

そもそも咆哮と呼んでいいのかすら謎だが。…異音?

 

 

そして本体。

 

首が二本、その首の後ろに本体が控えている、と見解されていたオストガロアだが、まずそれが間違いだ。

私の考えが正しければ、この古龍はヤドカリに近い。

 

……貝のような骨に体を隠し、触手で身を守るような生態かな?

 

しかし弱いから体を隠しているとは思えない。

ここまで巨大な古龍は、観測隊でも出現が確認された瞬間に即警戒だ。

では一体何のために体を骨で守っているのだろう?

 

……やっぱ古龍だね。謎だらけ。

 

―――さて、観察もこの程度にしないと。

 

ケロちゃんが引っ込めたはずの首…触手が復活した。

顔と呼べる部分に付着するあれは……

 

 

「ラギアの背電殻だぁ!?」

 

 

言葉通り。

ラギアクルスの背電殻が骨を纏う触手の先に付着し、放電現象特有の音が鳴る。

 

……雷はマズイ!!

 

ゴールドルナのこちらとしては、雷を纏う一撃は致命傷になりかねない。

なぜなら耐雷性能は最悪という“ゴールドルナ装備”だから。

 

 

――――!!

 

 

最早咆哮とすらも呼べなくなったそれが、粘液の薄まった色で染まる空気に響き渡った。

奴の触手に走る赤い点のラインが、残光で青い空間に線を描く。

そして、

 

 

「ぬ、あ―――!?」

 

 

触手がこちらに背電殻を発射してきた。

反射的にギリギリで回避。

しかし向こうもめげない。

こちらが回避したと視認するや、あちこちへとばら撒くように背電殻の欠片を射出し始めたのだ。

当然始めは、怒りのあまりに我を忘れたのかと思ったが、そんな事は無かった。

近くに刺さった欠片同士が雷で繋がったのだ。まるでワイヤートラップのように。

これでは迂闊に近寄る事すらできない。

 

 

「…賢いじゃん」

 

 

しかし心に浮かんだ言葉は苛立ちや、憤怒の感想ではなく、感嘆の一言だった。

 

ズズズズ――――

 

オストガロアが骨の中へと潜った。

 

 

「フルニア―――ッ!!」

「ケロちゃん!」

 

 

空、キャンプ地点から降りてきた声に、視線を上げる。

ガシャン!!と結構な音を立てて着地したケロちゃんは、双剣の鬼人強化状態とでも言わんばかりの素早さでこちらに詰め寄ってきた。

 

 

「あんた馬鹿なの!?ねぇ!!“前みたいにまた一人で傷付くつもり”だったの!?」

 

 

捲し立てるようなケロちゃんの言葉に気圧されるが、何が言いたいかは分かる。

 

 

「ごめんなさい。ポーチが無い事を失念してた私が悪かったよ」

「……いえ、こちらこそごめんなさい。ちょっと気が昂ってたわ」

 

 

なんとか落ち着いてくれたようだ。

しかし以前の“あの件”、結構根に持っているのか。と驚く。

まぁそんなことより、

 

 

「キャンプの方、何かあった?私は見れないから…」

「凄かったわよ。雲の地平線、って表現もおかしい気がするけど、見える位置は全て青く染まってたわ。どんなエネルギーを持ってんだ、って話よ。正直、一点集中ビ――ム!とか言われたら絶対消し飛ぶわね」

「…笑えないって」

「でも事実よ。見える場所は全て染まってたわ。あの様子だと古代林も多分真っ青」

 

 

…………。

 

もう黙るしかない。

エリア一帯が一匹の古龍によって動かされている?

古龍観測隊は完全に危険度を見誤っていた。

 

……そんな古龍、出現確認と同時に避難警告確定じゃない。

 

本来であれば、アマツマガツチや、ラオシャンロンなどと同格の扱いが正しい。

それはまさに天災。

 

下位のクエストに回ってきた時に受けたのが私たちでよかった。

他のハンターに回ったら危険だ。

 

己惚れる訳ではないが、このレベルの古龍は各地のエース級じゃなければ対処しきれない。

が、古龍観測隊も新種には対応に困る、ということか。

 

 

「で、あの首は何?進化?」

「え?あぁ」

 

 

ケロちゃんの首を傾げる動作を可愛いと思いつつ、情報交換をしていく。

 

 

「まずあれは首じゃないと思う」

「…?」

ズズズ―――

「あ、あの雷が出てる触手は欠片を飛ばすから注意。海竜の背電殻が元だから痛いよ。粘菌は砕竜と同じで付着から爆発。で、くるよー」

「触手ね、納得。というか緊張感0ね…」

 

 

飛び出てきた二つの触手と本体に、軽い警告をする。

ケロちゃんも素人ではない。目に力が入り、狩人の目に変わる。

 

 

「さぁて、いきますかい」

「気が抜けるから音頭とらないで」

「ひっど」

「ほら、躱さないと触手が―――」

 

ダァン!!

 

「危ないね」

「…あなたのスタイルって結構おかしいわよね。特に関節」

「気にしては…いけない?」

「私に訊かないでよ」

 

 

癇癪を起した子供の足のように振り回される触手と、それの副産物を躱しながら話をする。

他人目から見たら異常に見えるだろう。

雷と粘菌が舞い散る青い空間で、踊るように駆けまわる二人が話し合っていたからだ。

しかも首に近づくときは、素早く攻撃を加え、反撃が来ないタイミングで逃げる。

それを二分ほど繰り返しただろうか。

 

 

「お?」

「あら?」

 

 

下から溢れ出る青い光が収まった。

が、ヤバい。青い光は収まったはずなのに空気がヤバい。

それは肌がピリつくような…プレッシャーに押しつぶされそうな感覚。

 

 

「…本気…かな?」

「………」

 

 

無数の赤い粒子が宙を舞い踊る。

今まで噴出していた粘液ガスがピタリと止まり、

 

ギリ、リュィィィイリイ―――ッ!!

 

……うん。本気モードですね。

 

奴の口から赤い雷のようなものが走っては消える。

 

 

「この感覚…あの時と同じだ…」

 

 

それはアマツマガツチの目の色が変わった瞬間に近い。

“触れてはいけない逆鱗に触れてしまったかのような恐怖”。

武器をしまい、ケロちゃんに近寄る。

少し感覚が高揚しているが、別に会話に支障はない。

 

 

「さ、多分終盤だ。いこう」

「…!?え、えぇ。そうね」

 

 

……はて、非常に驚いたような顔をしているのは何故だろう?

 

 

     ●●●

 

 

……初めて話せた!?

 

 

目が充血した状態の彼女と話せたことに驚きつつ、オストガロアを見る。

完全にヤバいですね。分かります。

 

粘液ガスは収まったが、周囲にすらも舞い散りだした赤い粒子が肌に触れた瞬間に鳥肌が立った。

 

……この粒子…!

 

龍属性の性質が高濃度に凝縮、固まったものが粒子となって舞っているのだ。

龍属性を操れるモンスターは少ないが知っている。

獄狼竜、恐暴竜、そして――――

 

……あ、れ?

 

何て言おうとしたんだっけ?

確かに何か言おうとした。が、思い出せない。

霞がかった感じとでも言い表そうか。

何だったか。逆向きの…こうか、く?

 

……まぁそんな重要な事じゃないよね。

 

それより、だ。

オストガロアの能力が完全におかしい。

 

この竜ノ墓場全域に舞い散る粒子が“全て龍属性の結晶”なんて、一体どれ程のエネルギーを溜め込んでいるのか。

 

 

「一撃ビームとか出たら泣く」

「当たったら涙ごと蒸発しちゃうだろうね」

 

 

しかし、

 

 

「ねぇ、フルニア、あなた何もないの?」

「?なんかほしいの?」

「いや、何でもないならいいや。こっち見ないで」

「酷いッ!?」

 

 

いやだって、充血した目で見られるの怖いんだもん。

なんかもう充血ってレベル超えて赤いし。

 

 

「っていうか話してる暇はもうないみたいね」

「…疲れてきた」

「頑張って頂戴。豪剣の百合姫さん」

 

 

……顔を顰めるのはいいけれど、その目だと鬼みたいよ。

 

なんて言える訳もなく、

 

 

「私は右!ケロちゃんは左!行こう!」

「えぇ!」

 

 

そしてそれぞれの触手へと走り出した。

 

 

「「一撃ビームはパスでッ!!」」

 

 

…情けない事を口走りながら。

 

 

     ●○●

 

 

触手から放たれた高圧赤光ブレスを躱し、大剣/ハンマーを構える。

標的が逃れるように退くが、逃がすわけがない。

前転回避で距離を詰め、腹叩き/叩き付けからコンボをつなげていく。

 

上から粘菌/背電殻の欠片が降ってくるが、全て回避。

 

ギュリイィィィ!

 

不快な音が耳朶に響くが、最早そんなことは気にしてられない。

 

 

「「アぁあああ!」」

 

 

ケロちゃん/フルニアと声があった気がするが、今は触手を引っ込ませることが先決。

切り付ける/叩き付ける速度を上げる。

 

――――ッ

 

触手が風を切る音がした。

にやりと口端を歪める。

 

振り下ろされる触手の骨に、引っ掛からないようにギリギリで回避/蹴りあがるように跳ね上がり―――

 

 

「「覇ぁッ!!」」

 

 

大剣/ハンマーを、体の捻りと合わせて振り上げた/落下の勢いに任せて全力で叩き付けた。

ガラガラと触手の纏っていた骨が大量に剥がれ落ちる。

同時に纏っていた粘菌/背電殻までもが剥がれ落ちてくれた。

チャンスなら今だ。大技を―――

 

((叩き込む!!))

 

 

「「これで―――どうだぁ!!」」

 

 

大剣を逆手に/ハンマーを肩前に、“構えた”。

 

 

「地衝斬ッ!!」「スピニング――――メテオォォォ!!」

 

 

     ●●●

 

 

「地衝斬ッ!!」

 

 

骨の大地に滅剣ダークディングの牙を引きずり、全力で振り上げる。

火花の散るような速度で行われたその行動は、触手の柔らかい肌を切り裂き、衝撃波によって一部を削り取った。

青い鮮血の花が咲き、オストガロアが苦悶の声を上げる。

 

……いや、激怒の咆哮かもしれないけどね。

 

 

     ○○○

 

 

「スピニング――――」

 

 

遠心力任せに星砕きプロメテオルを振り回す。

一周目から全力だ。

勢いをつけていくのではない。

“後の事など考えず”、力任せに振り回すだけ。

 

四周目に入る時にはもう、頭の血管がはち切れそうだった。

 

だが歯を食いしばり、耐え忍ぶ。

そしてそんな不満を全て吐き出すように、天高く吠えた。

 

 

「メテオォォォ!!」

 

 

勢いよく、というレベルではない。

叩き付けた時の轟音に、一瞬耳が聞こえなくなったほどだ。

触手の纏っている、というよりもただ付いていただけの骨は全て粉となり、原型はもうなかった。

当然、それを食らった触手もただでは済まない。

見えていた根元は深く陥没し、伸び耐えられなかった皮膚が破れ、血を噴き出す。更にプロメテオルの強力な火属性によって、血が蒸発、黒焦げた跡を触手に残した。

青い霧が立ち上り、オストガロアが憤怒の声を上げる。

 

……まぁ、苦悶とも捉えられるんだけどさ。

 

 

     ●●●

 

首が引っ込んで、怯んだ一瞬の隙をつき、口元へ潜り込む。

鼻を衝く異臭に顔を顰めるが、我慢できない事は無い。

 

 

「これでどうだぁ!!」

 

 

赤い稲妻の走る口にダークディングを突っ込み、刃の下を蹴りあげ、押し上げるように切り裂いた。

その一撃に、遂に斃れ伏すオストガロア。

もうピクリとも動かない。

断末魔の雄たけびは無かった。

古龍にしては随分とあっけない最後だ。

 

腕をダラン、と下げたケロちゃんが後ろの方で座り込んだので、どうかしたのかと駆け寄る。

 

 

「……ふぅ、おわ…った?」

「じゃない?さ、剥ぎ取って帰ーえーろ」

「そうね。っと、治ってる…」

「怪我でもしてたの?」

「いやあんたの……っていいか」

「気になるなぁ、ねぇケロちゃん?」

「うるさい」

「ちょっとひどくない?」

 

 

割と元気そうなケロちゃんとの他愛も無い会話にゲラゲラ笑う。

やっと終わった。これで一日を終えられる。

 

……龍歴院に借りも押し付けられたし、そろそろ食ってみようかな。

 

ギルドは結構食べたし、そろそろ乗り換えてもいいかな、と思う。

そしてオストガロアの素材でも剥ぎ取ろうかと振り返り―――――

 

 

「ねぇ、ケロちゃん。この舞い散る赤い結晶っていつ消えるのかな」

「…あなたのその質問がオストガロアの死体が見当たらないことに起因しているのなら答えは一つよ」

 

ガガガ…バキバキバキ―――!

 

「あいつが死んだら、かな」

「うん。やっぱ?ていうかヤバいぞー?」

 

 

楽観的に言ってはいるが、顔が引き攣るのを我慢できない。

 

 

私達の反対側、竜ノ墓場の端から出てきたオストガロアは、まさに骸龍といった風貌だった。

ボロボロの触手を地へと突き刺し体を支える様子は、しかし惨めとは思えない。

だがそれは気高さや、勇ましさでもない。

幽鬼、とでも言い表そうか。

瀕死というのは誰が見てもわかる。

それでも怖い。ただ怖い。

手負いの獣とは違う。理解出来ない物に恐怖心を抱くというのが一番近いだろうか。

 

 

まさか死んだふりまでするとは……

 

 

「賢いね。結構」

「呑気に言うのね」

「いや、でもないと漏らす」

「……バカ」

 

 

威圧感はない。だが逆に恐怖しかない。

舞い散る赤い結晶が先程よりも強く発光している。

 

 

「モドリ玉をあそこで使うんじゃなかったわ…」

「ごめんなさい」

「あんたのせいじゃない。でもあれは…?」

 

 

オストガロアが全身から青い血を噴き出しつつ、小さく、本当に小さく口を開けた。

そしてその口に、周囲の粒子が集まり、球体ができあがる。

その球体は徐々に大きくなり、赤から白へと色が変わった。

離れていてもとんでもないエネルギーが凝縮されていることが良く分かる。

痛い程の感覚に、肌が泡立つのを抑えられない。

無理だ。あれがどう放たれるのかは分からないが、当たったら重症じゃ済まない。

 

“消し飛ぶ”

 

消滅。一片すら残らないことだろう。

あのエネルギー量のブレスだ。回避可能かすらも分からない。

どうしたものか…

 

 

「…どうする?二人で遺言でも残す?」

「フルニア。…まだ私は死にたくないかな」

「同意。でもどうしようか」

「なんかない?」

「…あの古龍、オストガロアのブレスについて考察の話をしていい?」

「できれば早口、簡潔に」

「じゃあ言います。恐らくね、あのブレスは“溜め始めたら動けないやつ”だと思う」

「根拠」

「繊細というか…多分あれは方向をずらすと暴発する。あのボロボロの触手が本体を固定するようになってるのは発射方向を固定するため」

「つまりは…?」

「あの状態から動けない、ってこと。走るよ!」

「えぇ!?キッツ―――い!」

 

 

しかし小言を言いつつちゃんと走るケロちゃんを私は尊敬しました。えぇ。

チラとオストガロアの方を見る。

 

……発射までの猶予はほぼ無しかなぁ。

 

球体が原型を留めることが限界だ、と悲鳴を上げるかのように歪んでいるのを見てそう判断する。

だが当たったら死ぬというのに、緊張感の欠片すら感じない。

いや、むしろ逆。自覚できるのだが、なぜか感情がハイになっている。

 

 

「フルニア…?」

「ごめん、ちょっとね…楽しい」

「死にたがり?」

「生きたがり」

「ならいいわ」

 

ゴッ―――――

 

 

会話が遮られたのは突然だった。

後ろ手に見えるのは、真っ白なのに、赤く見えるブレス。

いや、もうブレスではない。

“太線”

竜ノ墓場を一直線に走るそれは、そう言い表す以外になかった。

しかも、

 

 

「…動いてない?」

「あっれー!?」

 

 

全力で走りながらも迫り来る高エネルギーに、二人揃って何とも言えない顔になる。

予想が外れた。

だがしかし、こちらを狙っている訳でもなさそうだ。

何処か…暴走に近い気がする。

 

太線の根元、奴を見れば、片側の触手が完全に千切れてしまっている。

反動に支え切れなくなったのだろう。

つまりこのビームは、狙って曲げられていない。ただ傾いてしまっているだけだ。

なら―――

ケロちゃんの目を真っ直ぐに見て言い放つ。

 

 

「ケロちゃん!私からの遺言は無し!そのまま走って!!」

「ちょ、フルニア!?」

 

 

クニケロマと逃げるように走るのではなく、動く太線の元を辿るようなルートに変える。

一刻も早く止めを刺す。そのために―――――

 

 

     ○○○

 

 

……なんかマズイ。

 

彼女の目を見た瞬間に分かった。

あの目は正常な人間がしていい目じゃない。

 

が、しかし追うことは叶わない。

脱臼したような状態の腕では、彼女のような動きは出来ないからだ。

プロメテオルを背負って走ることで手一杯。

彼女が何をしたいのかはよく分からないが…

 

無事でいる事だけを願う。

 

肌がチリチリと麻痺してきた。

どうもブレスが勢いを増したらしい。

あと何秒持つことやら…

走馬燈のように記憶がフラッシュバックし、私ももうここまでかと諦め―――

 

……あ、ベッドの下に昨日使ったディルドとアナパおきっぱだ。

 

思い出したことが録でもなかったので、諦めることを諦めた。

とりあえず遺品整理で自慰道具とか洒落にならん。称号が泣く。

一刻も早く帰りたくなってきた今日この頃。

…心なしか足が速くなった気がする。

 

 

     ●●●

 

 

「あひゃぁ――――!」

 

当たったら消えてしまうかもしれないブレスの真横、私は雄たけびを上げた。

テンションがヤバい。なんかもう笑いが止まらないぐらいヤバい。

隣のブレスが目に痛いから笑える。

足場に錯乱する無数の骨が折れる音に笑える。

―――オストガロアとの距離が10歩を切ったから笑える。

 

 

「今度こそ―――!!」

 

 

残り8歩、ブレスが勢いを増した。

 

残り7歩、回り込むようにコースを変える。

 

残り6歩、全身から汗が引く。全てがゆっくりに見え、舞い散る粒子ですら一つ一つが見える。

 

残り5歩、頭装備の固定金具がブレスに飲み込まれ、金の髪が空気に触れる。

 

4、空気がうなじを走る感覚に笑う。

 

3、背負ったダークディングを両腕で抜刀する。

 

2、右上へとダークディングをもってくる。

 

1、滅剣の重さに、振り回されるように体が左に傾くが、勢いに任せて足を運ぶ。五感は視界以外になくなったように思えた。

 

ゼ―――――ロ―――――!!

 

 

「“豪――剣ッ!!”」

 

 

全てが静止したような視界の中、全身全霊を持って口横の触手へと振り下ろした。

あまりの速度ゆえか、滅剣の刃が火花を散らす。

 

“断”

 

そして残っていた視覚さえも途切れた。

 

 

     ○○○

 

―――――ッ!!!

 

「キャッ!?」

 

 

地響きのような轟低音に悲鳴を上げてしまった。

そのせいか足がもつれ、死んだか。と他人事のように思うが、その時は来ない。

振り返れば、骨の大地が見えるだけだ。

流れでオストガロアを見れば、もう動いていない。

 

……終わっ、た?

 

ズ、ドォン―――

 

鈍い爆発音に、視線を上げた。

暴発した白と赤の太線が、竜の墓場に被さっていた岩肌を消し飛ばしたらしい。

眩しい日の光が差し込み、目を細める。

 

 

「フ、ルニア…?」

 

 

ふと愛しい人の名が口から零れた。

 

どこにも姿は確認できない。

 

オストガロアの下敷きになってしまったのかと、死体に近寄り、各所を持ち上げて確認するが、赤い血すら見当たらない。

ただ一つ、持ち主を失った滅剣が、骨の地に突き立っているだけ。

 

 

―――最悪の結末。

 

 

「……」

 

 

溜め息が零れる。

私は骨の大地へと身を投げ出し、考えることをやめ、目を閉じた。

これが夢である事を望んで。

 

 

     ○●○

 

 

日差しの眩しさに目を瞑っていた。

 

 

「はぁい」

「…あれ、いつこっちに来たの?」

 

 

古代林近くの草原。

昼寝でもしようかと寝転がっていた私に話しかけてきたのはフルニアだった。

 

 

「えーっと、さっき。隣、いい?」

「上でもいいわよ」

「何の話をしているの」

「体位」

「バカちん」

 

 

苦笑、と呼べる表情をして隣に寝転がったフルニアの香りに、胸が高鳴った。

美しさや、可愛さとは違う、艶やかと言い表すべき彼女の美貌はいつ見ても心惹かれる。

 

 

「久々のお休みなんだ。暇だしケロちゃんと過ごすのもいいかなって」

「お休み?どうせまた謹慎でしょ?」

「バレてたか」

「そりゃね」

 

 

彼女がこちらの手を握った。

剣を持つには、少し可愛らしい手だと思いつつ、こちらも淡く握り返す。

 

 

「愛しているわ。ずっと」

 

 

彼女に聞こえないぐらい小さい本音が口から零れ落ちる。

 

 

「――――――」

 

 

サッと草の香りが鼻を擽った。

彼女の声は、風に攫われて私の耳には届かなかった。

 

日光の暖かさに眠くなってきた。

 

 

「お休み、フルニア」

「ん、おやすみー」

 

 

彼女が寝る間際、額にしてくれるキスを期待するが、こない。

昼寝はだめかなー、と思い、睡魔に身を預けようと―――

唇に何かが当たった。

薄く目を開ければ、フルニアと目が合う。

 

 

「サービス」

「…ありがとう」

 

 

不意打ちに頬が緩むのを我慢できない。

卑怯だなぁ…、と今度こそ睡魔に身を預ける。

 

……今日はゆっくり眠れそう。

 

彼女の手の熱が、広がるようになるのを感じながら、私は意識を手放した。

 

 

     ○●○

 

 

「クニケロマさん!クニケロマさん!!」

 

 

気球を下ろした私は、倒れ込むクニケロマの元へと駆け寄った。

慌てて心肺機能を確認。意識が無いだけだと判断する。

 

極太のブレスを上空から確認し、討伐を確認したはいいが、

 

 

「そうだ、フルニアさん――!どこですか――!!?」

 

 

ハンター達の正常な姿を確認することは叶わなかった。

クニケロマの横で突き立った滅剣が、持ち主の不在を悲しむかのように粒子を散らしている。

 

 

「ん、きたか」

 

 

上空から飛空艇の飛行音が聞こえてくる。

先程撃った信号弾を確認してくれたらしい。

 

 

「よっと―――」

 

 

クニケロマを担ぎ、何とか気球に入れる。その後、滅剣を抜き、持ち上げられない重量に引き摺りながらも何とか気球に括り付ける。

オストガロアを運搬しようとする観測隊員といくつか情報交換をし、それが終わるとゆっくりと気球を飛ばした。

 

 

破壊された岩の天井を抜け、古代林の上空に差し掛かったあたりで気流が安定したので、クニケロマを起こすことにした。

叩いても反応は無い。

ならば、と気付剤の特産キノコキムチを口にねじ込む。

 

 

「…辛ッ!なんか辛ひ!!」

「あ、おはようございます」

 

 

やっと目を覚ましてくれたクニケロマに挨拶をする。

 

 

「え、あ…おわっ…たの?」

「はい。討伐お疲れ様です」

「…そう。夢じゃなかったのね」

 

 

キムチを噛みつつ、自分に言い聞かせるように呟くクニケロマ。

哀愁漂わせるその姿に、なんて声を掛ければいいか分からなくなる。

と、ポロポロと涙を流し始めた。

 

 

「え、あ…大丈夫、ですか……?」

「…いなくなっちゃったのよ。フルニア」

「え…?」

「オストガロアのブレス見た?」

「はい。凄いエネルギー量で…」

「多分巻き込まれたんだと思う。確かに止めはフルニアが刺してくれた。でもその後、彼女の姿は無かったわ。残ったのは滅剣だけ。…そうだ、滅剣は!?」

「括り付けてあります」

「…そっか。いつか別れって訪れるものだとは思ってたけど…」

「きっと、どこかで生きていますよ。フルニアさんの事ですし」

「そう、よね。フルニアだもんね。あ、ポーチ渡さなきゃ…」

 

 

フルニアのポーチを胸に抱きつつ、彼女の涙は止まらない。

古龍観測隊の情報では、フルニアは見ていないらしい。

生きていると信じたいが―――見つからないという事はそういう事だ。

私は彼女に会ったのが最近だから、泣くほどではないが、悲しいものは悲しい。

 

 

「……」

「……」

 

 

沈黙が続く。

ベルナ村が見えた。

静かにすすり泣く悲痛な姿に、どこか美しい絵画を見ているような感情に似た何かを胸に感じつつ、高度を下ろすことにした。

いつもは綺麗に見える夕日が、今日は随分と寂しく見える。

 

 

     ●●●

 

 

―――――十分前―――――

 

 

フルニアが目を覚ましたのは湖の畔だった。

 

 

「ゲッホゲホ!!おぇええ…」

 

 

咳が止まらない。ついでに吐き気が凄い。

 

 

「ペッペッ……うっわキモ!!」

 

 

異物感から吐き出すように口を開けてみれば、固まったオストガロアの粘液が出てきた。

 

 

「…あれ?ここどこ?」

 

 

冷静になって辺りを見てみれば、骨の大地ではない。

どこかの…森の中だろうか。

記憶を探る。

 

……あ、ここ古代林…の深層か。

 

特徴的なキノコと苔でなんとなく現在地を察する。

きっと竜ノ墓場から流れ着いたのだろう。

理解したなら話は早い。

とりあえずどうやって帰ろうか考えよう。

 

ベルナ村の近くではあるが、疲れた体では動きたくない。

…というか動けない。

 

 

「え、ちょ、あれ?あっれ!?くぉぉぉ!!動、かん!?」

 

 

疲労のせいか腕が上がらない。そしてついでに足も上がらない。

 

……ならどうやってここに来たんだろう。

 

防具の重さ的に泳がない限り溺死するはずなのだが。

無意識化で泳いだとかは無いだろうし…

 

 

「おいバカ」

「ふおぉぉぉ!?」

 

 

突如後ろから聞こえた声に驚きの声を上げた。

男性の声だ。

顔は後ろに立たれているため、確認できない。

 

 

「静かにしとけ。燼滅刃が来るぞ」

「なっ!?」

 

 

二つ名の事を知っている。

という事はそこそこ実力のあるハンターらしい。

 

 

「……とりあえず引き上げていいか?」

「初めてだから優しくしてね」

「語弊が生まれるからやめろ」

「あ、大丈夫。私女の子にしか欲情しないから」

「だが俺は女の子に欲情するタイプだぜ?」

 

 

沈黙が流れる。

陸に引き上げて貰って何だが、全力で殺気を孕ませて言葉を放った。

 

 

「……強姦したら殺すよ?」

 

 

だがその言葉に対する男の反応は、予想とだいぶ違った。

笑い出したのだ。

 

 

「おいおい、オメェも俺に嫁がいんの知ってんだろうがよ」

「はぁ?」

 

 

初対面の男の事など知るわけがない。

この男は何を言って――――

 

……初対面?

 

相変わらず角度的に顔は見えない。

が、この体格どこかで…

 

 

「…一旦静かにしろ。燼滅刃が来やがった」

「……」

 

 

頷き、息を潜める。

ガギッガギッ…

金属音のような足音が近づいてきた。

 

 

グが、グルァァアア!!

 

 

「あ、バレた。ちょっと失礼」

「おわ!?」

 

 

腹を抱えられ、肩に置くように持ち上げられて運ばれる。

どうやら燼滅刃がこちらに気付いたらしい。

 

 

「すまん、揺れるが我慢しろ」

「ありがとう」

「感謝は後だ!歯でも食い縛れ!」

 

 

そして私はガクガクとした揺れの中、竜ノ墓場に置いてきてしまったケロちゃんのことを思い出した。

 

……大丈夫かなぁ?

 

無事を案じるが、今は何も出来ない。

下の男に身を任せ、私は力を抜いた。

 

――ふと嗅ぎ覚えのある匂いが鼻に入る。

 

……この匂い…潮…?潮、…港?

 

連想して連鎖する言葉。そしてたどり着いた答えは…

 

 

「てめぇタンジアのおっさんか!なんでこんなところにいやがんだ!!」

 

 

素の言葉が漏れ出る。

 

 

「やっと気付いたか小娘ぇ!だが話は後だ!燼滅刃から逃げることが先決だってことは分かんだろ!?」

「…チッ」

「てめぇ、川から引き出してやったことに感謝しろや!!」

「うっさい!おっさんが引き上げたせいで湖の女神に会い損ねただろうが!!お詫びに霊水晶もっとよこせゴルァ!!」

「あぁん!?霊山龍は希少なんだよ!素材一個渡しただけでも拝むぐらい感謝しろよ!」

「知るかんなこたぁ!薬草と交換するからそれで満足か!?」

「バカかてめぇ!置いてくぞ!!」

「……すいませんでした」

「素直だな、おい」

 

 

ガァァぁァッァ―――

 

後方で燼滅刃の雄叫びが聞こえてきた。

しかもこちらを追っているらしい。足音が近づいている。

 

 

「やっべ、全力で走る。マジで舌噛むから口閉じてろ。…行くぞォ!!」

「……」

 

 

加速したおっさんの振動に軽く酔いつつ、目を閉じた。

この人なら確実に逃げられる。そう確信して。

 

 

 

     ●●●

 

 

……

 

力が入らない。

ベルナ村に着いたはいいけど、世界が白黒に見える。

ハンターが命を落とすなんてよくある事だ。

前は仲のいいハンターが目の前で死んでしまったこともある。

だが、本人の死を確認していない今の方が、息が詰まりそうなほどに苦しい。

 

――――!!

―――!

 

あぁ、今日は随分と騒がしいな。

他人事のようにそう思う。

本当に疲れた。全てを忘れて早く寝たい…

 

―――!

おっさんは黙ってろ!!

 

……あれ?

 

 

聞き覚えのある声が聞こえる。

 

 

うっさい!ケロちゃんが帰ってくんだよ!おっさんは嫁の股工事でもしてろ!

あぁ!?てめぇ俺のアリシアを馬鹿にすんじゃねぇよ!

あんたの嫁は綺麗だよ!!

…ありがとう。

キモいから照れんじゃねぇ!

 

 

幻聴じゃない。

走る。全力で声のする方へと走る。

それは雑貨屋の前だった。

 

 

「フルニア!!」

「あ!おかえり。ごめんねぇ、置いてっちゃって」

 

 

本物だ。生きている。

どうしてなんて後でいい。今は目いっぱいに抱き着く。

 

 

「おうおう、もー痛いって」

「……俺は邪魔だろうし失礼するわ。―――忘れんな。期限は明後日だかんな」

「あぁ、じゃあねおっさん」

 

 

耳元で会話が聞こえるが、頭が働いてない。

 

 

「ほら、お家で休も」

「うん…うん……」

 

 

声がこんなにも愛おしいなんて。

手を握られ、連れられるように家へと入る。

装備を外してベッドに座り、彼女に詰め寄る。

 

 

「何処に行ってたの?」

「あの…龍ノ墓場周囲の水に流されたのか、目を覚ましたのは古代林の深層だったよ」

「あの装備で浮かんでた…?って泳げるか」

「ううん、今は違うけどあの時は動けなかった。で、実際沈んでたっぽい。それを見つけたおっさんが岸まで運んでくれて、そっからここまで運んでもらった」

「命の恩人をおっさんって…」

「いや、知り合いなの。タンジアのモガミ夫婦って知らない?」

「え?あの…タンジアトップの?」

「そ、あのおっさんその夫の方」

「―――!?」

 

 

G級ハンターの中でも最強と名高いハンター同士の夫婦。

それが通称タンジアの最上夫婦だ。

 

ランスと狩猟笛のコンビで、数多の古龍を狩ってきた実績を持つ。

姿はよく見なかったが…知っていたら握手してもらったのに。

確か二つ名のうち二匹を夫婦で担当していたはずだ。

 

 

「とりあえず無事でよかったよ。死んだかと思ってさ…」

「まぁそう思っても仕方ないっちゃ仕方ないよ」

「…あ、はいポーチ」

「おぉ、持って来てくれたんだ!ありがと!」

「うん、いいのよ…。お酒飲む?」

「今日は飲まない」

 

 

酒好きの彼女が酒を断るなんて――――

 

 

「なんかあったの?」

「いや、今日はケロちゃんとゆっくりとしたくてね」

「…そういうこと」

 

 

彼女は酒が入ると人が変わったように激しいプレイが好きになる。

正直、疲労が積み重なった状態だと途中で気絶しかねない。

彼女もそのことを考慮してだろう。

 

 

「ふぅ、キャンドルとって」

「ほいさ」

 

 

暗くなり始めたので、キャンドルに火をつける。

昼と変わらないぐらいの明かりに、少し遠い場所に置く。

 

 

「これ使ってくれてたんだ」

「フルニアのお手製だからね。消耗品とは思えないぐらい長持ちするし」

 

 

このキャンドルは以前、フルニアにもらったものだ。

聞いた話では、芯の紐に炎龍の粉塵を配合し、蝋には赤熱した紅焔嚢を使用しているらしい。

彼女曰く火をつけっぱなしで一か月程度はもつそうだ。

 

……買ったらいくらなんだろう…

 

竜人族から暇つぶしに作り方を教わったらしいが、高い完成度と、素材の値段を考えると冷や汗が流れる。

 

 

「使ってるところを見るとなんか嬉しいね」

「なら良かったわ」

 

 

……彼女が喜んでいるので別にいいか。

 

一息つく。

 

 

「今日の出来事はいつになく現実味が無いわ」

「あぁ…強いのと戦うと日常が変に感じるよね」

「そうそう。緊張感の反動なのかしらねぇ…」

「じゃあリラックスに、よっと」

「あらら?」

 

 

フルニアに押し倒される。

 

 

「インナー脱いじゃだめ?」

「…興醒めするからだめ。脱がしていいなら脱がすけど」

「じゃあ脱がして」

「やったぁ」

 

 

にんまりと口端を歪められた。

私のインナーはタイプ7と呼ばれるもので、二枚の上着と短めのドロワーズというスタイルになっている。つ・ま・り、

 

 

「~♪」

「上機嫌ねぇ…」

「そりゃまぁ」

 

 

背中に手が回され、留め具が外される。

外しやすい一枚目が脱がされ、胸に回している布地と、ドロワーズだけになる。

こうしてみると、割とこういうのが嫌いじゃない自分に気付く。

新しい発見だ。

 

 

「いっちまーい」

「…いいわね、こういうのも」

「あれ、恥ずかしがったりしないの?」

「…結構嫌いじゃない」

「変わってるね」

「あんたが言うの?」

「それもそうだよねー。…んむ……」

 

 

口づけをされる。

突然すぎて、ちょっと驚いたがすぐに慣れる。

舌が滑るように入ってきたが、抵抗はしない。

味わうように色々な場所に動いては、止まらない。

しかもそんな状態で胸の布地を外された。

 

 

「ぷはっ、にぃまーい」

「器用ねぇ…」

「学んでますから!」

「胸を張らない。自慢出来て出来ないわよ」

 

 

そしてここで気が付いた。

いつの間にかフルニアが全裸である。

 

 

「というかいつ脱いだの?」

「さっき」

「見えなかったわぁ…」

「学んでますから!」

「自慢出来て出来ないって」

 

 

そして最後の砦、ドロワーズに手を掛けられた。

 

 

「あ、紐式だからね。それ」

「あー、そうだっけね」

 

 

腰に固定するために結われた赤紐が解かれる。

緩んだドロワーズをスルスルと下ろされ、太腿に当たる指をくすぐったく思うが、彼女の事だ。知っていてやっているに違いない。

 

そして、

 

 

「さんまーい。…そういえば朝もこんなかっこだったね」

「うぁー…っと、あれよ、あれ、あの…汗が気持ち悪くて」

「あるある」

 

 

胸を撫で下ろす。

昨日あなたを思い出して弄ってましたなんて…言える訳が無い。

 

 

「それにしても綺麗だねー」

「…毛の事なんて褒められてる気がしないのだけれど」

「褒めてるよ?」

「じゃあ、ありがとう」

 

 

髪と同じ、真っ白の恥毛を褒められるのは微妙な気分になる。

こちらとしては東方に多い黒い毛や、フルニアのような金が羨ましい。

だって白なのだ。肌とほぼ同色の。

しかしフルニアにとっては女の子全てが可愛く見えているのではないだろうか。

 

―――もに

 

 

「わあぃ、もっちもち」

「ちょっと。楽しみ過ぎじゃない?」

 

 

胸をムニムニと揉んでくるフルニアに物申す。

 

 

「楽しいよ?いつも」

「そ、う…ね」

 

 

しかし上手い。このテクニックはおかしいって。

胸を無造作に揉んでるように思えるが、的確に弱い部分をほぐされてる。

しかも胸で下が見えないが、感覚的に股間に太腿をねじ込まれているため、我慢すらも出来やしない。

 

結果。

 

 

「ん、あ…」

「わーびっしょびしょ。太腿がぬるぬるだね」

 

 

耐えるなんてあったもんじゃない。

 

 

     ●●●

 

 

……えぇっと、ここから…

 

細かく全身を動かしながら考える。

腕は胸を、足は陰核を、顔は余裕の笑顔。

 

 

「~♪」

「はぅッ…!?」

 

 

ケロちゃんの反応を見ながらパズルのように弱点を探し出す。

以前ヤったときは酔ってたから記憶は曖昧。

 

胸は…

 

「…あ、ふあん!」

 

弱いのが乳輪回り。摘まみ上げるなら乳輪ごといくのが良かったはず。

 

…っていうかこっちも割と我慢の限界。

 

乱れる女の子を前にして理性が飛びそうで。

しかもあの“桔梗”だ。

 

 

「足持つよ」

「ちょ、擽った…!」

「我慢我慢」

 

 

右太腿を持ち上げ、脇に抱えるようにし、伸ばされたままの左足に馬乗りになる。

そしてその状態から花と花を合わせようと腰を前に―――

 

…………

 

 

「どうかした?」

 

 

こちらの太腿がクニケロマの手で進めないように阻止された。

どうしたものかと訊くが、クニケロマ自身は、もう片方の手で顔を隠してしまっている。

耳が真っ赤な事から何かしらの理由はあるのだろうが…

 

 

「………の」

 

 

ぼそ、と何かが聞こえた。

恐らくはクニケロマの言葉だと思うのだが、くぐもっているのと、あまりの小ささに聞き逃してしまった。

 

 

「?ごめん、よく聞こえなかった」

「――――ッ」

「んぉ!?ちょちょ、太腿を高速振動すると直撃しちゃ――!」

 

 

……機嫌を損ねた模様。振動が気持ちいですねぇ…

 

しかし疲れたのか、徐々に太腿の荒ぶりも収まった。

今度はこちらのターンと言わんばかりに太腿を撫でる。

 

 

「…で、なんて言ったの?ねーえー」

「ちょ、くすぐったい、くすぐったいって!」

 

 

身を捩らせて逃げようとするが、こちらの太腿でがっちり固定しているのだ。

大剣ハンターの筋力舐めんなよ?

観念したようにクニケロマも大人しくなり、口を開き―――

 

……めっちゃ顔真っ赤。

 

そんなに恥ずかしい事なのだろうか?

瞳は涙腺が緩んだように濡れ、口は震えている。

 

 

「あー、えっと、その…この体位じゃなくて、フルニアの顔を見てたいの。大丈夫?」

「…あ、体位変えたいって事?」

「……それでいいわ」

 

 

ちょっと寂しそうな顔をするクニケロマの顔が頭に残るが、とりあえずリクエストに応えなければ。

体勢を、後ろに手を付いて反るようなものから、前倒しに変える。

クニケロマの太腿に結構な負担が掛かるだろうが、毎日ストレッチで解しているのは知っている。事実、すんなり曲がった。

私の右足をクニケロマの左足に絡ませ、残った左足は彼女に負担の掛からないように伸ばし、こちらの顔の高さを調整して顔が見えるようにする。

 

 

「…これでいいかな」

「うん、ありがとう」

「でも急にどうしたの?」

「ううん、たまにはこういうのも良いかなって」

 

 

……マンネリは良くないもんね。

 

共感しつつ、そっと唇を近づける。

 

 

「ん、ふぁ…ふ…」

 

 

舌を差し込みながら密着した腰をゆっくりと動かし、休む暇を与えないようにする。

ハンターの体力だと優しくするより激しいぐらいが丁度いいのだ。

 

どうせどちらも十分すぎるほどに濡れているから、多少(多々)激しくしても問題は無い。

 

ゆっくりと、ゆっくりと動く。

口を離し、腰の動きをなめらかに、くねらせるように動かせる。

 

 

「う、あ…」

「…ケロちゃん、いつになく余裕なさすぎじゃない?」

「的確によ…ぁっ、わいとこ、攻めながら言う事じゃ…んっ、無いと思う」

 

 

……しっかし良い顔だなぁ…

 

それは普段から想像できないような“雌”の顔。

私の“最も美しいと感じる顔”だ。

頬は上気し、目は蕩け、口はだらしなく開き――――

 

彼女の頬にツゥ、と指を走らせた。

 

 

「ふふ、ほんっと綺麗な顔」

「ぅん……褒め言葉だとはぁう!?」

「謙遜は良くないな~」

 

 

腰の速度を上げる。

ヌヂュヌジュと淫靡な音が部屋に響く。

クニケロマは、露出した陰核が擦れるごとにビクビクと体を震わせている。

珍しく相手の顔を見ながらヤっているため、どことなく新鮮な気分だ。しかも反応を観察しやすい。

 

 

「ぁ…ふぁ!ちょっとペース落とし、てぇ…!」

「ム…リ、だね!こっちも我慢できない!!」

「えあ、あぁぁ!?」

 

 

更にペースを上げる。

だがただ動きを上げるだけではない。

大陰唇で相手の陰核を擦りあげるように捻りを入れる。

そうすれば―――

 

 

「あッ…ちょ、無理無理!強すぎら―――ッてぇ!!」

 

 

ひと際大きくクニケロマが震えた。

ぐったりとベッドに身を沈める。

この動きは覚えがある。

一旦動きを止め、クニケロマの頬を手で包み、目を覗き込む。

 

 

「ん、イッちゃった?」

「はぁ……はぁ…いきな、りペース上げるのはずるく…ない?」

「いつもこんなんよ~?」

「…ぎゃーくてーん!」

「おおわっと!?」

 

 

絡めていた足を起点に、バランスを崩された。

ベッドに倒れ込んだ私に、今度はクニケロマがのしかかる。

俗に言うマウントという体勢だろうか。

ちょっと予想外のこの行動に、驚きを隠せない。

 

 

「たまには……受けもいいんじゃない?」

「の割には肩で息してるよ~?」

「はっはっは」

 

 

クニケロマは笑いながらベッド横の小さな子棚から液体の入った一本の小瓶を取り出し、ふたを外すと勢いよく一気飲み。

 

 

「舐めんな」

「ぇあ…強走薬はずるい!」

「ハンマーの必需品。これは私の血液です」

「その理論はおかしいでしょう!?」

 

 

しかも…

 

 

「なんか変な調合したでしょ!」

 

 

強走薬にしてはどこか色がおかしかった。

彼女の息が一瞬で落ち着いたことから、強走薬という事は分かった。が、“オレンジ”なんて、どんな調合をしたんだか…

 

 

「ちょっと活力剤と怪力の種を混ぜた」

「それ怪力の丸薬を強走薬に混ぜたってこと!?」

 

 

予想の斜め上だ。思考が吹っ飛んでる。

オリジナルの調合をするなんて…

 

 

「ま、狩りには使えないんだけどね」

「え?そうな―――あっつ!」

 

 

クニケロマの体温が上昇している。

 

 

「一気に代謝が上昇するの。そうねぇ…害は無いわ」

「ほ、ホントに大丈夫!?」

「うん。全力運動後ぐらいかな?」

 

 

成程。秋寒で冷えるこの時間にそのドリンクは効果的だ。が、

 

 

「んんん!あっ、激し…!?」

「~♪ここかな?」

「イ゛ッ――!」

 

 

グニグニと胸を揉まれた後、両手で強く乳首を摘まれる。

指の腹で押し潰されるようにされ、電流が走るかのように背を弓なりに反らせた。

 

 

「えっと、こうかな?こういうのがいいのかな?」

「――――ッ!!」

 

 

冷静ととれるような言葉とは裏腹の、乳首を執拗に虐める手つきに、私は成す術を持たない。

腕を動かす余裕すらないのだ。

 

……上手くない!?

 

しかし上手い。こちらの弱い部分を熟知しているかのような手つきだ。

首筋を舐められ、耳に息を吹きかけられる。

 

 

「ひゃん!」

「耳、弱いんだよね」

 

 

さて…、とクニケロマが動きを止めた。

乳首がじんじんとして、もどかしい気分になる。

 

 

「脚、失礼するよ」

「…あんま凝視しないでね」

「ピンクで綺麗よ」

「うー…」

 

 

左足を持ち上げられ、更に秘部を凝視され、頬に血が上る。

今更の話だが、凝視されるのには慣れていない。

 

 

「…あんた、恥ずかしがるような性格だっけ?」

「なんか恥ずかしい。弱点だからかな」

「みんなそうよ、多分。…顔真っ赤だね」

「もー…恥ずかしんだって」

「ふふ…」

 

 

顔を両手で押さえられた。

そして蕩けた目でこちらの目を覗かれる。

 

 

「…あなたを味わいたいものね」

「変わった趣味してんのね。どうぞ~あーん」

 

 

冗談半分に口を開けたら顔を近づけ、舌を入れられ、ちょっと驚く。

歯を、歯の裏を、舌を、口蓋を、唇を。

口の中を堪能するように舌が這い回り、唾液特有の甘さを感じる。

 

 

「ぷふぁ…はい、ごちそうさまでした」

「…お粗末様で―――ヒャッ!?」

「~♪」

 

 

あくまでもこちらに暇を与えないつもりらしい。

グッ、っと強く乳首を摘まれ、身を跳ね上げた。

しかも執拗に耳を嬲られ、我慢なんてあったもんじゃない。

 

 

「うぁ…ん、耳は弱いって言ってりゅッぁ!?」

「あ、何、そこ弱いの?へーえー…」

「んぅあ!?」

「わぁ、すっごい声」

 

 

それは私の二番目に弱い場所、“腋”。

擽られたり、触られたりするのではなく、痛みに近い、削られるように擦られると駄目だ。

クニケロマも徐々にそのことが分かってきたらしく、触る指が強さを増してきた。

 

 

「お゛あ゛――――ッ」

「おっ、と」

 

 

そして早くも絶頂一回目だ。

しかし手を休めてくれない。

挙句の果てには陰核を擦り合わせてくる始末。

―――快感に頭が真っ白です。

 

 

     ○○○

 

 

「ま…イったばかりなのぉ…!」

「んッ…と、仕返しだよ?止めない止めない」

 

 

先程私がされた体位で彼女を弄る。

弱い部分は大体わかった。

腋、耳、乳首、そして秘部。

さて、珍しくこちらが上だ。ではどう攻めてやろうか…

 

 

「よっと」

「ふぁ!」

「……」

 

 

ちょっと太腿に触るだけで体が反応している。

感度が高いとかの話じゃない。全身性感帯になっているのではないのだろうか。

 

……ま、好都合。

 

いま思い返せば、素面のフルニアとヤるのは久しぶりだ。

―――否、初めて寝た日以来、“一度も”素面の彼女とは寝ていない。

今日の彼女の言葉が頭にフラッシュバックする。

 

 

『いや、今日はケロちゃんとゆっくりとしたくてね』

 

 

そこでふと一つの謎が生まれた。

酔った彼女は激しいプレイが大好きだ。

が、素面の彼女はどんなプレイが好きなのだろう。

 

……ゆっくり?

 

腰の動きをスローペースに変えてみる。

 

 

「んぅ…」

 

 

反応は先程とさして変わらない。

しかし身の捩らせ方がくねるように変わった。

微妙な違いだが…どっちだろう?

とりあえず体位を変える。

こちらの右足を上に、そしてフルニアの右足も上にした正常位とでも表現しようか。

最もメジャーで、動きやすい体位だ。

 

 

「よっこいしょっと」

「う、にッ!!」

「わーびっしょびしょ。もうシートにお漏らししたみたいよ?」

「ま、だぁ…噴いてはいないかなぁ…?」

「じゃあ全力で」

「まッ」

 

 

静止の声など聞かない。

ピストン運動とは違う。

前後に動かすのではなく、捩りを入れて上下に動かすのだ。

陰毛で陰核を擦り上げるイメージが一番いい。

付き合いの長さから、様々なテクニックを学んだ。

ある意味、フルニアは師匠である。

 

……まぁ滅多に役立たないとは思うけどね。

 

技術面ではフルニアに遠く及ばない。

龍歴院の情報を盗み取ろうにも、彼女のように人懐っこい性格もしていない。

桔梗という称号も、その元となった清楚という印象も、“人見知りが原因と言っても過言ではないのだ”。

龍歴院本部に行くごとにガッチガチに緊張してしまう。

それを大人しいとか、清楚とか…

 

……全員そろって目が腐ってんのかしら。

 

でも私の本質に気付いてくれる人もいた。

目の前の、蕩けた顔をするフルニアの顔を覗き込む。

 

 

「ありがとね」

「なん…あぅ、のはな、ぁし…?」

「はは、酒入ってないのに酔ってるみたいよ」

「ふぅ…あーそうかもね―――ッ!」

 

 

緩んでいた動きを元のペースに戻し、嬲るように硬くなった陰核を狙う。

が、ここでちょっとしたことが起きた。

 

 

「あ」

「ふぇ…?いったぁ!?」

 

 

棚に置いてあった瓶が落ちてしまったのだ。フルニアの顔に。

幸か不幸か瓶は割れなかったが、蓋が外れ、中の液体が顔にぶちまけられる。

色は赤紫―――――赤紫!?

 

 

「ふ、フルニア!今すぐそれを吐き出し――」

 

 

ゴキュ

 

溜飲の良い音が聞こえ、フルニアの喉が動く。

 

 

「バカ!何してんの!?」

「え?フリじゃないの?」

「違うわッ!!」

 

 

マズイ状況だ。

調合したはいいが、飲むことが出来なかった一番ヤバそうなやつとは…

調合元は鬼人薬と“獰猛エキス”。

多分飲んではいけないやつである。

 

 

「吐きなさい!今すぐ吐かないとどうなるか分からないわよ!?」

「え、何それ怖い。一体何混ぜたのよ…」

「鬼人薬と獰猛エキス」

「…え?」

「鬼人薬と獰猛エキス」

「わぁっぁぁぁ!?飲んじゃった!飲んじゃったよ!?」

「だから吐けって言ってるのよ!ほら、ここでいいから今すぐに!」

「えぇっと、今日お昼結構食べたんだけど」

「…どのぐらい?」

「ロックラック名物ナッツ炒めに、ベルナスとシナトマのパスタ、ふわふわゼンマイオムレツと…クルミとジャンボウの和え物。デザートに落花生クリームのフワッフルかな」

「……ごめん外で吐いて」

「やっぱり?」

 

 

全裸のまま外に出ていくフルニアを見送り、溜息を吐いた。

 

……雰囲気もなにも無くなっちゃったわね。

 

ちょっと形容し難い音が家の裏の方で聞こえてきたが、耳に入れないよう極力意識を逸らす。

 

……大丈夫かな…

 

 

     ○○○

 

 

あれから一分は経っただろうか。

ベッドで全裸のまま待つのも何かと思い、一応下着だけは穿いておいた。

代謝が良くなっているので寒くは無いが…

 

 

「フルニアー?」

 

 

彼女はそうでは無いだろう。

この秋寒の中、全裸で帰ってこないのは少々不安である。

呼びかけてみるが返答は無い。

何かあったのか、と外に出ようと―――

 

 

「~♪」

「あ、えっと大丈夫だっ…フルニア…?」

 

 

フルニアが帰ってきた。が、おかしい。

右目が“あの状態”になっている。

しかも赤黒い煙付きで、だ。

 

 

「あれ?下着穿いちゃったの?どっこいしょい」

「きゃぁぁぁぁ!?」

 

 

にこやかな笑顔のまま素早い動きで私の元へ近づいたと思うと、一瞬で下着を剥ぎ取られる。

反応すらまともにできなかった。

そのまま押し倒され、上に乗られたかと思えば、片手で両手首を押さえつけられ、自由を奪われる。

 

 

「~♪」

「え、ちょ、ちょ、ちょ!?」

 

 

どうなっているかは予測ではあるものの、何となく分かった。

獰猛化しているのだ。フルニアが。

しかし獰猛エキスを摂取したら獰猛化するなど聞いたことが無い。

一体どうなって―――

 

 

「ぁっづ!!?」

「ここが弱いんだよねー」

 

 

突然膣内に突っ込まれた指の熱さに悲鳴を上げた。

ぐりぐりと上の弱い部分を容赦なく責め立てられる快感に、足が跳ね上がってしまう。

しかし“熱い”。フルニアの指が“熱い”。

火傷しそう、とでも言い表すべきか。痛みが無いから火傷はしていないだのだろうが、それぐらい熱い。

 

 

「ぃっがッ!!」

「おっと、ほらほら、大人しくしてよ。」

 

 

グチュグチュという音が激しく部屋に響く。

自分でも下半身が良く分からなくなってきた。

確認しようにもフルニアが馬乗りになっているせいで、見えやしない。

今も大人しくして、と言われて脚が動いたことに気が付いたぐらいだ。

しかし体は脳に関係なく正直に反応する。

頭はどこかショートしたように麻痺し、背中は痙攣したように弓なりに反る。

不思議な感覚だ。

快感に全てが染まっていながら、物事を考えているなんて。

遂には快感と通常の違いが曖昧になってきた。

 

 

「あはは、ひっどい顔。涎なんて垂らして…」

「ひ、ぁ…?」

 

 

煙立ち昇る赤い目に覗かれ、少し怯む。

呂律が回らなくなってきた。否、顔の感覚が良く分からなくなってきた、が正しい。

涎を垂らしているという事実に気付いたのも言われてからだ。

聞こえる音が、激しく、更に粘質になっている。

 

その時、自分でもおかしな感覚を得た。

絶頂という事実を“冷静”に受け止めたのだ。他人事のように。

そしてひと際大きく身が跳ねる。いや、跳ねた。

 

 

「ぃ゛、あ゛ぁぁぁ!!」

「おわ、すっごいイきかた。あーらら漏らしちゃってるしー」

 

 

楽しそうなフルニアの声と、何か水を零すような音が耳に入ってくる。

そこで私の意識は途切れた。

 

 

     ●●●

 

 

……あは、気絶しちゃったー

 

押さえていた両手から力が抜け、次にクニケロマの体からも力が抜けたことにより、フルニアはそう判断した。

膣を刺激していた左手には暖かい液体が当たり、ずるりと指を引き抜けば、放物線を描いてベッドを黄色に汚す。

そして時々痙攣しては、被弾場所を変える。

 

その放物線が収まり、ベッドの染みが冷え切ったころ、私はふと我に返った。

 

 

「…あーえーぁ?…うん」

 

 

なにも無く、ただ頷く。

ぼーっとして、ふと下を見れば、クニケロマの顔が。

だらしなく口を半開きにし、涎を垂らして、

 

………………。…ッ!?

 

 

「え、ちょい、ケロちゃん!?」

 

 

慌てて顔を両手で包み、ゆする。

そして今更ながらに馬乗りになっていることに気付いた。

 

何が起きたのかが分からず、?が頭に乱立する。

 

ケロちゃんに何が起きたのか、なぜ私は馬乗りになっているのか、どうして私の記憶が抜けているのか。

 

…まったくもって覚えがない。

 

 

「け、ケロちゃん!ケロちゃん!?」

 

 

今の私に出来ることは目の前の彼女を起こすしかない。

彼女の上から退き―――

 

 

「うおぉ!?なんじゃこりゃぁぁ!?」

 

 

ベッドの上の惨状に、思わず素が出た。

シーツには明らかに漏らしたとしか思えない跡がつき、そのシーツも凄まじい乱れ方をしている。まるで足をバタつかせたかのように。

それによく見てみればケロちゃんも結構ひどい。

首の横にある手首には赤紫の指跡が付き、腰から肋骨辺りにかけては、強く押さえ付けられたように赤くなっている。

 

……私が…やったの?

 

しかしどう頑張っても思い出せない。

何があったのかと記憶を―――――

 

……ヤバい、オストガロアを狩った辺りから記憶が無い。

 

どうやって帰ってきたのかすら記憶が無くなっている。

とりあえず両方が全裸な事からヤったという事は分かるのだが…

 

 

「け、ケロちゃん!ケロちゃーん!?」

 

 

呼びかけるしかない現状が歯がゆい。

 

 

「ケロちゃ―――」

「――ま、待って、声大きくて頭痛い…あっづ…」

「ケロちゃん!!」

「こら、マジでうるさいって」

 

 

遂にクニケロマが目を覚ました。

が、こちらを見て首を傾げる。

 

 

「あれ?普通に戻ってる」

「普通…?あ、そうだケロちゃん!!なんか記憶が飛んでて―――!!」

「シッ…うるさいって…」

「うん、ごめん…」

「っと、うわひっどいなぁ…ホントに漏らしてるし」

「…?」

 

 

ケロちゃんの言葉に眉を顰めた。

その言葉のニュアンスは、まるで第三者が漏らしたかのように思える。

 

 

「えっと、で?記憶が無い?」

「…あー、いや、今一つ思い出した。夜…うん、夜だね。で、ケロちゃんちの裏で全裸で吐いた。うん、ものっそい量で自分でも驚いた…ね」

「んー、そのことか」

「えっと、もしかして私酔って吐いた?」

「ううん、気にしなくていいよ。っと」

「おおう、大丈夫?」

 

 

ベッドから立ち上がろうとしてバランスを崩したケロちゃんを肩で支え、ベッドに戻す。

 

 

「実はちょっと股が痛くてね。歩くのが辛い」

「…やっぱ原因は私?」

「え、っと、―――隠しても仕方ないか。ちょっとそこに座って」

「はいさ」

 

 

ベッドに横たわらせたケロちゃんの横に座り、耳を傾ける。

 

 

「まずはこうなった理由ね。言っちゃえば両成敗」

「――え?」

「だからね、私とフルニアのせいってこと」

「え、と、説明頂戴?」

「うん、まずクエストが終わったあとなんだけど――――」

 

 

     ●●●

 

 

「…手首大丈夫?」

「明日は休まなくちゃダメかな。流石大剣使い」

「褒められたことじゃない」

「…怒ってる?」

「自分にね」

 

 

オストガロア討伐から、先程までの説明を聞き終え、私は溜め息を吐いた。

結論だけ聞けば被害者は彼女、加害者は私だ。

原因の薬を作ったのは彼女とはいえ、飲んだ私が一番悪い。

 

 

「それで吐いた記憶があったってことは…」

「多分ちゃんと吐いたんだと思う。でも先に回っちゃってたみたいだね」

「ふぅ…でもケロちゃんを殴ったりとかは無くて良かったよ」

「まぁ傷は…治りそうなのばっかだから」

「うん、ほんど良がった…」

「もー泣かないでよ」

「だってさぁ…」

 

 

親しい人がいなくなる恐怖は昔、十二分に味わった。

もうあんな思いをするなど…嫌だ。

 

 

「っと、夜が明けてきたわよ」

「…え゛?」

「泣き止みなさいって。ほら」

「ありがとう゛」

 

 

渡されたタオルでグシグシと顔を拭く。

タオルから顔を上げれば、入口の布の隙間から入ってくる光が目に入って。

 

 

「さて、今日は休むわ。あなたは今日をどう過ごす?」

「ケロちゃんの分まで頑張るかなぁ…」

「そう、じゃあ頑張ってねぇ」

「投げやりじゃない?」

「あるある」

「…掃除手伝おうか?」

「それぐらいなら自分で出来るから大丈夫。さ、百合姫様、お召し物をどうぞ」

「……ありがとうございます、轟撃の桔梗殿」

 

 

互いの皮肉に顔を綻ばせる。

 

 

「じゃあ私は狩りに行ってきます」

「いってらっしゃい。今回の事は気にしないで」

「…言葉に甘えるよ」

 

 

素早くインナー、装備を整え、次の狩場への準備を済ませた。

 

 

「また今度ね」

 

 

ベッドに寝るクニケロマに近寄り、優しく、本当に優しく唇にキスをする。

舌を入れる夜のキスではなく、唇を付けるだけのキス。

 

 

「―――ッ…また今度、ね」

 

 

それだけで顔を真っ赤にしたクニケロマに驚きを得る。

 

……こういうのは慣れてないのかな?

 

初めて知った。今度は優しく、ゆっくりしてあげようと、そう考えながら立ち上がった。

手を振り、笑顔を残してから家から出る。

 

 

『―――期限は明後日だ』

 

 

…本当は思い出したことは一つではなかった。

燼滅刃から逃げる途中で言われたタンジアのおっさんの言葉が頭に響く。

移動手段である古龍観測隊の気球を捜し歩きつつ、言葉を思い出していく。

 

 

『嵐龍、しかもヤバい奴がユクモに近づいてるらしいぜぇ…』

『扱いはほぼG級と言っても過言じゃないらしい』

『という訳でてめぇに緊急クエストだ』

 

 

断片的ではあるが、確実におっさんの言葉。

内容はユクモ村の危機。しかもおっさんがヤバいと言うレベルの古龍だ。

 

……おっさんは言えば来てくれるって言ってたけど…

 

あの顔は向こうもただならぬ事態っぽい。

奥さんとではなく、一人でこちらに来ていることから何となく察することはできるが…

っと、気球を見つけた。

 

 

「あぁ、ルミャノちゃん」

「へぁ!?」

 

 

背後からの声に、身を飛び上がらせて驚きを表現するルミャノちゃん。

 

 

「あ、あれ!?フルニアさん!?生きてたんですか!!?」

「うん。ちょっと助けてもらってね。それよりユクモ村まで送ってもらっても?」

「えっと、あぁ大丈夫ですね」

 

 

懐中時計と、地図を見て頷いてくれた。予定的に負担は無いらしい。

 

 

「じゃあ遠慮なく」

「…はい、では急いで出発しますので」

 

 

素早く備品の確認を済ませ、気球を飛ばすルミャノちゃんの手腕に舌を巻きつつ、日が昇り始めた空を見上げる。

 

 

「…お綺麗ですね」

「だよねー、私もこの時間の空好きなんだ」

「いえ、空もですが、フルニアさんの事を言ったんですよ」

「私が?…自然には負けちゃうかなぁ」

「いえ、本当に綺麗ですよ。まるでお姫様みたいです」

 

 

ありがとう、と静かに感謝の言葉を述べ、また空へと視線を戻す。

夜行性ではない飛竜達も目を覚まし始めたらしい。至る所で雄叫びが聞こえてくる。

 

 

 

―――世界が目を覚まし始めた。

 

 

 

変わりあるいつもの一日が幕を開ける。

 

 

 

変化を求める肉欲の百合姫は今日、何を相手取るのだろうか?

 

―――さて、いざ狩り行こう。

 

恐れるものなど何もない。

 




Twitterにてしばふ様(@shiverle)より挿絵を頂きました。

{IMG41221}

ガチモードフルニアです。

キャラ紹介(外見)

ファルミニア・ソレイン 15歳
・身長160弱・巨乳・腰まで伸びた金髪・垂れ目・銀瞳・レズ

クニケロマ・ホワイトヘッド 19歳
・身長160強・巨乳・セミロングの銀髪・青瞳・バイ

えー、はい。長いですね。
プレビューにて、右のスクロールバーに笑いました。小説情報の平均文字数が跳ね上がるなぁ…

こんな文を長々とお読み頂きありがとうございます。
眼精疲労にはくれぐれもお気をつけ下さいね。
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