うーん、どんなシチュが良いかな…
……なんて思った私の頭に現れたのは、ジーンズを穿いた女性でした。
ではでは、星空輝く七夜。始まります。
「ねぇ」
「…何だよ」
日も落ちて星が天上で煌く遥か下の森の中、二匹の竜が歩を進めていた。
「…ねぇ」
「……だから何だよ」
ふと後ろを歩く一匹の竜が足を止めた。
そしてそれにつられるようにもう一匹も足を止める。
「……ねぇ」
「…分かってるよ」
同じ単音の呼びかけの返答は、同じでは無かった。
諦めと自覚の入り混じった肯定の声。
そのニュアンスに、後ろ側の竜が苛立ったように横にあった木の皮を爪で割く。
「ここどこ?」
「静かに歩け。じきに着くだろ」
「まずどこに向かってるのよ」
「気にすんな」
「…ねーえー」
前を歩く竜が溜め息を吐いた。
「幼竜じゃないんだから黙っとけ」
「えー…」
バチッ
闇夜を照らす金色の雷が地を走る。
「おい」
「ごめん、勝手に緩んでる」
「…頼むから大放電とか止めてくれよ……?」
「私に聞かれても…」
「お前、ホントに大丈夫か…」
共に行動し始めてからもうすでに痛くなり始めた頭を押さえつつ、白疾風は何度目かもわからない溜め息を吐いた。
●●●
孤島の巣に向かって陸地の最短距離をひた歩く。
今出来ることはこれだけだった。
背中の傷が痛むが出血はしてないようだし大丈夫だろう。
……飛びてー
本当だったら今すぐにでも飛んで帰りたい。
が、“金”を連れて行くと決めたからにはそういう訳にもいかないだろう。
あまり慣れない地に足を付ける移動法に苛立ちが募る。
しかも金のせいで体感的にはいつもの二倍。
………あ゛ー
「ちょっと飛んできていいか?」
「…もう置いていくって酷くない?」
「違う馬鹿。ちょっと疲れただけだ。少し翼を動かしてくる」
ギチギチと音が鳴りそうな位固まった翼を動かし、木の上へと飛び出した。
綺麗な丸から少し欠けたぐらいの月の光に気分が昂る。
「~♪」
何故だろうか、無性に楽しい。
いつもと違うのは一匹ではなく、金が後ろについてきているだけ。
だが、たったそれだけでこんなにも違うものなのか…?
……これあれか。
師から教わった“感情”に適したものがあった気がする。
優越感、そう優越感だ。
「ル、ァ゛―――――」
テンション任せに雄叫びを上げた。
ビリビリと響く高音で更に気分が高揚する。
視界が明るくなり、全身の筋肉が引き締まる感覚に身を震わせた。
……よし、喧嘩売ってくるか。
この昂りはもう当分収まらないだろう。
ならいっそ発散させた方がいい。
下にいる金に呼びかける。
「ちょっと待ってろ、すぐ戻る!」
「えぇ!?ちょ…ここにいればいいの!?」
「多分!!」
返答が聞こえるよりも先に、空を飛んでいた飛竜に突撃する。
始めに滑空する勢いをそのままに両翼刃を縦に振り下ろし、そのまま一回転。
そこから体勢を立て直しつつホバリング、不意打ちに慌てふためく飛竜を挑発するように歯をガチガチと鳴らした。
「ルゥアア!!」
「G,GRUAAA―――!!!」
知性無き竜に言葉は通じないし、何を叫んだのかも分からない。
が、ニュアンスなら通じる。
侮蔑、感謝、憤怒、嫌気――――――
それらを伝えるのにはもはや雰囲気だけで十分だ。
月明かりを反射する怒りに歪んだ蒼火竜の瞳がこちらを睨めつけた。
口端から漏れた火の粉に憤怒していることが良く分かる。
「Ga,Ga,Ga!」
「おっ……らァ!!」
近距離から放たれた3発の火炎球を体全体を使って回転、翼刃と尻尾を駆使して弾き、そのまま強固な顔横へと強烈な連撃を見舞う。
右翼、尻尾、左翼――――
「G,ga…a!?」
「お、いいとこ入ったな」
相手の翼の挙動がずれた。
どうやら脳が揺れ、三半規管がダメになったらしい。
バランスを崩して空中でもがく蒼火竜。
「そいやっさー」
「―――ッ!」
全速力で前に一回転、勢いのついた尻尾を叩き落した。
相当な勢いで地へと落ちていく蒼火竜を見送りつつ、吼える。
「グルァァア!!」
ここで気の昂りは達成感へと変わり、だいぶ落ち着いた。
さて、
「…金、怒ってるかな?」
「そりゃ勿論」
「!?」
ドスッ
突如背中に重量物が乗った。
あまりの重量に、墜落しないよう翼刃を全力で動かす。
「お…もッ!」
「ねえ、何か言う事は?」
静電気によって全身の毛が逆立った。
どうやって飛んだかは知らないが、金が上に乗っているらしい。
腕がはち切れそうなほどに羽ばたいているせいか、バサバサと空気を打つ音が響く。
「お、落ちる落ちる!降りろってッ!?」
「…ふぅん」
明らかに重みが増した。
腕の付け根を押さえられ、翼の動く範囲が半分以下になる。
つまり、
「この、ばッ…かやろぉぉぉ!!?」
羽ばたきが止まり、地へと一直線に落ちていく。
「失礼」
静かな声と共に、背中を蹴られる感覚があった。
背から金が離脱したらしい。
が、こちらはその踏み込みによって、背中を下にするようにしてバランスが崩れた。
……くっそ、羽ばたいても間に合わねぇ!
背中の傷が開いていないことを祈りつつ、どうにかしようと思考を張り巡らせる。
横にあった木を蹴って空中でバランスを立て直そうと試み、翼を動かし―――
「あ」
翼が枝葉に引っ掛かった。
勢いは僅かになくなったものの、落ちる事には変わりない。
ドッ!
「いってぇ!」
何とか腹から落ちる形にできたが、衝撃を上手く吸収できず、腰に痛みが走った。
あまりの痛みに唸りながら地を転がる。
「謝ればそうならずに済んだのにねぇ…」
目の前に座り込んで溜め息を吐く金に怒りを抱く。
「おい、金」
「あら、あなたって目が青色にも光るのね」
「…え?」
話をすり替えられたことを分かっているが、ちょっと気になる事だ。食いついてみる。
自分の目なんて意識した事も無い。
今更ながらに気付くことだが、自分を知ろうとしたことがあまりなかった。
……むしろ、気にした事なんてあったっけか?
これも独りである事をやめたからだと思える。
「嘘は吐かないよ。鱗と同じで綺麗だね」
「…そうか。で、一言いいか」
「……何?」
「すまん」
ここで関係を崩すのは良くない事なんて、一人でいた俺でも簡単に分かる。
何より悪いのは俺だと分かっていた。
金は俺よりも弱い。そんなことは分かっている。
だがここで戦えば、確実に軽傷では済まない。
地の利というものがある。
孤島という、開けた地に慣れている俺にとって、木々の多い森での戦闘なんて、格下相手でなければ無暗にできやしない。
「…いえ、あまりにも幼かったわね。私も意地になってしまったわ」
「いや、いい。それよりどうやって飛んだんだ?お前翼無いだろ」
「跳んだのよ。全力で踏み込んで」
……身体能力ぶっとんでやがるな。
いくらなんでもそんなに跳べるものなのだろうか?
一定間隔を跳躍して移動するモンスターは何匹か知っていた。
例を挙げるならば、ラージャンなどがそれにあたる。
が、持久力に優れたジンオウガは跳ぶことより走ることのほうが体の構造として向いている。
ジンオウガが岩肌を駆け上る事は見かけたことがあった。
しかし単純な跳躍となると、そこまでではないはずだ。
「やっぱ違うな。普通と」
「…普通と比べられるのはあまり好きじゃないのよね」
「そうか」
短く会話を切ると、話の切り替えとして溜息を一つ。
「今日はここで寝よう」
体力には余りがあれど、疲労感は拭えない。
疼く背の傷を落ち着けたいというのも休眠を提案した理由の一つだ。
「……よし、寝る」
「寝床はそっちでいいか?俺そこら辺で寝るから」
「あ、寒いし隣で寝る」
「そうか。じゃあまたあしt……隣?」
「寒いし」
……寒いか?
そういえばジンオウガは寒いのが苦手だったと思い出した。
「放電すんなよ?」
「それは…わかんない」
「なんで分かんないんだよ…」
「いやぁ…時々自分でも操れなくなっちゃうんだよねー」
「…それってどれぐらいの周期?」
「季節が反転するぐらい?」
「…そう、か。じゃ、寝ようかね」
柔らかめの土に寝転がる。
体勢としては背に負担を掛けないように腹を地に付け、だらしないという言葉が当てはまりそうな感じだ。
「じゃ」
横腹辺りに硬い甲殻が当たった。
本当に寄り添って寝るつもりらしい。
……さて、あと何日理性がもつのか…
鼻を擽る“雌の匂い”に顔を強張らせた。
もう既に寝息を立て始めた金は、このことに気付いていないのだろうか?
それとも気付いていて、わざとこっちに寄ってきているのか?
“経血特有の臭い”に、身を震わせる。
……寝よ。
これ以上起きていては、行動に移してしまいかねない。
目を閉じると、早く寝れるように意識を薄めた。
……しかしなんで違う種の俺が反応してるんだ?
そんな疑問が浮かぶ頃には、眠気に意識が沈む寸前であった。