調度男性トイレから出てきた人と
思いきり肩がぶつかってしまい
その拍子に持っていたスマホが
男性の足元に転がった
「おっ…と、悪いっ!
…大丈夫?」
この声
この香り
早紀は軽いデジャヴを感じた
「悪い、大丈夫?」
もう一度声がした
声の主は渡瀬。渡瀬孝久だった。
「すいません私の方こそ前見てなくて」
早紀が落ちたスマホを拾おうと手を伸ばすと
紙一重で渡瀬が拾い上げ
早紀の前に差し出した
「あ、ありがとうございます」
受け取ろうとスマホに手をかけた時
「好きなの?」
渡瀬の口元が笑い
まったく予期しない質問が飛んできた
「へっ?」
早紀は間の抜けた声を出すほど面食らった
いきなり何?何が好きだって?
この質問の主語は何だ?
早紀の頭は返答にパニックになった
「俺も ー 」
渡瀬が何か言いかけたところで
「すいませんお待たせしました!
メシどこいきます?!」
勢いよく林田が男性トイレから出てきた
「おっそいよお前。
マス屋の刺身定食終わったら
どうしてくれるんだよっ」
渡瀬は笑いながら
林田の足に軽く蹴りを入れた
「ちょっ!すいませんって…!
…ってあれ?間野ぢゃん何やってんの?」
渡瀬の蹴りをよけたところで
そのやり取りを驚いた顔で見ている
早紀に気づいた林田は
早紀と渡瀬の顔を交互に見た
「あぁ俺がトイレから出たら勢い余っ
てぶつかっちゃったんだよ。
それより急ごうぜ、俺の刺身が終わる」
渡瀬はそう言うと林田の肩をバンっ!と叩いてエレベーターの方に早足で歩き出した
「いってぇ!
ちょっと待ってくださぃよ~
…あ、じゃあな間野!」
林田は叩かれた肩をおさえながら渡瀬の後を追った
その場に取り残された早紀は
嵐が去ったような感覚で2人が乗ったエレベーターの方を見ていた
「ごめんね~おまたせ!いこ?」
急いでやってきた美加が早紀の顔を覗き込んだ美加の顔を見て我に返る
「あ、うん!
えーと、どこ行くんだっけ?」
「マス屋だよマス屋♪日替り!」
美加が楽しそうに笑った
「あぁ、そぅだった、マス…」
ー マス屋? さっき確か… ー
「!!!」
早紀はあることを思い出した
「美加さん!
ちょっとマス屋はまた今度に!
パスタにしよ!ねっ?!」
「へ??」
早紀はポカンとしている美加の手を引き
エレベーターに乗せた
外に出た早紀と美加は
会社の前の信号を渡り
道路を挟んで向かいにあるイタリアンのお店に入った
店内はさすがのお昼時で混んでいたが
運良く入り口横の通りに面した窓がある席が空いていた
2人はランチセットを注文すると
ウェイターが運んできたグラスの水に口をつけた