黒の聖女(1)
一夜の夢、叶わぬ理想、願いは其処に在る。されど、必ずしも報われるとは限らない。溶けていく数字、積もっていく不満と怒りは運勢、確率という名の不平等によって辛辣に、かつ無慈悲に現実を痛感させる。
自分が生きるために必要な財を投げ打ってまで求めるのは、結局は自己満足と優越感という取るに足らない個の感情。しかし、感情が在るからこその人間であり、追い求めてしまう。
──ああ、きっと今回も
──彼女は自分のところへ来ない
──いつか、いつか、次こそは
──出逢える日を、信じるより道はない
──自分の身を、削ってまで
◆ ◆ ◆
深淵にも思える闇の中、まどろみにも似た世界。どちらが上で、どちらが下なのかも分からない。例えて言うなら、呼吸できる水の中へ居るような感覚。
どうやって来たのかは覚えていない、どこへ向かおうとしていたのか、どこへ向かえばいいのかも分からない。意識は薄い膜が張ったように朧気で、思考は巡らせる度に霧散し消えていく。
そんな時、どこからか声が聞こえてきた。侮蔑が込められた高笑い、心底楽しそうな笑い声。その声色は鈴のように凛としているのに、言葉に込められている感情と不釣り合い、不協和音。
「あらあら、もう諦めてしまうの? 潔いのね──」
深淵から抜け落ちてくる影、それは徐々に人の形を成していく。
かつては神々しき光を放っていたであろう金色の髪は傷み、すでに色褪せてしまっている。だが髪質は失われていないのか、影が歩み寄ってくる度に左右へ揺れる結われた長い髪は絹のように滑らかな動きで揺れる。
かつては確固たる信念が込められたであろう胸、それは見た目こそ同じだが、すでにその胸中を埋めていた信念は欠片(ピース)となって抜け落ちてしまっている。抜け落ちた心には、大きくぽっかりと穴が空いていることだろう。
かつては真っ直ぐに理想を見つめていたであろう瞳は、もはや輝きなど携えていない。あるのは侮蔑、憤怒、失望、信じてきた者達、守ろうとしてきた者達の裏切りに絶望し濁ってしまった汚れた瞳。
かつては革命の象徴として掲げられた純白の旗も傷み、荒み、今では疑念と無念によって漆黒に犯された呪いの旗と成り果ててしまっている。
「まぁ、その方がいいと思うわよ。私としても、アナタに使役されるとかヘドが出そうですもの──」
必死に笑いを噛み殺しながら深淵から出てきたのは堕ちた聖女、理想の途中、志半ばで没した聖女が成ったかもしれないカタチの一つ。
──もしも、聖女が怨みを抱いたら
──もしも、聖女が人間に絶望していたら
──もしも、聖女が自分を憎んだら
いくつもの可能性が存在する、もしかしたら史実の彼女は怨みを抱き、人間に絶望し、自分自身を憎んでいたのかもしれない。しかし、後世に伝えられたのは一人の聖女としての姿。事実なのか、偶像なのか、それは誰にも分からない。
いや、"どちらであろうが関係ない"のだ。
なぜなら、唯一絶対の真実がある。
──命が尽きる直前に彼女が抱いた想いは
──慈愛か、憎悪か、それは問題ではない
──どんな想いを抱いていようが
──聖女ジャンヌダルクは、確かに居たのだから
故に目の前には、ジャンヌ・オルタが"居る"。
他でもない、アナタが"願った"が故に。
「ほんと、ご苦労様としか言えないわね。聖杯から生み出された紛い物に過ぎない私を求めるなんて、正気の沙汰とは思えないわ──だいたい、アナタが求めているのは──」
身動きが取らない自分の下半身へ、彼女の脚が絡み付いてくる。さらに体を寄せてくる彼女は、故意に豊満な乳房を押し付けてくる。彼女の柔らかな肢体が、腕が、まるで蛇のように体を這っていく。
いつしかジャンヌ・オルタの顔が、すぐそこにあった。互いの吐息が感じれるほどの距離で見た彼女は、研磨された宝石のような肌と、妖しく輝く瞳、整った唇をもって甘く囁いてきた。
「──"こっち"、じゃない──?」
耳朶を通して脳を犯してくる彼女の言葉と、体温により熱せられた吐息。全身を這い伝わってくる、柔肌の感触と体温。その抗いがたい物理的、体感的な誘惑は、もはや媚薬や麻薬の類い。脳髄は痺れ、四肢は艶やかな肌に蹂躙され、理性は少しずつ削られていく。
密着する体を器用に捻り、脚を絡めたまま彼女は腕だけを持ち上げ移動させ始める。胸板へ細くキメ細やかな指先が置かれ、ゆっくりと這っていく。
まずは鎖骨、突き出た部分を爪先で撫でていくと、次は肩へと指を滑らせる。肩口の形を確かめるように何度か往復させたら、そのまま脇腹を経由して腹部までは緩やかに。
彼女の指先が滑るたびに、触れた場所へ電流にも似た言葉にできない感覚が体を跳ねさせる。その反応を楽しんでいるのか、ジャンヌ・オルタは妖しく微笑むだけ。
腹部へ到達した彼女の指先は弧を描いていたが、いつしか這わされた指は一つではなくなっていた。二本、三本と増やされていく指。単調だった刺激は変化し、それぞれの指が意志を持っているかのよう。
「恥ずかしくないわけ? "こんなに"して──気持ち悪い」
耳元でジャンヌ・オルタが放った蔑みの言葉、吐息は熱いのに鼓膜を叩いた言葉には、凍てつくほどの侮蔑と軽蔑が込められていた。
喉で笑いを噛み殺す彼女は、いつしか指先だけではなく掌をもって腹部を撫でていた。布越しに感じた彼女の掌の感触は柔らかく、先程までの指だけを用いた愛撫とは比べものにならない刺激を与えてくる。
ただ腹部へ掌を置いているだけなのに、そこから伝わってくる熱は焦燥感を煽ってくる。触れてほしいと自己主張してしまう下半身の反応を楽しむだけで、彼女は何もしてこない。
「ああ、気持ち悪い、気持ち悪い。正直すぎるのも考えものよね、ほんと死んでくれないかしら──そうね、"この先"をしてほしいなら対価として命を貰う、なんて面白くない?」
腹部から下腹部へと、ゆっくり移動していく彼女の掌。触れるか触れないかという距離で、伝わってくる熱だけを充てがってくる。
今にも大笑いしそうなジャンヌ・オルタ。こちらの返答を待ちながらも彼女は、ダメ押しとばかりに整った唇から血のように真っ赤な舌を出すと──耳朶へ、舌先を捩じ込んできた。
卑猥な水音が直接、鼓膜を響かせる。だが彼女の舌先は容赦なく耳朶の肉壁を味わうようにうねり、唾液を擦り付けてきた。その度、直に頭へ叩き込まれてくる卑猥な水音は先の甘い言葉など比ではない。
唾液という粘液が擦り付けられる感触、熱く柔らかい舌が耳朶を縦横無尽に犯していく。出し入れされれば、その度に捩じ込まれる舌先が脳を突く。抗うこともできず、ただただ蹂躙されていく耳朶。
と、そこでようやくジャンヌ・オルタが耳朶を犯していた舌を抜き放った。瞬間、耳朶と彼女の舌が糸を引いて、ぷつりと切れる。重力に引かれ落ちていく糸は、幾度となくなぶられ、混ぜられたせいか白く濁っていた。
──少し息を荒くさせているジャンヌ・オルタ
──微かに頬を紅潮させ
──自身の唾液で唇を濡らす彼女は
「────ねぇ、どうする?」
──と、囁いた
→[すみません、命は惜しいです…]
[命が惜しくてオルタ抱けるかッ!!]
続き? (書く予定は)ないです。
[追記]
ま た 爆 死 し た
ので、ジャンヌ・オルタ啼かせてやる(憤慨)