※この作品はR-18です。

ぶるま、すくみず、ソーニャちゃん   作: 池田 

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第1話

スマートフォンを片手に、私は鏡の前に立つ。

もう片方の手で、目を隠してシャッターを押した。

 

カシャ、と小さく電子音がする。

 

「……撮れた、かな」

 

恐る恐る、画面を覗き込んだ。

 

そこには制服を着ている私の姿。

 

ここまでは普通だ。

問題はそこから下。

 

下半身は、何故かパンツ一枚という変わった姿。

 

それを見た途端、私の中で渦巻く何かが一気に熱を持った。

 

自然と呼吸は速くなり、心臓はその拍動を強くする。

 

送り出された熱い血液が、体の隅々にまで駆け巡る。

体温が上がって、頭もふわふわした変な感じ。

 

「……これ私、なんだよね」

 

なんだか、別の誰かになったみたい。

自分が、自分じゃないみたい。

 

まるで……生まれ変わったみたいに。

 

そんな感覚に、陥った。

 

その感覚が気持ちよかったり、気持ちが悪かったり。

まるで、泥沼にはまるような……。

 

 

 

 

 

 

 

これが私にとって初めての、いわゆる「自撮り」という行為だった。

 

たまたま迷い込んだ、変なサイト。

裸やそれに近い恰好で自らの姿を鏡に写し写真を撮る女の人達の姿。

 

それを見た瞬間、なんだか頭を殴られたような……。

 

いや、もっと脳の奥深くに突き刺さるような。

そんな衝撃が、私を襲った。

 

知らない世界に、意図せず迷い込んでしまった私は。

その世界の空気に、見事に当てられた。

 

気が付くと私は、部屋の鏡の前に立っていて。

そのまましばらく、そこに写る私をじっと見つめた。

 

制服を着っぱなしの、私の姿。

校則通りの靴下に、校則通りのスカート丈。

おおよそ、普通の高校生といった感じ。

 

今の自分と昔の自分を照らしあわせて、あの頃より背が伸びたな、とか。

肉付きが良くなったのかな、とか。

 

今までの短い人生で、自分の体に起こった変化を感じていた。

 

あの頃とは違う私と、あの頃と変わらない私。

 

それが混じり合った今の私が、目の前に。

 

「もう高校生なんだよね、私」

 

幼稚園や小学校、中学校の記憶。

忘れたわけじゃないけれど。

 

たまに、本当に私の記憶なのかな、と思うことがある。

 

今の自分と昔の自分が、切り離されたように。

過去と現在が、時々うまく繋がらなくなる。

 

私はいつの間に、こんなに大きくなったんだろう?

 

心と体の成長速度が、なんだか一致しない感じがした。

 

 

そのままなんとなく。

本当にただ、なんとなく。

私はスカートを脱いでみた。

 

スカートが床に落ちて、その下のパンツが現れる。

 

やっぱり、いつもの視点から見るのとは違う感じがする。

白い布の中にある、赤いリボンの形をした装飾がやたらはっきりと見えた気がした。

 

そのデザインは、正直色気なんてあったものではないけれど。

 

でも、鏡の前でこんな格好でこんな事してるなんて。

 

なんとも言えない後ろめたさと、ゾクゾクと背筋をなぞる得体の知れない何かが。

 

だんだんと、じわじわと、私を支配していった。

 

 

 

 

写真を撮ったあと、いつの間にかパンツには小さなシミが出来ていた。

それが何かって言うのは……わざわざ言う必要は無い、はず。

 

シミに触れると、自分でも驚くような変な声が出た。

それと同時に、全身を駆け巡ったすさまじい快感も。

 

そこから先は、記憶が曖昧だ。

 

でも、自分の両手で自分を責め立てていたのはなんとなく覚えている。

 

熱くて、気持よくて。

何も考えられないような。

 

この世界にこんな事があったんだ、なんて。

 

結局その日は、疲れて意識を失うまでずっと自分を慰め続けた。

 

次の日の朝、目が覚めるとそのままの恰好で、私はベッドに転がっていた。

 

「うわ……」

 

シャツはぐしゃぐしゃ、パンツはまだ微妙に湿っていて気持ちが悪い。

幸い、学校の時間までにはかなり余裕があったので、私は体を洗うことにした。

 

階段を降りて、浴室へ向かう。

お母さんたちは、まだ起きていないみたい。

 

電気のついていない廊下に、日光が反射して眩しい。

 

汚れた服を全部洗濯機に放り込んで、浴室の戸を閉めた。

蛇口を捻ると、シャワーから温かいお湯が出てくる。

 

頭から爪先まで、お湯が滑り降りていく。

 

お湯で暖められた空気と、さっきまで居座っていたひんやりした空気が時々私の体を撫でた。

 

「……はぁ」

 

お湯で体は温まって、ほかほかしてきたはずなのに。

でも、冷たい風が体の中を通って行く感覚が抜け切らない。

 

何故か、身震いが止まらなかった。

 

初めてのことが多すぎて、ちょっぴり怖い。

 

だけど、それとは正反対に私の顔は緩んでいた。

自然と口角が上がって、変な笑顔が張り付いてしまう。

 

そして同時に、多分もう引き返せないかな、なんてことを考えていた。

 

 

 

 

その後の私は、学校でも上の空だった。

 

ずっとボーッとして、なんにも手につかない。

体のどこかに穴が開いて、そこから私のエネルギーが抜けていっているような感じ。

 

あまりにも私の様子が変だったのか、珍しくソーニャちゃんも私のことを気にかけてくれていたようだった。

でも、今日はなんだか……ソーニャちゃんと遊ぶような気力までもが流れだしてしまっていた。

 

なんかだるい、とソーニャちゃんに伝えると最初は怪訝そうな目で私を見ていたけど、その内にわかってくれたようで後はもう何も言ってこなかった。

 

机に突っ伏しながら授業を受けていると、あっという間に放課後になっていた。

今日は、何をしていたのか……それもなんだか曖昧だ。

 

どうしちゃったんだろう、私……。

 

隣の席を見ると、ソーニャちゃんは既に帰ってしまっていた。

と言うか、私を残して教室からみんないなくなっている。

 

「はぁ……帰ろ……」

 

なんだか今日はため息が多い。

私は重たい体を引きずりながら、家への道を歩いて行った。

 

 

家に帰ってからも、なんだか気持ちがスッキリしなかった。

 

体は相変わらず重たいのに、逆に心はその質量を失ってふわふわと何処かへ飛んでいってしまいそう。

 

壁にかけた時計の音が、リズミカルに時を刻む。

天井を見つめて、無為に時間だけが過ぎていく。

 

このままじゃ、流石にいけないなかな。

そう思って、私は無理やり体を起こした。

 

でも、体を起こした所で状況に変わりはない。

 

重心が体の変なところにあるみたいに、姿勢がぐらぐらと安定しない。

 

「うぅー……」

 

本当に、昨日から体の様子が変だ。

胸の奥がむずむずして、何かが溢れそうな気分。

 

やっぱり、アレのせいなのかな……。

 

それを確かめるため、というわけではないけど。

 

私は再び、鏡の前に立って自分の体を観察してみた。

 

こんな気分だから、さぞかし顔色が悪いんだろうと思ったけど。

顔色は悪いどころか、むしろ健康そのもの。

 

普段と違う部分といえば、眠そうな表情をしていることくらい。

 

「……うん」

 

そして私はまた、スカートを鏡の前で脱いだ。

 

今日は、昨日の地味なパンツより少しだけ派手なものが姿を現した。

水色と白の、ボーダー柄。

 

いわゆる、縞パンというやつ。

 

「これも、邪魔かな……」

 

昨日より、もうちょっと脱いでみる。

 

ワイシャツのボタンを外し、ベッドの上に放り投げた。

 

今度は、パンツと同じ柄のスポーツブラジャーが出現する。

 

そして昨日と同じように。

片手でスマートフォンを、片手で顔を隠し。

 

シャッターを押した。

 

撮った写真を確認してみる。

 

昨日より、格段に肌が露出していた。

 

ぞくり、と。

何かがまた私の体を通り抜けていく。

 

そして気が付くと、私は昨日と同じように。

 

ベッドで自分自身を慰めていた。

 

「はっ……あっ、ん……」

 

右手はパンツの中。

 

左手は胸を。

 

揉んだり、擦ったり。

快感をひたすらに追い求めて。

 

「ひぅっ、ん……うあっ……」

 

呼吸とともに、いやらしい声が口から零れ出た。

 

何やってるんだろうと言う冷静な心と、もっと、もっと欲しいと快感を渇望する心が。

 

頭のなかで時々分離したり、混濁したりしながら。

 

「あっ、ああっ!んっ、ふぅ、ぅ……っ!」

 

手の動きが、勝手に加速していく。

止まらない。

 

そうしているうちに、最初の波がやって来た。

 

「はっ、あっ……!あ、んっ……!」

 

体を仰け反らせて、また私は達した。

 

そして次に、体が何処かへ落ちていくような浮遊感。

 

「はぁ……はぁ、はぁっ……」

 

まだ、呼吸が荒い。

少しだけ、苦しい。

 

「はぁ……」

 

ひときわ大きな空気の塊が口から出て行った。

同時に、体に篭っていた熱も部屋に拡散していく。

 

「……ソーニャちゃん」

 

あれ?

 

無意識に、私はソーニャちゃんのことを呼んでいた。

なんでだろう……?

 

「ソーニャちゃん……」

 

もう一度、彼女の名前を。

 

すると先ほど失われた熱が、私の中に戻ってきた。

 

自分の体液で濡れた下着へと、再び手が伸びる。

 

濡れた部分が、異常に冷たく感じる。

 

「ソーニャちゃ、あっ……!」

 

私はまた、自分を弄んだ。

 

でもさっきと違うのは。

今、頭の中にソーニャちゃんが居るってこと。

 

結局その日も、疲れきって眠ってしまうまで私は私を慰めた。

 

 

 

 

 

 

 

そこからどれ位経っただろうか。

 

私はずぶずぶと深みにはまり続けていた。

 

その過程を、カメラは克明に記録していった。

 

最初の写真から、二日で下着になり。

 

その次は、ブラジャーを取って。

 

一週間も経つ頃には、一糸まとわぬ姿で写真に写る私が画面にいた。

 

そして、二週間目の今日。

私は更なる深みへ足を踏み入れた。

 

今、私の部屋には一つのダンボールが置かれている。

 

この間、インターネットのオークションで落札した物だ。

 

中身は、体操服とスクール水着。

 

厳密に言うと、ブルマと旧型のスクール水着。

 

いわゆる、コスプレグッズの類。

 

「……届いちゃった」

 

既に、支払いは終えている。

二つ合わせて、しめて二千円。

 

送料は別。

 

まぁ何が言いたいかって言うと、これはもう私の物だってこと。

 

どうしようが、私の自由だ。

 

「……とりあえず、サイズ確かめないと」

 

ダンボールを開けると、丁寧に梱包されたブルマとスクール水着が入っていた。

 

どっちから着てみようかな……。

 

少し悩んで、体操服の方を着てみることにした。

 

まず、体操シャツに腕を通す。

 

「あれ、ちょっと小さいかな……」

 

サイズに間違いは無いはずだけど……ちょっと判断を間違ったかな。

でも、着れないことは無い。

 

次に、ブルマ。

こっちも少しだけきつい。

下半身がちょっとだけ締め付けられる。

 

最後に、おまけでついてきた結構長めのハチマキ。

頭に巻くと、余った部分が太ももの辺りまで垂れ下がった。

 

布の面積が小さいためか、なんだかそわそわした気分になる。

 

「まぁ、動けないほどじゃないかな」

 

鏡に写った自分の姿を見る。

制服姿とも、下着姿とも違う独特の雰囲気。

 

「……私、なんでこんな格好してるんだろ」

 

ふと冷静になる。

どうして、こんなおかしな恰好を私は……。

 

でも、その理由は既に体が知っていた。

 

小さめのサイズが災いしたか、それとも幸いか。

布にゆるく締め付けられる感覚が、私の劣情をちくちくと刺激した。

 

「あ……」

 

まただ。

 

やっぱり、濡れちゃった。

 

「……さっそく汚れちゃったよ」

 

濡れた部分に、触れてみる。

ぬるっとした感触がして、少し温かい。

 

ここ最近、すっとこんな調子だ。

 

着替えて。

 

鏡の前に立って。

 

写真を撮って。

 

ベッドに寝転がる。

 

完全に、パターンが構築されている。

そしてその後やることも、いつもと一緒。

もうすっかりクセになってしまった。

 

今日は、服の上から体をまさぐった。

 

指の感触が、肌の感触が。

布越しに減衰しながら伝わっていく。

 

それでも、固くなった胸の二つの突起がはっきりと分かってしまう。

 

服の下にあっても、指の動きにしっかりと抵抗してくる。

その度に、快感が全身に走った。

 

「や、あぁ……っ、んうっ」

 

私は唇を噛んで、声が出そうになるのを必死に抑える。

それでも、抑えきれなかったものが口から零れていく。

 

「あっ、はぁ……っ!あ……ああっ!」

 

でも、今日はいつもより気持ちが良いというか……。

体がいつもより、熱を持っている気がする。

 

やっぱり、こんな格好してるのが関係してるのかな。

 

 

今、自分がどんなふうになっているか……それを考えると。

 

なんだか、いけないことをしているような。

やっちゃいけないことをやっているような。

 

そんな気分になる。

 

でも、それがとても危険でクセになる。

 

ふと部屋のドアに視線を向けた。

 

なんてことはない、木製の標準的なドア。

 

鍵はかかっていない。

 

もし、今。

 

誰かが部屋に入ってきたら……。

 

一番可能性が高いのは、お父さんかお母さんかな。

 

自分の娘が、こんな事してるって知ったらどんな顔をするんだろう。

 

怒るかな、悲しむかな。

 

それとも呆れたりとか?

 

「は、あっん、んんっ……」

 

ドアが開いたら、見られちゃうんだ。

 

ベッドの上で、変わった服を着て。

 

胸と、パンツの中を弄るいやらしい私の姿を。

 

見られちゃうんだ。

 

そう思うと、ぞくっ、と私を何かが貫いていった。

 

自然と手の動きが激しさを増していく。

 

「はぁ……あっ、あっ……」

 

目をつぶって、指先で水音を響かせる。

 

そうしていると、いつの間にか。

 

また私の頭の中に、彼女のイメージが降りてきた。

 

「あっ、ソーニャ、ちゃあっ……!」

 

彼女の名前を呼ぶと、だんだん自分の手が自分の物じゃないように思えてくる。

 

ソーニャちゃんが、私をめちゃくちゃにしている気分に。

 

「そこ、だめっ……!」

 

居もしないソーニャちゃんに、私は訴えかける。

 

ソーニャちゃんの手も、こんな感じなのかな。

 

「んっ、やぁ、あああっ……!」

 

妄想の中で、私は彼女にもてあそばれながら絶頂を迎えた。

 

目を開けると、ソーニャちゃんの姿は一瞬で消えてしまう。

 

ちょっとさびしい。

 

「はぁ……ソーニャちゃん……」

 

こういうことをする時、普通は誰の顔を思い浮かべたりするんだろう。

やっぱり男の人?

 

でも、どうして私は……。

 

「どうして、ソーニャちゃんなのかな……」

 

そりゃあ、ソーニャちゃんの事は好きだけど……。

でもそれは、あくまで友達としての好きのはず。

 

はずだけど……。

 

「ここまでしちゃったら、説得力無いよね」

 

てらてらと光る指先を見ながら、私は一人でつぶやいた。

 

私にとって、ソーニャちゃんって何なんだろう。

友達なのはまず良いとして……。

 

あぁ、もうよくわかんないや。

 

「……友達以上、恋人未満?」

 

なんてね。

 

でも、私の中でソーニャちゃんの存在は確実に大きくなってきているのは自分でもはっきりとわかっていた。

 

ソーニャちゃん……。

 

逆に、ソーニャちゃんは私のことどう思ってるのかな。

やっぱりただの友達?

 

そう考えると、少しだけ胸が苦しくなった。

 

 

 

 

 

 

 

さらに、数日が経過した。

 

今、私は教室に居る。

既に授業は終わって、放課後だ。

教室にはすでに誰もいない。

 

グラウンドに目を向けると、サッカー部や陸上部が練習をしているのが見えた。

 

「そろそろ、良いかな」

 

私は席を立って、移動を開始した。

 

向かうのは、いつもの空き教室。

私は一人で廊下を歩く。

 

差し込んでくる夕日が暖かい。

 

私の足音だけが、廊下に響き渡る。

 

数分も歩けば、空き教室の扉が私を出迎えた。

 

辺りを見回して、誰も居ないことを確認してから扉を開けた。

 

中には、やはり誰もいない。

 

今日ソーニャちゃんはお仕事だし、あぎりさんも用事があると言っていたから。

 

だからここには、私だけ。

 

他の生徒が来るかなと一瞬思ったけど、私達以外でこの教室に訪れる物好きはこの学校には居ないはず。

 

もうこの教室は、半ば私達三人だけの場所と化している。

 

その場所に、私は今一人で立っているんだ。

 

「……改めて見ると広いなぁ」

 

やっぱり障害物が少ないからそう感じるのだろうか。

 

教室の隅っこに、乱雑に積み上げられた机が数個だけ。

他には何もない。

 

窓の外には、桜の木が等間隔で並んでいるのが見える。

 

春には鮮やかなピンクで隙間なく彩られる枝も、今はスカスカな印象だ。

 

窓を開けると、柔らかな風が教室に渦巻いた。

私の短い髪をふわりと持ち上げる。

 

空気の温度は熱すぎず、冷たすぎず。

肌にとって心地の良い温度。

 

けれど、私は少しだけ震えている気がした。

 

もちろん寒いわけではない。

 

私は一旦、教室の入口まで戻り辺りを念入りに見回した。

 

大丈夫、見える範囲に人どころか虫一匹いない。

 

ゆっくりと教室の扉を閉めると、密室が出来上がった。

 

意味もなく教室の中を一周してから、私は制服のボタンに手をかける。

 

まずブレザーが床に落ちて、ふぁさ、と音を立てた。

次にスクールブラウスとネクタイ。

 

両方とも、ブレザーの上に重ねていく。

 

そして最後にスカートのホックを外した。

 

重力に引かれたスカートが、私の足元で放射状に広がった。

 

「うわー……」

 

なんて言うか、とうとうやってしまったかという感じ。

 

制服を脱いだ私の姿は、下着姿でも、ましてや全裸というわけでもなく。

 

襟元が赤の、白いシャツに。

面積の小さい紺色の運動着。

 

そう、数日前に買ったあのブルマ。

 

実は朝からずっと、制服の下に着込んでいたのだ。

 

「は、裸になるよりも恥ずかしいかも……」

 

正直、朝から気が気じゃなかった。

 

もちろん、しっかりネクタイは締めていたしスカートの中を覗かれるような事態などそう簡単に訪れるわけがない。

 

それでも「もしかしたら……」という疑念が頭から離れていかなかった。

 

周りの視線がすべて、私を見透かしてくるようなあの感覚。

他人の何気ない視線でさえ、私の体を舐めていくような。

 

普段なら絶対に無視しているような微弱な感覚に、私の体がいちいち反応してしまう。

 

秘密は、人の感覚を鋭敏にさせてしまうのだろうか。

 

でも、それすらも快感として捉えてしまう私の頭は。

 

心は、おかしくなってしまったのだろうか。

 

たぶん、そうに違いない。

 

体操服姿で、教室の中心にぽつんと立つ私を見ればよく分かるだろう。

 

普通じゃない。

 

普通の人は、こんな事しない。

 

でも、もう……。

 

もう私は、普通じゃ満足出来ない。

 

普通じゃ、足りないんだ。

 

「……早く、済ませないと」

 

カバンの中から、いつものスマートフォン。

 

今日は、鏡が無いので内側カメラで撮影する。

 

右腕を目一杯伸ばして、アングルを調整する。

なるべく、全身が画面に収まるように。

 

黒板を背にすると、体操着の白がくっきりと画面に浮かび上がった。

 

こんなもんで良いだろう。

右腕をなるべく動かさずに、左手で顔を隠す。

 

画面をタップすると、カシャ、とシャッター音が教室に響いた。

 

すぐさま、撮った写真を確認する。

 

すこし上を向いて、少し内股で。

頬をいつもより、すこし赤くして。

 

明らかに、興奮した人間の表情をしている私が画面の中にいる。

 

そしてそれを見ながら静かに、だけど確実に。

 

興奮している自分がいる。

 

まずい。

これは非常にまずい。

 

股のあたりが、湿っていくのが自分でもわかる。

 

どうしよう……。

 

「あ……」

 

その時、教室の隅に一塊になっている机が目にとまった。

 

そういえば、前に何かで見たことがある。

机の角に、体重をかけて……。

 

それが何かを思い出す頃、私は既に机を引っ張りだしていた。

 

ガゴ、と机の足が振動して独特な音をたてる。

 

「よっ、と……」

 

片足を机に乗せると、ひんやりした机の表面が私の神経を素早く撫でた。

 

「ん、んっ……!」

 

机の縁に股を押し付けると同時に、じゅわりと何かがあふれたような気がした。

 

そのまま小刻みに、腰を前後に動かす。

 

動く距離は、せいぜい数センチ……いや、もしかしたら一センチもないかもしれない。

 

それでも、途方も無い距離を一瞬で移動したかのような快感が、津波のように押し寄せてくる。

 

「あっ……!これ、すごい、ぃっ……!」

 

傍目から見たら、かなり間抜けな光景だろう。

 

コスプレなんかして、机にまたがって。

 

誰かが、こんな私を見たら……。

 

ソーニャちゃんが、こんな私を見たら……。

 

一体、なんて言うんだろう。

 

「ソーニャ、ちゃんっ……!」

 

しかもそんな事を思うとなおさら興奮してしまうんだから、さらに救いようがない。

 

そのままの体勢で、行為に勤しむこと数分。

 

もうすぐ達するか、という時に。

 

突如、教室の扉が乱暴に開かれた。

 

「あ」

 

「あ……」

 

そこに立っていたのは、紛れも無く。

 

変装した刺客でも、あぎりさんの分身でもない。

 

ソーニャちゃん、その人。

 

「え……は?」

 

「あ、あ……」

 

でも、なんで。

 

なんでソーニャちゃんが。

 

今日はお仕事のはずなのに。

 

「お前……一体何して……」

 

「そ、れは」

 

こんなとき、なんて言うのが一番良いんだろう。

 

きっと、ソーニャちゃんも同じことを考えているはず。

 

お互いどうしたら良いかわからないまま。

 

夕暮れに溶けていくカラスの声だけが、いやにはっきりと聞こえていた。

 

全身から力が抜けていく。

私は床にへたり込んでしまった。

 

どうしよう。

 

「その、恰好はなんなんだ」

 

「え、と……」

 

口は動いてるはずなのに。 

 

うまく言葉が、つなげない。

 

「とりあえず、服着ろ!服を!」

 

「あ、うん……」

 

ソーニャちゃんが、床に乱雑に放ってあった私の制服を投げてよこした。

 

バサ、と音を立てて、私の前に制服が落着する。

 

その途端、なぜだか私はいきなり恥ずかしくなってきて。

慌てて制服に袖を通した。

 

 

 

数分後。

 

私はいつもの制服姿に戻っていて、空き教室でソーニャちゃんと並んで壁にもたれていた。

 

だけど、お互い会話は無い。

 

気まずい沈黙が、二人の間にゴロンと転がっていた。

 

普段なら、私がソーニャちゃんにちょっかいでもかけて手痛い反撃を食らうんだろうけど。

 

今日はそういうわけにも行かない。

 

見てしまったソーニャちゃんと、見られてしまった私。

 

どっちが何を言っても、更にこじれてしまいそうで。

 

「……おい」

 

「……なに」

 

「ここで何してたんだ、お前」

 

「……それ、私に言わせるつもり?」

 

「……嫌なら、別に言わなくていい」

 

ちょっと話して、すぐ途切れて。

 

お互い、腫れ物に触るような感じ。

 

会話が続かない。

 

「最近、お前の様子が変だったのはこのせいか」

 

「……多分そう、かも」

 

「何をやってるんだお前は……」

 

呆れたふうに、ソーニャちゃんがため息をつく。

 

「そういえば、ソーニャちゃん今日はお仕事だったんじゃ」

 

「ここに忘れ物したから、一旦戻ってきたんだ」

 

「……そっか」

 

偶然って、時々とても意地悪なことをする。

 

よりにもよって、とか。

なんでこんなときに、とか。

 

最悪のタイミングで、最悪な事を起こしてしまう。

 

全然嬉しくない奇跡。

 

「いつから、こんなことしてたんだ」

 

ソーニャちゃんが私に聞く。

 

「……二週間くらい前、かな」

 

私は、すべて話すことに決めた。

 

もうこんなこと、終わりにしなきゃ。

終わりにして、普通に戻らなきゃ。

 

そうしないと、いつか……。

いつか、私とソーニャちゃんの小さな世界も。

 

本当に壊れてしまう気がしたから。

 

今ならまだ、引き返せるかもしれない。

 

まだ、軌道修正出来るかもしれない。

 

 

私は、すべてをソーニャちゃんに伝えた。

 

スマホの写真も、買ったものも、それで何をしていたのかも。

 

すべて、すべて白状した。

 

そうすると、体の奥底に溜まったすえた臭いを放つ何かが。

私の中から出て行った気がした。

 

そして、ソーニャちゃんは黙ってそれを聞いてくれた。

 

普通、友人の性癖なんて聞かされても困るだろうに。

 

「……そうか」

 

私の話を聴き終わったソーニャちゃんは、そう呟いただけだった。

私を責めるような言葉も、変に慰めるような言葉も無い。

 

ただ黙って、私の話を受け止めてくれたようだった。

 

「……もう、暗いな」

 

そう言ってソーニャちゃんはカバンを持って立ち上がった。

私もそれに続いて立ち上がる。

 

窓の外を見ると、街には明かりが灯り始めていた。

 

「そろそろ、帰らないとね」

 

「行くぞ」

 

そう言って、ソーニャちゃんはずんずんと先に進んでいってしまう。

私は慌てて彼女を追いかけた。

 

 

学校を出る頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。

人もまばらな道の中、街灯だけが真っ直ぐ並んでいる。

 

そういえば、こんな時間にソーニャちゃんと一緒に居るのは初めてかも知れない。

ゆっくりと歩く私達を、会社帰りのサラリーマンが足早に追い越していく。

 

空を見上げると、月がぼんやりと浮かんでいた。

綺麗な満月で、金色の光を放っているように見える。

 

そしてその下には、似たような色の髪のソーニャちゃん。

やっぱりいつ見ても綺麗な髪だな、とか。

 

「……なぁ」

 

そんなことを考えていると、ソーニャちゃんが口を開いた。

 

「なに?」

 

「いや、その……」

 

いつもはっきり物を言うソーニャちゃんだが、今日はなんだか歯切れがよくない。

一体どうしたんだろう。

 

「……ソーニャちゃん、どうしたの?」

 

「あの時、お前が私の名前呼んでいたのは……」

 

「え……」

 

聞かれて、いた?

 

私の呼吸が、一瞬止まる。

 

顔が一気に熱くなる。

 

しかし、脳の温度は一気に下降した。

 

この数秒で、いきなり見えない何かにがんじがらめにされたように。

 

体が動かなくなる。

 

動けなくなる。

 

「……やすな?」

 

「……あ、う」

 

「おい、大丈夫か」

 

大丈夫なわけないでしょ。

 

と、いつもの私なら即答していただろう。

 

でも、今の私にはそうする余裕も残されていなかった。

 

いきなり崖っぷちに立たされたような。

判断を誤れば、一気に真っ逆さま。

 

そんな状況に立たされている気がした。

 

「……もし、私がお前に何かしたんだったら」

 

「ち、違うよ!そういんじゃないよ!」

 

「そうなのか?」

 

「うん……」

 

もしかして、心配させちゃったのかな。

 

申し訳ない反面、少しうれしい。

そっか、ソーニャちゃん私の事……。

 

「ソーニャちゃんは全然、関係ないからさ」

 

「……てっきり私が何かしたのかと」

 

「……なんか、ごめんね」

 

「いや、何もないなら良いんだ」

 

「うん、大丈夫」

 

思えば、これが一番長く続いた会話かもしれない。

その後も、私たちは何も言葉を交わさずに歩き続ける。

 

そして私の家が見えてきた。

 

家に電気はついていない、どうやらまだ誰も帰ってきていないらしい。

 

「それじゃあ、明日な」

 

「あ……」

 

ソーニャちゃんがそれだけ言って、また歩き出した。

 

その背中が、なんだかすごく寂しく見えて。

 

「ま、待って!」

 

気がついたら私は、ソーニャちゃんを呼び止めていた。

 

「え?」

 

「その……今日は、誰も居ないみたいだし」

 

適当な理由で、私は彼女を引き止める。

 

「だからちょっとだけ、寄ってかない?」

 

でも、このままソーニャちゃんを行かせてしまうのはなんか嫌だったから。

だから、もうちょっとだけ一緒にいられるように。

 

ソーニャちゃんは目を丸くして、私を見ている。

 

「……ダメかな?」

 

「……じゃあ少しだけ」

 

意外にも、ソーニャちゃんは私の提案にすんなり乗っかってきた。

早速彼女を家に招き入れて、部屋へと案内する。

 

そういえばソーニャちゃんが私の部屋に来るのって、これが初めてかな?

 

ソーニャちゃんは時々、きょろきょろと部屋を見回した。

なにか珍しいものでもあるのだろうか。

 

借りてきた猫のようにおとなしく、ベッドに腰をかけている。

 

「何か飲む?」

 

「いや、別にそんな気を使わなくても」

 

「お茶で良いかな。ちょっと待ってて!」

 

「あ、おい……」

 

とりあえずソーニャちゃんを部屋に残して、私は台所へ向かった。

 

湯のみをふたつと急須をひとつ。

お盆にのせてまた部屋へと戻る。

 

「お待たせ」

 

「あ……早かったな」

 

「こんなのすぐ終わるからね。はいどうぞ」

 

「い、いただきます……」

 

お茶を一口だけ飲んで、床に正座するソーニャちゃん。

見ているこっちも、なんだかそわそわしてくる。

 

でも、改めて何を話せば良いのかわからなくて。

 

またお互いに黙ってしまった。

 

時々、お茶を啜る音だけがする。

 

「……それで、だ」

 

「うん?」

 

「お前がなんであの時……私を呼んでいたのかを聞きたいんだが……」

 

「あぁ、うん……」

 

すこし恥ずかしそうに、ソーニャちゃんが話を切り出した。

 

「……お前、私の事」

 

「……わかんない」

 

「わかんないだと?」

 

「だって……本当にわからないもん」

 

「どういうことだよ」

 

「……気がついたら、って言うか。いつの間にかソーニャちゃんの事が」

 

あの時、無意識的にソーニャちゃんのイメージが。

ふっと私の頭の中に降りてきた。

 

そこは、理屈も理由もない世界。

私にすら理解しきれない、自分の無意識の世界。

 

そこにソーニャちゃんが唐突に現れた。

そしてわけも分からずに、私はソーニャちゃんを求めていた。

   

おかしな話だと思うけど、それ以上の事は私には言えない。

 

「……私、ソーニャちゃんのこと好きなのかな?」

 

「私に聞いてどうするんだよ……」

 

「そうだけどさ……」

 

「本人にもわからないのに、私にわかるわけ無いだろ」

 

「私は、ソーニャちゃんのこと……」

 

もちろん、ソーニャちゃんのことは好きだ。

大好きだし、一緒に居たいと思っている。

 

でも、それはあくまで友達としてだったはずなのに。

 

今の私の胸の中には、明らかにそれと別種の感情が堆積している。

 

それが何かは、わからない。

 

だから、気持ちが悪い。

 

わからないから、気持ちが悪い。

 

「……やっぱり、わかんないや」

 

「……あぁ、そうか」

 

「なんか、ごめんね」

 

「いや、別にいい」

 

また、何度目かの沈黙。

 

今日はずっと、沈黙が私達につきまとっている。

一緒にいると居心地が悪いので何度か追い払っても。

またすぐに、奴は顔を出す。

 

何か話題を見つけなきゃ、と狭い部屋の中で必死に視線を動かした。

 

「そういえば、お前あの服……」

 

「あれがどうしたの?」

 

「……わざわざ買ったんだな」

 

「それ、さっきも話さなかった?」

 

「いや、まぁそれはそうなんだが……」

 

「見る?」

 

「なっ……!?」

 

わかりやすくうろたえるソーニャちゃん。

でも、ちょっとだけ興味がありそうな目をしてた。

 

ソーニャちゃんの考えてること、なんとなくわかる。

 

私はクローゼットの奥に隠してあるスクール水着を取り出して、彼女に渡した。

 

「……これで二千円か?」

 

「ううん、もう一着で二千円」

 

「教室で着てたやつか」

 

「うん、それ」

 

彼女は、まじまじとスクール水着を眺めている。

何を想像しているのか、顔が少し赤い。

 

私も恥ずかしくなってくる。

 

でも、赤くなってるソーニャちゃんがなんだか面白くて。

私の中のいたずら心が、少し顔を出してきた。

 

「ねぇソーニャちゃん」

 

「……何だよ」

 

「着てみる?」

 

「はぁっ!?」

 

「だって、そんなずっと見てるからさぁ」

 

「ば、バカ言うな!誰がこんな……」

 

かなり焦ってる。

やっぱり、ソーニャちゃんはいちいち反応が面白い。

 

「実は、興味あったり?」

 

「ない!あってたまるか!」

 

顔を真赤にしながら、ソーニャちゃんは水着をこちらに投げてよこした。

 

「そんなに慌てなくてもいいじゃん……もしかした本当に興味あるの?」

 

「ないって言ってるだろ!」

 

「……ちょっと見てみたいな」

 

「は?」

 

「ね、着てみない?これ」

 

「バカかお前は!」

 

「バカで良いからさぁ、ほらほら」

 

だんだん楽しくなってきて、なにがなんでも着せたくなってきた。

こう言っちゃなんだけど、ソーニャちゃんはちょろいから。

 

もうちょっと押せば着てくれるんじゃないかな?

 

「ねーってば、ちょっとで良いからさ」

 

「こんな恥ずかしい、格好出来るわけ無いだろ!」

 

「似合うと思うんだけど……」

 

「そういう問題じゃ」

 

「ソーニャちゃんの水着姿見てみたいなぁ」

 

「おい……」

 

「少しで良いから!ねっ!お願い!」

 

「……くそ」

 

ソーニャちゃんが舌打ちをしながら、私から水着を奪い取る。

 

「……本当にちょっとだけだ、すぐ脱ぐからな」

 

「やった!」

 

ソーニャちゃんは、結構押しに弱い。

だから、ちょっとしつこくすると割りとすぐ折れる。

 

だよね、ソーニャちゃん。

 

私知ってるんだよ。

 

 

着替えるから出て行け、と私は部屋を追い出された。

私の部屋なのに、なんか変な感じ。

 

ドアの向こうから、衣擦れの音が微かに聞こえてくる。

数分経って、中から「いいぞ」とソーニャちゃんが私に告げた。

 

部屋に入ると、スクール水着を着た彼女が立っている。

 

顔を伏せて恥ずかしそうなソーニャちゃん。

 

胸を手で隠して、足をもじもじさせている。

 

絹のような肌、調度良い肉付き。

とても、綺麗……。

 

私が何も言わずに見ていたせいか、ソーニャちゃんはさらに顔を赤くした。

 

「お、おいなんとか言えよ。逆に恥ずかしいだろ……」

 

「……あ、うん」

 

「……なんだよ」

 

「綺麗だなぁ、って」

 

「うるさい、この!」

 

「ほ、褒めたのになんでー!」

 

ベッドの上にあった枕をソーニャちゃんが投げる。

わかりやすい照れ隠し。

 

あぁ、でも本当に綺麗だな。

近くで見ると、なおさらだ。

 

私の心臓が、拍動を速める。

 

どうしよう、ほんのイタズラのつもりだったのに。

 

私は、その気になってしまっている。

 

どうしよう、どうしよう。

 

頭が熱くなって、何も考えられなくなってしまう。

 

まずい、いつものパターンだ。

 

体が、熱を持ち始める。

 

そして感覚が鋭敏になって。

 

お腹の底が、うずき始める。

 

「お、おい!」

 

「ん?」

 

「なんでお前も脱いでるんだよ!」

 

「え?あぁ……ちょっと暑くて」

 

無意識に、私は制服を脱ぎ捨てていたようだ。

適当に返事をして、私は彼女に近づいた。

 

「な、なんだよ」

 

「……本当に、綺麗だよソーニャちゃん」

 

「何言って……」

 

「……ソーニャちゃん」

 

「やす、んっ!」

 

「ん……」

 

もうちょっと、イタズラしちゃえ。

悪魔が、そう囁いた気がした。

 

「ん……んん……!?」

 

「む……んう……」

 

彼女を抱きしめながら、私はキスをする。

 

ソーニャちゃん逃げようと抵抗するが、バタつかせた手は虚しく空を切った。

 

私は更に強く、ソーニャちゃんを抱きしめる。

 

息継ぎをしながら、全身で密着しあう。

 

「やっ、やすな、お前何を……んんんっ!」

 

「ふぅ、ん……」

 

ソーニャちゃんの唇、とてもやわらかい。

 

いや、唇だけじゃない。

 

腕も、足も、お腹も。

 

全部、柔らかくて。

 

これで殺し屋やってますなんて、本当に嘘みたい。

 

「や、やすな……?」

 

「……なに?」

 

「駄目だこんな、こと。私たちは……」

 

「女同士?」

 

「そ、そうだ!」

 

「そっかぁ……でもね」

 

ソーニャちゃんをベッドに押し倒す。

 

私の影が、彼女の上に落ちた。

 

「私は、ソーニャちゃんのこと好きだよ」

 

「落ち着け!何言ってるんだお前!」

 

「大好き」

 

「やすな……?」

 

それが友達としての好きか、恋愛としての好きか。

 

わからないけど。

 

でも、私はやっぱりソーニャちゃんが好き。

ソーニャちゃんが、大好き。

 

だから、もっと欲しくなる。

 

ソーニャちゃんが、欲しくなる。

 

「おい、どうしたんだ一体……」

 

「……ソーニャちゃんは、私のこと嫌い?」

 

「いきなり、何を」

 

「どうかな?」

 

「ちょっと待て!」

 

「なに?」

 

「じょ、状況がよく……わからない」

 

「私もわかんないよ」

 

「お前なぁ……!」

 

彼女の首筋に、舌を這わせる。

びくん、と彼女の体が跳ね上がったのがわかった。

 

「本当にどうしたんだ、やすな……!」

 

初めて見る、ソーニャちゃんの表情。

怯えたような目を、私に向けている。

 

ダメだよソーニャちゃん、そんな顔されたら私。

 

もっと、イタズラしたくなっちゃう。

 

「や、やめろバカぁっ……!」

 

「んー……」

 

「むぅっ!」

 

とりあえず、少しうるさいのでまた彼女の口を塞いだ。

 

ぬるりとした気持ちよさが、私とソーニャちゃんを行ったり来たり。

 

ソーニャちゃんはまだ必死の抵抗を続けているけど。

 

もうそんなの、無意味だってことにいつ気がつくかな。

 

いつもの関節技だって、この間合じゃ難しいだろうし。

 

なにより、彼女の体から力が抜けきっている。

 

「ふぅっ……う……ん……」

 

「ん……んぅ……」

 

キスをしながら、スクール水着の肩紐を下ろす。

 

僅かに、ソーニャちゃんの胸が揺れた。

 

もちもちとした白い肌。

 

控えめな膨らみの頂上に、桜色の可愛い乳首。

 

二つとも、はちきれそうなくらいに膨らんでいる。

 

「キスだけでこんなに……」

 

「やめろ!そんなに、見るなぁ……!」

 

「感じてたんだ」

 

「違うっ……!」

 

「またまた、強がっちゃってー。あむ」

 

「ひぁっ!」

 

「んむ、声かわいい……んぁ」

 

「あっ、やめ、ああっ!」

 

舌で乳首を突っつく度に、ソーニャちゃんが身を捩る。

 

彼女の口からは抵抗の言葉。

でも、体は正直に反応を返してくるから面白い。

 

そしていつからか、その抵抗の言葉すらなくなった。

 

そろそろ快感に身を任せ始めたのだろうか?

 

彼女の顔を見ると、恥ずかしいのか腕で顔を覆っている。

 

口はだらしなく開かれて、頬は紅潮して。

 

下に目をやると、紺色の生地に更に色が深くなった部分が出来ていた。

 

「ソーニャちゃん」

 

「……ぅ」

 

「もうこんなになってる」

 

「んうぅっ!?」

 

シミになった部分を指でなぞると、ソーニャちゃんは大きな声をあげた。

 

もう体の方はすっかり出来上がってるみたい。

 

そのまま指を押し付け、上下に動かした。

 

「やぁっ……そこ、だめっ……!」

 

「……気持ちいい?」

 

「そんな、こと……」

 

まだ強がってる。

 

あんな声出しておいて、全然説得力ないよ。

 

「嘘だぁ」

 

「嘘じゃないっ……」

 

「じゃあ、なんでこんなに濡れてるの?」

 

「あ……」

 

愛液で濡れた指を、彼女の口に突っ込んだ。

 

ソーニャちゃんの顔が、更に真っ赤になる。

 

暫し、無言。

 

お互いを見つめ合う。

 

彼女が本気で私を拒むなら、指をかじるくらいの事はするだろうか。

 

しかし、ソーニャちゃんはなんとそのまま私の指を舐めだした。

 

「ひゃっ」

 

「ん……う」

 

「……くすぐったいよソーニャちゃん」

 

彼女の舌が、指に絡みついて。

 

愛液と唾液が混ざっていく。

 

ソーニャちゃんの口の中、あったかい。

 

もう片方の手で、私は再び彼女の割れ目を擦ってやった。

 

彼女は、ぎゅっと目をつぶる。

 

しかしもう、抵抗の意思は全く感じない。

 

指の動きを、更に加速させる。

 

「んんっ……!」

 

「ねぇ、ソーニャちゃん」

 

「や、すな……」

 

「どう?気持ちいいの?」

 

「それは、ぁっ……!」

 

「ねぇってば」

 

ソーニャちゃんの顔が、どんどん物欲しそうな表情になっていく。

 

「気持ちいい、よね?」

 

私が耳元でそう囁くと、彼女は小さく頷いた。

 

「やっと素直になったね、ソーニャちゃん」

 

直後に私はスクール水着の水抜きに手を突っ込んで、彼女の秘部を直接刺激した。

 

さっきとは桁違いの刺激に、彼女は体を仰け反らせる。

 

「あっ、ああ、あああああああ……っ!」

 

ソーニャちゃんの嬌声が、部屋に響く。

 

もう、声を押す殺そうとすらしなくなった。

 

「まだ溢れてくる……」

 

「う、ああぁああっ……!」

 

彼女の秘部から溢れ出る愛液が、私の指の動きを加速させる。

 

ソーニャちゃんは私に抱きついて、その快感を全身で受け止めようとしている。

 

「や、やす、なぁあっ……!」

 

「ソーニャちゃん……」

 

「やすな、ぁっ、私もう……も、うっ……」

 

「……だめ」

 

「え……」

 

スクール水着から手を引き抜く。

 

私の手は、ソーニャちゃんの愛液まみれだ。

 

汗でも唾液でもない、不思議な香りが漂ってくる。

 

「まだ、だめ」

 

「何が……」

 

「……まだイッちゃだめだよ、ソーニャちゃん」

 

ソーニャちゃんの腕を解いて、彼女と腰を密着させる。

いわゆる、貝合わせの体勢。

 

「一緒に、ね?」

 

「……うん」

 

夕方の教室でしたように、私は腰を前後させる。

 

机とは対照的に、じわりと温かい。

 

でも、快感は桁違いに強い。

 

ソーニャちゃんの体温が、伝わってくる。

 

ブルマとスクール水着の生地がこすれ合う音。

 

接している部分が、湿り気を帯びてくる。

 

「はぁっ、あっ……」

 

「う……ん、ふぅっ……!」

 

ソーニャちゃんの喘ぐ声と、私の声が。

 

部屋に反響して、空気に溶けていく。

 

私は一心不乱に腰を振り続け、ソーニャちゃんは目をつぶって快感に耐えている。

 

普通とはちょっと違うけど、人と繋がるのってこんなに気持ちが良いんだ。

 

自分でするのと、全然違う。

 

また別のクセがついちゃいそう。

 

「ソーニャちゃ……んっ……!」

 

「やすなっ……やすなぁっ……!」

 

快感は最高潮に達している。

 

二人の体が一つになったような気さえした。

 

その中を渦巻いている、熱くて甘くて優しい……。

 

でも、どこか冷たくて切ない激情が。

 

「ソーニャちゃ、んっ、ああ……っ!!」

 

「うあっ、は、あああああっ……!」

 

私達を、貫いた。

 

「はっ、あぁっ……」

 

「あ……う……」

 

体が、震えている。

 

頭は、くらくらする。

 

快感の余波が、私の心にじっくりと染み渡っていく。

 

そしてベッドに倒れ込んだ。

 

「ふぅ……」

 

「はっ……はぁ……」

 

二人で寝転がって、天井を眺める。

 

体からは、熱がゆっくり引いていった。

 

「あ……」

 

外を見ると、いつの間にか雨が降っていたようだった。

 

水滴が、窓に引っ付いている。

 

「……そろそろ、帰る」

 

数分が経った頃、ソーニャちゃんがそう告げた。

 

「あ、うん……」

 

「着替えるから、外に出てくれ」

 

私はおとなしく、それに従う。

 

ドア越しに、またあの衣擦れの音。

 

「……悪いことしちゃったかな、私」

 

なんだか勢いと流れでのせいで、自分の中でも有耶無耶になってしまっていたけど。

 

ソーニャちゃんを、無理やり。

 

悶々としていると、中から「入っていいぞ」と声がかかる。

 

扉を開けると、いつものソーニャちゃんがそこにいた。

 

表情も、何もかも。

 

普段通りに戻っている。

 

「それじゃあ、邪魔したな」

 

「あ……」

 

私の横を通りすぎて、階段を降りていくソーニャちゃん。

 

その後を、追う私。

 

暗い玄関、外の薄明かりが入り込んでくる。

 

「……ソーニャちゃん」

 

「……なんだ」

 

「雨降ってるよ」

 

「……大丈夫だ」

 

「傘、貸そうか」

 

「どうせすぐ着く、別にいい」

 

「……じゃあ、送ってくよ」

 

「……いいって言ってるだろ」

 

意地の張り合い。

 

お互い、声こそ荒げないけど。

 

どういうわけか、心がざわついている。

 

それでも、私が送っていくとしつこくすると。

 

ソーニャちゃんは「勝手にしろ」とだけ言って、さっさと玄関を出てしまった。

 

私はまた、彼女の後を追いかけていく。

 

ソーニャちゃんは、濡れるのも構わないといった様子で普通に歩いていた。

 

追いついた私は、傘をさして彼女を雨から遠ざける。

 

隣同士で、相合傘。

 

でも、やっぱり何か気まずい。

 

何を話そうかな。

 

そのことで、頭がいっぱいだ。

 

「やすな」

 

ぐるぐると、思考を巡らしていると。

 

ソーニャちゃんが、私の名前を呼んだ。

 

「……なに?」

 

「お前は、その……私の事が……」

 

「うん」

 

彼女は、そこで一呼吸おいて。

 

私の方へ、向き直った。

 

「……好き、なのか?」

 

「……うん」

 

順番がおかしくなっちゃったけど、ソーニャちゃんに伝えなきゃ。

 

それが、私のするべきことのような気がするから。

 

ちゃんと、責任をとらないとね。

 

「ソーニャちゃんの事が好きなのは本当だよ」

 

「……なんで」

 

彼女は、顔を伏せて。

すこし恥ずかしそうにそう言う。

 

「なんで、私なんか……」

 

「……もし私の隣に居たのが別の人だったら、その人を好きになってたかもね」

 

「え……」

 

「でも、今私の隣に居るのはソーニャちゃんだから。それは変わらないでしょ?」

 

「やすな……」

 

「……正直、友達としての好きなのか、それとも別の好きなのかわからない」

 

「……あぁ」

 

「だけど、ソーニャちゃんが大好きなのは一緒だよ。もっと二人で居たいって思うし、もっと遊びたいとも思うし」

 

「……」

 

「……それじゃ、ダメかな」

 

「いや……よくわかった」

 

そこから、ソーニャちゃんはずっと俯いたままだった。

 

別れ道まで、あと少し。

 

その間も、雨は静かに降り続いている。

 

けれど、それとは対照的に私の心はむしろ晴れやかだった。

 

使えることを、すべて伝えたからだろうか。

 

「じゃあ、私はこっちだから」

 

「うん」

 

ソーニャちゃんが、傘の外に出る。

 

再び、彼女の体が雨に濡れた。

 

「ソーニャちゃん」

 

「なんだ」

 

振り返らずに、立ち止まるソーニャちゃん。

 

私はその背中に、語りかける。

 

「私、ソーニャちゃんの気持ちが聞きたい。いつでもいいから……」

 

「……あぁ」

 

「じゃあね」

 

「また、明日な」

 

「……うん!」

 

その何気ない言葉が、なぜだか無性に嬉しくて。

 

遠ざかっていく彼女に手を降った。

 

去っていく背中は、いつもと変わらないけれど。

 

少しだけ、優しい雰囲気をまとっていた。

 

私はその場で、彼女が見えなくなるまで。

 

ずっと、手を降っていた。

 

ずっとずっと、いつまでも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終わり。

 

 

 

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