零輪:序章
肉が裂ける音。血飛沫の散る音。恐怖に満ちた断末魔。耳をつんざく様な声。
俺は全てを聞いた。全てを見た。
もう俺一人になっていた。もう、俺一人しか残っては居なかった。他の者は皆、『死』の群集によって殺されてしまった。
共に戦った仲間は物言わぬ肉塊へと成り果てた。
共に笑い合った親友も、今や元の姿を思い出せぬ程に食い荒らされていた。
そう、残るは俺一人だった。俺だけになってしまった。
どうしてこうなってしまったのか。それを問いても誰も答えはしない。
他の方法はなかったのか。その問いは今や無意味だ。
違った結末はなかったのか、仲間が死なずに済む方法はなかったのか、俺がもっと強ければあいつを救えたんじゃないか、そんな事が脳裏をよぎるが既に全てが遅過ぎた。
死が迫る。鋼の様な甲殻に包まれ、ガチガチと不快な音を発しながら、俺達人間を総て殺すべく。
俺自身も満身創痍で左脚は感覚すらない。もはやここまでか。そう考え、せめて最後の抵抗をしようと親友から渡されたシャインクリスタルを懐に仕舞い、腰に提げた剣を再び手に取った。
「全くよ、使えもしねぇのにこんなもん後生大事に持っていやがって。おまけに今際の際に渡す形見がコレかよ。……すまねぇ、カイル。お前との約束、果たせねぇかもしれねぇや」
死を受け入れたとも拒絶とも付かない感覚。俺はその時、確かに死を覚悟した。
特別なチカラも持たぬ俺に、一体何が出来ようか。一体、どうして抗えようか。この『死』そのものに。一体どれ程の時間、自身の命を持たせられようか。
けたたましい金切り声が響く。猛烈な速さで、それが迫って来る。カマキリの様な姿をした、そいつの振り上げられた双腕の刃が、俺の身体も引き裂こうと振り下ろされる。
目を背ける事はしなかった。出来ようはずもない。俺から親友を、仲間を奪った相手から。憎悪の対象からどうして目を背けられようか。
俺は絶叫した。あらん限りの力を振り絞り、剣を構えて最後の一撃を放とうとした。
それが無駄な事は分かっていた。それが届く事がないのは分かっていた。
それでも俺はそいつから逃げたくはなかった。逃げる方向には進めない。
「っざけるんじゃぁねぇぇぇっ!!!」
俺の振るう剣とそいつの刃がぶつかろうかという刹那。突如、そいつの腕が付け根から先を吹き飛ばされていた。
俺は力の入らない左脚のせいでつんのめりながら、そいつの腕を吹き飛ばした攻撃が放たれた方を向く。そこには……。
「ま、まさかっ……!? 」
それが美しくも力強く、可憐な彼女達と俺の出会いだった。