とりあえずと天斗を座らせ、子供の姿である事を利して戦う状況などそんなにあるはずがないと説明する。
天斗が案じていたのは俺の身の安全だけであったらしく、それでずいぶんと落ち着いてくれた。
「そんでな、俺は今の状況じゃ美和のヒモだ」
「そうだけど、それは仕方ないでしょ。そんな姿で出来る仕事なんて……」
気がついたらしい。
「ま、まさか、子供の姿で妖異狩りして稼ぐ気っ!?」
「天斗が子供の姿のままで寝てくれるならな。ノートパソコンの説明じゃ、そうやって暮らしても16歳の体は普通に成長するらしいし」
「そんなの危ないじゃん!」
「でもよ、テメエの女が化け物と戦うなら俺も行く。天斗は俺の人生を見てたんだから、そんくらいわかるだろうよ」
「女って」
「美和ちゃんは、水瀬家の当主に次ぐ実力を持つ能力者なのよ。幕府に対する義理で、この江戸に置いてるの。まあ、朝廷からの貸しの一種ね。大雨や台風が来ると、よく和音が泊まりに行ってたでしょ。その時に美和ちゃんは、別の分家の人間達を連れて洪水に対処したりしてたのよ」
「母さんが、そんな……」
少し考えればわかる事なのだが、その考えるという行為すらあまり必要のない穏やかな暮らしに、天斗は慣れ切っている。
夏休みが終われば合体した状態で動く機会は多くなるだろうから、その時に先を、万が一にでも自分に降りかかる可能性のある災難を読む事の大切さを、じっくりと教えてやろう。
「さっきな、射撃場で銃を撃った」
「そ、そうなんだ」
「上がんなかったよ」
「えっ。……あ、もしかして熟練度?」
「ああ」
「武器顕現系のスキルは、戦闘状態でそれを使わなければ熟練度は上がらないんだ」
「だとさ。だから俺は、熟練度を上げておきたい。何かあった時に、美和や天斗の身を守れるようにな」
「……丈二さんなら、そう考えて当然か」
「だからいいか? 夜とかに陰陽寮から回してもらった仕事をして、昼は学校に行く天斗の体の中で寝るんだ。まあその仕事も、聞いた限りじゃそう回って来ねえらしいが」
「まあ、それくらいなら」
「だとよ、当主さん」
美波が、いい笑顔を浮かべる。
「それでは、水瀬家の当主として命じます」
その言葉で姿勢を正したのは、天斗と和音だけだ。
天斗はどんなリアクションを見せてくれるのだろう。スマホはムリでも携帯くらいあれば、その様子を記録できるのに。
そう思いながら吸いさしで新しいタバコに火を点け、短い方を灰皿で揉み消した。
「和音」
「はっ」
「あなたはこれより、本家の能力者である天斗ちゃんの配下とします」
「はっ」
「本来なら数人で当たる仕事ですが、本人は使役系。戦場に出る必要のない能力者の護衛ですから、しばらくは単独でいいでしょう」
「はっ」
「それに丈二くんの話では、天斗ちゃんは『性交渉可能者』になれるはずだと。そうなるための助力もなさい」
「はっ」
「……へ?」
これは、わかってねえな。
「その和音って子が今日から、天斗が勃起するためにならチンコ咥えるくらい、いつでもしてくれるって事だよ」
「丈二様。わたくしはこのような日が来ればどんなプレイにも対応できるよう、座学の受講と自主勉強に励んでまいりました。ただのフェラなど、今ここでしてもいいくらいです」
「あら。ちょっと見たいかも。天斗ちゃん、和音に命令なさい。ここで僕のを咥えろって」
「で、出来る訳ないでしょーっ!」
天斗はああだこうだ言っていたが、俺達は気にせず美和の家に帰る事にした。
陰陽寮に所属する能力者としての身分証や、和音の荷物は後で送ってくれるらしい。
4人で高級車に乗り込んでやっと、天斗は喚くのをやめた。
車が動き出す。
「丈二さん……」
「ん?」
「僕、どうすればいいんだろ?」
「どうって。勉強を頑張りながら1日でも早く勃起するようになって、和音をチンコで満足させればいいだけだろ。本人が嫌って言わないなら嫁にもして、ガンガン中出しして孕ませてやればいい。こっちの女は性欲が強いだけじゃなく、やたらと子供を産みたがるって話だからな」
「か、和音さんが僕の……」
「良かったな。衣装は巫女だが、僕だけのメイドは恋人でお嫁さん候補ってエロゲみてえな状況だ。天斗への誕生日プレゼントは、メイド服に決まりか」
「美和様」
「なんだい?」
「今日からはわたくしがお食事を作らせていただきますが、食材の状況などを大まかにでも教えていただけると」
「あー。そういうのは、天斗に任せてるからね。そうだ。世田道にスーパーとホームセンターが並んでる所があるだろう」
「はい」
「そこで天斗と和音は、食材を仕入れればいい。あたしと丈二は、ちょっとホームセンターに用がある」
「かしこまりました」
ホームセンターといえど、こちらの世界で初めて入る店。
ウキウキした気分で店内を見物したが、店舗から商品までが少し古臭いだけで、ホームセンターはホームセンターでしかなかった。
美和が買ったのは、俺と天斗が台所や洗面所で使うための丈夫そうな踏み台。
それを持って車の前でしばらく待っていると、大荷物を抱えた2人が戻る。
和音は無表情だが、天斗は誰が見ても喜んでいるのだろうなとわかるくらいの笑顔。きっと同棲を始めたカップルか新婚気分で、買い物をしていたのだろう。
「申し訳ありません。合鍵を渡すべきでした」
「いいさ」
「それより、ずいぶんと買い込んだなあ」
「今日からは地下を使わせていただくので、保存食や水も買いました」
「地下?」
「あたしは好きじゃないんだけどね。まあ、帰ったらわかるよ」
家に帰り着いてその地下に案内され、俺と天斗は言葉もなかった。
リビングに6ほどのベッドルーム。広いバスルームが2つ。キッチンやトイレも、かなりの広さだ。
「マジかよ」
「すごっ……」
「核はムリですが、通常の爆撃機が落とす爆弾にならば耐えられます。今日からはなるべく、こちらでお過ごしになってください。防音もしっかりしていますし、プレイルームや射撃場もございます」
「本当の金持ちってのは、ここまでするもんなのか」
「和音さん、寝起きもここでするの?」
「はい。個室は6に見えたと思いますが、実際は廊下の左右2つです。中にドアがあって繋がっておりますので」
「ええっ」
「なるほど。24時間、いつでもご奉仕を命じてくださいってヤツか」
天斗が頬を赤らめる。
男がそんなんでと言いかけたが、こちらではそれが当たり前なのを思い出して口は開かないでおいた。
「はい。美和様と丈二様は、左右どちらをお使いになりますか?」
「どっちでもいいさ」
「だな。それより、引っ越しが面倒だ」
「だろうなあ。おい、天斗。体を使えよ。このまんまじゃ大変だろ」
「必要ございません。生活用品の移動は、すべてわたくしが」
「いやいや、ダメだって。じゃあ丈二さん、まずは2階の部屋に行って合体しよう」
「へーい」
和音は困っているようだったが、美和に掃除と個室以外の引っ越しを頼まれてきびきびと動き出す。
自室で16歳の体に戻った天斗は、まずタンスとクローゼットの衣類を使っていない衣装ケースに詰め始めた。
(にひひ。夜が楽しみだなあ、天斗?)
(べ、別に)
(まあ、しばらくはあの女に溺れてもいい。ただ、自分の立場をちゃんと考えろよ)
(……どういう意味、それ?)
(美和も美波も恩着せがましい事は言わなかったが、警察や軍のスカウトは押さえてくれるとは言ったろ)
(うん)
(警察はまだしも、軍は国防、派兵となりゃ国益に直結する、能力者の確保にゃ躍起になってるはずだ。一般人には、キツイ誘い方もしてるだろうさ)
(そうだ。欧州じゃ2つの小国が異能者に見放されて、戦争になってるんだ……)
(そんな理由だったのかよ。んで、その軍の脅しまがいのスカウトから庇ってくれるのが水瀬家で、天斗はその水瀬家の庇護下にある能力者って事んなる)
(それがどうしたの?)
コイツは……
(アホか。受けた恩は意地でも返せ)
(で、でも僕にそんな力は)
(あるだろうがよ。神に紋々を彫られるほどの異世界人を使役してるって肩書、それとこっちじゃ貴重な『性交渉可能者』だ。勃起して女を抱けるようになったら、1つくらい嫁の枠を美波にくれてやれ。あの女ならもう、天斗がそう言い出した場合、水瀬家にとって誰が最も効果的な結婚相手かくらい考えてるはずだ)
(政略結婚、かあ)
(和音の他に、抱きてえ女は?)
(特にいないなあ)
(ならいいじゃねえか)
(勃起、ホントにするようになるのかな)
(和音で試せる事はすべて試せ。それでダメなら、俺に考えがある。大船に乗ったつもりでいろ)
(その大船、タイタニック号って船名じゃない?)
(うっせえ)
引っ越しと言っても、行き先は地下ではあるが同じ建物内。衣類をまず運んだ時に机やタンスがあったのを確認したので、作業は夕食前に終わった。
勉強に使わない書籍類などを運ぶ必要がなかったのも大きいだろう。
そしてまた分身して食事を始めようかとなると、給仕をするから後で食べますという和音を天斗が説得するのに少しばかり時間を取られた。
俺と美和は口出しせず、ビールを飲みながらその様子を眺めていたのだが、天斗にはやはりSっ気の欠片もないらしい。
「ごちそうさまでした。美味しかったです、和音さん」
「お粗末でございました。あら。食べ終わったばかりですのに、どちらへ?」
「部屋。今日の勉強が予定分どころか、1分も出来てないから」
「なるほど。では、僭越ながらわたくしが家庭教師役を」
「ええっ。いいですって!」
「よろしく頼むよ、和音。天斗はバカではないが、今まで真剣に勉強してこなかったからね」
「でしたら夏休み中に中学時代の許可ごとの、難解と思われる部分も復習しておきましょうか」
「ちゃんと頑張ってたら、おっぱいぐらい揉ませてやればいい。それでまたやる気が出る」
「なるほど、さすが丈二様。可能なら天斗様が『性交渉可能者』になるための練習にも、お知恵をお貸しください」
「ははっ。任せな」
「では、失礼します。後ほど小テストの時にでも食器を洗い、おつまみもお出ししますので」
「いいさ。こっちはこっちで、いちゃつきながら飲むし」
和音が頭を下げ、天斗が口の中で何事かを呟きながらリビングを出たので、美和の腰に手を回す。
「こ、こら」
「俺の初仕事、いつぐれえになる?」
「……2、3日中だと思う。姉さんは、自分で見た実力しか信じないからな」
「美和だけじゃなく美波と、その取り巻きも一緒に来るのか」
「最初だけはな。どうしても嫌なら」
「大丈夫だっての。そうだ。その時、美波達の前で抱いてやろうか? ソッチの実力も見せてやるために」
「バ、バカを言うなっ!」