走る。
舗装もされていない、夜の畦道をだ。
激しい足音。
それが重なって、東京では絶対に見られない満天の星空に溶けてゆく。
いや、ここは奥多摩の農家と田んぼと畑しかない集落。この江戸ではなく元いた世界の東京でも、ここまで足を伸ばせばこんな夜空を拝めたのかもしれない。
「キイッ」
「鬼ごっこは終わりか、エテ公?」
疾走するのをやめ、俺に向き直ったのは、両手に石を持った猿のバケモノだ。
カクエンとかいう妖異らしいが、そんなのはどうでもいい。
石や棒っ切れを使う程度には頭が良く、すばしっこくて警戒心も強い。
初仕事の標的をそう説明された俺がじゃあどうやって狩るんだと訊くと、簡単だと言って美和は薄い上着を脱いでそれを森に向かって何度も振り、畦道に投げ捨てて車に戻ったのだ。
つまりこの猿は、俺の女の匂いでおびき出された事になる。
そして俺が銃を向けると、この猿はすぐに逃げ出した。
「ほっとけば女を犯すらしいし、他人様の女で欲情するエテ公なら喜んで殺してやるぜ」
「キイッ!」
猿が跳ぶ。
逃げながらも俺を観察していて、もう丸腰と侮ったか。
だがそうだったとしても、そこらの石を持って殴るだけならまったく怖くはない。
この程度なら、肝の座ったヤクザ者1人で殺せそうだ。
そう思いながら、実体化させた拳銃をエテ公に向ける。
パンッ。
なんとも気の抜けるショボい音だが、猿は石を手放して畦道に転がった。
美波の家で試した通り、なぜかそれなりの射撃の腕だ。俺は拳銃など触れた事はあっても撃った経験などないのに、見事に猿のふとももを撃ち抜いている。
「その怪我じゃもう逃げらんねえな、エテ公」
「キイッ……」
「楽には死なせねえよ。試さなきゃいけねえ事が山ほどあるし、銃は撃てば撃つほど熟練度が上がるんだ。まずは、これだな」
ナイフ。
左手に出したそれを振りかぶり、銃弾が命中していない方の足に投げる。
銃と同じくナイフの投擲などした経験はないのに、それはしっかりと、かなりの深さまで猿のふとももに突き立った。
「……2、3、4、5。実体化させた武器は俺の手を離れると、自動的に指輪状態で俺の元に戻る。なんもしなきゃ、5秒か。次行くぞ、そらっ」
「キキイッ!」
人語に訳すなら、『やめてくれ』だろうか。
猿の目には、すっかり怯えが浮かんでしまっている。
向こうにいた時から、こういうヤツが嫌いだった。
平気で女を犯したりするくせに、いざ自分が痛めつけられる番になると当たり前のようにやめてくれだのと言い出す。
だがそんな連中をぶん殴って平気でいられたのは10代の頃までで、20を過ぎると後でヤクザ者がケツを取りに来たりした。
筋が通ってる方の味方をする昔気質のヤクザ者もいたが、そんなのはごく少数。なのでそんな事があると、すぐにその街を出たものだ。
「ぶっ刺さったな。指輪に戻れっと」
音もなくナイフが消える。
「よしよし、やっぱ指輪に戻すのはいつでもできるか。さて、エテ公」
「キッ……」
「こっからは、簡単に死なねえよう手足を撃ってく。熟練度のため、なるべく保ってくれよ? バケモノの端くれなんだろ、オマエ」
パンッ。
弾は限界の100発まで溜めてあった。
4発を撃ち、リロード。
落としたマガジンは、畦道を叩く前に消える。
「音が出ねえのは、ありがてえな。まあ、銃声があっから関係ねえか」
タバコを咥え、撃つ。
火を点けて、撃つ。
紫煙を細く長く吐きながら、撃つ。
淡々と手足に銃弾を叩き込んでいたのだが、猿は6度目のリロード直後にピクリともしなくなった。
ヘッドライト。
美和の運転する、悪路に強そうな四輪駆動車だ。屋根も後部座席もあるので乗り心地は悪くないが、何より荷台にあるシートをかけてロープでぐるぐる巻きにされている物が気になる。
猿の頭を狙って4発の銃弾を撃ち込み、絶命を確認してから銃を指輪に戻した。
運転席に歩み寄ると、すぐにウィンドウが下りる。
「死体は?」
「後ろの車だ。妖異の焼却は、専門の施設でする。あとは陰陽寮の職員に任せればいい」
「そうかい」
助手席には美波がいるので、後部座席へ乗り込む。
まるで護送車のような陰陽寮の車両が俺達の乗る車の脇を抜けると、美和はギアをバックに入れて見事なUターンを決め、来た道を戻り始めた。
「いい腕だ。この体じゃ、運転はムリだもんなあ……」
「丈二くん」
「どしたい、美波?」
「ごめんなさい。正直、あなたをナメてたわ。せっかくならカクエン程度じゃなく、唯一種の人型にでもぶつけてみればよかった」
「おい、姉さん」
「あなたも見てたでしょう。星明かりしかない農道での、淡々とした虐殺を。それは、まだ1度も成長していない顕現武器で為されたのよ。しかもこの世界に来てわずか数日の、男の手でね。さすがは背に御印を与えられるだけのもののふ、そう言うしかないわ」
「それはそうだけど……」
「どうでもいいさ。仕事を回してくれるならな」
「今ので30万。カクエンみたいな獣種の妖異の毛皮は服の裏張りなんかに使うと妖異の牙や爪を防いでくれたり、自然系能力者の心力消費を抑えてくれるから、いい値が付くの。大卒の初任給が10万ちょっとだから、悪くないでしょ?」
「いいねえ。そんなら今日から遠慮なく飲んで、たっぷり美和をかわいがれるってもんだ」
「どっちも遠慮された記憶などないんだが」
「ははっ。言いやがる。帰ったら憶えとけよ? お、銃の熟練度が20。ナイフが2んなってやがる」
ここまでの道中で美波が教えてくれたのだが、武器は熟練度が100になると選択肢が出て成長先を選べるらしい。
拳銃がマシンガンに成長したりはしないそうだが、威力が上がるのは大歓迎だ。
「そうそう。今日から2人はうちに泊まりなさい。できれば2、3日」
「姉さん、まさか……」
「ええ。産むわよ、丈二くんの子を」
「おいおい。俺の意見は?」
「大丈夫。婿に来いなんて言わないから。それに天斗ちゃんが『性交渉可能者』になったら、水の能力者の誰かが2人の精液を味見して、それが同一人物の物であるのか確認しなくちゃ。美和ちゃんには出来ないでしょ。ああ、別人のなら、天斗ちゃんの子もそのうち産もうかしら」
「そんなん、DNA鑑定かなんかで」
「それはなんだ、丈二?」
「科学世界の常識、でしょ。スキル世界のうちや美和ちゃんに理解できっこないわよ」
「そうか。こっちじゃ科学は」
「ええ。これ以上の発展はないだろうと、世界中の識者は言ってるわ」
「人工授精とか18世紀からしてるって聞いたが、まさかそれは」
「能力者のスキルでよ」
「……そんなにいんのかよ、能力者って?」
「医療系は、町医者が不足しない程度にいるわね」
「なんて世界だ」
美波の家に到着したのは、日付の変わった深夜だった。
まずは初仕事の汗を流せと案内された風呂場はなんと硫黄の臭う温泉で、30人ほどが身を浸せるヒノキの浴槽から絶え間なく湯が流れ落ちている。
「マジかよ……」
これでは本当に旅館じゃねえかと言いたいが、温泉は大好物。
洗い場で髪と体をザッと洗って、浴槽に身を浸す。
「うあ゛ー。……俺、ここに通っちまいそう」
「大歓迎よ。あまり京を留守には出来ないけど。妊娠は1年くらい後にするとしても、うちだってそれまでは少しでも多くセックスを愉しみたいもの」
「美波。美和も」
「日本酒とビール、どっちがいいんだ? 丈二」
「温泉に浸かりながら飲めるのか。たまんねえ。まずはビールかな」
「わかった、ここ置くぞ」
「ありがてえ」
瓶ビールが3本と、3つのグラスが浴槽の縁に置かれる。
重さのありそうなグラスではあるが、かけ流しの温泉に押されて割っては申し訳ないので、すべてにビールを注いだ。
体を洗う美人姉妹の豊満な肢体を眺めながら、それを口に運ぶ。
「キレイな紋々だなあ……」
「瀬織津姫様の御印よ」
「俺のは?」
「荒ぶる神に間違いはないけど、本人に神託が来ないとわからないわね。まあ、眷属に会ったら顔を見た瞬間にわかるから、名前は気にしなくていいわ」
「俺を生き返らせるくれえだからなあ。ロクな神様じゃなさそうだ」
「こら、丈二。罰当たりな」
「へーへー」
2人が湯船に浸かる。
俺は体が小さいので、湯船を出入りするための段差に腰かけているのだが、2人はその俺を挟むようにして気持ち良さそうに長く息を吐いた。
あんな仕事をしているなら、風呂やセックスは生き延びた事を実感させ、日常生活に戻るためのスイッチのようなものであるのかもしれない。
「しかし本気で俺に抱かれる気かよ、美波?」
「ええ。分家にも早く1人くらい産めってせっつかれてるし」
「体を洗ってる時、美和のは見ただろ?」
「バッチリと。恥毛を剃ってるなんて、まるで艶本の淫乱女ね」
「こ、これは丈二が」
「だな。俺が命令したんだ。美和、立て」
「……わかった」
アップにした長い黒髪に、メガネを外して柔らかくなった印象の美貌。
滅多にお目にかかれないほど大きいのに形の良い巨乳。見事な腰のくびれ。そして揉みがいのある大きな尻。ふとももはムチムチとしているのに、湯で隠れている足首は折れそうなほど細い。
そんな女が期待に頬を染め、俺の前に立っている。
いい眺めだ。
これなら、神様に感謝してもいい。
「足は肩幅だ、美和」
「は、はいっ」
「いい子だ」
ちょうどいい位置に来た股間に手を伸ばす。
「いつから濡らしてたんだ?」
「えっとその、車を降りた瞬間から」
「いやらしいな、美和は」
「ううっ。……い、いきなり指っ!?」
妹の秘所に視線が釘付けになっている美波によく聞こえるよう、蜜壺を指で掻き回す。
「ああ、くうっ……」
「す、凄いのね。あのガサツな美和ちゃんが、こんな」
「まあ、そうもなるさ。美和」
「はい」
「美和が俺のなんなのか、実の姉に教えてやれ」
「そ、それは」
「いやならいいぞ。美和が泣いて謝るまで抱いてやらねえし、ここに泊まるならずっと美波とのセックスを見物させてやる」
「い、嫌だっ」
「なら言え」
「ううっ」
美波は驚いているようだ。
全裸で足を開きながら立って、子供に蜜壺を掻き回されている事よりも恥ずかしい事があるか。そんな表情。
「あ、あたしは」
今まで触れていなかったクリトリスを、指の腹で撫でる。
「くうんっ!」
「早く言え」
「あたしは、丈二のペットの淫らなメス犬ですっ」
「そうだな」
「気持ち良くしてもらえるなら、足だって喜んで舐めます」
「美和の全身リップ、最高だもんな」
「舐めながら、何度もイッて。はんっ!」
「くくっ。大好きなGスポット責めだ。こうして2本の指を挿入して、ゆっくりバタ足みたいにされるの、好きだろ?」
「ああっ……」