女が目を閉じて考えていたのは、ほんの短い時間だった。
その手が、妙な銃に伸びてそれを俺に差し出す。
「お借りします。……拳銃にしては大きくて、バレルが長い。そしてサブマシンガン、でしたっけ。あれにあるような、両手で構えるためのストックがある。だが、サブマシンガンにしては小さ過ぎますね?」
「無坂9式機関拳銃。おっしゃる通り、拳銃でありながらフルオートで射撃可能な銃です」
「ああ、また知らん知識があるわ。セレクターでセミオートとフルオートを切り替え可能、か」
「そうなります」
「装弾数は?」
「24発です」
「……いいな。これはいい。なぜか、手に馴染む」
「国産銃ですから。女でも体が小さい者が多いので、グリップも日本人の手に馴染むようにとその大きさに」
「試しても?」
「はい。その間、それの次に試してもらう物を用意しておきます」
「なんか案があるって訳か。銃もいいが、アンタもいいね。名前は?」
「恐れ多いお言葉。陸軍の霜月中尉であります。田中、試射の付き添いを。弾はいくらでも使ってもらってもいい」
「はっ!」
銃が並んだテーブルは、射撃場の壁際。
それに背を向け、仕切りのあるボックスに向かう。
「弾はここに。それと説明を」
「あー。なぜか知識があって、手に持てばその銃の事がわかるんですよ。それでも不安だろうから、俺が操作方法を言います。間違いがあれば正してください」
「は、はあ」
マガジンを入れるところから俺の説明を聞いた女は、驚きを隠さずそれで間違いありませんと言った。
ならばと20メートルほど先に置いてあるバケモノが描かれた標的に銃口を向け、まずはセミオート。トリガーを引くと1発だけ銃弾が発射される状態で、片手撃ちを試す。
タアンッ!
「そ、そんな。初めて撃つこの癖の強い銃を、初弾で命中させるなんて……」
弾は、バケモノの頭部に命中している。
2発目、3発目も、ほぼ同じ場所に当たった。
次はフルオート。
しっかり前のストックも握って撃ったが、弾はほとんどがバケモノの頭部から外れる。反動が大きすぎて銃口が跳ね上がり、ほぼすべてが上に逸れたのだ。
「くっ、フルオートは弾をバラ撒くって感じだな。それなら、こうだ」
タタタンッ、タタタンッ!
弾が3発発射される時間だけトリガーを引き、すぐに指を離す。
3発の連射を2度で弾切れになったが、狙いはさっきよりマシになった。6発すべてが、少し散ってはいるがバケモノの頭部に命中している。
「さすがですなあ。御印を与えられる方は、やはり違う」
そんな田中という女軍人の声が聞こえるが、他者に与えられた能力を人に誇れるはずもない。
銃を持ってテーブルに戻ると、霜月は今試したのと同じ銃ではあるがスコープと、銃床代わりらしい細い金属の棒が付いた物を念入りに点検していた。
「おいおい。まさか、拳銃で狙撃しろと?」
「かなりの訓練が必要になると思っておりましたが、あの射撃を見るとそうは思えませんね。狙撃といっても、100メートルほどの距離ですよ。ですが高坂一等事務官が届けてくださった聞き取りの結果を読んだ感じでは、異界では1000メートルなどという距離からの狙撃は必要ないかと。それならばこの狙撃仕様の無坂9式と、今お試しになった強襲仕様、2丁だけにして携行弾薬を増やすべきかと。点検は終了です。どうぞ、持ってみてください」
銃を受け取る。
悪くない。悪くはないのだが、これを持って行く事はなさそうだ。
「いいね。だが、この銃床代わりの金具、ストックがな。ドライバーか何かで取り付けるんだろうが、狙撃したら取り外すのに時間がかかる」
「さすが。そこまで考えておられますか。銃をお貸しください」
「ああ」
「このストックは、こうして折り畳めます。慣れれば3秒もかかりませんよ」
「長さが半分に。それなら」
「まだですよ。ここのボタンを押し込みながら、折り畳んだストックを前に押します」
シャコンっといい音がして、ストックが前にスライド。
それで霜月の持つ銃は、強襲仕様だという俺が試したのとほぼ同じ大きさになった。
「驚いたな。銃は持てば理解できると思ってたが、そうでもねえらしい。しかし、それ作ったヤツは天才かよ」
「ありがとうございます。兵器開発局の連中が喜びますよ。どうぞ」
「ああ。この金具を押しながら固定されるまで引いて、2重になってる金具の外側を手前に倒す。……おお、出来た」
「ホルスターも専用の物がありますので、スコープ付きでも慣れれば抜くのに支障はありません」
「あとは、俺が使いこなせるかどうかだけだな」
「はい」
「試してみるか。って、どこ行ってたんだよ。美和」
「ん?」
「天斗が遅すぎる。悪さしてんじゃねえだろうな?」
オマエが言うかといった表情を浮かべ、美和が首を横に振る。
「天斗は運動場で体力測定だ。その結果で、提案する装備が変わるらしい」
「身体能力は俺と同じだろうに」
「そう言ったんだが、背に御印を持つ丈二と同じはずがないという意見が出てね」
「アホか」
「仕方ないさ。丈二と天斗のような能力者なんて、誰もが初めて見るんだから」
「この銃が使えたら、俺の方は終わりだ。この後は?」
「特にないな」
「わかった。じゃあ、さっさと試すか」
そして、ホテルでお愉しみだ。
精力のステータスを弄られているという予想が当たっているからか、日に何度も射精しないと、どうも落ち着かない。
美和しか抱ける相手がいない夜などは、美和が気絶するように眠ってしまうと、勝手に外に出て手当たり次第に女を口説こうかと、半ば本気で考えるほどなのだ。
「距離は50からでよろしいですか?」
「ああ」
霜月が天井からぶら下がっているボタンを操作すると、標的がスルスルと後退した。
この程度なら命中するな。
そう思いながらボックスのテーブルに置かれたマガジンを差し込み、セレクターをセミオートへと動かす。
「撃っていいか?」
「はい。私達以外はもう防音室と、次の天斗様に試射していただく銃の準備に取り掛かっています。どうぞ」
射撃場を見渡すと、たしかに美和達は壁際の大きなガラス窓の小部屋に移動している。
「へえ。霜月、下の名前は?」
別に美和がいないから口説こうというのではないが、どうもこの女は気になる。
なんというか、他人のような気がしないのだ。
「……夜子です」
「ヤコ?」
「はい。朝昼夜の夜に、子供の子ですね」
「そりゃまた」
「変わっているでしょう。ですが自分の家は、能力者の家系でも、武家ですらありませんで。娘にそう名付けよという神託が下され、親は大喜びでそう名付けたそうです」
「神託って。じゃあ、ヤコは能力者なのか?」
「はい。土属性と狙撃スキルの2種持ちですね」
「狙撃かよ、銃を使う前提じゃねえか。多いのか、そんなスキルは?」
「いいえ。この国で確認されているのは、自分だけです」
「それの熟練度を上げるために、軍に入ったのか」
「はい。ですが母に下された神託では、我の姿を背に負う者の出現に備えて鍛錬を重ねろと。見ればわかるそうなので、その方が現れたら除隊してお仕えするつもりです」
「お仕えって……」
ヤコが俺をまっすぐに見つめている。
この背中に御印とやらがあるのは聞いているだろうし、もしかしたらと思っているのかもしれない。
俺もそうだ。
だが、もしそうだった場合、俺のせいでこの女の人生が狂う。
「異界から戻られたらお願いするつもりでしたが、実際にお会いして確信に近いものを感じております」
「待て。このまま自由に、穏やかに暮らすって選択肢もあるんだぞ?」
「生まれ持った気質、なのでしょうね」
「あん?」
「退屈に耐えられません。それと生きるか死ぬかの状況を切り抜けた時、得も言われぬ快感が背を這い上るのです。そして、戦う事のない人生など、手に入れた瞬間にドブにでも投げ捨てたいと思っております」
「……わからんでもねえが、長生きできねえぞ」
「戦って死ぬなら、本望。そのお背中、見せていただけますね?」
これは、言ってもムダか。
銃を置き、甚平の上着の紐を解く。
外側を解き、内側に手をかけると、小部屋から美和が駆け出して来た。すぐ後ろには、美波もいる。
「なにしてるんだ、丈二。こんな場所でっ!」
「いやよ、このヤコが眷属ってヤツかもしんねえんだ」
「はあっ!?」
「あらあら。美和ちゃんが妬くほど気に入ってると思ったら、そういう事だったのね」
「おいこら、姉さん」
「まあ、まだ確定じゃねえがよ。背中の紋々を見りゃわかるらしいんだ。さあ、御開帳だぜ。なんなら下も脱ぐか、ヤコ?」
「い、いえいえっ!」
おうおう。真っ赤になって。まあ、もしそうなら偶然を装って見せまくって、ガマン出来なくなった頃に美味しくいただくがな。
そんな美和が聞いたら殴られそうな事を考えつつ、甚平の上を脱いで背中をヤコに向けた。
「あらあら」
「ぬうっ」
美波は苦笑で、美和は顰めっ面。
やはりか。
どうしたもんかなとヤコに向き直る。
驚いた事にそのヤコは片膝を床に付いて、深々と頭を垂れていた。
「おいおい」
「やっと出会えました、我が主に」
「……一緒に歩くにしちゃ、ちっとばかしキツイ道だぜ?」
「あなたと共になら、どんな苦難も乗り越えて見せます」
「言いやがる」
「なにしてんの丈二さんっ!」
天斗の声。
顔だけを向けると、案内の女を追い越した天斗は一目散に俺を目指して走り出した。
「なにって」
「こんな大勢の前でフェラなんかさせちゃダメでしょ! するならせめてトイレでっ!」
呆れ果てて物も言えない。
なので駆け寄った天斗の頭を、それなりの力でぽかりとやっておいた。
痛いと喚いているが、これくらいで許してくれるならありがたいと思ってもらわんと。
あそこは俺がビシッと、眷属を束ねるとかいう立場らしく、ありがたいご高説でもぶち上げて締めるべき場面だろうに。