※この作品はR-18です。

士道クリミナル   作:サイエンティスト

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 場を整えるための初めのお話。
 無理やりでも良いのでストーリーを仕立てないと死ぬ病気。
 そのせいか1話目はあんまりエロくないです。
 最高でもR15、最低PG12くらい。
 本番なのは2話目。
 イエスロリータ、ゴータッチ!



○七罪ビギニング

「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「な、何だ!?」

 

 とある休日の夜。

 そろそろ風呂に入ろうかとソファーから腰を浮かせた士道の耳に、玄関の方から鬼気迫る悲鳴が耳に届いた。

 反射的に身構えたものの、よくよく聞けば頻繁に耳にしたことのある悲鳴だ。

 特に心配はいらない類のものなので、ごく普通の足取りで廊下に向かった。

 

「ふふふ、大丈夫ですよー。怖くないですからねー?」

「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 玄関には美九と、その小脇に抱えられて暴れる七罪の姿があった。

 

「……美九、何でここにいるんだ?」

「あ、こんばんわ、だーりん。今日は七罪さんのところへ泊まりにきたんですー」

「そうか。で、何やってるんだ?」

 

 泊まりにきたことは理解できる。

 だがこんな時間に士道の家へ、七罪を抱えて訪れる理由は分からない。

 

「だーりん、もうお風呂に入りましたかー?」

「いや、ちょうど今入ろうと思ってたんだけど……」

 

 良く分からない状況に遭遇し、足止めをくらっている。

 ちなみに今もっとも気になるのは、暴れ疲れたのかぐったりしている七罪の姿だ。

 大丈夫なのだろうか。

 答えが望んでいたものらしく、美九は花のような笑顔を浮かべた。

 

「それならちょうど良かったです。だーりん、三人でお風呂に入りませんかー?」

「はあっ!?」

 

 驚きに目を見張る士道と、美九の腕の中でびくりと震える七罪。

 これが美九の目的なら、確かに七罪があそこまで抵抗する理由は分かる。

 

「入れるわけないだろ……七罪と一緒に入って我慢してくれよ?」

「うーん、美九もだーりんと一緒に入れないなら、そうしようかなーと思ってたんですけど……」

「絶対、嫌!」

 

 無気力になっていた七罪が明確な拒否の声を上げる。

 気持ちは分からないでもない。

 美九と共に入浴するなど、士道にとっては密室に折紙と閉じ込められるようなものだ。

 何をされるか恐ろしくて考えることもできない。

 

「この通り七罪さんがちょっと恥ずかしがってるんですー」

「どう見ても全力で嫌がってるようにしか見えないんだが……」

 

 疲れ果てていたにも関わらず、再び抵抗を始める七罪。

 だが美九はがっちり捕まえて離さない。段々七罪が不憫に思えてきた。

 

「そこで間を取って、だーりんと七罪さんが一緒にお風呂に入りませんかー?」

「いや、その発想はおかしい」

 

 間どころか明後日の方向だ。

 そもそも美九の目的から大幅にずれている。

 

「おかしくなんてありませんよー。どうしても美九と一緒に入ってくれないなら、せめてだーりんと七罪さんのお風呂での絡みを見たいんです」

「しかも覗く気満々じゃねぇか……」

 

 呆れて言葉を続けられない。

 もちろん七罪とも入浴する気は更々ないが、覗くと分かっていて入りはしない。 

 

「じゃあ妄想で我慢しますから、お二人で一緒に入ってきて下さい! もしも駄目なら、美九は四糸乃さんと一緒に入ってきますよー?」

「っ!? 四糸乃と!?」

 

 その言葉は士道ではなく、七罪に向けられたものだった。

 たぶん人質を取った上での脅迫だ。

 あざとい。

 

「や、やめて! 四糸乃には手を出さないでええぇぇぇぇ!」

「ふふふ、どうしましょうかねー?」

 

 美九の顔は完全ににやけた悪人のそれだ。

 脅しの効果は抜群で、七罪が慌てふためいている。

 その反応を確認した美九が、やっと七罪を解放した。

 

「そこまで嫌なら諦めます。それじゃあ美九は四糸乃さんと一緒に入ってきますねー」

 

 美九はくるりと背中を向け、ドアノブに手をかける。

 

「わ、分かった! 士道と入る! 士道と入るから! 四糸乃はやめて!」

「ちょっ、七罪!?」

 

 ついに悪行に屈する七罪。

 どうしても四糸乃を守りたいのだろう。

 見上げた自己犠牲の精神だ。

 だが士道を犠牲に巻き込むのはやめて欲しかった。

 士道は当然拒否しようとしたが、七罪は四糸乃のためにどうしても一緒に入って欲しそうな顔をしていた。

 泣きそうな顔をしてすがるような瞳で見上げてくる七罪に、拒む言葉をかけることはできなかった。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあお二人でゆっくりして下さいねー。うふふー」

 

 意味深に微笑むと、美九は風呂場に続く洗面所の扉を閉めた。

 後に残されたのはすっかり気が滅入った士道と、茫然自失といった様子の七罪。

 とりあえず美九が覗きに来ないよう、内側から鍵を閉める。

 

「まあ……お前だけ入ってこいよ。別に俺は入らなくても良いし」

「聞こえてますよー?」

「………………」

 

 どうも一緒に入浴するしかないようだ。

 外で美九が扉に張り付いて耳を澄ましているらしい。

 興奮したような荒い息でそれが分かる。

 

「……じゃあ、先にお前が入れよ。俺は後から入るから」

「……うん」

 

 もう諦めの境地に至った士道は、そう提案する。

 同じ高みに至っている七罪は無気力に頷いたが、一拍置いて恥じらいを乗せた鋭い視線を向けてきた。

 

「……あっち向いててよ。私のみすぼらしくて残念な身体を覗く気がないのは分かってるけど、見られてると恥ずかしいし……」

「あ、わ、悪い……」

 

 さっと背を向け、目蓋を閉じる士道。

 数秒後、背後から衣擦れの音が耳に届いてきた。

 もちろん七罪が衣服を脱ぎ去っている音だ。

 視覚を遮断しているせいか過敏になった聴覚が、無意識的にその様子を想像させる。

 慌てて他の事を考えるが、もう遅い。

 一瞬で心臓の鼓動が速まっている。

 しかしこの程度のことで心を惑わせる士道ではない。

 居心地の悪さを覚えながらも、さほど苦労せずに切り抜けた。

 やがて浴室の扉が開く音が聞こえ、脱衣を終えたらしい七罪の足音がその中に消えていった。

 

「さあ、次はだーりんの番ですよー?」

「分かったからもう離れてろよ……どうせ風呂場の音は聞こえないんだからさ……」

「それもそうですねー。じゃあ美九はリビングで待ってますぅ。ちゃんと一緒に入ったかは、後で七罪さんに聞きますからねー? ずるはメッですよー?」

 

 そう言い残し、美九は足音を立てて去っていく。

 一瞬口裏を合わせて風呂を共にした事実を捏造しようかと考えたが、美九の尋問に七罪が洗いざらい吐く可能性があるのでやめておいた。

 落胆しながら士道は衣服を脱ぎ捨て、タオルを腰に巻きつける。

 

「ん……?」

 

 変な気を起こさないよう心を強く持ち、風呂場への扉に手をかけようとした時、ふと視界の端に何かがちらついた。

 思いのほか綺麗に折りたたまれた、七罪が脱いだ衣服。

 その中から若葉色の薄布が端を覗かせていた。

 あれは恐らく、七罪が先ほどまで身に着けていた下着。

 きっとまだ温もりが残っているだろうと、意思とは無関係に考えてしまう。

 

「あーもうっ! 何考えてんだよ!」

 

 気を引き締めた矢先に煩悩が浮かび、士道は自分に怒りを覚えて頭を殴りつけた。

 どうも先ほど覚えてしまった興奮が後を引いているらしい。

 このままでは七罪を襲う危険もあるかもしれない。

 だが以前やむを得ず琴里と共に入浴した時は、何とか耐え忍ぶことができた。

 今回も気をつければ大丈夫なはずだ。

 意を決して士道は風呂場への扉を開けた。暖かみを帯びた湿った空気に身体が包まれる。

 

「……っ!」

 

 足を踏み入れると七罪が息を詰まらせた音が耳に入り、ついそちらを見やってしまった。

 そこでは湯船に肩どころか口元まで浸かった七罪が、怯えとも警戒とも取れる色を孕んだ瞳をこちらに向けている。

 不幸なことに震えながら見上げてくる子犬のようで、とても可愛らしい。

 その姿に士道は身体の中で血が騒ぎ始めたのを感じた。

 もうもうと湯気が立ち込めていれば正視せずに済んだのだろうが、生憎そう都合よくはいかないらしい。

 

「背中、向けた方が良いぞ? 向き合って入るのは、色々問題ありそうだからな……」

「そ、そうね……」

 

 声をかけるとびくりと震え、身体ごと反対側を向く七罪。

 

「っ!」

 

 その際長い髪を頭の上で纏めていたせいか、白いうなじが目に飛び込んできた。

 またしても瞬間的に心拍が急上昇する。

 これはかなりヤバイかもしれない。

 だがここで逃走などすれば、たぶん七罪は美九の毒牙にかかってしまう。

 さらにはその魔の手が四糸乃に伸びることも十分あり得る。

 二人のためにも自分だけ逃げ延びるわけにはいかない。

 かつてないほど意思を硬くして、士道は静かに湯船へと足を入れた。

 

「……駄目だな、俺……」

 

 だが情けないことに数秒で意思が揺らぎ始めた。

 狭い浴槽の中で背中合わせになっているので、どうしても背中同士が触れ合ってしまう。

 七罪はバスタオルを身に纏っているので直に触れているわけではない。

 ただそれが薄布一枚しか隔てていないと妙に意識させるので、むしろ逆効果に思えた。

 おまけに熱いお湯に浸かっているせいで身体が温まり、必然的に血流が良くなる。

 それが意味するところは心拍数の上昇。

 更には流れやすくなった血液の局部への集中。

 ここまでくると美九が七罪を襲わせることを画策していたとしか思えない。

 

「な、何が駄目なの……?」

 

 会話で気を紛らわせようとしているのか、七罪は硬い声で尋ねてくる。

 まあ真実を言うと変態と罵られるのは目に見えていたので、適当に理屈づけて答えた。

 

「何ていうか……結構、流されやすかったんだなって思ってさ。もっと気を強く持てばこんなことになってなかっただろうし……」

「……そんなことない、って私が言えた義理じゃないか……本当、何でこんなことになってるわけ……?」

「……俺にも分からん」

「………………」

 

 会話終了。

 十秒も持たなかった。

 もうさっさとやることをやって出た方が、精神的にも肉体的にも良いかもしれない。

 

「でも、まあ……せっかく一緒に入ったんだから、その……あ、やっぱり、何でもない……」

「何でもないって言われても気になるだろ……どうしたんだ?」

 

 言いかけて口を閉ざす七罪。

 会話を続けて気を紛らわすために、士道は問いかける。

 七罪はしばらく恥の滲んだ唸りを上げ、蚊の鳴くような声で口を開いた。

 

「……こういうの初めてだから……もし良かったら、頭を洗って欲しいって思ったんだけど……やっぱり嫌よね」

「ま、まあ、な……」

 

 誰かと一緒に入浴したことがないので、憧れを抱いていたのだろう。

 できればその願いを叶えてやりたいが、士道は控えめに断っておいた。

 頭を洗うという事は、七罪の首の辺りを見下ろす形になってしまう。

 ただでさえ危険な状況なのだ。

 これ以上事態を深刻にさせたくはなかった。

 

「……そうよね。私の汚くて手触り最悪の髪なんか、死んでも触りたくないわよね。うん、分かってる。忘れて」

「……っ」

 

 だが七罪に対してのこの対応は、限りなく悪手に近かった。

 得意のネガティブ思考で間違った原因を導き出し、憂鬱を感じさせる声で呟いている。

 自分がとてつもなく醜いとでも決めてかかっているかのような、自身を異常に卑下した言葉。

 この思い込みは絶対に捨て置くことはできない。

 それは火中の栗を拾う行為だが、思い悩んではいられない。

 

「そ、そうじゃないって。俺は人の頭を洗ってやったことがないから、きっと下手で不快な思いをさせちまうと思ってさ」

「そ、そうなの……? 別に、私は下手でも構わないけど……」

「……分かった。それで良いなら、洗ってやるよ……」

 

 士道は原因が七罪本人にはないことを教え、七罪の望みどおりにすることにした。

 もちろんそれは自殺行為に等しい。

 これから始まる試練を思うと、もう生きた心地がしない。

 寿命を削ってでも堪えなければ、今日士道は人生最大の過ちを犯す可能性がある。

 その過ちが世間に知られれば、社会的な死は免れないだろう。

 <ラタトスク>でも揉み消せるかは分からない。

 

「ほ、本当……? じゃあ、先に私が出るから、まだそっち向いててよ?」

「ああ……」

 

 ゾンビの呻き声に近い頷きを返し、七罪が湯船を出る水音を極力無視しようと試みる。

 まあ当然そんな器用なことはできない。

 耳には七罪の身体から滴り落ちる水滴が作り出す、小気味よい水音が入り込んでくる。

 

「も、もう出ても良いわよ……」

 

 恥じらいと微かな期待を滲ませた七罪の声が耳に届く。

 初めて誰かに頭を洗って貰うのだから、期待を抱くのは仕方ない。

 だが羞恥を覚えるのなら止めて欲しかった。

 なにせこっちは恐怖を覚えているのだから。

 士道は何を目にしても動じぬよう呼吸を整え、湯船から上がる。

 振り向けばバスタオルを身体に巻きつけ、こちらに背を向ける七罪の姿が目に入る。

 それは想定の上をいく光景だった。

 身に着けたまま湯船に浸かっていたせいで、不幸なことにバスタオルは若干透けて肌に張り付いている。

 正直何も身に着けていない方が遥かにマシだった。

 正面から目にしていたら耐えられたかどうか自信がない。

 戦慄しながらも士道は七罪の背後へと足を運んだ。

 

「……ほら、お湯かけるぞ?」

「あっ、ちょっと待って」

 

 七罪は両腕を上げ、頭の上で纏めていた髪を解いた。

 多少ボサついた長い髪が広がり、背中を腰元まで覆い隠す。

 これで背中や首筋の白い肌は映らないので、士道は胸を撫で下ろした。

 できればもう少し早くやって欲しかった。

 まだ縮こまった丸みのある肩は見えるが、今まで刺激が強すぎたせいでこの程度なら許容範囲だ。

 

 

「……かけるぞ?」

「ひゃっ……」

 

 頭にお湯を被せると、七罪は驚いたように小さな声を漏らす。

 十分髪が湿ったところで、士道はシャンプーを手にした。

 髪の量が多いので多めに出し、それを七罪の頭の上で泡立てていく。

 

「目に入ったりしてないか?」

「大丈夫。ていうか、意外と上手いじゃない……」

「そうか? 経験ないんだけどな」

 

 まあ先ほどは適当な理由をつけただけで、本当は琴里の頭を洗った経験が何度もある。

 昔のことではあるものの、どのように洗うのかは大体身体が覚えていた。

 洗っていると良く感じ取れるが、確かに七罪の髪質は多少荒い。

 自分で言うほど酷くはないものの、枝毛もあるし滑らかさもあまりない。

 しかし何故だろうか、その手触りは不思議と胸を高鳴らせていた。

 困惑が大部分を占めているせいで、興奮が多少引いているのはせめてもの救いだ。

 

「……っ!」

 

 だが髪を半ばまで洗い終えた時、士道はその理由に気付いてしまった。

 誤って七罪の背中に触れてしまったことで。

 その手に伝わってきた肌の感触は、女の子らしい滑らかさ。

 だが他の精霊たちのような、この世のものとは思えないほど滑らかな肌ではない。

 確かに七罪は自分で言うほどではないが、他の精霊たちに比べると肌や髪、外見も多少劣ると言わざるを得ない。

 しかしそれこそが深刻な要因となっていた。

 他の精霊たちが非現実的な美しさを持つのに比べ、七罪の場合はかろうじて現実的な範疇に留まっている。

 非現実的でこの世のものとは思えぬ美しさと、現実的で十分存在し得る美しさ。

 どちらが感じ取りやすく、実感できるかは比べるべくもない。

 他の精霊と接するよりも強い興奮を覚えているのは、それこそが原因だった。

 気付いてしまえば、意識せずにはいられない。

 困惑が消え去ったことで、一段と強さを増した興奮が戻ってくる。

 

「じゃ、じゃあ……流すぞ?」

「んっ……」

 

 沸きあがる劣情を必死に理性で押さえつけ、士道は無心で淡々とこなす。

 大量の泡が足元を流れていく光景を、どこか遠い世界のことのように見つめながら。

 七罪はしばらく髪を撫でたり毛先を弄ったりしてから、やがて満足気な息を漏らした。

 

「あ、ありがと、士道……」

「……どういたしまして」

 

 そんな恥じらいながらお礼を言われても困る。

 もはや嬉しいとか可愛いとかそういう気持ちではなく、ただただ純粋な恐怖が浮かぶ。

 士道は頭の中で適当な念仏を唱えながら湯船に戻ろうとした。

 

「あ、ちょっと待って……できれば、その……背中も、流して欲しかったり……」

 

 そこを七罪に恐ろしい言葉で呼び止められる。

 背中を目にするだけならともかく、ここまで昂ぶった状態で触れればたぶんアウトだろう。

 本人に自覚はないのだろうが、もう全力で士道を殺しにきているとしか思えない。

 かといって拒否すれば七罪が傷つく。

 だが士道も素直に従う気はなかった。

 

「別に構わないけど、その前に七罪も俺の頭を洗ってくれないか?」

 

 これで少しの間頭を冷やす時間が取れる。

 もし平静を取り戻せそうにないなら、もう美九に見破られる覚悟で湯中りの真似事をするしかない。

 

「えっ、私の雑菌塗れの薄汚い手でも構わないなら、別に良いけど……」

「妙に現実的な言い方だな……別に汚くなんてないから、洗ってくれよ」

「う、うん……」

 

 戸惑いながらも頷く七罪。

 背中合わせで回るように位置を交換し、士道は腰を下ろした。

 何と言うか色々な意味で疲労が蓄積している。

 本来風呂は疲れをとる場所のはずなのだが。

 

「じゃ、じゃあ、ほら、お湯かけるから……」

 

 背後の七罪が頭にお湯を被せてくる。

 別段髪が多いわけではないので、七罪はすぐにシャンプーを頭に塗りつけてきた。

 やはり初めてで勝手が分からないらしく、泡立てていると僅かに額を伝って流れ落ちてくる。

 いっそこれを目にいれてしまえば痛みで気が紛れるかもしれないと、士道は徐々に末期的な思考に陥り始めた。

 

「き、気持ち悪かったりしない? 気分が悪かったり、吐き気がするとか……」

「お前どこまで自分を卑下すれば気がすむんだよ」

「だ、だって私ならこんな手で触られたら、アルコール消毒と煮沸消毒したくなるし……」

「そんなことしたらもう取り返しがつかないぞ……!」

 

 アルコールで判断力が鈍ったところへ、ただでさえ沸騰しそうな頭に煮えたぎったお湯をかけられる。

 実行されれば光の速さで襲いかかる嫌な自信があった。

 士道の言葉の意味を理解していないようで、七罪は特に言及してこなかった。

 

「やっぱり髪が短いと洗い終わるのも早いんだ……ほら、流すわよ?」

「うぐっ……」

 

 そんな感想を漏らし、七罪は泡をお湯で洗い流す。

 足元を士道の頭から滴り落ちた泡が流れていく。

 しかし妙にその量が多い。

 恐らく先ほど七罪の頭にお湯を被せた時、意図的に思考を鈍らせていたせいで洗い流しを不十分にしてしまったのだろう。

 

「じゃあ、交代――わっ!?」

 

 運悪く流れた大量の泡を踏みつけた七罪が、足を滑らせて転ぶ気配を感じた。

 

「七罪!」

 

 頭を打ってしまうかもしれないと、士道は反射的に振り向きその身体を支えようとした。

 

「――うおっ!?」

 

 だが士道も同じように足を滑らせ倒れてしまう。

 それでも七罪が頭を打つ直前、何とか床との間に手を差し込むことができた。

 だが、結果的には大失敗だった。

 

「……っ!」

 

 手をついて倒れた士道の瞳に映ったのは、仰向けに倒れた七罪の姿。

 バスタオルがはだけ露となった、控えめな膨らみとその頂点に色付く極々小さな桃色の突起。

 色気を感じさせるように濡れ、上気してうっすら赤く染まった肌。

 そして頭への衝撃により若干薄れた意識が見せる、夢心地とも取れるぼんやりとした表情。

 ありえないほどに艶かしく、かろうじて現実的な範疇に留まった美しさ。

 もう、駄目だった。

 士道は自分の理性が焼き切れたのを、はっきりと感じた。

 導かれるように、微かに開いた唇へと口付ける。

 

「…………っ!?」

 

 やっと状況を認識したらしい七罪が、またも理解できない状況に見舞われ目を見開く。

 腕の中で身体を強張らせ、瞳に混乱を映している。

 だが士道は止まれない。

 微かに湿り気を帯びた唇を食むように味わい、存分に心を満たしていく。

 

「んっ……ふ、うぅ……!」

 

 再び状況を認識できたのか、腕で押しのけるように抵抗してくる七罪。

 だが身体に力が入らないらしく、その抵抗は儚く弱々しい。

 自身に覆いかぶさる士道の身体を、僅かに押し戻す程度の力もこもっていない。

 

「むぅ!? ん、うぅぅ!」

 

 だが士道がその手で胸元に触れた時、強い力で胸を叩いてきた。

 胸に響く明確な拒否を表す衝撃。

 それは焼き切れた士道の理性を繋ぎ直し、自分がどれだけ罪深い過ちを犯しているのか明確に理解させた。

 

「――っ! わ、悪い七罪! 俺、何して――!」

 

 士道は即座に壁際まで飛び退く。

 身体を起こした七罪は何も言葉を返さず、バスタオルで前を隠して壁に背がつくまで後ずさった。

 その表情は俯いているせいで目に映らない。

 ただしその顔が耳まで赤く染まっているのは、否が応でも見て取れた。

 

「本当にごめん! 俺はもう出る! 後で幾らでも謝るから!」

 

 これ以上この場に身を置くことは許されない。

 士道はすぐさま浴室の外へと足を向けた。

 

「――ま、待って!」

 

 だがそれを七罪に呼び止められる。

 どんな理由で呼び止めたとしても、自分が犯した過ちを考えれば士道に拒否する権利はない。 

 士道は言われた通り、凍りついたかの如く動きを止めた。

 

「……な、何で、あんなことしたの……?」

 

 怒りよりも困惑を感じさせる声音で、問いかけてくる七罪。

 嘘や誤魔化しは不誠実極まりない。

 士道は包み隠さず正直に答えることにした。

 

「……悪い。どうしても我慢、できなくて……」

 

 だが罪悪感から目を合わせることができず、顔を背けながら口にする。

 そのせいで七罪の瞳に軽蔑が浮かんでいるのか嫌悪が浮かんでいるのか、把握することはできなかった。

 

「我慢、って……私なんかに、欲情したわけ……?」

「……ああ。本当に、すまん。気持ちわるいよな。変態って罵って良いぞ」

 

 吊るし上げられても文句を言えない行動を取ってしまったのだ。

 その上七罪の容姿は控えめに言っても、小さな女の子。

 どのような謗りも受け止めるしかない。

 

「そ、そうなんだ……私、なんかに……」

 

 だがどうにも七罪の声音から軽蔑は感じ取れなかった。

 どちらかといえば驚きと恥じらいが滲んでいる。

 あまりにも衝撃が強すぎたために、上手く感情を表すことができないのかもしれない。

 

「……つまり、その……私の身体に、魅力を……感じたってこと?」

「まあ……そういうことだ。本当に、悪かった……」

「今もまだ……したいって、思ってるの?」

 

 本音を言えば今もその欲求は消えていない。

 先ほどの七罪の姿は、網膜どころか脳裏に焼きついている。

 瞳を閉じればその姿が鮮明に浮かび上がり、劣情を催してしまう。

 正直に答えるとは誓ったものの、この質問への返答には躊躇いがある。

 

「そう……なのね……?」

 

 苦悶に顔を顰めて沈黙する士道の姿を、肯定と取ったらしい。

 七罪はぽつりと呟いた。

 きっと胸の中では様々な思いが渦巻き始めたことだろう。

 恐怖や嫌悪、軽蔑、憤怒。

 士道は様々な悪感情を罵詈雑言として浴びせられるのを待った。

 それが悪行に対する報いの一つだから。

 

「……良い、わよ……しても……」

「……は?」

 

 だが長い沈黙の末に浴びせられた言葉は、完全に予想外だった。

 思わず間抜けな声を出し、振り向いてしまうほどに。

 そこでは先ほどと変わらず頬を染めて縮こまっている七罪が、バスタオルに覆い隠されていない瞳を上目遣いに向けてきている。

 どことなく嬉しさを湛えた、ありえない瞳を。

 

「待て! 待て待て! おかしいだろ! 何でそうなるんだよ!? ここは普通罵りながら怒るとこだろ!?」

 

 百歩譲っても許可を出されるような場面ではない。

 たぶん先ほど倒れた時、支えきれずに頭を打ってしまったのだ。

 それが原因で正常な思考ができていないに違いない。

 

「だって……私に魅力を感じたってことは、私の姿を不快に思ってないってことでしょ? こんな枝毛だらけでぼさぼさの髪も、ひび割れたみたいにがさがさの肌も、ありえないくらい残念な体つきも……」

 

 声音には徐々に幸福感を滲ませながら、七罪は語りだす。

 

「いつも士道は不快に思わないとか、そんなことないとか言ってくれてたけど……正直私はいまいち信じられなかった。だって士道は優しいし、きっと本当のことを言えないんだって思って。でも……さっきのことで、本当に分かったわ。少なくとも士道は、私の全部を不快に思ってないんだって。私を襲うくらい、魅力的だと思ってるんだって……だから、不謹慎だけどすごく嬉しかった……」

 

 確かに言葉だけでは信じられないかもしれない。

 行動で証明しようとしても、それが心の底からのものなのかは判別できない。

 だが本能的な衝動なら、嘘偽りの入る余地はない。

 七罪はようやく理解したのだろう。

 士道が理性を失くしてしまうほど、自分に性的な興奮を抱いたことで。

 自身の外見は醜くはないのだと理解したのは、実に喜ばしいことだ。

 だが残念ながら今それは関係ない。 

 

「け、けどそれは、あんなこと言う理由になんてならないだろ!?」

「り、理由なんて……士道だから良いに、決まってるでしょ……好き、なんだから……」

 

 理由を尋ねて返ってきたのはまさかの告白。

 しかもその身を許すほどの好意。

 確かに霊力封印のための攻略の過程で、精霊たちから好意を抱かれたのは知っている。 

 ただここまでの好意だとは予想していなかった。

 

「っ。け、けど、さっきは抵抗してきたじゃないか……」

「あ、あれは突然だったから驚いて……それに、こんなところでするなんて嫌よ……初めて、なんだし……」

 

 七罪は半眼で睨みつけてくる。

 どうも先ほど襲われたことに対して、多少の怒りは抱いていたようだ。

 まあ好きな相手でも状況や場所を考えず、欲望に身を任せていたのなら怒りもするだろう。

 

「本当に、良いのか……?」

「……うん。だって士道は、したいんでしょ……?」

「……ああ。けど、俺は、お前と違って……」

 

 好きなのは七罪だけではない。

 他の精霊たちも、同様に想っている。

 七罪だけが特別なわけではない。

 これは絶対に伝えておかなければならないことだ。

 

「……分かってるわよ、そんなこと。私だけが好きなわけじゃないんでしょ」

 

 だが口に出す前に、七罪が正にその通りのことを口にした。

 驚きに目を見張る士道だが、七罪は構わず続ける。

 

「……別に良いわよ。士道は私だけのものじゃないから……」

 

 その声音には、別段悲しみも悔しさもない。

 完全に納得ずくの口調だった。

 

「で、でも、しばらくは……一人じめしたいとか、思ったり……」

 

 ただ、納得していても欲求がないわけではないらしい。

 上目遣いに見つめてくる可愛らしい瞳には、微かな独占欲が感じられた。 

 そして士道にも、同様に欲求がある。

 先ほど抱いた、七罪の身体を抱きたいという欲望。

 正直この劣情は満たさない限り、決して消えることはないだろう。

 それならもう開き直って、素直になることにした。

 間違っているとしても、士道だけでなく、七罪も幸せになれるはずなのだから。

 

「……分かった。じゃあ、その……今日とかでも、良いのか?」

「きょ、今日!? 幾らなんでもそれは突然すぎでしょ! まだ心の準備とかできてないのよ!?」

「あー……うん、すまん」

 

 再び襲われると思ったのか、より縮こまって目を丸くする七罪。 

 確かに今日では急すぎた。

 少なくとも数日は待ってやらなければならないだろう。

 本当にそれまで耐えられるかは果てしなく自信を持てないが。

 

「そ、それに今夜は私、きっと美九に捕まるだろうし……」

 

 ぽつりと呟き、七罪は疲れ果てた顔をする。

 たぶん無理やりベッドに連れて行かれて強制的に添い寝させられるのだろう。

 そんな予想をしたところで、士道はふと思い出した。

 

「……そういえば、美九が待ってたな……」

「あ……」

 

 もともと二人で入浴することになったのは、美九に強制されたからだ。

 そして美九は今、リビングで士道たちが風呂から上がるのを待っている。

 妙に長い間二人で風呂に入っていたら、絶対に何か勘ぐられるに違いない。

 

「……早く出るぞ!」

「わ、分かった!」

 

 士道は先ほどまでの恐怖やら興奮やらを忘れ、一刻も早く風呂場から出ることにした。

 

 

 

 

 

「あ、意外と遅かったですねー? ちゃんと背中の流しっこしたり、頭を洗いあったりしたみたいですねー。楽しかったですかー?」

「あ、ああ……まあ、な」

 

 どうやら変な勘ぐりを受けない程度には早く上がれたらしい。

 それに湯上りでのぼせているせいか、冷や汗も目立たない。

 ただ唯一の問題は、士道の後ろに隠れるようにして七罪が過剰に恥ずかしがっていること。 

 

「あらー? どうしたんですか、七罪さん? 何かエッチなハプニングとかあったんですかー?」

「っ!」

 

 目ざとくそれを見つけた美九が、期待に満ち溢れた声で尋ねる。

 士道はほんの少し表情を歪めただけで済んだが、七罪の方は雷に打たれたかのように激しく身体を震わせ、息を詰まらせた。

 この反応は誰がどう見ても、ありましたと言っているようにしか見えない。

 

「えっ、本当にあったんですか!? 教えて下さい七罪さん! だーりんにどんなエッチなことをされたんですか!?」

「あ、うぅ……っ!」

 

 瞳を輝かせる美九に迫られ、七罪は後ずさりしてから全力で逃げた。

 

「あ、待って下さい七罪さん! せめて色んな妄想ができるくらいには教えて下さい!」

「た、助けて士道おおおぉぉぉぉぉぉぉ!」

「逃がしませんよー? さあ聞かせて下さい! はぁ、はぁ……」

 

 リビングの外に出たところで捕獲されたらしく、七罪の暴れる音と美九の興奮した息遣いが聞こえてくる。

 

「……まあ、そう簡単には話さないよな……?」

 

 事が事なので、洗いざらい喋ることはないだろう。

 何せしばらくは士道を一人占めしたいと言ったのだから。

 他人に迷惑や不快感を与えないよう、必要以上に気をつかっていた七罪が、初めて見せた利己的な欲求。

 士道はその欲求を満たしてやりたいと、心から思った。

 ついでにある種吹っ切れた自分の欲求も、満たしたいと切実に願った。

 

 

 




 やっぱりあんまりエロくないですね。
 あとキャラもおかしいですし……ごめんなさい……。
 でもこの状況で襲わなかったら性癖を疑います。
 これは襲うしかないでしょう。
 それ以外の選択肢なんてありませんし……。

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