※この作品はR-18です。

士道クリミナル   作:サイエンティスト

10 / 64
 今までとは毛色の違う作品。
 これに限らず、士道の名前がタイトルに入っている場合は基本的に七罪や四糸乃が同時に登場します。
 衝撃の展開が連続して待ち受ける! ということにしておいてください。
 期待はあんまりしない方が良いです。今回は二重の意味で。



○士道アンブレイカブル

 とある休日の午後三時近く。

 士道は七罪と四糸乃のお茶会に招かれた。

 正確には招かれたというよりも、是非来てほしいとお願いされたのだ。

 未だ遠慮の塊である二人の珍しいお願いなのだから、断るという選択肢は存在しない。

 丁度約束していた琴里との買い物がキャンセルされてしまったので、時間が空いてしまった士道としては二重の意味で嬉しいお願いだった。

 それに皆で穏やかに過ごせるのだから実に喜ばしい。

 四糸乃とはそうでもないのだが、七罪と二人きりだとどうしてもムラムラしてきて穏やかに過ごせないからだ。

 なので心を弾ませながら四糸乃の部屋に足を踏み入れたのだが――

 

「な、七罪!? お前、その格好……!」

 

 ――玄関で士道を出迎えたのは、予想を裏切ってムラムラくる光景だった。

 何せ裸に白いエプロン一枚という装いの七罪が待っていたのだ。

 しかしいつぞやの夜、四糸乃が身に着けていたエプロンとは別物らしい。

 上部は鎖骨の辺りよりやや下、下部は膝の辺りまでの長さがある。

 

「……ど、どうせ似合ってないって言いたいんでしょ? 正直に言いなさいよ」

 

 肌を隠しつつ、俯きがちに視線を向けてくる七罪。

 相変わらずの卑屈な言葉に思えるが、声音自体は恥ずかしさと緊張しか含んでいない。

 以前までの七罪とは違い、卑屈な言葉は期待の裏返しなのだ。

 目を逸らさずに反応を窺っているのがその証拠である。

 

「いや、すごく似合ってるぞ七罪。似合ってるっていうか、この場で襲いたくなるくらい可愛いな」

 

 もちろんお世辞などではなく、正直な感想だ。

 四糸乃のものより布面積が大分多いので、その分演出できる可愛らしさも高くなっている。

 若干目付きの悪い七罪が浮かべる恥じらいの表情も手伝い、最高に可愛らしい姿だった。

 

「えっ、と……ありがと……って、言うべきところ……?」

 

 言葉の後半に漂う不穏な空気のせいか、眉を顰めて微妙な表情をしている。

 それでも僅かに頬が緩んでいるので、誉められて嬉しく思っているのは確かな筈だ。

 

『いらっしゃーい、士道くん! よしのんたち首を長ーくして待ってたよー?』

「い、いらっしゃい……士道、さん……」

「よ、四糸乃……!」

 

 中途半端な七罪の反応に苦笑していた士道だが、リビングの方から四糸乃がやってきた瞬間驚愕に目を見開いた。

 何せ四糸乃は件の危険なエプロンを着用していた。

 上部は胸の半分ほどしか隠せていない、少しずらしただけでピンク色の部分が見えそうな長さ。

 下部は太股どころか脚の付け根よりやや長い程度。

 そんな危ない格好だというのに駆け寄ってくるのだ。

 捲れそうに揺れ動くエプロンから今にも何かが見えそうな期待に、全く目を逸らせなかった。

 破壊力と危険度で言えば、駆け寄ってくる四糸乃の姿はミサイルが飛んでくるのとほとんど変わらない。

 

「ちょっ!? 四糸乃、ストップ! 見える見える!」

「……っ!」

 

 あまりに危険で刺激的な光景に、七罪が声を張り上げて制止する。

 その必死な姿に自分の危険な格好を思い出したのか、立ち止まって赤くなる四糸乃。

 胸元を右手で軽く覆うが、意外にも表情は少し赤くなっている程度。

 共に夜を過ごすようになって気づいたのだが、ベッドでの時と比べると普段の四糸乃は若干羞恥が薄い。

 たぶんこれがデフォルトで、そういう雰囲気の時にとても恥ずかしく感じるのだろう。

 実際、今は見られている四糸乃よりも見ている七罪の方が恥ずかしそうだ。

 

「えーと……それで、どうして二人ともこんな時間からそんな格好してるんだ?」

『えー、それはもちろん士道くんのためだよー。嬉しくないのー?』

「いや、最高に嬉しい……って、そうじゃなくて。何でお茶会するのにそんな格好してるんだ、ってことだよ」

 

 『よしのん』の答えは若干ずれていたものの、思わず即答してしまった士道。

 二人の悩ましい姿に目を奪われていたせいか、何の考えもなしに言葉が出てしまった。

 

『それはもちろん、これからおやつを作るからだよー。よしのんたちで士道くんのために、このとーってもエロい格好でねー?』

「この格好で、か……?」

『そーそー、この格好で』

 

 『よしのん』が七罪と四糸乃を指す。

 女の子が裸エプロンで料理をしてくれるなど、男にとっては夢のような状況だ。

 それが一人ではなく二人の女の子ならなおさらである。

 抑えられず頬が緩んでしまい、それを目にした七罪が眉を寄せて僅かに引いた。 

 

『本当は新婚さんプレイの時にやりたかったんだけど、士道くんがいないときにこの格好でお料理しても意味ないしねー。これは日を改めてやろうと思ってたんだよー。今は新婚さんんじゃないから、七罪ちゃんも一緒にねー?』

「ああ、だから七罪もいるのか。でもお前、良く断らなかったな」

 

 七罪は四糸乃に遠慮して断りそうなものなので、少々意外だった。

 七罪の性格からすると、四糸乃と士道を二人きりにさせるために身を引いてもおかしくないのだから。

 話題に上った本人に視線を向けると、一瞬身体を震えさせて縮こまった。

 

「だ、だって四糸乃たちの頼みだから……それに、一人でやるよりは恥ずかしくないし……四糸乃が襲われないよう、誰かが見張らないといけないし……」

 

 そんなことはしない、と口を開きかけて士道は口をつぐんだ。

 明るい内に問答無用で襲い掛かったことはないが、イタズラ程度なら七罪に対して頻繁に行っている。

 四糸乃に行ったことはないものの、状況が状況なので安全とは言い切れなかった。

 そんな士道の心情を見透かしたように、七罪は半眼で疑いの目を向けてきている。

 やましさからその瞳を直視することができず、居心地の悪さに士道は目をそらした。

 

『事情も分かったみたいだし、そろそろ始めよっかー。さー二人とも、士道くんを案内してあげてー?』

「う、うん……こっち、です……士道、さん……」

「っ!」

 

 『よしのん』の提案に頷き、四糸乃は士道をリビングへ案内するためこちらに背を向ける。

 その途端、瞳に映った光景に士道は息を呑んだ。

 裸エプロンの構造上、四糸乃の背中側は白い肌が完全に露となっている。

 長い髪で背中は隠れているが、形の良いお尻は丸見えだ。

 ちらちらと背後に恥じらいの視線を向けるものの、それではこの格好の意味が無いと分かっているのか隠そうとはしない。

 脚の動きにつられてほんの僅かに揺れるお尻と、四糸乃の恥じらいの表情が大いに興奮をそそる。

 もう体裁をかなぐり捨てて胸を躍らせながら七罪の方に目をやるが、こちらは期待通りではなかった。

 というか四糸乃とは真逆に裸エプロンの趣旨に反している。

 

「七罪、お前……それじゃ意味無いだろ?」

「仕方ないでしょ、恥ずかしいんだから……それに幾ら士道でも四糸乃が一緒にいるんだし、私の身体なんか……」

 

 七罪は隠すどころの話ではなく、警戒心を露に後ずさりしていく。

 恥ずかしさも理由の一つらしいが、どうやら自信の不足も手伝っている。

 同じ格好の四糸乃がいるのだから、幾ら士道でも七罪の方を気にかけはしないと思っているのだろう。

 四糸乃がいるから気後れしているだけで、以前のように見る価値がないと思っているわけではないらしい。

 

「そんなわけないだろ? 四糸乃が一緒にいたって変わらない。俺はお前の身体で凄く興奮するぞ」

「えっ」

『うわー』

「……っ!」

 

 四糸乃の艶姿に当てられていたせいか、再び言葉も選ばずに口走る。

 呆気に取られる七罪と引き気味の『よしのん』、恥らう四糸乃。

 三者三様の反応を示し沈黙する中、士道は自分が何を言ったのか理解して激しく後悔した。

 

「あー、えっと……七罪? 今のは、その……言葉の綾で……」

「へ、変態……!」

「ぐぅ……!」

 

 話を聞いてもらおうと手を伸ばすが、素早く後ずさって避けられる。

 幾ら求められることが嬉しい七罪とはいえ、花も恥らう女の子。

 真昼間から面と向かってこんなことを言われれば、軽蔑を露にして当然だろう。

 士道は七罪の心からの罵りとゴミを見るような軽蔑の視線に、かなり深い傷を負った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一分後、心の傷は完治した。

 明らかに異常な早さだが、再生能力が心にまで作用するようになったわけではない。

 キッチンに場所を移した二人が料理を始めたところで、その光景の素晴らしさに心が癒されたのだ。

 先ほどの七罪の罵倒も、軽蔑の眼差しも、再び浴びせられようが軽く受け流せるほどに。

 なので士道は何の憂いもなく、二人の料理風景を後ろからじっくりと鑑賞していた。

 嘗め回すように全体を、あるいは穴が開くほど一点を。

 

「あ……七罪さん、オーブンの余熱を……」

 

 既に用意していた材料をボウルに入れ、泡だて器を手にかき混ぜている四糸乃。

 やはり露骨に身体を隠そうとはせず、その肢体の大半を士道の瞳に晒していた。

 混ぜる動作に合わせて蒼い髪が、桃のようなお尻が微かに揺れる。

 髪の隙間から背中の白い肌がチラチラ覗く様は、はっきり見えるよりも艶かしさに溢れている。

 時折こちらに恥じらいの込もった視線が向けられるのもまた堪らない。

 

「あ、うん。えっと、何度だったっけ……」

 

 こちらを警戒しながらオーブンに歩み寄り、余熱の設定を行う七罪。

 七罪は露骨に身体を隠していて、ほとんどその肢体を目にすることができない。

 可能な限り背中を向けようとはせず、向けたとしてもまな板やら皿やらでお尻をガードしている。 

 何度も繰り返し頼めば隠すことはしないだろうが、士道はあえてそれをしなかった。

 真っ赤になりながら懸命に隠そうとする姿が微笑ましくて、これはこれでアリだと思わせられたからだ。

 むしろ隠されているからこそ、ガードの不備から時折見える丸いお尻が際立ってそそられる。

 料理などなくともこの光景だけでお腹いっぱいと言いたいところだが、幾らでも入るようなとてもおいしい光景なのでそれはない。

 士道は鼻の下を伸ばしながら、ひたすら四糸乃と七罪をいやらしく視線責めし続けた。 

 

『どーう士道くん? 楽しんでるー?』

 

 ボウルを押さえていた『よしのん』がこちらに瞳を向けた。

 新婚プレイの時の玉ねぎ事件の反省からか、その身体にはビニール製の服を纏っている。

 

「ああ、楽しんでるぞ。すごい目の保養になるな、これ」

 

 ちらりと視線を向けると、七罪がビクッと震える。

 

『んー、目の保養も良いけどさー、もっと別の楽しみ方もあるんだよー? ちょっとこっち来てくれるかなー?』

「何する気なんだよ、よしのん?」

 

 明らかに『よしのん』は何かよからぬことを企んでいた。

 その企みの魅力に抗えず、手招きする『よしのん』に歩み寄る士道。

 近くに来たことで七罪は混乱してきたのか、士道の視界を顔にまな板を押し付ける形で遮るという暴挙に走った。

 一瞬まな板を取り上げて腕を掴み、じっくり拝んでやろうかと考えるものの、ひとまずそれは後回しにした。

 今は『よしのん』のいよからぬ企みの方が気になる。

 

『んー、そうだねー。例えばさー』

 

 そう言いつつ、『よしのん』が士道の片腕にかぷりと噛み付く。

 その行動に疑問を覚えた直後、『よしのん』は勢い良く士道の腕を動かし――

 

『ふぉーやっふぁりー』

「ギャーッ!」

「うわっ!?」

 

 甲高い音が鳴るほどの強さで七罪のお尻に手の平を叩きつけさせた。

 唐突で何の備えもできていなかった七罪は、色気皆無の悲鳴を上げて飛び上がる。

 

『ふぉーやっふぁりふぁなー』

「きゃっ……!」

「ちょっ!?」

 

 更には四糸乃の胸元にエプロンの隙間から手を突っ込ませる。

 唐突でも七罪とは違い、可愛らしい悲鳴を上げて縮こまる四糸乃。

 

『ねー、楽しいでしょー?』

 

 そして士道の腕を離し、七罪の方を腕で差す『よしのん』。

 見れば七罪は驚きのあまり取り落としたまな板を拾うため、士道の方を向いて前かがみになっている。

 そのせいで士道の位置からはエプロンの隙間から胸元が丸見えになっていた。

 

「――わわっ!?」

 

 胸元に注がれる視線に気づいた七罪が、火が出そうなほど顔を赤くしてまな板並みに小さい胸にまな板を押し付ける。

 続いて四糸乃に視線を向けると、こちらも落としてしまった泡だて器を拾おうとしていた。

 やはり前かがみになっていたので、胸は覗き放題だ。

 四糸乃も視線に気づいて腕で隠そうとしたが、やはり途中でその動きを止めた。

 

「えーと、その……」

 

 一連の出来事は僅か十秒にも満たない。

 にも関わらず、士道の胸はうるさいほどに高鳴っていた。

 手の平には未だ二人の柔らかさが暖かみと共に残っている。

 

「た、確かに楽しいんだけどな? これはちょっと、料理の邪魔になるからさ……」

『あー、そっかー。じゃあ今は見てるだけで我慢してねー?』

「あ、ああ、そうする……もうやらないから、落ち着こうな七罪? お前、怖いぞ……?」

 

 悪いのは『よしのん』なのだが、七罪が睨んでいるのは士道だった。

 羞恥と怒りを表情に滲ませ、身体を震わせている。

 まな板を掴む手は白くなるほど力が込められていて、今にも殴りかかってきそうで正直怖い。

 あまり刺激しないよう今度は士道がゆっくり後ずさりする。

 士道が離れたことで若干警戒を解く七罪だが――

 

『……ていっ!』

「ギャーッ!」

 

 ――『よしのん』にエプロンの裾を捲られ、再び悲鳴を上げた。

 

「何やってんだよ、よしのん!? 待て七罪! 落ちつ――!」

 

 よりにもよってまな板の角が振り下ろされる。

 露となった完全にアウトな部位に目を奪われていたので、気が付いた時には避けるどころか防ぐ余裕もなかった。

 頭に凄まじい衝撃を受け、網膜に焼きついた光景と共に士道の意識は闇に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不意に高まった胸の鼓動に、士道は意識を取り戻した。

 何やら甘く爽やかな香りに鼻をくすぐられている。

 その香りには興奮作用でもあるのか、胸の鼓動が激しくなり意識が覚醒していく。

 意識がはっきりしてくるにつれて、唇の両端に何か暖かくて柔らかいものが触れていることに気が付いた。

 左端に触れているものは士道の唇を挟んだり、軽く押し付けたりする穏やかな動きをしている。

 右端に触れているものも同様の動きをしているものの、こちらは少しぎこちない。

 慣れ親しんだ動きと感触なので、これらが何なのかはすぐに予想がついた。

 しかし二つ同時にこの感触を味わっていることが信じられず、士道は確かめるために目蓋を開く。

 瞳に映ったのは、正しく予想通りのものだった。

 

「っ……ふ……んっ……」

「っ……はっ……ぁ……」

 

 それは小さな吐息を漏らしながら士道へキスしている、七罪と四糸乃の顔。

 目で見て確認しても信じられず、士道はしばらく固まっていた。

 経緯は不明だが、あろうことか二人は同時に士道にキスしているのだ。

 見た目幼い二人の少女が、裸エプロンという危険な格好で、二人同時にキスをしている。

 その事実を認識した途端胸の鼓動が一層激しくなり、衝動に突き動かされて身体が勝手に動いた。

 

「――わっ!?」

「――きゃっ!」

『おおー!? 二人の真実の愛で王子様が目覚めたよー!?』

 

 二人の身体を左右の腕で抱き寄せ、転がるようにして起き上がる。

 先ほどとは真逆に、士道が二人を押し倒している形となった。

 口付けによる恥じらいを頬に映した、裸エプロンの幼女二人を。

 

『あちゃー、王子様は実はオオカミさんだったみたいだねー。このまま四糸乃たちは食べられちゃうのかなー?』

「ちょっ、し、士道……今、何時か分かってるわけ!? こ、こんな時間に、そんなことしたら……!」

「……っ」

 

 身体の下で警戒心も露に声を荒げる七罪。

 それとは対象的に何も言わず、ただ恥らい俯くだけの四糸乃。

 少なくとも四糸乃は、ここでどうなろうと構わないようだ。

 だが七罪は四糸乃とは異なる方向で士道のことを想い、最終的には士道の身を気遣って拒否を示していた。

 二人とも頂いてしまうのなら、一、二時間程度では絶対に終わらない。

 確実に誰かが士道たちの姿がないことに気づき、探しに来るだろう。

 

「……それくらい分かってる。けど、こんなの我慢できるわけないだろ。二人でキスしてきたお前らが悪いんだぞ」

「だ、だからって……」

「……しても、良いか?」

「……っ!」

 

 ただ衝動に突き動かされるまま、心の底からの言葉を紡ぐ。

 そしてじっと瞳を覗きこむだけで、七罪はすぐに硬く目蓋を閉じて大人しくなってしまった。

 ある程度拒否をしても、押せば折れて士道の頼みを聞いてくれるのが七罪だ。

 二人とも同意してくれたので、士道は欲望のまま二人のエプロンを脱がせようとして――

 

『んー、士道くん。盛り上がっちゃってるとこ悪いんだけどさー、七罪ちゃんの言うことも一理あるんだよねー。やっぱり今はやめとかなーい?』

 

 ――それを『よしのん』に遮られた。

 普段から煽りまくっている『よしのん』にしては珍しい提案。

 これには勢いに任せて二人を味わおうとしていた士道も気を取られた。

 

『それに今からだとじっくり味わえるほどの時間はないよー? せっかくのご馳走なんだから、味見じゃなくて全部味わいたいでしょー? ここで我慢してお腹を空かせておけば、もっとおいしく味わえるんだけどなー』

「そ、それは……」

 

 落ち着いた口調で的確な指摘をする『よしのん』に、段々と思考が正常に戻ってくる。

 確かにここで勢いで済ませてしまうのは勿体無いし危険だ。

 どうせならじっくり時間をかけて心行くまで堪能したい。

 だが胸の奥で溢れる興奮は抑えがたいものだ。

 正直この場を乗り越えられる自信がなく、我慢できずに味見をしてしまおうかと考えた直後――

 

「っ!?」

 

 ――その逸る気持ちをを戒めるようにオーブンレンジが甲高い音を上げた。

 余熱の完了を知らせる何の変哲も無い機械音だが、やましいことをしようとしていた士道は心臓が飛び出るほど驚いた。

 しかし驚きが胸を満たしたおかげで興奮が引き、吹っ飛んでいた理性が戻ってくる。

 

「そ、そうだな……い、今は止めとくか? 料理の最中、だからな?」

「そう、ね……」

「は、はい……」

 

 士道と同じく相当驚いたのか、震えた声で頷く七罪と四糸乃。

 何か他にも声をかけようとしたのだが、あまりにも気まずい空気で何も言えなかった。

 自室で七罪にイタズラを行っている際、タイミング悪く琴里が部屋に入ってきた後の空気と似ている。

 

「そ、それで……何で二人ともキスしてきたんだ? しかも俺が寝てる時に……」

 

 何とか沈黙を打ち破ろうと、気になっていたことを尋ねる。

 本当は寝ていたわけではなく気絶していたのだが、それを言うと七罪が自己嫌悪に陥りそうなのでやめておいた。

 

『そりゃーあれだよー。眠れる王子様はお姫様のキスで目覚めるのが定番でしょー?』

「定番かもしれないけど役割が逆だよな、それ。しかもお姫様が二人で同時にキスしてくるって、どんないかがわしい童話だよ……」

「わ、私だって本当はする気はなかったわよ。四糸乃と間接キスすることになるから、畏れ多くてできないでしょ……でも、士道が倒れたのは私のせいだし、それによしのんが――」

『間接キスくらいで恥ずかしがる必要なんてないよー。同じ男に色々大事なものを奪われた仲じゃなーい』

「――って言って、無理やりキスさせたから……」

 

 居心地悪そうに視線をそらしながら呟く七罪。

 言い方はともかく『よしのん』の言葉は実際間違っていないので、士道も似たような気持ちだった。 

 だが七罪ほど居心地悪くはなかった。

 今の会話の中で、例えといえどお姫様と呼ばれたことを七罪が否定しなかったからだ。

 七罪の変化を会話の節々で改めて知ると、やはりいつでも嬉しくなる。

 

「じゃ、じゃあ……クッキー作りに戻るから……」

「あ……わ、私も……」

 

 七罪は恥ずかしさを誤魔化すように言葉を続け、それに四糸乃も続いた。

 まだ二人の顔は赤いが意外と立ち直りは早い。

 士道の方も嬉しさで立ち直りつつあったものの、それは身体の一部も立ち直ることができるということ。

 

「あー……悪いけど、俺はもう帰るよ。これ以上ここにいたら、また同じ間違いを犯しそうだ……」

 

 士道のためにクッキーを作ってくれているのは嬉しいが、下手をするとまたクッキーの代わりに二人を頂きたくなってしまう。

 名残惜しいが冷静でいられる内に自重することにした。

 

『えー、帰っちゃうのー? まだ作り始めたばっかりなのにー……もしかしてそれくらいも我慢できないくらい、四糸乃たちを食べちゃいたいのかなー?』

「そりゃあこんなおいしそうなものが目の前にあったら我慢できないだろ。しかも二つもあるしさ……」

 

 別の意味での食欲を刺激されないよう、なるべく二人の方を見ずに答える。

 ただ見ていなくても七罪がビクッと震えたのが何となく分かった。

 

『んー、そっかー。じゃあ仕方ないよねー。ほらほら二人とも、士道くんをお見送りしてあげてー?』

「いや、見送りも止めといた方がいいって。今も結構ギリギリだからな……」

 

 どうも驚きが引いてきたらしく、胸の鼓動は正常に戻りつつあった。

 だがそれは再び興奮を覚えられるようになってきたということ。

 これ以上は本格的にまずい。

 

「じゃあ、またな。結局食べられなかったけど、俺のためにそんな格好で料理してくれただけで十分嬉しいよ。ありがとな七罪、四糸乃」

「あっ、士道さ――」

 

 再び手遅れになる前に、士道は返事も聞かずその場を立ち去った。

 二人の方は見ていないというのに、また興奮が湧き上がってきたからだ。

 精々二人から良い香りが漂ってきた程度だというのに。

 

『士道くーん! 今夜は四糸乃と七罪ちゃんに準備させておくから、楽しみにしててねー!』

 

 部屋を出る前に届けられたのは、『よしのん』のそんな楽しそうな声。

 どうも今夜は、今までで最高に乱れた夜になりそうだった。

 同時に今までで一番、楽しい夜になる予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今まで三人でしたことがないのは、二人で十分だったからだ。

 二人で純粋に愛し合い、互いの想いを心と身体で確かめ合う。

 正直三人でそれができるとは思っていなかったので、例え二人が了承していようと気が乗らなかった。

 今夜、七罪の部屋を訪れるまでは――

 

「士道、さん……」

「し、士道……」

 

 そこで待ち受けていたのは士道の目の前で身を寄せ合い、ベッドの上で縮こまっている七罪と四糸乃。

 身に纏っているのはお互いのイメージカラーを交換したお揃いのネグリジェ。

 申し訳程度のリボンで留められ、薄く身体のラインが透ける悩ましい衣装。

 月明かりに透き通るその美しさは、まるでエメラルドとサファイアのようだ。

 色合いや煌きこそ違うものの、宝石として同じ魅力を放っている。

 普段は薄暗い部屋で輝きを愛でるのは片方だけなので、宝石の選別をすることはない。

 だが今作業台という名のベッドの上には、種類は違えど同じ美しさの宝石が二つも置かれていた。

 目の前に宝石が二つも転がっていれば、気が乗らなくとも魅力に打ち勝てるはずがなかった。

 しかしどちらも輝きを心行くまで堪能できるというのに、迷い続けて最初の工程であるキスという名の研磨すら行えない。

 

『あーもう! いくらなんでももう待てないよー、士道くん! 先に七罪ちゃんにヤッちゃってさっさと始めようよー!』

 

 半ば放心したように固まる士道に焦れた『よしのん』が、声を荒げて身体を振り乱す。

 

「えっ、で、でも、私なんかより、四糸乃の方を……」

「い、いえ、七罪さんこそ……」

『もういい加減その問答聞き飽きたってばー! とりゃーっ!』

「わっ!?」

 

 怒りに染まった掛け声を上げ、『よしのん』は七罪の背中に身体ごとぶつかる。

 明らかに緊張していた七罪はバランスを取ることができず、そのまま士道の胸の中に倒れこんできた。

 確かにこれ以上引き伸ばしてはいられない。

 今夜は昼に実現できなかった望みを、二人が叶えてくれたのだから。

 いつまでも始めないというのは、二人の優しさと愛に対する冒涜だ。

 

『ほらほら、士道くん。さっさと始めちゃってよー。今夜はよしのん見てるだけにするからさー』

「……分かった。じゃあ、最初は七罪からな? すぐに四糸乃にもするから、お前もそれで良いだろ?」

「……な、なら、四糸乃には私と同じか、それ以上にしてあげてよ? 今夜は何でも士道の自由だけど……絶対、それだけは守って……」

「……ああ。約束するよ」

 

 言われなくとも、片方だけ中途半端に味わう気はない。

 どちらも心行くまで、残さず全て頂かせて貰う。

 羞恥に震えながら見上げてくる七罪に強く頷き、士道は初めて三人で行う夜の秘め事に堕ちていった。

 

 

 

 

 




 言わなくとも分かると思いますが、次はエロ話。
 毛色が違う、というのは上下巻構成だということです。
 四糸乃サービスの時にお風呂場プレイにしなかったのはこれが原因。
 二人分のファーストとサービスのバランスを取るため。
 逆に言えば後はバランスを取る必要がなくなるので、ちょっとしたプレイが続くかも……。

更新停止期間の執筆状況の進捗はどれくらいの頻度で活動報告に載せるべきか

  • 1ヵ月
  • 2ヵ月
  • 3ヵ月
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。