一部の方々にとっては嬉しいお話の始まりになるはず。
このお話のために色々伏線染みたものを入れてみたんですけど、長期に渡る伏線は今までやったことがないのでいまいち伏線っぽく仕上がりませんでした。
それから今回、匿名を解除して本名(?)を晒しました。
理由や原因は色々ありますがここで述べるのはどうかと思うので、詳しい理由や原因は活動報告の方に載せてあります。気になる方はそちらへどうぞ。
以前から思っていたが、やはり七罪は他人の感情の変化に鋭い。
たぶん無駄に周囲に気を配っていたり、自分が相手に不快感を与えていないか窺っていたりしたのがその要因なのだろう。
何をするでもなく部屋で一緒に過ごしていると、表情や雰囲気からある程度士道の気持ちを読み取ってくる。
特にちょっとムラムラしていたり、落ち込んでいるときなどはほぼ確実に見抜かれてしまう。
「ねぇ、何か嫌なことでもあったの?」
そして今夜も七罪は士道の心情を見抜いてきた。
ベッドに腰掛けて本を読んでいた七罪が、机に向かっていた士道へ唐突に疑問を投げかけてくる。
「いや、別に何もないぜ。俺の機嫌を窺ったりしてないで、安心してゆっくり過ごしてろよ」
「……絶対何か嫌なことあったわね。その笑い方……」
「っ……」
作り笑いに見えたのか、七罪が半目で疑いの眼差しを向けてくる。
実際それは作り笑いだったので、士道は痛いところを突かれて呻いてしまう。
嫌なことがあったわけではないものの、代わりに士道は大きな悩みを抱えていた。
ほとんど誰にも打ち明けられない悩みを。
「……心配してくれるのは嬉しいけど、ちょっとした悩みがあるだけだ。そんな大した悩みじゃないから気にしなくていいって」
七罪はその悩みを打ち明けられる数少ない内の一人だが、話してどうにかなる類の悩みではない。
なので士道は精一杯の笑みを向けて安心させようとした。
だが七罪は話を終わらせる気はないらしく、変わらず疑いの目を向けてくる。
「大した悩みじゃないなら話してくれたって良いでしょうが。話せば少しは楽になるかもしれないし……」
「そりゃあそうかもしれないけどさ、そんな人に話すほどのものじゃ……」
意外と強情に食い下がる七罪。
どうやって誤魔化そうかと内心で考える士道だが、不意に七罪が傷ついたような表情を見せたことで中断せざるを得なかった。
「何よ……話してくれたって良いじゃない……それとも、もしかして私なんかじゃ力になれない……?」
「……っ」
そんな切ない表情で健気なことを言われれば、話さないわけにもいかない
いくら士道の前では多少マシになったとはいえここで誤魔化してしまえば、七罪は自分が小さな悩みの相談相手にすらなれない役立たずだと思い込んでしまうかもしれない。
士道は諦めから深く溜息を付き、七罪の方へ向き直った。
「……話しても良いけど、誰かが力になれるような悩みじゃないぞ?」
「そんなの話してみないと分からないでしょ。ひょっとしたら私にだって、ほんの少しくらいなら何かできることがあるかもしれないし……」
七罪にしてはかなり前向きかつ楽観的な台詞なので頷いてやりたいのだが、こればかりはどうしようもない悩みだった。
「その……明後日、琴里とセックスすることになった」
「うん。何の力にもなれないわね。聞かなかったことにして良い?」
「せめて聞いたことにはしろよ……」
一瞬の迷いも無く自分の力不足を受け入れる七罪。
だが流石に聞き流して良い話題ではないと思ったらしく、頬を染めながらどこか不満げに表情を歪める。
「……そもそも何でそんなことになったのよ。もしかして四糸乃と、その……私じゃ、我慢できなくなったってこと?」
「それは聞かないほうが良いぞ。話すと長くなるし、全然愉快な話じゃないからな」
まぁある意味では心底愉快な話である。
最高に恥ずかしくてもう笑うしかないという意味で。
「……話して士道が楽になるっていうなら、聞くけど……」
それでも七罪は士道のために話を聞いてくれるらしい。
毎晩のように部屋を訪れる七罪とはその日の出来事などを話して時間を送ったりしているので、愚痴を零すことは初めてではない。
そもそもこれは七罪にも関係のある話だ。
どうせ遅かれ早かれ話すことなので、士道は諦めて事のあらましを話し始めた。
それはつい先ほど、七罪が五河家に訪ねてくる少し前のこと。
この日は七罪と四糸乃、それと『よしのん』を加えた爛れまくった夜の翌日だ。
とても素晴らしい夜を過ごした影響で欲望やら何やらが完全に消え去り、朝から夜まで晴れやかな気持ちで過ごせた一日だった。
そして夕食後には入浴を済ませ、身体も綺麗さっぱり晴れやかにしたところで――
「昨日の夜は随分とお楽しみだったみたいね、士道」
「……は?」
その晴れやかな気持ちを一刀の元に斬り捨てられた。
ソファに身体を沈めてテレビを見ながらくつろぐ琴里の、リモコン取ってと頼む程度の気安さの言葉で。
人は予想外の事態に遭遇すると、様々な反応を見せる。
大抵は驚いて固まったり飛び上がったりするのが正しい反応だろう。
「何、言ってるんだ……琴里……?」
しかしその事態があまりにも予想外すぎて、士道は驚くどころか言葉の意味もよく理解できない。
そんな士道の姿をソファ越しに見てきた琴里は、懇切丁寧に説明を始めてくれた。
「何のことって、もちろん四糸乃と七罪との3Pのことよ。いえ、この場合よしのんがいるから4Pになるのかしら……まぁ何にせよ、いつにも増してお盛んだったわね」
「え……あ……え?」
ここに来てやっと琴里の話を理解し始めた士道は、衝撃の事実が頭に浮かんでくるのをはっきりと感じ取った。
明らかに断定した話し方から、琴里は間違いなく昨夜の士道たちの爛れた夜を知っている。
これは七罪たちとの関係を把握しているということに他ならない。
それだけならまだしも、琴里は更にこう続けた。
いつにも増して、と。
「琴里、お前……! もしかして……もしかして俺たちのこと知ってたのか!?」
いつにも増して、ということは当然ながら増す前の状態も知っているということになる。
つまり琴里は以前から知っていたのだ。
士道が隠し通していた、七罪や四糸乃との深い関係を。
驚愕に開いた口が塞がらない士道の表情が間抜けに映ったのか、あるいはバレていないと思っていたおめでたい士道を嘲笑っているのか、琴里は心底馬鹿にしているような笑みを浮かべた。
「当然でしょう? あんな精神状態が乱れまくるようなことをしておいて、バレないとでも思ってたの? <ラタトスク>を舐めないで貰いたいわね」
確かに精神状態については予想が付いていた。
普段は暗めな七罪が別人と見紛うほどに明るく可愛く甘えてくるようになるのだから、精神状態にはそれ相応の変化が現れていてもおかしくない。
だが琴里は全く普段どおりで関係を知っているような素振りも見せなかったので、気づかれる類のものではないと思っていた。
そう思っていたからこそ、関係を隠し通してきたのだ。
「い、いつからだ!? いつから知ってたんだよ!?」
「そうねぇ……あなたが淫らな関係を隠そうとする涙ぐましい努力を始めた辺りからかしらね」
「それほとんど最初からじゃねぇか!? 何で知ってて黙ってたんだよお前!」
恐らくは何らかの目的があって泳がされていたに過ぎないのだろう。
驚愕に次ぐ驚愕に最早羞恥やら罪悪感やらを感じる暇もない。
荒げた士道の声がうるさかったのか、琴里は顔を顰める。
「貴重なデータを取れる絶好の機会だったからよ。あなたと肉体関係を結ぶことで、精霊の精神状態にどんな変化が生じるかのね。邪魔をしたら自然な状態のデータを取れないでしょう?」
「で、データって……まさかお前、俺たちが――!」
「安心しなさい。あなたはともかく、七罪と四糸乃を辱めたりはしてないわ。そもそもセックスの最中の記録は取ってないし」
「そ、そうか……なら良かった……」
琴里は士道の恐れを先読みしたかのように答えてくれた。
それなら士道も一安心なので、ほっと安堵の吐息をつく。
しかし安堵できたのはそこだけで、最初から琴里の手の平の上だったことを思うと全く生きた心地がしなかった。
「まぁ記録はしてないだけで結構頻繁に鑑賞はしてるわよ、私と令音で。まさか七罪があんなに豹変するなんて夢にも思ってなかったわ……」
「おいぃぃぃぃぃ!! 何やってんだよお前らはぁぁぁぁぁぁ!!」
安堵した心をぶち壊すかのごとく、明らかにプライバシーどころか常識の侵害をさらりと口にする琴里。
一瞬冗談かと思ったものの七罪の豹変振りを知っているあたり、間違いなく鑑賞している。
そんな非常識極まる事実に声を荒げて糾弾するも、琴里は逆に表情を怒りに歪めた。
「うるさいわね。それはこっちの台詞よ、このロリコン。七罪だけじゃ飽き足らず、四糸乃にまで手を出すなんて。しかも隔日でセックスしてる癖にそれ以外の日には奉仕させて、挙句昨日は4P? もう一度聞くけど、あなた何やってるの?」
「そ……それ、は……」
それを言われるとぐうの音も出なかった。
覗いていた琴里たちも大概だが、士道のしていることは下手をすると覗きが可愛く思えるほど常識を逸している。
自らの悪行をこれ以上ないほど的確に示され、やっと士道は罪悪感や羞恥が湧き出てきた。
最早穴があったら入りたいどころか、墓穴を掘って埋まりたい気分である。
「全く……変態で幼女趣味の最低のクズね。あなた頭じゃなくて下半身でものを考えてるんじゃない? そんな種の保存しか行わない下等生物みたいな生き方して恥を晒してるのに、良く平気でいられるわね」
「そ、そこまで言うか……」
相当酷い罵倒を受けたが、ほとんど間違っていないので言い返せなかった。
見た目幼い少女と毎晩のように身体を重ね、頻繁に抱くムラムラする気持ちを静めてもらっているのだ。
相手が一人だけならまだかろうじて更正の余地がありそうに思えるものの、二人いるのだからもう完全に救いようが無い。
「まだ言い足りないくらいよ。まぁ相手が七罪だったっていうのは意外だけど、いずれはこうなる可能性もあったでしょうし……予定が少し早まった程度に考えてあげるわ。それに結果としては上出来と言えるから」
「じょ、上出来……?」
思わぬ誉め言葉に士道は目を丸くした。
少なくとも誉められるようなことは何一つしていない。
てっきり散々罵倒されたあげく吊るし上げられるくらいのことはされると思っていたので、これは意外に過ぎる言葉だった。
「ええ。もうあなたも分かってると思うけど、二人ともこれ以上ないほど精神状態が落ち着いてるわ。七罪は特にそれが顕著ね。最近七罪の精神状態が乱れて霊力が逆流したことはほとんどないでしょう?」
「いや、お前が突然部屋に入ってくる度に乱れてたぞ……って、もしかしてお前、あれも分かっててやったのか?」
「他の精霊が突然訪ねてこないとも限らないし、悪いけどあなたが部屋の中で凶行に及ぼうとした時は止めさせて貰ったわ。それを抜きにしたら七罪も落ち着いてるでしょう?」
「ま、まぁ、な……」
どうやら琴里はさりげなく士道たちの手助けをしていたらしい。
今まで誰かにバレそうになる場面が一度もなかったのは、悔しいが琴里のお蔭なのだろう。
「肉体的にも精神的にも愛されてることで、二人の心は満たされてるんでしょうね。てっきり独りよがりなセックスかと思ってたけど、ちゃんと愛情を感じさせてあげてるみたいじゃない」
「あ、当たり前だろ……俺もちゃんと、二人を愛してるんだぞ……」
相手が見た目幼い少女たちであることを考えるとかなり危ない台詞だが、実際そうなのだから仕方ない。
むしろ誤魔化しては士道を愛してくれている二人に失礼だ。
幾ら琴里でもこの誠実な想いは評価してくれるに違いない。
そう期待していたのだが、何故かムッとした表情で睨みつけてきた。
「……だけど評価するのはその点だけよ。それ以外は問題だらけね。特に七罪」
指摘する琴里の声音には、何故か必要以上に怒りが込められているように思えた。
それが少し気にかかったものの、士道はあえて何も言わなかった。
何故なら目下一番の問題が琴里の指摘どおり、七罪についてだからだ。
「あなたに相当依存してるみたいよ。二人で過ごしてる時こそ精神状態は安定してるけど、一人になると段々乱れてくるわ。流石に危険なレベルじゃないけど、放っておいて良いレベルでもないわね」
「予想はしてたけどそこまで両極端になってたのかよ……」
奉仕してくれる夜を含まずとも数日おきにベッドを共にしているにも関わらず、七罪はほぼ毎晩部屋を訪れてくる。
繋がりを持ったことで安心して、あまり共に過ごせずとも平気になった四糸乃とは正反対だ。
たぶん七罪はその繋がりを失うことが怖いのか、あるいは傍にいなければ繋がりを実感できないのかもしれない。
「……で、俺は結局どうすれば良いんだ? もう七罪たちと、その……セックス、しない方が良いのか?」
「はあっ? 何馬鹿言ってるのよ、士道。もし止めたら自分に飽きたと思い込んで精神状態が最悪に落ち込むわよ? 七罪がそうなりかけたのを忘れたの?」
「お前、それも知ってるのかよ……まさか二十四時間監視してるわけじゃないよな……?」
琴里が言っているのは、七罪が士道のパソコンから怪しげなモノを見つけた時のことだろう。
実際あの時の七罪の反応はかなり危ないものだった。
あくまでも優しくキスをして真実を話すことで事なきを得たが、できればもう二度とあのような自体は引き起こしたくない。
念を入れて気絶寸前までキスしていたというのに琴里が邪魔をしに来なかったのは、同じように念を入れておく必要があると思ったからに違いない。
「とにかく、今までと変わりなく二人を愛してやりなさい。あと、七罪とはできる限り一緒にいてあげること。それが可能になるよう、こっちで色々手を回すから」
「あ、ああ、分かった……話って、それだけか?」
「ええ、それだけよ」
興味を失ったように琴里は正面のテレビへ視線を戻した。
琴里たちからのバックアップを得られるなら今まで以上に二人と一緒にいてやれるし、二人が何かしらのお願いをしてきても叶えてやれるだろう。
面と向かって今までの悪行を暴き立てられていっそ殺して欲しいほどの羞恥と自己嫌悪に見舞われているが、二人のためにはこの方が都合が良いし、関係を隠すことに抱いていた罪悪感も楽になるはずだ。
「……い、いえ、まだあるわ!」
とりあえず部屋に戻ってシーツを被り、いたたまれない気持ちを叫びに変えて発散しようと考えたところで、琴里が妙に感情の込もった声を上げた。
「その……あなたのモノがどれほどのサイズかは知らないけど、七罪と四糸乃は身体が小さいから例えミニウィンナーだろうと満足させられるわ。でも他の精霊とも肉体関係を結ぶならテクニックが必要不可欠よ。だから……あなたのテクニックがどれほどのものか、確かめる必要があるわ」
「ん……?」
そしてこちらを向かずに話を続けたが、士道はその内容に疑問を覚えた。
頻繁に鑑賞していたのだから士道のあられもない姿や、やることなすことをほぼ全て知っているはずなので、サイズやらテクニックを知らないなどありえない。
本当は鑑賞していなかったとしたらそっちは問題ないのだが、確かめる必要があるという言葉が問題だ。
何となく話の展開が読めてきた士道は不安に眉を寄せた。
「だから私が確かめてあげるわ。本当にそれが可能なテクニックを持ってるかどうか。いうなれば、そうね……試験ってところかしら」
「た、確かめるってお前……それって、俺と……!」
「ええ、そういうことね。喜びなさい。また新しい娘とセックスできるわよ」
重大なことを嫌味っぽく口にする琴里。
その口調はやたらと淡白で毛ほども感情が込もっていない。
本人は否定するだろうが琴里も士道を愛している筈だというのに、その愛情が微塵も感じられなかった。
流石に義理とはいえ兄とそういう行為をするのには嫌悪感があるのか、あるいは士道が凶行に走ったせいで愛想を尽かされたか、いずれにせよ琴里は嫌がっているとしか思えない。
「い、いや……それはやめとこうぜ。嫌なら無理にしなくて良いだろ……それに俺も、お前とはちょっと、な……」
正直士道の方も義理とはいえ妹に手を出すのは明らかに抵抗がある。
だからこそ止めるように提案したのだが、琴里はソファから腰を上げると有無を言わせぬという様子の鋭い瞳を向けてきた。
「あなたに拒否権はないわ。そうね……明後日、真夜中に私の部屋にきなさい。試験を始めるから」
「あ、お、おい! 琴里!」
最後に冷たく言い残し、琴里はリビングを出ていく。
こうして拒否権を与えられなかった士道は、気が乗らない試験を受けることを余儀なくされたのだった。
悩みというのは、琴里と身体を重ねることに対しての忌避感だ。
血の繋がりがないとはいえ、相手は子供の頃から一緒に育ってきた妹だ。
頭では犯罪ではない(年齢や外見云々はこの際無視する)と理解しているものの、心の方は納得などしてくれない。
先ほどの一幕からずっと、忌避感による躊躇いが心の中で燻っていた。
「――っていうわけだ。全然愉快な話じゃないだろ?」
士道は洗いざらい話すのではなく、重要な部分を抜き出して可能な限りマイルドに変換して話した。
年頃の女の子にとっては行為の様子を覗かれていたという時点で、羞恥で泣き出してもおかしくないからだ。
ただ七罪は泣いていなかった。
泣いていないのだが、話の最初の方からずっとうつむいて震えている。
心配になって顔を覗き込むと、そこにはあろうことか乾いた笑いが浮かんでいた。
具体的には自分の感情で処理できる限界を超えた時、無意識に零れ出る痛々しい笑みに似ている。
どうやら羞恥を感じられる上限を易々と突破してしまったらしく、もうどんな反応をして良いのか分からないようだ。
「……あー、そう……どうりでたまにニヤニヤ笑われてたわけね……あはは……」
「七罪……?」
ちょっとした恐怖を煽る笑いを零し、顔を上げる七罪。
確かに笑顔なのだが全く感情が込められていないし、何より瞳の奥には光が無いどころか底知れぬ暗闇が広がっている。
そんな半ば死んでいるような状態で七罪は一つ大きな溜息をつくと――
「どうせ隠し通せてるって思ってたおめでたい私をあざ笑ってたんでしょ!? 愛されて舞い上がってる私を鑑賞して馬鹿みたいに思ってたのよね!? あーそうよ! どうせ私は馬鹿みたいに性格変わるわよ! 普段根暗な上にベッドだと喜びまくる救いようのない痴女だからねぇぇぇぇぇぇ!」
――叫びながらベッドに八つ当たりし始めた。
「ひ、久しぶりに見たな、そのキレ方……じゃなくて、落ち着けって七罪!」
「うがああぁぁぁぁ……!」
暴走する感情を宥めるために、それとベッドを壊さないために、士道は七罪の身体を抱きしめてその顔を胸に埋めさせる。
少しの間くぐもった叫びと打ち揚げられた魚のような暴れ方が続いたものの、徐々に落ち着いてきた。
この宥め方が有効なのは、形成された依存による数少ない恩恵の一つだろう。
たっぷり三十秒は抱きしめてから、ようやく士道は七罪の身体を離す。
何とか落ち着いたらしく、羞恥に顔を真っ赤に染めてはいるがある程度感情は静まっていた。
「……バレること自体は最初から覚悟してたけど……覗かれるとかありえないでしょ……ああああぁぁぁぁぁ……!」
両手で顔を覆って念仏のような呟きを漏らし、身を捩るように身体を揺らす七罪。
ギリギリ踏みとどまっているのは覗いていたのが同姓である琴里と令音だからだろう。
個人的には異性に覗かれていた士道の方が泣きたい気分だった。
「ま、まぁ……別に記録されたりはしてないし、それを引き合いに馬鹿にされたりはしないだろうから、安心しろよ。からかわれたりは、するかもしれないけどな……」
「あんまり変わらないじゃない、それ……」
「……そうだな、あんまり変わらないな……けど、からかわれるくらいは我慢してくれよ。俺なんて絶対馬鹿にされるどころじゃすまないぞ……ていうか、何で令音さんまで覗いてるんだよ……」
慰めようとしたら墓穴を掘ってしまい、逆に自分が慰めてもらいたくなった。
七罪も士道の方がダメージを負っていることに気づいたのか、あるいは士道にこれ以上ダメージを与えたくなかったのか、何とか平静を取り戻してくれた。
「……知ってたなら最初から言いなさいよ……それなら無駄に気を張らなくてすんだっていうのに……」
「言ったら意味がないらしいから、仕方なかったんだろ。一応手助けはしてくれてたみたいだし、許してやろうぜ」
「よくそんな簡単に許せるわね……前から思ってたけど、心広すぎでしょ……」
どのみち士道のプライバシーはあってないようなものなので、受け入れなければやっていけない。
それに罰を与えられなかっただけ遥かにマシだと思っている自分がいる。
抉りまくって無理やり広げられた心の広さに呆れたのか、七罪は力なく溜息をついた。
「まぁ、どうでもいいわよ、そんなこと……今はそれ以上に……心配なこととかあるし……」
「心配なこと……?」
「な……何でも、ない……気にしないで……」
「無茶言うなよ。覗きがどうでもよくなるくらい心配なことって、気になってしょうがないだろ。さっきはお前が俺の悩みを聞いてくれたんだし、今度は俺が聞いてやるから話してみろよ?」
何故か顔を逸らして士道の方を見ようとはしない七罪。
その様子は心配事を隠しているという言葉で片付けられるようには思えなかった。
どちらかといえば、不安や怯えを抑えているという言葉に近い。
「七罪……大丈夫だから、話してみてくれ。力になるから」
これは放っておいてはいけない。
顔を伏せて表情の見えない七罪の頬を、士道は何度も優しく撫で続けた。
そのままひたすら七罪に優しく囁き、自分が力になると語りかける。
「――って、な、七罪?」
やがて決して短くない時間を置くと、七罪は唐突に抱きついてきた。
士道の胸の中へ身を預けるような形で、真正面から。
突然の出来事に士道が困惑する中、背中に手を回してぎゅっと力を込めてくる。
これは非常に珍しいことだ。
抱きついてくること自体はまれにあるものの、精々腕や背中くらいで真正面からきた記憶はほとんどない。
こんな自分を抱き返して欲しいと言わんばかりの様子を見せるのは、ベッドの上以外では初めてのことだった。
「ど、どうしたんだよ。普段のお前が、こんなことしてくるなんて……?」
驚きながらも抱き返そうとその背中に手を当てた時、士道は気づいた。
七罪の身体は強張って、震えている。
まるで何かが恐ろしくて堪らないとでもいうように。
「……四糸乃と、琴里がいても……変わらず、私を……愛して、くれる……?」
震える小さな声を漏らし、七罪は胸の中から見上げてきた。
その怯えに支配された瞳が、七罪の気持ちを雄弁に語っていた。
七罪は愛情を失うことを怖がっているのだ。
自分たちの関係に更に琴里が加わったことで、士道はもう自分から興味を失くすのではないか。
もう自分を愛してくれないのではないか、と。
そんな怯えに取り付かれて、恐怖に震えている。
「はぁ……」
士道は深く溜息をついた。
何故なら七罪があまりにも手のかかる面倒な存在であり――それ故にどうしようもなく愛しくなってしまったから。
「――っ……んっ……っ……あ……ふぁ……ぅ……!」
その震える唇に口付け、不安を砕くように自らの唇で噛む。
舌先で撫で摩って怯えを宥め、恐怖を吸い上げて熱い愛情を送り込む。
激しく行うのではなく、全てをゆっくりと、穏やかに何度も行う。
七罪が失いたくないのは、一時しか得られない肉体的な激しい愛ではないからだ。
七罪が本当に失いたくないのは、いつまでも自らの全てを受け入れてくれる精神的で静かな愛なのだから。
士道は七罪の身体から震えも力も抜けるまで、穏やかにキスし続けた。
愛をたっぷり感じさせてからキスを終えると、七罪の表情は完全に愛情に酔って恍惚としていた。
これは少しやりすぎたかもしれない。
「……当たり前だろ? 人数が変わったって、お前を想う気持ちは変わったりしない。それに琴里が色々手助けしてくれるみたいだし、もしかしたら逆にこれまで以上に一緒にいてやれるようになるかもな。だから……安心していいんだよ、七罪。これからも、これまでと同じくらい――いや、これまで以上に愛してやるから……」
「士道……!」
七罪は泣きそうなくらい嬉しそうな笑顔を浮かべると、今度は眩しいほどに満面の笑みを浮かべて猫のように士道の頬へ頬擦りしてきた。
やはり少々やりすぎてしまったらしい。
愛を失うという不安を感じている状態から溢れんばかりの愛情を受け、更にその愛が変わらぬものだということを理解したために、行為の最中と遜色ないほどの幸せに見舞われているようだ。
「士道……しどぉ……!」
この状態だと完全に我を忘れているので、頭が冷えて恥ずかしさに悶絶するまで好きにさせるしかない。
普段の様子からは考えられないほどの可愛らしさと無防備な姿に襲い掛かりたくなってくるものの、琴里に注意された通り部屋の中で行うのは危険極まりない。
そのためされるがままで我慢しようと思ったのだが、頬擦りしてくる七罪の首筋あたりに鼻先が埋まり、どことなく甘い香りを認識した直後――
「っ……!」
――堪えようがないほどの興奮状態に一瞬で陥った。
相性が良いのか七罪の匂いに当てられると度々興奮を催す場面があるのだが、今回は今までで最高レベルのものだった。
何故なら気付いた時にはすでに七罪の身体を抱え上げ、ベッドに押し倒していたからだ。
「あっ……お、俺、何してんだ……!」
しかし我に帰っても興奮が収まらない。
今なら引き返せるギリギリのラインなので、七罪が嫌がったり断ったりしてくれれば頭も冷えるのだが、残念ながら今の七罪は士道が何をしようが喜んで受け入れてしまう状態だった。
「……しどぉ……だいすきぃ……あいしてる……!」
「……七罪……!」
むしろ自分から腕を広げ、満面の笑みで士道を迎え入れる体勢だ。
そんな様子と愛の言葉にギリギリ踏みとどまっていたラインから弾き飛ばされ、もう士道は歯止めが利かなくなった。
何もかも忘れて七罪に覆い被さり、今度は熱い口付けを行う。
「ちゅ……はっ……ふっ……ぁ……!」
互いへの深く激しい愛情が、触れ合う舌先から流れ込んでくる。
先ほどまでの静かな愛情とは違い、頭が熱に浮かされて互いを貪りあいたくなる熱い愛情。
ここまでヒートアップすればもう止まれない。
士道は七罪の腰元から衣服の中へと手を入れ、そのまま下へ滑らせ――
「……あなた、全然話を聞いてなかったみたいね。学習能力がないのかしら?」
「っ!?」
――ようとしたところで、突然氷の如く冷たい声が部屋に響く。
反射的に声の出所へ目を向けると、あろうことか琴里が部屋の扉を背に立っていた。
汚物を見るような、あるいは長い触覚の生えた黒光りする昆虫を見るような目をして。
「こ、琴里!? お前いつからそこにいたんだよ!?」
「たった今普通に入ってきたところよ。熱中してると全然気がつけないでしょう? だから部屋でするのは危ないから止めさせてたっていうのに……ほら、さっさと七罪を解放しなさい」
完全に呆れた様子で答えると、士道のことしか認識できていない七罪を顎で示す。
やはりまた士道たちの様子を鑑賞していたのだろう。
一瞬怒りが湧き上がってきたものの、悔しいことにそれは感謝へと変わってしまった。
実際いつ琴里が入ってきたのか全く気付けず、自分たちがどれだけ危険な状況だったかを理解したからだ。
ここまで注意力が散漫になってしまうのだから、琴里が止めに来てくれなければ絶対に他の精霊にバレていたであろう状況も間違いなく何度かあった。
自分の愚かさを身をもって知った士道は、ここは大人しく琴里に従うことにした。
「ぁ……し、どぉ……?」
覆いかぶさっていた身体の上から離れると、キスが中途半端だったせいで七罪は物足りなさそうに切ない声を上げる。
可愛そうだが頭を冷やしてやらないといけないので、士道は七罪の頭を横に傾けた。
ちょうど琴里の姿がその蕩けた瞳に映りこむように。
「え……こと、り……? あ……えっ……? あっ……あ……うあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
少しずつ酔いが冷めてきたと思った次の瞬間、羞恥の叫びを上げる七罪。
我を忘れていて甘えまくっていたという事実、更にそれを琴里が傍で見ていたという現実に耐え切れなかったのか、七罪はシーツで全身を包み込んで縮こまった状態で動かなくなった。
変身しなかったのは驚きが一瞬できたのではなく徐々に来たものだからか、あるいは覗かれていると事前に知らされていたせいか、いずれにせよ下手に触れない方が良いのでしばらく放っておくことにした。
琴里も同意見だったらしくすぐに七罪から視線を外し、蔑みの浮かんだ瞳を士道に向けてきた。
「部屋では止めろって忠告しておいたっていうのに、よくもまぁそんなことができるものね。あなた本当は人に見られると興奮するタイプなのかしら?」
「い、いや、わざとやったわけじゃ……」
刺し貫かれそうなほど刺々しい琴里の声音に恐怖を覚え、反論することができない士道。
というか風呂上りの一幕と同様、琴里は明らかに必要以上に怒っている。
不安を覚えていた七罪を安心させた後とはいえ、先ほどやりかけてしまったのはその延長線上にある行為なのだから、ここまで怒らずとも良いはずなのだから。
「何にせよそこまで盛んなら試験は十分受けられそうね。色々な面を合わせて百点満点で評価するから、せめて三十点は取ってくれると嬉しいわ」
「赤点なのは確実なのかよ……幾らなんでも合格ラインくらいは突破できるぞ……」
「へぇ、少しは自信があるみたいね。ま、期待せずに待ってるから、せいぜい今の内に予習でもしておきなさい。だけど今ここで七罪に実践するのはやめなさいよ?」
言葉とは裏腹に全く感情の込もっていない期待を残し、琴里はさっさと部屋を出て行った。
後に残されたのは燻った興奮を覚えたままの士道と、ベッドの隅で羞恥に固まっているシーツの塊である七罪、そして秘め事を邪魔されることによって生じた気まずく重い空気。
この空気が周囲に満ちると、どうしても場を取り繕うのが難しくなる。
「えっと……七罪? 生きてるか?」
とりあえず、一言も発さずピクリとも動かない七罪の様子を確かめる。
シーツの上から軽く指で突付くとビクッと震えたので、死ぬほど恥ずかしくても息はあるようだ。
ただ意識もあるようなので、早急に慰めてやらなければいけない。
かといってこの様子では下手なことは言えない。
これ以上辱めるようなことになってしまえば、本格的にマズイ。
「ねぇ……一つ、頼んでいい?」
「な、何だ?」
何と言ってやるべきか迷っていると、突然シーツの塊から声が上がった。
ちょっと声音が無機質というか無感情だが、自分から声を発しただけでも賞賛に値する。
七罪はもぞもぞと動いてシーツの中から目だけを覗かせると、鋭い目付きで士道を睨んできた。
「……痛くしろ、とかは言わないけど……その代わり、めいいっぱい恥ずかしがらせてやって……」
そして、琴里に対しての復讐染みた願いを口にしてくる。
七罪にしては珍しく人に害を及ぼすような願いだが、対象はかなりの頻度で自分たちの幸せな時を覗いていた琴里だ。
この程度の復讐は当然の権利と言えるだろう。
そしてその権利は士道にもあるはずだし、少しは覗かれていた恥ずかしさを思い知らせてやりたい。
先ほどまでは琴里と交わることには忌避感を抱いていたものの、それはとある理由で少しずつ薄まりつつあった。
「……言われなくたってやってやるよ。愛する人を辱められたら、黙っちゃいられないからな」
「……!」
慰めも兼ねて答えると、七罪は羞恥を漂わせて再びシーツで完全に隠れてしまった。
もの凄く臭い台詞に思えたが、覗かれることで知らぬ間に七罪と四糸乃が辱めを受けていたということを考えると、幾ら相手が琴里とはいえそれなりに怒りが沸いてくる。
だからこそ辱めた張本人である琴里には復讐しなければならない。
その抱いた復讐心が、琴里と交わることに対する忌避感を薄れさせている。
話してどうにかなる悩みではなかった筈だが、結果的には七罪のおかげで悩みが解決していた。
「よし……どうせまだ聞いてるんだろ、琴里? 覚悟しとけよ。めいいっぱい恥ずかしがらせてやるからな」
どのみち士道は琴里も愛しているのだから、その愛を感じさせてやること自体に気後れは無い。
むしろ気が乗らないまま愛し合うなど、琴里にも自分の想いにも失礼極まる。
だからこそ士道は記憶を呼び覚ました。
今まで何度も覗かれることによって受けたであろう、七罪と四糸乃の羞恥。
その辱めに対する怒りを復讐心として燃やすことで、忌避感はあっという間に灰になってしまった。
例え根底にあるのが復讐心だろうと、やっと躊躇いを振り切れたのだ。
「ふぅん……やっと覚悟を決めたと思ったら、随分面白いこと言うじゃない」
やはり聞いていたらしく部屋に戻ってきた琴里が、不敵な笑みを浮かべて士道に挑戦的な瞳を向けてきた。
琴里も今までは乗り気ではない様子を見せていたが、今はとても楽しそうに見える。
もしかすると士道が乗り気ではなかったから琴里も同じ気持ちだったのかもしれない。
「やれるもんならやってみなさい。私を屈服させることができたら、何でも一つだけあなたの命令を聞いてあげるわよ。どんなに下種で屈辱的な命令でもね」
「俺を見くびってるな、琴里? その気になればお前を屈服させて、お前から俺を求めさせることくらいできるんだぜ?」
「はっ、ありえないわね。七罪や四糸乃ならともかく、私があなたを求めたりすると思ってるの? むしろ逆ね。咽び泣いて私を求めるあなたの哀れな姿が目に浮かぶわ。その時は私に跪いて足を舐めながら潔く負けを認めれば、挿れさせてあげるかどうか考えなくも無いわよ?」
琴里は口調も様子も完全に士道を見下している。
ここまで馬鹿にされては引き下がれない。
何としてでも強気な仮面を引っぺがし、琴里に屈辱と敗北を与える。
「言ったな。なら俺はお前が泣いて謝っても許してやらねぇからな。負けを認めるなら今の内だぞ?」
「私に勝てると思ってるだなんて、自信過剰も甚だしいわね。あなたの方こそ負けを認めたら? 今謝れば特別に許してあげるわよ?」
互いに最後のチャンスを与えるも、当然士道は折れないし、琴里も折れない。
つまり今この瞬間から試験は勝負へと変わったのだ。
どちらが相手に屈するかという、プライドをかけた勝負に。
「よし。覚悟しとけよ、琴里。七罪たちを辱めた分、絶対に泣かせてやるからな」
「不可能を実現できるっていう誇大妄想に取り付かれてるのはともかく、それくらいの気概を持っているのは良いことね。ま、精々私を退屈させない程度には楽しませてくれることを願ってるわ」
小馬鹿にするような笑みを浮かべ、士道の睨みに正面から相対する琴里。
最早琴里と身体を重ねることに迷いも躊躇いも完全に存在しない。
むしろ約束の日が待ち遠しかった。
一秒でも早く琴里を屈服させ、泣いて許しを請う姿を瞳に焼き付けたい。
「ねぇ……私のいないところでしてくれる? そういう話……」
琴里と睨みあい決意を固める士道の傍らで、半ば存在を忘れられていたシーツの塊である七罪が、居心地悪そうな声を漏らしていた。
士道なんかに絶対負けない!
次回は当然ながらエロ話。
なお、明らかに他二人の時の「ファースト」と違う雰囲気に仕上がってきているので、タイトルは別のものになる予定。
恥ずかしがる女の子って堪らなくそそられるよね……。
更新停止期間の執筆状況の進捗はどれくらいの頻度で活動報告に載せるべきか
-
1ヵ月
-
2ヵ月
-
3ヵ月