ちなみにほとんど明言しませんでしたが、今現在の作品内の時期はおよそ12月の後半。
話が始まった時点で原作のストーリーから外れているし、何の事件もない平穏な日々でも別に良いよね……?
今回は琴里の行動理由や心情を考えるのが次々回までの宿題(?)です。
終業式が終わり、やっと冬休みが始まった。
最近の士道は色々あって果てしなく濃密な日々を過ごしていたので、休みに入って嬉しい限りであった。
しかし休みに入るということは必然的に十香を始めとする精霊たちも休みに入るということで、その分デートや遊びに誘われる頻度や回数が増えるというわけであり、実際には休み前が天国に思えるほど超高密度の日々になるだろう。ブラックホールもびっくりの密度である。
なので士道は終業式を迎えた夜、半ば現実逃避気味に自室でネットサーフィンしていた。世の男たちにはほぼ殺意の嫉妬を向けられるかもしれないが、持つ者には持つ者なりの悩みがあるのだ。まぁ殺意が芽生えるほど贅沢に過ぎる悩みだということは自覚している。
明日からの日々に備えて体力を温存するために早めに休むという手もあるが、どうせその体力は真夜中に使ってしまうので肉体的にはほぼ無意味である。
それよりはネットで役に立ちそうな情報(性的な)を拾い集めた方がまだ有意義だった。
具体的には七罪や四糸乃をもっと気持ちよくさせてあげられるような技術や、琴里に屈辱と羞恥を感じさせ惨めな敗北を味わわせてやれるような技術だ。
「ちょっと邪魔するわよ、士道」
「うおおっ!?」
いかがわしい情報の波をサーフィンしている最中、ノックもなしに部屋の扉が開けられて士道は死ぬほど驚いた。
腰を抜かして目を向けると、やはり声の主は琴里だった。
士道を寿命が縮むほど驚かせたことに対する謝罪もなく、何の遠慮も無く部屋に入ってきてベッドに腰掛けている。
勝手知ったる自分の部屋、という感じで完璧にくつろいでいた。
「お、脅かすなよ、琴里……心臓飛び出るかと思ったぞ」
「別に脅かしたつもりはないわ。どうせやましいことをしてたからビビったんでしょう?」
「う、うるせぇ!」
「ま、それはあなたの勝手だけど履歴くらいは消しておきなさいよ。万が一また七罪にでも見つかったら堪らないわ」
「分かってるってそんなこと……」
言われなくとも十分身に染みている。
今の七罪なら事情を知っているので特に混乱や怯えを示すことはないだろうが、そういうものを見ていたこと自体はあまり快く思わないかもしれない。
「前にも聞いたけど七罪たちとの関係は上手くいってるのかしら? 何か問題や悩みがあるなら話してみなさい」
意外と優しげな口調で尋ねてきて、ベッドに横になって更にくつろぎ始める琴里。
仰向けになって腕を組んでリラックスしているあたり、どうやら士道の悩みや愚痴にじっくり付き合ってくれるらしい。
それが士道に寄せる愛情からのものなのか、立場上必要なものなのかは分からないが、悩みのある士道にとってありがたいことなのは確かだ。
士道は最近ずっと気になっていた悩みを打ち明けることにした。
「問題、って言うほどのものじゃないんだけどさ、どうも最近何の前触れもなく興奮しちまうんだよ。それに変に性欲が高まってるっていうか……これって何か変な病気とかじゃないよな?」
「心配いらないわ、士道。年端もいかない女の子三人に手を出してる時点で、あなたは立派な病気よ」
「……そうだな。もうすでに病気だったな……」
幼い女の子の身体に興奮を覚えた挙句、合意の上とはいえ何度も身体を重ねている。
しかもあろうことかそれが三人分なので、純愛であろうが何だろうが世間一般から見れば明らかに病気だった。
……けど俺のは純愛だ! 三人を愛してる!
「まぁ仮に病気だとしても治す必要はないわ。あなたが四六時中発情してるからこそ、毎晩七罪たちを深く愛してやれるんじゃない。あなたが萎えたら七罪たちは飽きられたと思ってさぞかし落ち込むでしょうね」
「そ、それはまぁ、そうなんだけどな……ちょっと不安になるっていうか……」
「心配性ねぇ……ま、良いわ。そんなに心配なら後で<フラクシナス>に来なさい。何か身体に異常がないか精密検査させるから」
「いや、別にそこまでしなくても良いんじゃねぇか……?」
手厚い対応は嬉しいが少し大げさな気もする。
というか性的な問題に対する精密検査などというと恥ずかしいイメージしか沸いてこない。
流石にそういう検査を受けるのは性的な意味で生き恥を晒している士道でも恥ずかしくて躊躇いがある。
「あら、それくらいは必要だと思うけど。あなたが唐突に理性を失くして欲望のままに行動し始めたら一体どうするのよ? 他の精霊ならともかく、道行く女子供に襲い掛かったら大変でしょう?」
「流石にそれはねえよ! ……ないと思うぞ……たぶん……」
反射的に全力で否定したものの、冷静に考えてみると本当に僅かだが怪しく思えた。
何故なら昨日の夜は欲望のままに七罪に襲いかかってしまったからだ。
他の精霊たちが訪れてしまう可能性を理解していながらも、唐突に湧き上がってきた劣情を抑えられずにこの部屋の中で。
士道を想って七罪が抵抗してくれたのと、琴里が呆れ果てながらも止めにきてくれたことで事なきを得たのだが、あの何の前触れも無い興奮が日常の場面で起こったら完全に積みである。
琴里の言う通り、確かに精密検査も必要な対処だろう。
そして止めに来たタイミングから明らかに約束を無視して覗いているらしい琴里にも、相応の対処が必要だろう。
「――ああ、襲うで思い出したけど、もう部屋の中でセックスしても平気よ。あなたの部屋にそのための処理を色々と施しておいたから」
「いつのまにそんなこと……それはともかく、具体的にどんな処理したんだ?」
「まずは音と震動の遮断ね。ジェット機の離陸音だろうと削岩機の衝撃だろうと、外部にも階下にも一切漏れないようにしてあるわ。窓はマジックミラーにしてあるから、灯りをつけてカーテンを開けたままでも存分にヤれるわよ。それからドアも力付くでは――まぁ、壊す気でやれば開くでしょうけど――簡単には開けられないようにして、生体認証による鍵もつけておいたわ」
「明らかにやりすぎだろ……どういう状況想定してんだよ……」
最早シェルターか何かとしか思えないほどの改造ぶりに、開いた口が塞がらない。
しかし正直ありがたいことこの上なかった。
抑えきれないほどの劣情を抱いてしまったとしても、これで部屋の中なら安心して発散させることができる。
ただ七罪と四糸乃を性欲発散の道具になどしたくないので、やはり琴里を部屋に引きずってきて付き合わせるのが懸命だろう。
まだ琴里とは二度、それも黒琴里としか身体を重ねていないものの、嫌がるどころか喜ぶであろうことはその時の様子や言動から容易に想像ができた。
ただし士道と同等かそれ以上に盛っているため、油断すると確実にこちらが食われてしまう。
「あなたがわき目も振らずに部屋の中でセックスに励む状況に決まってるじゃない。何なら……今ここでその状況を再現してみる?」
横になったまま挑発的な笑みを浮かべ、胸の上で組んでいた腕を頭の上へと持っていく琴里。
重ねられた手首を押さえて身体に跨れば簡単に襲える様子は、どうみてもベッドに誘っているとしか思えない。
とはいえ普段の黒琴里がそんな真似をするわけがないので、これは士道を挑発してからかっているだけだろう。
「そんな理由でやったりはしねぇよ。それにお前が大丈夫だって言うんだからわざわざ確かめる必要もないしな」
「ふぅん……そう……」
「……?」
挑発には乗らずに答えると、琴里は若干気落ちしたような声を出した。
もしかすると本当に士道を誘っているのかもしれない。
狡猾な琴里のことなのでもう部屋の中でセックスできるという発言もそのための布石だということも十分考えられた。
「ま、あなたにそういう気がないならやらせても大丈夫そうね。士道、ちょっとマッサージでもしなさい。あなたのせいで仕事が山積みだから疲れたわ」
わざとらしく深い溜息をついてうつ伏せになった琴里の様子は、これでもかというほどに無防備である。
これは間違いなく士道をベッドに誘っている。
付き合ってやるのもやぶさかではないが、それではまるで士道が琴里を襲ったような形になってしまう。
琴里の思い通りになるのは悔しいので、正直に求めてくるまでその誘いを無視することにした。
「仕方ねえなぁ……まぁ、俺のせいなのは確かだからな。そんなに疲れてるならやってやるよ」
とはいえここで命令まで無視してしまうと琴里に不審に思われる。
誘いには気付いていないふりをしつつ、大人しく命令に従っておいた。
「あら、ずいぶん素直ね。言っておくけどこれで賭けがチャラになるわけじゃないわよ」
「ちっ、やっぱりな……」
やはり四糸乃と入浴する時に行った賭けによる命令権を行使したわけではないらしい。
はなから期待はしていなかったものの少し残念だったので、舌打ちしつつベッドへと上がった。
マッサージをするためなので琴里の腰の両脇に膝をつき、その背中を見下ろすような形で。
このまま覆い被さって欲望の限りを尽くすのも悪くないが、ここは我慢だ。
「で、どの辺をマッサージして欲しいんだ?」
「そうね、まずは背中のあたりを頼むわ。背骨にそって首のあたりからゆっくりやりなさい」
「やっぱり命令してるじゃねぇか。いつものことだけどさ……」
文句を言うのも今更なので、ぼやいただけで命令に従った。
まずは琴里の首元の両脇に親指を当てる。
指の腹でも琴里の肌の滑らかさを十分に感じられて、今の士道には精神衛生上よろしくない。
どうして女という生き物はこんなに肌がすべすべなのだろうか。
「んっ……」
軽く力を入れただけで、胸の膨らみほどではないが柔らかな感触が伝わってくる。
更には畳み掛けるように琴里が小さくエロイ喘ぎを漏らす。
その不覚にも感じてしまったような喘ぎが、士道に先ほどの予想が間違っていることを気付かせた。
琴里は誘っているのではなく、士道に自分を襲わせようとしているのだ。
花も恥らう女の子の癖になんてやらしい作戦を考える奴だ! 効果は抜群だよ!
「……力が足りないわ。もうちょっと強くしなさい」
「これくらいか……!」
「んっ……! え、ええ、ちょうど良いわ……っあ……!」
怒りを込めて力強く指を沈めるも、逆に琴里にはちょうど良い強さだったらしい。
先ほどよりも瑞々しい喘ぎを零し、抑え込んでいる士道の劣情を刺激してくる。
その喘ぎはさしずめ前儀で上がるような甘く切ないエロさがあった。
……負けるな俺! 気を強く持て! これは琴里の罠だ!
「あっ……! そ、そう……そこよ……っ、あ……!」
だが分かっていようと男がエロイものを無視することなど不可能だ。
それがいつも生意気で偉そうにしている癖に、今は士道の手によって喘いでいる琴里の姿ならなおさらである。
こいつ本当はそれが分かっていて気持ちよくも無いのに声を上げているのではないだろうか。
できる限り琴里の喘ぎを聞き流しつつ、士道は背中のマッサージを続けていった。
「……背中はもう良いわ。次は太股の辺りをお願い」
「あ、ああ。分かった……」
次に琴里が指定した場所は太股。
ミニスカートを履いている癖に太股をマッサージさせるとは悪魔の所業である。
しかも琴里が部屋に入ってきてから一度スカートの内部がちらりと見えたのだが、いつもの縞パンではなく大人っぽい黒レースの下着(真夜中のお楽しみ用)である。
そこまでして士道に襲って欲しいとは、こいつ陵辱願望でもあるのではないだろうか。
「こ、この辺か……?」
「っ……え、ええ……」
真剣に琴里の性癖を疑いつつその太股へと指を当てる。
プニプニとしていて首筋よりも柔らかく、大変危険な感触だった。
場所が場所なので指がちょっと太股の内側へずれると、琴里の喘ぎは段違いに瑞々しくなってしまうだろう。
緊張からごくりと唾を飲みつつ、士道は手が滑らないよう細心の注意を払って指圧を続けた。
「ふぅ……なかなか上手いじゃない。その調子で少しずつ上に行きなさい。腰の辺りまで」
「お、おい、少しずつ上って……」
「今更あなたに尻を揉まれたくらいで動じるとでも思ってるの? 良いからとっとやりなさい。手が止まってるわよ」
「……」
明らかに面白がっているような声を零し、湧き上がる劣情に苦しむ士道に催促してきた。
人が苦しむ様子に愉悦を覚えるサディストならではの反応に心底イラッとくる。
具体的には尻をぶっ叩きまくって泣かせたいくらいイラッときたが、これも琴里の作戦の内という可能性もあるので我慢しておいた。
「ぁ……!」
動じないと言った癖に微かに羞恥を滲ませて喘ぐ琴里。
その切ない喘ぎのエロさもさることながら、親指に伝わってくる感触もかなりヤバイ。
水枕のような柔らかさと適度な弾力は、まるで胸の膨らみに指を沈めているのにも似た夢心地の感触である。
スカートの上から親指を押し当てているので、肌の滑らかさを感じ取れないのがせめてもの救いだった。
直接触れていたら右も左も鷲掴みにしたい衝動に抗えなかったかもしれない。
「ぁ……そ、そうよ……その辺……っあ……!」
親指に力を込めて柔らかいお尻を指圧していくと、ついには甘い喘ぎを零し始める琴里。
本当に気持ち良いのか、あるいは別の意味で気持ち良いのか、それとも演技なのか。
いずれにせよ最早マッサージなのか前戯なのか分からなくなってきた。
声だけ聞けば間違いなく愛撫されている時に上げるそれである。
「あっ、あぁ……! そ、そう……! そ、そこ……っ、うぁ……!」
「ここか? ん……少し硬くなってる気がするな……」
「う、あぁ……! そ、そのまま……もう、少し、強く……あぁっ……!」
言われるがまま指圧していくと、腰の辺りに若干凝り固まっているような部分を見つけた。
背中や太股はともかく腰は本当に凝っていたらしい。
そのおかげでこれがただのマッサージということを思い出せたので、若干興奮が引いていくのを感じた。
部位的にたぶん士道のせいなので少し罪の意識を覚えたのも、興奮が引いた理由の一つである。
なので言われるがままその部分に深く指を沈め、快感(性的なものではない。たぶん)に悶える琴里の凝りを揉み解していった。
「ふぅ……もう良いわ、士道。思いのほか楽になったわ。ありがとう」
「お前が素直に礼を言うなんてよっぽど凝ってたんだな……」
「ええ、一体誰のせいなのかしらね」
五分ほど続けると満足したらしく、熱っぽい吐息をついて身を起す琴里。
そして若干の着衣の乱れを直すと、胸にかかったツインテールの位置を首を左右に振って正した。
「……っ!」
その際鼻先をツインテールの毛先に掠められ、漂ってきた甘い香りに胸の鼓動が早まってしまった。
琴里本人の肌が若干汗ばんでいるせいか、少しクラッとくるほど強い香りだった。
マッサージという名の誘惑から解放されたと思った矢先の不意打ちである。
安心して無防備になったところへ容赦なく追撃をかましてくるとは、流石は慈悲の無い司令官様だ。
「あら、何よその不満そうな顔は? ご褒美でも期待してたの?」
不意打ちのせいで眉を歪めていたせいか表情が不満げに見えたらしく、振り向いた琴里は冷たい笑みを浮かべて士道を馬鹿にしてきた。
「いや、別に期待なんてしてねぇよ。お前がこの程度のことでそんなものくれるわけないからな」
「ふぅん……そこまで言われると私の沽券に関わるわね。仕方ないからとびきりのご褒美をあげるわ。こっちにきなさい」
「……先に言っとくけど俺にとって痛いのはご褒美じゃないからな」
笑みを浮かべて指でちょいちょいと招いてくる琴里の様子は、百歩譲ってもかかってこいと挑発しているようにしか見えない。
士道はどんな攻撃にも誘惑にも対処できるよう警戒しながら琴里に身を寄せた。
「心配しなくてもこれは間違いなくご褒美よ。喜びに咽び泣きながら受け取りなさい」
「っ!?」
自身に満ち溢れる答えを返してきた琴里は、あろうことか士道の胸倉を片手でガシッっと掴み上げてきた。
そして驚きの声を上げる暇も与えられず、士道はそのまま琴里に身体を引き寄せられ――
「――っ」
――乱暴に唇を奪われた。
「っ……は……ちゅ……ぁ……!」
熱い吐息を互いに隙間から零してしまうほど、情熱的に唇を交えてくる琴里。
琴里がついさっき口にしていた飴は苺味だったらしく、絡み合う舌先に纏わり突く瑞々しさは苺の甘酸っぱい味わいだ。
その味わいを強引に胸の奥へと注ぎ込まれ、心臓が酸味に驚きを示すように跳ね回ってしまう。
これは明らかにご褒美ではなく、最大級の誘惑だった。
「ぁ……」
自分の誘惑で自爆しかけているらしく、口付けを終えた琴里の瞳は切なげに揺れている。
薄く苺色がかった唾液が舌先から糸を引いているせいで、士道にとってはかなりエロイ光景だ。
その様子に思わずごくりと唾を飲み込むと、琴里は我に返ったように焦りを見せて表情を引き締めた。
「……ど、どうかしら? あなたにとっては最高のご褒美でしょう?」
再び自信に満ち溢れた笑みを浮かべる琴里。
どうやらこれで士道も我慢できずに襲ってくると確信したらしい。
「……ああ。思った以上に最高のご褒美だ。ありがたく受け取っとくよ、琴里」
だが士道はとある理由でギリギリ耐えることができたので、襲い掛かる代わりに微笑みかけておいた。
琴里の自信を打ち崩した優越感と嘲りを顔に出ないようにするのはとても大変だった。
残念だったな、妹よ。お前の負けだ。兄に勝てる妹など存在しねぇ!
「……っ!」
「ん? おい、琴里、どうし――あ」
琴里はしばらく呆けた顔をした後、表情を徐々に屈辱に染めながら徐に部屋を出て行った。
一瞬琴里の頭からブチッという不穏な音が聞こえた気もするが、怖いので聞かなかったことにしておいた。
「……流石にちょっと意地悪が過ぎたかもな……」
数分ほど待ってみたが、機嫌を損ねてしまったらしく琴里は戻ってこなかった。
逆の立場で考えてみると士道のしたことははっきり言って最低の行為だった。
琴里は士道をあからさまに誘惑していたのだから、当然性的な欲求で悶々としていたのだろう。
ムラムラした状態の相手に放置プレイを行うなど、琴里にされたなら士道も確実にブチ切れる仕打ちだ。
やはりここは素直に謝って望みを叶えてやるべきだろう。
たぶん手遅れかもしれないが琴里がキレる前にそうした方が良い。
士道はしばらく自分の罪を悔いてから、琴里の後を追おうとベッドから腰を浮かせ――
「――あ、琴里。戻ってきたのか」
――ようとした所で、部屋の扉が開かれ再び琴里が姿を現した。
何というか表情が能面のように無感情に見えるが、内心ではどんなどす黒い感情が渦巻いているかは分からない。
真っ直ぐこちらへ歩み寄ってくる琴里を迎えるため、今度こそ士道は腰を浮かせて立ち上がった。
「琴里……その、さっきはごめ――っ!?」
謝罪の言葉を口にしかけた瞬間、歩み寄ってきた琴里に突然突き飛ばされた。
背中をベッドにうちつけられて士道が呻きを上げたところへ、追い討ちをかけるように腹を足蹴にしてくる。
司令官モードでもそうそう見られないほどに瞳を鋭く冷たくして、どこかから取り出した手錠を手にした琴里が。
「お、おい、琴里! いきなり何しやが――ちょっ!?」
あっというまに妙に手馴れた動作で手首に手錠をかけられ、目を丸くする士道。
慌てて琴里を身体の上から振り落として逃れようとしたが、これまたどこかから取り出した乗馬用の短い鞭を鼻先に突きつけられやむなく抵抗を止めた。
怒っていること自体は予想の範囲内だったが、まさかここまでされるとは思っていなかった。
どうやら真正のサディストである五河琴里司令官の本領が発揮されてしまうらしい。誰か助けて!
「あなたねぇ……鈍いのも大概にしなさい。私があれだけやってあげたっていうのに何の行動も起さないなんて、私を侮辱してるとしか思えないわ」
怒りに眉と頬を引きつらせた琴里が、鞭の先端で士道の頬をペチペチと軽く叩いてくる。
まだギリギリ怒りを押さえ込んでいるようだが、少しでも刺激すると間違いなく爆発してしまう。
ここはプライドをかなぐり捨ててへりくだるのが生き残るための処世術である。
「わ、悪い、そんな気はなかったんだよ……ただちょっとお前をからかってみただけで……本当は、その……気付いてたからな? お前が、誘惑してたこと……」
「ゆ、誘惑なんてしてるわけないでしょう!? あれは実験の――あなたが七罪たちのこういうサインに気付けるかどうかを確かめるための実験だったのよ!」
「いてっ! そ、そうだな! お前が誘惑なんてするはずないもんな! うあっ!」
一瞬で顔を真っ赤にした琴里が振り下ろしてくる鞭(たぶん照れ隠し)を、拘束された腕で何とか防御する士道。
鞭は肘から指先までの長さと同じくらいの短いものだが、革製なので大振りで振り下ろされるとそれなりに痛い。
「って、あなた気付いてて何もしてこなかったわけ!? 鈍くて気付かないよりも性質が悪いわよ! ふざけるのもいい加減にしなさい!」
「おあっ! わ、悪かった! いてっ!」
ビシッ! バシッ! ビシッ!
耳にだけ心地よい音が繰り返し部屋に響き、士道の腕にうっすらと赤い痕が刻まれていく。
傍から見れば間違いなくSMである。
違うのはどちらも楽しんでいない(少なくとも士道は)ということだけだ。
五、六回ほど鞭で士道を叩くと、琴里は一旦手を止めて心底深い溜息をついた。
「はぁっ……幻滅したわ、士道。少しは女心を理解してきたと思ってたけど、どうやらあなたを買い被ってたみたい――ねっ!」
「ぐあっ! お、お前、今のは――つぅっ!」
語気を荒くして鞭を振り下ろしてきた琴里の一撃は、正しく本気の一撃だった。
当たった手首どころか腕全体に痺れが走り、上手く動かせなくなるほどの痛みだ。
しかもそれが二度三度と容赦なく降り注いでくる。
「いつっ!? ちょ、やめろ琴里! 流石にこれはやりすぎだろ!」
両脚も拘束するためか空いている方の手で新たな手錠を取り出した琴里は、嗜虐心も露に士道を冷たく嘲笑ってきた。
「やり過ぎ? これは万年発情期で躾のなってない駄犬を調教してるだけよ。少しは女心を理解できるように私がじきじきに身体に教え込んであげるんだから、跪いて感謝しなさい。これなら学習能力の無いあなたでも理解できるで――しょっ!」
「ぐあぁっ!! お、お前っ――つ、うぅぅ!!」
「駄犬の分際で生意気に人の言葉を話してるんじゃないわよ! 子犬みたいにキャンキャン情けなく鳴きなさい! ほら、鳴きなさい!」
烈火の如き鞭打ちに最早腕全体が火で炙られているかの如く熱い。
確かに士道が悪かったのは認めるし罰を受けるのも当然かもしれないが、こんな拷問染みた罰はもう勘弁ならない。
「っ……いい加減にしろ琴里!! って……外れた……?」
琴里を突き飛ばそうと両腕に力を込めた瞬間、部分的に劣化していたのか手錠のチェーンが真ん中あたりからあっさり千切れた。
「なっ……!?」
千載一遇のチャンスを手にした士道は、予想外の事態に目を見開いて固まる琴里を逆に押し倒した。
そして床に押し倒した琴里の手から手錠を奪い取り、細い両手首にかけて動きを封じ込める。
気付けばあっというまに形勢が逆転していて、士道の身体の下で琴里が悔しげに身を捩っていた。
「くっ……」
「……さっきのはやりすぎだろ。幾らお前がサディストのお偉い司令官様でもやって良い事と悪いことがあるんだぜ?」
「はっ。やって良い事と悪いこと? 年端もいかない少女たちの純潔を奪っておいてよくそんな台詞が出てくるものね」
「そ、それは今関係ないだろ……とにかく、もう二度と今みたいなことはやめろよ? 流石の俺でもあれは許せないぞ」
一瞬正論を突きつけられてたじろいでしまったものの、誤魔化されずに口調を強くして嗜めた。
あんなものはただ身体を痛めつけて苦痛を与えているだけで、罰でもおしおきでも何でもない。
ご褒美と認識しそうな人が琴里の部下に一名いる気もするが、あれは極めて特殊な人種なのでここでは関係ない。
「別にあなたの許しを得る必要なんてどこにもないわ。駄犬を調教する時に駄犬から許しを得ようとする飼い主なんてどこにもいないでしょう?」
「……まぁ、確かにその通りだよな。口で言ったって分かってくれないんだし」
犬や猫と会話することはできないのだから、許しを得るもくそもない。
つまりは口で言っても理解してくれないから、身体に教え込んでやるしかないのだ。
反抗的な目付きで答える琴里の言うとおり、それは正しい考えである。
「……だから口で言っても理解しない生意気な妹を懲らしめるのに、妹から許しを得ようとするおにーちゃんもいないよな?」
「……っ」
若干顔を青ざめた琴里に、にやりと笑いかける士道。
分かりやすく言うと口で言っても反省しないクソガキにはおしおきをするしかないのだ。
また同じような悪いことをしでかさないよう、悪いことだと身体にたっぷり教え込んでやるしかない。
それを行うべきなのは、やはり妹を愛する心優しきおにーちゃんの役目だろう。
「これは壊れそうにないな……ほら、こっちこいよ琴里」
「な、何をする気よ……っ!」
士道は琴里の手錠の様子を確かめてからベッドの片側を微かに持ち上げ、琴里の拘束された両腕を四隅にある柱の一つに通してからベッドを下ろした。
両腕で形作られた輪の間に柱が降り立ちその場から逃れられなくなった四つんばいの琴里の姿は、逆に自分が犬になって電信柱に繋がれているようで情けないことこの上ない。
まるでペットと飼い主の立場が逆転したかのような、皮肉極まる光景だった。
「当然身体に教えこんでやるに決まってるだろ? 犬を苛めすぎると怒って噛み付かれるんだぜ。今までもっと俺に優しくしてあげれば良かったって後悔させてやるからな、琴里?」
「くっ……後で、覚えてなさい……!」
ちょっと目的を見失ってきたように思えるが、そんなことはどうでも良い。
屈辱に歯を食いしばっている琴里をあざ笑いながら、士道は傍らに落ちていた鞭を手に取った。
悪いことをしたのに反省しない生意気な妹におしおきをするため、そしてサディストの司令官様がどこまで強がりを保てるかをじっくり確かめさせてもらうために。
何かこの展開どこかで見たことがあるような……立場が逆転したところとか……。
次のお話は当然エロ話。どんなエロ話かって? それはもちろん……。
ちなみにソフトなプレイなので警告はいらないと思います。
……本音を言えば三■木■とか使ってヒィヒィ言わせたかったり……いえ、何でもないです……ノーマルです……。
更新停止期間の執筆状況の進捗はどれくらいの頻度で活動報告に載せるべきか
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1ヵ月
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2ヵ月
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3ヵ月