琴里テンプテイションの琴里視点のお話、プラス若干不穏なお話。
琴里の心情や行動理由を考えるのが宿題とか言っていたのはこれのせいです。宿題を提出してくれた人はいなかったけど……。
不本意ですがそろそろ期末テストに備えるので、次の投稿は二月頃になる予定です。
士道が七罪といかがわしい関係を結んでからというもの、琴里はずっと二人の様子をモニターしていた。
理由はもちろん、士道と肉体関係を結んだことで精霊の様子にどのような変化が訪れるかを知るためである。別に大好きなおにーちゃんがどんな風に他の女の子と愛し合っているかを知りたかったからとか、愛し合う光景をいかがわしいことに利用したりするためだとか、そんな馬鹿げた理由ではない。絶対に違う。
その関係に四糸乃が加わって(何故かまたロリである)からも、琴里は引き続きモニターを続けていた。
そして七罪との比較対象が現れたことで、二つの不審な点に気付いた。
一つ目は、士道は七罪と共に過ごしていると、頻繁かつ唐突に抑えがたいほどの性的な興奮を催すこと。それも何をするでもなく、ただ部屋で一緒に過ごしているだけでだ。七罪に比べると一緒に過ごす機会は少ないものの、同じ状況下では四糸乃に対してそんな反応は見せたことがない。
二つ目は、異常に性欲が増進した点だ。
七罪だけだった頃は週に二、三回の頻度でベッドを共にしていて、それに四糸乃が加わり週に四、五回の頻度となった。二、三回で満足していた頃のほぼ二倍の回数になったのだから、幾ら士道だろうとその内果てるだろうと琴里も予想していた。
ところが士道は予想を裏切って四、五回でも満足せず、週の残りまで七罪たちをたっぷり味わっていた。単純に考えれば士道の性欲は七罪の分プラス四糸乃の分、プラス残りの日の分でおよそ三倍になっている。四糸乃に対する性欲が別枠だとしても、残りの分がどこから出てきたのか全く見当がつかない。士道が果てるのを防ぐために食事に興奮剤でも混ぜようかと画策していたが、結局それすら必要は無かった。
七罪に対してのみ突発的に抱く性的興奮と、異常なまでの性欲の増進。
後者はともかくとして前者は少々問題があった。
確かに女にはそれぞれ異なる性的な魅力があり、男の方は求める性的な魅力に違いがある。七罪と四糸乃にも異なる魅力があることは納得できるものの、ここまで大きな差ができるほどの要素は百歩譲っても見当たらない。琴里を含めジャンルはロリであるし、バストについては……とりあえず関係ないことにしておく。
とにもかくにもそこまで大きな違いはないというのに、平等な愛を注ごうと心に決めているはずの士道が、七罪にだけ頻繁に興奮を催し性的な触れ合いを過剰に求めてしまっているのだ。
そこには間違いなく本人の意思意外の何らかの要因が介在している。
琴里は自分が士道との関係に加わってからも、事情を明かした唯一の相手である令音と共にずっとこの問題の原因を探っていた。
今日も今日とて、琴里は令音と共に原因の究明に勤しんでいた。
事情が事情なので情報が外部に決して漏れない、<フラクシナス>内でもかなり秘匿性の高い一室で行っている。
最初に行うのは新たな情報を確認して分析する作業だ。
昨夜の士道の部屋の様子をモニターに映し出し、琴里は令音と共に観察を始めた。
『――で、今日は一日中美九に連れ回されたってわけ……』
『ああ、何か疲れた顔してんなぁって思ったらそういうことか。嫌そうにしてるけど本当は結構楽しかったんじゃないのか?』
『まぁ、ちょっとは……でも、士道がいればもっと楽しかったと思う……』
『っ……お前、結構胸に来ること言うようになったよな……』
『そ、そう……?』
モニターに映し出されたのはベッドに腰かけ肩を寄せ合い、その日の出来事を語り合う二人の姿だ。
程度の差こそあれ互いに頬を染め、とても良い雰囲気を醸し出している。
互いに心を許していることが伝わってくる実に心温まる光景だ。
『……っ』
『士道……?』
だがそんな微笑ましい光景もここまで。
何の前触れもなく落ち着きを失くした士道が、七罪にちらちらとやらしい視線を向け始めた。
それに気付いたらしい七罪が不安そうに頬を引きつらせ、若干士道から距離を取る。
『ねえ、ちょっと……もしかして、興奮してるわけじゃないわよね……?』
『いや、その……』
『じょ、冗談でしょ? 何で突然そんな……』
突然すぎる興奮を催している士道についていけないのか、冷や汗を流している七罪。
『俺にも分かんねぇけど……駄目だ、我慢できそうにない……!』
『ひゃっ!? ちょ、士道!? 今ここでする気!? 琴里の話忘れたわけじゃないわよね!?』
辛抱堪らなくなったらしい士道が七罪を押し倒す。
七罪はじたばたと暴れて士道に正気を取り戻させようとしているが、無駄な抵抗なのは明白だった。
『……悪い、七罪。今そういうことどうでも良い……』
『ギャーッ! 助けて琴里ぃぃぃぃぃ!』
琴里に助けを乞いつつも若干満更でもなさそうな顔をしている七罪の姿を最後に、映像はブラックアウトした。
「……どうやら危惧した通りの結果になったようだね」
「ええ、とうとうその場で発散しないと耐えられないレベルにまでなったわね……」
映像を視聴し終えて令音が口にした感想は、琴里も同じく抱いたものだった。
予想通り、士道が七罪に対して抱く突発的な興奮の強さが増している。
以前は何とか真夜中まで堪えていたものの、最早それすら不可能なようだ。
琴里が部屋に突入して士道の暴走している部分を蹴り上げて黙らせなければ、あの後七罪は最後まで身体を弄ばれていただろう。
「どうして七罪にばかりここまで興奮するのかしら……四糸乃と一緒にお風呂に入った時でもそこそこ耐えていたっていうのに……」
原因究明という正当な理由を持って覗いていたので知っているのだが、あの時は四糸乃にバスタオル一枚の姿で密着され、悩ましい喘ぎを耳にしてもギリギリで踏みとどまっていた。
だが今回の七罪との部屋でのワンシーンでは服も着てるし、精々肩を寄せ合っている程度の密着度合いだ。
七罪と四糸乃の立場が逆でも、興奮して歯止めが利かなくなる状況は間違いなく風呂場の方だろう。
やはり士道ではなく七罪に原因があると考えるのが妥当だ。
となると同時期に発生している性欲の増進の原因についても、同じく七罪にあるはずだ。
「……琴里、七罪が何かシンの興奮を煽るようなことをしているとは考えられないかい?」
「七罪が士道を誘惑してるってこと? それはどうかしら……七罪は性行為にあまり興味がないようだし……」
同じ結論に至ったらしい令音が突拍子も無い説を口にしてくる。
四糸乃もそうだが、七罪も愛情さえ感じさせてもらえば行為にはあまり趣を置かないタイプのはずだ。
一緒に過ごしているだけでもだいぶ満足しているようなので、自分から積極的に求めるとは考えづらい。
「……いや、興味がなくとも必要性があれば七罪もそういった行動を取るだろう。例えばシンの愛情を失ってしまわないように、という切実な理由があればね」
「まぁ、七罪ならそれはありえそうね……」
依存の度合いから考えても七罪が士道の愛を失うことを恐れているのは明白だ。
七罪だからこそ、それを防ぐためなら誘惑などという性に合わないことでも全力でやるだろう。
「だけど七罪が誘惑してると仮定しても、それは七罪にばかり襲い掛かることの原因にしかならないわ。士道の性欲が強まっていることとの関連性はどう説明するの?」
「……そちらはひとまず度外視して構わないだろう。七罪以外の誰かがシンを誘惑して、シンが同じ反応を示せば少なくとも原因の一つは特定できる。そもそも発生の時期が同じだけで関連性はないということも考えられるからね」
「なるほどね。誘惑してすぐに士道が襲ってくれば、関連性の有無もはっきりするってことね……」
問題の発生時期と強まった時期から考えると大いに関連性はありそうだが、あくまでもそう思えるだけだ。
実際には全く無関係で、原因が七罪にはないということも可能性としては十分にある。
それが確かめられるだけでも実験を行う価値はあるだろう。
「――って、ちょっと待って令音。一体誰が誘惑して確かめるの?」
実験の意義を理解した時、琴里は一つの問題に気付いた。
当然それを確かめるためには、士道に性的に襲われることを覚悟で誰かが誘惑しなければならないということだ。
「……君しかいないだろう?」
「わ、私!? 私が士道を誘惑するっていうの!?」
小首を傾げて当然といった顔で答える令音に、琴里も流石に驚きと羞恥を禁じえなかった。
しかし令音の言う通り琴里が適任なのは確かだ。
まさか事情を説明して四糸乃にやらせるわけにもいかないし、他の精霊にやらせるのも論外だ。
つまるところ琴里がやるしかない。
性的に襲われて体を重ね、激しく愛し合うのも覚悟でやるしかない。
「た、確かに適任なのは私だけね。良いわ、原因を確かめるためにやってあげようじゃない。全く、仕方ないわね……」
他に方法が無いので仕方なく琴里がやることにした。
士道に襲われて熱い一時を過ごすことになっても、それは琴里が意図したことではない。
その際互いに愛情と快感を存分に心行くまで味わうことになっても、決して琴里の本意ではないのだ。
実に役得――ではなく、損な役回りである。本当に損だ。
「……頼んだよ、琴里。良い機会なのだからシンと二人でゆっくり過ごすと良い」
「っ……」
さりげなく付け足された思いやり溢れる令音の言葉。
実験の目的を履き違えているとしか思えない言葉だったが、不意に胸の鼓動が高鳴った戸惑いのせいで琴里は何も言えなかった。
「ちょっと邪魔するわよ、士道」
「うおおっ!?」
琴里が部屋の扉を開けると、ネットで何やら調べものをしていたらしい士道が変な声を上げて飛び上がった。
そんな間抜けな反応は無視して素通りし、ベッドへと腰掛ける。
少し周りの匂いに意識を凝らしてみるも、特に海産物のような鼻をつく匂いはしてこなかった。
今夜はまだ抑えられないほどの興奮を抱いてはいないということなのだろう。
部屋に一人でいるなら発散する方法は一つしかなく、必ずその証拠が残るからだ。
「お、脅かすなよ、琴里……心臓飛び出るかと思ったぞ」
「別に脅かしたつもりはないわ。どうせやましいことをしてたからビビったんでしょう?」
「う、うるせぇ!」
胸の辺りを押さえつつ文句を言ってくる士道。
琴里の指摘は図星だったようで一瞬眉を寄せて言葉に詰まっていた。
まぁ七罪たちのために何か知識や技術を身につけるのが目的のはずなので、特に追求はしないでおいた。
琴里としても事前に知ってしまうと士道にされる時に喜びが少し薄れ――ではなく、つまらなくなってしまう。
「ま、それはあなたの勝手だけど履歴くらいは消しておきなさいよ。また七罪にでも見つかったら堪らないわ」
「わ、分かってるってそんなこと……」
取り出した飴の包装を解いて口に加えつつ念を押しておく。
今の七罪ならそれを見ても激しく感情が揺れ動くことはないだろうが、万が一ということもある。
例えば士道がロリではなく大人のお姉さんのジャンルのものを見ていたとしたら、受け入れたとしても内心は相当面白くないだろう。
琴里というものが――もとい、七罪たちというものがありながらそんなジャンルのAVやエロ画像に現を抜かすようなら地獄を見せてやるしかない。
「前にも聞いたけど七罪たちとの関係は上手くいってるのかしら? 何か問題や悩みがあるなら話してみなさい」
ベッドに横になってリラックスしながら尋ねてみる琴里。
まだ実験は開始しているわけではないものの、女がベッドに横たわって自分を見ているのだから男にとってはそれなりに胸にくるものがあるはずだ。
しかし士道は話をするためにこちらを向いただけで、特にそれ以上の様子の変化を見せなかった。
これではまだ刺激が足りないようだ。
「問題、って言うほどのものじゃないんだけどさ、どうも最近何の前触れもなく興奮しちまうんだよ。それに変に性欲が高まってるっていうか……これって何か変な病気とかじゃないよな?」
どうやら士道自身も流石におかしいと気付いていたらしい。
ただ口振りから察すると七罪がいる時のみという唐突な興奮を抱く状況には気付いていないようだ。
毎晩のように七罪と部屋で過ごすのが当たり前になっているせいで、七罪に関係があるという発想が出てこないのだろう。
「心配いらないわ、士道。年端もいかない女の子三人に手を出してる時点で、あなたは立派な病気よ」
「……そうだな。もうすでに病気だったな……」
「まぁ仮に病気だとしても治す必要はないわ。あなたが四六時中発情してるからこそ、毎晩七罪たちを深く愛してやれるんじゃない。あなたが萎えたら七罪たちは飽きられたと思ってさぞかし落ち込むでしょうね」
何せ今現在の士道の性生活は七罪、四糸乃、琴里の三人合わせて週六回だ。
士道が見舞われている性欲の増進がなければ、この性生活を続けられたのかは甚だ疑問である。
「そ、それはまぁ、そうなんだけどな……ちょっと不安になるっていうか……」
「心配性ねぇ……ま、良いわ。そんなに心配なら後で<フラクシナス>に来なさい。何か身体に異常がないか精密検査させるから」
「いや、別にそこまでしなくても良いんじゃねぇか……?」
「あら、それくらいは必要だと思うけど。あなたが唐突に理性を失くして欲望のままに行動し始めたら一体どうするのよ? 他の精霊ならともかく、道行く女子供に襲い掛かったら大変でしょう?」
「流石にそれはねえよ! ……ないと思うぞ……たぶん……」
あろうことか百パーセントの自信はないようだ。
これは放っておいたらいつか本当にやらかすかもしれないので、早急に原因を解明するか頻繁に発散させてやる必要があるだろう。
七罪たちには変わらず愛情を感じさせてやる必要があるので、発散させる役目は琴里が担うしかない。
全く損な役回りである。一日に何度も士道と身体を重ねなければいけないことを思うと、堪らなく嬉しい――というのはジョークである。
「――ああ、襲うで思い出したけど、もう部屋の中でセックスしても平気よ。あなたの部屋にそのための処理を色々と施しておいたから」
琴里は頭の中から笑えないジョーク(あくまでもジョーク)を追い出し、その発散ができるという現状を士道に伝えた。
「いつのまにそんなこと……それはともかく、具体的にどんな処理したんだ?」
「まずは音と震動の遮断ね。ジェット機の離陸音だろうと削岩機の衝撃だろうと、外部にも階下にも一切漏れないようにしてあるわ。窓はマジックミラーにしてあるから、灯りをつけてカーテンを開けたままでも存分にヤれるわよ。それからドアも力付くでは――まぁ、壊す気でやれば開くでしょうけど――簡単には開けられないようにして、生体認証による鍵もつけておいたわ」
要するに部屋の中でどれだけ激しいセックスを繰り広げ、感情のままに声を上げようと問題がないように処置したのだ。
これで士道が欲望のままに襲いかかってこようと問題無いし、何を気にすることもなく更に熱く激しく士道と愛し合うことができる。
念のために補足するとどちらも七罪の話である。琴里の話ではない。
「明らかにやりすぎだろ……どういう状況想定してんだよ……」
「あなたがわき目も振らずに部屋の中でセックスに励む状況に決まってるじゃない。何なら……今ここでその状況を再現してみる?」
この場で琴里に襲い掛かろうと問題がないことを伝えたので、そろそろ実験を始めることにした。
仰向けになったまま手足を伸ばし、さしずめ手首を縛られて宙吊りにされているような姿を取る。
その状態で士道に向けて挑発するように唇の端を吊り上げ軽く微笑む。
琴里に対して日頃から鬱憤の堪っている士道なら、これだけでもう襲い掛かってくるだろう。琴里は半ば確信していた。
「そんな理由でやったりはしねぇよ。それにお前が大丈夫だって言うんだからわざわざ確かめる必要もないしな」
「ふぅん……そう……」
だがムカつくことに士道は何の反応も示さなかった。
琴里に対して大きな信頼を抱いているようだが、今抱いて欲しい感情はそれではない。
もっと今の琴里に対して男として催すべき感情があるはずだ。
「ま、あなたにそういう気がないならやらせても大丈夫そうね。士道、ちょっとマッサージでもしなさい。あなたのせいで仕事が山積みだから疲れたわ」
疲れ果てたような溜息をあえて大げさに零し、士道の注意を引く。
そして士道が自分を見ていることを確かめてから、あえてスカートが捲れるような形で寝返りを打ってうつ伏せとなる。
今琴里が身に着けている下着は大人の色香漂う黒いレースのブツ、それもビキニもかくやというほどの露出を誇るローライズの下着だ。
頭の中に煩悩のお花畑が広がっている士道なら、これをチラリと見せれば養分は十分だろう。
「仕方ねえなぁ……まぁ、俺のせいなのは確かだからな。そんなに疲れてるならやってやるよ」
しかし士道は一瞬だけ目を見開いたものの、反応はそれだけ。
興奮に息を荒げるでもなく呆れたような溜息をついている。
どうやら今日はあまり興奮しない日か、知らぬ間に発散していたようだ。
そうでもなければ日頃の鬱憤を晴らす機会を虎視眈々と狙っている士道が、琴里の無防備極まる姿を無視するわけがない。
「あら、ずいぶん素直ね。言っておくけど、これで賭けがチャラになるわけじゃないわよ」
「ちっ、やっぱりな……」
スプリングを微かに軋ませベッドに上がってくる士道。
琴里はうつ伏せになっているので士道の身体の下に組み敷かれ、跨られているような体勢になっているはずだ。
少し屈辱的な体勢だが実験のために必要なことなので耐えるしかない。
「で、どの辺をマッサージして欲しいんだ?」
「そうね、まずは背中のあたりを頼むわ。背骨にそって首のあたりからゆっくりやりなさい」
「やっぱり命令してるじゃねぇか。いつものことだけどさ……」
「んっ……」
毒づきつつも素直に琴里の首元へと指を押し当ててくる士道。
感触に少し驚き声を漏らしてしまったものの、所詮は首元に触れられているだけだ。
二、三回指を軽く沈められると慣れてきたので、身体の力を抜いて身を委ねる。
これで士道が襲ってこなくともマッサージを堪能できるし、襲ってくれば問題解決の糸口が掴める。
どちらに転んでも琴里には嬉しい限りだ。ただし後者はあくまでも問題解決の糸口が掴めることが嬉しい。
「……力が足りないわ。もうちょっと強くしなさい」
「これくらいか……!」
「んっ……! え、ええ、ちょうど良いわ……っあ……!」
もっと指先に力を込めさせ、琴里はわざととても気持ち良さそうな喘ぎを零した。
女の肌の感触と温もりを感じさせ、そして悩ましい喘ぎ声を聞かせる。
万年発情期の士道ならここまですれば間違いなく襲ってくるからだ。
それも普段士道にきつく当たっている琴里が士道の手によって喘がされている形になっているのだから、隠れサディストの士道なら堪らない優越感に浸れることだろう。
「あっ……! そ、そう……そこよ……っ、あ……!」
しかし士道は襲う素振りを見せず、ただ従順にマッサージを続けている。
七罪の時は肩を寄せ合った程度で襲い始めていたというのに、琴里が恥を忍んでここまでやっても襲ってこない。
つまり七罪は誘惑などしていないのだろう。
しかし誘惑云々を別にしても襲われないというのは、琴里が七罪に女として劣っているようではないか。
七罪を貶めるわけではないが、それはちょっと……いや、かなり悔しかった。
「……背中はもう良いわ。次は太股の辺りをお願い」
「あ、ああ。分かった……」
この時点で七罪による誘惑説は消えたのでもう実験を続ける意味は無いが、琴里にも女としてのプライドがある。
もう何が何でも士道が自分を襲ってくるよう仕向けることにした。
あくまでもプライドの問題で決して欲求不満になってきたとか、士道と身体を重ねて愛し合いたいからとかではない。決して。
手段も選ばないことにした琴里は、士道に太股のマッサージを命じた。
「こ、この辺か……?」
「っ……え、ええ……」
太股に触れる指の繊細な動きに愛撫を彷彿とさせられ、一瞬息を呑んでしまう琴里。
マッサージに乗じて快楽攻めでも行おうとしているのかと思いきや、指を動かす動作は繊細というよりもおっかなびっくりという感じなので少し残念だった。残念というのは快楽に耽ることができないからであって、別に士道に攻められたかったからとかそういう意味ではない。
しかし動作が怯え気味ということは、抑え込んでいるだけで感じるべき情動は感じているらしい。
てっきり何も感じていないのではないかと少し心配になっていたので、琴里としても微笑みが零れるくらいには一安心だった。
「ふぅ……なかなか上手いじゃない。その調子で少しずつ上に行きなさい。腰の辺りまで」
「お、おい、少しずつ上って……」
「今更あなたに尻を揉まれたくらいで動じるとでも思ってるの? 良いからとっとやりなさい。手が止まってるわよ」
「……」
太股では少々刺激が少ないので更に踏み込む。
義理でも兄にのしかかられてお尻を揉まれるなど相当な恥辱であるが、女のプライドがかかっているのでそれくらいはやむを得ない。
決して辱められたいとか屈辱を噛み締めるのが好きだとか、そういう馬鹿げた理由ではない。
「ぁ……!」
スカートの上からお尻に指をそっと押し当てられたところで、再び喘ぎ声を零す。
今の所わざと喘いでいるが、意外なことに士道のマッサージはそれなりに気持ちが良い。
おっかなびっくりでなければ琴里を本当に喘がせることもできたかもしれない。
「ぁ……そ、そうよ……その辺……っあ……!」
お尻から腰元にかけてのマッサージにたっぷり感じているような喘ぎを零し続けていると、不意に士道の指が腰元に凄まじい疼きを生じさせ、その感覚に本当に喘いでしまった。
刺激されるたびに性的なものではない強い快感が溢れ、全身にくまなく広がっていく。
自分では気付けなかったが腰の辺りに疲労が溜まっていたらしい。
たぶん原因はやたら激しいのがお好みの士道のせいだろう。
仮にも妹を腰が駄目になるまで攻めるとは全く最低なケダモノだ。
「あっ、あぁ……! そ、そう……! そ、そこ……っ、うぁ……!」
「ここか? ん……少し硬くなってる気がするな……」
「う、あぁ……! そ、そのまま……もう、少し、強く……あぁっ……!」
腰を圧迫する強さが増すほどに刺激も強まり、その激しさに身体が火照ってくる。
悔しいがかなり上手いマッサージだ。
少し刺激されるだけでも途轍もない痺れを感じるほどにこっているのが原因だが、士道の指の動きから怯えが消えているのも原因の一つに違いない。
たぶん琴里が誘惑に集中できなくなったせいで、士道はこれがただのマッサージだということを認識してしまったのだろう。
なかなか気持ち良くて気分も悪くはないが、このままでは琴里の女としてのプライドが踏みにじられたままなので誘惑を再開しなければならない。
少しの間だけマッサージを堪能した琴里は、身を起して思いのほか熱い吐息を零した。
「ふぅ……もう良いわ、士道。思いのほか楽になったわ。ありがとう」
「お前が素直に礼を言うなんてよっぽど凝ってたんだな……」
「ええ、一体誰のせいなのかしらね」
不覚にも肌がうっすらと汗ばむほどに感じてしまったが、これは都合が良い。
汗を流せば過剰にフェロモンが分泌されるので、異性の劣情を刺激するにはもってこいだ。
琴里はツインテールの位置を戻すのを装い勢い良く首を振り、香りが染み込んでいるであろう毛先で士道の頬を叩こうとした。
「……っ!」
しかしペシッという音は上がらず、背後からは息を呑む音だけが聞こえた。
叩くのは失敗したようだが狙い通り劣情は刺激できたようだ。
振り返ってみると若干顔を赤くした士道が、湧き上がる感情を堪えるように眉を寄せて瞳を鋭くしている。
「あら、何よその不満そうな顔は? ご褒美でも期待してたの?」
「いや、別に期待なんてしてねぇよ。お前がこの程度のことでそんなものくれるわけないからな」
「ふぅん……そこまで言われると私の沽券に関わるわね。仕方ないからとびきりのご褒美を上げるわ。こっちにきなさい」
琴里は人差し指でちょいちょい招いて士道を誘った。
本来ならこの程度のことでご褒美など与えないが今回は特別だ。
とびきりのご褒美という名の最大級の誘惑を以って、確実に士道の理性を破壊する。
これをやっても士道が襲ってこなければ、琴里の女としてのプライドはズタズタである。
「……先に言っとくけど俺にとって痛いのはご褒美じゃないからな」
「心配しなくてもこれは間違いなくご褒美よ。喜びに咽び泣きながら受け取りなさい」
「っ!?」
肩が触れ合う程度の距離まで士道が近寄ってきたところで、琴里はその胸倉を掴んで強引に引き寄せ――
「――っ」
――口付けという名のご褒美を与えてやった。
「っ……は……ちゅ……ぁ……!」
不意の出来事に固まっている士道の唇に舌先を滑り込ませ、締上げるように舌を絡めてやる。
そして口の中に残る苺味の余韻を注ぎ込んでやり、文字通りの甘く蕩けるようなキスを演出していく。
情熱的な口付けと喉の奥へと流し込まれる甘みに、士道もさぞ興奮していることだろう。
だが琴里の方も胸の奥に燃え上がるような熱さを感じ始めていた。
恐らくあまりにも情熱的な口付けを演出しているせいで、皮肉にも自分の口付けに酔ってしまっているのだろう。そうに違いない。
「ぁ……」
胸の奥に生じる正体不明の熱さが燃え上がる前に口付けを終える。
互いの舌先から糸を引く桃色の唾液に切なさを感じてしまうも、何とか衝動を押し殺して不適な微笑みを形作った。
ここまでやればもう士道も堪えられないだろう。
襲われても冷静に受け入れられるよう、琴里は心の準備を終えてから口を開いた。
「……ど、どうかしら? あなたにとっては最高のご褒美でしょう?」
「……ああ。思った以上に最高のご褒美だ。ありがたく受け取っとくよ、琴里」
「……っ」
しかし驚くべきことに士道は琴里の最大級の誘惑を乗り切った。
先入観なく受け取れば、琴里にとってもいっそ魅力的な微笑みすら浮かべて。
ただし驚きに開いた口が塞がらなかった琴里が本当に抱いた感想は、燃え上がるような怒りと屈辱。
だが今の琴里は強い琴里なので、感情的に怒りを爆発させるなどという幼稚なことはしない。
爆発させないよう胸の中に強引に抑え込み、冷静に対処することにした。
「ん? おい、琴里、どうし――あ」
士道が何かグダグダ言っていたが無視して部屋を出る。
女があからさまに誘っているに何の行動も起さないとは、据え膳食わぬは男の恥という言葉を知らないのだろうか。
まぁすでに幼い少女三人の純潔を奪って生き恥を晒している士道のことなので、知らないということも十分あり得るだろう。
知らないのなら理解できるまでたっぷり教えてやるのが、妹としての、そして司令官としての琴里の使命だ。
「私が恥を忍んであれだけ誘惑してやったっていうのに……この屈辱、どうしてくれようかしら……」
士道を教育するのに必要な道具を幾つか見繕うために、自分の部屋へと戻る。
やはりどこまでも鈍い士道には身体に刻み付けて教えてやるのが一番効果的だ。それもたっぷり痛みを与えて。
最もそれに適したプレイを行うために、琴里はオーソドックスな鞭や手錠の用意を始めた。
「……それにしても、誘惑されていないのなら何故七罪にばかり興奮するのかしら……」
ふと当初の目的を思い出し、その結果について考える琴里。
妄想で自家発電でもしていない限り、絶対に何らかの外的要因がきっかけとして興奮が引き起こされているはずだ。
つまりは視覚や聴覚、触覚といった五感に対しての刺激だ。
だからこそ琴里も士道の五感全てに対して刺激を加えたのだが、結果はこの有様である。
五感への刺激によって引き起こされた興奮で無いのなら、士道は一体どのような理由で興奮しているのだろうか。
「……まぁ考えるのは後ね。今は女の誘いに気付かない朴念仁の士道に教育を施す時間だわ」
仮に七罪や四糸乃がちょっと欲求不満になって恥らいに耐えつつアプローチをしてきた時、それに気づかないというのは最低最悪の反応だ。
その結果二人の精神状態が乱れるかもしれないことを考えると、何としてでも今の内に士道を教育しなければならない。
大体それを置いても琴里のプライドが黙っていない。
心の準備までしたというのに結局襲われなかったのだから、最早プライドは完膚なきまでにズタズタに引き裂かれた。
この傷を癒すには胸の中で荒れ狂う怒りを士道にぶつけるか、あるいは――
「……ま、まぁ……もう一度だけチャンスを与えるのも悪くないわね……」
――あの初めての夜のように復讐に走らせ、今度こそ襲ってもらうしかない。
ただしこれはあくまでもプライドを癒すためなので他意はない。
決して欲求不満になってきたからとか、鞭と手錠を見て心の奥で何らかのアブノーマルな欲求が湧き上がってきたからとかではない。
琴里は手錠のチェーンの一部分にニッパーで綺麗な切込みを入れると、相当な力を込めないと外れないことをしっかり確認した。
少なくとも士道が琴里の責め苦に怒りを抱き、全力で外そうともがかなければ外れることは無いだろう。
「さて、どうなるかしらね。私が襲うか、それとも私が襲われるか……」
細工をした手錠と普通の手錠、それに短めの鞭を持って士道の部屋へと向かう琴里。
琴里が士道を手錠で拘束し、嗜虐心と怒り狂う心が満たされるまで鞭と言葉で徹底的に教育するか。
あるいは琴里を手錠で拘束し返した士道が、鞭と言葉で徹底的に報復を行って琴里の女としてのプライドを癒してくれるか。
「……私の期待に応えてくれることを願ってるわ、おにーちゃん」
思わず口をついて出てきたその言葉は、確かに琴里自身が口にしたもの。
しかし自分が本当はどちらを期待しているのかは、琴里自身にも判断がつかなかった。
期待している方が分からないなら、転んだ方を期待していたということにすれば良いだろう。
だからどちらに転ぼうと心行くまで素直に楽しむことを決めた琴里は、何故か緩んでしまう頬を全力で引き締めつつ士道の部屋へと足を踏み入れた。
「――収穫はそのくらいね。全く、まだお尻がヒリヒリするわ……」
翌日、琴里は令音と実験の結果を共有するために再び<フラクシナス>の一室へと赴いた。
報告ではなく共有なのは、あの実験を令音に観察してもらっていたからだ。
観察を頼んだのは見られると興奮するタイプだからだとか危ない理由ではなく、単純に実験結果の信頼性をより高めるために仕方なくだ。
実験対象である士道に琴里自ら実験を行うことで得られた情報だけでは、情報の精度に多少偏りがある。
だからこそ第三者である令音に外部から観察してもらい、更に多くの情報を集めているのだ。
「令音、そっちは何か掴めた? 手酷くやられた甲斐があると、私としては嬉しいんだけど……」
士道に酷く痛めつけられたお尻を摩りながら琴里は尋ねる。
ここまで女の子を痛めつけるとはやはり士道は最低のクズだ。
琴里があれだけ嫌がったにも関わらず強引にSMプレイを行うとはクズの極みである。琴里があれだけ嫌がったというのに。
「……ふむ」
琴里の質問に対して令音は何の反応も見せず、眠そうな瞳を伏せて黙り込んでいる。
無視したわけではなく自身が得た情報と琴里が得た情報を頭の中で照らし合わせているのだろう。
何か糸口を掴んでくれるかもしれないので、琴里は令音が口を開くまで待った。
「……そうだ、相性が良ければ………しかしあれほど強い興奮を生じさせるには……いや、所詮は分泌物……七罪ならあるいは……」
「令音……? まさか原因が分かったの!?」
やがて令音が口にした言葉は、琴里に聞かせるためというよりも自身の考えを纏めるための独り言に近いもの。
だがその断片的な言葉だけでも、令音が真相に気付いたことだけは琴里にも分かった。
気付かないまでも確実に真相に近づいたことを思わせるほどに、令音の表情は真剣味をおびていた。
「……琴里。もしかするとこの問題は私たちの想像以上に根が深いものかもしれない」
「……悪い話になる、ってことね」
琴里は令音のただならぬ様子に気を引き締めた。
未だ事情は分からないが、令音が真剣に口にするからには間違いなくそういった話になる。
「……ああ。まだ仮説だが、これが正しければ恐らく七罪には酷な話になるだろうね」
「そう……それを本人に聞かせるかは後々考えましょう。聞かせて、令音。あなたの考えを」
「……ああ。恐らく真の原因は――」
令音の口から紡がれたとある仮説。
それは少々突飛な仮説であり、同時に酷く胸の痛む仮説だった。
最後まで話を聞き終えた時、琴里は同情にも似た感情と共に心の底から願った。
できればこれは、七罪が意図してやっていることであって欲しいと。
何やら不穏な終わり方……次回も非エロ話(この問題についての)です。
一応今までのお話に伏線っぽいものは散りばめてありますが、どうも上手くいった気がしません。伏線仕込むの下手だな……もっと練習しないと。
ちょっとこじつけっぽい原因なのではっきり分かった人は本当に凄い。
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