原作のタイトルにデートって入ってるのに、23話目にしてようやくデート……しかもこのデート明らかにまともじゃないという……。
四糸乃と言えば画集の描き下ろしイラストの四糸乃のエロさに鼻血を吹きかけました。その上生粋のドSであるはずの私が思わず「椅子になりたい」とか本気で思ってしまったという……持ってる人はどのイラストのことか分かるはず……。
七罪のフェロモンについての問題が一応の解決を迎えてから数日。
間にはクリスマスという大きな行事があり色々あったのだが、それについては諸般の事情により語ることができないので脇に置いておく。
やはり琴里も必要性を感じていたのか、七罪を五河家に引越しさせ共に暮らすことにすんなりオーケーを出してくれた。
他の精霊へ伝える表向きの理由も七罪だからこそ精神状態安定のためで不審に思われないはずなので、士道がすべきことはやはり面倒を見てやることくらいだ。
ただし今現在は同棲について改めて考え直させて欲しいとのことで、未だ七罪は五河家に移っていない。
どうもあの時は強い幸福感に酔って判断力や羞恥心が低下していたらしく、正常な判断ができていなかったらしい。
まぁ冷静に戻ったとはいえ満更でもなさそうだったので、時間はかかっても同じ結論に至るのだろう。
そんなわけで士道は七罪が自分で答えを出すまで気長に待ちながら、性的な意味で琴里を襲ったり逆に襲われたりしつつ、他の精霊とデートしたり遊んだりするという傍から見ると実にけしからん日々を送っている。
もちろん心のオアシスたる四糸乃を慈しみ愛でることも日常の一部。
その証拠に今日は四糸乃(と『よしのん』)と仲睦まじくデート中だ。
一緒に映画を観るために映画館を訪れ、劇場への入場開始を今か今かと待っている。
あまり目立たない映画館の端の方で、長椅子に二人で腰かけ寄り添い――
「……っ……ぅ……!」
――縮こまって身体を固くしている四糸乃のお尻を、コートの上から撫でながら。
もちろん何をやらかしているのかは誰に言われずとも士道自身が一番良く分かっている。
七罪のフェロモンによって素の性欲が凄まじく増進させられてはいるとはいえ、公共の場で発情して見境なく手を出してしまうほど落ちぶれたわけではない。
本当はこんな四糸乃を辱める真似などしたくないが、やらなければいけないのだ。
『――その調子よ、士道。たっぷり撫で回したら鷲掴みにして揉んでやりなさい。あなたが私の胸を攻めるように激しく、嫌らしくね』
「……覚えてろよ、琴里……!」
四糸乃に聞こえてしまわないよう、士道は必死に怒りと声量を抑えつつ恨み言を零した。
耳に付けたインカムの向こうから愉快な笑いを隠そうともせずに命じてくる、ドSの本領を遺憾なく発揮した琴里に。
「士道、明日は四糸乃とデートしなさい。そしてデートの最中に徹底的に性的なイタズラをして四糸乃を辱めなさい。俗に言う痴漢ってやつね」
「で、デートでイタズラ!?」
全ての始まりは前日の夜。
いつも通り士道の元を訪れ一緒に過ごしていた七罪が帰宅するなり、それを待っていたかのように琴里が部屋へ踏み込んできて何の前置きもなく言い放ったのだ。
ちなみに七罪は忘れずフェロモンを抑える薬を飲んでいるので、発情させられることもなく今夜も平穏無事に一緒に過ごすことができた。
望みどおりの穏やかな時間が過ごせるようになり、最近は七罪もだいぶ満ち足りた様子だ。常時不機嫌そうな目付きのせいで傍目からは誤差の範囲程度にしか見えないだろうが。
しかし今は七罪の話よりももっと重要で訳の分からない話がある。
「周りにバレなければ何しても構わないし、何を強制させても構わないわ。キスから青姦まであなたの自由よ。思うが侭に欲望をぶつけなさい」
「何でよりにもよって四糸乃に外でイタズラなんてしないといけねぇんだよ!? 誰がやるかそんなこと!」
はっきりきっぱりと一瞬の迷いもなく拒否する士道。
野外で楽しめるようなひん曲がった性癖は持ち合わせていないし、仮に持っていたとしても四糸乃相手には絶対行いたくない。
四糸乃を公共の場で辱めるなど神に反逆するにも等しい大罪である。
まぁ琴里相手なら辱めの一つの手段として候補に入れなくも無いので、多少は躊躇ったかもしれないが。
「そもそも痴漢って……たぶん四糸乃は外でも軽く触るくらいなら許してくれるだろうし、それは痴漢って言わないんじゃねぇか?」
「確かに四糸乃ならそれくらいは受け入れてくれるでしょうね。だけど、それ以上の行為はどうだと思う?」
「それ以上って……いくら四糸乃でもさすがにそれは嫌がるに決まってるだろ」
平常時は若干羞恥が薄い四糸乃でも、公共の場でお触りを上回る行為は嫌がるだろう。
とはいえ四糸乃が士道を嫌がるシーンはちょっと想像し難い。
ぷるぷると震えながら涙目で首を小さく横に振るような感じだろうか。
想像だけでも庇護欲と罪悪感を刺激するような胸に来るものがある姿だ。しかしちょっと見てみたい気もする。
「それはやってみないと分からないでしょう。だからどんな反応を示すかちょっと確かめてみない? 身体を弄るあなたの手を嫌がり拒むか、何をしても受け入れてくれるかどうかを、ね。あなたも結構気になるんじゃない? 公衆の面前で四糸乃がどこまで従順かつ性的に尽くしてくれるか」
「そ、それは確かに気になるけど……そんな四糸乃の愛を試すような真似できるわけないだろ」
「ふぅん、愛を試すことはしたくないってわけ。3Pやらせた奴がそんな台詞口にしてもねぇ……」
「ぐっ……」
大げさに肩をすくめ指摘する琴里に反論できず言葉に詰まる士道。
確かにそんな奴が誠実な言葉をいくら口に出そうとも説得力が微塵も無い。
しかしそもそも士道は3Pをやらせて欲しいとは一言も言ってないし、提案とお膳立てをしたのは間違いなく『よしのん』だ。
それに今思うと裸エプロン姿の七罪と四糸乃に欲情して襲い掛かってしまったのも、恐らくは七罪のフェロモンによって異常に興奮してしまったせいなのだろう。七罪に殴られて気絶した後、意識を取り戻した時に感じた匂いで興奮させられたことを良く覚えている。
とはいえどんな理由があろうとも遠慮なく3Pをやらせてもらった事実は消えない。
実は3Pがアレ一度きりだという事実も誠実さの証明にはなりそうもなかった。
「と、とにかくそんなことしないからな。お前ならともかく四糸乃にそんな酷いことできねぇよ」
「そう、残念ね。素直に従うならあなたの自由に痴漢させてあげようと思ったけど、これじゃあ強制させるしかないわね。決して逆らうことの許されない、絶対的な命令で」
「っ! お、お前、まさか……!」
妙に強調された命令という言葉で、はっきりと琴里の考えが読めた。
てっきり打ち消すような形で使われると思っていたので完全に油断していた。
士道が意図を理解したことが反応から分かったらしく、満足気な笑みを浮かべて琴里は無情に言葉を続けていく。
「賭けの代償を支払ってもらう時が来たわ。命令よ、士道。明日は四糸乃とデートをしなさい。そしてそのデート中、私の命令どおりに動きなさい。どんなに理不尽で嫌らしくて背徳的な命令だろうと従ってもらうわ」
予想通り、琴里は命令権を行使してきた。
士道が四糸乃と一緒に入浴する時の賭けで勝利することで得た、どんな命令でも従わせることができるという権利を。まだ士道の方は使っていないというのに。
「命令は一つだけだろ!? 何でデート中ずっと操り人形みたいにならないといけねぇんだよ!?」
「あなたが渋るからいけないのよ。どうせ私が監視してその都度命令しないと、痴漢するどころか四糸乃を可愛がるだけで終わらせる気でしょうし」
「うっ……そ、そんなことないぜ……?」
完璧に図星だった。
当然だ。心のオアシスたる四糸乃は慈しみ愛でる対象である。
さすが長らく共に暮らしているだけある義妹。実に鋭い。
「て、ていうかそもそもどうして四糸乃を巻き込むんだよ。お前が辱めたいのは俺なんだろ?」
「ええ、その通りよ。あの初めての夜の屈辱、絶対に忘れるもんですか……」
唇を噛むどころか咥えた飴を噛み砕き、心底悔しげな顔をする琴里。
経験が無かったのだから仕方ないとはいえ、プライドの高い琴里は羞恥攻めに屈してしまったことが未だに我慢ならないらしい。
というか素直になっていない時の黒琴里は士道にされた全ての仕打ちが気に入らないらしい。
本心では全て受け入れるどころかむしろ喜んでねだっていたというのに、全く複雑極まりない心の持ち主である。
だがこうでなくては琴里ではないし、その分素直になった時の可愛さが際立つ。
「だけど冷静に考えてみると幼女三人の純潔を奪ってのうのうと生きていられるあなたを性的な方面で辱めることは難しいわ。だから発想を変えてあなたの大切な人を辱めることにしたってわけ。自分のせいで愛する人が辱めを受けることになれば、いくらあなたでも良心の呵責に苛まれて苦痛に感じるでしょう? そうよね?」
「本人に聞くなよ! ていうかよくもそんな最低な考えが浮かぶな!? 前から分かってたけどお前本当にドSだろ!」
「あなたがそれを言うの? とにかく逆らうことは許さないわ。あなたは私の命令に馬車馬のように従順に従い、四糸乃が泣いて音を上げるまで辱めればそれで良いのよ」
「こ、この野郎……!」
さすがに殴る気は絶対無いが、思わず拳を握って悔しさに打ち震えてしまう。
琴里の言う通り士道本人ではなく四糸乃を辱められる方が圧倒的にダメージが大きい。
純潔を奪ってしまったとはいえ変わらず清楚で無垢な四糸乃に対して、公衆の面前で性的な辱めを行うなど問答無用で地獄に叩き落されるべき所業である。
いくら賭けの結果だろうと何だろうと当然士道は断る気だった。
「ああ、言っておくけど断る方が代償は高くつくから。その時は私が直々に、四糸乃だけでなく七罪もたっぷり辱めてあなたの良心を大いに締め上げてやるわ。大人しく従った方が身のためよ。あなただけでなく四糸乃たちにとってもね」
「っ……!」
そんな考えを見透かしたようにニヤリと笑い付け加える琴里。
これでは例え断ることができたとしても四糸乃への辱めは無くならない。
それどころか七罪にまで琴里の魔の手が伸びるし、七罪が巻き込まれてしまうことによって四糸乃まで罪悪感に苛まれることになるだろう。
一瞬こちらが命令権を使って琴里の命令を打ち消すことも考えたが、結局四糸乃たちへの辱めが執行されることに変わりはない。
だが士道が罪悪感を全て一人で抱え込めば七罪は巻き込まれないし、四糸乃に罪悪感を覚えさせることも無い。
最初からいつも通り琴里の命令に従うほか選択肢はなかった。
「覚えてろよ、琴里……俺が命令する時も一日中操り人形になってもらうからな。絶対ただじゃすまさねぇぞ……!」
「ええ、楽しみに待っててあげるわ。あなたの心のオアシスをあなた自身が公衆の面前で辱める……ふふっ、明日は最高のデートになりそうね……」
エクスタシー寸前のぞくぞくする笑みを浮かべ熱っぽく呟く琴里に、士道は自分の無力さに歯を歯噛みしながら復讐を誓った。
こちらが命令する時は最早手加減一切なしで死ぬほど辱めてやる、と。
そして翌日、午前十時頃。
もうすぐ新年を迎えるためかどことなく浮かれた様子の人々が行きかう天宮駅前の広場で、対照的に士道は絶望的な気分で立ち尽くしていた。
理由はもちろん、これからデートの最中にいかがわしいイタズラをしなければならないというふざけた現実が待っているから。
それもイタズラを仕掛ける相手が四糸乃な上に、昨日のこともある。
琴里の指示通り昨日の内にデートの約束を取り付けるため四糸乃へ電話をしたのだが、返ってきたのは士道の予想以上に嬉しそうな返事だった。
携帯の向こうで四糸乃が溢れんばかりの笑みを浮かべていることが容易に想像できるほどだ。
デートを心から楽しみにしてくれている四糸乃に、デートにかこつけた愛を試すようなイタズラを人前で行わなければならないのだ。
こんな溜息しか出ない最悪の状況でデートを楽しむことなどできるわけがない。
『分かってるわね、士道。今日は私の指示通りに動きなさい。命令違反、不服従一回につき四糸乃と七罪への恥辱の回数が一回ずつ溜まっていくからそのつもりで』
「今日は、っていうか今日もだろ! 本当に覚えてろよ、琴里。絶対後で泣かせてやる……!」
おまけに今回のデートはサポートという名の監視つきだ。
ただしいつもの<フラクシナス>メンバーはおらず、監視を行うのは琴里のみらしい。
今回のデートの目的と矛盾しているようだが四糸乃に配慮したものなのかもしれない。
あるいは誰にも邪魔させず自分のやりたいように士道を苦しめ、ドS特有の興奮と優越感に存分に浸るためか……。
『おーい、士道くーん! お待たせー!』
改めて歪んだ復讐を心に誓っていると、聞き覚えのある愉快な声が近づいてきた。
目を向けてみればぶんぶんと小さな手を振る『よしのん』を左手に、ずいぶん慌てた様子の四糸乃が駆けてくる。
一体何をそんなに慌てているのか、士道の元へ辿りつくなりしばらく肩で息をして呼吸を整えていたほどだ。
「はぁっ……はぁっ……! あ、あの、士道さん……遅刻して、すみません……!」
「遅刻じゃないって。約束の時間通りだよ、四糸乃。俺も今来たばっかりだしな」
どうやら遅刻しそうだったから慌てて走ってきたらしい。
申し訳なさそうな顔で見上げてくる四糸乃ににっこり笑いかけ、デートでの常套句を口にしておく。
『おーう、デートでのこってこての決まり文句だねー。本当は何十分も前に来てたんでしょー?』
しかしそれを『よしのん』にあっさり見抜かれてしまう。
まぁ信じる人の方が少ないので見抜かれたという表現はどうかと思うが。
そして数少ない信じてくれる子であろう四糸乃の瞳が不安気に曇る。
「そう、なんですか……?」
「い、いや……本当に今来たばっかりで……」
『四糸乃と士道くんってそんなちっちゃなことで嘘をついちゃう関係なのかなー? よしのん的にはもっと遠慮のないふかーい関係だと思ったんだけど、気のせいだったのかなー?』
「う……」
特別な関係をほのめかしながら無い首を傾げて見せる『よしのん』。
これでは四糸乃の瞳が更に曇ってしまうのも仕方の無いことだった。
この程度の小さなことで嘘をついていては、一歩引いて壁を作っていると誤解されてもおかしくはない。
本当に四糸乃を愛しているなら正直に答えてあげるべきだろう。
「……ああ、本当は結構前に来てた。けど四糸乃が気にすることないからな。女の子をこんな寒い中で待たせるわけにはいかないし、四糸乃を待たせたくないから俺が早く来てただけだよ。今日は遅れちゃったみたいだけど、四糸乃だって俺を待たせたくないから早く出ようとしてくれたんじゃないのか?」
「は、はい……」
正直に答えてくれたことが嬉しかったのか、四糸乃の頬が僅かに緩む。
『ちなみに今日遅れちゃったのは時間ギリギリまでおしゃれに気を遣ってたからなんだよー。よしのんのおかげで今日の四糸乃のコーディネートはばっちりさ! まー、どこがどうとは言わないけどねー?』
そんな四糸乃の傍ら、『よしのん』が意味ありげな笑いを零す。
コーディネートと言っても、今の四糸乃は綿毛のような質感の紺色のコートにつばの無い同じ素材の帽子という素朴な装いだ。
コートの袖は指元が隠れるほど長く、裾に至っては膝よりも足首に近いほど長い。全体的にぶかぶかという印象だがむしろそれが四糸乃の愛らしさを引き立てている。帽子に巻かれたピンクのリボンもまた可愛らしい。
「遅れそうになるくらいおしゃれしてきてくれたのか。とっても似合ってるぞ、四糸乃。ここが人前じゃなかったら抱きしめてキスしたいくらい可愛いぜ」
「あ、ありがとうございます……士道さんがしたいなら、私は構いません……」
『ほら、四糸乃は構わないそうよ。やりたいなら遠慮なくどうぞ? そんな人目につくところでキスしたらどうなるか私も興味があるし。額はともかく唇にキスしたら通報されるかもしれないわね』
頬を染めて何でも受け入れるように答える四糸乃と、形的には耳元で囁きそそのかしてくる琴里。
四糸乃の気持ちは嬉しいのだが今回のデートの目的を思い出させられて士道としては複雑な気分だった。
「そ、そっか。けどそれは二人っきりの時にしような? さすがに四糸乃みたいな小さな女の子とキスしてるとこ人に見られるとヤバイしな……」
『士道くんヤバイことしてるって自覚はあるんだね。あ、もしかしてその背徳感が病みつきになっちゃってるとかー? 貧乳にロリにハーレムに背徳、あと義理の妹の琴里ちゃんとの近親相姦? 特殊な性癖いっぱい持ってるなー……』
『ああ、だから私のときはやたらと激しいのね。年端もいかない義理の妹に手を出す格別な背徳感の味を占めたわけ。この小児性愛精神異常性犯罪者』
「ちょっと盛りすぎだろ、それ!?」
二人して息の合ったタイミングで性癖を並べ立てる琴里と『よしのん』。
しかし二人の言葉の全てが全て間違っているわけではないのが何ともキツイ。
少なくとも士道の精神はまともなので精神異常ではないはずだが、自分をまともと評すること自体が少しおかしい気もする。
「ったく……いつまでもここにつっ立ってても寒いだけだからな。そろそろ行こうぜ、四糸乃?」
「はい、士道さん……」
「っ……」
四糸乃は小さく頷くと、ごくごく自然な動作で左隣へと身を寄せてきた。
そして言葉もなく右手を士道の左手に重ね、少し指を動かせば外れてしまいそうなほどの儚げな力で握ってくる。
こうするのが当たり前とでも言うような自然な所作でありながら、最終的には判断を相手に委ねる奥ゆかしさ。
まるで一歩下がって夫の後ろを歩む古式ゆかしいお嫁さんのようだ。
その欲を感じさせないあまりの慎ましさに狂おしくなるほど四糸乃が愛しくなってしまう。
もう今すぐぎゅっと抱きしめて頭を撫でながら耳元で愛を囁きたいくらいだ。
だがそれをこの場でやると通報されかねないので、今できることをやるしかない。
遠慮がちに握られた手を強く握り返し、指を絡めて繋ぎあう。
するとそれを待っていたかのように四糸乃の暖かい手に力がこもり握り返され、歩きにくくならない程度にぴったり身を寄せられる。
何故だろうか。手を繋いでいるだけだというのに、十二月終わり際の冷たい空気が心地よく感じられるほどに顔が熱くなってきてしまった。
「じゃ、じゃあ、行くか……」
「は、はい……」
妙なニヤニヤ笑いを顔に貼り付けた無言の『よしのん』から二人して目をそらし、四糸乃と歩調を合わせて歩き出す。
『……お熱いのは結構だけどこれからその雰囲気をぶち壊しに行くことをゆめゆめ忘れないことね。やらしい笑みを浮かべる暇があるなら心の中で懺悔でもしておいたらどう? それとも四糸乃に嫌われないことを祈れば?』
心地よい胸の高鳴りに浸っている所を、琴里に容赦なく引きずりだされる。
士道が良心の呵責に苛まれ苦しむ様をたっぷり眺め悦に浸りたい琴里としては、こんな幸せそうな状況は不要なのだろう。
しかし士道の僅かな幸せを打ち崩すための言葉だったというのに、かけられた言葉は愉悦に浸っているようには思えない声音だった。
不思議なことにどちらかと言えば、ご機嫌斜めという言葉が相応しかった。
今回のデートは映画館デート。
四糸乃と一緒に映画を観る――というのは表向きの目的だ。
真の目的は公共の場で四糸乃に性的なイタズラを働きどこまで行いを許容してくれるかを調べ、なおかつ士道に多大な精神的ダメージを与えること。
琴里が映画館を指定したのは映画の上映中に暗闇に乗じて色々やらせるつもりだからなのだろう。
全て分かっていても映画館に足を踏み入れ大人しく従うしかない自分の無力さに、士道は歯噛みして耐える他になかった。
『ねーねー、士道くん。今日はどんな映画見るのー? もの凄くエッチなやつ? いっぱいイケナイことするやつ? それとも家族と一緒に見るとお茶の間に気まずい空気が流れそうなやつ?』
「表現変えても全部同じだろ、それ」
映画館に足を踏み入れた時の第一声が『よしのん』のこれである。
気のせいか琴里だけでなく『よしのん』までもそういうイケナイ方向に持って行こうとしているように思える。
「期待に添えなくて悪いけどただのアクション映画だよ。つまらなかったらごめんな、四糸乃」
「い、いいえ。士道さんと一緒なら何を見ても楽しいです。それに、一緒にいられるだけでも……」
「そ、そっか……」
本心からそう思っているのだろう。
頬を染めつつも四糸乃は顔を綻ばせて無垢な微笑みを向けてくる。
その純粋で穢れの無い笑みは見ていると心の平穏を得られるのだが、今はこれから行う行為に対しての罪悪感のせいで直視できなかった。
「……ちなみに何でアクション映画なんだ? こういう時って普通恋愛映画が定番じゃないのか?」
『普通のデートなら確かにあなたの言う通りね。だけど今回は四糸乃を辱めるのが目的のデートなのよ? アクション映画なら大音量で派手にドンパチやるから、劇場内で多少声を上げても周りには聞こえ辛いって利点があるわ』
「おい!? 四糸乃が声を上げるようなことやらせる気かお前!?」
『場合によっては、ね。ま、四糸乃が音を上げずにそこまでついてくればの話だけど。あなたは一体どこまで四糸乃に愛されてるのかしらね? ふふふ……』
「楽しそうだな、琴里ぃ……!」
愉悦に浸った笑みが目に浮かぶほど嗜虐的な笑いがインカムから聞こえてくる。
とりあえず今夜の琴里との秘め事は両手を縛り上げ四つんばいにさせてお尻百叩きの刑で決まりだ。
涙目で屈辱を噛み締める無様な姿(途中から喜び始めるのだが)を見て嘲笑ってやることを誓いつつ、士道は映画のチケットの購入に向かった。
もっとも席は琴里によってすでに予約済みなので、ここでも士道の意思が入る余地は全くなかったのだが。
『さて、入場開始までまだ時間があることだしここで前戯にでも耽りましょう。まずはなるべく人目につかない場所に座りなさい。さすがに性犯罪を目撃されると揉み消すのが少し面倒だわ』
「だったら目撃されそうなことやらせんな!」
『んー? 突然叫んでどしたのー、士道くん?』
「あ、いや、何でもない。まだ入場開始まで時間あるしあそこに座って待ってようぜ」
「は、はい……?」
怪訝な顔をして小首を傾げる四糸乃の手を引き、館内の隅の方へと向かう。
年末という時期のせいか館内は混雑していたものの、向かう途中に足を止める必要があったりぶつかりそうになるほどの混雑率ではなかった。
ただし目の前を絶えず人が通りかかるくらいには混雑しているので、これから働く行為を考えると嫌な汗が出てきてしまう。
仮に見咎められた場合、合意の上で純愛だとか好きになった娘がたまたまロリだったとか伝えてもアウトなのは確実に違いない。
『さあ、まずは基本中の基本からいくわよ。四糸乃の尻を嫌らしく撫で回しなさい』
「くっ……!」
四糸乃を椅子の端に座らせその右隣に士道が腰掛けた途端、琴里から最低かつ下劣な命令が下る。
そんなことをしてしまえばせっかくデートを楽しみにしてくれていた四糸乃の期待を踏みにじることになってしまう。
決心はついていたはずだがそれを思うとどうしても手が動かせない。
おまけに士道が躊躇している間に状況は更に悪化していく。
「っ!」
寄り添うように互いの腕を触れ合わせ、四糸乃がぴったりと身を寄せてくる。
そして士道の肩へと頭をこつんとくっつけ、安らかに微笑み完全に無防備な姿を晒す。
こんな絶大な信頼と深い愛情を示す所作を見せ付けられては、ますます不純な行為に走ることが難しくなってしまう。
だが士道がやらなければ四糸乃を襲うのは琴里直々の更に酷い仕打ち。それも七罪にまで危害が及ぶ。
本当に四糸乃のためを、そして七罪のためを想うならやはり士道がすべきことは一つ。
自ら泥を被って悪党になり、四糸乃たちを襲う最悪の事態を避けること。
『ふふっ、良い表情してるわね……良心の呵責と屈辱に彩られたあなたの表情、堪らなく素敵よ? 見てるだけでオーガズムに達しそうなくらい興奮するわ……ふぅ……』
それともう一つ。どことなく艶めきを帯びた甘い声を零す琴里に対して、百叩きの回数をプラス百回すること。
「っ……ごめんな、四糸乃ぉ……!」
罪悪感による張り裂けそうな痛みを胸に感じながら、士道は左手をゆっくりと四糸乃のお尻に伸ばした。
そして毛並みの良いふわふわのコートの上で一瞬躊躇い、思い切ってお尻を軽く一撫で。
「――っ!?」
途端に四糸乃が声にならない悲鳴を上げて飛び上がる。
文字通り声にならなかったので事なきを得たのだが、本当に悲鳴を上げていたらどうなっていたことか。
『わー!? 士道くん大変だよー! 四糸乃が痴漢され――んー?』
声も出せずに固まる四糸乃の代わりに声を上げる『よしのん』。
しかしその言葉は自分のお尻を撫でる手に四糸乃が恐る恐る視線を向け、驚きに目を見開いたところで途切れた。
そして四糸乃と『よしのん』からの非難の視線と言葉が士道に向けられ――
『何だ士道くんの仕業だったかー。紛らわしいなー、もー。触るなら触るって予め言ってておいてよー』
「あれ……?」
――ることはなかった。
四糸乃は何も見なかったように視線を正面に戻して赤い顔を伏せ、『よしのん』は呆れた様子で軽口を叩くだけ。
今は手を止めているがまだお尻に触れているにも関わらず、逃れることも手を払うこともしてこない。
「つ、続けても良いのか……?」
『んー、士道くんがやりたいなら別に構わないよ? でもこんなとこ誰かに見られちゃったら士道くんの人生おしまいだから、くれぐれも人の目には気をつけて楽しんでねー。まー、本当はこのスリルが堪らないんでしょー?』
「四糸乃は、どうなんだ? 止めて欲しいなら我慢せずに言ってくれれば……」
「だ、大丈夫、です……士道さんの好きに、してください……!」
「あ、ああ……」
搾り出すようにそれだけ答え、羞恥に耐えるように膝の上で右手をぎゅっと握り締める四糸乃。
やはり当初の予想通り公共の場だろうと触るくらいならオーケーらしい。
つまり四糸乃はまだ拒んでいないので、ここで終わりにすることは琴里が許してくれない。
『ほら、手が止まってるわよ。焦らすのは止めてもっと嫌らしい愛撫で私を満足させなさい。ふふっ……』
「この、サディスト……!」
その証拠におちょくるような声音で続きを促されてしまう。
きっとドS全開の琴里は今の士道の表情を見て大いに愉悦に浸っていることだろう。
従順に従うしかない無力感に苛まれて泣きたい気分の今、自分がどれだけ屈辱的な表情を浮かべているかなど鏡を見なくとも手に取るように分かる。
だが今は報復の時までこの仕打ちに耐え忍ぶしかない。
士道は心の中で何度も許しを乞いながら、犬猫を可愛がるような撫で方で四糸乃のお尻を撫で回し始めた。
せめてこの淫らで許しがたいイタズラの中に、四糸乃が少しでも優しさと愛情を感じ取ってくれることを願って。
そして、現在に至る。
結局四糸乃はお尻を撫でる程度では拒みはせず終始されるがままだった。
円を描き丹念に撫で回したり、執拗に一点を撫で摩ったりと様々な撫で方を強要され一つずつ実行していったが、反応は撫でられた時微かに身を震わせるだけ。
耐えれば耐えるほど辱めがエスカレートしていくとも知らず、羞恥に耐えてひたすら健気にイタズラを受け入れていた。
「んっ……! っ、う……」
琴里の命令に従い指を広げてお尻をギュッと鷲掴みにしても、小さく呻くだけで反応は変わらない。
コートの上からでも感触を味わえる柔らかさに五指を深く沈め、握るように揉みしだいても決して逃れようとはしない。
四糸乃が折れてくれない以上、このままでは更に容赦のない仕打ちを強要されてしまう。
劇場内での声を上げそうな行為に発展する前に、四糸乃には何としてもここで折れてもらわなければ。
「人に見られそうで恥ずかしいだろ、四糸乃!? 嫌だよな!? 止めて欲しいよな!?」
「っ……!」
歯を食いしばり心を鬼にして、四糸乃のお尻を力の限り握っていく。
手の平に収まる大きさと適度な弾力を持つ柔らかな膨らみはとても掴みやすく、余すことなく力を込めて握ることができる。
胸の膨らみほど敏感でないとはいえ指が深く食い込むほどに握られれば痛みは相当なもののはずだ。
実際手に力を込めた瞬間、四糸乃は硬く閉じていた瞳の端にうっすらと涙を浮かべた。
にも関わらず、その首は士道の問いに上下ではなく左右に振られる。
『ふふっ、四糸乃も結構頑張るじゃない。この程度の仕打ちじゃあなたへの愛は揺るがないようね。どこまでやればその愛がへし折れる瞬間を目の当たりにできるのかしら』
「ぐっ……どうしてそんなに我慢するんだよ、四糸乃? もしかしてお前も七罪みたいに俺に嫌われること怖がってるのか? 拒んだって俺はお前のこと嫌いになったりなんかしないんだぞ」
これ以上四糸乃に痛みを与える罪悪感に耐えられず、一旦手を止めて拒否を促す士道。
琴里のように実は精神的にも肉体的にもドMかつエロいこと大好きというわけではないのだから、拒んでも士道の想いが変わらないと分かれば辱めに耐える理由はなくなる。これを何度か伝えたからこそ、七罪でさえ士道が行おうとした一部の行為を拒むことがあった。
だから四糸乃にもその程度で愛は変わらないと伝えた。
七罪と同じように拒んでくれることを期待して。
『士道くんが簡単に四糸乃たちを嫌ったりしないのは言われなくたって分かってるよー。ていうか士道くんこそ分からないのー? 四糸乃は愛する士道くんのためなら何でもできるって教えてあげたじゃん』
「はい……私は士道さんのこと、心から愛してます……だから何をされたって、良いです。それで士道さんが、喜んでくれるなら……」
しかし士道の予想とは裏腹に四糸乃は恐怖も怯えも抱いていなかった。
抱いているのはただ愛する人に喜んで貰いたいというひたむきで純粋な感情。
思えば四糸乃は以前からその感情に従い士道に尽くしてくれていた。
裸エプロン姿に辛抱溜まらず襲い掛かった時はその場で3Pに走っても構わない様子を見せていたし、一緒にお風呂に入った時は自分が楽しむことを目的としていたのに最初から襲われても構わないスタンスだった。
一周回って不器用とも言えるほどに強くひたむきに、愛する人――士道の喜びと幸せを願ってくれている。
「っ、四糸乃ぉ……!」
その清らかな愛情の大きさと眩しさに目頭が熱くなるほどの感動を覚え、思わず本気で泣きそうになってしまう。
さすがは自他(士道と七罪)共に認める心のオアシスたる四糸乃だ。
一体何が悲しくてこんなにも深く自分を愛してくれている四糸乃の愛を試し、公衆の面前で辱めているのだろうか。
『もちろんこれは口先だけのことじゃないよー? 気になるなら試してみるのも良いんじゃないかなー。さー、エッチな命令でもエッチな行為でもドンと来ーい!』
『へぇ』
「ちょっ!? よしのん、お前何てこと言いやがる……っ!」
堪えきれずちょっと零れた涙を拭っている隙に、『よしのん』が恐ろしいことを口にしてしまう。
当然ながらその言葉は琴里にも聞こえているわけで、実際にエッチなことを命令するのは琴里なわけだから――
『そうねえ……士道、お触りはもう良いわ。代わりにこう命令しなさい。コートの下を全部脱いで来い、って』
「こ、コートの下を全部脱いで来い!? って、あぁ!?」
――こんなふざけた命令が下されるのも当然のこと。
最悪なことにあまりにも予想外の命令だったためオウム返しに答えてしまい、士道が四糸乃にそれを命令したような形となってしまった。
本当はせめて命令ではなくお願いに近い言い方にしたかったというのに。
「えっ……ふ、服を、ですか……?」
『おーう。マニアックな羞恥プレイの強要きたよー、四糸乃ー。全く士道くんったらヘンタイさんなんだからー……よしのんの大好物を押さえてるね!」
頬を染めて困惑を露にする四糸乃と、対照的にテンションを上げて大はしゃぎの『よしのん』。
コート一枚残して裸になれなど正気の沙汰ではない。
自ら望んでやってしまえばそれは明らかに痴女の行いだ。
いくら愛する士道の命令とはいえ、さすがにこれは四糸乃も拒んでくれるのではないだろうか。
「……わ、分かり……ました……」
「ほ、本当にやってくれるのかよ、四糸乃……こんな、ゲス野郎のために……!」
しかし士道の考えは甘かったようで、四糸乃は恥らいながらも決意を露にして頷く。
士道が喜んでくれると、士道が楽しんでくれると信じて。
そこまで愛されていることに胸が熱くなるほど嬉しく思う反面、強制されているとはいえその気持ちを弄んでいる自分が惨めで堪らなかった。
感動と後ろめたさで再び涙が込み上げてくるほどだ。
その内涙に血が混じってきてもおかしくはないだろう。
「で、でも……その……下着は残しちゃ、駄目ですか……?」
「っ! 脱ぎたくないのか、四糸乃!? 嫌なのか!?」
『士道くん、何か怖いんだけど。ていうか何で泣いてるのー?』
不意に四糸乃が嫌がるような言葉を零したので、士道は零れた涙を拭うのも忘れてすぐさま意思の確認に走った。
あまりにも鬼気迫る顔をしていたのか『よしのん』が引き気味の声を上げ、四糸乃も怯えたように身体を震わせる。
怖がらせて悪いと思っているがここで四糸乃が頷いてくれれば責め苦は終わるので必死になるのも仕方ない。
「あ、あの……そういうわけじゃ、ないんですけど……その……」
恥じらいからか言葉を濁し、四糸乃ははっきり答えようとしない。
それでも気が進まないということだけは分かった。
『ふぅん……渋るってことは少しは抵抗があるのかしら。この様子だと何でも従うってわけじゃなさそうね。良いわ、士道。下着は好きにさせなさい。どうせ後でひん剥くから』
「……分かった。下着を脱ぐか脱がないかは四糸乃の好きにしてくれ。ていうか恥ずかしくて脱ぎたくないなら無理しないでくれ。お願いだから」
『んー、下着脱ぎたくないのはそういう理由じゃないんだよねー……士道くーん、脱いだ服入れる袋か何かなーいー?』
「え、あ、ああ、ちょっと待っててくれ……」
くすくすと怪しく笑う『よしのん』へ適当に見繕ってきたビニール袋を渡すと、四糸乃は本当に服を脱ぐためにトイレへと向かってしまった。
度々後ろを振り返り、恥らいに満ちた視線をこちらへ向けながら。
突き刺されるような酷い胸の痛みを覚えつつも、恥らう四糸乃が可愛いと思ってしまう自分が猛烈に憎い。
やがてその後姿が見えなくなり視線を感じなくなったところで、士道は落ち着き払ってそっとインカムに指を当て――
「頼む、琴里。もう許してくれ……! 俺が悪かった……何でもするから、これ以上四糸乃を辱めるのだけは勘弁してくれ……!」
――プライドを自らかなぐり捨てて心の底から琴里に謝罪した。
もう良心の呵責による胸の痛みに耐え切れなかった。
原因はもちろん四糸乃を辱めているからだ。
そしてもう一つ、四糸乃が辱めを自分のために受け入れてくれていることに喜びを感じてしまうから。
まるで四糸乃を辱めることに愉悦を覚えてしまっているかのように錯覚させられるせいで、ただでさえ張り裂けそうな胸の痛みが余計に強さを増してしまうのだ。
最早心臓に何か刺さっているのではないかと本気で疑うほどに胸が痛い。
だからこそ誠意ある謝罪を行い頭すら下げたのだが、普段よりも磨きがかかったドSの司令官様にはあっさり鼻で笑い飛ばされた。
『無様ね、士道。惨めに許しを乞う今のあなたの姿を眺めるのは、これ以上ないほど愉快で興奮を煽る最高の娯楽だわ。あなたがいなくても数ヶ月は一人で夜を楽しめそうなくらいよ?』
むしろその無様な姿と言葉を待っていたという本心が、熱っぽい語りの節々に滲んでいた。
『ま、もっと良く考えてから私を抱くべきだったわね。初めての女の子をあれだけ辱めておいてただで済むと思ったら大間違いよ。じわじわと嬲り殺すように苦しめてやるから覚悟しなさい』
「お前本当に生粋のサディストだな! ドMの癖に何でそこまで正反対のドSに染まれるんだよ!?」
『私がMかどうかはともかくあなたにだけはサディスト呼ばわりされたくないわ、ドSのおにーちゃん。デートの最初からずっとあなたの状態をモニターしてるから知ってるのよ? あなた何だかんだ言ってずいぶんと興奮してるみたいじゃない』
「っ……!」
面白がるような声で痛いところを突かれ、何も言い返せずに呻いてしまう。
楽しんではいないが興奮してしまっているのは確かだった。
四糸乃のような美少女の恥ずかしがる姿をたっぷりと瞳に焼き付けた上、柔らかいお尻をこれでもかというほど揉み回したのだから男なら興奮しない方がおかしい。
そもそも士道は七罪のフェロモンのせいで性欲が爆発気味なのだ。
興奮したって仕方ないと言えるはずだが、単なる言い訳に過ぎないと自分で分かっているのであまりその事実には意味が無かった。
『……ま、男ならこれは当然の反応よね。それにあなたは七罪のフェロモンの影響で性欲が亢進されてるから普通以上に性的興奮を催しても不思議じゃないし。たぶんあなたを責めるのは筋違いね。謝るわ、士道』
「きゅ、急に優しい声かけてきてどうしたんだよ? また何か企んでるな……!」
『別に何の企みも無いわよ。ただ顔を合わせると正直になれないからこういう時くらいは、ね……』
唐突に理解を示し、棘の無いしおらしい声で言葉を続けていく琴里。
こういう時、というのは顔を合わさず二人きりの状況と考えるべきだろうか。
他のメンバーがいない以上、令音も隣にいないとすれば今琴里は一人きりの状況のはずだ。
顔を合わさず二人きりになれた今だからこそ、素直に心を開こうとしているのかもしれない。
だからこそ士道は疑いを消し、琴里の言葉に耳を傾けた。
『本当は自分でも分かってるのよ、これが逆恨みだってことは。あなたは自分たちの幸せな一時を覗いていた私に正当な権利を以って報復しただけ。それなのに私が復讐に走るのはお門違いにもほどがあるってものね』
「それが分かってるならどうして四糸乃をこんな目に合わせてんだよ? 四糸乃を巻き込むのを止めてくれれば、逆恨みでも何でも俺に復讐して構わないからもう止めてくれ……」
『どうしてって、そんなの決まってるじゃない……四糸乃とおにーちゃんの仲が、良すぎるからいけないのよ……』
「っ……琴里……」
甘く囁くように耳元に届く、黒琴里のヤキモチ混じりの不機嫌な声。
士道と愛し合う七罪と四糸乃に嫉妬して無理やり自分を抱かせた琴里だ。
七罪はともかく、四糸乃が士道とあまりにも仲睦まじく過ごしていたせいで抑えられなかったのかもしれない。
やっていることは非常に許しがたいが、そこまでヤキモチを焼いてくれるとはなんと可愛い奴だろうか。
天の邪鬼な黒琴里の素直な熱い気持ちは、士道の胸の中へと流れ込み暖かさを存分に染み渡らせ――
『――なんて言うとでも期待してた? 野外で幼女を辱めて興奮してる変態ロリコンおにーちゃん。そもそもの原因が私だろうと何だろうと、やられたら可能な限り倍化してお返しさせてもらうわ。さあ、次は四糸乃に何をさせようかしらね?』
「ちくしょう! 一瞬でもほだされた俺が馬鹿だった!」
――内側で一瞬にして凍り付き、氷の棘で心をズタズタに引き裂いた。
冷静に考えればこれくらい予想できたことなのに、黒琴里のしおらしい声にひっかかり見事に手玉に取られてしまった。
自分の魅力や武器を熟知した女というのは実に恐ろしい生き物だ。
しかし先ほどの琴里の言葉にも少しくらい本音が混ざっていたに違いない。
口では何を言おうと、琴里は間違いなく士道を愛しているのだから。
というかあれが全て演技ならもう二度と女という生き物に心を許せない気がした。
『お待たせー、士道くん。ほいっ、ちゃんと脱いだか確認しといてー』
琴里への凄惨な復讐方法を模索しながら待っていると、やがて四糸乃が士道の元へと戻ってきた。
妙に顔を赤くしてもじもじしつつ、周囲の視線を過度に気にした様子の四糸乃が。
「本当に脱いじまったのか、四糸乃……」
『よしのん』から手渡されたビニール袋の中を覗き込むと、詰まっていたのは綺麗に折りたたまれた女の子用の衣服。
スカートにソックス、ブラウスにシャツと、下着以外の一通りの衣服だ。
脱いだかどうか本人に尋ねるまでもない。
袋越しに伝わる温もりの名残と甘い残り香が、これらをつい先ほどまで四糸乃が身に着けていたことを如実に物語っている。
『それで次は四糸乃に何をさせたいのかなー? 何でも言ってみなよー、士道くーん?』
『何でもって言われると結構悩むのよねぇ……この場でコートをはだけさせるっていうのもなかなか面白いし、コートの下でマスターベーションっていうのも良い考えだし……』
夕食の献立を並べ立てるような気安さですらすらと鬼畜な行為を口にしていく琴里。
そんな痴女染みた行為を心のオアシスたる四糸乃が行わされてしまう。
四糸乃が本当にそれを受け入れるかどうかは分からないが、受け入れる可能性が僅かでもある以上実際に命令するわけにはいかない。
たった一人の心のオアシスが穢されてしまうことだけは、絶対に避けたかった。
「琴里ぃ……頼むから俺の四糸乃に変なことさせないでくれ……! そんなことさせるくらいなら俺が痴漢でも何でもする! 今日だけじゃない! しばらくは何でもお前の言いなりになってやる! だから、四糸乃からは何もさせないでくれ……!」
だから士道は自ら琴里に服従を誓い取引を願い出た。
四糸乃自身からこんな場所で淫猥な行為を働かせることを防げれば、もう自分が琴里にどう弄ばれようと構わない。
例え自分がどれだけ汚れ屈辱に塗れようとも、四糸乃の無垢な心を守れるなら本望だった。
『……ふん、殊勝な心がけね。まぁ良いわ、あなたの望みどおりにしてあげる。そろそろ入場開始だから場所を移しなさい。続きは劇場でやるわよ』
「え……? あ、ああ……」
ほぼ隷属宣言したというのに琴里の反応は思いのほか淡白だった。
てっきり士道が平身低頭して懇願する哀れな姿を無様とあざ笑い、惨めさを味わわせようと存分に言葉で切り付けてくると思っていたのでかなり拍子抜けしてしまった。
『ほらほら、何でも好きなこと言ってみなよー? 四糸乃にどす黒い欲望と白い液体をぶつけて心も身体も士道くんの色に染めたいんじゃないのー?』
「そ、それについては一旦脇に置いて、ひとまず劇場の方に行こうぜ。そろそろ入場が始まるし、話はそれからにしような?」
「は、はい……」
消え入りそうな声で頷くと、四糸乃は再び身を寄せ遠慮がちに手を握ってきた。
ちょっと歩きにくいくらいに身を寄せてきているのは、やはりコートの下が下着のみという無防備極まる自分の姿が恥ずかしいからだろう。
それでも手を握り返してやると、文句も弱音も吐かずただ従順に士道に付き従ってくる。
今自分が辱められているこの状況を、士道が喜び楽しんでいると頑なに信じているから。
やはり不謹慎だがここまでされても士道の幸せを願ってくれている四糸乃が、本当に愛しくてたまらなかった。
『全く……あんなに必死になるほど四糸乃が大事なわけ? どうせ四糸乃の純潔はあなたが穢したんだから、痴女的な行為をさせなくたってすでに穢れてることに変わりはないのよ。あなた四糸乃を神聖視し過ぎてるんじゃない? 一度セックスの快感を味わった女がまだ純粋無垢な心を持ってると信じてるなんて、とんだロマンチストね』
そんな士道を嘲り容赦なく罵倒してくる琴里。
しかしその言葉の節々には何かが酷く気に入らないとでも言うような妙な刺々しさが滲んでいた。
待ち合わせ場所で四糸乃と仲良く手を繋ぎ歩き始めた時と同じか、それ以上にご機嫌斜めだ。
もしかすると先ほど士道を懐柔した琴里の言葉に嘘はなく、本当に四糸乃に嫉妬していたのかもしれない。
確かに四糸乃を心のオアシスとして少々特別扱いしていることは否定できないし、先ほどは身を挺するどころか心と尊厳を悪魔という名の義妹に捧げてまで庇い守り抜こうとしたのだ。
琴里からすれば愛するおにーちゃんが他の女の子を自分の全てを賭けて守ろうとしているのだから、普通はヤキモチを焼くのが当然だろう。むしろヤキモチを焼かない七罪や四糸乃の方が少し特殊だ。
その気持ちが士道だけではなく四糸乃にも向いた結果が、この二人まとめて苦しめ辱めるデートなのだろう。
気持ちは分からないでもないが、それにしたってこの仕打ちは明らかにやりすぎだ。
なので士道は逆にこの状況を利用してお灸を据えることにした。
恐らく琴里が最終的に下す命令は劇場内の暗闇に紛れてセックスさせること。
ならばそんな状況下でも互いに愛し合える様を見せ付けてやれば、四糸乃と士道が何者にも崩せない深い愛情で繋がっていることを思い知らせて大きな敗北感を植えつけてやることができるだろう。
どうせ行為を強要される上に逆らえないのだから開き直って積極的にやってやる。
士道は覚悟を決めて四糸乃の手を優しく引き、劇場へと足を向けた。
唯一の問題である四糸乃が野外でのセックスを受け入れてくれるかどうか、そしてそれほどまでに自分が愛されているかどうかを、ちょっとだけ不安に思いながら。
だがその不安が思わぬ形で拭われることに、士道も琴里も今はまだ気付いていなかった。
次回はエロ話です。▲マークは必要じゃないと思うんですけど、状況が状況なので微妙なところ……。
今回は四糸乃主軸の話だったはずなのに、何故か義妹が結構目立ってしまいました。
当初の予定ではそこまで目立つ話ではなかったはずなのに何故ここまで……義妹の呪い……? まぁ後のことを考えるとこれで良いのかも……。
あんまりこういう風に書くのは気が進みませんが、できれば感想をよろしくお願いしまう。
それから楽しみにして下さっている数少ない方々には申し訳ありませんが、そろそろ学校が始まるので次回はちょっと更新が遅くなるかもしれません。他の作品も書き進めたいですし……。
更新停止期間の執筆状況の進捗はどれくらいの頻度で活動報告に載せるべきか
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1ヵ月
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2ヵ月
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3ヵ月