※この作品はR-18です。

士道クリミナル   作:サイエンティスト

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 今回はエロ話。映画館でのいかがわしいお話。
 余談ですが士道さんは青空の下、野外でも余裕でお楽しみになれる人です。凜祢ユートピアの狂三エンド参照。
 ちなみに七罪フィアーでアレな本をベッド下に隠している設定にしたのは、凜祢ユートピアの四糸乃ルートでベッド下に本を隠している事実が判明していたから。しかし後の原作だとちゃんと隠す位置を巧妙に変えていましたね。バレてたけど……。
 



●四糸乃アフェクション

 結論から言うと野外プレイの覚悟は劇場に足を踏み入れた時点で全体にひびが入った。

 第一に開放感がありすぎるし、第二に人が多すぎる。

 劇場にしては狭い方だが優に百人弱は座れそうなほどの座席が完備されていて、その座席の前半分ほどがすでに人々でぎっちり占められているのだから仕方ない。

 むしろ見られそうな方が興奮するという性癖の持ち主にはぴったりなのだろうが、生憎そんな趣味は持っていないので凄まじい緊張感が躊躇いを生じさせている。

 

「……なぁ、琴里。ここで俺に何させるつもりか聞いても良いか?」

『あなたが聞かないと誰が実行するっていうのよ。ま、幾らあなたでもそろそろ勘付く頃じゃないかしら。席の混み方を見れば何となく察しがつくでしょう?』

「まぁ、ここまで露骨ならな……」

 

 琴里の面白がる声に眉を顰め、周囲を見回す士道。

 士道の席は劇場の一番後ろで、もちろん四糸乃の席はその隣。

 しかしその周囲には誰も座っていない。

 というか劇場の後ろ半分の席が士道と四糸乃の席を除き全て空いている。

 まるで人目もはばからず存分に二人きりでイチャイチャラブラブできる空間が用意されているかのように。

 やはりこの場で行為を強要されるという予想は正しかったと言えるだろう。

 

「けど、できれば命令してくれよ。もしかしたら俺の考えと食い違ってるかもしれないからさ」

『自分の意思でやるんじゃなく命令されてやることで少しでも罪悪感を和らげようって魂胆が見え見えよ。食い違ってたら教えるからあなたの考えた通りのことをしなさい』

「……くそっ」

 

 ばっちりと見抜かれ思わず悪態をついてしまう。

 逃げ道どころか抜け道も回り道も用意されてない。

 代わりに用意されているのは完璧に整備された野外プレイへの一本道だけだ。

 

『いやー、それにしてもよしのんたちの周りって都合よく空いてるよねー。これなら士道くんにどんなことさせられても誰にもバレないんじゃないかなー。本当都合良いよねー、士道くーん』

「あ、ああ、そうだな……」

 

 遠くを見るようにつぶらな瞳の上に短い手を当て、周囲を見回す真似をする『よしのん』。

 さすがにここまであからさまな状況だと誰の仕業か気付かれてもおかしくはない。

 特に何も追求せず士道に向けてニヤニヤ笑いを向けている辺り、少なくとも『よしのん』は気付いていて黙っているだけだろう。自分好みの面白おかしいエッチな状況になるなら文句はない、というところか。

 しかし自分がこれからどんな仕打ちを受けるのか不安気に思っているであろう四糸乃にこの不自然な状況に気付く余裕は無さそうだった。

 今現在も下着の上にコート一枚という破廉恥な格好を強制されているせいで、劇場に場所を移してから一言も発さず顔を赤くしたまま俯いてしまっている。重苦しい沈黙に場を支配されないのは『よしのん』のおかげだ。

 普段は羞恥心が薄めの四糸乃がここまで恥じらいを感じてしまっているほどなのだから、自分の感情を抑えて無理に士道の命令に従っていることは明白だ。

 四糸乃の愛や言葉を疑うわけではないのだが、ここまでくると本当に四糸乃はそれだけのために従順に従ってくれているのか疑問に思ってしまう。

 まさか本当は四糸乃にも琴里のように隠された特殊な性癖が―― 

 

「――いや、四糸乃に限ってそれはないな。うん」

 

 一瞬脳裏によぎった考えをすぐさま打ち消す士道。

 色々びっくりするような性癖を隠し持っていた琴里とは違い、心のオアシスたる四糸乃に限ってそれは間違ってもありえない。

 こういった特別な扱いが琴里の苛立ちの原因なのかもしれないが、日頃の行いと士道への接し方から考えると扱いの差は生じて当然だと言える。

 四糸乃にヤキモチを焼いたりする前に接し方をもう少しソフトにして欲しいものだ。

 

『お、そろそろ始まるみたいだよー? 士道くん、よしのんたちもそろそろ始めるー?』

 

 上映時間になり劇場内の照明が薄れていき、何故かおおはしゃぎする『よしのん』。

 相変わらず周囲は空席のままであり、お膳立てはすでに完璧に成されている。

 正確には映画本編ではなく予告集の上映が始まっただけだが、何もいきなり声を上げてしまうような行為をするわけではないのだから些細な問題に過ぎないだろう。

 

『そうね、前戯の時間を考えるともう始めても平気でしょう。濡らしもせずにいきなり突っ込むっていうなら話は別だけど、あなたが四糸乃に対してそんな酷いことをするはずはないものね。四糸乃に対しては』

 

 四糸乃に対して、の部分を特に強調して刺々しい声をかけてくる琴里。

 たぶん七罪のフェロモンの効果を実験した時のことを根に持っているのだろう。

 ちょっとは悪かったと思っているが、自分で招いた結果な上に途中から喜んで積極的になった癖に逆恨みにもほどがあるというものだ。

 

『さぁ、始めなさい士道! この場であなたの淀んだ汚らわしい欲望を存分に解き放ち、四糸乃にぶちまけて恥辱の限りを尽くすのよ! 万が一見咎められたら、そうね……非常口にでも走って逃げると良いんじゃないかしら』

「何で緊急時の対応はそんなに適当なんだよ!?」

 

 もしもやってることが周りにバレればバッドエンド一直線だというのに、琴里の対応はずいぶんと投げやりだった。

 しかし用意周到で策士でドSな琴里のことなので、士道を不安にさせ苦しめるためにあえて適当に言っているだけで対策自体は完璧なはず。

 信じる対象が士道を苦しめたいという欲求なのがどうにも解せないが、琴里を信じてついに行動を起すことにした。

 

「……四糸乃、さっきの続き始めても良いか?」

「は、はい……!」

 

 隣に座る四糸乃へ潜めた声をかけると、若干裏返った返事が返ってくる。

 

『それでそれでー? 続きって何やらせるつもりー? まー服を脱がせてこーんな暗い所に連れ込んだんだから、やることは一つしかないんだろうけどさ』

「ああ。まぁ、そういうことだよ。今ここでお前を、その……抱いても、良いか?」

「――っ!」

 

 一拍間を置いてその願いを口にすると、四糸乃もこれには度肝を抜かれたようで赤くなったまま固まってしまった。

 それこそ薄闇の落ちた劇場内でもはっきり見えるほど赤くなって。

 

『ふふっ、さすがの四糸乃も凍り付いてるわね。こんな人気のあるところでセックスなんていくら四糸乃でも許容できないでしょう。やっぱり四糸乃のあなたに対する愛はその程度だったみたいね』

 

 少しイラッときたが琴里の嘲笑う声に対してさほど悔しさはなかった。

 確かに拒否されてしまえば自分への愛の程度が分かってしまうが、何か特別な事情や性癖でもない限りいくら愛していようとこんな要求は断るのが普通だ。こんなもので本当の愛の大きさを計れるわけではない。

 それに四糸乃が拒否してくれればこれ以上辱めなくて済むのだから、どちらかと言えば拒否してくれた方がありがたかった。

 本音を言えばこんな無茶な要求を受け入れてくれるまでに深く愛されていたかったのだが。

 微かに落胆しつつ安堵の気持ちを溜息として零すと、インカムから再び琴里の嘲笑う声が聞こえてきた。

 

『心のオアシスに裏切られた気分はどう? オアシスだけに砂漠で蜃気楼に幻を掴まされたみたいな絶望に打ちひしがれてるんじゃない? ま、そう気を落とさないことね。あなたがどうしてもって言うなら、今夜私が特別に慰めてあげても――!?』

 

 そしてその声は唐突に途切れた。

 小さくもはっきりと、間違いなく四糸乃が首を縦に振ったことで。

 

「よ、四糸乃……本当に、良いのか? 抱くっていうのは腕でぎゅっとすることじゃなくて、もう一つの意味の方だぞ? いつもベッドでやってるみたいなこと……セックスの方だからな?」

「は、はい……分かって、ます……」

 

 言い方がまずかったのではないかと思いはっきり伝えたのだが、四糸乃は再び首を縦に振った。

 意味を取り違えてなどいない。

 最初から意味を理解していて頷いている。

 本当にこの場で士道に抱かれても構わないと答えているのだ。

 

『ま、まぁ、どうせ裸に剥かれれば音を上げるに違いないわ。さっきだってコートを着た状態でも下着を脱ぐのを渋ったんだから。さぁ、コートを引っぺがして引導を渡してやりなさい』

「じゃあ……脱がすぞ?」

 

 若干狼狽気味の琴里に背中を押され、言葉を続ける。

 四糸乃はしばし周囲に視線を向けるもすぐに士道へ戻して首を振った。

 やはり横ではなく、縦に。

 それを確認してから静かにコートのボタンに指をかけると、四糸乃は羞恥を堪えるように瞳を硬く閉じてしまう。

 しかし抵抗もしなければ拒絶もしない。

 だから士道は一つずつ、上から順にボタンを外していった。

 いくら四糸乃が受け入れてくれるといっても、本当に自分がこんな場所で行為に至れるのか疑問に思いながら。

 

『……ふん、いくら四糸乃でも最後まで受け入れるはずなんて……おにーちゃんを一番愛してるのは、私なんだから――って、何ですって!?』

「なっ――!?」

 

 最後のボタンを外し四糸乃のコートがはだけた瞬間、士道も琴里も驚愕の声を零してしまった。

 一瞬琴里の本音が耳に届いていたものの、目の前に広がったのはそんなことも気にならなくなるほど衝撃的な光景。

 当然ながらコートの下に広がっていたのは四糸乃の下着姿。

 だがそれはただの下着ではなかった。

 それはいわゆるセクシーランジェリーだった。

 露出度自体は少なめで仄かな膨らみと下腹部の三角地帯を完璧に覆い隠してはいるものの、布地は彩るフリルを含めて黒一色。しかも下の素肌のきめ細かさが視認できるほど薄い。  

 無垢で清楚な四糸乃にぴったりな白と真逆の、大人の妖しさを演出する黒。

 それが四糸乃の小柄ながらも肉感的な肢体を覆い、桃色の突起と下腹部の筋を黒く透けさせている。

 あまりにも予想外かつ衝撃的な光景に、最早士道は魅了されるどころか完全に意識を奪われ思考が停止してしまった。

 

『サプラーイズ! どーう、驚いたー士道くん?』

 

 そして鼻先を『よしのん』に突付かれ我に返る。

 

「いや、驚いたってレベルじゃ……! ど、どうして四糸乃がそんな下着つけてるんだよ!?」

『実は士道くんにお外でエッチなことされても大丈夫なようにオシャレさせてたのさー! いやー、よしのんの期待に応えてくれるなんてさすが士道くんだね! 時間ギリギリまで悩んで選んだ甲斐があったよー!」

「待ち合わせに遅れた原因はそれかよ!? ていうかただのデートにお前は何を期待してたんだ!?」

『そりゃー茂みとかトイレの個室とかカラオケボックスとかでの大人のイチャラブに決まってるよー。さすがの士道くんでもお外だとちょっと抵抗あるかもしれないから、気分が盛り上がるようにこういう下着を準備したんだけど……大成功みたいだねー。士道くんったらそんなに涎垂らしちゃって……』

「……はっ!?」

『な、なるほどね。下着を脱ぐのを渋ったのはそういうわけ……これは予想外だったわ……』

 

 純情に恥じらいながらも色っぽい下着姿を曝しだしている姿、それもコートを羽織い中途半端に脱いでいる裸よりも悩ましい姿。

 残念ながら事は全て『よしのん』の狙い通りに運んでいる。

 絶賛性欲増進中の士道の胸の中にはこの場で四糸乃を抱けるどころか、今すぐ抱いてその全てを味わいつくしたい欲求が生じていた。

 四糸乃に散々お触りして恥ずかしがる姿と柔らかさを視覚と触覚に焼き付けた上、真夜中を思わせる劇場内の薄闇という状況下、四糸乃の予想外極まる倒錯的な色気を目にする。

 それだけでも相当な興奮を覚えさせられると言うのに、スクリーンの光を背に浴びてその艶かしい姿が浮かび上がっているのだ。

 共に美しい蒼さを湛えた瞳と長い髪が織り成す幻想的な雰囲気も相まって、まるでスクリーンから抜け出してきた妖精か何かのような愛らしさを醸し出している。

 そんな現実離れした魅力を見せ付けられてしまえば、今すぐ襲いかかり心行くまで楽しみたいと思わせるほどに魅了されても仕方が無かった。

 

「四糸乃……!」

「っ――」

 

 それこそ琴里の命令無しに四糸乃の身体を引き寄せ、唇を重ねてしまうほどに。

 

『……ふん、何だかんだ文句言って結局自分から襲いかかってるじゃない。この偽善者。ま、命令を遂行してることに違いは無いから後はあなたの欲望の赴くまま青姦に精を出してれば良いわ。もちろん物理的にも精を出すんでしょうけれど』

 

 琴里の罵倒や嫌らしいジョークも、最早映画のBGM程度にしか認識できないほどに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ……ちゅ……ぅ……」

 

 銃声が轟き逃げ惑う人々の悲鳴が飛び交う緊迫の銃撃戦。

 そんな命のやり取りが行われる場面の最中、士道は四糸乃と共に場違い極まる濃厚なラブシーンに興じていた。

 向かい合う形で膝に座らせた四糸乃の唇に襲い掛かり、仕掛けるのは舌と唇を用いての肉弾戦。

 瑞々しい唇を挟みこんで動きを封じ込めると共に、小さな舌に自らの舌を絡めて優しく締め上げる。

 

「ふぁ……うぅ……ん、ふぅ……!」

 

 苦しげな吐息を零しつつも懸命に舌を動かして絞め返し、儚く弱々しくも応戦してくる四糸乃。

 しかしこれはあくまでも応戦であり抵抗ではない。

 士道の喜びと幸せを願っているからこそ、口付けという名の愛情に溢れた戦いを拒もうとせず唇と舌による優しい暴力を受け入れている。

 スクリーンの中で繰り広げられる戦いと異なるのは、用いる得物の使い方と相手に抱く感情の違いだけだ。

 決定的に異なるのは士道も四糸乃も互いに害を成そうとしているのではなく、相手に至福の喜びを与えようとしていること。

 

「はっ……ぁ……し、士道、さん……?」

 

 これ以上戦いが激化する前にどうしても伝えておきたいことがあり、交えていた舌を解き距離を取る。

 解放された四糸乃の唇から流れ落ちるのは一筋の透明な液体。

 激しい殴り合いで流れ出る血とは似て非なる、熱い口付けの応酬を示す注ぎ溢れた愛情。

 互いの鼻先が触れ合うほどの近距離で覗き込む蒼い澄んだ瞳は、口付けの応酬にダメージを受け夢心地に染まっていた。

 

「本当に良いのか、四糸乃? お前の頼みでもこれ以上やったらもう途中でやめることなんてできないかもしれないぞ。どんなに嫌がったって最後までしちまうかもしれない。それでも、良いのか……?」

「……はい……士道さんの、ためなら……」

 

 派手な爆発シーンをバックに四糸乃の慈愛に溢れた微笑みが広がる。

 瞳は夢心地に染まっているものの、人に見られるかもしれない状況下という緊張感からか興奮は微塵も浮かんでいない。

 浮かんでいるのは疑いを抱いてしまうほど深い愛情と優しさだけ。

 命令と欲望に従わざるを得ない士道がすべきことは、せめてそれ以上の愛と優しさを感じさせてあげること。

 

「ありがとな、四糸乃……愛してる」

「――っ! あ、っ……! ふ、うぅ……!」

 

 耳元で熱く愛を囁き、下着を捲り上げ露にした四糸乃の胸元に齧りつく。

 傷つけないように柔肉を唇で甘く噛み締めながら、僅かに突き出たピンク色を舐り吸い付く。売店で飲食物を買えずに溜まった飢えと渇きを満たすように。

 無論腹を満たすことなどできないが、舌で味わい唇で食む度に幸福感で胸の中が熱く満たされていく。四糸乃の身体を味わい堪能しているという幸福感で。

 

「あ、あぁっ……! ふ、あ、うぅ……!」

 

 自分の胸元を容赦なく蹂躙されつつも、四糸乃は決して大きな喘ぎを零さない。

 自由な右手で口元を押さえ、周りに聞こえてしまわないよう喘ぎを懸命に押し殺している。周囲の人間に気付かれ士道の幸せな時が途絶えてしまうことを必死に拒んで。

 どこまでも健気に尽くしてくれることに強い喜びを覚えるものの、同時に純粋な想いを利用していることに対する良心の呵責が酷く心を苛む。

 しかしどれだけ胸が痛もうと琴里の命令と自分の欲望に逆らうことができない。

 この痛みを忘れるには余計なことは何も考えず、他のことを気にする余裕などなくなるほど四糸乃を強く感じるしかない。

 

「っ……! うぅ、ふっ……!」

 

 四糸乃を抱く腕の片方をはだけたコートの下へ潜り込ませ、剥き出しのお尻を撫で摩る。

 直接触れるお尻の肉の感触はコートの上から触れる時とは段違いの感触。

 撫でる指がスリップしそうな、凍りついた路面を思わせるすべすべの柔肌。

 指を沈め揉み解す手の平に抗い押し返すような弾力。

 胸の膨らみを味わいながらお尻の膨らみを堪能している事実は、頭の中を痺れさせるほどに心地良い。

 それこそ今自分たちが置かれている状況を含めて、何もかもがどうでも良くなっていくほどに。

 

「……恥ずかしいかもしれないけど、ごめんな。四糸乃……」

「っ!」

 

 たっぷりと二種類の膨らみを堪能し欲求をある程度満たした所で、今度は四糸乃の僅かな欲求を満たす番。

 その小柄な身体を抱え上げてスクリーン側に向かせ、再び膝に座らせる。

 そして縮こまり閉ざされていた脚の間へ膝を挿し込み、ゆっくりと内側から抉じ開けていく。

 捲り上げられた下着姿の上にはだけたコート一枚でそんなことをされれば、四糸乃の身体の正面は完全に無防備。

 膝に座らせている限りは座席の位置と高低差の関係で他の観客が四糸乃の裸体を拝むことはできないものの、同じ空間に不特定多数の見知らぬ人々が集っている状況には変わりない。

 そんな極限の緊張感を抱かせる状況下だというのに、四糸乃は緊張と羞恥に身体を強張らせるだけで自らの脚を開いていく士道の膝に抵抗しなかった。

 

『やーん。士道くんったら四糸乃にこーんな格好させるなんてとんだヘンタイさんだよねー。なになに? 四糸乃の痴態が他の人に見られることに興奮しちゃう系のヘンタイさんなの? 寝取られ属性ってやつ?』

「なわけねぇだろ! 四糸乃のこんな姿を見て良いのは俺だけだ! 俺の四糸乃の身体を誰にも見せてたまるか!」

 

 酷く心外な質問に感情を昂ぶらせつつもできる限り声を抑えて言い放つ。

 自分の愛する人、それも唯一の心のオアシスだ。

 独占欲が強いと言われようと何だろうと、この美しく艶かしい肢体が誰かの瞳に晒されてしまうなど考えただけで四糸乃が穢された気分になってしまう。

 

「士道、さん……っ! あ、ぅ……!」

 

 だからその最低な気分を拭うために、首筋の真っ白な肌へ口付け自分の色に穢す。

 壁に穿たれる弾痕の如く、柔肌へ強く吸い付き唇の痕を幾つも焼き付けていく。

 普段は口付けの痕を残さないように極力気を遣っているが今回は特別だ。

 念入りに食み、吸い付き、四糸乃が自分のものだという証を徹底的に刻む。

 

「っ……! う、ふっ……うぅぅ!」

 

 そして四糸乃を満足させ羞恥心を薄れさせるために快感に身を襲わせる。

 右手の指でその肉感的な太股の間を摩り、唾液で穢した胸元を右手で愛でながら。

 

「ふ、うぅ……ふぅぅ……! ん、くっ……うぅ……!」

 

 身体の敏感な箇所を同時に幾つも攻められる快感に、口元を押さえる手の隙間から荒い息を零す四糸乃。

 しかし声を抑えているが故に身を捩る動きが激しくなり、座席が二人分の重みと動きに微かな軋みを上げてしまう。

 そんな微かな音を耳にして身体を硬くした四糸乃が、悶える身体の動きさえ必死に抑えこもうとする。

 周囲に音が届いているかもしれないという緊張と怯えがその心臓の鼓動を猛烈に速めていることは想像に難くない。

 実際士道の心臓も座席の軋みに飛び跳ね鼓動を速めている。

 だが士道は四糸乃とは異なり性的な欲求に支配されているせいで、その鼓動はむしろ興奮を煽る一要素としか認識できなかった。

 

「ぁ、うぅぅ……! ん、うぅぅ……!」

 

 自分色に染め上げ穢すために、四糸乃の胸の膨らみを濡らした唾液を万遍なく塗りこんでいく。

 膨らみ全体に手の平で、僅かに硬くなった突起に指先で執拗に塗りこむ。

 そして緊張と羞恥心を忘れさせてやるために、十分に濡れた指先を四糸乃の両脚の間に挿し込んで内側を弄っていく。

 秘所を塞ぐ暖かい柔肉の扉の内側を、扉の奥に隠されたもう一つの硬い突起も。

 僅かに指を動かし刺激するだけで、四糸乃の身体は快感に撃たれて何度も跳ねる。

 だがそれでも決して喘ぎを零そうとしない。

 指の隙間から押し殺した荒い息を零し、快感により瞳からとめどなく涙を零しながら健気に耐えていた。

 

「――っ! っ、ん、うぅ――――っ!」

 

 そして一際激しく身体を震わせ、士道にしか聞こえないくぐもった悲鳴を上げる。

 悲鳴が収まるとその身体は崩れ落ちそうに力を失うが、口元を覆う右手は決して下ろそうとはしなかった。

 声を漏らさずに快感の絶頂を乗り切るその精神力は、やはり士道に対する愛がもたらしたものなのだろう。

 

『どうやらとうとうイったみたいね。おめでとう、士道。これで晴れて四糸乃は正式に痴女の仲間入りよ。こんな場所で快感に身を任せて絶頂を迎えるだなんて、はしたないにもほどがあるわ。これがあなたの愛する心のオアシスだなんてとんだお笑い種ね』

 

 そんな四糸乃の深海の如く深い愛を嫉妬から小馬鹿にしている琴里。

 だがいくら罵倒しようが妬もうがもう琴里は士道にとって完全に蚊帳の外で、意識の端にかろうじてぶらさがっているようなものだった。

 琴里に反応を返す暇があるなら、一秒でも早く四糸乃と繋がり愛を交えたい。

 最早その気持ちを堪えきれずズボンのジッパーを下ろし、再び四糸乃の身体を抱え上げこちらを向かせた。

 もう一度瞳に収めた四糸乃の表情は、士道の容赦ない攻めにより様変わりしていた。

 

「あ、ぁっ……し、どぉ……さ、ん……!」

 

 絶え間ない快楽に真っ赤に染まり、艶かしく歪んだ面差し。

 蕩けた蒼い瞳から零れる涙と、だらしなく緩んだ口元から零れる唾液。

 清楚なイメージが淫靡に乱れてしまうほど四糸乃に性的な興奮を覚えさせてしまったことは明白だ。

 しかしそれでも、愛する士道のために理性だけは決して手放していなかった。

 絶対に周囲の人々に士道の行いを知られないよう、震える右手で再び口元を覆い隠して。

 どこまでも健気で美しいその想いにつけこみ弄んでいることは分かっている。

 だが強い愛情と幸福感に七罪が度々我を忘れてしまうように、これほど愛されていると実感してしまえばもう歯止めが効かなかった。

 

「――っ! っ、う、ふぅぅぅ!!」

「っ、く……!」

 

 四糸乃の小柄な身体を抱え上げ、両脚の間から垂直に天を指す肉のナイフの上へ座らせる。

 徐々にその身体の内側へと突き立てていくほどに、四糸乃の指の隙間から漏れる吐息が乱れ激しさを増していく。

 感じるのは力いっぱい握り締められているかのような凄まじい圧迫感。

 恐らくは人々が集う空間で抱かれる緊張感と羞恥心の表れ。

 この場に限っては士道に合わせて体が作り変わっている七罪と同等か、それ以上の強い圧迫感だった。

 

「っ! ぁ、うぅぅぅ! んうぅぅ!」

 

 根元まで深々と突き立てたところで、抱え上げた四糸乃の身体を静かに上下させていく。

 荒い息と涙を零しながら喘ぎを堪えて声無き悲鳴を上げる四糸乃。

 繋がり擦れ合う粘膜が隠しようも無い卑猥な水音を立て、激しい動きに座席が容赦なく軋みを上げる。

 爆発や銃声といった映画の効果音が塗りつぶしてくれているが、本当に周囲の観客に届いていないかどうかは分からない。

 もしも届けば、不審に思われてこの行為を見られてしまうかもしれない。

 だが完全に歯止めが効かなくなった今、最早動きを抑えることなど不可能な相談だった。

 身体は意思とは無関係に更に激しく、情熱的に動きを強めていく。

 四糸乃の小ぶりな膨らみが嫌らしく上下に揺れ動き、汗の雫を散らすほどに。

 

「っ、うぅぅ――あっ、あぁぁ! ふああぁぁ!」

 

 激しい突き上げに限界を迎えたのか四糸乃がついに喘ぎを零す。

 抑えていた分が上乗せされたような、鳥肌が立つほど艶かしさ溢れる甘い喘ぎを。

 声を出させてしまったことに対して生じた感情は、緊張ではなく喜び。

 声を出させてはいけないと、四糸乃に意地の悪い真似をしてはいけないと頭の片隅ではまだ理解している。

 だがその悩ましい喘ぎをもっと堪能したいという衝動に抗えず、動きを緩めることなどできなかった。

 

「――っ、ん! ふう、ぅぅぅぅ……!」

 

 だが欲望に打ち勝てない不甲斐ない士道とは違い、四糸乃はいついかなる時も決して士道への愛を忘れていない。

 周囲の観客に士道の罪深い行いが見咎められてしまわないよう、想像を絶する快感に襲われながらも懸命に声を抑えようと努力してくれている。

 士道の衣服の肩口を猿轡のように噛み締め、右手で身体にしがみつきながら。

 せめて愛と優しさを感じさせてやろうなどおこがましいにもほどがある考えだった。

 士道が四糸乃の愛と優しさに甘え溺れているだけだというのに。 

 

「っ、く……! 四糸乃っ……! 四糸乃ぉ!!」

「っ、ぁ、う――――っ!!」

 

 途方も無い強さの愛情に溺れる幸福感に背中を押され、堪えきれず全てを四糸乃にぶつけてしまう。

 下腹部から体力が抜け出ていくような脱力感と突き抜ける快感に呻く士道。

 だが四糸乃は白く濁った欲望を深々と身体の中へ打ち込まれても、精一杯衣服を噛み締めて悲鳴を抑えこんでいた。

 その小柄な身体が仰け反り指先に至るまで小刻みに痙攣しても、絶対に声を漏らさず。

 愛する士道のため、どこまでも健気に。

 公共の場で身体を交え最後まで到達したのだから、琴里への義理は果たした。

 だから止めても構わないはずだし、一刻も早く止めるべきだ。

 

「っ! ごめんな、四糸乃……! あと一回だけ……あと一回だけ、させてくれ……!」

 

 だが中途半端に性欲を満たされてしまえば、最早完全に満足するまで自分を抑えられない。

 それに一度深い愛情に溺れてしまった以上、満足しなければ歯止めが効きそうもない。

 口では許しを乞いながらも、士道は再び四糸乃の身体を抱え上げ突き上げ始めた。

 四糸乃が決して抵抗も拒絶もしないのを良い事に、愛と優しさにつけこんで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんな、四糸乃……こんな人のいる場所で、何度もさせちまって……」

 

 隣の座席に力なく身を沈めている四糸乃の乱れた髪を、謝罪しながら優しく整える士道。

 心と身体が鎮まるまでにはかなりの回数を要し、やっと落ち着いた頃には気付けばもう映画はクライマックスシーンに突入していた。

 映画そっちのけで大人のラブストーリーに耽っていたので内容も登場人物もさっぱりであり、感動も何もあったものではない。

 とはいえそれは映画に対してのもので、感動自体は胸に溢れそうなほど抱いている。

 士道に途轍もなく深い愛情を感じさせてくれた、心のオアシスたる四糸乃のおかげで。

 

『……あと一回だけ、って言ってからがずいぶん長かったわね……結局何回出したのかしら? 途中から飽きて観るのを止めてたから、私には分からないわ……っ』

 

 士道の謝罪に対して返ってきたのは途中から完全に存在を忘れていた琴里からの呆れ。

 しかし微妙に切れ切れで若干息が上がっているように思える喋り方だった。

 士道と四糸乃が交わる姿に興奮を覚え息が荒くなってしまったのか、あるいは……。

 

「良いんです……士道さんが満足して幸せになってくれたなら、頑張って耐えた甲斐がありますから……」

 

 未だ朱色に染まったままの白い肌に玉の汗を浮かべる四糸乃は、健気にもにっこりと笑いかけてくる。

 終始声を上げず懸命に堪えていたのだから、疲労は相当なもののはずだというのに。

 こんなに深く愛されていることに対して感動を抱かない男などいるはずがない。

 

『いやー、それにしても士道くんったらチャレンジャーだよねー。普通はトイレの個室とかから始めるのに、いきなりこんな開けた場所でヤりまくるなんてさー。まるで誰かにそそのかされたみたいだよねー?』

「よしのん、やっぱりお前気付いてるな……」

『そりゃあこんだけ不自然な状況なら誰だって気付くよー。四糸乃は余裕がなかったから気付いてなかったみたいだけど』

 

 ちらりと士道の両耳に視線を向けてくる『よしのん』。

 インカムを装着している側だけでなく両方に視線を注ぐ辺り、どちらに装着しているかは把握していないのだろう。

 つまり『よしのん』と視覚を共有している四糸乃はインカムの有無に気付いていない。

 とはいえ緊張感や羞恥心で周囲の状況の不自然さに気付けていなかっただけで、落ち着いた今では周囲の座席の空きようを疑問に思っているらしい。

 

「なぁ、四糸乃。一つ聞いても良いか?」

「……はい、何ですか?」

 

 できれば知らないままでいて欲しいので、誤魔化しも兼ねて肩を抱いて囁くように言葉を交わす。

 愛する人の腕に抱かれる喜びからか幸せそうに瞳を細め見上げてくる四糸乃。

 

「俺を愛してるから何をされても構わないって言ってたけどさ、本当にそれだけが理由なのか? お前の気持ちを疑うわけじゃないけど、普通はどんなに愛してる人の願いでもこんなこと受け入れないぞ? 特別な事情とか性癖みたいなものが無い限り……」

『誤魔化しても疑ってるようにしか聞こえないわよ、士道。四糸乃はあなたの唯一無二の心のオアシスだったはずなのにその愛を疑うなんて……良い感じに私好みに染まってきたわね。ふふっ……』

 

 士道が四糸乃の気持ちに疑念を抱いたと思っているのか琴里が嬉しそうに言う。

 残念ながらほんの少しも疑いがないとは言い切れない。

 四糸乃が宇宙の如く広く深い心と愛情の持ち主だということは知っているが、こんな人目につく場所で身体を許してくれる理由がそれだけではどうしても納得できなかった。

 何か他にとても深い理由がある気がしたのだ。

 

『んー、士道くんは四糸乃に羞恥プレイの気があるって考えてるのー? そりゃー見当違いだよー。確かによしのんが仕込もうと頑張ったけど結局教育には失敗しちゃったしさ』

「お前普段四糸乃に何やってんだよ、よしのん!? と、とにかく話を戻すけど、本当のところはどうなんだ? やっぱり何か特別な事情があるんじゃないのか? 例えば琴里に何か弱みを握られて強制されてるとか」

『本当にあなたはそれを疑ってるのかしら? 自分を偽るのは止めて正直になりなさい、士道。あなたが本当に疑ってるのは四糸乃の性癖なんでしょう?』

 

 優しさという名の誘惑を孕んだ、悪魔の甘い囁きが耳元に届く。

 もちろん士道は四糸乃がそんな痴女染みた性癖を持っていないと固く信じている。

 だが何らかの事情があるのは確実だった。

 

「あ、の……その……」

 

 何故なら四糸乃は微かに頬を染め、言いにくそうにうつむいてしまったから。

 

『ほら、きっと四糸乃はそういう歪んだ性癖の持ち主なのよ。大人しい顔して嫌らしい女よねぇ……これじゃああなたの心のオアシス失格じゃない?』

 

 ヤキモチからなのか嗜虐嗜好からなのか、琴里はどうしても四糸乃を貶め士道を苦しめたいらしい。

 だが琴里は勘違いしている。

 億が一四糸乃がそんな性癖の持ち主だったとしても、心のオアシスであることに変わりは無い。

 四糸乃に対して抱いているのはその程度で揺らぐような軟弱な愛情などではないのだから。

 まぁこれが琴里なら危ない性癖の多さにさすがに引いたかもしれないが。

 

『んー、四糸乃の想いを疑われるのはちょっと傷つくしー……仕方ないなー、特別に教えてあげるよ。黙っておくと四糸乃への好感度に悪影響出そうだしねー……』 

「今好感度とか言わなかったか、よし――」

『四糸乃はー! 本当に純粋に士道くんのためを想って、どんなことでも受け入れてくれてるんだよー!?』

 

 失言を誤魔化すように声を張り上げて答える『よしのん』。

 追求しても再び誤魔化すに違いないのでとりあえず流すことにする。

 

「俺のためって……それじゃあ今まで言ってたことと変わらないだろ? 俺を愛してるから何でも受け入れてくれるっていうことと」

『んふふふー、そうじゃないんだなー……四糸乃ー、せっかくだから四糸乃の口から教えてあげなよ』

「……士道さんは、いつも皆さんと出かけたり遊んだりして、凄く大変そうです……それなのに毎晩遅くまで七罪さんや琴里さんや、私の相手までして……眠る時間も休む時間もほとんど無くて、満足に疲れを取ることもできていません……」

『あなたが毎晩遅くまでヤッてるのは大概自分のためだけど、四糸乃は好意的に解釈してるみたいね。まさか自分達が性欲の捌け口扱いされてるなんて夢にも思ってないんじゃない?』

 

 諦めたように語り始める四糸乃の言葉に、琴里がふざけて茶々を入れる。

 しかし四糸乃は至って真面目な様子で言葉を紡いでいるので、それが例え琴里に対してであろうと口を挟むことは躊躇われた。

 もしも士道の予想が正しければ、四糸乃の想いに疑いを抱いてしまったことは恥知らずにもほどがあるから。

 自分の抱く四糸乃への愛情が霞むほどに、四糸乃は士道を愛してくれているから。

 

「そんな生活を続けていたら、いつか疲れやストレスで何か起きてもおかしくないです。私は士道さんの疲れを癒すようなことは、あまりできませんから……せめてストレスを感じさせずに、少しでも和らげてあげられればと思って……」

「だ、だから、俺の言うことには何でも従うことにしたのか……? ストレスが和らぐよう、ほんの少しでもストレスにならないように。たった……たったそれだけのために、ここまでさせてくれたのか……?」

「はい……私にできるのは、それくらいですから……よしのんも、そうした方が士道さんのためになるって言ってくれました……」

「よ、四糸乃……」

 

 最早開いた口が塞がらなかった。

 四糸乃は特別な事情も性癖も何も無く、ただ純粋に士道を想ってくれていたのだから。

 愛する士道が身体を壊してしまわないよう、一時でも心の安らぎを得られるように。

 そんな珍しくもない想いを、どこまでも一途に突き詰めて。

 

『何で精神状態を気遣うべき精霊に逆に気遣われてるのよ。情けないにもほどがあるってものじゃない』

『どーう、士道くん? 四糸乃の愛情の深さに感動して言葉も無いんじゃない? って、あー……また泣いちゃってるし……』

「し、士道さん? 大丈夫で――きゃっ!」

「……ごめんな、四糸乃ぉ! 本当はちょっとお前の気持ち疑ってた……お前はこんなに俺を愛してくれてる優しい子なのにその気持ちを疑うなんて、俺って本当最低だよなぁ……!」

『とんだ茶番ね。こんな三文芝居みたいな面白くもないエピローグは初めて見たわ』

 

 軽く嬉し涙を流してしまった士道は、気付けば懺悔しながら四糸乃を抱きしめていた。

 散々琴里に煽られ強制され試された末に生じた本当に僅かな疑いとは言え、自分は何故こんなに優しくて愛情深い子の想いを疑っていたのだろうか。

 七罪も士道に対して同じ疑いを持ってしまったらしいが、まさか自分が同じ状況に陥るとは思ってもいなかった。

 

「私は気にしていませんから泣かないで下さい、士道さん……疑っていたって隠さず正直に言ってくれて、むしろ嬉しいくらいですから……」

「よ、四糸乃……っ!」

 

 あろうことか四糸乃はこんな酷い男を許してくれた。

 気持ちを疑い愛を試し、こんな場所でほぼ裸に剥いて身体を弄んだ罪深い男を許してくれた。

 それどころか士道の頭を胸に抱き寄せ、慰めるように優しく撫でてくれる。

 恐る恐る視線を上げ表情を窺ってみると、そこにあったのは愛しさに目を細めた慈母のような微笑み。

 士道の視線に気付くとその微笑みは可愛らしい照れ笑いへと変わる。

 全てを受け入れ包み込む慈母の如き優しさと愛情の持ち主である四糸乃は、まさしく癒しを与えてくれる唯一無二の心のオアシス。

 士道はこの時確信した。

 特別扱いは厳禁と言われても、こればかりは改めることなどできない未来永劫絶対不変の事実であるということを。

 

『……くっくっく、これで四糸乃はめでたく正妻の地位ゲットだね。全てよしのんの計画通りさ……』

『……何か今聞き捨てならない言葉が聞こえたわね。私を差し置いて誰がおにーちゃんの正妻ですって……?』

 

 良心の呵責に苛まれ弱った心を癒してもらっている最中、わざとなのか無意識なのか外野が邪な本音剥き出しな呟きを小さく零す。

 そんな腹に一物ある奴らとは違い、純粋無垢な心を持った四糸乃は士道が自ら離れるまでずっと頭を撫でてくれた。

 何の企みも裏もなく、慈しむような愛情深い微笑みを浮かべて。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局デートは映画館で猥褻行為に及んだだけで終了した。

 本当はデートを心から楽しみにしてくれていた四糸乃のために償いも兼ねて普通のデートを続けたかったのだが、四糸乃の身体が心配だったので切り上げて安静にさせるしかなかったのだ。

 本人は大丈夫と言っていたものの、極限の緊張感と羞恥心を堪えながら必死に声を抑え、溢れ出す士道の欲望を全て受け止めてくれたのだから大丈夫なわけがない。劇場を出るときの足取りは身体を支えてやらなければ崩れ落ちそうになるほど覚束なかった。

 士道と四糸乃が決して揺ぎ無い愛情で繋がっていることを琴里に思い知らせることに成功はしたが、四糸乃の純粋無垢な気持ちを踏みにじり辱めたという罪は消えない。

 そして気持ちを踏みにじることを命令し、強制させた琴里の罪も。

 

「さあ、復讐の時が来たぜ……!」

 

 だからこそ罪を償わせなければならない。

 真夜中の訪れを自室の闇の中で待ちわびていた士道は、時が来た瞬間すぐさま行動を起した。

 向かうは罪人に刑を執行する場所。

 表面上は士道の性欲が他の精霊に向かないよう仕方なく付き合ってあげていると言いつつも、実際には愛する士道と身体を重ね貪りあいたくて堪らない淫らな欲求を抱いている琴里の部屋だ。

 間違いなく自分が楽しむために士道の部屋と同じ防音、耐振処理を施したらしいので琴里との情事は大抵そちらで行うことにしている。

 そして今夜は琴里の番なので大人しくその部屋で待っていることだろう。

 実際部屋の扉を微かに開けて中を覗き込んでみると、ベッドに腰掛けた小柄な人影があった。

 暗闇に加えて少し距離があるせいで小柄な人影程度にしか認識できないが、こちらに気付いているような雰囲気は感じ取れない。精々そわそわしているように身体を揺らしているのが分かる程度だ。

 きっと性的な意味で士道と抱き合う時を今か今かと待ちわびているのだろう。本当に驚くほどエロイ奴である。

 一瞬呆れてしまうもすぐに気を引き締め、士道は素早く部屋の中へ突撃した。

 

「きゃっ――!?」

「覚悟しろよ、琴里! あれだけ四糸乃に酷いことさせやがったんだから、今日は朝まででも尻を叩きまくってやる!」

 

 そして小柄な人影へ肉薄し衣服と下着を捲り上げ、容赦なく這い蹲らせてお尻を叩く。

 

「ひゃあぁっ! やあぁぁっ! ひう、あぁぁっ!」

 

 バチン! バチン! バチン!

 剥き出しの肌が打たれる甲高い音が鳴り響き、同時に喘ぎ声が耳に届く。

 屈辱ではなく戸惑いに満ちた、琴里にしてはやたら瑞々しく可愛らしい喘ぎ声が。

 

「……ん?」

 

 不思議に思い這い蹲らせた小柄な姿の上半身の方へ目をやる。

 良く見ると髪は赤でなく青、しかも髪型はツインテールどころか結んですらいなかった。

 妙な胸騒ぎに見舞われながらその身体の左腕へ視線をやると――

 

『……襲い掛かっていきなりお尻ペンペンするなんて、よしのんの睨んだ通り士道くんったらSっ気たっぷりだねー。良いよー、今夜は予定を変更してこのままSMになだれこんじゃう?』

 

 ――そこには小さな右手で素振りを繰り返す『よしのん』の姿があった。

 つまり今さっきお尻を思いっきり引っぱたいてしまったのはクソ生意気で超がつくほどのサディストである琴里ではない。

 無限の愛と優しさを胸に秘めた唯一無二の心のオアシスである、四糸乃だったのだ。

 

「よ、よよよ、よし、よし、四糸乃!? 何でお前が……って、そうじゃない! ごめんな、四糸乃!? お前を叩く気はなかったんだよ! てっきり琴里かと思って……!」

「ぁ、うぅ……」

 

 予想外の事態に混乱しつつも、瞳の端にじんわりと涙を溜めた四糸乃の身体を支え起し必死に謝罪する。

 叩いたお尻を撫でてやるべきかどうか迷っていると、背後から聞き覚えのある嘲笑が上がった。

 

「あれだけ四糸乃を辱めておいてまだやり足りないなんて相当な鬼畜ね。仮にも私の兄なだけはあるわ」

「あれはお前がやらせたんじゃねえか! ていうか何で四糸乃がここにいるんだよ!? まさかお前四糸乃を身代わりにしたんじゃ……って、もしかしてこの状況……まさか……」

 

 扉の影に隠れていたらしい色気の無いパジャマ姿の琴里が姿を現したところで、ふと士道は気付く。

 真夜中の寝室に男一人に女二人。

 これと同じ状況が以前にもあった。

 その状況はとある行為を働くために『よしのん』によって整えられたものだ。

 まさかと思い視線を向けると、『よしのん』は小さな手を合わせて拍手していた。

 

『察しが良いねー、士道くん。これから四糸乃たちと4Pしようよー! 士道くんと四糸乃と、琴里ちゃんとで。あ、3じゃなくて4なのは今回はよしのんも参加させてもらうからだからね?』

「ああ、やっぱりな……」

 

 呆れを覚え額に手を当て、呻く士道。

 実際のところ呆れの対象は『よしのん』ではなく自分自身だった。

 何故なら『よしのん』の提案に呆れながらも、心が大いに浮き立っている自分がいるからだ。

 素晴らしい気分を味わえるが癖になって抜け出せなくなると困るのでずっと避けてきたのだが、お膳立てされると遠慮はむしろ失礼なので心から楽しんでしまいたくなってしまう。

 

「四糸乃の気持ちは分かってるからあえて四糸乃には何も聞かないけどさ……お前は何のために参加するんだよ、琴里。まさかSとかMとかだけじゃ飽き足らずそういう性癖まで持ってるのか?」

「馬鹿言ってんじゃないわよ。私はよしのんに頼まれて仕方なく付き合ってあげてるだけよ。丁寧に頼まれたから、ね……」

『そーそー。そしたら琴里ちゃんは快くオーケーしてくれたんだ。快く、ね……』

「琴里に言うこと聞かせるとかお前何やったんだ、よしのん……」

 

 短い手で口元を押さえ不適に笑う『よしのん』と、その様子を苦虫を噛み潰したような顔で睨む琴里。

 傍から見ると『よしのん』が琴里の弱みを握って無理やり従わせているような光景だ。というかそうにしか見えない。

 一体二人の間に何があったのだろうか。

 

『まー細かいことは事後にでもあまーく語り合おうよ。今は皆でエッチなパーティに勤しんで盛り上がろうじゃなーい。琴里ちゃんが嫌らしく乱れちゃう姿、よしのんとっても楽しみだなー……うへへへ……』

「ところでずっと疑問に思ってたんだけどよしのんって女の子……なんだよな?」

「どうでしょうね……二重人格っていうのは必ずしも同性の人格が芽生えるわけじゃないらしいけど……」

「よ、よしのんは……女の子、です……?」

『何でちょっと疑問系なのかなー、四糸乃ー……?』

 

 『よしのん』以外の皆の気持ちが一致した瞬間だった。

 とはいえ士道は今現在のいかがわしい状況を忘れてはいない。

 

「本当に良いんだな、四糸乃? 俺の自由にして良いなら、またあの時みたいに結構酷いことしちまうぞ?」

「……はい……士道さんが楽しんでくれるなら……恥ずかしくても、我慢します……」

「まぁ正直に言うとこんなことさせてくれるのは嬉しくて堪らないから嫌ではないんだけど……琴里はどうでも良いとして昨日の今日で四糸乃にそんなことやらせるのはちょっとな……」

 

 日付が変わったので映画館での出来事はギリギリ昨日の出来事だ。

 あれだけ酷いことをしておいて立て続けに(『よしのん』を入れて)4Pさせるなど不誠実にもほどがある。

 幾らお膳立てされた状況とはいえさすがに躊躇いを覚えてしまう士道だったが、『よしのん』が身を寄せ囁いてきた台詞によって躊躇いは吹っ切れた。

 

『……四糸乃と士道くんがあつーく愛し合う様を、今度は生で琴里ちゃんに見せ付けてやろうよー? いっそ琴里ちゃんは放っておいてさ、士道くんが欲しくて欲しくて堪らなくなるくらいヤキモチ焼かせるってのも面白いんじゃない?』

「良し。琴里は乗り気じゃないみたいだから放っておいて俺たちだけでしような、四糸乃? 昨日は色々酷いことしちまったし、その分いっぱい優しくしてやるから……」

「士道、さん……」

 

 絹の如く滑らかな蒼い髪を梳いてやりながら微笑みかけると、夢心地に染まった微笑みを返してくる四糸乃。

 お膳立てはされているが必ずしも二人一片に愛する必要はないのだ。

 士道の自由にして良いのだから、どちらか一人を最後まで愛しつくしてからでも別に問題はない。

 

「四糸乃を満足させられたらお前にもしてやるから、それまでお前はお得意の覗きでもしてろよ。我慢できなくなって俺にねだってきても、四糸乃を満足させてあげるまではお前には何もしてやらねぇからな」

 

 なので琴里は放置しておくことにした。

 士道に並び性欲旺盛である琴里にとって、悶々とした気持ちを耐え忍ぶこと以上に辛い仕打ちなどないはずだ。

 

「はっ、私たちに毎晩性欲を発散させてもらってる分際で何様のつもり? まあ良いわ、そこまで言うならじっくり鑑賞してあげる。あなたが四糸乃への優しさを忘れてけだものに変貌していく様をね」

 

 ベッドの端にリラックスした様子で腰かけ、飴を咥えて味わい始める琴里。

 腕を組んで余裕綽々の態度を見せているがすでに頬は若干赤く、むず痒さを堪えるように太股を擦り合わせている。

 冷静に考えてみると琴里は映画館で士道と四糸乃が愛し合う様をたっぷり目にしていたのだから、すでに放置プレイを行うまでもなく悶々としているのは明らかだった。

 信じがたいほどに愛情深く一途に想ってくれている四糸乃への辱めを行わせたことを、これからたっぷりと身を以って後悔すれば良い。

 

「俺のためにいつもこんなことさせてくれたりして、本当にありがとな。愛してる、四糸乃……」

「はい……私も愛してます、士道さん……」

『よしのんも愛してるよー、士道くん! さあ、琴里ちゃんは放っておいてよしのんたちだけで愛を育もう!』

 

 『よしのん』の露骨な放置プレイ宣言を皮切りに、士道は四糸乃(と『よしのん』)との交わりに堕ちていった。

 傍らから聞こえてくる飴が噛み砕かれる音を、ラブシーンのBGMにしながら。

 

 

 

 

 

 

 




 四糸乃は心のオアシス。異論は認めない。
 気のせいか四糸乃が最も正妻の座に近い感じになってしまった気がする……おかしいな、最初の方から七罪を正妻に仕立て上げようと画策していたはずなのに……。
 そもそも読んでくださっている方々には現時点で一体誰が正妻に見えているんですかね……。
 次回は当然エロ話。3Pなのか4Pなのか定義は曖昧。
 たぶん参加者の性格とかそういうもののせいで▲マークが必要になると思うんだ。現時点の書いた分だけでも明らかにアレだし……。

更新停止期間の執筆状況の進捗はどれくらいの頻度で活動報告に載せるべきか

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