※この作品はR-18です。

士道クリミナル   作:サイエンティスト

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 3ヶ月ぶりの投稿、そして何やら怪しげなタイトル。でもここで言うトリップは旅行の意味なので危ない方のトリップじゃないです。
 本当はトラベルを使おうと思いましたが、記憶が正しければ凜祢ユートピアか或守インストールの琴里エンドで使われていた気がするのでやめました。ちなみにタイトルは極力重なったりしないように選んでます。媒体が多くて確認しきれませんけど……。
 今回は遂にあの人が登場! でもここまで読んでくれてる人たちはたぶん重度のロリコンだからあんまり関係無いかな……。




〇七罪トリップ

「本当に来ちゃったわね。二人きりの旅行……」

 

 旅行先に足を踏み入れると同時、隣の七罪が感慨深そうな声を漏らす。

 冬休み最後の日、その普段なら夕食を終えた時間。士道は琴里の課したリハビリを無事(と言って良いのかどうかはともかく)乗り切った七罪へのご褒美である二人きりの旅行に来ていた。 

 ただし旅行といっても観光の類ではない。数多くの人々が集まる所に七罪が行きたがるわけもなく、今回訪れたのは二人っきりでゆっくり羽を伸ばせるであろう小さな温泉旅館だ。

 

「一泊二日で朝には帰らないといけないけどな。俺その日は始業式だし」

「そんなきついスケジュールなら何で一緒に来てくれたのよ。別に断っても文句言わないわよ? その、今までみたく……一緒にいてくれるなら……」

「俺も行きたかったからに決まってるだろ。お前と二人っきりの旅行に。今までずっと会えなかったお前と人目も気にせず一緒に過ごせるんだからさ」

 

 僅かに頬を染めて無欲な言葉を口にする七罪に手を伸ばし、士道はその頭を優しく撫でる。

 赤みがかった頬が微かに緩み上目遣いに見つめてくる瞳の鋭さが和らぐものの、やはりこの程度では軽い微笑み程度で笑顔と言えるほどのものにはならない。これが四糸乃なら見ているだけで心が安らぐほど幸せそうな笑顔を浮かべてくれるのだが。

 

「……あと学校が始まる前に温泉で日頃の疲れを癒すのも良さそうだしな」

「あ、本当はそっちが目的でしょ?」

 

 理由を付け足した途端、一気に不機嫌そうに細められる七罪の瞳。ジト目で見上げてくる様子はそれはそれで実に可愛らしかった。

 

「ははっ、バレちまったか。ほら、過ごせる時間は短いんだから早速温泉に入りに行こうぜ」

「ん、そうね……でも、人目を気にせずっていうけど本当に人目は無いのかしらね……」

「ああ、その辺は心配しなくて大丈夫だ。俺たちのこと覗いてても今更何か目新しい発見があるわけでもないし、そんな無駄なことに時間を費やしたりはしないだろ。ていうか覗いてても焼きもち焼くだけだろうしな……」

「あー、でしょうね……」

 

 納得したような声を漏らし、若干苦い顔で頷く七罪。七罪には琴里が相当なやきもち焼きであるということを具体的なエピソードを交えて話してあるので、二人きりの旅行を覗いていればどれほどのやきもちを焼くか考えてしまったのだろう。

 もしもこの旅行が琴里に秘密のものだったとしたなら想像するのも恐ろしいほど焼かれそうだ。具体的には精神的にも肉体的にも重度の火傷を負いそうなくらい。

 若干背筋が寒くなった士道は暖まるためにも七罪と共に温泉を目指して歩き始めた。普通は荷物を部屋に置きにいくのだが、ほとんど日帰り状態な上<フラクシナス>であっというまに連れてきてもらったので部屋に置きに行くほどの手荷物は無い。

 

「そういうわけで琴里の覗きを考えてるなら安心して良いぞ。それともやっぱりまだ不安か?」

「ん……ちょっと不安だけど別に良いわよ、もう。どうせもっと凄いところも覗かれてたんだし、今更これくらい何だってのよ」

「何か段々自暴自棄になってきてるな、お前……」

 

 諦めの境地に至ったような無心の表情で呟きつつ、士道の手を取り指を絡めてくる。少々微妙な所だがこれも前向きになりつつあると解釈できないこともない。少なくともこんな風に自然に手を握ってくるようになったことは大きな進歩だ。

 微妙な嬉しさを覚えつつ、士道はその小さな手を握り返して歩みを進めた。

 しばらくして辿り着いたのは温泉の脱衣所前。性別を記した青と赤ののれんがかかった入り口である。

 のれんは青が男で赤が女。士道はれっきとした男なので潜れるのは当然青ののれんの方だ。赤ののれんは肌色の桃源郷への入り口だが男が潜ることは決して許されないのだ。それが非情で残酷な世の理である。

 しかし貸切なのか<ラタトスク>謹製なのかはともかくとして、今この温泉旅館にいるのは士道と七罪のみだ。それも今や身体を許し愛し合う仲。故に七罪が了承さえしてくれれば、士道も赤ののれんを潜ることができる。

 いや、その場合はどちらののれんを潜ろうともそこに広がっているは正に理想郷だ。愛する少女との混浴という湯煙のパラダイスである。 

 

「っ……!」

 

 そんなわけで士道はお願いを試みていた。具体的には女湯に行こうと必死に手を離そうとする七罪の手を離さず握り、無言でひたすらに視線を注ぐという控えめな方法で。あまりがっつきすぎるのはどうかと思うのであくまでも控えめに。

 しばらく無言の競り合いが続いたものの、最終的には七罪の大きな溜息で決着がついた。

 

「まぁ、せっかく二人きりなんだし一緒に入るのは良いんだけど……大丈夫なの? あんた今まで女の子とお風呂に入って無事に済んだことほとんど無いじゃない」

「今はお前のフェロモンは抑えてあるしな。妙に身体を密着させたり洗いっことかしたりしなきゃ大丈夫だろ」

 

 やらかしそうなので自重して一緒に入浴することはほとんど無いものの、四糸乃や七罪と風呂を共にして無事で済んだ例は無いに等しい。大抵がそのままお風呂場エッチコース行きである。

 ちなみに琴里に対しては自重する必要が無いのでわりと一緒に入浴することは多めだ。というか向こうから仕掛けてくることもあるので油断できない。

 とりあえず大丈夫とは言ったものの、四糸乃や琴里は七罪のフェロモンどうこうに関係なく襲っているので実際の所は七罪を安心させて一緒に入浴するための方便だ。幸い二人きりのこの旅館ならどこでナニをしようとも咎められはしないし、誰かに見られる心配も無い。

 なのでぶっちゃけ士道としては七罪と一緒に入浴できるならその途中でどうなろうが関係なかった。むしろ受け入れてくれるなら欲望に身を任せて襲いたいというのが本音だ。

 

「なら、良いけど……私がお湯に浸かるまでは絶対入ってくるんじゃないわよ? 五分してから入ってきて。分かった?」

「ああ、分かった。それじゃあ大人しくここで待ってるよ」

 

 そんな士道の煩悩塗れな心境を知らず、頬を染めながら頷く七罪。たぶん服を脱いで裸になるところを見られたくないのだろう。いくら身体を許した仲でも最低限の礼儀は必要だ。

 赤いのれんをくぐって脱衣所に消えていく七罪の姿を、士道は笑顔で見送った。

 

「……悪いな、七罪。大人しく待ってると思ったら大間違いだぜ」

 

 そして大体三十秒くらいしてから赤いのれんをくぐり、脱衣所への戸を静かに開く。

 七罪には悪いが士道は最初から覗く気でいた。しかしそれも当然のこと。何せ一枚の戸を隔てて愛する少女が衣服を脱ぎ捨て素肌を晒そうとしているのだ。それも自分の身体に自信を持たない少女が。

 ならばここで言う最低限の礼儀とは欲望に従い覗くことしか無いだろう。でなければ七罪に失礼である。

 そんなわけで士道は緩む頬を必死に引き締めながら足音を殺して脱衣所に侵入し――

 

「――うおあっ!?」

 

 ――突如側頭部に衝撃を受けてたたらを踏んだ。

 頭の中を謎の衝撃に対する疑問で埋めつつそちらに目を向けると、あろうことかそこには脱衣かごを構え鋭くこちらを睨みつける七罪がいた。着替え途中で覗かれたことを怒っているのかと思いきや、そもそも衣服を一枚も脱いでいなかった。

 

「やっぱ覗きにきたわね。じっとしてられないなら身動きもできない何かにしてあげるけど? それとも女湯に合法的に入れる身体にして欲しい?」

「わ、分かった! 大人しく待ってるからそれだけは勘弁してくれ……!」

 

 女湯に入れるとしても本物の女の子にされるのはさすがに勘弁だ。そういうのはもう女装だけで十分間に合っている。

 形勢の不利を悟った士道は非常に残念だったがここは大人しく退散しておいた。例え相手が士道だからだとしても、自分の脱衣シーンが覗かれるであろうことを予想できるほど七罪が自信をつけてくれたことを喜ばしく思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふー……良い湯だな。身体が芯からあったまるぜ……」

「ん、そうね。お風呂も良いけど温泉も気持ち良いわね……はふぅ……」

 

 星空の見える露天風呂の中で背を向けあい、全身に染み入る暖かさに一息つく。

 七罪の脱衣シーンが見られなかったばかりか、残念ながら湯に浸かってからもその裸体を拝むことは許されなかった。おまけに身を寄せ合うことすら禁止されるという徹底振り。どうも士道の大丈夫は全く信用されていないらしい。

 これだけならまだしも泳げそうなほどに広いせいで狭さにかこつけて身を寄せることもできず、完全にお預け状態だった。

 たださすがに七罪もそれは不憫だと思ったのかお情けで手は握らせてもらえた。しかし依存しているのは七罪のはずだというのに、何故こちらの方が触れ合いを求めてしまっているのか不思議だった。やはり一緒にいられるだけでも七罪は十分幸せであり、男である士道はどうしても肉体的な接触を求めてしまうのだろう。

 

「それにしてもお前よく俺が覗きにくるって分かったな? 明らかに待ち構えてただろ」

「もう士道の行動パターンくらいお見通しだし。どんだけセクハラやら悪戯やらされたと思ってんのよ……」

「そりゃそうか。お前の反応見たいがために色々やらかしたしな……」

 

 お情けで繋いでもらっている手をギリギリと締め上げられながら、士道は今までの所業を振り返る。

 普段の生活でのからかいなどはさておき、二人きりでいる時に空気も読まずに身体を撫で回したりキスをしたりというセクハラは日常茶飯事といっても差し支えない。無論それらは七罪のフェロモンに当てられ抑えが効かなくなったためという仕方の無い理由もあるのだが、反応を見たい気持ちもあったのは確かだ。

 とはいえフェロモンに当てられることのなくなった今では半ば反応を見るためにセクハラしてしまっている節もあるのだが。

 

「悪かったな、七罪。今度からはパターン読めないようにもうちょっと捻ったことするぜ」

「やめるんじゃなくて方法変えるだけ!? 全然反省してないわね!?」

「誰も反省してるなんて言ってねぇだろ。お前の可愛い反応が見られるんなら反省も後悔もしないぜ。例え変態と罵られてもな!」

「何でそこまでの覚悟でわざわざ私を弄繰り回すのよ!? この変態!」

「ははっ、他の奴ならともかくその変態が大好きな奴に言われても痛くも痒くもないぜ! むしろ照れ隠しに思えて余計に可愛く思えるくらいだ! 本当に七罪は可愛いなぁ!?」

「可愛い可愛いうるさいのよさっきからああぁぁぁぁぁ! もう男湯行きなさいよおぉぉぉぉ!」

 

 背後で咎めるような叫びが上がり、暴れているのか派手な水音と水飛沫が届く。

 顔を赤くしてどうしようもなく頬を緩ませているのは手に取るように分かった。惜しむらくは振り返ってその様子を見られないことだ。無理やり見られないことも無いが本物の女の子にされるのは怖いので無しである。

 

「全く……たまにはそういうの無しで過ごせないわけ? ていうか四糸乃にもこんなことしてるんじゃないでしょうね?」

「四糸乃にはしてねぇよ、四糸乃には。別にこんなことしなくたって普段からちょっとしたことで可愛い反応してくれるしな。そもそも苛める気も起きねぇし」

「まぁそうよね。ていうか元からこれ以上無いくらい可愛いし」

 

 完璧に納得いった様子の口調で頷く七罪。七罪にとって四糸乃が可愛いというのは純然たる事実らしい。

 できれば四糸乃の可愛らしさを口にしたことに対して、ほんの少しでも焼きもちを焼いて欲しいものだ。とはいえ黒琴里並みの間違いかつ過剰なやり方で焼きもちを表現されても困るが。

 

「ああ、俺も四糸乃はこれ以上無いくらい可愛いって思ってるぞ。けど一応言っておくとお前も四糸乃と同じくらい可愛いと思ってるからな?」

「っ!? え、な、何!? 今何か馬鹿みたいなこと言わなかった!?」

「いや、馬鹿なことは言ってないだろ。お前も四糸乃と同じくらい可愛いって思ってるって言っただけじゃねぇか。信じてないみてぇだけど本当だからな?」

「あ、う……ぁ……!」

 

 単なる可愛いという誉め言葉に七罪は過剰なまでに驚きを示したかと思うと、今度は言葉に詰まって小さな呻きを零している。

 今までにも可愛いと言ったことは(からかうためのものも含めて)数多くあるものの、何やらいつもとは多少反応が異なる気がした。主に呻き声が幸福いっぱいの吐息を無理やり噛み殺している感じだ。背後から伝わってくる雰囲気はまるで満面の笑みを必死に引き締めようと懸命に努力しているかのようである。

 

「七罪、もしかしてお前今笑って……?」

「ちょ、こ、こっち見るんじゃないわよ!? 今こっち見たら絶対に女にしてやるわよ!」

「あ、ああ、分かった。見ないから落ち着け……」

 

 笑顔見たさに振り向きかけた士道は七罪の怒声にすんでの所で視線を戻す。

 確かに笑顔は見たいが本物の女の子になってまで見たいかと言われると僅差で否定するところだ。しかし女装くらいで見られるなら十分にその価値はあるだろう。もっとも自分からそれを進言してまでかと言われるとやはり微妙なところである。

 

「そ、そういえば言ってなかったわよね? 実はこの旅行に四糸乃も誘ってたのよ。四糸乃は何でか途中で挫折しちゃったみたいだし、良かったら一緒に来ないかって」

「そうなのか? でも来てないってことは四糸乃は断ったんだな」

 

 明らかに誤魔化しとしか思えない唐突な話題転換。指摘してやりたいところだがさも誤魔化せているかのような口調だったのでそっとしておいた。

 

「うん。初めての士道との旅行だから、二人きりで楽しんできて欲しいって。そんなこと笑顔で言われたらそれ以上何も言えないじゃない……」

「まぁ四糸乃ならそう言うだろうな……もう一度チャンスがあったら、今度は一緒に四糸乃も連れて来ようぜ?」

「うん。あ、でもその時は混浴無しよ?」

「えっ……い、いや、そこを何とか頼む……」

 

 あまりに無情な言葉に絶望を覚え、思わず情けない声でお願いしてしまう士道。しかし返ってきたのはまたしても無情な言葉であった。

 

「駄目に決まってるでしょ。女の子二人と混浴とか士道が抑えられるわけないでしょ。そもそも襲わなかったことの方が少ないんじゃない?」

「ば、馬鹿にすんなよ。さすがにそんなことは……そんなことは……」

 

 反射的に答えつつ思い返していくと、自然と言葉は尻すぼみになっていく。四糸乃や七罪と一緒に入浴した回数自体は少ないので、疑問を否定できないことにはすぐに気がついてしまったのだ。

 琴里とのことを含めればどうかと一瞬考えたものの、ここ四日間のお風呂場での事情を考えるとむしろ逆効果だった。あいつは本当にケダモノである。

 

「はぁっ……分かったよ。四糸乃と一緒に来る時は俺は一人で男湯に行ってりゃ良いんだな?」

「ん、どうしても一人が嫌って言うなら女の身体でなら考えなくも無いけど」

「何かさっきから女体化推してんな、お前!? そんなに俺に恨みでもあんのか!?」

「や、逆に何で無いって思ってんのかが不思議なんだけど……」

 

 背後からご機嫌斜めな声をかけてくる七罪。どうやらスキンシップという名のセクハラや悪戯はお気に召さなかった様子だ。まぁ純粋に愛しさが暴走しての行動ならともかく、からかうための行動も含まれているのだから当然かもしれない。

 

「と、とにかく! その時はちゃんと一人で入るって約束するからそれは絶対に止めてくれよ!?」

「さっき普通に約束破られたせいで全然信用できないけど、まぁ士道も女にはなりたくないだろうから今度は破らないって信じてあげるわよ」

「あ、ああ、それは助かる。女装はともかく本物の女になるのはちょっとな……」

 

 女の子の格好をするのと本物の女の子になってしまうのでは天と地ほどの差がある。というかそもそも七罪がその気になれば士道を本物の女の子にしてしまえるという時点で恐ろしい。いや、むしろ美九あたりにその力が無かっただけマシというものかもしれない。

 

「……けど、四糸乃と一緒に来ても一緒には温泉に入れないのか。お前の方は四糸乃とよしのんと仲良く楽しく入れるってのに、俺だけ一人で入るとか想像するだけで無茶苦茶寂しくなってくるよなぁ。それってちょっと不公平じゃねぇか?」

「……何が、言いたいのよ?」

 

 あえて聞こえるような大きさで不満を零すと、背後で微かに怯えた声が聞こえてくる。そんな反応を返してくるということは何が言いたいか、そして何をしたいか大体の見当はついているのだろう。にも関わらず予め断ったりしないあたり、少なくとも受け入れる気はあるようだ。

 安心した士道はゆっくり振り返ると、こちらに背を向け縮こまっている七罪の傍へと身を寄せた。

 

「いや、どうせなら何かその分埋め合わせでもしてもらいてぇなって思ってさ。別に四糸乃にしてもらっても構わねぇけど、お前がそんなこと四糸乃にさせるわけないもんな。だからお前が埋め合わせしてくれるんだろ?」

「あ、う、ぅ……」

 

 そして後ろから華奢な身体を両腕で抱きしめ、耳元で囁く。

 多少呻いて身体を硬くしているものの、予想通り七罪は抵抗を見せなかった。やはり一人ぼっちのお風呂を強制する以上、その埋め合わせをする気はあるのだろう。

 それならこちらが遠慮する道理はどこにも無い。せっかく自宅の風呂よりも開放的な気分に浸れる場所なのだから、むしろ楽しまなければ損というものだ。

 

「せ……せめて、その前に身体洗わせてくれない……?」

 

 首を横には振らず、七罪は腕に抱かれたままちらりとこちらを振り返り控えめにお願いしてくる。

 女の子としてはそういうことに臨む前にせめて身体を綺麗にしておきたいのだろう。この辺は四糸乃も大体同じような感じで、深夜の恒例行事はほとんどいつも湯上りの状態である。

 

「ああ、分かった。なら最初に俺が身体中綺麗にしてやるからな?」

「そ、そうじゃなくて自分で洗わせ――ひゃあぁぁ!?」

 

 とはいえ七罪の身体を隅から隅まで洗い尽くす楽しみを奪われたくは無い。

 士道は湯船の中から七罪の身体を抱え上げると、まずはその身体をたっぷり綺麗にしてやるために洗い場へと向かった。無論その幼い身体に泡を塗りたくる最中に抑えが効かなくなり、辛抱溜まらず襲い掛かってしまったことは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー……羽を伸ばしに来たはずなのに何かどっと疲れたんだけど、一体誰のせいなのかしらね?」

 

 一波乱終えて湯上り。ちょっと水分を失うようなことをしたばかりなので、士道は七罪と共に旅館の休憩スペースで喉を潤わせ涼んでいた。もちろん衣服は浴衣である。

 とはいえ実際に休んでいるのは七罪だけで、士道は温泉で弾けたお詫びに七罪の濡れた長髪の手入れの最中だ。タオルドライは自分で済ませたようなので軽く梳きながらドライヤーで少しずつ乾かしているだけだが、いわゆる穏やかな触れ合いを行っているせいか口調とは裏腹に七罪はご機嫌な様子である。

 

「そうだな。一番悪いのはたぶん俺をそこまで興奮させちまうような可愛い女の子のせいじゃねぇか? 言わないと分かんねぇかもしれないから言うけど具体的にはお前のことだぞ七罪」 

「え、あ、ごめん……って、騙されないわよ!? 百パーセントあんたが悪いじゃない! 何で私のせいにしてるわけ!?」

「とか言いつつ一瞬丸め込まれかけてたろ、お前。ちゃんと自分が可愛いって理解してきてるんだな、よしよし」

「そ、それは士道にとっての話で、別に私自身は……うぅ……」

 

 手入れの手を止め頭を撫でてやると、途端に顔を赤くして大人しくなる七罪。

 どうやら反射的なものでも自分を可愛いと認める発言はまだまだハードルが高いようだ。この様子では慣れさせるためにもっともっと可愛いと褒めて褒めて褒めちぎる必要があるかもしれない。決してからかうことが目的ではなく。

 

「……ていうか、可愛い可愛い言う割にはさっきはすぐ止めたわよね? いつもはもっとガッツリやるくせに珍しいじゃない」

「今日はせっかく二人きりの旅行なんだぜ? 時間をかけて温泉でそういうことして終わりだけなんて勿体無いだろ。二人きりで送り出してくれた四糸乃にも悪いし」

 

 意外そうな瞳を肩越しに向けてくる七罪に対して、髪の手入れを再開しつつ答える士道。

 温泉では一波乱あったものの、実際には(普段に比べれば)それほど長時間行為に及んだわけではない。せっかく二人きりの旅行という貴重な時間なのだから、四六時中性行為に耽って時間を無駄にするなど論外だ。そもそも純粋無垢な気持ちで二人きりの時間を楽しんで欲しいと願ってくれた四糸乃にも申し訳ない。

 まぁここ最近どこかの誰かと四六時中性行為に耽って過ごしたような気がしないでもないが、それはたぶん気のせいに違いない。

 

「ん、そうよね。またいつこんな機会があるか分かんないし、変なことしてないでちゃんと楽しんでおくべきよね」

「ああ。ていうわけでこれ終わったら卓球でもやろうぜ? もちろん勝負形式でな。がっつり身体動かしてもう少し発散してぇし……」

 

 温泉では大体一時間くらいしか過ごさなかったので性欲は満たされているとは言い難い。その欲求不満を運動に向ければ少しは解消してくれるはずだ。

 動機がちょっと不純な気もするがそれは慣れっこなのか、七罪は気にした様子も無く挑戦的な視線を向けてきた。

 

「ん、温泉で卓球って結構定番よね。良いわよ、やってやろうじゃない」

「お、珍しくやる気だな七罪。言っとくけど手加減はしねぇからな?」

「それはこっちの台詞よ。吠え面かかせてやるから覚悟しときなさい」

 

 そして威勢の良い啖呵まで切る七罪。

 どうやら四糸乃の気持ちを無駄にしないためにもこの時間を心行くまで楽しむことに決めたらしい。きっと七罪自身には微かな遠慮があったはずなので、気老いなく楽しんでくれるのなら嬉しい限りだ。士道はその嬉しさに頬が緩むのを感じた。

 

「あ、そうだ。旅行を普通に楽しむのが目的なら今夜は普通に一緒に寝るだけとか……あ、ごめん、何でもない。好きにして良いからそんな捨て犬みたいな顔するんじゃないわよ……」

 

 そして七罪の台詞で絶望の表情が広がったのを感じた。少なくとも七罪に気遣われる程度にはショックを受けている顔だったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――そこだ!」

「わわっ!?」

 

 卓球台の隅を狙った士道の一撃が見事にヒットし、ちょうど反対側にいたせいで対応が間に合わずラケットを空ぶりしてしまう七罪。

 卓球はとある事情により終始士道が圧倒していてほぼワンサイドゲームになっていた。今の時点で七罪は三点、士道は十一点で1ゲーム目終了だ。

 

「良し、これでゲームセットだな。この調子だと二ゲーム目で決着つきそうだぜ、七罪?」

 

 余裕の笑みで笑いかけつつコートチェンジを行う士道。

 ルールは三ゲームズマッチで行っているので、次のセットを落としてしまえば七罪の負けだ。この調子ではあっさり決着がついてしまうだろう。

 七罪もそれが分かっているのか、かなり複雑そうな表情で士道に視線を向けてきた。具体的には威勢の良いことを言っておきながら、悔しさを堪えて手加減を求めるかのような視線を。

 

「ね、ねぇ士道? その、ちょっとくらい……」

「ん、どうした七罪? まさか吠え面かかせてやるとか言ってた癖に手加減しろとかハンデよこせなんて言わないよな?」

「う、ぐぅ……」

 

 図星だったせいか七罪は悔しそうに歯噛みし、無言で大人しくコートチェンジを行う。とはいえ七罪が前言を撤回してまでハンデを求めたくなるのも仕方の無いことだろう。何故なら七罪はついさっきまで士道にたっぷりねっとり攻められ疲労が溜まっていて不調のはずなのだから。

 本来は動いていた士道の方が疲労は溜まっているはずだが、毎晩に渡る経験とどこぞの底無しのケダモノのおかげでだいぶ鍛えられているので最早この程度は屁でもない。要するに七罪だけが絶不調の状態でこの勝負が始まったのだ。むしろそんな状態で三点取れるほど疲労に慣れてきていることを褒めてあげるべきだろう。

 

「さぁ、二ゲーム目始めようぜ。今度は俺のサーブからだ。行くぜ!」

 

 だからといって真剣勝負で手加減をするなど相手に失礼だ。

 なので士道はピンポン玉を高く放り投げると、思い切りラケットを振りかぶった。

 

 

 

 

 

 

 

 真面目半分面白半分の苛つく表情で七罪に相対し、今まさにサーブを放とうとしている士道の姿。

 一晩中ぶっ通しで身体を動かせる士道とは違い、七罪はさっきの温泉の一幕ですでにかなりの疲労が溜まっている。以前まではかなり激しかったので若干の慣れもある今の七罪にとっては動けなくなるほどではないものの、さすがに思い通りの動きをすることはできなかった。具体的には目で反応できても身体が追いつかない。そのせいで士道の左右に振る嫌らしいレシーブについていけず、幾度も失点を重ねてしまった。

 このままでは二セット目も同じ結果にしかならないだろう。かといって今更手加減を求めるのも悔しいし、何より七罪が右往左往してラケットを空ぶりさせる姿を見てほくそえんでいる今の士道が手加減してくれるわけもない。勝ちたいのなら七罪は体力と疲労というハンデを覆すしかないのだ。それも自分の力だけで。

 普通の人間ならそれは非常に難しい状況だが、幸い七罪は人間ではなく精霊だ。その上とても便利な力を持っている。

 なので七罪は自らの力を用いて対抗することにした。具体的には男なら誰でも引っかかるような方法で。

 ただしロリコンの気がある士道に通用するかは、ほんの少しだけ不安だったが。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宙に放り上げたピンポン玉がゆっくりと速度を落とし、ほんの一瞬その場に留まる。それを認識した士道は落下を開始したところへぶち当たるようラケットを水平に構え、狙い定めて振りぬこうとした。

 

「なっ――!?」

 

 しかし相手コートに視線を向けた瞬間、予想外のものを目にして驚きに凍りついた。当然の如くサーブには失敗し、ピンポン玉は台の上で二、三回跳ねてから転がり落ちる。

 真剣勝負の最中に凍りつくほど集中を乱すとは到底考えられないことだが、今回ばかりは当然の反応だ。何せちょっと目を離した隙に対戦相手が全くの別人に代わっていたのだから。

 それも男なら誰しも見とれてしまうであろう、スタイル完璧な絶世の美女に。

 つまりは大人の姿をした綺麗な七罪お姉さんに。

 

「ふふっ、どうしたの士道くん? サーブを失敗するなんて何かおかしなものに気を取られちゃったのかしら?」

 

 未だ凍りついたままの士道の姿をくすくすとおかしそうに笑う七罪お姉さん。その笑顔はとても可愛らしい自然なものでそこは好感が持てるのだが、他の場所はあざといほどに嫌らしすぎて全く好感が持てなかった。

 何せ今の七罪お姉さんはお風呂上りの浴衣姿だ。裾から覗く肉付きの良い太股や、大胆に曝け出された胸の谷間は目を釘付けにして離さない。おまけに上気した肌にうっすら汗を浮かばせ、白いうなじを見せ付けるように髪をアップに纏めているのだからあざといどころの騒ぎではない。

 こんな状態で卓球をするなど存在そのものがラフプレーである。無論七罪側がそれを狙っていることなど考えずとも分かった。

 

「お、おい、卑怯だぞ七罪! そんなあざとい真似してないで真面目にやれ!」

「あら、あざとい真似って何のこと? 私はただ身長差やリーチを埋めようとしてるだけよ。士道くんが手加減してくれないから私も本気を出さなきゃ負けちゃうもの」

「ぐっ……もっともらしいこと言いやがって……」

 

 誘惑しているのか挑発しているのか判別し辛い微笑みを浮かべ、軽くラケットの素振りをしている七罪。

 その動きに合わせてミニスカートのようになった浴衣の裾が軽く捲れて太股を散らつかせ、豊かな胸の膨らみが今にも浴衣から零れそうに揺れ動く。憤りながらも目の毒どころの騒ぎではない光景に士道は息を呑むしかなかった。

 

「さぁ続きを始めましょう、士道くん。ここからが本番よ?」

「くそっ……こんな卑怯な手を使う奴には絶対負けねぇからな。いくぞ!」

 

 こんなあくどい真似をする相手に屈する士道ではない。煩悩を振り払うように一旦頭左右に振ると、二度目のサーブを放つためにピンポン玉を宙へと放り上げた。

 そしてサーブの狙いを定めるために相手コートに視線を向け――

 

「――ちらっ」

「っ……!」

 

 ――浴衣の裾をほんの少しだけ捲り上げた七罪の太股に吸い寄せられ、サーブは不発に終わった。ラケットに見送られたピンポン玉はまたしても虚しく跳ねて台から落ちる。

 

「もうっ、士道くんったら。幾ら遊びでもこれはれっきとした勝負なのに……ちゃんと集中してくれなきゃお姉さん怒っちゃうわよ?」

「集中乱してるお前が言うな! 何だよさっきの精神攻撃!? 言っとくけどあんまりそういうあざといことやってると襲っちまうからな!?」

 

 頬を膨らませてご機嫌斜めな表情をする七罪に力いっぱい言い返す。

 こんな青少年の純情を弄ぶ性質の悪い精神攻撃、いつまでも続けられたら頭がおかしくなる。具体的には理性が焼き切れて卓球台を飛び越え襲い掛かりたくなってしまう。

 それに今この旅館には士道と七罪しかいないのだ。例え今この場で襲いかかり卓球台をベッド代わりに欲望の限りを尽くそうとも、咎める者は誰もいない。七罪もそれは先ほどの温泉の一幕で嫌というほど理解しているだろう。

 

「ふふっ、私は構わないわよ? 士道くんになら、いつ、何をされても……」

「えっ……」

「士道くんはいつも小さな女の子しか相手にしていないものね。たまには大人のお姉さんとそういうこと、してみない?」

「い、いや、それは……」

 

 卓球台に身を乗り出し、明らかに誘惑してきている七罪への返答に詰まってしまう士道。

 確かに七罪の言う通り、今のところ士道は見た目幼い女の子としか身体を重ねていない。未成熟な果物ばかりを食べていて大人のお姉さんという良い感じに熟した女の子を食べたことなど一度も無いのだ。

 無論七罪にお願いすればさせてくれるであろうことは知っていたのだが、そんな本当の七罪自身を否定するようなお願いなど一度もしたことは無い。

 しかし七罪自身が自らの意思で変身し、自ら迫ってきた場合はどうだろうか。据え膳食わぬは男の恥と言うし、何より女性にそこまでさせておいて断るなど失礼極まる行為だろう。ここはやはり、七罪の意思を汲み取って受け入れた方が――

 

「――えいっ!」

「え……ああっ!?」

 

 頭の中で様々な思考を巡らせていた士道はそんな可愛らしい掛け声で現実に引き戻され、身体の横を素早く通過していったピンポン玉でしてやられたことに気がついた。

 

「ふふっ、油断したわね士道くん。これで三点目よ?」

「こ、この大嘘つき! 一瞬本気にしちまったじゃねぇか!」

 

 ニコニコ笑顔ではしゃぐ七罪を睨むものの、完全に術中に落ちていた事実に居心地の悪さを隠せなかった。

 もう経験の無い男ではないというのに、あんな初歩的かつ単純な罠に引っかかってしまうとは情けない。もし琴里が今のやり取りを見ていれば大いに士道を嘲笑っただろう。

 

「あら、別に私嘘はついてないわよ? 士道くんが望むなら、今ここで抱かれたって構わないもの。それなのに嘘つき呼ばわりなんて心外だわ」

「え……本当、なのか?」

「ええ、もちろんよ。士道くんのお願いなら私は何だって聞いちゃうわ。私にたくさんの幸せをくれてる大好きな士道くんを喜ばせることができるなら、私にできることは何でも、よ?」

 

 にっこりと慈愛を感じる笑みを浮かべて答える七罪。その笑みはどことなく四糸乃に似ている気もする。

 恐らく七罪の言葉は真実なのだろう。少なくとも今の七罪は、士道が喜ぶのなら本当に何でもしてあげたいと思っているのだ。その辺りの思考もどことなく四糸乃に似ているせいか、疑うことそのものが許されない気になってくる。

 

「士道くんはちょっとロリコンの気があるみたいだけれど、別に女らしい身体つきが嫌いってわけじゃないのよね? こんな風に、おっきな胸で色々してあげたら喜んでくれる?」 

「い、色々……」

 

 しかし慈愛一辺倒の四糸乃とは異なり、お姉さん状態の七罪はその中に色気を混ぜてきた。誘うように婀娜っぽく瞳を細め、胸を寄せてその大きさと柔らかさを強調しながら。浴衣からは今にもその膨らみの全貌が露になりそうだ。

 夢のような光景と素敵な言葉に、士道は思わずごくりと唾を飲む。

 

「――隙ありっ!」

「うああっ!?」

 

 そしてまたしても同じ手を食わされてしまった。

 経験の無い男ならこの色気に呑まれても仕方ないと言えるが、幸福というべきか残念というべきか士道はたっぷり経験のある大人の男だ。どんな嘲笑や罵倒を受けても最早言い返すことはできない。

 

「やったぁ! これで四点ね、士道くん。一度も打てないなんてもしかしてさっきのゲームは全部まぐれだったの? それとも本気を出した私が強すぎるだけなのかしら?」

「う、ぐぅ……馬鹿にしやがってえぇ……!」

 

 流し目で挑発してくる七罪に、思わず普段の七罪がちょっとキレた時のような言葉を搾り出してしまう士道。

 負けていることは勿論悔しいが、何よりも七罪に手の平の上で弄ばれている事実が妙に悔しい。いつもは士道の腕の中でされるがままになっているのに、外見が変化しただけでこの始末だ。これは少々お灸を据えてやらなければ。

 

「覚悟しとけよ、七罪! こっからは俺も本気でいかせてもらうからな!」

「ふふっ。その意気よ、士道くん。いつもみたいに私を楽しませてね?」

 

 余裕の笑みを浮かべる七罪を前に、意気込みも新たにラケットを構え直す。童貞ではないのだからこの程度の色仕掛けに参っていたら琴里に散々馬鹿にされてしまう。

 気を紛らわすために素数や円周率を唱えつつできる限り七罪の身体から焦点をずらすという方法を用いて、士道は卓球勝負を再開した。

 しかし男とは荒ぶる性欲に支配される哀れな生き物。

 

「――ちらっ」

 

 七罪が浴衣の裾を思わせぶりに捲り太股を露にすると否応無く視線がそこへ向き、レシーブは空ぶって失点を重ねる。

 

「ふぅ……何だか熱いわね。士道くんと私以外誰もいないんだし脱いじゃおうかしら?」

 

 七罪が浴衣の胸元を緩めて豊かな膨らみを揺らすと視線は釘付けにされ、手元が狂ってサーブはあらぬ方向へ飛んでいく。

 

「やんっ、帯が解けちゃったわ――ていうのは嘘よ、士道くん。えいっ!」

 

 七罪が言葉巧みな精神攻撃を仕掛けてくるとどうしても目がそちらを向き、その隙を狙ったサーブに反応できず素通りされる。

 一ゲーム目は士道のワンサイドゲームだったが、二ゲーム目は逆に七罪の天下で一点も取り返すことが出来ず完封されるという衝撃の結果に終わった。

 冷静に考えてみれば士道が相手にしていた女の子は全員年端もいかない少女なため、愛らしさなどが先立って大人の色気はあまり感じられない。唯一黒琴里がそれっぽい雰囲気を漂わすものの、やはり見た目は少女なので今の七罪が漂わす大人の色気には遠く及ばない。やはり本物(見た目は)の女の色気は別格なのだろう。

 

「もうっ、士道くんったらちゃんと本気でやってるの? ミスしてばっかりで全然やる気が感じられないわよ?」

「誰のせいだ、誰の……!」

「ふふっ、もちろん私のせいよね。士道くんの大好きな私が、こんなに魅力的すぎるスタイルをしてるのがいけないんでしょう? ほーら……」

 

 ニヤニヤと笑いながら浴衣を二の腕まではだけ、露になった膨らみを片腕で覆い隠している七罪。押し付けられた腕がその膨らみに沈んで形を変えさせている光景が感触を想像させ、容赦なく欲望を掻き立てる。

 四糸乃が純粋な気持ちから七罪と士道を二人きりにさせてくれたという話と、七罪自身も純粋にこの時間を楽しみたがっていた事実を知らなければ、とっくの昔に士道は七罪を押し倒して自前のラケットで三十ゲーム分くらいは一方的な試合をしているところだ。

 

「あーもういい加減にしやがれ! あんまりそういうことやってると嫌いになっちまうぞ!」

「えっ……」

 

 そろそろ煩悩がヤバイので何としてでも止めてもらおうと思い言い放ったのだが、どうも言ってはいけない類の言葉だったらしい。今まで余裕の笑みを浮かべていた七罪の表情は一気に青くなっていった。

 

「あ、ご、ごめんなさい、士道くん……私ったら二人きりなのが嬉しくて、ちょっと調子に乗っちゃってたみたい……もうやめるから、嫌わないで……」

 

 そして途端にしおらしくなり、怯えを孕んだ目付きで願ってくる。

 見た目が変わり、性格が変わっても中身はやはり寂しがりの七罪なのだ。嫌われることに怯えているのは依然として変わりない。さっきのは琴里に股間を蹴り上げられようと文句を言えない失態だ。

 自らの失態を理解した士道はその汚名を返上するため、傷つけたお詫びをするため、七罪の元へ歩み寄ると――

 

「んっ……!」

 

 ――優しくその唇を奪った。

 

「っ……ぁ……ふ、あ……」

 

 幸せそうな喘ぎが零れるその唇は、あり得ないほどに瑞々しく柔らかかった。正に完璧という他に無い最高の口付け。変身して作り上げた身体の魅力は見た目だけではないのだろう。そのまま心行くまで貪りたい衝動に抗い、優しく慰める口付けを行うのはとても根性のいることだった。

 しかしその甲斐あってか、口付けを終えて至近距離から覗いた七罪の表情は夢心地に染まっていた。

 

「……本当に嫌ったりなんかしねぇよ、七罪。さっきのは冗談だ。ただあんまりそういうことされると四糸乃とか本当のお前が望んだみたいな過ごし方できなくなりそうだからさ、せめて今日だけはやめてくれないか?」

「……ええ、分かったわ。士道くんがそう言うのなら……」

 

 口付けで愛を感じさせ、決して嫌うことは無いという言葉を伝える。すると七罪は夢心地のまま素直に頷いてくれた。

 この様子だと一見対応はとても簡単に思えるが、実際の所問題はかなり根深い。理論的にはキスをすれば若干逆流している七罪の霊力は再び封印され、元の姿へと戻るはずなのだ。戻っていないと言うことは逆流の原因が払拭できていないということになる。やはり七罪は無意識下ではまだ嫌われることに対する怯えが生きているらしい。

 

「分かってくれたなら何よりだぜ。それとこっちもごめんな? 冗談でも嫌いになるとか言っちまって……」

「ううん、良いのよ。それくらいの罰は受けないと。せっかく私のためにエッチな気持ちを我慢してくれてる士道くんに酷いことをしていたんだもの。それに……士道くんの愛、さっきのキスでいっぱい伝わってきたわ。大好きよ、士道くん。心の底から、愛してるわ……」

「七罪……」

 

 幸せそうに瞳を細めた、とっても綺麗なお姉さんからの愛の告白。おまけにその細く長い指先で愛しそうに頬を撫でられる。

 自分で止めろと言っておいて何だが、猛烈に愛しさを掻き立てられたせいでこの場で七罪を抱きしめ心行くまで肌を重ねあいたい衝動がムラムラと湧き上がってきた。愛を告白してきたスタイル完璧な美女が腕の中に浴衣姿でいるという事実、そして何をしようと受け入れてくれるであろう事実。いっそこのまま欲望に身を任せてしまえたらどんなに幸せだろうか。

 

「……じゃあ早く続きを始めようぜ、七罪。三ゲーム目は確か俺のサーブからだよな。今度こそ負けねぇからな?」

「ふふっ。私だって負けないわよ、士道くん。士道くんにキスされていっぱい力を貰っちゃったもの。次のゲームも私が頂きよ?」

 

 しかし士道は泣く泣くその誘惑を振り払い、再び真剣な卓球勝負へと戻った。

 いつかその豊かな膨らみを心行くまで揉みしだき、喰らいついて欲望の限りを尽くすことを心に決めて。

 

 

 




 みんな大好き七罪お姉さん。基本七罪主体の話なのに30話以上続けてようやく出てきた不思議。まるで私が救いようの無いロリコンだとでも証明されているような感じですね。別にそこまで酷いロリコンじゃないのに……。
 それはともかく次回はこのお話の続きです。何だか妙に七罪を贔屓しているようなお話になっていますがたぶん気のせいです。

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