七罪主体のR18のはずなのに今回も非エロ話です。まあエッチなことしていればイチャついている、ということになるわけではないですし……。
「うああぁぁ……! あぁぁぁぁ……!」
白熱した卓球勝負を終え、宿泊部屋でくつろぐ時間。
座布団に腰かけテレビを見る士道の傍ら、七罪が赤い顔を両手で覆って床の上で悶え転げまわっていた。変身後の自分の行動や言動を思い出して後から来る恥じらいに苦しんでいるのだ。ベッドの上でも見慣れた光景なので、ちょっと心配だがその時と同じくそっとしておいてあげている。
卓球勝負は残念ながら士道の圧倒的敗北で幕を閉じた。一応七罪は約束どおり、青少年の純情を弄ぶ真似はせず真剣にやってくれた。
しかしその完璧なスタイルが仇となり、少し激しく動くだけで揺れたり捲れたりして見えそうになり、度々視線を惹かれた士道は二ゲーム目と同じく失点を重ねてしまった。あれは本人が意図してやったわけではないので、責めるに責められないのが何とももどかしい。そして攻めたくても攻めてはいけないのが何とももどかしい。
「いつもはこんな恥ずかしがり屋なのに変身するとあれだけエロイ真似してくるのは何でなんだろうなぁ……」
身悶えする七罪の姿を横目に見ながら、ぽつりと独り言を零す士道。
どう考えても琴里並みに性格が変わっているし、何よりこれ以上ないほど自分の魅力を熟知し自信を持っている。あの半分でも今の七罪にプラスされればちょうど良い感じになるのではないだろうか。
そんなことを考えているとやっと七罪が悶えるのを止め、よろよろと士道の方に這ってきた。
「はあぁぁ……うん、もう大丈夫。もう平気……」
「お、復活したな。ほら、お茶でも飲んで落ち着けよ。色々あって疲れただろうし、ここからはもうテレビでも見ながらゆっくりしようぜ?」
「うん。ありがと……」
隣へ腰を下ろした七罪へと暖かいお茶を勧め、何も無かったことにして優しく対応する。もうちょっと弄ってやりたいところだがさすがに気の毒なので自重することにした。
「ふぅ……それにしても、こうやって部屋でゆっくりしてると家にいる時とあんまり変わらないわよね」
「かもな。今は突然興奮させられることもなくなったから、お前とは部屋でゆっくり過ごしてることも多いし」
「そうね。時々変なとこ触られたり、いきなりキスされたりとか色々セクハラされることもあるけど」
妙に棘のある言葉を口にしながら、ジトッと横目で睨み上げてくる七罪。
セクハラしている理由の大半は七罪の反応を楽しむためというものだが、実はれっきとした真面目な理由も存在する。自分の外見に自信を持てない七罪に、常日頃から少しでも自信を持ってもらいたいから、というものだ。
以前まではフェロモンで半ば発情させられて勝手に襲いかかっていたので意識してやる必要はさほど無かったため、現在では意図的にちょっと過剰なくらいセクハラをかましているというわけである。ちなみに趣味と実益を兼ねているので心の底から楽しく行える行為だ。
「……こういう風にか?」
「ひあぁっ!?」
なのでこっそりと伸ばしていた手で浴衣の上からお尻を一撫でした。突然の状況再現に飛び上がる七罪。
「ちょ、ど、どこ触ってんのよ!? 誰も再現しろとか言ってないわよ!?」
「ん、嫌だったか? じゃあ触るんじゃなくてこっちの方にしとくか」
「っ、ん――!」
顔を赤くして怒りを露にする七罪の頬に手を添え、引き寄せるようにして唇を奪い黙らせる。
まぁ七罪も本気で怒っているわけではないので、優しいキスを繰り返すと手の平に伝わる頬の熱はすぐに落ち着いていった。とはいえさすがにセクハラ後の誤魔化しに似たキスでは応えてはくれなかったが。
「はぁ……やっぱり、全然変わらないわね。せっかく二人きりの旅行なんだし、もっとそれっぽいことあったって良さそうなのに……」
「そうだな。ていうか今気付いたけど二人きりの旅行ってアレみたいだよな。新婚旅行」
「し、新婚……!?」
その言葉に色々と感じるものがあったのだろう。一旦落ち着いたはずの七罪の顔はまたしても赤く染まっていた。
「ま、まぁ、言われて見ればそんな感じよね。でも結婚なんてしてないんだしただの旅行でしょ。その……愛人みたいな、間柄の相手との……」
「そこはせめて恋人って言えよ。ていうか何でよりにもよって愛人って表現使った」
満更でもない表情の癖に何やら腰が低そうなことを言う七罪に、思わずツッコミを入れる士道。言葉的には愛する人という意味も含むが、たぶん七罪が言っているのは浮気相手などを指す意味の愛人だろう。
「何でって言われても、士道の相手複数いるし、私正妻じゃないし……」
「いや、正妻がいるとしたらお前だって可能性もあるだろ。もうちょっと前向きに考えてみろよ」
「……一応、前向きに考えた上での結論よ? 士道が私を心から愛してくれてることは分かってるし、少なくとも士道は私を魅力的に思ってくれてることも分かるけど……他の皆は士道に限らず誰がどう見ても文句無しに魅力的じゃない。この時点で私勝ち目ゼロでしょ。ていうかそもそも同じ土俵にすら立ててないし」
「それは……」
思わず否定しようとした士道だが、実際にそれが正しいことは分かっていたのでその言葉を飲み込んだ。
確かに七罪は他の精霊たちに比べると多少見劣りすると言わざるを得ない。傍から見れば目付きや不機嫌そうに見える表情が原因だが、それに加えて肌や髪と言った部分も要因となっている節がある。少なくとも七罪の髪質や肌のきめ細かさ、全体的な触り心地などは四糸乃や琴里に比べると若干劣ると言わざるを得ない。
ちなみに何故それが分かるのかというと、その三人の身体を余す所無く触れまくり味わいつくし眺め倒したからに他ならない。
「まぁ、別に私は愛人だろうが最下位だろうが構わないわよ。その……今まで通り、愛してくれるなら……」
「お前も結構欲が無いよな。正妻狙えなんて言わねえからせめて二番とか三番とか狙ってみろよ?」
「そんなこと言われてもこれ以上望むものなんて何も無いわよ。今でも十分幸せだし……」
そんな無欲極まる言葉を、あろうことか微かな微笑みさえ浮かべて口にする七罪。四糸乃といい七罪といい何故こうも謙虚で無欲なのだろうか。
少しは四糸乃を正妻に仕立て上げることを画策しつつ隙あらば3Pや4Pを含むエロ展開を狙っている『よしのん』や、司令官や妹という立ち位置と性格を使い分け士道を手の平の上で弄び支配しつつある琴里を見習って欲しいものだ。
まぁそういう黒い奴らがいる以上、せめて七罪と四糸乃には癒しを得られる心のより所でいて欲しいという思いもあるのだが。
「逆に士道は何かないわけ? 私に望むこと」
「そんなもんねえよ――って言ってやりたいとこだけど、もうちょっと前向きになることと、あんまり自分を卑下しないことと、日頃からもっと笑顔を見せてくれるようになることだな」
「あー……う、うん。努力は、してみる……」
「ああ、頑張ってくれ。期待してるからな」
苦りきった顔をしつつも一応頷いてくれた七罪の頭を軽く撫でる。時間をかけてたっぷり綺麗にして丁寧に乾かしたおかげか、その感触はちょっと癖になるようなもふもふ感があった。滑らかに過ぎる四糸乃の髪ではこうはならないだろう。
どうせなら顔を埋めて頬擦りしたいところだが、やってしまうと興奮が抑えられなくなりそうなので自重しておいた。今はまだ二人でゆっくりと過ごす時間だ。
「あ、そういえばちょっと聞いてみたいことがあるんだけど」
「ん、何だ?」
しばらく二人で肩を寄せ合いテレビを見ていると、七罪が思い出したように話を切り出した。顔を向けてみると何やら若干頬を染めて聞きにくそうに複雑な顔をしていた。
「その、さっき新婚旅行だとか正妻だとかの話題が出てきたから何となくなんだけど……もし、士道が結婚するとしたらどの子を選ぶわけ?」
「け、結婚って、お前……」
まさかの疑問にさすがの士道も言葉に詰まってしまう。
この質問に答えるのは正妻は誰か答えるのとほぼ同義である。聞きにくそうにしていたのも納得だ。それでも尋ねてきたということはよほど知りたかったのか、あるいはただ単純に気になったからなのか。
「あ、皆との関係は変わらないって前提でよ? 関係は変わらないけどその内の誰か一人とは名目上夫婦になるだけってこと」
「それって一体何の意味があるんだ? ていうか明らかにそれ一人だけ特別扱いじゃねぇか」
「だからあくまでも仮の話よ。皆との関係は変わらないけど、誰か一人選んで結婚することを琴里に命令されたら誰を選ぶ?」
「いや……それってそもそも言って良いことなのか?」
ちょっとそんな偽装結婚染みた行為を命令される状況が思い浮かべられないものの、もしも相応の理由があって命令されたことで皆との関係は変わらず相手を自分で選べるのだとしたら、一応士道には相手が一人思い浮ぶ。
それをよりにもよって七罪の前で口にして良いのか迷う士道だったが、七罪は別段気にした様子も見せずに頷いた。
「二人きりなんだし気にすることないわよ。それにさっき言ったでしょ? 別に私は何番だって構わないって」
「だからってそんなこと聞くか、普通? 大体お前それ知ってどうすんだよ?」
「どうって……それ知ってれば遠慮とか協力とかして、その子と過ごせる時間をちょっとくらい増やしてあげられるでしょ」
「気持ちは嬉しいけどお前が一番一緒に過ごしてやらないといけない奴だろ。そういうことは寂しがりなのが治ってから言いやがれ」
少なくとも三、四日会えなかったくらいで禁断症状を催すような重度の士道依存症患者が言うべき台詞ではない。一応自分でも分かっているのか士道の指摘に七罪は居心地悪そうに瞳を逸らしていた。
「う、うっさいわね。それはそこまで夢中にさせてるあんたが悪いのよ……で、誰なの? やっぱり四糸乃?」
しかし逸らした視線をちゃんとこちらに戻し、何気ないことのようにもう一度尋ねてくる。
要するに誰を一番愛しているかという質問なのにここまで平静を見せているのは、最初からそれが自分では無いと確信しているからなのだろう。今まで通り愛してくれるなら愛人だろうが最下位だろうが構わないと言う言葉は本物らしい。
恐らくこの様子だと誰の名を口にしてもさほど驚きはしないどころか、焼きもちを焼いたりもしてくれない。ならばむしろ答えてやるのが礼儀というものだ。
「……そうだな。確かに結婚するなら四糸乃みたいな子が一番だよな。可愛いし、健気だし、見てるだけで心が洗われるような笑顔を見せてくれるし」
「ん、納得の答えね。何か見るからにお嫁さん的なオーラが溢れ出てるわよね」
「だよな。四糸乃は絶対良いお嫁さんになるぜ。まぁ誰にも嫁になんてやらないけどな!」
「何か恋人っていうよりは子煩悩な父親みたいなこと言ってるわね、こいつ……でもその気持ちは分かるわ」
予想通り別段ショックも何も見せない七罪。やはり最初から自分では無いと確信しているに違いない。
さすがにそんな反応は味気ないし、卑屈な考えは良くない。なので士道は更に言葉を続けた。
「……でも本当のこと言うと四糸乃じゃないんだよな。いや、ちょっと前までは四糸乃が良いなって思ってたのは事実だけどさ」
「あれ、四糸乃じゃないの……? じゃあ、やっぱり琴里とか?」
「それは、その……お前だよ、七罪」
照れ臭さに歪みそうになる表情を何とか微笑みで塗りつぶしつつ、その言葉を口にする。もし誰かと結婚するなら、その相手はお前が良いと。つまりお前が正妻だと。短い言葉だがそれらの意味を孕んだ言葉を、はっきりと。
これにはさすがの七罪も胸を打たれ、喜びに緩む頬を隠そうと必死に誤魔化すはず。士道はそう思っていたのだが――
「……はぁ?」
反応はかなり薄いどころか全くの真逆であった。黒琴里でもそうそう見られないくらいの蔑みを含んだ冷たい瞳が、逆に士道の胸を痛いほど貫いてきた。
「士道、そんな露骨な好感度稼ぎの台詞言わなくて良いから。もう上がらないから。ていうかそこまで見え透いた嘘吐かれると逆に好感度下がるわよ?」
「好感度稼ぎって……お前全然これっぽっちも信じてないな?」
「当たり前でしょ。一体何がどうして四糸乃を差し置いて私を結婚相手に選ぶのよ。正気? 頭大丈夫? もしかして熱あるんじゃない?」
今度は打って変わって優しさと心配を露にする七罪。そうして手の平を士道の額に触れさせて確認してくるも、当然正気を失うような高熱などあるはずもない。
「正気だし頭はすこぶる正常だ。あと好感度稼ぎじゃないし嘘でもない。本気でそう思ってるからな」
「……やっぱり正気だと思ってるだけで本当はおかしくなってるんじゃない? 正常ならちゃんと私が納得できるような理由を説明してみなさいよ。今考えたみたいな取ってつけたような理由だったら今夜は一人で寝てもらうわよ」
「……分かった。ちゃんと説明してやるから自分のこと卑下せずに客観的に考えろよ?」
予め言っておかないと信じてもらえないかもしれないので、士道は最初にそう断っておいた。七罪の性格から言うと客観的に捉える事も難しそうだがその時はその時だ。
「確かに前は結婚するなら四糸乃みたいな子が一番だって思ってた。さっきも言ったけど可愛いし、健気だし、何より飛びっきりの笑顔を見せてくれるしな。きっと結婚したら毎日あんな可愛い笑顔を見られる幸せな新婚生活を送れるだろうな。新婚ごっこした時みたいに」
「本当に夢みたいな生活よね、それ……ていうかそれが分かってるならなおさらおかしいじゃない。どうして四糸乃じゃないのよ?」
「……どこの誰とは言わねぇけど、たぶん異様に寂しがり屋で怖がりな手のかかる奴のせいなんだろうな。普段から可愛い笑顔を見せてくれる素直で手のかからない子より、いつも暗そうな顔してる卑屈な手のかかる子の方が良いって思うようになったんだよ。そんな子を俺の手で心の底から嬉しそうに笑えるようにして、その笑顔をいつまでも守ってやりたい、ってさ。どこの誰とは言わねぇけどな、七罪?」
全く手のかからない四糸乃と違い、特に精神面で手のかかる七罪には色々気を揉むことや精神状態の安定に努力することが度々あった。普通なら段々と面倒に感じてくるかもしれないが、面倒見が良いか悪いかで言えば良い方なのが運の尽きだったのだろう。面倒を見ることに妙なやりがいを感じてむしろ充実している節があるし、自分がどれだけ七罪に依存され愛されているかを度々思い知らされて大きな幸せを抱いてしまうのだ。
おまけに本人の表情が暗めなせいで稀に見せてくれる笑顔の破壊力が凄いので、笑顔にしてやれた時の達成感や幸福感はかなりのものだ。それにせっかく可愛いのだからもっと笑わせてやりたいと常日頃から思っていた。
そんな日々を過ごしていたせいなのだろう。リハビリが必要なほど依存されている事実も相まって、正直もう誰よりも放っておけなくなってしまった。
なので結婚するなら誰にするかと聞かれ、七罪を選んだのだ。もっとも誰よりも愛しているという意味ではないし、誰とも関係は変わらないあくまでも名目上の結婚という前提の話だが。
「え……あ……え?」
ちゃんと説明したのだが七罪は混乱した様子で顔を赤くしていた。
士道の言い方がちょっと分かりにくかったのか、あるいは動揺しているせいで頭の中を整理できないのか。いずれにせよ理解できるまで言ってやるべきだろう。
「何か混乱してるみたいだから分かりやすく言うぞ? 要するに一番放っておけないお前を幸せにしてやりたいし、笑顔にしてやりたい。そして俺はお前が心の底から嬉しそうに笑う姿が一番見たい。そういう理由じゃ納得できないか?」
「え、えっと……その……う、ぅ……」
分かりやすく簡潔に言い直したので一応理解してくれたようだが、どうも受け入れて良いものか迷っているらしい。右往左往させている視線を時折士道へ向け、頷くのを躊躇っている。
たぶん自分如きが結婚相手に選ばれて良いわけはないとでも思っているのだろう。ちょっとマシになったかと思いきや相変わらず卑屈な奴である。
「……もっと分かりやすく言うと手のかかる子ほど可愛いし、世話のし甲斐があって一緒にいると退屈しないってことだ。あと世話する内に愛着が沸いて手放せなくなったって感じだな」
「何でわざわざペット感覚で言い直すわけ!? 結構感動してたのよ!?」
「いや、いつも卑屈なこと言うお前のことだからこれくらい分かりやすく言わないと納得できないんじゃねぇかと思って……」
分かりきっていたことだが台無しになるほどレベルを下げて再度言い直すと七罪はがっつり怒ってしまった。ちょっと理不尽な気はするものの混乱は覚めたようなので問題なしだ。
「それで? 納得してくれたか?」
「う……うん。一応、納得した……良く、分かった……」
こくこくと頷き、俯いて顔を隠すどころか背中をこちらに向けてしまう七罪。
分かってくれたのなら一安心だし嬉しい限りだ。少なくとも今夜は一人寂しく寝ないで済む。実は内心怯えていたのでほっと胸を撫で下ろす士道だった。
「ん、どうした七罪? 何か震えてるぞ?」
しかしそこで七罪の様子がおかしいことに気付き、表情を覗き込もうと顔を寄せた。
「や、き、気にしないで。ちょっと疑ったことに自己嫌悪してるだけだから……!」
もうちょっとで表情を覗けるというところで、再び七罪は身体ごと顔を背けてしまう。
七罪なら自己嫌悪くらい不思議でも何でもないが、その様子を頑なに見せないのはちょっとおかしい。ちょうどついさっき傍でやっていたように転げまわって身悶える姿さえ見せるようになったというのに、今は表情すら見せないとはどういうことなのだろうか。
考えられる理由は一つ。恥ずかしくて見せられない表情をしているのだ。
七罪が恥ずかしくて士道に見せたくない表情など一つしか思い浮かばない。そして皮肉なことにそれこそが士道の最も見たい表情だ。
「おい、七罪。ちょっとこっち向いて顔見せてみろ」
「ちょ、や、やめっ……! さ、叫び声上げるわよ!?」
「叫んでたって誰も来ねぇよ! 良いからちょっと顔見せろ!」
「ぎゃあぁぁぁぁ! 婦女暴行魔! 変態!」
七罪の肩を引き寄せ無理やりこちらを向かせようとするものの、腕を振り乱し全力で抵抗されてしまう。
しかし止めてと言われれば余計にやりたくなるのがドSの性。なので士道は七罪の両腕を吊り上げるように掴み上げ、動きを止めてからゆっくりとその表情を確認した。
そこに広がっていたのはやはり期待通りの表情。あと一割で満面と言える実に可愛らしく嬉しそうな笑顔だった。
「う、あぁ……! み、見るんじゃないわよぉぉ……!」
残り一割を羞恥と理性で必死に堪え、あまつさえ涙目で顔を逸らそうとする七罪。
しかしこんな貴重で可愛らしいものを見逃す士道ではない。今度は腕ではなく頭をがっつり押さえて横も下も向けないようにした。傍から見ると間違いなく婦女暴行魔である。
「良い感じに笑ってんな、七罪。ていうか必死に堪えてるっぽいけどほとんど満面の笑みだぞ。もしかしてそんなに嬉しかったか?」
「あ、当たり前でしょぉ……あんなプロポーズみたいなこと言われて平気でいられるわけないわよぉ……!」
「プロポーズ……確かに言われてみると、それっぽいな……良し! 結婚してくれ、七罪!」
「冗談でもそういうこと言うの止めなさいよおぉぉぉ! 嬉しくて頭おかしくなるでしょうがあぁぁぁぁ!?」
「もうそこまで来たら抑えずに笑っちまえよ! 何か顔プルプルしてるぞお前!?」
どうしても百パーセントの笑顔にしたかったので半分冗談で実際にプロポーズしてみたものの、頑なに七罪は満面の笑みを拒む。
とはいえすでに九割八分くらいが笑顔に支配されていて、最早崖際で落ちかけているどころか指一本でぶら下がって必死に耐えている状態だ。優しい士道としてはそこまで来るともうその指を苛めて崖から離させ楽にしてやりたくなる。
「変なとこで強情な奴だな……よし」
「ひゃっ!?」
なので士道は実際に指を苛め始めた。七罪の指の一本を口に咥え、吸い付きながら舌で撫で回して。付け根に甘く歯を立て、幾つも歯形を残して。
「あっ、や……それ、っ……あ、あぁぁぁ……!」
途端に七罪の抵抗は身体が麻痺したかのように力を失っていく。最早自分の指を引き抜こうと士道の額を押してくる手も触れている程度に弱々しくなってしまう。
指を舐めているだけでこんな反応を示すということは、七罪もこの行為の意図に気付いているのだろう。結婚やプロポーズの話を経て行ったのだから当然かもしれないが。
「ふぅ……指輪は用意してないから、今はこれで我慢してくれ。もしもさっき言ってた条件で誰か一人を選ぶことになったなら、その時はちゃんとした指輪を用意してやるから」
たっぷり噛み付いてから七罪の薬指を引き抜くと、その付け根にはリング状になった歯形がくっきりと残っていた。かなり不恰好だがまるで指輪のように。結婚の約束をした証である婚約指輪のように。
「士道ぉ……!」
かなりキザっぽかったが目に見えた証を得られたせいだろう。ついに七罪の理性は崩壊し、感極まって涙目の百パーセントの笑顔が浮かんだ。
「んっ……ふ、ぁ……ちゅ……ぁ……!」
そして笑顔だけでは崩壊し剥き出しとなった感情を抑えられないようで、士道の膝に身を乗り出し自ら唇を重ねてくる。
どうにも欲求不満が続いていた状態だというのに、嬉し涙を浮かべた百パーセントの笑顔な上、甘えん坊と化した七罪がこれでもかというほどキスしてくる。正直士道の方も理性は限界だ。
「……言っとくけど、これ以上キスされたらもう我慢できねぇからな。それでも良いのか?」
「どうせあんたそれを狙ってたんでしょうがぁぁ……! こんなに幸せにさせられたらもう何されたって良いわよぉぉ……!」
「いや、別に狙ってはいねぇけど……まぁ何されたって良いなら遠慮はしないぜ、七罪?
散々誘惑されて興奮させられた挙句に我慢させられてたんだし、今夜はちょっと激しくいくからな?」
一応隣の部屋に布団は敷いてあるが、もうそっちへ移動する時間さえももどかしい。残念ながら今の士道はリビングから部屋へ移動する僅かな時間さえ嫌がった白琴里のことは言えなかった。
「うあぁ……! あ、あぁ……士道ぉ……!」
なので七罪の小柄な身体を押し倒し、テーブルをベッド代わりに欲望の限りを尽くすのだった。
最初から満面の笑みで士道を受け入れる七罪の笑顔がはっきりと見られるように、テレビは消しても部屋の灯りだけは消さずに。
「はあぁ……せっかく二人きりの旅行だったのに結局エロイことしかしてないじゃない。どんだけ欲求不満なのよ、全く……」
士道と抱き合い横になった状態で非常に不満げな呟きを零す七罪。しかしその表情は言葉とは裏腹に愛しさに溢れていて、毛ほども呆れているようには見えなかった。むしろそんな欲求不満な士道が愛しくて堪らないとでも言いたげな表情であった。
あれから数時間後、欲望の限りを尽くしてある程度満足した士道は七罪と共に布団に潜り込んでいた。
すでに深夜を回ってしまったのでもうここからは共に眠りにつくだけである。七罪の言う通り、せっかくの二人きりの旅行なのに終始エロイことしかしていなかった。
「欲求不満なのはもう否定しねぇけど俺のせいにすんなよ。俺は普通に過ごさせてやろうって頑張ってたんだぞ? なのにお前が誘ってきたりキスしまくってきたりするからじゃねぇか」
「そ、それはあんたがそういうことするように仕向けたからでしょうが! ま、まぁ、卓球の時は私がちょっと調子に乗ったせいだけど……」
「だから別に仕向けた覚えはねぇって……ていうかお前、もしかしてアレを冗談とか思ったりしてんじゃねぇだろうな?」
返答によっては再戦も辞さないという想いで睨むと、七罪は居心地悪そうに視線を逸らしてしまう。
もしや本当に冗談と思っているのではないだろうかと危惧した士道だが、幸いにもそれは杞憂であった。
「冗談……とは思ってないわよ。嫌いになるって冗談を本気で謝るような奴が、あんなプロポーズ紛いのこと冗談で言うはずないし。何かノリで言ってたような気はするけど……」
言い方は不満だったようだが、七罪はアレが本気だということをしっかりと理解していた。
つまりは士道が結婚相手を選ぶとしたら自分が選ばれるという七罪にとっては信じがたいであろう事実を受け入れたのだ。かなり多くのふざけた前提条件があったとはいえ、四糸乃やその他の精霊を差し置いて、である。
これはもう大きな進歩というか、最早進化に近いほどの変化だ。まさか卑屈とネガティブに定評のある七罪がここまでくるとは。感激と達成感に緩む頬を引き締めるのは相当な意思力を必要とする行為であった。
「それについては反省してる。でも言ったことは本当だぜ? まぁ皆との関係は変わらないで、あくまでも名目上で、俺が相手を選んで良いならの話なんだけどな……」
「それでも私を選ぶとか絶対おかしいでしょ……あーもう、愛してるわよぉ! 士道ぉ……しどぉ……!」
そんなふざけた前提条件でも選ばれたことがよほど幸せらしい。またしても七罪は満面の笑みを浮かべ、士道の胸に顔を埋め甘えてきた。その身体を抱き頭を優しく撫でてやると恍惚とした吐息さえ零し、もっと撫でろとでも言うように頭を手に擦り付けてくる。言っては悪いがやはり若干ペットっぽい。
「何かお前いつにもまして性格変わってんな。あんまりこういう風に甘えてると後でもの凄く後悔することになるぜ?」
「うっさい、馬鹿。こんなに甘えたくなるくらい幸せにしたあんたが悪いのよ……責任とって好きなだけ甘えさせなさいよぉ……」
「ははっ、分かった分かった。さっきは俺が好き放題させてもらったしな。お前が満足するまで好きなだけ甘えさせてやるよ。頬擦りでもキスでも何でもきやがれ」
「ん……士道……っ……ぁ……」
諦めて言い放った途端、確かめるように早速キスをかましてくる七罪。
唇を触れ合わせ甘く食むだけの軽い口付けだが、それを何度も何度もである。平時の七罪がすれば間違いなく数秒後には真っ赤な顔を両手で押さえて床の上で悶えているキスだ。しかしそれを嬉しそうに自ら行っているあたり、どれだけ今の七罪が幸せいっぱいなのかは考えるべくも無かった。
「……ていうかこの豹変振り、もしかして本当に結婚して新婚生活が始まったらこんな風になっちまうのか? もしそうなら本当に今すぐ結婚してぇな……」
満面の笑みを浮かべ、幸せそうにめいいっぱい甘えてくる。そんな七罪の様子が本当に常時続くのだとしたらその価値は十分にある。ただしそんな愛らしい様子に二十四時間晒されるとしたら無事でいられる自信は無かった。具体的には士道の理性と七罪の身体が。
「あ、そのことだけど……もし本当に結婚するなら私以外の子を選んでくれる?」
「……おい、お前もしかして皆に遠慮してるとかじゃねぇだろうな?」
そんな幸せな生活に思いを馳せているとそれを打ち砕くようなことを平然とのたまう七罪。
自分が選ばれたことを受け入れた癖にきっぱり断るとはさすがの士道も思っていなかった――わけでもなかった。まぁ七罪だしそんなこともあるかな、程度には予想できていたのが悲しいところだ。
「ち、違うわよ。や、まぁ遠慮が全然無いとは言わないけど……」
「だったらあれだけ喜んでおいて何で他の子と結婚しろとか言うんだよ。返事によっては俺だって怒るからな」
じっと睨んで尋ねるものの、やはり理由も大体の予想はついていた。愛し合う前に肩を寄せて語らっていた時に、十分幸せでこれ以上望むことは何も無いと言っていたのだから。
「……もう私さっきの士道の言葉と気持ちでこれ以上ないくらい幸せにしてもらったから、実際に結婚する必要なんて無いわよ。正直今以上の幸せとか考えられないし。だから私じゃなくて他の子と結婚してあげて。それなら私だけじゃなくてその子も同じくらい幸せにしてあげられるでしょ?」
「あー、やっぱそういうことかよ……」
言うだけあって心底幸せそうな顔で士道の胸に頬を寄せてくる七罪に、士道は頭を抱えて嘆く。
まぁ何があってもこれ以上幸せになれないというのならその幸せを他に回すのも合理的と言えなくも無い。他の精霊たちを差し置いて自分ばかり幸せになっていると若干気に病んでいる七罪なら特にだ。
「けど、実際に結婚して過ごしてみたら今より幸せになれるかもしれないだろ?」
「ん、だとしても私はもう良いのよ。もう十分幸せ……だからその分、他の子も幸せにしてあげなさいよ。あんたは私だけじゃなくて他の子も幸せにしてあげないといけないでしょ?」
「それは、そうなんだけどな……」
食い下がってみるもののやはり決意は固いらしい。まぁ決意と表現するには七罪の表情はだいぶ緩んでいるのだが。
「分かってるんなら迷う必要ないじゃない。例え相手が美九とかでも私は全然気にしないから。その……こういう言い方は生意気だし、調子乗ってて自惚れてるとしか思えないけど……本命が私ってことは、分かってるんだし……」
「っ……!?」
かなり衝撃的な七罪の発言に士道は一瞬耳を疑った。
事実とはいえ、まさか七罪の口からそんな自信に溢れた言葉が出てくるとは微塵も思っていなかった。とはいえ今はまだ幸福と快感によってだいぶ理性が緩んでいるようなので、今の発言はこの場限りのものなのかもしれないが。
「お前がそんな自信に溢れたこと言えるなんて、明日は全宇宙の終わりかもな」
「ちょっと終わる範囲広すぎじゃない!? 私がこんなこと言うのそんなに以外!?」
「以外に決まってんだろ!? あれだけネガティブしてて卑屈なことしか言わなかったお前が誰よりも愛されてるって確信するようになったとか誰が信じるんだよ!?」
「……四糸乃?」
「ああ、まぁ四糸乃なら信じてくれるだろうな。うん……ってそうじゃなくて」
あっさり納得しかけてしまったため、頭を振って話を戻す。
七罪の瞳を覗きこみ、真剣に。
「……本当に良いのか?」
「私とは今まで通りに過ごしてくれれば、もうそれ以上望むことは何も無いわよ。だからその分、他の子を幸せにしてあげて……」
もう一度確認してみるものの、相変わらず七罪は幸せそうに微笑み穏やかに答える。意思は変わらないということが、あまり目にすることの無いその表情から十分に伝わってきた。七罪が心の底から決めたことだというのなら、もうとやかく言うべきではないだろう。
それに結婚云々の話はあくまでも皆との関係は変わらない名目上の結婚であり、なおかつ士道に選ぶ権利があればの話だ。そもそも肉体関係を持っている精霊はまだ三人だけだし、そんなおかしな前提条件での結婚が必要になることなど早々無い筈だ。あったとしてもまだまだ先の話に違いない。
どうせ意思も曲げられそうに無いので士道は仕方なしに頷いた。
「分かった。お前が本気なのはさっきの滅びの呪文で理解できたしな。言っとくけどもう後悔しても遅いぜ?」
「何を後悔するってのよ、今更。あ、できれば結婚相手は四糸乃にしてあげて欲しいんだけど……」
「お前さっきもう何も望むこと無いって言ったじゃねぇか。そんなお願い聞いてやらねぇよ。選ぶのは俺だ」
「……あれ? 士道、何か怒ってない?」
多少唇を尖らせて答えると、機嫌の悪さを敏感に感じ取ったのか七罪が首を傾げる。
「そりゃあノリで言った感じはあるけど気持ちは本物のプロポーズを断られたんだからな。不機嫌にもなるだろうよ、全く……」
「意外と子供っぽい反応するわね……それは謝るから機嫌治しなさいよ。その、プロポーズ……自体は、最高に嬉しかったわよ?」
頬を赤らめつつも嬉しそうに笑う七罪。アレを自分へのプロポーズとして扱うとはやはりまだまだ理性は蕩けているようだ。
不意にこのまま不機嫌な様子を続けていたらどんな反応を示すのかという好奇心が沸いたため、もう少しだけ続けてみることにした。
「だったら少しくらい迷ったり後悔したりしろよ。何であんな普通に他の子選べとか言えるんだよ……」
「何か変に拗ねてるし。もしかして士道、女の子にモテるからこういうのに耐性無くて傷つきやすいとか……?」
「モテるかどうかはともかくプロポーズ断られて傷つかない奴いたらそいつ相当図太い奴だぞ。ふられたみたいに泣きそうなくらい傷ついたぜ」
「……あんた、何か期待してるでしょ。わざとらしいわよ?」
「うっ……」
しかしあっさりと思惑を見抜かれ、ジト目で睨まれてしまう。
傷ついているのは一応本当だが喜びの大きさのせいで正直かすり傷程度でしかない。最早何もいらないとまで言うほどに七罪に深く幸せを感じさせてやることができたのだから、ある意味それが至上の喜びなのだ。というか傷ついているどころか顔がにやけている節すらある。さすがにそれではバレない方がおかしい。
「……あーもう、しょうがないわね。いっぱい幸せにしてくれたし、ちょっとは傷ついてるだろうから今回は特別よ」
「お……?」
しかし残念がっていたら意外にも七罪は期待に応えてくれた。何と今まで士道の胸に顔を埋め頬擦りするばかりだったというのに、逆に士道の顔を胸に抱いてくれたのだ。愛しそうに、優しく。まるで四糸乃がするように。
「まぁまな板に顔押し付けてるみたいで全然気持ち良くないだろうし、四糸乃に比べたら天と地ほどの差があるだろうけど……やろうとしたこと自体は評価してくれない?」
「……そうだな。もう少し強く抱いてくれたら評価してやる」
「ん……これくらい?」
士道の頭を抱く七罪の腕に力がこもり、顔がより胸に密着する。薄い故に柔らかさはさほど無いものの、暖かな温もりとリズミカルな心臓の鼓動が伝わってきて実に心地良かった。
「よし、満点だ」
「これで満点とか採点ガバガバ過ぎでしょ……言ってくれれば、文句無しに満点取れる抱き方にしてあげるけど……」
「お前のままで良いって。そういうのは、その……後でな?」
「……いつもはやらなくて良いって言ってくれてたのに、今回は後でやってもらうつもりなのね。どういう風の吹き回しよ」
「そ、それはだな……」
頭を抱く腕に必要以上に力が込められ、どちらかといえば絞められている感じになってしまう。胸に抱かれているので確認できないが今は絶対ジト目で士道を見下ろしているに違いない。
今まで誠実な理由で断っておいた癖に今更これでは機嫌が悪くなるのも頷けるし、何より自分自身でも罰が悪い。故に士道は何も言い返すことも出来ず七罪に頭を締め上げられるしかなかった。
しかしあれだけ大人のお姉さんに誘惑と挑発を受けたのだから、ちょっとくらいそういうことを望んでも許されるのではないだろうか。
「分かってるわよ。私が色々やらかしたせいでしょ? それに前から言ってるじゃない。私は別に構わないって。あっちの私と、その……そういうことしたいなら、遠慮せずに言いなさいよ」
どうやら許してくれるらしく、七罪はすぐに力を緩めると詫びるように士道の頭をポンポンと軽く叩き、そのまま優しく撫でてくれた。
何だか今日は四糸乃を彷彿とさせるほどやたら慈愛に溢れている様子だ。もしかすると本当にこれ以上は無い幸福の絶頂にあるのかもしれない。
「まぁ、その内な? 今夜は珍しくお前が優しく抱きしめてくれてるから、このままゆっくり寝たいし」
「え……寝るまでこのままでいなきゃ駄目なの?」
「せっかくのプロポーズを断りやがったんだし、それくらいのことはしてくれるよな?」
平坦な胸の膨らみから顔を上げ、ニヤリと笑いかけてみる。四糸乃なら何の負い目や理由が無くても士道が寝るまでこのままでいてくれるし、寝相の関係もあるが朝目覚めてもそのままでいた時もある。
さすがに朝まで抱いたままでいろとは言わないが、眠りに落ちるまでくらいなら罰は当たらないはずだ。
「そりゃアレが正真正銘のプロポーズだったなら何でもするけど……あー、もう良いわよ。このまま抱いてれば良いのね? 枕使わず床に寝てるのと同じくらい硬いけど良いのね? 頬っぺたに変な痕ついても知らないわよ?」
「分かった分かった。良いからもうちょっと強く抱いてくれよな」
「全く……まな板を枕にするとか相当な物好きよね……」
不平不満を零しながらも士道の頭をぎゅっと抱き直してくれる七罪。自己申告どおりさほど柔らかい感触はなかったものの、十分に暖かくて寝心地の良い枕だ。
「……おやすみ、七罪。愛してる」
「知ってるわよ、十分すぎるくらい……私も、愛してる。おやすみ、士道」
七罪は本当に嬉しそうに答えると、額に軽くキスしてから再び強く抱きしめてきた。
「うあああぁぁぁぁっ……!」
時刻は寅の刻。深夜とも早朝とも取りにくい微妙な時間に目の覚めた七罪は布団の中で悶絶していた。隣の士道を起さないように気をつけながらも、頭を抱えてかなり本気で。
もちろん悶絶している理由は昨晩の出来事や自分の発言を思い出して羞恥心が許容量を超えてしまったからだ。士道にプロポーズされたり、それを自ら断ったり、あまつさえ士道が他の子と結婚しても本命は自分だとかいう自信過剰で思い上がった馬鹿な発言をしてしまったことなどが原因だ。幾ら幸せで舞い上がっていたとはいえ調子に乗るにも限度というものがあるだろう。
しかしそれらは悶絶している理由の一部でしかない。七罪が真に恥じらいを堪えきれない理由は、ついさっき見ていた夢の内容だ。
それはとても幸せな夢で、浸っている間は恥じらいなど微塵も感じていなかった。感じていたのは混じり気のない純粋な幸福感だけ。正に悪夢の対極にあるような素晴らしい夢だった。
問題は夢の内容そのものではなく、現実との出来事や発言との差異であった。
「な、何であんな夢見たのよぉ……あんなこと言っておきながらぁ……!」
火が出そうなくらい熱い顔を両手で覆い、一人悶える七罪。
見ていた幸せな夢の内容。それは何と士道と結婚して幸せな日々を送っているという夢だった。昨晩プロポーズを断り他の女の子と結婚して欲しいと言っておきながら、である。
夢は願望の現れとも言われる。つまり七罪は心の底ではプロポーズを受け入れて士道と結婚して幸せいっぱいのキャッキャッウフフな生活を送りたいと願っているのだろう。もう恥ずかしいったら無い夢だ。穴があったら入りたいというか墓穴に入って永遠に眠りにつきたい。でもそうすると今度はその夢を永遠に見そうで恥ずかしい。
「し、しかも……うああぁぁぁぁ……!」
しかも七罪を苦しめているのはそれだけでは無い。結婚の話をしていたのだからそんな感じの夢を見たのも自然な流れと言える。だが夫婦になっているだけならまだしも――
「何で子供までいんのよぉ……ああぁぁぁぁ……!」
――自分と士道の間に子供がいては、自然な流れでは片付けられなかった。
あろうことか夢の中では士道と子供を儲けていたのだ。恥ずかしい内容ばかりが頭に残ってどんな子供だったかとかは良く思い出せないものの、子供がいたことは間違いない。昨晩は確かに結婚についての話はしたが、子供についての話は一度もしていないというのに。これはもしかすると心の底では七罪がそういうものを望んでいる、ということなのかもしれない。
「……ま、まぁ……悪い気は、しないけど……」
そして違うとも言い切れない。子供というのは愛し合う二人の愛の結晶とも言える。つまりは二人の愛の証だ。士道との形を持った愛の証が得られれば、きっと七罪もその時こそ心の底から安心して怯えを振り払うことができる。そもそも七罪のような幼い女を孕ませたとあればもう士道も一生責任を取らざるを得ない。それだけ考えても七罪の幸せな日々が約束されるのは間違いない。
しかしどの道それらは実現しないのだ。何故なら精霊である七罪にはそもそも士道の子を孕むことはできないから。
「……どうせありえないんだし……夢に見るくらいは良いわよね……?」
どうせすでに他の子と結婚することを約束させたし、子供はそもそも作れない。それなら夢で見るくらいは構わないだろう。どれだけ願ったとしても実現しないのだから、夢の世界でくらい楽しんでも罰は当たらないはずだ。
七罪は隣でまだ眠りこけている士道に抱きつく形で身を寄せると、その腕を枕にして再び眠りにつくのだった。
士道と結婚して、子供がいて、四糸乃たちもいる。
そんな幸せな夢がまた見られるように、心の底から強く願いながら。
あと、子供が自分には似ないことを切実に願いながら。
贔屓しないって言ったのに七罪を贔屓している感じがするのは気のせいです。あくまでも必要だからひいきしているだけです。つまり理由を作れば贔屓しても良いはず。
一応普通にエッチシーンも書こうかと思いましたが、話の長さの都合上カットしました。それと普通のエッチだとただでさえ少ない語彙や表現が被りまくるので……まあ今までもそうでなかったとは言いませんが。
同じ表現とかが満載なのにそんなにエッチな話読みたい方はいるんですか……?
更新停止期間の執筆状況の進捗はどれくらいの頻度で活動報告に載せるべきか
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