でも中身よしのんの四糸乃に襲われる士道さんというのも面白そう。画集の描きおろしのアレはとてもエッチな感じがしましたしね……。
『たのもー! 琴里ちゃん、よしのんと勝負しろー!』
時刻はおよそ午後八時ごろ。
士道がキッチンで洗い物をしていると、突如リビングにそんな挑戦的な声が突撃してきた。あまりにも突然過ぎて心底びっくりしたらしく、手伝ってくれていた七罪は落としかけた皿を何度もお手玉していた。
「……まず理由を説明しなさい、理由を。いきなり勝負なんて言われても反応に困るわ」
しかし勝負をふっかけられた本人は意外と動じておらず、すぐにリボンを黒に付け替えソファから優雅に身を起す。今さっきまで白リボンだったとはいえ寝転がってお腹丸出しでテレビを見ていたとは思えない様子だ。
『理由なんて簡単! よしのんはどうしても琴里ちゃんと一緒にヤりたいことがあるんだ。でも琴里ちゃんは絶対拒否するだろうから、負けた方は勝った方の言うことを一つ何でも聞くっていうルールで勝負して無理やり命令しちゃおうかなーって』
「……命令したいこと?」
「たぶんアレだ。お前も四糸乃も琴里も巻き込んで皆で、っていうやつ」
「あー、それね……」
隣にいた七罪が首を傾げたので教えてやると途端に苦々しい表情になる。『よしのん』が虎視眈々と大乱交の機会を狙っていることは最早周知の事実だ。その割には大人しいと思っていたのだがどうもついに実現のために動き出したらしい。
「なるほどね。あなたがそんな勝負をふっかけてきた理由は分かったわ。だけど私が勝負を受ける理由があるのかしら? 何の得にもならないどころか負ければ無理やり乱交に参加させられるっていうのに」
『んー、そうだね。琴里ちゃんはとっても勇敢で賢い仕事のできる素敵な女だし、挑まれた勝負を断るなんて臆病で失礼な真似はしないかなーって思って』
「ふふっ。それで挑発しているつもりなのかしら、よしのん?」
ニヤリと余裕の笑みを浮かべる琴里。確かに琴里が勝利しても得るものは何も無いし、負ければ強制的に皆でベッドインさせられる。そもそも一対一で愛し合うのを何よりも好んでいるのだから勝負を受ける理由などどこにも存在しないはずだ。
『まっさかー? 挑発はこれからだよー。勝負の方法は琴里ちゃんが好きに決めて良いからさー、まさかこんなに有利な条件なのに断るなんて腰抜けな真似はしないよねー?』
「腰抜け、ね……なかなか面白いことを言ってくれるじゃない、よしのん」
しかし『よしのん』の挑発に余裕溢れる笑みが僅かに崩れる。
確かに自分にいくらでも有利な勝負方法を選択できる好条件にも関わらず、敗北を恐れて引き下がるのは腰抜けと称されても仕方ないかもしれない。
「な、何か怖いんだけど、この二人……」
「……ああ。俺もちょっと怖い」
二人の間に漂い始めた剣呑な空気を感じ、七罪と共に思わず身体を震わせてしまう士道。
だがこの場で一番不憫なのは左手の『よしのん』のせいでとばっちり染みた形で敵意を向けられている四糸乃だ。可哀想なことに『よしのん』に隠れるようにして小さくなってしまっている。
「……負けたほうが勝った方の言うことを何でも聞くなら、当然私が勝てばあなたに命令できるってことよね、よしのん? いえ、この場合はあなたに命令できるのかしら――四糸乃?」
「……っ!」
そして今度は敵意だけでなく嗜虐心たっぷりの冷たい笑みを向けられ、身体を震わせる。ヤキモチその他から色々と四糸乃に対して思うところがあるせいなのだろう。琴里の冷たい笑みには明らかな喜悦が滲んでいた。
「は、はい。何でも、言うことを聞きます……!」
そんなドSの嫌らしい視線に晒されながら健気にも頷く四糸乃。
意外と覚悟の滲む表情をしているあたり、四糸乃自身もこの勝負には案外乗り気なのかもしれない。まあ『よしのん』が勝利すればロリロリしい大乱交決定で結果的には士道が喜ぶと分かっているのだから、行き過ぎなくらいの愛と優しさの化身である四糸乃なら頑張ろうとするに違いない。
『そーそー、何でもだよー? いたいけで罪の無い四糸乃にどんなに屈辱的で恥ずかしい事だってさせられるんだよー? 琴里ちゃん的にはゾクゾク来るものがあるんじゃないかなー?』
「四糸乃に、屈辱的で、恥ずかしい事だって……!?」
「士道、鼻の下伸びてる」
「だ、断じて伸びてねぇからな……」
嫌らしい想像をしかけてしまい、それを七罪に蔑むような目付きで指摘される。
何にせよ(黒リボンの時は)生粋のドSな琴里だ。おまけにヤキモチその他のせいで四糸乃に対してキツイことをしたがり、なおかつそれを士道によって禁止されている。そんな琴里が罰ゲームという大義名分を以って四糸乃を苛めることができる機会を逃すだろうか。
「……なかなか愉快な提案ね。良いわ、その挑戦受けて立ってやろうじゃない」
もちろん答えは否。最高に嗜虐心たっぷりの笑みを浮かべ、『よしのん』の挑戦をあっさり受けていた。やはりこいつどうしても四糸乃を苛めたいらしい。
『そうこなくっちゃ! それでそれで? 決闘の方法と時間はー?』
「そうねえ、私が自由に決めて良いとなると色々考える時間も欲しいし――」
「……で? 士道的にはどっちに勝って欲しいわけ?」
決闘の方法と日時に関しての話し合いを始めた二人を尻目に、七罪がそんな疑問をぶつけてくる。これはなかなか難しい答えに詰まる疑問だった。
絶対的に自分が有利なはずの勝負で負けた琴里が屈辱を噛み締める姿を見るのはとても愉快なことに違いない。しかし琴里が負ければ問答無用で『よしのん』主催の酒池肉林の宴が開かれることになり、きっとその晩は何やら色々凄いことになってしまうだろう。別に嫌ではないし本音はむしろ喜ばしいのだが、気が咎めるというか今までに無いくらい弾けてしまいそうでちょっと不安だ。
かといって『よしのん』が敗北すれば間違いなく四糸乃の身に辱めが降りかかってしまう。しかも映画館という公共の場で士道に命じて行為に及ばせた生粋のサディストによる辱めだ。恐らく士道には想像もつかない辱めが四糸乃に襲いかかるはず。そしてその辱めは士道の手により実行させられる可能性が高い。そうなれば四糸乃は士道のためにどんな仕打ちでも我慢して受け入れてしまうだろう。
「……そうだな、よしのんに勝って欲しい」
多少悩んだがやはりここは『よしのん』だ。琴里が勝ってしまうと士道が四糸乃を辱めなければならない可能性が大いにあるが、『よしのん』が勝てばそんな事態にはならないはずだから。
「乱交したいのね、最低……」
「……実は琴里に勝って欲しいって思ってる」
「四糸乃を辱めたいわけ? 最低……」
「どっちにしろ最低なんじゃねぇか。どう答えりゃ満足なんだよ……」
どう答えても変化の無い二択に呆れてしまう士道だが結局はからかわれただけだったらしい。七罪は生意気にも小馬鹿にするようにニヤリと笑っていた。
「……さあ、いよいよ決戦の時よ」
「決戦は良いけど何でわざわざ俺の部屋でやるんだよ」
翌日、午後九時。士道の部屋。
現在この場には士道以外に三人の幼女(と『よしのん』)が床に車座となっていた。ただし互いに勝負の相手である四糸乃と琴里が向かい合う形で。
『あっはっは。やだなー士道くん、よしのんが勝ったらそのまま皆でベッドインするために決まってんじゃーん! だから七罪ちゃんも一緒に連れてきたんだよー?』
「前々から思ってたけどやっぱ本気だな、よしのん。ていうかお前ら本当にそれで良いのか七罪、四糸乃……?」
「……ノーコメントで」
「わ、私は、士道さんのためなら、構いません……」
恐ろしい理由に戦慄しつつ尋ねてみるも、ぽっと頬を染めて二人に視線を逸らされる。まあ七罪も四糸乃ほどではないが大概のことは受け入れてくれるやつだ。それに一人では士道の欲望全てを満足させてあげられないことを気にしていたので、たぶんアリかナシかで言えばアリなのだろう。もちろん四糸乃、そして『よしのん』は言わずもがなだ。
「そ、それともう一つ。琴里はともかく何で四糸乃までそんな格好してるんだ?」
どう反応するべきか困ったので代わりにもう一つの疑問をぶつける。
何故か分からないが琴里は学校の制服姿であり、四糸乃までも同じ姿をしていた。白のセーラーに黒のタイ、そしてチェックの青いミニスカート。二人とも同じ格好だが太股半ばまでのソックスだけは琴里が黒で四糸乃が白だ。何故琴里と『よしのん』の勝負なのに二人とも制服である必要があるのだろうか。
「あ、あの、もしかして似合ってませんか……?」
「いや、すごく似合ってるぞ四糸乃。お前みたいな可愛い後輩がいたらきっと幸せな学校生活になるだろうな」
「あ、ありがとうございます……」
一瞬四糸乃の表情が不安に曇ったのですかさずフォローしておく。というより本音を暴露しておく。実際こんなに可愛くて健気で優しい後輩がいたら最高だ。褒められて嬉しかったのか今も見るもの全てを幸せにする天使のような笑みを浮かべていた。
「そんなことよりさっさと始めるわよ。覚悟は良いわね、あなたたち?」
『おおっと、琴里ちゃんもしかしてヤキモチ焼いちゃってるー?』
しかし疑問は琴里によって流されてしまう。まさかとは思うが琴里は無視して四糸乃だけを褒めたせいなのだろうか。
フォローしてやりたいのはやまやまだが、さすがの士道も何年も見慣れた格好をしている琴里に対して気の利いた台詞はすぐには浮かんでこなかった。相当根に持つ奴なのでこれは後でたっぷりご機嫌を取っておかなければならない。
「そういや結局勝負の方法はどうなったんだ? さすがにいくら何でもよしのんに勝ち目が一つも無い勝負なんてしねぇだろ?」
「何で目の前で話してたのに聞いていないのよ、このクズノチビタマムシ。その耳は女の喘ぎを聞くためにしかついていないわけ?」
「うん。まあぶっちゃけその通りだったのよね、士道?」
「くっ、否定できないのが辛い所だぜ……」
今更な疑問に琴里と七罪から蔑みの視線が向けられる。ただし琴里の方は単純に話を聞いていないことに対するもので、七罪の方はからかわれたくらいで仕返しにその場でこっそりセクハラかましてきたことに対するものだと思われる。
悪いとは思うが珍しくも小生意気だったのでついついやってしまったのだ。琴里たちの話が耳に入らなかったのは声を上げさせてやろうと頑張っていたからである。
「決闘の方法は――」
言葉を切り、どこからともなく手の平に収まる程度の小さな箱を取り出す琴里。それは大体五十枚くらいの束が入りそうな厚みのカードケース。要するにトランプの箱だ。
「――ポーカーよ」
「よりにもよってポーカーかよ……」
「容赦ないわね、琴里……」
トランプを使った遊びは数多くあれど、ポーカーはなかなかに琴里らしい選択と言える。ポーカーは相手の手札に揃っている役の強さを表情や反応から探る洞察力が必要になる遊びだ。もちろん『よしのん』相手に表情を読むなど誰にも不可能だが、良い子代表で素直さに定評のある四糸乃の表情なら絵本を読むよりも楽に違いない。きっと自分の手札を素直な反応で如実に伝えてくれることだろう。
『ほんと琴里ちゃん容赦ないよねー。素直で何でも顔に出ちゃう四糸乃に対してポーカー勝負なんてさー』
「ふふっ、勝負の方法は私が自由に選んで良いと言っていたでしょう? 当然容易く勝てる勝負を選ぶに決まってるじゃない。何か文句でもあるのかしら?」
『まっさかー。むしろこれくらいのハンデが無いとつまんないよー。これで絶対有利な条件で敗北して悔しさに涙する琴里ちゃんのあられもない姿が見られるんだからねー?』
「ふふっ、残念だけどあられもない姿を晒すのは四糸乃の方よ。覚悟は良いわね、四糸乃?」
「は、はい……」
頷く四糸乃だが琴里の視線は『よしのん』の視線とかち合って火花を散らしているためほとんど無視されている。『よしのん』とは切っても切れない関係であるが故にこの腹黒い二人の戦いに強制参加の四糸乃が不憫でならない。
「あっ、ちょっと待って! 士道、一応何か細工してないか確かめた方が良くない?」
思わず同情の視線を向けてしまう傍ら、はっとした様子の七罪が服の裾を引っ張ってきた。一瞬何を言わんとしているのか分からなかったが、琴里が自ら持ってきたトランプという怪しさ爆発のものを見てすぐに理解した。
「ああ、そうだな。琴里、そのトランプ俺たちに確かめさせろ」
「何? イカサマでも警戒しているわけ? おにーちゃんは可愛い妹のことが信じられないのかしら?」
「もちろん信じてるぜ、琴里。俺の妹はとっても優秀で勝つためならどんなに汚い手段も使う情け容赦の無い女だってことをな」
あと心の中で付け加えるなら、バレなければイカサマではないという精神の持ち主。少なくとも士道の可愛い妹は四糸乃のように純粋でなければ大人しくも無い。イカサマの一つや二つ仕込んであって然るべきだ。
「ふふっ、よく分かっているじゃない。良いわ、疑うなら気が済むまで調べなさい」
ニヤリと悪い笑みを零し、トランプを箱ごと投げてくる。
開封はされていないようだがそれくらいの偽装はやろうと思えば簡単なはず。士道は七罪と手分けしておかしなところが無いか念入りに調べていった。
「特に何もおかしなとこは無いわね。どっか削られたりしてるわけじゃないし、感触も変な所は無いし、目印が付けてあるわけでもないし、一枚一枚別々の匂いがするわけでもないし……」
「イカサマ詳しいな、七罪……」
数分後、七罪は納得の行かない顔をしながらも分担したトランプを返してきた。
何の細工も無かったことが不思議でならないのだろう。もちろん士道も同じ気持ちだったし、むしろ拍子抜けしてしまったほどだ。
「トランプそのものに細工して無いなら、あと考えられるのは袖に仕込んでたりとかか?」
「残念。今回その手は仕込みがバレる可能性が高いから使えないわ。そうよね、よしのん?」
『そーそー。でも士道くんがここで琴里ちゃんへのエッチな身体検査を始めたいっていうなら、よしのんは一向に構わないよー。ていうかヤろう』
肩をすくめた琴里に『よしのん』が賛同とおかしな提案をする。
どうやら結構一般的な手である仕込みは何故かこの場では使えないらしい。それは二人の共通認識のようだが士道には理由が分からなかった。
「言っておくけどこの場であなたに全身を弄られるなんてごめんだわ。まだ納得できないならあなたがディーラーをやりなさい、士道。七罪は私がイカサマをしないかじっくり見張っていれば良いでしょう?」
「ん……それならまあ良いか。七罪、よーく見張っとけよ?」
「わ、分かった。でも見逃したり気がつかなかったりしたらごめん……」
「どうやら納得したようね。さあ、私たちの戦争を始めましょう?」
そうしていつもの決め台詞と共に、琴里と『よしのん』のポーカー勝負が始まった。何か細工の一つくらいは絶対にありそうな気がするのだが見抜けない以上は仕方ない。
せめて七罪だけに任せず自分も同様に目を光らせていよう。そう決めた士道は琴里の一挙一動を注意深く観察しながらカードを配り始めた。
一口にポーカーと言っても今回のルールは独自ルールらしい。トランプに細工が無いか確かめている時に大まかなルールは『よしのん』に説明してもらったので理解はしたのだが、何故か意図的にぼかされた所があるのでそこは少々疑問に思っている。大体琴里はともかく四糸乃まで制服姿の理由もぼかされたままで、まだ教えてもらっていない。
ただこのポーカー勝負にちょっとした闇がありそうなのは何となく士道も気付いていた。黒琴里と『よしのん』という腹黒い者同士の勝負なのだからむしろ闇が無い方が不思議だ。そこに四糸乃という光がいたとしても、である。
「あ……」
配られた五枚の手札を見るなり、分かりやすくも眉を寄せて残念そうな声を零す光りこと四糸乃。
素直で純粋なのは良い所だがこの場では明らかに致命的な弱点だ。その証拠に自分の手札ではなく、四糸乃の反応を見て琴里はニヤリと笑っていた。こうなることが分かっていてポーカー勝負を仕掛けた辺り、やはりコイツは腹黒い。
「さて、私は二枚交換よ」
『そんじゃー、よしのんは三枚』
琴里は普通に、『よしのん』は四糸乃が持ってくれている手札から自分で引き抜いてカードを捨てる。自分でドローさせるのも良いかもしれないがカードの扱いは士道の役目だ。
なのでそれぞれの捨てた枚数分を配りつつ、琴里の様子をつぶさに観察していく。まさか開幕イカサマというふざけた真似はしないだろうが油断ならない奴なので楽観はできない。
「レイズ。一枚上乗せよ」
『ほー、いきなり強気だねー琴里ちゃん?』
「お、おいちょっと待て、一枚上乗せってそもそも何賭けてんだよ?」
見た限りではイカサマは無いものの、代わりにルールで聞いた覚えの無い展開を仕掛ける琴里。ただ『よしのん』に驚いた様子が無いあたり、恐らくこれがぼかして教えてくれなかった箇所に違いない。
『あはは、まーそこで楽しみに見てなよ士道くん。きっと士道くん好みの展開になると思うよー?』
「……あっ、そういうこと」
士道は分からなかったがどうやら隣に座る七罪は気がついたらしい。『よしのん』の言葉を聞いてはっとした表情を浮かべていた。
「いや、一人で分かったような顔してんじゃねぇよ七罪。教えろよ」
「ど、どうせすぐ分かるから良いじゃない、別に……」
そして何故かこっちも答えを濁して教えてくれない。おまけに何故か恥ずかしそうに顔を赤くされて目を逸らされる。できれば士道が鈍いわけではないと信じたい。
『そーそー、じゃあ士道くんに教えてあげるためによしのんはあえてコールするよ。ハンデにもなってちょうど良いしねー?』
「良い度胸ね、よしのん。ショーダウン。先行は譲るわ」
『オッケー。さあ四糸乃、見せてあげてー?』
「わ、ワンペアです……」
自信無さ気に裏返して見せた四糸乃の手札は3のワンペア。最初にカードが配られた時から分の悪い手札なのは表情で分かっていたが、ほぼ最弱の部類に入る役である。対して琴里は――
「ふっ、張り合いが無くてつまらないわね。フルハウス」
『うわー、琴里ちゃん本当に手加減無しだよー』
――手札全てで役が為されるフルハウス。しかもQが三枚、10が二枚のかなりランクが高いフルハウスだ。初っ端からこの圧倒的な差では流れは完全に琴里が得たようなもの。これは勝負の行く末が果てしなく不安だ。
「私の勝ちね。それじゃあ四糸乃――セーラーとブラウスを脱ぎなさい」
「ぶっ!?」
「やっぱし……」
しかし実際は行く末以前の問題であった。あろうことか琴里は四糸乃に服を脱げと命じていた。
ただこの展開、七罪は一応予想がついていたらしい。特に驚いた様子も見せず納得の声を零していた。まあ顔はちょっと赤かったが。
「はい……」
そして驚きが無いのは四糸乃も同じ。逆らう様子など微塵も無く、素直にタイを解き始めた。まるで最初から決められていたルールだとでも言うように。
「おい琴里! これもしかして服賭けてやってんのか!?」
「ええ。緊張感も出るし横で見てるだけのあなたも楽しめて良いでしょう? すぐに四糸乃を裸に剥いてあげるから精々私の応援でもしてなさい」
『勝負が終わる頃には士道くんも良い感じに仕上がってるだろうし、負けた方はそのまま頂かれちゃうって寸法さ! まー琴里ちゃんが負けた場合は皆で頂いちゃうんだけどねー?』
咄嗟に目を逸らしつつ尋ねると別段悪びれもせずぶっ飛んだ答えが返ってくる。敗者は勝者の命令に文字通り何でも従わなければならない時点でだいぶいかがわしいというのに、それだけでは飽き足らずまさかの脱衣ポーカーである。どちらも制服を着込んでいたのは恐らく衣装と枚数の統一が目的だろう。
敗北イコール裸に剥かれる、なら確かに衣服の中に仕込むのは得策ではない。負けたら脱がなければならないのだから袖の中に仕込んだらすぐにバレ――
「――って、四糸乃すごいの付けてんな!?」
「むっちゃエロイ……!」
そこまで考えてつい四糸乃に視線を向けてしまい、飛び込んできた光景に七罪共々驚愕する士道。
素直にセーラー服とその下のブラウスを脱いだ四糸乃は上半身が下着のみの格好。しかしその下着がかなりヤバイ。何と申し訳程度の布地に黒の編み編みというセクシーなランジェリーであった。おまけに色は妖しい紫。
清純な四糸乃が紫のセクシーランジェリーを身に着けていて、下はスカートもソックスも残っている超アンバランスな状態。正直言って背徳感や破壊力は抜群だった。今がポーカーの真っ最中でなく四糸乃と二人っきりの時間であったなら襲いかかりたいくらいに。
『そりゃー士道くんに見られるんだからそれなりのものをつけとかないとねー。ま、今回はそれだけが理由じゃないんだけどさ』
「ふふっ、次はその嫌らしいブラを剥いであげるわ。士道、早くカードを配りなさい」
「お、おう……」
急かされてカードを回収し、シャッフルすることに専念する士道。しかし見るべきでは無いと分かっていても欲望に逆らうことはできなかった。再びカードを配る中、ついつい四糸乃の姿に目を向けてしまう。
仄かな膨らみを僅かに覆う紫の布地、派手な色によって際立つ真っ白な肌。その感触も味わいも知っているからこそ湧き上がる興奮は途方も無いものであった。今すぐ襲いかかり押し倒したい気持ちを抑えるのはとても大変だ。
「し、士道さん……もしかして、似合ってませんか……?」
そして目が合うと四糸乃はまたしても不安気に尋ねてくる。そういえばエロさに度肝を抜かれただけでまだ感想は口にしていなかった。
「い、いや、凄く似合ってるぞ、四糸乃……その、たぶん二人っきりだったら押し倒してるくらい、エロイ……」
「そ、そう、ですか……」
率直で嫌らしい感想に恥らいつつも嬉しそうに微笑む四糸乃。
そんな大人っぽいセクシーなものを身に着けているのに純真な乙女の反応をされるのだから余計に堪らない。これはもうポーカーにかこつけて士道の煩悩を試しているのではないか。
「ちょっとそこのケダモノ。早く私にもカードを配りなさい」
「あ、わ、悪い。ほら」
『んんー? 琴里ちゃんったらヤキモチかなー?』
異様に不機嫌な声で再び急かされてカードを配る。『よしのん』が煽っていたが当然ながら琴里は無視していた。
そうして始まる二戦目。イカサマを見逃さないように琴里を監視しなければならないと分かってはいるのだが、視線はついつい四糸乃へと向いてしまう。その都度視線に気付いた四糸乃はいっそう顔を赤らめるが、士道のためか露骨に隠そうとはせず肌を晒したまま。もしかすると士道の存在はただでさえ分の悪い四糸乃を更に追い詰めているのかもしれない。
「ん……」
しかしここで琴里の表情から余裕が消える。
相当手札が悪かったのだろうか。四糸乃に向ける視線には微妙に力が無く、捨てるカードを決めるのにもそれなりの時間を要していた。
『よーし、じゃあ今度は琴里ちゃんに脱いでもらおうかな。レイズー!』
「え? も、もうちょっと慎重に行った方が良いんじゃない?」
互いにドロー後、一戦目の仕返しとばかりに高らかにレイズ宣言する『よしのん』。
しかしこれで負けてしまえば四糸乃は再び衣服を二枚失う。恐らく残りの衣服はソックスとスカート、ショーツ、そしてかなりエロいブラの四枚。ソックスが一組で二枚と数えてもここで負ければ二戦目にして半分以上衣服を剥がれてしまう。七罪が懸念している通り、これは少々攻め過ぎではないだろうか。
「……乗ってあげるわ。コール」
『おおっと、コールしちゃった? しちゃったね琴里ちゃん? 四糸乃、見せてあげなよ!』
「えっと……フォーカード、です」
「おおっ!?」
予想外に高ランクの役をおずおずと見せられ驚嘆してしまう士道。四糸乃はずっと目を伏せて不安気にしていたので、てっきりろくな役が揃っていないと思っていたのだが。
「……ツーペア。やるわね」
しかもコールした癖に琴里は明らかに低ランクの役だ。おまけに負けるとは思っていなかったのか酷く苦々しい表情を浮かべている。
「何だよ、琴里。威勢良いこと言ってた割には普通に負けてんじゃねぇか」
「仕方ないでしょう、一応計算はできるけどポーカーは運が絡む勝負よ。それにあなたのせいで四糸乃の表情が読みにくくなっているのよ。これがよしのんの狙いだったのね」
『ぬふふ、士道くんがチラチラこっち見てるからねー。そりゃあ四糸乃も気になっちゃって勝負に集中できないんだよー』
「そりゃ集中できないわよね。こんなヤラシイ目で見られてたら」
「ああ、そのせいだったのか……」
ヤラシイ目だという七罪の言葉を否定できないのでとりあえず納得しておく。
どうも四糸乃は手札が悪かったから浮かない表情をしていたのではなく、士道に見られて恥ずかしがっていただけらしい。そのせいで琴里は表情から手札の判別が出来なかったのだろう。これは士道の視線を釘付けにするためにセクシーなランジェリーを身に着けさせた『よしのん』の作戦勝ちだ。
そして『よしのん』が勝ったということは今度は琴里が衣服を剥がれる番。
『さーて、それじゃあ琴里ちゃん。スカートとパンツを脱いでもらうよ!』
「いきなりそこかよ! ていうかそれもう下半身アウトじゃねぇか!?」
二戦目終了にして早くも発禁展開になり堪らずツッコミを入れる士道。容赦の無い指示にさすがの琴里も顔を引きつらせている。というか脱ぐ衣服を相手が決めるというルールがそもそも間違っているのではなかろうか。
「へ、へぇ、いきなりそこを突くのね。あなたは少しずつ脱がせていく方が楽しめるタイプだと思っていたけれど?」
『否定はしないけど今は真剣勝負の真っ最中だからね。それは後のお楽しみにしておこっかなーって』
「……ああ、そう。脱げば良いんでしょう、脱げば?」
不気味に笑う『よしのん』を睨みつけつつ、琴里は律儀にスカートを脱ぎ始めた。床に腰を降ろしたままサイドのファスナーを降ろし、脱ぎにくそうにもぞもぞ脚を動かしながら。立って脱がないのは士道に見られたくないからに違いない。少なくとも表面上は。
『ほらほら士道くーん、琴里ちゃんがストリップしてるよー? 興奮しないー?』
「キモイ目でこっちを見ないでもらえるかしら、士道。妹の脱衣シーンで発情するなんて兄として失格よ」
「う、うるせぇ……」
そのままゴミを見るような目でこちらを蔑みつつ、下着(赤と白の縞パン)も脱いでいく琴里。黒のソックスに包まれた脚を下着が降りていく様はなかなかに欲望を掻き立てる光景であった。侮蔑の視線を向けてくる割に若干頬を染めているので余計に。
『士道くん士道くん、勝負終わったら琴里ちゃんの座ってるとこ確認してみなよ。士道くんにあつーい目で見られちゃってるからきっとエッチな水溜りができちゃってるよー』
「っ……」
そして『よしのん』に卑猥な耳打ちをされ、思わず琴里の姿を凝視してしまう。しっかり制服を着込んでいるのに下半身は曝け出されている大変清々しい格好だ。その癖太股まで包む黒のソックスは残っているので妙に嫌らしく感じる。悔しげに顔を歪めている様も別方向で興奮を煽る要素だ。
二戦目にして二人ともこの有様だというのに、士道は最終戦まで理性を保つことができるのだろうか。
「……ていうか何でお前そっち側行ってんだよ、七罪?」
「や、何か身の危険を感じて……」
不安に思ったのは七罪も同じなようで、いつのまにか隣から対面へと場所を移していた。居心地悪そうにしているのは半裸の幼女二人がポーカーをしているこの状況のおかしさからか、それとも隣にいたが故に士道のズボンの変化が見えたのか。たぶん両方が原因に違いない。
「正しい判断ね、七罪。今の士道の隣に無防備に座っていたらヤられるわよ」
「お前ら俺を何だと思ってんだよ……良いから配るぞ」
余裕ぶりながらも体育座りに近い格好でしっかり下半身をガードする琴里にけなされつつ、士道は再びカードを配り始めた。もうさっさと配ってこの馬鹿な勝負をさっさと終わらせた方が精神にはよろしい。もっとも勝負の結果いかんによっては余計によろしくない事態に陥る可能性も大いに考えられるが。
「へぇ……」
『おおっと、こりゃあ……』
そして手札を確認した琴里と『よしのん』が互いに感嘆の声を零す。
しかし腹黒さと狡猾さには定評のある二人だ。これが演技という可能性も十分に考えられる。素直で分かりやすい反応をしてくれる四糸乃も今は士道のせいで恥ずかしがっており、表情はとても読みにくい。恐らくここからが腹の探り合いの真剣勝負だ。
『よしのんは一枚』
「私は四枚よ」
『よしのん』は手堅く一枚なのに対して、琴里はまさかのほぼ全とっかえ。
まあ何の意味も無く一枚残すはずが無いのであの一枚はジョーカーなのだろう。確かにどんなカードとしても扱えるジョーカーは強力だが、他四枚を捨ててしまった上に逆に四枚をキープしている『よしのん』に勝てる役が揃うのだろうか。
『どーう琴里ちゃん、さっきより良い手札になったー?』
「さあ、どうでしょうね。そういうあなたは狙いの役が作れたのかしら?」
『あははは、どうかなー? 作れたかもねー』
そして始まる心理戦。相手の言葉の端々から手札を見透かそうという意思と、それをさせないという意思が曖昧な受け答えから伝わってくる。この二人、たぶんポーカーで一番相手にしたくないタイプだ。
「……レイズ。次はブラだけじゃなくてスカートも剥いであげる。下も同じ嫌らしいランジェリーで決めているのかしらね?」
そして仕掛けたのは琴里。四枚も捨てた癖に自信満々に言い放ち、手札の一枚を抜き取ってまたしても弄る。これはジョーカーを持っている、という示威行為に違いない。
『よーし、ならよしのんはコールだ!』
「あら、本当にコールする気? これで負けたら四糸乃はソックスとパンツだけの情けない格好を晒すことになるのよ?」
「どっちかっていうと琴里の方が情けない格好して――なんでもないですごめんなさいしにます」
口を滑らせたらしい七罪が琴里に睨まれ、顔を青くしてその場で頭を下げて土下座をかます。
しかし別に間違ったことは言っていないはずだ。四糸乃は着替え途中の状態に見えるのでともかく、下半身だけ何も身に着けていない琴里の格好の方が情けなく見えて笑えてくる。もっとも七罪と同じへまをしたくないのであえて士道は何も口にしなかった。
「今なら降りることを特別に許してあげるわ。それともこのまま続けるのかしら、よしのん?」
『愚問だね! 四枚も交換しなきゃいけなかった琴里ちゃんに負けるような貧弱な手札はしてないよ! そう言う琴里ちゃんこそ、さっきのレイズは無かったことにしたって良いんだよー?』
「優しさを無下にされて悲しいわ。そこまで言うなら続けましょう。あなたの手札を見せてみなさい」
「ツーペア、です……」
欠片も悲しみの見えない顔で促され、四糸乃が手札を公開する。揃っていたのは4と8のツーペア。貧弱ではないがさりとて強いとも言えない微妙な手札だ。
「フルハウス狙ったけど4も8も来なかったのか。惜しかったな、よしのん」
「ふふっ、だから降りた方が良いって助言してあげたのに。私の勝ちね」
対して琴里は左手の四枚と弄んでいた右手の一枚を公開。左手の四枚は7が二枚、AとKが一枚ずつ。そして右手の一枚は予想通りジョーカー。つまり7のスリーカードで琴里の勝ちだ。仮にツーペアにしてもやはり結果は変わらない。
「さあ四糸乃、とっとと脱いで士道を楽しませてやりなさい」
「は、はい……」
勝ち誇った口調で指示され、四糸乃は健気かつ素直にスカートを脱ぎ始めた。今更ながら『よしのん』の賭けチップのような扱いに涙が零れそうになってしまう。
「お、おおっ……!」
スカートを脱いだことで露となった四糸乃のショーツ、そちらもやはりセクシーなランジェリーであった。上と同色である紫の布地は多い方だが見事に透け透け。黒い編み編みが何とか覆い隠してギリギリ下着としての威厳を保っているという所だ。編み編みが無ければ下着ではなく完全にエロアイテムである。
『ほらほら四糸乃、士道くんが食い入るように四糸乃のストリップを見ちゃってるよー?』
「っ……」
更に四糸乃は右手を背中に回し、ブラのホックまで外す。当然といえば当然だがどうやらそっちも脱ぐらしい。さすがに士道も視線を外すことができず、目は完全に釘付けになってしまった。とりあえず戒めから解き放たれた二つの膨らみはとても素晴らしかったとだけ言っておこう。
「士道、気持ちは分からないでもないけど無茶苦茶ヤバイ目してるわよ」
「言っておくけど勝負の真っ最中に襲い掛かってきたらあなたの貧相なものを蹴り上げるわよ。覚悟しておきなさい」
「くっ! お前ら絶対俺を試して遊んでるだろ……!」
対面と右に座る二人に蔑まれつつ、極力四糸乃の方は見ないようにカードを集めてシャッフルし直す。
とはいえどう頑張っても欲望には逆らえず何度も四糸乃をチラ見し、手元が狂ってトランプをぶちまけてしまう。理由はもちろん四糸乃がソックスにセクシーなパンツ一枚というマニアックな格好をしているからであるが、その他にも胸元の無防備さが関係している。
「ふふっ。左手が塞がっている上に右手は手札を保持する必要があるから胸元は隠しにくいでしょうねぇ、四糸乃?」
「あ、だから真っ先に上を剥こうとしてたのね。納得……」
愉悦を浮かべる琴里の言う通り、四糸乃は胸元の防御がかなり疎かなのだ。左手は『よしのん』で、右手は手札なせいで両手が塞がっているせいでちょくちょく可愛らしい桃色が見え隠れしてしまっている。
ただこれに関しては士道を喜ばせるために四糸乃本人にあまり隠す気が無いのも原因だ。その気持ちはとても嬉しいしチラチラ見える度に大いに興奮をそそられるのだが、やはり今の士道の精神には大変よろしくない光景であった。
「くそっ、もうどっちが勝ちでも良いから早く終わってくれ……!」
少なくとも『よしのん』が負ければ四糸乃が酷い目に合うと分かっていても、そんな泣き言を零してしまうくらいには。
現在は四戦目直前。残りの衣服は四糸乃が三枚、琴里が五枚。いくら『よしのん』でも追い込まれつつある以上は慎重になるに違いない。琴里もじわじわいたぶるのが好きなドSなのだからここからは時間をかけて攻めていくはず。まだまだ先は長そうだ。
果たしてこの勝負に決着がつくまで耐え忍ぶことができるのだろうか。酷い不安と興奮が胸の中に渦巻いているのを感じながら、士道は手早くカードを配り始めた。
脱衣ポーカー前編終了。裸なのにソックスが残っている状態とかとても風情があって良いと思います。むしろ裸よりもエッチな感じ。
決着は後編。果たして読んでいる方は琴里と『よしのん』のどちらの勝利を願っているのか……。
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