久方ぶりの七罪のお話。ヒーローが大集合しそうなタイトルですがあまり関係はないです。
もうすぐ七罪が映像デビューの日……実に楽しみです! アニメ三期でデアラファンはもちろんのこと、七罪ファンが増えると良いなぁ……。
とある休日。士道は七罪と共に商店街へと足を運んでいた。
二人きりの秘密のデート――なら良かったのだが、その実体は七罪の日用品の買出しに付き合っているだけ。めでたく五河家への引越しを終えたため、どうせなら日用品も新しく揃えたいとのことで買い物に付き合って欲しいとせがまれたのだ。
もちろん拒否する理由は無いので快く頷き同行した次第なのだが、今思うと単に荷物持ちが欲しかったのではないかと疑ってしまう。
「で、他に何か買うもんあるのか?」
「えっと、大体必要なものはもう買ったわね。士道の言う通りマイカップとかも買っておいたし……」
そう言ってズボンのポケットから買い物メモを取り出し、眺める七罪。
ちなみに士道と七罪はお互いに腕が触れ合いそうなほど身を寄せ合って歩いているものの、手は繋いでいない。本人曰く、繋ぎたくないわけではないがこんな人目の多い場所では恥ずかしいとのことだ。
そんなことを言うなら無理やり繋いでやるのがドSたる士道の使命であるが、嫌がる幼女と無理やり手を繋ごうとする嫌らしい笑みを浮かべた男、という絵面がどう考えても通報案件なため自重している。そもそも余罪がとんでもないことになっているので下手な危険は冒さない方が身のためだ。
「あ……」
「ん、どうした七罪?」
余罪のせいで周囲の視線が気になり見回してしまう傍ら、七罪が小さな声を出して立ち止まる。顔を覗きこむとその視線は遠くの方、商店街の一角に向けられていた。
気になってその視線を辿った士道が目にしたのは――
「……おい、もしかしてお前あそこに入りたいのか? 本気か?」
「あー……まあ、入りたいか入りたくないかで言えば入りたい……」
「……そうか。じゃあ俺はここで待ってるから一人で行って来い」
「ちょ!? 私一人であんな場所入れるわけないでしょうが!? あんたもついてきなさいよ!」
「冗談言うな! お前連れてランジェリーショップなんか入ろうものなら即通報もんだろうが!」
――女の子の下着を取り扱う、ほぼ男子禁制のランジェリーショップであった。
「今更その程度で何ビビってんのよ! 言っとくけど私知ってるわよ! あんた映画館で四糸乃を――むぐぐ!」
「やめろ七罪! 頼むからその先は言うな!」
晴れ渡る青空の下、買い物客で賑わう商店街の中でとんでもないことを口走りかけた七罪の口を全力で塞ぐ。このまま路地裏にでも連れ込んで安全を確保したいところだが、そこまでやれば間違いなく通報される。
下心は無いのに幼女と触れ合っているだけで通報されそうになるとは、何とも世知辛い世の中だ。
「ご、ごめん。ちょっと口が滑った……」
「頼むからもっと気をつけてくれ、七罪。さっき生きた心地がしなかったぞ……」
無論生きた心地がしなかったのは後ろ暗い所があるからだ。年端も行かない少女三人を毎晩のようにご馳走になっていながら無罪だ冤罪だと主張できるほどの図太さは、さすがの士道でも持ち合わせていなかった。
「……本当についてきてくれないの? さすがにあんな美少女御用達の超高偏差値店舗、私みたいな低偏差値じゃ男連れでもない限り門前払いされそうなんだけど……」
「くそっ、こんな発言なのに前に比べれば前向きになってるって感じる俺はおかしいのか?」
後ろ向きな台詞のはずなのに何故か前向きさを感じ、思わず本気で頭を抱えて悩んでしまう。
偏差値ゼロではなく低偏差値で済ませたこと、そして男連れなら自分でも入れると思っていること。そこから考えてだいぶ前向きになっていると判断してしまったのだ。非常に悲しいことに。
「そもそも何でお前ランジェリーショップなんか行きたいんだよ。下着欲しいなら通販とかそういう手もあるだろ?」
実際に聞き出したりしたわけではないが、四糸乃が結構それを利用している節がある。気がつくともの凄くエロい下着を身に着けていたりするので、毎回ちょっとしたサプライズ気分だ。
通販という手があるからこそ、士道が警察の厄介にならなければいけない危険を冒してまで店に入る必要は無い。だからこそそれを指摘したのだが、七罪は首を横に振った。
「そ、それじゃ意味無いのよ。だって、その……私が欲しいのは、士道が喜んでくれそうなやつだし……だから、まあ……どうせなら試着したのを士道に見てもらった方が早いかな……とか、思ったり……」
そして頬を赤らめ、もじもじと乙女的に恥じらいながらそんな台詞を口にする。
七罪の場合、笑顔の破壊力も凄いがこんな風に恥らう姿も破壊力は抜群だ。こんな公衆の面前ならまだしも、ベッドの上や二人きりの部屋で今の様子を見せられたらきっと襲いかかっていたことだろう。
「無茶苦茶可愛いこと言いやがって……ここが商店街で良かったな、七罪。もし映画館だったら四糸乃と同じ運命を辿ってたぜ?」
「ひぇ……!?」
士道の言葉に真っ赤に頬を染め、自らの身体を隠すように掻き抱く七罪。どうも自分がどれだけ可愛らしい台詞を口にしたのか分かっていなかったらしい。後学のためにもこれは後でたっぷり教えてあげなければ。
「まあ、お前がそこまで言うなら俺も一緒に入ってやりてぇんだけど……通報されそうだしなぁ……」
「あ、それなら大丈夫。変身すれば問題ないでしょ?」
「おお、その手があったか。中には試着室もあるからそこで元に戻れば平気だろうし。本当便利だな、お前の能力」
「ふふん。まあね」
自らの能力を褒められて機嫌を良くしたのか、どことなく自信溢れる微笑みを見せてくれる。
実際誰の能力が一番便利かと言われればやはり七罪の能力と言わざるを得ない。綺麗でスタイル抜群の七罪お姉さんと身体を重ねた夜はまだまだ記憶に新しい出来事だ。
「士道も変身しておく? 中で男一人で待つのは気まずいだろうし、やってあげなくもないわよ?」
「やめろ。男一人で待つのが気まずいからって男を止める気はねぇよ。早く変身してこい」
「ちっ、分かったわよ。ノリ悪い奴ね……」
そのままイタズラっぽい笑みを浮かべ、意味ありげなことを呟く七罪。意味が分かった士道は断固拒否するとその小柄な身体を問答無用で路地裏に押し込んだ。七罪は面白くなさそうにぶつぶつ言いながら奥へと消えていく。
男としては非常に充実した日々を送っているのに、一体何が悲しくて女装どころか本物の女の子にならなければいけないのか。やはり七罪は日頃の性的なイタズラやセクハラの恨みを晴らす機会を狙っているようだ。今度からもうちょっと気を付けた方が良いかもしれない。
「にしても、まさか七罪があんなこと言うなんてなぁ……」
士道が喜んでくれそうな下着が欲しい。それはつまり、ある程度自分の身体に自信を持っているということ。やはり散々その身体を弄繰り回して弄んだおかげに違いない。
必要以上にやっているせいか何だか酷く恨まれているものの、一番肝心なのは七罪が前向きになってくれることだ。そのためなら多少恨まれるくらいは必要な犠牲と割り切るしかないだろう。
士道としてはネガティブな所も七罪らしくて良いと思っているものの、他の精霊たちと今よりも触れ合えるようになりたいならある程度は治さなくてはいけない。愛する少女がそれを望んでいるのだから協力するのは当然のことである。
なのでこれからも性的なイタズラやセクハラをかまし、少しずつでも自信を持たせて前向きにさせてやろう。路地裏に背を向け、そんなことを考えながら突っ立っていると――
「お待たせ、士道くん!」
「うおわっ!?」
――突如背後から甘えた声が上がり、体当たり染みた形で抱きつかれた。
もっとも士道が一番驚いたのは何の前触れも無く真後ろで声を上げられたことでも、抱きつかれたことでもない。途轍もない質量を持つ柔らかい物体が、首を挟み込むように接触してきたことだ。要するに七罪お姉さんの豊かな胸の膨らみが。
「あら、どうしたの士道くん? 何だか顔がとっても赤いわよ?」
解放された士道が振り向くと、やはりそこには七罪お姉さんの姿。意味ありげに艶かしく笑っているのは全て分かっていてやったからに違いない。こちらの姿になると積極的というか、変にイタズラ好きで困ってしまう。
「な、何でもねぇよ。それより、行くならさっさと行こうぜ」
「あっ、そのことだけれど士道くん、もうちょっと時間を置いてからの方が良いみたいよ。念のためにさっき琴里ちゃんに連絡してみたらそう言われたの。きっと大好きなおにーちゃんを万が一にも危ない目にあわせたくないから、頑張って色々な仕込みをしようとしてるのね」
「一見感動的な話だけど実状考えると全然笑えねぇな……」
危ない目というのは士道が性犯罪者として法執行機関のご厄介になる展開、そして仕込みというのはランジェリーショップ買収による貸切あたりか。可愛い妹が大好きなおにーちゃんを想ってやってくれていることにしてはスケールが大きすぎるし微塵も微笑ましくない。
とはいえ安全が確保されるなら士道としても一安心なのは確かだ。なので思う所はあっても反対意見は特に無かった。
「だから先に買い物を全部終わらせちゃいましょう? 士道くんと一つ屋根の下で暮らすんだから、必要なものはまだまだたくさんあるはずだものね」
「だったらその前に元の姿に戻ってこいよ。お前がいると道行く人の視線が痛いぜ……」
囁くように言って、士道は道行く人々にちらりと視線を投げかける。
贔屓目に言っても変身後の七罪は飛びっきりの美女。それも男なら確実に目を引かれるほどにスタイル抜群だ。そんな美女が路上で男にくっついて楽しそうに笑顔を浮かべていれば、男なら誰だって視線を引かれてしまう。そして嫉妬がこもった視線を美女の隣にいる男に向けるのもまた仕方ない。
「別にそんなこと気にする必要は無いのよ、士道くん。むしろ私たちのラブラブ加減を見せ付けてやりましょ?」
自分には嫉妬が向けられていないせいか七罪はそれを気にした様子も無く、むしろ嬉しそうに士道の腕に抱きついてきた。そうして腕を絡めて肩を寄せ、繋ぐ指さえ絡めていく。
腕を抱かれた状態でそんなことをされれば、当然士道の腕は七罪の豊かに過ぎる胸の谷間に埋まる形となるわけで――
「いや、その、七罪……当たってるんだが……」
「違うわ、士道くん。これはね、あ・て・て・る・の・よ?」
「あざといなチクショウ!」
全て分かっていてやっている上に、可愛らしくウインクまでしてくる七罪お姉さん。
そんな本当の姿の時とはかけ離れた大胆かつ積極的な姿に多少の興奮を覚えつつも、鋭さを増した嫉妬の視線に寒気を覚えてしまう士道であった。
「ふふっ、こんなにいっぱいあると迷っちゃうわ。ねえ士道くん、私にはどんな下着が似合うと思う?」
大量のラックにかかった色とりどりで素材豊富な下着の山を眺めつつ、意見を求めてくる七罪お姉さん。
先ほど決めた通り、士道は買い物の続きをしてから七罪と二人でランジェリーショップを訪れていた。隣に絶世の美女を引き連れていても店に入るのにはやはり躊躇いがあったものの、入ってしまえばそんなに居心地は悪くなかった。ただしそれはあくまでも人の目が気にならないという意味であり、周りを女性物の下着で囲まれている点はちょっと居心地悪い。
人の目が気にならない理由は単純明快。店内には客も店員もおらず、人っ子一人見当たらなかったからだ。普通なら驚く光景かもしれないが、予め琴里が何か仕込んだことを知っている士道たちには驚きは欠片も無かった。
「いや、何で今のお前に似合いそうなの選んでんだよ? 子供用選びに来たんだろ、子供用」
「それはそうだけど……本当にそれだけで良いの? こーんなエッチな下着を身に着けたお姉さんの姿、見てみたくない?」
そう言って妖しく瞳を細めつつ、手に取った下着をゆらゆらと揺らして見せる七罪。
その下着は黒を基調としたレースの大人っぽい下着。一見普通の下着に見えるが、見事に向こう側の七罪の姿が透けて見えていた。下着は下着でも俗に言うセクシーランジェリーの類に違いない。
「……………………い、良いから、本当のお前に合うサイズのとこ行くぞ」
「だいぶ迷ったわね、士道くん。もうっ、照れなくても良いのに」
一瞬食い入るように見つめてしまってから背を向けると、七罪がくすくす笑う声が聞こえてきた。まあ男なら仕方の無い反応なので特に恥じらいは無かったものの、店内には自分たちのみで新たに入ってくる客もいないということを意識してしまい、ちょっと変な気分になってくる士道であった。
とはいえまさか命令も脅迫もされていないのにこんな真昼間からランジェリーショップで行為に及ぶわけにはいかない。なので士道は変な気分に何とかフタをすると、元の七罪に相応しいサイズの下着売り場へと二人で移動した。
「それじゃあ実際に着替えてみるから、ちゃんと感想をお願いね?」
「ああ、それは良いけど……感想聞かせろってことは、見せてくれるってことだよな? その、本当のお前が下着姿を……」
選ぶのに多少の時間を要した後、何着かの下着を手にした七罪が試着室前へと移動する。その姿に士道はごく当たり前の疑問を投げかけた。
今の七罪は積極的で大胆な七罪お姉さん。しかし今から身に付ける下着は本来の姿に相応しいサイズの下着だ。つまりは必ず元の姿に戻る必要がある。にも関わらず感想を聞かせて欲しいということは、本来の姿に戻った上で下着姿を見せてくれるということなのだろうか。どちらかと言えば恥ずかしがり屋な本来の七罪が。
「ええ、もちろん。だって士道くんに見せるための下着なんだもの」
期待を抱きながら待つ士道へ返ってきたのは、肯定と切れ長の瞳を細めた色っぽい微笑み。
これはなかなかに楽しい時間になりそうだ。試着室に入っていく七罪の後姿を眺めつつ、はっきりとそう感じた。やはりどちらかといえば士道はロリコンの気があるのかもしれない。
「あ、覗きたいなら遠慮なんてしなくて良いのよ? もちろん、入ってきてエッチなことしちゃうのも構わないわ」
「だからお前そういうこと……ていうかこんな所で……」
そんな風に自分の性癖を再認識していると、試着室のカーテンから顔だけ覗かせる七罪が誘惑染みた台詞を投げかけてきた。何となく予想はしていたがやはりエッチには積極的な七罪お姉さんである。
「だってお客さんどころか店員さんもいないもの。何をしたって大丈夫なはずよ? きっと琴里ちゃんが気を利かせてくれたのね」
「余計なお世話って気がするけどな。さすがの俺でもこんな明るい場所で変なことする気は無いぜ」
「むー……四糸乃ちゃんにはあんな所でエッチなことしたのに、私にはしてくれないのね……ぐすん……」
「言っとくけどあれはヤりたくてヤったわけじゃないからな!? 琴里に無理やりヤらされただけだからな!?」
目を擦りながら顔を引っ込める七罪に対してしっかり弁解するものの、残念ながら言葉は返って来なかった。士道を信じているから弁解の必要が無かっただけで、信じていないから言葉が返って来ないわけではないと思いたい。
「ったく、本当にこっちの七罪は……」
本当の性格はアレなのに、変身すると性格も完璧に別人である。大胆で積極的で色気さえ醸し出してくる、正に見た目通りのちょっとエッチそうなお姉さんだ。まさか試着室でのいかがわしい行為に誘ってくるとは思わなかった。
変身している時だけの内面の変貌具合にちょっと呆れてしまう士道だが、すぐに自分には呆れる資格がないことに気が付いてしまった。何故ならその積極性と大胆さに触れ、つい先日の七罪お姉さんに奉仕してもらった夜を思い出し、またしても変な気分になってしまったから。
なのでまたその気分に頑張ってフタをして、試着室の中に突撃したい気持ちも押し殺していると――コンコン。中から壁を叩くような音が聞こえてきた。
「ん、どうした七罪? 着替え終わったのか?」
カーテン越しに尋ねると――コン。またしてもノック音が聞こえてきた。
しかし何故声で答えずノックで答えるのか。何か喋れない事情でもあるのだろうか。
「……もしかして、声も出せないくらい見られるのが恥ずかしい格好してるのか?」
思いついた理由を士道が投げかけると、数秒ほど間を置いて――コン。どうやら七罪は試着室の中で声も上げられなくなるほど見られるのが恥ずかしい下着姿を晒しているようだ。
恥ずかしがりやとはいえすでに数え切れないほど身体を重ねた関係である七罪が、声も出せないほどに恥ずかしがってしまうとは一体どんな下着を身に着けているのか。抑えようとはしたが欲望と好奇心のダブルパンチには勝てなかった。
「そっか。よし、着替え終わったなら開けても良いよな? 俺に見せるためなんだし」
故に躊躇い無く試着室のカーテンに手を伸ばす。
その向こうからは全力で拒絶しているかのごときノックの乱舞が聞こえてきたものの、当然士道はスルーした。ドSの士道に対してそんな反応は逆効果である。
「開けるぞー、七罪。どれど――れ!?」
興奮と期待を煽られた士道は容赦なくカーテンを開け――絶句した。
何故なら試着室の中に広がっていた光景は想像とは全く異なるものであったから。中にいたのは顔を真っ赤にしてこちらを睨み、幼く慎ましやかな身体に下着を身に着けた七罪ではなかった。
「ふふっ。ちんちくりんな私が顔を赤くして待っていると思った? 引っかかったわね、士道くん」
中にいたのはメリハリのある悩ましい身体に色っぽい下着を身に付け、腕を寄せて豊満な膨らみを強調する七罪お姉さんであった。
どうやら士道は七罪にいっぱい食わされたらしい。恥ずかしくて声も出せないのかと思っていたが、実はそう思わせておいて覗かせるのが目的だったようだ。
「ほら、見て。とってもエッチな下着姿でしょ? ロリコンさんの士道くんにはちょっと刺激が少ないかもしれないけど、十分エッチに見えるでしょ?」
「お、おお……」
更に腕を寄せて豊満な膨らみを一層強調しつつ、士道に魅惑的な視線を向けてくる七罪。
下着は下着でも今七罪が身に着けているのはどちらかといえばネグリジェに近いタイプだ。露出度ははっきり言って少なめだし、所々にフリルやレースによる装飾が見られる所から一見可愛さ重視に見える。
しかし色は何と嫌らしい紫。それも七罪の抜群のプロポーションがはっきり認識できるくらい生地が薄い。ゆったりとした生地の向こうに透けて見える魅惑のボディラインは、見事に士道の目を釘付けにして離さなかった。
「ふふっ。見てるだけじゃなくて触ったって構わないのよ? もちろん士道くんなら、その先だって……」
「っ……」
その言葉に思わずごくりと息を呑む士道。
七罪お姉さんの身体ははっきり言ってエロ過ぎる。変身して望み通りの姿を作り出しているので当然といえば当然かもしれないが、あまりにも完璧過ぎるのだ。その完璧さを一度味わった身としては、この誘惑を振り切るのは非常に困難な試練だった。
「……はっ!? い、いや、それよりちゃんと本当のお前の下着姿を見せろよ! 何で変身したままなんだよ、お前は!?」
しかしそこは本当の七罪を愛している士道。欲望に打ち勝ち、何とか誘惑に抗うことができた。まあかなり際どい所だったが。
「もうっ、士道くんったらやっぱりロリコンさんね。お姉さん、また自分にちょっと妬いちゃいそうよ?」
すぐさま視線を逸らしてカーテンを閉めた途端、その向こうから七罪のいじけたような台詞が返って来る。ただしヤキモチなどは微塵も感じられず、むしろ喜びと幸せが滲む声音で。
見た目も性格も別人としか思えないほどに様変わりしていても根っこは同じ七罪だ。傷つくポイントも同じなら喜ぶポイントも同じなのだろう。
「――ぜ、絶対着替えてるとこ覗くんじゃないわよ! 絶対よ!?」
覚えた興奮を何とか鎮めようと試みていると、元に戻ったらしくカーテンの向こうから顔だけを覗かせてくる本物の七罪。その顔は真っ赤で警戒心も露だ。
お姉さんだった時は明らかに誘惑染みた台詞と視線を向けてむしろ歓迎ムードだったというのに、元に戻った途端にこれである。
「そう言われると逆に覗きたくなってくるのが不思議だよな」
「……本物の女になってみたい?」
「いや、うん。大人しく待ってる。心の準備が出来たら見せてくれ」
好奇心と欲望に加えてイタズラ心まで湧き出てきたが、七罪の冷たい問いに即座に下心は鎮火した。極めて効果的な言葉だと本人も理解しているのか、最近はどうにもこの魔法の言葉でやりこめられがちである。
まあ何だかんだ言っても実際にやったことは無いので、一応七罪も本気ではないはずなのだが。できればそうだと信じたい。
「全く……さっきの私より今の私の着替えを覗きたがるとか、本当あんたってロリコンのドSよね」
「そういうお前は変身すると本当に別人かってくらい性格変わるよな。さっきは誘惑してきた癖に、今は脅し交じりで拒否してくるし。それで結局どっちが本音なんだ?」
カーテンの向こうからそこはかとなく嬉しそうな罵倒が聞こえてきたため、ついからかいたくなって問いを投げかける。
無論答えは返って来なかったものの、お姉さん状態の時に口にした台詞や取った行動を思い返して羞恥で悶えているのは手に取るように分かった。壁を殴るような音が中から聞こえてきた辺りからもそれは明らかである。
「……き、着替えた、わよ?」
しばらくした後、カーテンの向こうからどこか緊張気味の声が聞こえてきた。下着姿どころか一糸纏わぬ姿すら何度も士道の目に晒しているとはいえ、やはり恥ずかしいことは恥ずかしいのだろう。そんな恥じらいが実に愛おしく、そして興奮を煽ってくる。
「お、やっとか。待ちかねたぞ。それじゃあ早速見せてもらうぜ?」
どうせ店内には自分たち以外誰もいないので気兼ねする必要も無い。なので士道は容赦なくカーテンを開け放ち、試着室の中の光景を瞳に収めた。
その光景とは下着姿の七罪(本当の姿)が恥ずかしそうに縮こまっている姿。士道を喜ばせるためと言うだけあって、身に着けている下着はなかなかに可愛らしいものであった。色は四糸乃を彷彿とさせる綺麗な青色、装飾や刺繍は地味な方だがむしろそれが七罪に似合っている節があった。
「ど、どう? 何か言いなさいよ……」
じっとその姿を眺めていると、焦れたように感想を求めてくる。
自分に似合うものではなく、士道が喜ぶ下着が欲しいと口にした七罪だ。やはり一番気になるのは士道がこの姿を見てどう感じたかということなのだろう。
「何かこう、アレだな。確かにさっきの七罪お姉さんの方がエロイ格好してたはずなのに、今のお前の方がそそるっていうか……」
「その割には結構落ち着いてない? さっきはまるで童貞みたいな反応してたのに……」
「し、仕方ねぇだろ。あっちのお前とはまだ一回しかしたことねぇしさ……」
正直な感想を口にしたというのに、七罪は半目で機嫌悪そうに睨みを向けてくる。そんな表情をされても慣れ親しんだ未成熟な肢体と初めてに近い成熟した肢体に感じる興奮の溝が埋まるわけではない。
尤も下着姿で頬を染めながら睨んでくる姿には、ドSとしてそれなりの愉悦を感じてしまったのだが。
「それより、まだ他にも着てみるのあるんだろ? 早く次のも見せてくれよ」
「……分かった」
不満そうに短く頷くと、七罪はすぐにカーテンを閉めてしまう。
別の下着を身に付けるということは一時的に裸になるということ。つまりこのカーテンの向こうでは七罪は今身に着けている下着を全て脱ぎ去ろうとしているのだ。覗きたい気持ちを抑え込むのは実に精神を使う行為であった。やはり士道はロリコンなのかもしれない。
「……き、着てみた、けど?」
しばらくしてそんな声が聞こえてきたので、躊躇い無くカーテンを開けてその姿を瞳に収める。今度の七罪は上下共に純白の下着姿であった。
ただし色は清純でも露出は先ほどと比べるとかなり多い。先ほどの青いブラは七罪の薄い膨らみの八割以上を覆うタイプだったのに対し、今身に着けているのは精々半分かそこらを覆う程度のものだ。しかも実に外しやすそうなフロントホックタイプ。ショーツの方もサイドがひも状で簡単に脱がせてしまえそうである。
「おお、凄い可愛くて似合ってるぞ、七罪。それに上も下も脱がしやすそうで良いな、それ」
ちょっと過激だが似合っているのは事実。故に士道は思ったことをそのまま口にした。下手なお世辞は無かったせいか七罪の頬は僅かに緩み、照れ臭そうに赤く染まっていく。
「絶対それ言うと思った……ちなみにさっきのとこれとだと、どっちの方があんたの好み?」
「ん……そう、だな。脱がしやすいのは良いけど、やっぱさっきの方が好みかもな」
「……理由は? 怒らないから正直に言ってみなさいよ」
こちらの方が露出が多いのに何故先ほどの下着の方が好みなのか。鋭い視線にそんな問いを乗せて投げかけてくる七罪。
琴里曰く、女を褒めるのに他の女を引き合いに出すな。そんな助言を受けたこともあったが、士道は正直に答えることにした。何故なら自分と同じく神聖視している節のある相手だからこそ、引き合いに出しても問題の無い名前だから。
「色合いが四糸乃を髣髴とさせる感じだったから……だな」
本来なら不合格間違い無しの答えだが、そこは士道と同じく四糸乃を神聖視気味の七罪。一瞬呆気に取られたような顔をしたものの、すぐに同士を見る感じの仲間意識が滲む表情でサムズアップを返してきた。なので士道も同様に無言で親指を立てて返しておく。
傍から見ると意味が分からないかもしれないが、この時確かに士道と七罪は通じ合っていた。四糸乃は心のオアシス、そして慈愛の女神である、と。
「ふふっ、士道くんにいっぱい下着を買って貰っちゃった! お姉さんとってもご機嫌よ!」
「そ、そうか。良かったな……」
何着かの下着が入った紙袋をその胸に抱き、大はしゃぎするのは七罪ではなく七罪お姉さん。
あれから何着かの下着姿を見せてもらった後、士道はその内の幾つかの下着を買って上げた。相手は滅多にわがままを言わない七罪なのでどうせなら全部買ってあげようとしたのだが、さすがにそれは遠慮されてしまったのだ。下着を買う理由が士道を喜ばせるためでも全部は買ってくれなくて良いと遠慮するあたり、理由が無かったら一着買い与えさせてくれるかどうかという微妙な所である。まあ七罪らしいといえば七罪らしいが。
そんなわけで士道たちはランジェリーショップを出た所だった。店内には誰もいなかったので人の目を心配する必要は無かったものの、さすがに通りの方は人払いされていないためもう一度変身してもらったわけである。
「どうしたの、士道くん? 何だかとっても辛そうよ?」
「ま、まあ、ちょっとな……」
ただちょっとした事情により、店の前を動くことができずに士道は蹲っていた。より正確に言えば下腹部を隠すように前屈みになって。
その様を見てピンと来たのだろう。七罪はどことなく妖艶な笑みを浮かべると、内緒話をするように耳元に唇を寄せてきた。
「もしかして、あっちの私のちんちくりんなボディを見すぎて興奮が抑えられなくなっちゃったの? もうっ、士道くんったら本当にロリコンさんね。そんな風に抑え込むくらいならさっき試着室で私を襲っちゃえば良かったのに……」
「いや、あっちのお前はすげぇ嫌がってたじゃねぇか。着替えの途中で覗いたら本物の女にしてやるって言って。ていうか俺だってあんな場所でするのは抵抗あるぞ」
「四糸乃ちゃんは映画館で無茶苦茶にした癖に、私には同じことしてくれないのね。士道くんったら酷いわ、もうっ」
またしてもそれを引き合いに出し、むくれてそっぽを向いてしまう七罪お姉さん。別の人物なら何の不思議も無いのだが、これであっちの七罪と同一人物なのだから困ってしまう。覗いたら女にしてやると警戒心バリバリな方が本音なのか、それともいつでもどこでも大歓迎という方が本音なのか。
「だ、だからアレは琴里に命令されて仕方なくやったんだって。そんな拗ねるなよ、七罪……」
判断がつかないため、ひとまずはご機嫌を直してもらうことを考える。なのでとりあえずこちらを向いて貰おうと手を伸ばしたのだが――
「ふふっ。冗談よ、冗談。それより士道くん、お姉さんから一つ提案があるの」
「提案……?」
――その手が肩に触れる前に、七罪はこちらに視線を戻してきた。ちょっと興奮が昂ぶっている今の状況を鑑みても、妙に色気を感じてしまう魅惑的な表情と共に。
「ええ、とっても素敵な提案よ。士道くんはとっても辛そうだし、ちょうど場所もすぐ近くだわ。良かったらあそこに行きましょう? お姉さんがすっきりさせてあげるから……」
「あ、あそこって……まさか……!?」
「ええ、士道くんの想像通りの場所。ホ・テ・ル・よ?」
戦慄する士道の前で、七罪は予想通りの言葉を口にする。しかも可愛くウインクまでしてくるというおまけつき。元に戻ったらまず間違いなく恥ずかしさに悶絶するに違いない。
「い、いや待て! 本当にそんなとこ行く気か、お前!?」
「だってこんな状態の士道くんをお家に連れ帰るわけにはいかないもの。明るいうちにお家でするのはいけないって、琴里ちゃんにも言われてるんでしょう? ホテルなら皆にバレちゃう心配も無いから、気兼ねなくエッチなことができるわよ?」
「そ、それはそうなんだけどな……」
ぐうの音も出ない正論に二の句が告げなくなる士道。確かにまだ明るいうちにそういう行為をするのは禁止とまでは言われていないものの、推奨されていないのは確かだ。そしてホテルへ行けば何の心配も不安も無く愛し合い、欲望を存分に満たすことが出来るのもまた確か。
「それともランジェリーショップに戻って試着室の中でエッチなことしちゃう? 私は別にそれでも構わないけど、ちゃんとベッドがある所なら色々なことができると思うの」
「い、いや、でもさすがにこんな真昼間からそんなとこ行くのはちょっとな。万が一入るところを知り合いにでも見られたら……」
そんな事態に陥ったら人生終わったようなものだ。特にクラスの姦し三人娘あたりにでも見られた時には、翌日には最低でもクラス中にその情報が広まっていることだろう。
なので躊躇いを感じてしまう士道であったが、七罪は不安も心配もどうでも良くなるような妖艶な微笑みを浮かべて手を握ってきた。
「もうっ、士道くんったら私の能力を忘れたの? 士道くんの見た目を別人に仕立て上げることくらい造作も無いのよ? さ、そういうわけだからまずは士道くんの見た目を変えましょう!」
「本当便利だなお前の能力! ああ、分かったよ! 分かったけど本物の女に変身させたりするなよ!?」
変身する所を見られないように路地裏へと連れ込まれる最中、せめてもの抵抗として士道はそう断っておいた。ホテルへ行くこと自体はもう確定事項として、あくまでも仕方なく受け入れて。
路地裏で七罪に無難な姿に変身させてもらった士道は、その足で半ば強引にホテルへと連れ込まれてしまった。折紙に何度か連れ込まれそうになった経験はあるものの、実際に利用するのはこれが初めてである。そのため幾ら大人な行為をした経験があろうと、さすがに緊張を拭うことは出来なかった。
とはいえそんな士道の隣にいたのは別人としか思えないほど内面も様変わりしている七罪お姉さん。緊張と居心地の悪さに固まりそうになってしまう士道に代わり、必要なことは全部率先してやってくれた。全部というのはもちろんどんな部屋にするのか選ぶのも含めて、である。
「……で、何でSM部屋なんだよ。お前そういう趣味なんてあったか?」
なので七罪に連れられて足を踏み入れた部屋は、あろうことかそんなヤバイ部屋であった。
どう贔屓目に見ても檻にしか見えない物体が隅の方に配置されているし、百歩譲っても三角木馬にしか見えない物体も鎮座している。X字の磔台も妙な異彩を放っていて、さすがに士道もこれにはちょっと引いてしまいそうだった。
「ごめんなさいね、士道くん。適当に選んだらこんな部屋になっちゃったの。さすがにそんな趣味は無いはずだけど……良い機会だし、試してみる?」
「た、試すって……何をだよ?」
士道を元の姿に戻しても自分の姿は戻さず、意味深な台詞と共に色っぽい笑みを向けてくる七罪。くらくらしそうな魅力に抗えず、分かっていながらもついつい尋ねてしまう。
「もちろん、この部屋に相応しいちょっとだけ乱暴なことよ? 私をベッドや磔台に縛り付けて、この身体を思うがままに嬲ってみたくない?」
「い、いや、別に……」
「ふふっ。口ではそう言うけれど身体の方はとっても正直よ、士道くん? ほら、もうこんなに大きくなって苦しそうだわ……」
「っ……」
静かに身を寄せてきた七罪が、細い指で以ってズボンの上から下腹部を撫で擦ってくる。感触自体はあまり感じられなかったものの、飛びきりの美女に下腹部を撫でられているという事実に身体は更に正直な反応を示してしまった。具体的にはズボンの盛り上がりが最早前屈みになる程度では隠し切れないものへと。
「心配しないで、士道くん。お姉さんが優しく、気持ち良くしてあげるから……」
「七罪……」
慈愛に満ちた微笑みを向けられ、最早抗う気力すら失われた士道はそのままベッドへと押し倒される。本来の七罪なら向こうから押し倒してくることなどありえないが、今の七罪は身も心も年上のお姉さん。
その圧倒的な色気に当てられ、首筋への情熱的なキスにされるがままになっていた所――
「――はい、これでオッケーね!」
「ま、またかよ……」
――手早く両手をベッドに拘束されてしまった。
自宅ならともかくここはホテルのSM部屋。考えてみればベッドに手錠や足枷まで備え付けられていても何もおかしくはない。どうやら七罪の色気に当てられて思考力や判断力が鈍っていたらしい。
「手錠に慣れてるなんてさすが士道くんね。でも、慣れてるってことはやっぱり琴里ちゃんとそういうことしてるの?」
「いや、俺はMじゃないしな。まあ、無理やりされることもあるにはあるんだが……」
士道はMではないし白琴里はSではないが、黒琴里は生粋のドSだ。夜中に目が覚めたら手錠で拘束されていて、それを黒琴里が愉悦を浮かべて見下ろしているという状況にも遭遇したことはある。尤もそこまで頻繁にあることではないが。
「そうなの。無理やりされるだなんて可哀想な士道くん……でも心配しないで? お姉さんはそんな酷いことしないわ」
「……本当か? 嘘じゃねぇだろうな?」
その時にドSの司令官様が浮かべる表情とは全く異なり、むしろ四糸乃が浮かべるものに近い慈愛溢れる笑みを向けてくる七罪。
一瞬安堵を抱いてしまう士道だが、ついさっきその慈愛の笑みに騙されてベッドに拘束されたばかり。さすがに馬鹿正直に信じることはできず、大の字に拘束されたまま疑いの目を向ける。
「ええ、もちろんよ。だけど――えいっ!」
「うひゃっ!?」
七罪はしっかり頷いたものの、そんな可愛らしい掛け声と共に士道の脇腹を突ついてきた。思わず変な声を出して身を捩るが、ベッドに拘束されている以上逃げることはできなかった。
「酷いことはしないけど、お姉さんちょっとだけイタズラして楽しんでみたいの。そんなわけだから、えいっ! えいっ!」
そうして七罪は何度も士道の脇腹や腹などを指で突っついてきた。満面の笑みを浮かべ、長く美しい緑の髪を楽しげに揺らしながら。
「ふはっ!? や、やめろ、七罪……! ははっ、ははははっ!」
ベッドに拘束されているため当然避けることも逃げることも出来ず、されるがままになるしかない。こそばゆい感覚に込み上げる笑いに身悶えしながら、やめるよう必死に乞い願うしかなかった。
まあ七罪は実に楽しそうな笑みを浮かべているので、幾ら言った所で簡単にやめてはくれないはず。乞い願いながらも士道はそう思っていた。
「………………」
だが気付けば七罪は呆けたような表情を浮かべ、何故か攻めの手も止めていた。まるで何か大切なことに気が付き、思考を巡らせる事に集中しているかの如く。
「ど、どうした、七罪?」
「……ごめんね、士道くん」
急にどうしたのかと声をかけた所、そんな謝罪の言葉が返って来る。
またしても疑問に思う士道に対し、七罪は一度だけ唇にキスしてきた。軽く触れ合わせるだけの比較的穏やかなキスだ。重ねていた唇が遠ざかった後――
「お、おい、何で戻ったんだ七罪?」
――何故か元の姿に戻っていた。
キスが原因かと一瞬考えてしまう士道だが、以前七罪お姉さんと身体を重ねた時は幾らキスしても元の姿に戻ったりはしなかった。直前の妙な反応も考えると、恐らく七罪は自らの意思で元の姿に戻ったのだろう。しかし何故今このタイミングで戻ったのか。
「……士道、私自分で言うのもなんだけど陰湿で執念深い性質なのよ」
首を傾げてしまう士道の前――というか腹の上で、本来の姿に戻った七罪は妙に真面目な顔つきで見下ろしてくる。
だいぶ頬が赤いがそれは今までお姉さんしていた自分の発言や行動を思い出して羞恥を感じているから。であるならば何故羞恥に転げまわることなく、こんなにも真剣な表情で見下ろしてくるのか。
「ま、まあ、それは何となく分かる。けど、それが一体どうしたんだよ?」
「ほら、あんたには散々セクハラとかイタズラとかされまくったでしょ? いきなりお尻触ったり胸触ったり、挙句の果てには私の髪に顔埋めて匂い嗅ぐとか美九みたいなことまでするし……」
「いや、それはほら、スキンシップってやつだ。別にお前を苛めて楽しんでるわけじゃねぇからな?」
七罪が実に可愛らしい反応をしてくれるので実際はちょっと楽しんでいる節もあるが、何となく本音を口にするのは賢明ではない気がした。士道はベッドに拘束されているのだから、今士道の命運は七罪が握っていると言っても過言ではないのだ。ここは下手に出るのが賢い選択だということくらいは理解できていた。
「じゃあ私がこれからすることもスキンシップってことで許してくれるわよね。士道は優しいし」
「……一応、何する気か聞いても良いか?」
「うん。ちょっと本気でくすぐってみようかなって」
不安を感じて尋ねた所、真剣な顔つきに反してそんな可愛らしい答えが返って来る。もっと凄いことをされるのではないかと冷や冷やしていたので、士道はいっそ拍子抜けするほどの安堵を覚えられた。
「あ、ああ、それくらいなら――っ!?」
ただしその安堵は七罪が起した行動を見て、次の瞬間全て絶望へと変わった。
七罪が起した行動は部屋にあったティッシュボックスから十枚ほどティッシュを抜き取り、それをベッドの上に投げ捨てただけ。だがそれらはベッドに落ちた時には全く原型の残っていない別の物体へと様変わりしていた。
真っ白な鳥の羽根や猫じゃらし、絵筆といった、くすぐりに使うのに大変具合が良さそうな物体へと。
「じゃ、まずはこれで」
そう言って七罪が手に取ったのは鳥の羽根。綿毛のようなふわふわとした質感なのは一目で分かる高級な羽毛だ。くすぐられたら非常に苦しい思いをすることになるのは嫌でも理解できた。
「待て七罪! お前それは本気すぎる――うひゃあぁぁ!?」
しかしベッドに拘束された士道は逃げられない。故に近づいてくる羽根を避けることはできず、首筋を撫でられて素っ頓狂な声を上げてしまった。
「……ヤバイ、超楽しい」
「や、やめ――ひゃはははははは!? はははははははっ!」
そんな反応がお気に召したらしく、七罪はそのままこちょこちょと首筋を攻め立ててくる。両手に一本ずつ鳥の羽根を握り締め、士道の首筋を左右から。当然ながら士道にできたのはくすぐったさに悶えて情けない笑い声を上げることだけだった。
「よし、じゃあ次は猫じゃらしで」
「ま、待て! 分かった! 俺が悪かったから! もう変なことしないって約束する!」
この仕打ちには士道も堪らず負けを認める。尤も実際に約束を守るか保証はできなかった。七罪はからかったりすると実に良い反応をしてくれるのでついついからかってみたくなってしまうのだから。
「……それはそれで何か腹立つ。だからやめない」
「本当めんどくさい奴だな、お前!? あ、やめ――はははははははっ!」
そんな士道の考えを予想したのか、それとも魅力が無いと言われた気がして嫌だったのか。ちょっとご機嫌斜めな表情を見せながらも七罪は止めることなく、猫じゃらしで士道の身体をひたすらくすぐってきた。
猫じゃらしに飽きたら今度は絵筆にしたり、あるいは鳥の羽根に戻ってみたり、また今度は別の物体に手を出してみたり。便利な能力を持っているが故に、七罪が攻め手に事欠くことは全くなかった。そのため士道はひたすら新鮮で効果的なむず痒さに攻め立てられ、呼吸を整える暇すら与えらないまま時を過ごしていった。
「はあっ……はあっ……!」
「ふぅ、ちょっと良い汗かいたわ。うん、すっごく楽しかった」
十分かそこらほど経過した頃だろうか。七罪はちょっと良い汗かいた程度らしいが、休むことなく攻め立てられた士道の方は完全に汗だくで消耗していた。少なくともシャツやら何やらが肌に張り付いて気持ち悪くなり、抑えられなかった興奮も萎えてしまうくらいには。
「な、なら……もう、満足したろ? さっさとこれ、外してくれ……」
「うーん……でもここで終わらせるのはもったいない気がするのよね。せっかくのチャンスだしもっと何かできないかしら」
「まだ何かやる気かよ!? お前本当は相当のSだろ!?」
「まあどっちかって言えばSね。何かこう、もっと楽しめることって無いかしら……」
熱かったのか上着を脱いで薄着になりつつ、悩む様子を見せてくる七罪。
もう十分仕返しはしたと思うのだが、まだまだ気が済まないらしい。度重なるセクハラとイタズラによって積もり積もった恨みは相当なもののようだ。執念深いというか陰湿というか、そんな所もやはり七罪らしいと言えば七罪らしい。
「……あ」
そんな陰湿で執念深い七罪が、脱ぎ去った自らの上着を目にして何か思いついたような声を上げる。
その反応を見て士道はこの時悟ってしまった。恐らく先ほどのくすぐりが可愛いものに思えるくらい、次に自分を待ち受けている仕返しは惨たらしいものなのだと。
「ねえ、士道……本物の女の子になって色々着飾ってみたくない?」
「……おい、やめろ! 頼むからそれだけはやめてくれ! お願いします!」
予想通りの仕打ちを提案され、生きた心地がしないまま全力で乞い願う。
最近の七罪は士道を脅す時、本物の女の姿にしてやるとか色々言っているのだ。考えてみればこの仕打ちは必然のようなものであった。たとえどれだけ嫌がろうとも、ベッドに拘束されている士道は逃れることができないのだから。
「写真に撮っておけば美九に襲われた時交渉材料に使えそうよね。あ、でも私たちのことバレるかもしんないからダメ? まあ撮っといて困ることはないし、一応撮っとくわね」
「撮影までする気かお前!? やめろ! もしそんなことしやがったらお前のこと嫌っちまうぞ!」
「……っ!」
それだけは心の底から本気で嫌だったので、七罪の精神状態が乱れることを覚悟でその言葉を口にした。つまりは士道に嫌われるかもしれないという怯えを利用する。
元々士道が自分から離れていかないよう、無意識にとはいえ身体や分泌物を作り変えている七罪だ。以前の二人きりの温泉旅行の時も、お姉さん状態にも関わらず士道に嫌われることを恐れ怯える姿を見せていたのだ。こう言えば言うことを聞くというのは分かっていた。
その証拠に七罪は士道の言葉に一瞬息を呑み――
「……士道、あんたはこれくらいで私のこと嫌ったりしないってことは分かってるから、そんなこと言っても意味無いわよ。前のアレが無かったらどうだったか分かんないけど、今なら私が何してもまず嫌われないってのは分かってるわ。い、一応、本命だし……」
――あろうことか全く怯えを見せなかった。むしろ幸せそうに頬を染めるという可愛らしい素振りさえ見せてきた。今は消えていてもう残っていないものの、左の薬指に残した噛み痕で作った指輪を眺めながら。
「くそっ! 何でこういう時に限ってえらく前向きに成長してんだよ、お前は!?」
士道の愛を確信してくれるようになったのは大変喜ばしいことだが、明らかにタイミングが悪すぎた。
いっそのことこちらも精霊の力を使って対抗しようかと考えるものの、後で琴里に怒られそうな気がするので使うに使えないし、幾ら力を封印しているといっても同じ能力を使って七罪に勝てるとも思えなかった。
「大丈夫よ、士道。あんたは何もする必要ないから。こっちで勝手に色々やるだけだから。あ、でも最初に着る服くらいは選ばせてあげるわよ? スク水、メイド服、体操服、どれが良い?」
「だ、誰かあぁぁぁぁぁ! 誰かああぁぁぁぁぁぁ!!」
極めて惨たらしい仕打ちを前に、士道は全力で声を張り上げ助けを求めた。
しかしここはいかがわしいホテルの一室、それもSM部屋の中。防音設備は完璧だろうし、例え外に声が聞こえたとしてもお楽しみの最中としか思われないだろう。
故に助けを求める声には全く意味が無く、士道は本物の女にされた上での強制ファッションショーという惨たらしい刑を執行されるのだった。
念のために断っておきますと、次回は士織ちゃんの強制拘束ファッションショーではないです。そんなものを書いたら変な性癖に目覚めてしまいそうだ……。
24日には上映会、1月11日にはテレビで放送のデアラ三期。私はちょっと遠すぎて見にいけませんが、24日に観に行く方々は是非楽しんできてください。
次回はエッチなお話です。普通のプレイばっかりだった七罪も、ついにアブノーマルなプレイの番が……。
更新停止期間の執筆状況の進捗はどれくらいの頻度で活動報告に載せるべきか
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