※この作品はR-18です。

士道クリミナル   作:サイエンティスト

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 今回もあんまりエロくないお話。
 ちなみに「クライシス」というと危機的な状況のような響きがありますが、実際には「転換期」という何の変哲もない意味です。
 しかしその言葉が意味することは重要ですよね。
 もしかするとこのお話か次のお話で何かが変わるかも……。

 



○七罪クライシス

「ねぇ、士道。良かったら、何か手伝わせてくれる?」

「ああ、助かる。じゃあ食器を俺が洗うから、七罪は拭いて食器棚に戻してくれ」

「ん、分かった」

 

 ある日の夕食後、食器を洗っていた士道に七罪が手伝いを申し出てきた。

 とはいえ最近では珍しいことではない。

 最近七罪は五河家に入り浸りがちなので、夕食を共にすることも多い。

 そのまま特に理由や用事がない時は家に留まり、こうして手伝いをしてくれる。

 状況が士道に関係することのみではあるものの、七罪が積極的に行動するようになったのは嬉しい限りだった。

 それに琴里は手伝ってくれないので、士道としても大助かりだ。

 ちなみにその琴里はソファーで風呂が沸くのを待ちつつ、テレビを見てくつろいでいる。

 せめて七罪の十分の一でも手伝えと言いたい。

 

「にしてもお前、本当にいつも手伝ってくれるよな。別に休んでたって良いんだぞ?」

「でも、こうやって手伝ってる方が落ち着くし。その……士道の傍に、いられるから……」

 

 照れくさそうに視線をそらし、呟く七罪。

 自身からの愛情表現を受け入れてくれると知ってからは、以前に比べればずいぶんと触れ合いを求めてくるようになった。

 残念ながら期待したほど甘えてはこないが、七罪にしては大きな一歩と言える。

 頻繁にではないがキスくらいはしてくるし、ごく稀に抱きついてくることもある。

 中でも一番の変化は、過剰なまでに一緒にいたがるようになったことだ。

 恐らくは相手に深く依存するタイプだったのだろう。

 普通なら煩わしさや面倒くささを感じるのかもしれないが、士道は全くそう感じなかった。

 どうも傍にいても問題なさそうなタイミングを選んでいるらしく、七罪の存在を少しでも邪魔に思ったことが一度もない。

 むしろ傍にいて欲しい時はそこにいるし、こうして手伝いをしてくれることが多いので大歓迎だった。

 

「まあ、お前がそうしたいなら好きにしろよ。俺も助かってるし。ありがとな、七罪」

「うわっ、ちょっと……」

 

 感謝の笑みを浮かべてその頭を撫でようとしたところ、手が触れた途端に七罪は心底嫌そうな顔をした。

 

「濡れた手で頭撫でないでよ。しかも洗剤ついてるし……」

「あ、悪い。今拭いてやるからな」

「……何か袖で拭かれてると、雑に扱われてる気がして嫌なんだけど……」

「そうか? じゃあタオルで拭いてやるよ」

「何で食器拭いてたタオル使うわけ!? 新しいの使いなさいよ!」

 

 あえて七罪の手からタオルを取り、それで拭いてやった。

 怒った様子が可愛い上に珍しいので、こうしてからかってしまうこともしばしばだ。

 まぁたまにどつかれて反撃されるが、その反応もまた珍しい。

 少なくとも普段の七罪なら人をどつくことはない。

 

「よし、それじゃあ元の場所に戻すか。包丁と同じ棚の中にな」

「何でナチュラルに私を料理道具扱い!? ていうか包丁と一緒って、もしかしてまな板!? 遠回しに私の胸の小ささ馬鹿にしてる!?」   

「そんなわけないだろ、俺を信じろよ七罪」

「せめてこっち見て言いやがれぇぇぇぇぇぇ!」

 

 明後日の方を見て棒読みで答えると、流石の七罪もキレた。

 

「そんなに怒ることないだろ? いつも自分で言ってるじゃねえか。まな板とか、洗濯板とか、サランラップとか」

「サランラップは言ったことないわぁぁぁぁっ! ていうかそこまでは薄くねえだろがぁぁぁぁぁ! 馬鹿にしやがってぇぇぇぇぇっ!」

 

 珍しく胸の小ささを否定する七罪。

 まぁ拭けば飛ぶくらい薄いものに例えられれば、誰でも否定したくもなるだろう。

 流石にこれ以上からかうと、その手の中の皿が飛んできてもおかしくない。

 今度は新しいタオルで頭を拭いてやり、そのせいで乱れた髪を直すように撫でてやった。

 

「ははっ。冗談だって、冗談。俺が馬鹿にするわけないのは、お前が一番良く知ってるだろ?」 

 

 そもそも七罪は士道が貧乳好きだと確信しているのだ。

 本気で馬鹿にされているとは思っていないはずだ。

 これは距離が縮まったからこそできる、スキンシップという名の言い合い。

 七罪もそれを理解しているので、頭を撫でるか抱きしめてやると、大抵機嫌を直してくれる。

 ただ今回は思ったよりも効果が薄かった。

 

「……そりゃあ分かってるわよ。でも冗談でも馬鹿にされると無茶苦茶腹立つんだけど……今度言ったら二度と触らせない……」

「い、意外と気に障ったんだな……ごめん、もう言わない」

 

 流石にそれは困る。

 やはり関係の深さに関わらず、女の子に胸の小ささを指摘してはいけないらしい。

 もう二度とその手の冗談を口にしないと、士道は心に決めた。

 

「……ていうか士道、何で最近そんなに意地悪なわけ? 前はもっと優しかったような気がするんだけど……」

「悪い。お前が可愛い反応してくれるから、ついいじめたくなってさ」

「かわ、いい……っ……」

 

 噛み締めるようにその言葉を呟き、恥ずかしそうに顔を背けて俯く七罪。

 誤魔化すように食器を拭き始めるが、その口元の緩みは隠せていない。

 

「おーい、おにーちゃん。お風呂沸いたから入ってくるぞー?」

 

 士道も皿洗いを再開して少し経った後、琴里がキッチンに来てそれを伝えにきた。

 そのまま風呂場に向かうと思いきや、食器を拭いていた七罪の腕を掴んだ。

 突然のことに七罪は目を丸くしている。

 

「えっ、何?」

「七罪も一緒に入ろー! 背中の流しっこするぞー!」

「えっ、私と? こ、琴里が良いなら、私は構わないけど……でも……」

 

 ちらりと士道に視線を向けてくる七罪。

 その瞳は助けを求めているというより、手伝いを放り出して良いのかと語っていた。

 

「良いから入ってこいよ。もう皿洗いも終わるから、手伝いはいらないし」

「う、うん……」

「ぐへへへー! 七罪は頂いてくぞー!」

 

 性質の悪い誘拐犯のような笑い声を上げ、琴里は七罪を引き連れて風呂場へと向かった。

 別段抵抗を見せなかったのは、危険な相手ではないからだろう。

 それに一緒に風呂に入ってみたいという気持ちもあったはずだ。

 初めて士道と入浴した時は、色々あって最後まで楽しむことはできなかったのだから。

 今回は最後まで楽しめることを祈りつつ、士道は皿洗いを続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 七罪が手伝ってくれたおかげで、皿洗いはすぐに終えることができた。

 ただ早く終わりすぎたのか、琴里たちはまだ風呂から上がっていなかった。

 七罪だけならともかく、琴里もいるので流石に突入するわけにはいかない。

 とりあえず入浴は後回しにして、士道は部屋で宿題を始めた。

 無音の部屋の中に、ペンを滑らせる音が行き渡る。

 しばらく部屋にその音を響かせていると、階段を上がる足音が届いてきた。

 

「士道、お風呂空いたけど……入らないの?」

 

 扉を開けたのは、ダボついたスウェット姿の七罪。

 深い緑が七罪の髪や瞳を引き立てていて、ラフな格好とはいえ実に良く似合う。

 更には上気した頬やアップに纏めた髪先から僅かに滴る雫が、大人しめな色気を醸し出している。

 風呂上りの見た目幼い少女に色気を感じるのは人としてどうかと、士道は一瞬考える。

 しかし今更そんなことを気にしても仕方ないので、すぐにどうでも良くなった。

 

「そうか。けどせっかく宿題始めたんだし、キリの良いとこまで終わらせてから入るよ」

「そう。じゃあ、それまで一緒にいても良い……?」

 

 多少遠慮がちに尋ねてくる七罪。

 あまりベタベタしすぎると迷惑になると思っているのだ。

 タイミングを見計らってはいるものの、大抵許可を求めてくる。

 

「わざわざ聞かなくて良いって言ってるだろ? いたいなら、好きなだけ傍にいて良いからな」

「う、うん……でも、一応聞いておいた方が良いと思って……」

 

 苦笑して返すと、七罪は申し訳なさそうな表情をして部屋に入ってきた。

 そうして本棚から何冊か本を手に取り、士道の隣へと腰を下ろし、身を寄せてくる。 

 しかしやはり邪魔にならないように気を遣っている。

 士道が腕を動かしても肘が当たらない程度の距離を空けている。 

 やはり気遣いはとてもうまい。

 人を不快な気持ちにさせないために行っていた要らぬ心配と努力が、どうもここで役立っているようだ。

 これでは嫌う方が逆に難しく思える。

 

「それで、さっき琴里と一緒に風呂に入ったんだよな。楽しかったか?」 

「うん。やっぱり良いわね、ああいうの。頭洗ってもらったり、背中流してもらったり、逆にしてあげたり……ちょっと気が引けるけど、友達同士って感じがして……」

 

 ちらりと隣を見れば、嬉しそうに微笑んでいる姿が目に入る。

 七罪にとってはある種の憧れだったのだから、その反応も無理はない。

 

「次は自分から誘ったりしてみろよ。四糸乃とかはきっと喜んでくれるぞ?」

「そ、そうね……ちょっと畏れ多いけど、今度誘ってみる……」

「ああ。ついでに美九も――」

「やめて」

 

 四糸乃の時は満更でもない表情をしていたが、美九の名を口にした途端真顔で否定する七罪。

 そこまで嫌がられると流石に美九が不憫になってくる。

 

「美九と二人でお風呂に入ったら、絶対襲ってくるでしょ。どっかの誰かみたいに……」

 

 そう口にして、じっとこちらを睨んでくる。

 張本人である士道としては、その視線に突き刺さるような痛みを感じた。

 

「そ、それはもう謝っただろ……根に持ってるのか?」

「……少し。結局、背中流して貰えなかったし……」 

 

 七罪は不満げに呟く。

 まぁあの時は色々な理由で中断せざるを得なかった。

 七罪が望んでいたような結果にはならなかったため、残念な気持ちがあるのだろう。

 

「じゃあ、今度また一緒に入ろうな? その時はちゃんと背中も流してやるから」

「それは嬉しいんだけど……また襲ってきたりしないわよね……?」

「……保証はできない」

 

 正直に答えると、七罪お得意のジト目が向けられる。

 とりあえず士道は宿題に戻って誤魔化した。

 守れもしない約束はするべきではない。

 宿題を進める士道の隣で、七罪も無言で読書を始める。

 部屋の中に響くのは、ページをめくる音と、ペンを動かす音。

 誰もが心置きなく勉強に集中できる静かな雰囲気。

 だが勉強とはストレスが溜まる上に疲れる行為だ。

 それが宿題だろうと半分もやれば嫌になってくる。

 そんな時はストレスを発散するか、何らかの癒しが必要だ。

 当然士道も何らかの癒しが欲しかった。

 

「……? どうしたの? 私のことじっと見てるけど……」

「ああ、何か集中できなくてさ……」

 

 つい向けてしまった視線に気付いた七罪が、本から顔を上げる。 

 士道の答えを悪い方向に解釈したらしく、その表情は曇っていく。

 

「……ひょっとして、邪魔だった? ごめん、離れる……」

「あ、いや、違うんだって。ただ、その、集中できないっていうかさ……」

「やっぱり邪魔ってことじゃない……気を遣わないではっきり言ってよ。邪魔になることしたくないし……」

 

 気を遣うなと言いつつも、その表情は苦しげだ。

 自分が邪魔をしてしまったという事実に、罪悪感を抱いているのかもしれない。

 仮に邪魔だったとしても、大げさに過ぎる反応だ。

 要らぬ罪悪感を抱えたまま席を立とうとしたので、士道はその腕を掴んで引き戻した。

 

「だから違うんだって……勉強してて疲れてきたから、その……ちょっと癒してほしいな、って思ってさ……」

「えっ……」

 

 本当のことを言うと、七罪は微妙な表情を返してきた。

 喜びやら困惑やら恥じらいやらが入り混じった複雑な表情。

 しばらく反応に困っていた七罪は、最終的には僅かな困惑で落ち着いた。

 

「い、癒して欲しいって言われても……何すれば良いのか、分かんないし……」

「だったらお前は何もしなくて良いからさ、ただちょっとだけ抱きしめさせてくれよ」

「そ、そんなんで癒されるわけ? てっきり、口で色々しろとか言われると思ってた……」

「……十分思いついてるじゃねえか。けど、それは癒しとはちょっと違うな……」

 

 やって欲しくないこともないが、今求めているのはそういう類の癒しではない。

 今必要としているのは、心の充足を得られる暖かい癒しだ。

 

「……まぁ抱きしめるくらいなら良いけど、宿題終わらせてからにしてよ。途中で士道が発情したら、宿題に戻れないでしょ。私のせいで士道が困るのは嫌だし……」

「発情って……さすがにそこまで自制心は弱くないぞ……?」

 

 未だ琴里は階下にいるし、夜もまだ早い。

 流石にこの状況で抑えが効かなくなり、襲い掛かってしまうことはない。

 一度抑えが効かなくなったことがあるような気もするが、たぶん気のせいだ。

 

「終わるまでは駄目、か……はぁっ……」

 

 残念に思い、士道は溜息をついた。

 これはいわゆるお預けという類のものかもしれない。

 しかし七罪の場合、嫌われたくないという不安が未だに拭いきれていないようなので、たぶん押せばわりと簡単に折れる。

 

「そ、そんな欲求不満な顔されても、困るんだけど……」

 

 その証拠にしばらく視線を投げかけると、段々と七罪がうろたえていく。

 それでも視線を外さないでいると、やがて根負けしたように溜息をついた。

 恥じらいを頬に表しつつ、仕方無さそうに椅子から身を乗り出してくる。

 そして、自ら唇を重ねてきた。

 重ねたのはほんの二秒程度。

 触れ合わせるだけで、激しくもなければ深くもない。

 しかし十分心を満たしてくれる、癒しの口付けだった。

 

「……終わったら、やらしくないことなら何しても良いから、今はこれで我慢してよ……」

「……分かった。じゃあ、さっさと終わらせないとな」

 

 士道が心置きなく集中できるようにか、七罪は隣の椅子ではなく離れたベッドに腰を下ろした。

 可能な限り望みに答えつつも、時に相手のことを考えて拒否もする優しさ。

 傍にいても問題ないか、邪魔にならないか、計られるタイミングと絶妙な距離感。

 その不器用とも器用とも取れる気遣いが、とても可愛らしかった。

 ある程度気力が戻ってきた士道は、微笑ましさに頬を緩ませながら、再び宿題へと取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし……終わったぞ、七罪」

 

 十分ほど経過した辺りで、士道は宿題をやりきった。

 読書に没頭していて時間の感覚がぼやけていたのか、本から顔を上げた七罪は目を丸くしている。

 

「えっ、も、もう? まさか早く私に色々したいから、適当に終わらせたんじゃないでしょうね?」

「いや、ちゃんと終わらせたぞ? まぁ、早くお前に色々したかったのは事実だけどな」

 

 正直に答えると、七罪は眼差しを疑いから恥じらいへと変えた。

 

「そ、そう……じゃあ、好きにしなさいよ……けど、絶対いやらしいことはしないでよね?」

「分かってるって。約束するよ」

 

 頷きを返すと、七罪は観念したように俯く。

 士道は隣へ腰を下ろすと、その小柄な身体を抱え上げて膝に乗せた。

 そして後ろから手を回し、ぎゅっと抱きしめる。

 

「ふうっ……やっぱり癒されるな。抱き心地も良いし、暖かいし。美九がお前に絡む理由も何となく分かってきたぜ」

「できれば一生分かって欲しくなかった……ていうか、何この抱き方? 私、ぬいぐるみか何か?」

「ん、嫌だったか? 気に入らないなら他の抱き方にしてやるけど」

「……このままで良いわよ。別に、嫌じゃないし……」

 

 七罪はぽつりと呟き、身体の前に回した腕へと抱き寄せる形で手を置いてきた。

 口では嫌ではないと言っているだけだが、その手に込められた力は離して欲しくないと本音を語っていた。

 素直になれない可愛さに、士道はつい笑いを零してしまった。

 途端に笑いを耳にした七罪が、顔をこちらに向けてくる。

 当然その瞳は睨むように細められている。

 

「……何で笑ってんのよ。やれやれこいつ素直じゃないなぁ、とか思ってんじゃないでしょうね?」

「お前結構鋭いよな……けど、可愛いって思ったことは分からなかったのか?」

「っ……そんなこと、分かるわけないし……」

 

 頬を赤らめ、顔の向きを戻す七罪。

 やはり誉められることには慣れていないのだろう。

 一応誉め言葉を受け入れるが、反応がいちいち新鮮で可愛らしい。

 その可愛らしい姿を見ると、どうしても愛でたくなってしまう。

 士道は七罪の左頬へ手を添え、再び顔をこちらへ向けさせ――

 

「んっ……」

 

 ――その小さな唇へと口付けた。

 深くはしないし、激しくもしない。

 唇で唇を噛む、緩やかで柔らかな口付け。

 身を震わせるような快感はない。

 代わりに穏やかな幸せが心に満ちていった。

 

「……っは……」

 

 口付けを終えると、士道の心は十分に満ち足りていた。

 求めていた癒しは、十分得られた。

 しかし一つ問題がある。

 七罪を膝に乗せた時から生じていた渇きが、より大きくなってしまったのだ。

 

「ちょっ!? し、士道!?」

 

 隣にいた時から微かに香っていたが、七罪からはシャンプーの甘い香りが漂っている。

 ボディーソープではなくシャンプーだと分かるのは、ほとんど直に嗅いでいるせいだ。

 何せ七罪は髪をアップに纏めているので、膝に乗せると鼻の近くに香りの元がきてしまう。

 誘うような甘い香りは、士道の胸を高鳴らせていた。

 

「ひゃっ!? や、やめっ……」

 

 おまけに視線を少し下にずらせば、僅かに湿り気を帯びた白い首筋が目に映る。

 着ている服がダボついているせいか、あるいは大きさの問題なのか、襟元からは胸元も微かに覗いている。

 その見えそうで見えないもどかしさが、非常に悩ましかった

 

「っ……や、やらしいこと駄目って、さっき……んっ、うぅ……」

 

 どうしても抑えられず、士道は七罪の胸元を摩っていた。

 服の上からなので肌の感触こそ伝わってこないが、柔らかさは十分に伝わってくる。

 

「……悪い、七罪。ちょっと、我慢できなくなっちまった」

「っ……!」

 

 明確な身の危険を感じたらしく、腕の中でじたばた暴れだす七罪。

 抵抗するのは安全な状況ではないからだろう。

 もちろん士道もそれは分かっているので、流石に本番までいこうとは思っていない。

 

「そんなに危ないことするわけじゃないって。これで妥協する。約束するから、続けても良いか?」

「……どの口で言うのよ……さっき約束、破ったくせに……」 

 

 不満を露にする七罪だが、暴れるのを止めて抵抗しなくなった。

 とはいえ本意ではないらしく、後ろから顔を覗きこむと鋭く睨まれる。

 たぶん士道の切実な願いだからこそ、叶えてくれているのだろう。

 

「っ……ぅ……」

 

 手の動きを、摩る形から軽く揉む形へと変えていく。

 手の平を小さな膨らみに当て、指で包むようにして繊細に動かす。

 僅かだが力を入れる度、七罪は押し殺した喘ぎをもらしている。

 柔らかくも弾力のあるその膨らみを触に触れていると、刺激的な心地よさが湧き上がってくる。

 

「……っ!」

 

 服の裾から手を差し込み腹部に触れると、七罪がびくりと身体を震わせた。

 しかし抵抗はしてこなかったので、構わず指を上へと滑らせていく。

 胸元まで達したところで、更に下着の中へと手を差し入れ、直に触っていく。

 手の平の下で形を変える膨らみと、抵抗を主張するような尖り。

 触っているだけで心が満たされる、それこそ――周囲への警戒が薄れてしまうほどに。

 だからこそ士道は、階段を駆け上がってくる足音に腰を抜かすほどの驚きを覚えた。

 

「っ! ま、まずい――!?」

 

 慌てる士道だが、反応は七罪の方が早かった。

 精神に相当な負荷が瞬間的にかかったらしく、反射的に変身を遂げている。

 何故かそれは一冊の雑誌で、空中から落ちかけたので士道は咄嗟にそれをキャッチした。

 その途端、部屋の扉が遠慮も容赦もなく開かれた。

 

「おーい、おにーちゃん。お風呂入らないのかー? 早く入らないと冷めてしまう……の……だ……」 

「ど、どうかしたのか、琴里?」

 

 声を窄ませ凍り付いた琴里に、驚きも忘れて尋ねる士道。

 表情に色がないというか、衝撃的すぎて反応ができていない感じだ。

 一体何にそこまでの衝撃を受けたのだろうか。

 

「……あははは、私は何も見てないぞおにーちゃん! それじゃー私は下でテレビの続きを見てくるからなー! 早くお風呂に入るんだぞー!」

 

 たっぷり三秒は凍り付いていた琴里は、満面の笑みを浮かべて扉を閉める。

 確かに笑顔だったのだが、それはどこかよそよそしさの感じられる笑み。

 一体何が目に入ったのか気になり、琴里が向けていた視線の先を見てみた。

 

「……」

 

 そして、士道も同じく凍りついた。

 視線の先であるズボンにあったのは、興奮からきていた身体的な反応。

 そして、七罪が変身している雑誌の表紙。

 その表紙に映っているのは、互いを守るように抱き合う、あられもない下着姿の美少女二人。

 生意気そうな顔つきと、屈辱の滲んだ琥珀の瞳を持つ、長い黒髪の少女。

 優しげな顔つきと、怯えに揺れる水晶の瞳を持つ、長い白髪の少女。

 どこかで見た少女たちのような気もするが、今重要なのはそこではない。

 そんないかがわしい雑誌を手にして、身体的な反応を起こしている姿が問題だ。

 傍から見れば、明らかにそういう行為をしようとしているとしか思えないだろう。

 覚えた恥ずかしさが一周回るほどのもので、琴里同様上手く反応することができなかった。

 

「……あ、危なかった……」

「……そうか。俺は手遅れだったけどな」

 

 元の姿に戻り、膝に深く座り直す七罪。

 緊張が途切れたせいで完全に脱力している。

 

「……ご、ごめん……何か、咄嗟に思いついたのがあれしかなくて……」

 

 そのまま肩越しに罪の意識を見せる。

 咄嗟に思いついたわりには内容が凝っていた気もするが、士道に怒る権利はないだろう。

 今度はこちらが癒しを与えるように、その頭を後ろから撫でた。

 

「お前が謝る必要ないって。さっき約束破っちまったからな、その罰として受け取っとくよ。けど……今日はもう、琴里と顔を合わせられないな……」

「だ、大丈夫……?」

「……あんまり大丈夫じゃないな……はあっ……」

 

 声音に相当な絶望を感じ取ったらしく、七罪が気遣うような瞳を向けてくる。

 一周回っていた恥ずかしさが徐々に戻りつつあり、正直死にたくなってきた。

 心の傷を癒してもらうために、士道は再び七罪を抱きしめようとした。

 

「お、おい? 七罪?」

 

 しかし抱きしめる直前、七罪は腕から逃れるように膝から降りてしまった。

 しつこく抱かれていい加減嫌気がさしたのだろうか。

 士道はそう懸念したが、それは誤りだった。

 膝から降りた七罪はベッドに上がり、士道の背後へ膝をつくと――

 

「な、七罪……?」

「……元気、出しなさいよ……あんたが落ち込んでたら、私まで辛くなってくるじゃない……」

 

 ――後ろから腕を回して、抱きしめてきた。

 今まで何度か抱きつかれたことはあったが、抱きしめられるのは初めての経験だった。

 深い優しさを感じる温もりに、身体を包み込まれている。

 それはこちらが抱くことで得られる心地良さとはまるで違う。

 幸せな夢の中でまどろむような、安らぎにも似た心地良さ。

 先ほどの死にたくなるような恥ずかしさも忘れ、士道は自然と笑みを零していた。

 

「……じゃあ、早く立ち直らないとな。俺もお前に辛い思いはさせたくないし。だからそのために、もう少しこのまま抱いててくれるか?」

「も、もうちょっとだけなら……やっておいてなんだけど、かなり恥ずかしいし……」

 

 恥ずかしさに耐えるように、胸の辺りに回された細い腕に力が込もった。

 身体がより密着したせいで、七罪の控えめな両胸が肩に押し付けられる。

 柔らかさが伝わってくるものの、先ほど士道を突き動かした劣情は感じない。

 胸の中に染み入ってくる暖かな愛情だけで、十分に満足できていたから。

 しかし、もう少しだけ愛情を感じたかった。

 

「……七罪、俺のこと好きって言ってくれるか?」

「な、何で突然そんなこと……」

 

 唐突な頼みだったせいか、七罪は困惑を見せる。

 

「いや、ちょっと聞きたい気分になってきてさ。言ってくれよ」

「い、良いけど……士道も言ってよ……私だけ言うなんて、恥ずかしいし……」

「それもそうだな。じゃあ……愛してるぞ、七罪」

「う、うん。私も、す――っ!?」 

 

 言葉の途中で息を詰まらせ、固まる七罪。

 予想の上をいく言葉だったせいだろう。

 振り返れば顔を真っ赤に染めた、実に可愛らしい反応が目に入る。

 とはいえその反応を見たいがために、冗談で口にしたわけではない。

 本当は言ってやろうと、ずっと思っていた。

 ただ気恥ずかしさから言えなかったのだ。

 しかし今は胸に溢れる愛情が、ごく自然な言葉だと思わせてくれた。

 

「ほら、次はお前の番だぞ? 言ってくれないのか?」

「え、あ、うぅ……」

 

 催促すると七罪は顔を背けて俯いてしまう。

 表情は見えないが、口元は盛大に緩んでいる。

 やはりあの言葉は相当嬉しかったようだ。

 好き、という言葉とは重みが違うのだから、当たり前かもしれない。

 七罪は緊張から唾を飲むと、ゆっくりと口を開いた。

 

「わ……私、も……あ……愛して、る……士道……」

 

 蚊の鳴くような声で言い切ると、士道の背中に顔を埋めて黙り込んでしまう。

 たどたどしい上に途切れ途切れ。

 しかし望みどおり、愛していると口にしてくれた。

 愛の言葉と、七罪の初々しい反応は、これ以上ないほどに心を満たしてくれた。

 

「……ね、ねぇ……」

「ん? どうした?」

 

 満足感からきた吐息をもらすと、顔を背中に埋めたまま七罪が声をあげた。

 

「……も、もっと……言って……」

 

 どうやら七罪はまだ満足していないらしい。

 遠慮がちにねだってくる様は、とても可愛らしくて、愛らしかった。

 

「……ああ。愛してるよ、七罪」

 

 微笑ましさに笑みを漏らしてから、士道は七罪が満たされるまで優しく愛を語りかけた。

 

 

 

 




 愛してる、って一度は言われてみたいなぁ……可愛いロリの女の子に……。
 それはともかく、今回は特に重要な転換点はありませんでしたね。
 つまり次のお話がそうだということ。
 何が起こるかはご想像にお任せします。
 
 なお、寂しかったので今回タグを色々追加しました。
 今後も少しずつ増えていく予定。
 でもつけて良いタグなのかな、これ……?
 

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