それはともかく、今回でめでたく50話になりました! 何やら凄い人にあっさり抜かれた話数なのでちょっと挫けそうでしたが、気にせずこれからも自分のペースで書いていこうと思います。あ、今回は非エロ話です。ただちょっと出血表現的なものがあるかもしれないような……?
「ちょ、ちょっと待って、四糸乃! い、一旦落ち着いて!?」
「だ、大丈夫です、七罪さん。私は、とても落ち着いてます……!」
目の前にあるのは、いつも通りの愛らしい四糸乃の姿。
しかし、今目の前に立っている四糸乃は様子が普段と明らかに異なっていた。落ち着いていると口にしながらもどこか興奮した様子であり、それもある種の危うさを感じさせる興奮だ。これが性的な興奮ならまだ良かったかもしれないが、そうでないのは一目で分かる。何故なら四糸乃の右手には剥き身の小さなナイフが握られており、こちらに切っ先が向けられているのだから。
『そうそう。四糸乃は今とってもクールだよー? 七罪ちゃんこそクールになろうよー? 四糸乃が物理的に、永遠にクールにしてあげるからさ?』
そんな四糸乃の凶行を止めるどころか、むしろ恐ろしい言葉で肯定さえする『よしのん』。表情は無いはずだが酷く冷たい笑みを浮かべているような気がして、ぞっとする気分であった。
「ま、まずは話をしない!? ほら、そのナイフを下ろして――」
「七罪さんが、悪いんです……士道さんに誰よりも愛されて、誰よりも遠慮なく接してもらっている七罪さんが、悪いんです……」
『七罪ちゃんがいなくなれば、失意の士道くんを四糸乃が慰めてあげることができるのさ。そして七罪ちゃんの座に四糸乃が就くことも、ね? そういうわけだから七罪ちゃん、四糸乃のために犠牲になってもらうよ?』
「ちょ、ちょっと待って!? そんなことしなくても士道なら四糸乃を誰よりも愛してくれるから――!?」
何とか冷静になってもらおうと刺激しないよう低姿勢で語り掛けるが、全く効果は無かった。コミカルな表情の影に暗黒染みた黒い笑顔を感じさせる『よしのん』を左手に、四糸乃はナイフを構えてふらふらとした足取りで近寄ってくる。
当然こちらも後退りして逃げようとするが、数歩下がったところで何かに阻まれそれ以上後退できなくなる。振り返って見れば、それは何の変哲もない四糸乃の部屋の壁。何のことは無い、四糸乃のおかしな様子に危機感を覚えて反射的に下がっていたため、すぐ後ろが壁だったのだ。
「ごめんなさい、七罪さん……!」
「っ……!」
そして背後を振り返るという致命的な隙を晒した結果、迫るナイフを避けられないのは当然のこと。
軽い衝撃が胸を貫いたかと思えば、気づいた時にはナイフの鍔が薄い胸元に達していた。部位はもちろんのこと、どろりと赤い液体が溢れ出す様を見れば分かる通り、手の施しようがない致命傷だ。
「あ……し、ど……ぅ……」
堪らずその場に膝をつき、崩れ落ちてしまう。
最後に目にした光景は、こんな取り返しのつかない真似をしておきながらちょっと困ったような顔をしているだけの、可愛くも恐ろしい四糸乃の姿であった――
『はい、カットー! 二人ともなかなかいい演技だったよー! 欲を言えばもうちょっと鬼気迫った感じが欲しかったかなー?』
「で、でも、あれ以上はちょっと難しくて……」
「どんだけドロドロの血生臭い修羅場を演出したい――のよ、よしのんは……」
そんないつも通りの楽しそうな『よしのん』の声が聞こえたので、服にべったりとついた赤い染みに辟易しながらも軽く身を起こす。
先の一幕は痴情のもつれなどではない。言わば遊びの一環であった。当然ナイフは刃の部分が引っ込む玩具であり、赤い染みは柄の空洞に隠されていた血のり。四糸乃にはこちらを害する気持ちなど最初から一ミリも無かったのだ。
何のためにこんな真似をしているのかと言えば、それは勿論四糸乃のため。士道ともっと深い仲になりたい四糸乃が『よしのん』に唆され――ではなく助言を受けて到達した結論、士道に悪戯をしまくるという目的達成のためである。早い話がこの玩具のナイフを使って士道の前で修羅場を演じるので、先の一幕はその演技指導であり予行演習だった。
『そりゃーやるからには徹底的にやらないとねー? あー、でも今度は七罪ちゃんバージョンが見てみたいかな。というわけで、次は交代してやってみよー!』
「わ、分かった。あ、でもその前にちょっと琴里に電話してくるわ。ごめん、二人とも」
『オッケー。じゃあよしのんは今のうちに四糸乃の台詞を考えておくよ。演技でも物騒な言葉を使いたくないみたいだから、考えるのがちょっと難しいんだよねー……』
「で、でも、演技でも『死ね』とか、『殺す』なんて言うのは嫌だよ……」
今度は刺す方がこちらになった一幕を演じることになったが、その前にやることがあるので二人に断りを入れておく。無論ダメと言われることなど無かったので、一旦廊下へ出てから携帯を取り出した。
「……さて、と。あっちは上手くやれてるかな?」
そして、とある人物に連絡を入れる。しばらくコール音が続き、四コール目あたりで電話が繋がった。その相手とは――
「もしもし、七罪? そっちは大丈夫か? 美九に食われてないか?」
『ああ、うん。大丈夫……食われてはいない……』
自分自身――ではなく、正真正銘本物の七罪。
そう、今さっき四糸乃と修羅場の予行演習をしていたのは七罪ではない。七罪の姿をして七罪として振舞っているだけの、他ならぬ士道であった。
何故二人はナツーミをしているのかというと、それには勿論深い理由がある。例え愛する少女の見た目だとしても、何の理由もなく女の子に変身するほど士道の性癖は捻じ曲がってはいない。
「た、助けて士道っ! 一生のお願い!」
それは昨夜の出来事。自室でゆったりと過ごしていた士道の元に、突如として鬼気迫った表情の七罪が訪ねてきた。
「どうしたんだ、七罪? また美九に風呂にでも連れ込まれそうになったのか?」
「違うわよ! いや、美九が関わってるのはあってるんだけど、そうじゃなくて!」
「分かったから一旦落ち着けよ。ほら、深呼吸深呼吸」
「ううぅぅぅぅ……!」
何故かやたらに慌てている様子なので、とりあえずぎゅっと抱きしめて胸に顔を埋めさせてやる。こちらもそのモフモフの髪に顔を埋めて深呼吸したい気分であったが、それをやると逆効果なので今だけは我慢しておいた。
「そろそろ落ち着いたか?」
「うん……まあ、何とか……」
しばらくそのままでいると次第に落ち着いてきたらしく、鬼気迫る表情を浮かべていたのが嘘のように大人しくなる。
どこか居心地が悪そうに頬を赤らめているのは、きっと士道に抱かれるだけで落ち着きを取り戻してしまう自分自身を恥ずかしく思っているのだろう。正直腕の中でこんな初心で可愛らしい反応をされると下半身の方に来るものがあり、このまま抱いているとそれに気づかれそうなのでやむなく七罪のを身体を離す。
「なら良かった。で、何があったんだ?」
「実は明日、美九と出かけることになったのよ。その、二人きりで……」
「別に良いじゃねぇか。取って食われたりはしないだろうし。たぶん」
「嘘でもそこは断言して欲しかった……で、まあ別に美九と出かけること自体は問題ないのよ。いや、不安はあるから完全に問題ないってことでもないけど……」
「じゃあ何だよ? もしかして俺についてきて欲しいとかか?」
美九と二人きりが怖いなら、二人きりで無くしてしまえばいい。そういった考えに基づいて士道を誘いに来たのではないかと予想したのだが、どうやら違ったらしい。七罪は首を横に振ると、かなり渋い顔をして極めて言いにくそうに口を開いた。
「実は……明日は四糸乃とも出かける約束してたのよね。しかもほとんど同じくらいの時間に……」
「あっ、お前……」
その発言で士道は全てを理解する。
四糸乃に対して友情以上の感情を覚えているように見える七罪が、四糸乃との約束を破るわけがない。しかし琴里からの報復を恐れて渋々とはいえ狂った3Pすら行った七罪が、色んな意味で恐れ警戒している美九の約束を破るとも思えななかった。
「ダブルブッキングってやつ? 本当は美九との約束を断るべきだったんだろうけど、断ったら琴里とは別の意味で怖そうだし、かといって四糸乃との約束を破るとかありえないしでどうしようもなくて……だからその、士道に一生のお願いがあるのよ」
「つまり、俺にどっちか代わりに行って欲しいことか? お前に変身した状態で?」
要はそういうことだろう。同時に二カ所に存在することはできないので、片方に七罪として代わりに行って欲しいということ。
これが分身体を創れる狂三だったなら一人で対処できたかもしれないが、さすがにこんなくだらない事で分身体を創り出すことはありえないだろう。
というか七罪の天使なら意外とできそうな気もしたが、あえて士道は何も言わなかった。度の体とかは不明だがあれは自分の時間を消費して生み出しているそうだし、時間の補給が利かないであろう七罪にやらせるわけにはいかない。
「お願い! あんたが女に変身するのは嫌だってことは分かってるけど、一生のお願いよ! 愛する女の頼みだと思って!」
「何かお前結構図々しくなったよな……嫌だ、断る」
土下座を決めつつ惚れた弱みを突いてくるという、本当に腰が低いのかよく分からない頼み方をしてくる七罪。
無論幾ら愛する少女の身体にであろうと、女の子に変身するなど屈辱の極み。まして女装ではなく本当の変身だ。だからこそ士道はきっぱりと断った――
「――って言いたいとこだけど、俺も前に同じようなことがあったからお前の気持ちも分かるしな。この前は琴里の狂ったプレイに付き合わせちまったってのもあるし、一生のお願いなんか使わなくても引き受けてやるよ」
「本当!? あ、ありがと……!」
だが先日の負い目があったので引き受けてやることにした。何より士道には自分がもう一人いればという七罪の気持ちが、実に良く理解できる過去があったから。
「……でも、前にあった同じようなことってなに?」
「……十香と折紙と狂三とのトリプルブッキングデート」
「うわぁ……」
自身のダブルブッキングをも上回る内容だったせいか、七罪はゴミを見るような目でドン引きしていた。別に意図してトリプルブッキングにしたわけではないので、こんな反応をされる筋合いはないはずなのだが。
「あの時ほど俺がもう何人かいればって思ったことはないぜ。でもそうか、あの頃に七罪がいれば似たようなことができたかもしれないのか」
「仮に私がやってあげるとしてもあと一人必要だし、そもそも私なら十香とのデートに行かせてもらうわよ? 他の面子が怖すぎるし……」
「だろうな……まあ過ぎた話は置いといて、今はお前のダブルブッキングの話だ。というかその約束って別々じゃないといけないのか? 俺の時みたいにデートじゃないんだし、四糸乃と美九と一緒に出かければ良くないか?」
デートに他の女の子を連れてくるのは言語道断だが、同性同士でただ一緒に出掛けるだけの七罪たちなら問題ないはず。そう考えて尋ねたのだが、これにも七罪は首を横に振った。
「一応考えたんだけど、四糸乃を美九と一緒にするのは凄く危ないからそれは無しよ。ただでさえ猛獣の檻に放り込まれたみたいな状況なのに、飛び切り美味しそうな四糸乃も放り込んだらどうなるかなんて簡単に想像つくでしょ?」
「お前の美九に対するイメージ……いや、間違ってはいないか」
ただでさえ美九にやたら気に入られている七罪。そこにとても可愛らしくて思わず抱きしめたくなるような四糸乃まで加わるのだ。二人いっぺんに食べられるかはともかくとして、美九なら垂涎ものの状況なのは間違いない。
「そういうことなら仕方ないな。で、俺はどっちに行けばいいんだ?」
「四糸乃の方をお願い。私が頼む側だから、猛獣の所には私が行くわよ……」
事情を理解した士道がどちらへ行けば良いのか尋ねると、七罪は光を失った瞳で答えてくる。どうやら美九から受けるであろうスキンシップという名のセクハラ紛いの触れ合いに、今から気が重くて堪らないらしい。
「分かった。それじゃあ四糸乃と美九、それぞれとどこに行く予定なのか色々教えてくれ。万が一鉢合わせたりしたらもう誤魔化せないしな」
「あー、美九の方は分かるんだけど四糸乃の方は秘密って言われたのよね。何か当日のお楽しみってことで。じゃあいっかなって」
「何でもっと食い下がらなかったんだよ、お前は!? 大事なことだろ!?」
「いや、約束は四糸乃が先だったし。あと『秘密』の言い方がめっちゃエロかったから、疑問なんかどうでも良くて……」
「お前……いや、気持ちはちょっと分かるな……」
一瞬呆れてしまうものの、四糸乃が人差し指を唇に当てて『ひ、秘密、です……』と口にする所を想像すれば七罪の気持ちも理解できた。
ただしエロかったと表現するあたり、言い方はもっと悩ましいものだったのかもしれない。実際にその場面を見られなかったのが悔やまれるところである。
「まあいいか。じゃあ連絡取り合った方がいいかもな。四糸乃との行き先によっては鉢合わせしちまうかもだからな」
「その方が良さそうね。もしかしたら美九も予定に無い場所行くかもしれないし。じゃあとりあえず今分かってる美九との行き先だけど――」
そうして、明日に向けての相談と作戦会議を重ねていく。
正直なところ四糸乃を騙すことになるのであまり気が乗らないが、七罪が士道を頼ってくれたのだからその気持ちに応えるのが男というものだろう。要は四糸乃にバレなければ問題ないのだ。ついでに言えば発案は七罪なので、バレた時には七罪に責任と罪をかぶって貰えば良い話である。
問題は色々と鋭いところのある『よしのん』を騙し通せるかということ。意外と空気は読めるのでバレたとしても案外黙っていてくれるかもしれない。ただその場合、後に何らかの取り引きを持ち掛けられそうなのが恐ろしいところだ。
何はともあれ、頼られたのだから全力で取り組むべきだろう。そんなわけで明日への英気を養うため、士道は嫌がって叫びを上げて暴れる七罪にめいいっぱいセクハラしつつ夜を過ごすのであった。
「――我ながら完璧ね。どっからどう見てもみすぼらしくて見るに堪えない私そのものだわ」
「お前自信あるのか無いのかどっちなんだよ?」
そして時は流れ、約束のダブルブッキング当日。最後の仕上げを終え、鏡に映った七罪が珍しく自信満々に無い胸を張って言い放つ。
態度はともかく発言の内容が自信とはかけ離れていたものの、七罪そのものという言葉だけは士道としても同意見だ。何故なら鏡に映っている二人の人物、七罪本人と七罪の姿に変身させられた士道の姿は完全に同じだったから。
目つき悪めな緑の瞳も、同じく緑でモフモフな長い髪の毛も瓜二つだ。結構気合を入れているのか深い緑を基調とした装いはなかなかに可愛らしく、スカートを履いているのが実に女の子らしい姿であった。とはいえそんな七罪と瓜二つな士道も同様の格好をしているため、下半身がかなり風通しが良く非常に落ち着かなかった。
「あー、あー、あー……うん、やっぱ声も七罪になってんな」
無論表面上の変化だけではなく、声も同様だ。ただし口調がそのままなのでかなりガラの悪い七罪の声である。尤も七罪はたまにガラが悪くなることがあるため、そこまでの違和感は無かった。
「……何かこうして自分の声を聞くと凄く馬鹿っぽく聞こえるわね。無性に腹が立ってきたんだけど?」
「卑屈なこと言うのもいい加減にしろ――って、言いたいとこだけど確かにそれはあるかもな。録音した自分の声とか別人みたいに聞こえるし」
「まあそれは置いといて、これならよほど変なことしなければ四糸乃たちにはバレない――って!? いきなりどこ確認してんのよ!?」
「いや、つい……」
ちょっと気になって自らのスカートのウエスト部分を引っ張り、そこからパンツとその中を確認していた士道。
やはりというか当然というか、パンツは実に可愛らしい女の子用のものであった。かなり見覚えのある青色だったので、恐らく前に士道が買ってあげたものに違いない。実際に履いてくれているのは何だか嬉しい気分であるが、まさか自分がこれを履く事になるとは夢にも思っていなかった。
正直女の子ものの下着を履き、黒のタイツを履いているとはいえスカートの中にショートパンツすらない状態は恥辱と絶望の極みである。現在の姿は七罪のものなのでまだ耐えられるが、これが士織ちゃんの姿だったならもう蹲って動けなくなること請け合いだ。
「ていうか、当たり前だけどやっぱ無いんだよな……何かこう、大切なモノを失くしたような凄く虚無的な気分だ……」
「一応生やせないことも無いけど、絶対やんないわよ? 私の身体にそういうモノがあるとか、ちょっと、その、無理……」
尤も一番精神に来ているのは男の証が綺麗さっぱり無くなっていることである。とはいえ確かに七罪の身体にあったらおかしいし、それはむしろ士道自身も受け入れ難いので我慢するしかなかった。
「……まあその辺は置いといて、他に問題があるとすれば歩き方とか受け答えだけど、そこは頑張ってとしか言えないわね。練習する時間は無かったし――だから胸揉むな!」
我慢するしかないので慰めに自分の胸(七罪印のぺったんこ)を揉んでみると、途端に本人からクレームが入る。日ごろから士道に好き放題身体を弄ばれている上、今は士道自身が七罪と同じ身体になっていても許しがたいことはあるようだ。確かに自分のあずかり知らぬところで自分の身体を好きにされていると言うのは受け入れ難いだろう。
なので素直にやめようかと思ったが、士道はどうにも看過できない事実に気が付いたために手を止めることができなかった。
「なぁ、七罪。これちょっと盛ってないか? お前のより少し大きい気がするぞ?」
「えっ!? そ、そんなこと、ないわよ……?」
「あとよく見ると髪も微妙に滑らかだし、肌も随分綺麗だぞ?」
「う、うぅっ……!」
本当に僅かだが、よくよく見れば本物の七罪よりもこちらの方が全体的に小奇麗なのだ。もちろん七罪が汚いとかそういう意味ではないが、本物と比べてじっくり見れば分かるごく僅かな差異が存在した。
とはいえ隣に本物がいて、なおかつ二人をじっくり観察しなければ気が付けないほど微かな差異である。自分の姿を観察しただけで士道が気が付けたのは愛の賜物というやつだろう。伊達に日ごろから七罪の身体を眺め味わい、弄り倒しているわけではない。
「ちょ、ちょっとくらい良いでしょ! 四糸乃と二人きりのお出かけなんだから、隣に立つためには最低限の見栄えが必要じゃない!」
やはり多少盛っていたらしく、ついに七罪が赤面しながら自白する。見栄を張ったのかと思いきや四糸乃の隣に立つに相応しい姿にしたかっただけのようだ。とはいえこの反応からすると少しくらいは見栄もあったのかもしれない。
「いや、悪いとは言ってないけどさ。これが原因でバレても俺のせいじゃないからな?」
「だ、大丈夫よ。そんなの気が付くのは飽きるほど私を見て触ってる士道くらいだし……ていうかいい加減胸揉むのやめろぉっ!!」
「おっと。悪い、つい」
「はぁ……何かあんた、意外と楽しんでない? もしかして目覚めた?」
「いや、七罪の身体ってこんな風なのかって思ってちょっと好奇心がな。分かってはいたけどだいぶ細いな、お前……」
疑いの目を向けてくる失礼極まる七罪に対し、自らの身体を見下ろしながら答える。七罪の身体を眺め抱いたことは最早数えきれないほどだが、七罪の視点から身体を眺めたのは初めての経験であった。
こうして見ると起伏に乏しい分細さが際立っており、満足に食事をしているのか疑わしくなってしまうレベルだ。力強く抱きしめたら本当に折れてしまいそうだと錯覚してしまい、今更ながらこんな華奢な身体の七罪と毎晩のように愛し合っているのは犯罪としか思えなかった。というか実際犯罪であるが。
「細いって言うかたぶん寸胴なだけだと思うけど――って、誰が寸胴鍋よ!?」
「いや、今のはお前の自爆――いてっ!? おいやめろ! 自分を殴るな!?」
見た目が自分と同じだからか容赦なく殴り掛かってくる七罪。普段なら簡単に取り押さえられるものの、今は身体的に同条件なためさすがにそれは難しかった。
むしろ全く慣れない小柄な身体では対等に渡り合うことも難しく、気が付けば士道の方が七罪に組み敷かれ床にうつ伏せになっていた。仕方ない事とはいえちょっと屈辱的な気分だった。
「ていうかこんなことしてる場合じゃないわ。士道、準備は良い?」
「ああ、大丈夫――じゃなくて。うん、大丈夫……よ?」
唐突に冷静に戻った七罪に解放されたので、立ち上がった士道はあえて七罪を演じて見せることで答える。
しかしいきなり言葉遣いや口調を変えろと言うのは難しく、どうしても不自然な間が生まれてしまう。
「何か間が気になるわね。でも私は挙動不審なのがデフォルトだし、むしろこの方がそれっぽいかも……?」
「お前――じゃなくて、あんたの自分に対するイメージ……いや、それについては後でいいか。もう時間だし、私、は行ってくるわ」
「……何か自分がもう一人いるみたいで腹立つ」
先ほどのじゃれ合いで多少乱れた衣服や髪を整え、覚悟を決めて七罪としての演技を継続する士道。当の本人が酷く不快気な顔をしているあたり、演技としては及第点なのかもしれない。
「まあ、うん。頑張って。あと、くれぐれも私の姿で四糸乃に変なことするんじゃないわよ?」
「しねぇよ! 何で好き好んでわざわざ外で変なことしなきゃならないんだよ! しかもお前の姿で!」
「だって前科があるし……」
しかしかけられた言葉が信用皆無の言葉だったので、演技も忘れて抗議してしまう。
そもそも変なことをしようにもするためのモノが無い身体なので、どう足掻いてもできはしない。士道自身も七罪の能力を使えばできないことはないが、愛する少女の身体に変なものを生やすために精霊の力を使う、などという頭がイカれているとしか思えない真似はさすがにしようとも思わなかった。
「それは琴里のせいだ! もういい、お前も頑張れよ七罪!」
「あ、うん。美九と一緒……はあっ……」
全く信用されていないため酷く傷ついたが、激励の言葉は忘れずに去っていく。途中で七罪のとんでもなく重いため息が聞こえたものの、それは努めて聞かないようにした。士道はこれから四糸乃と『よしのん』を演技力で騙し通さなければいけないので、余計なことを考えている余裕はない。
そうして七罪の部屋を出た士道は、四糸乃との待ち合わせ場所である精霊用マンションの前へと向かった。美九と七罪の待ち合わせ場所は五河家の前なので正直近すぎてバレそうなところだが、約束の時間は多少前後しているためまだ美九の姿は見当たらなかった。
尤も七罪との二人きりのおでかけが楽しみすぎて、美九が約束より早く来る可能性もあるためさっさとこの場を離れた方が賢明だろう。折紙のように時間単位で早く来ることはさすがに無いと思いたい。
『あー、来た来た! おーい、こっちだよ七罪ちゃーん!』
精霊用マンション前ではすでに四糸乃が待っており、士道(見た目は七罪)の姿を目にして二人で手を振っていた。四糸乃も四糸乃で青いモコモコのコートに帽子で可愛らしい格好であった。
「おはようございます、七罪さん」
「おはよう、四糸乃。待たせちゃった?」
「いえ、私も今来た所で――?」
「えっ、何? どうしたの?」
お互いに挨拶を交わしたところで、何故か四糸乃は唐突に言葉を切って首を傾げる。
その青い瞳は間違いなく士道に向けられており、何かを疑問に思っていることは明白であった。まさか今の一瞬でバレてしまったのだろうか。思わずごくりと息を呑み、戦慄する士道であったが――
「今日は、七罪さんの表情がとっても明るいです……!」
『うーん、言われてみれば何か生き生きしてるね? 良いことでもあったのー?』
どうやらバレたわけではないらしい。表情の違いを指摘されただけだった。
さすがにちょっと素の表情は考慮していなかったため、そこは見た目が七罪でも本物と比べて変化があったようだ。しかし今更仏頂面の練習をしても遅すぎるので、ここは何とか誤魔化すことにした。
「良いことっていうか、たぶん四糸乃とのお出かけが凄く楽しみだったからだと思う――わよ?」
『なるほどー! それは納得の理由だね!』
「は、はい。私も、七罪さんとのお出かけが楽しみでした」
信じて貰えたらしく、にっこりと嬉しそうに笑う四糸乃。
その笑顔は見ているだけで心が温かくなる素敵な笑顔だが、純真無垢な四糸乃を騙しているという事実のせいで酷く胸が痛んでしまう士道だった。
「うん、四糸乃もそうなら私も嬉しいわ。とりあえず歩きながら話さな――あっ……」
七罪を演じつつ、この場からできる限り早く離れる。その二つしか考えていなかったため、感じた罪悪感が変な方向に生じてしまったのだろう。気付けば四糸乃に当たり前のように左手を差し伸べていた。まるで手を繋いで歩こうとでも言うように。
士道としては特に抵抗のない行為だし、何なら普段からやっていることだ。しかし今の士道は七罪の姿。四糸乃から見れば七罪が自ら積極的に手を繋ごうとしているようにしか見えず、それは普段の七罪を知る者からすれば大いに違和感を覚える光景だった。実際『よしのん』は無言で顎のあたりに手を添え、何か考えている様子だ。
「は、はい……!」
「……っ!?」
しかし四糸乃は何ら疑うことも無く、むしろそれはもう嬉しそうな微笑みを浮かべて手を取ってくれた。それと同時に、士道は自らの手に伝わってきた感覚に驚愕を覚える。
何故なら今の士道は七罪の姿であるため、手の大きさも七罪と同じだ。要するに四糸乃ともほぼ同じ大きさなのだ。その状態でお互いに手を握り合うのだから、普段より広くより強く手のぬくもりを感じられた。もっと凄いことをしまくっている士道でも、掌を包み込む温もりに思わずドキリとしてしまうほどであった。
「……あっ。そ、そういえば結局今日はどこに行くんだっけ? 秘密って言われて教えてもらってなかったわよね?」
『あー、それについては本当にごめんねー? 七罪ちゃん経由で士道くんにバレたりしないよう、直前まで秘密にしておきたかったんだー』
「あっ、はい……」
返ってきた答えに対していたたまれない気持ちを覚えてしまう士道。何せ秘密にしておきたい対象の士道自身がここに七罪として存在しているのだ。居心地が悪いどころの話ではなかった。
もしかすると士道は四糸乃より美九の所に行くべきだったかもしれない。
「今日は、その、玩具屋さんに行こうと思ってるんです」
「玩具屋……?」
どこか歯切れの悪い四糸乃の様子と言葉に、思わず首を傾げてしまう。
行く場所が決まっているという事は何か欲しいものやしたいことがあるのだろう。しかし一体何を目的に玩具屋へ行くのだろうか。
『あー? 七罪ちゃん、今エッチな玩具を想像したねー? もー、好きなんだからー?』
「し、してない――わよ!?」
『本当ー? 今明らかに変な間があったような気がするんだけどなー?』
「む、ぐぐ……!」
実際していないのだが変な間があった理由を説明するわけにもいかず、黙り込むしかなかった。
七罪に不名誉な状況になってしまったものの、代わり身だとバレるわけにもいかないので必要な犠牲だったと割り切ってもらうしかなさそうだ。そもそも七罪はエッチな玩具を使って攻められた(士道に)経験があるので、あながち間違ってもいないはず。
「その、玩具屋さんっていうのはエッチなところじゃなくて、普通の玩具屋さんです……でも七罪さんが行きたいのなら、私も一緒に行きますよ……?」
「いや、さすがにこんな子供二人じゃ入れないから!? ていうか行きたいとも思ってないし!」
しかし四糸乃の控えめな提案は無視できなかった。こんな幼女二人(プラス『よしのん』)でエロい玩具屋に行くなど犯罪も良いところである。まかり間違って中に入れたとしても、他の客から見れば美味しそうな獲物でしかない。何があろうとそこだけは許可できなかった。
『本当かなー? この前士道くんと大人の玩具使って遊んだって聞いてるよー?』
「そ、それはともかく、どうして玩具屋になんて行くわけ? 何か欲しい玩具でもあるの?」
何やら楽しそうに尋ねてくる『よしのん』から目を逸らしつつ、四糸乃に目的を尋ねる。
正直なところ四糸乃が玩具で遊ぶ場面はあまり想像できなかった。だがぬいぐるみや人形ならかなり似合っているので、もしかするとそれらを買いに行くのかもしれない。
「はい、実はあるんです……私は、悪戯グッズが欲しいんです……!」
「あっ……」
しかし真実は士道の予想を裏切るものであり、またも士道が知るべきではなかったこと。
やはり自分は四糸乃の方ではなく、美九の方に行くべきだった。そんな風に後悔を抱きながら、士道は四糸乃に手を引かれる形で玩具屋への道を歩いて行った。
士道が七罪の代わりに四糸乃との待ち合わせ場所に向かってからおよそ十五分。さすがにもう鉢合わせはしないだろうと確信した所で、七罪は満を持して美九との待ち合わせ場所に向かった。
「遅いですよー、七罪さーん! いつ来てくれるのか、美九は首を長くして待ってましたよー!」
「お、遅れたのは謝るから、いきなりハグするのはやめてくれない!?」
そして辿り着くなり、それはもう熱烈なハグで迎えられる。美九の凄まじい大きさのバストに顔を埋めさせられ、今にも窒息しそうなほど激しい抱擁だ。その癖感触自体は実に素晴らしいのだから始末に負えない。
「すー……はー……!」
「匂い嗅ぐのもやめろおぉぉぉぉぉぉぉっ!」
更に七罪の髪に顔を埋めてきたかと思えば、イケナイ薬でもキメるように吸い上げてくる。
士道も同じことをするようになったが、こんなことをして一体何が楽しいのか。まさか本当に七罪の髪は強い常習性と多幸感をもたらす物質でも含まれているのだろうか。自分でも馬鹿馬鹿しい話だと思ったものの、怪しげな媚薬の元になる成分を分泌していることを考えるとわりと現実味があるのが悲しい。
「そんなに嫌なんですかー? じゃあ代わりに、美九の匂いを好きなだけ嗅いで構いませんよー? というわけで、どこからでもどうぞ! さあ!」
熱い抱擁から解放されたかと思えば、両腕を広げて期待に瞳をキラキラさせながら促してくる美九。
まだ待ち合わせ場所から動いていないのにこれである。何だか無性に疲れて今すぐ帰りたくなってくる七罪であった。
「はあっ……もう帰りたい……」
「あーん、待って下さいよー! 仲良く手を繋いで歩きましょうよー!」
「……繋ぐだけならまだいいけど、それ以上変なことしたら私帰るからね?」
「えっ、いいんですか!? はーい、ありがとうございますぅ!」
多少は餌を与えておいた方が大人しくなるかもしれないという考えから、手を繋ぐことを受け入れる。
士道と色々としているせいか、どこか気後れしていた他の皆との触れ合いも前と比べれば楽なものであった。むしろ心地よいものさえ感じるのだから触れ合いも悪くはない。美九のようにストレートな好意をぶつけてくるのも、実のところ嫌いではなかった。これで七罪に対して変なセクハラや奇行をしてこなければどれだけ良いか。
「で? 今日行くのって昨日言ってた所で変わんないのよね?」
「そうですよー。あっ、七罪さんが行きたいところがあるというのなら、美九はどこにだってついていきますからねー? 何なら二人で休憩のできるホテルにでも――」
「あ、はい。じゃあ私、帰るから」
「あーん、冗談ですってばー! そんなに何度も帰ろうとしないでくださいよー! それに今日は七罪さんに大事なお話があるんですからー!」
「大事な話……?」
手を離さない美九を引きずりながら五河家の道を戻ろうとしたところ、そんな言葉が聞こえて足を止める。
正直頭の中がお花畑(しかも全て百合の花)な美九から大事なお話と言われてもピンと来なかったが、七罪は何か不穏なものを感じたのだ。そして実際、その予感は正しかった。
「実は前から不思議に思ってたんですけどー、何故か最近だーりんの身体から七罪さんの匂いがするんですよー。それもとっても豊潤で濃厚な香りなんですよねー?」
「っ……!?」
核心を突きかねない指摘を受け、身体を強張らせる七罪。
足を止めていて良かったと反射的に安堵したが、残念なことに手は繋いだままだった。強張りは間違いなく美九の手にも伝わっており、恐る恐る表情を仰ぎ見ればそれはもう含みのある微笑みがこちらを見下ろしていた。
「それに七罪さんの身体からも同じくらいだーりんの匂いがするんですよねー。これは一体どういうことなんでしょうかぁ?」
「えっ、と……別に何も無い、って言っても信じてくれない感じ……?」
「うふふ、美九の鼻は誤魔化せませんよー? 一体どのような理由なのか情景を想像できるくらい丹念かつ克明に話してください! さぁ!」
「あの、とりあえず鼻血拭いてくれない……?」
鼻血を垂らし、瞳を期待と興奮に輝かせながら促してくる美九。七罪はとりあえずポケットティッシュを渡して鼻血を拭かせることにしたものの、内心では滅茶苦茶動揺していた。そして未だかつてないほど高速で思考が展開していた。
どうしてちゃんとシャワーで流しているのに匂いが分かるのかとか、何で七罪と士道の匂い限定で四糸乃と琴里は分からないのかとか色々疑問に思うことはあったが、事実な以上はその疑問にさほど意味はない。ここで重要なのはどう誤魔化すかだ。
七罪としては正直もう皆に話してしまって構わないと思っている。自分でもよく分からないが何故か士道は七罪にゾッコンであるし、冗談半分とはいえプロポーズ紛いのことまでされてしまった。なので士道の愛をさほど疑ってはおらず、少なくとも全ての精霊がこの関係に加わろうが自分が捨てられたりすることはないと確信している。
むしろ自分たちばかり幸せになっている現状の方が微妙に苦しく、できれば士道にはさっさと全員をモノにしてほしいとも思っているのだ。そうなればさすがの士道も七罪や四糸乃に対して加減するほど体力その他の余裕がなくなるだろうし、他の皆も幸せにしてもらえるだろうしで言う事は何もない。一緒に過ごせる時間が減ってしまうのは残念だが、元々七罪は一番士道を独占していたのだから仕方のない事だ。
なので七罪としてはここで真実を口にしてしまっても構わない。しかしそれを許さない人物(あえて明言は避ける)がいるため、許可無く口にはできなかった。許可なく話してしまえば一体どのような制裁を受けるか、考えるのも恐ろしくて堪らないのだ。
そのためやはりここでは誤魔化すしか選択肢は存在しなかった。それも性的な関係を誤魔化せるほど巧妙かつ説得力のある内容でなければならない。超巨大な秘密を覆い隠すには、それ相応に巨大な誤魔化しでなければいけないのだ。
一応七罪はその巨大な誤魔化しを思いついていたが、大いに犠牲を払わなければいけない類の内容であった。具体的には非常に恥ずかしい思いをしなければならない内容だ。しかしそれでも琴里――ではなく、許さない人物からの制裁の恐怖に比べればまだマシである。
故に七罪は美九がティッシュで鼻血を拭いている間に、ここまでの思考を完結させ覚悟を決めた。
「さぁ、七罪さん! 一体どういうことなのか説明してください!」
瞳を輝かせつつにじり寄ってくる美九。この様子だと真実を話しても怒らないどころか、また鼻血を出して喜びそうな感じだ。
とはいえ七罪が口にできるのは誤魔化しだけ。酷く恥ずかしいがすでに覚悟を決めている七罪は、緊張と恥じらいに耐えつつ口を開いた。
「じ、実は、その……士道が家にいない時、たまに……っていうか、結構頻繁に……士道のベッドに、潜り込んでるのよ……」
「きゃー! 寂しがり屋の七罪さんも可愛いですぅ! でも、それくらいじゃあんなに匂いは残りませんよー? 誤魔化さないでちゃーんと本当のことを教えてください」
誤魔化しだと見抜いた美九がニヤリと笑って尋ねてくる。
だが七罪には見抜かれた驚きや悔しさなどなかった。何故ならこれは前提条件であり、全てではない。恥ずかしくて堪らない、なおかつ誤魔化しと思われない言葉を口にするのはこの後なのだから。
「ご、誤魔化してるんじゃなくて、まだ続きがあるのよ。その、士道のベッドに潜り込んで……い、イケナイことを……してます……」
恥ずかしさに目を逸らしつつ、何とかそれを言い切る。顔が熱いのできっと頬は見るからに赤くなっていることだろう。信じさせるためには好都合の状態だった。
「だーりんのベッドに潜り込んで、イケナイことを……? はっ!? ま、まさか……まさか!?」
今度は誤魔化しとは取られなかったようで、美九は驚愕に目を丸くしながら後退りしていく。
何故洗い流しているはずの匂いが分かるのかはさておき、士道と七罪にお互い濃厚な匂いが残り、なおかつお互いに性的な関係を結んでいるわけではない行為、その上美九が納得する行為と言えばこれくらいしか思い浮かばなかったのだ。
尤も自慰に耽ったことはないものの、本人不在の士道のベッドに潜り込んだことは一度や二度ではないため、半分くらいは本当の事である。
「七罪さんが……あの七罪さんが、だーりんの匂いに包まれながら、火照る身体を一人慰め切ない声でだーりんの名を口にしながらぁ……!」
「いや、そこまで言ってないけど!? ていうか鼻血! もの凄い出てる!」
ただちょっと想定以上に美九へのダメージ(あるいは回復)が強すぎたようで、先ほど以上に鼻血を流しながらトリップしていた。これが今をときめく大人気アイドルの姿なのだから残念極まる。
「はぁ……はぁ……すみません、七罪さーん……あまりにも素晴らしい光景を想像したせいで、危うく天に召されるところでしたぁ……」
「そんなバカみたいな死因、心底笑えないわよ……」
笑えないが、多大な犠牲を払った甲斐はあり信じて貰えたようだ。これで琴里に怒られることも無いので、七罪は心の底から安堵できた。
「それにしてもびっくりですー……まさか七罪さんがそんなことを――おっと、また鼻血が……」
「わ、悪い? 私だって、その……士道の事、大好きなんだし……」
「ぐふっ……!」
「今度は吐血した!? ていうかそろそろ出血多量で死ぬんじゃない、これ!?」
ただ美九の出血量がそろそろ尋常ではなくなってきたため、安堵はどこかへ吹き飛んでしまう。
最早五河家の玄関前には何事かがあったとしか思えない大きめの血だまりができていた。帰ってきた士道に一体どう説明すればいいのか。
「う、うぅ……七罪さん、輸血を……ナツミウムを……」
「ナツミウムって何!? って、ちょっと!? あああぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
心配になって駆け寄ったのが油断だったのだろう。フラフラしていたはずの美九は突如として機敏な動作で七罪を抱きしめると、またしても髪に顔を埋めて猛烈に深呼吸していた。しかも今回はたっぷりの頬ずりというおまけつき。解放された時には何か生気を吸いつくされたような気分の七罪だった。
「……ふぅ! 愛の力で完全復活ですぅ!」
「やっぱ私が四糸乃のとこ行けば良かった……」
反面、美九は先ほどまでの出血が嘘のような血色の良い艶々の肌を晒していた。
どうやらナツミウムには強い常習性と多幸感の他、血液の生産速度を急上昇させる効能もあるらしい。心底どうでも良い無駄知識であった。
「それにしても、七罪さんはどうしてわざわざだーりんがいない時を見計らってベッドに潜り込んでいるんですかぁ?」
「いや、そりゃいない時しか駄目でしょ!? いる時に目の前でやってたらただの痴女じゃない!?」
「そうじゃありませんよー。そんなにだーりんのことが好きで好きで堪らないなら、エッチな誘惑をしてその気にさせちゃえば良いじゃないですかー?」
「えー……いや、それは、そのー……恥ずかしいし?」
美九の問いに適当な答えを返すが、実際のところ士道は誘惑しなくてもその気になっているのだから意味がない。というかそもそも先ほどの答えは誤魔化すための嘘なので、ここまで深く突っ込んだことは考えていなかった。
「何を言ってるんですかぁ! そんなことではだーりんは堕とせませんよ、七罪さん!」
「アッ、ハイ。ソウデスネ」
もう堕ちているという事実も口にできないので、適当に頷くことしかできない。言えないことばかりで薄い胸が痛んでくる七罪であった。
「――はっ!? 閃きました! 七罪さん、今日は予定を変更してエッチなお洋服を買いに行きましょう! だーりんを悩殺できるようなそれはもうエッチなものを着て、二人でだーりんに迫っちゃいましょう!」
「えぇ……ここに来て予定変更……ていうか、今二人でって言った?」
「はい! 美九と七罪さんの魅力が組み合わされば、だーりんだってイチコロですぅ!」
本気でそう信じているかのように、会心の笑みを浮かべる美九。
しかし確かにその可能性は高そうだった。士道はロリコンだが別に大人のお姉さんや豊かな胸が嫌いというわけではないのだ。何なら大好きなことを前に変身して相手をしてあげた七罪は良く知っている。
そして美九のスタイルは変身した七罪とほぼ遜色ないレベルである。そんな美九と、何もしなくてもエロいことをされがちの七罪が同時に士道に迫ったら。最早どうなるかなど火を見るよりも明らかな展開だった。
「あっ、これヤバい。美九も関係に加わるフラグじゃない……?」
「善は急げです! さぁいきますよー、七罪さん!」
「あー……本当にどうしよう、これ……」
上機嫌で七罪の手を引いて歩いていく美九。
誤魔化せはしたがこのままでは結局真実に到達しそうな状況に陥り、七罪は一体どうすべきか頭を悩ませながら引きずられていくしかなかった。
二人はナツーミ。マジの女の子になってしまった士道さんと、美九に連れていかれる七罪。一体どっちが不幸なんですかね……?
予め断っておきますが士道さんメス堕ちプレイはありません。士織ちゃんプレイもたぶんないよ。私の性癖は極めてノーマルですからね……。
更新停止期間の執筆状況の進捗はどれくらいの頻度で活動報告に載せるべきか
-
1ヵ月
-
2ヵ月
-
3ヵ月