※この作品はR-18です。

士道クリミナル   作:サイエンティスト

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 今回は非エロ話。みんな大好き七罪が出るお話です。
 タイトルは本当は「七罪トリック」でも良かったんですが、「七罪トリップ」と一字違いで紛らわしい事、そしてファンリビでは七罪の属性がトリックスターだった事からこうなりました。
 余談ですが全年齢の方でも七罪メインのお話を投稿し始めたものの、あっちの七罪はこっちと違って前向きになっていないので書き分けが微妙に難しいです。下手するとこっちにもあっちにも影響が出そう……。


〇七罪トリックスター

 

 二月十日。バレンタインデーも近付き街中の雰囲気も浮ついてきた今日この頃。本来なら肩身の狭さを感じてその辺の隅っこで縮こまっている七罪だが、幸運な事に今の七罪はリア充だ。愛する男がいて、向こうも自分を愛してくれていて、更には女神の如き慈愛と魅力を持った親友までいる(もう一人親友ができたがそっちは割愛する)。

 たった一人の愛する女ではなく、あくまでハーレムの一員という位置づけではあるものの、それでも信じられないほどに幸せで充実している日々だ。おまけに何故か士道に本命認定されているという夢のような立ち位置。

 故に非リア充を死に至らしめるバレンタインの浮ついた空気など、今の七罪にとってはそよ風のようなものだった。むしろバレンタインという行事に背中を押されでもしない限り、愛する男に気持ちを伝えられない女たちに同情を感じる余裕すらあるほどだ。

 もちろん七罪はそんなじれったい関係などとうの昔に過ぎ去っている。なので士道にちょっと会いたくなった七罪は遠慮なく部屋を訪れ、一緒に過ごす事にした。ちょっと自分が増長しているような気がしないでもなかったが。

 

「……あれ、いない?」

 

 そんなわけで士道の部屋の扉をノックしたのだが、待てども待てども士道は出て来なかった。もう一度ノックして待ってみるものの、結果は同じ。

 常軌を逸した防音対策によって室内の音は外部に漏れないため、中で何が繰り広げられていようと部屋の外の七罪には分からない。向こうが出て来てくれないと、部屋の中に士道がいるかどうかも分からなかった。

 

「……士道? 入るわよ?」

 

 故に七罪は控えめに断りを入れ、静かに扉を開ける。

 激しいセックスに夢中で気づけなかった所に七罪が顔を出してしまった――などという気まずい展開は訪れなかった。部屋の中は静かなもので、ちょっとドキドキしていた七罪も一安心だ。

 

「あ、何だいるじゃない。私を無視するとか琴里に怒られるわよ?」

 

 そうして扉の隙間から部屋の中を覗くと、士道の姿はベッドの上にあった。安堵を感じると同時に、愛する男を見つけた喜びに胸を高鳴らせながら、七罪は遠慮なく部屋に入って士道へと近付いていく。

 

「――って、あれ? もしかして、寝てる……?」

 

 しかし、途中でその事実に気が付いて足を止める。

 ベッドの上に仰向けで横たわっている士道は、七罪が部屋に入って来たにも拘わらず、瞳を閉じて穏やかな顔付きで規則的な呼吸を続けていた。これだけでは本当に寝ているのか傍目からは判別できないだろうが、士道の寝顔を間近で眺めてきた七罪はこれが狸寝入りでない事がすぐに分かった。

 

「……まあ、考えてみれば当然よね。いつも盛ってるせいで睡眠時間は短くなってるだろうし、琴里とは結構朝までヤってるみたいだし……」

 

 ベッド脇まで近付いてしゃがみ、バカっぽい寝顔をじっくりと眺めながら独り言ちる。

 恐らく士道は疲労か睡眠不足からか寝落ちしてしまったのだろう。毎晩七罪たちと愛し合っているだけでも相当な負担のはずだというのに、琴里とは苛烈に朝まで愛し合う事だってあるそうなのだ。その分短くなった睡眠だけで疲労が取れるわけがない。

 その上今日は土曜日であり、休日という事もあって士道は耶倶矢と夕弦にデートに誘われていた。デートの詳細までは知らないが、寝落ちしている士道の姿を見るに頑張って二人を楽しませてあげたのだろう。

 普通なら自分以外の女とデートをしている事に怒りや嫉妬を覚えるだろうが、一応本命認定されている今の七罪は特にその手の感情を覚えなかった。むしろ夜の営みだけでもかなりの疲労と睡眠不足が溜まっているはずだというのに、しっかりと八舞姉妹にデートの時間を楽しませてあげた士道の誠実さが、ある種誇らしくすら思えてしまう感じだった。こんな男に愛され、本命認定されているのだからもう堪らない。

 

「んっ……」

 

 ちょっと愛が溢れそうになった七罪は、眠る士道の頬に軽くキスをした。いまいち七罪らしくない行動だが、最近はどうにも感情が昂っていて抑えられないのだ。

 それに今は士道も眠っているため、こんな真似をしても誰も知る事は無い(琴里が覗いている可能性は考えないものとする)。

 

「……結構、深く寝てるわね」

 

 頬に軽くキスをしても、士道は未だ眠ったまま。どうやら相当深く眠っているらしい。頬を軽く指でつついてみても全く反応を示さなかった。

 そんな無防備極まる様子を前に、七罪の中である種の欲求がムクムクと沸き上がっていく。

 

「ヤバい、悪戯したくなってきた……」

 

 それは悪戯への欲求。嫌われたくないので士道に対しても、皆に対しても抑えていた欲求だ。しかし最近は四糸乃が可愛らしい悪戯を士道に働く光景を幾度となく目撃していたため、大分刺激されてムズムズしていた。自分もあんな風に、心行くままに悪戯したいと。

 

「……まあ、それくらい良いわよね? 軽い悪戯程度で私を嫌うような士道じゃないし、今まで散々エロい悪戯されてきたんだし、ここらで仕返ししたって罰は当たらないわよ。フフフ……」

 

 せっかくの機会なので心行くままに楽しむ事を決めた七罪は、抑えられない愉悦に頬を緩ませる。七罪がしたいのは四糸乃のような健気で可愛らしい悪戯ではなくガチの悪戯だが、士道ならそれくらいは許してくれると信じていた。

 後で仕返しとしてエッチなお仕置きをされる可能性は高いが、それくらいは必要経費と割り切るしかない。

 

「……とりあえず、寝顔を撮って折紙に送っとこ」

 

 ひとまずだらしない寝顔を携帯でバッチリと撮影し、少し前に出来た親友に送っておく。

 以前カメラで盗撮した画像の中にも寝顔はあったが、その時の士道は七罪と愛し合った後で服を着ていなかったため、首から下を写せなかったのだ。今はしっかり服を着こんでいる状態なので、首から下も安心して写せるわけである。なのでついでに全体像(シャツがめくれてへそが見えている)も撮って送っておいた。

 

「さーて、何をしようかしらね? まずは基本に忠実に顔に落書きでも――あ、もう返信きた。早いわね……」

 

 そうしていざ悪戯に移ろうとすると、爆速で返信が届く。その速さは餌に食いつく猛獣もかくやというレベルだった。

 

「えっと、なになに……『シャツを捲って腹部を更にはだけさせた写真を撮ることは可能?』……いや、うーん……どうかしらね……」

 

 そうしてメールを確認すれば、欲望のままに舐るつもりの猛獣の文面が出てくる。しかしこれでも折紙にしては控えめな方だった。まずはジャブで攻めるつもりなのかもしれない。

 七罪としては士道の裸の写真くらいなら送り付けても良いのだが、あまり変な事をすると士道が目を覚ましてしまいそうで心配だった。せっかくの悪戯の機会が失われるのはあまりにも勿体ない。

 

「……親友の頼みだし、頑張ってみるしかないわね」

 

 とはいえ相手は親友の折紙。それに自分ばかり幸せな思いをしているのだし、写真を送るくらいはするのが筋というものだ。なので七罪は起こさないよう細心の注意を払いながら、士道の服を捲っていった。

 

「……よし。熟睡してるからわりと簡単にいけたわ。この状態でもう一回撮影、っと」

 

 何とかミッションをクリアして、腹を盛大に露出したまま眠りこける士道の姿を激写する。

 正直この姿の何が良いのかはいまいち分からないが、折紙は大興奮しているようなので聞くだけ野暮というモノだろう。

 

「あ、また来た。本当に早いわね……」

 

 写真を再び送信して需要について考えている間に、すぐさま返事が返ってくる。この反応の速さ、少なくとも折紙にとっては大いに需要がある事だけは間違いない。

 

「えっと……『次は胸元まで捲り上げた写真をお願いする』……折紙にしては控えめね?」

 

 まあこれくらいなら良いかと思いつつ、慎重に士道のシャツを捲り上げる。やがて士道の逞しい胸板が露わとなり、この辺りはちょっとだけ分からないでもない七罪はごくりと微かに息を呑んだ。

 そうして女の子なら乳房が露わになっている辺りまで捲り上げ、パシャリと写真に収める。女の子の裸の上半身なら問題のある写真だが、男の裸の上半身なら何も問題は無かった。

 

「よし、送信っと……じゃあ今度こそ――って、だから早いわよ!」

 

 三度画像を送信した所で、数秒程度で返信が届く。最早予め文面を用意していたのではないかと疑うレベルだ。というかそれしか考えられない。

 

「……『満を持して下着を下ろした姿を』……本性現したわね。ていうか、さすがにそれは無理でしょ……」

 

 しかしこの指示は幾ら何でも度が過ぎているし、何よりパンツを下ろされればさすがに士道も目を覚ましてしまうだろう。なので少々罪悪感を覚えつつも、七罪は無理だと文章を綴り送信した。しばらくして『残念』という一単語の返事が返ってきたものの、そこに集約された感情はきっと途方も無い大きさに違いない。

 

「ふぅ……よし、それじゃあ早速悪戯の開始ね? その綺麗な顔を汚してやる。フフフ……」

 

 何はともあれ、いよいよ七罪のターンだ。気分が高揚してきた七罪は笑いながらそう呟くと、士道の部屋の机から水性ペンを拝借した。

 油性を使わないのは臭いがキツいため士道を起こしてしまう可能性があるからだ。理由はそれだけで、油性を使っても起きない事が確定しているのなら七罪は容赦なく使うつもりだ。洗い落とすのに苦労するだろうが、それくらいで七罪を嫌う士道ではない。

 

「さーて、何を描こうかしらね? やっぱり額に肉とか、頬っぺたにグルグルとか? 後は眉毛を繋げたり、ヒゲを描いたり……」

 

 ペンを片手に士道の寝顔を眺め、どのように描くかを考える。士道は意外と顔立ちが整っていて可愛らしいので、今からこれを滅茶苦茶にしてやると考えると、意外と心が躍ってしまう七罪であった。

 

「よし、全部やろ。どうせ水性だし。フフフ……」

 

 悪戯心の赴くまま不気味に笑い、ペンを士道の顔に近付けていく。そうしてついに士道の整った顔に黒い線を走らせようとした、正にその時――

 

「――士道、ちょっと良いかしら?」

「ひえっ!?」

 

 ノックも無しに扉が開かれ、琴里が姿を現した。あまりの驚きに七罪はペンを取り落としかけてしまい、危うく士道の口の中に突っ込むところであった。

 士道にペンをフェラさせる展開は避けられたものの、代わりに七罪の行動はバッチリと琴里に見られていた。士道に覆いかぶさり、水性ペンを片手に、異常なまでに驚き慌てふためく反応も。聡明な琴里が気が付かないわけなど無く、士道に悪戯を働こうとしているのは容易に想像がつく事だろう。

 実際琴里はニヤリと笑うと――

 

「へぇ? 随分面白い事をしているじゃない。七罪、私も混ぜなさい?」

「あ、琴里もこっち側か……」

 

 自分も一枚噛ませろと、実に悪戯っ子な反応を返してきた。怒られなかったばかりか共犯者が出来た事実に、七罪は心底ほっとするのであった。

 それと同時に驚いて縮こまっていた悪戯心が再燃し、どうしようもなく悪い笑顔を浮かばせる。

 

「……良いわよ。琴里も士道の顔に落書きする?」

「水性ペンで顔に落書きねぇ……それも面白いけれど、どうせならもっと面白い悪戯をしましょう? それこそあなたにしかできないような、ね?」

 

 どうやら琴里は落書きよりももっと愉快な悪戯を思いついているようだ。意味深な笑みを浮かべつつ、七罪に視線を向けてくる。

 ドSの琴里が考える、面白い悪戯。多少ぞっとしつつも、どうしても気になってしまう七罪であった。

 

「……分かった。何すれば良い?」

 

 なので、七罪は躊躇いなくその提案に飛びついた。こちらもニヤリと笑い、お互いに心底意地の悪い面を見せあいながら。

 

 

 

 

 

「ん……ぅ……」

 

 腹に感じる圧迫感に僅かな苦しさを覚え、士道は夢の世界から引き戻された。

 どうやらベッドに横になっている内に少々眠ってしまったらしい。自覚はしていたがやはり疲労や睡眠不足が溜まっているようだ。ただでさえ毎夜のように七罪たちを抱いているというのに、今日は八舞姉妹とデートまでしたのだ。もちろんとても充実した時間ではあったものの、大いに疲れてしまった事は否めない。

 

「――士道、起きて。士道」

「懇願。目を覚ましてください、士道」

「ん……んん……?」

 

 明らかに疲労が溜まっている事を示す証拠に、聞こえてはならない声が耳に届く。

 士道が寝落ちしたのは自室のベッド。七罪たちとの関係を他の精霊たちに悟らせないよう、自室のセキュリティは万全だ。それは扉の鍵に関しても例外ではなく、登録されている者以外は扉を壊しでもしない限り勝手に入れないほどだ。

 にも拘わらず、士道の耳に聞こえてきたのは勝手に部屋に入れないはずの少女たちの声。猛烈に嫌な予感に襲われ、ゆっくり目を開けると――

 

「……折紙? それに、夕弦……?」

 

 折紙と夕弦、その二人が士道の顔を覗き込んでいるのが目に入った。

 しかも二人とも相当に距離が近く、息がかかりそうなレベルであった。おまけに折紙に至っては士道の腹に跨っており、なかなか危機感を煽る状況だ。

 

「ちょ、ちょっと待った! 何で折紙たちが俺の部屋に――って、何だ!?」

 

 ひとまず身体の上の折紙をどかそうと両腕を動かす士道だが――ガチャリ。そんな物音が聞こえると同時に手首に引っかかりを覚えた。しかも両腕が頭の上から動かせない。反射的に腕の方を見ると――

 

「また手錠かよ! 最近こればっかりだな!?」

 

 最近は段々とお約束になってきた、起き抜けの拘束が目に入る。七罪にも四糸乃にも琴里にも手錠で拘束された経験があるというのに、ここに来て更に夕弦にまで拘束されるというおまけ付きだ(折紙には歴史改変前に手錠をかけられた事があるため、すでにカウント済み)。こうなると美九もその内やるに違いない。

 

「今の発言は聞き逃せない。また手錠、最近こればっかり、どちらも数度は手錠をかけられた事が無ければ出て来ない言葉。何故そんな言葉が出てくるのか教えて欲しい」

「同意。夕弦も気になります。教えてください」

「あ、いや、それは……」

 

 驚きと嘆きに思わず口走ってしまった言葉に、折紙も夕弦もガッツリと食いつく。

 結構な回数手錠で拘束された事があるのでちょっと感覚が麻痺していたが、冷静に考えれば手錠をかけられるなど相当アレな状況だ。それを何度も経験しているような台詞を口走ったのだから、二人が目の色を変えて詰問してくるのも無理はなかった。

 

「て、ていうか、本当に何でお前らが部屋にいるんだよ!? 鍵がかかってたはずだろ!?」

「魔法の針金を使って、折紙マジックで開けた」

「共謀。夕弦はその行為を見逃す代わりに、ご相伴に預かる事にしました」

「針金で開くレベルのセキュリティなのかよ、アレ!?」

 

 まさかの答えに士道も驚きを隠せなかった。部屋の扉の鍵は生体認証が採用されているとの事なので、士道としても大いに信頼を寄せていたのだ。それが針金で開くのなら普通の鍵と何ら変わらない。むしろ絶大な信頼を抱かせた分、普通の鍵よりも更に罪深いレベルだ。これは後で琴里にセキュリティの強化を進言しなければいけないだろう。

 

「ていうか、ご相伴って……ふ、二人とも、何するつもりなんだよ?」

 

 尤もそれは、無事にこの部屋から出る事が出来たらの話。相手が相手なので、綺麗な身体のまま出してくれるとは思えなかった。

 

「この状況で分からないなどとは言わせない。ベッドに拘束された魅力的な男性が一人、飢えた獣のような女性が二人。そして密室。状況は完璧に整っている」

「凌辱。士道の身体を、夕弦たちが隅々まで味わわせていただきます」

「は、ハハッ……冗談、だよな?」

 

 士道の不安を裏付けるように、一段と圧を高めてくる折紙と夕弦。二人とも若干感情の薄い澄ました表情をしているというのに、瞳には間違いなく獲物に向ける熱さと鋭さが見て取れた。これは無抵抗でいれば絶対に食われると確信するほどに。

 大好きなおにーちゃんが猛獣たちに食われそうになっているというのに、こういう時に限って琴里が助けに来てくれない。見なくても良い状況では覗きをしている癖に肝心な時に対処する事ができていないのでは、本当にただの覗き魔である。無事にこの場を切り抜けられたなら、琴里にお仕置きをする事も忘れてはならないだろう。

 

「心配する必要は無い、士道。あなたに天国を見せてあげる」

「昇天。夕弦たちの卓越したテクニックで、士道を楽園に誘ってあげます」

「ちょっ!? 待っ――んんっ!?」

 

 段々と諦めにも似た感情が湧いてくる中、ついに士道は折紙に唇を奪われた――

 

 

 

 

 

「むぐっ……ん、ううっ……!?」

 

 確かにこれは超楽しい。折紙――に変身させた琴里に熱烈な口付けを受ける士道の姿を眺めながら、夕弦に変身した七罪は心からそう感じていた。

 琴里が提案してきた面白い悪戯とは、七罪の能力を使ったかなり悪質な悪戯だ。七罪たちが別の精霊たちに化けて、その状態で士道を襲うというもの。話を聞いた時はちょっと化ける先の精霊たちに悪い(士道についてはどうでもいい)と思ったものの、単独犯ではなく共犯の琴里がいるのでそこまで罪の意識は重くなかった。

 

「ぷはっ……!」

「……これが、士道の味……肉欲を誘う、罪の味」

 

 やがて折紙(琴里)が口付けを終え、どこか恍惚とした感じの声を折紙の声で零す。もちろん舌先で士道と繋がっていた唾液も啜り、唇の端に垂れていた唾液も指で拭って舐めてから。

 普段の琴里にしては考えられないくらい積極的な愛情表現をしているが、それは別人に成りすましているからこそノリノリでできる事なのだろう。もちろんそれは七罪も同じ。他人に成りすましているからこそ、普段の自分ではやりにくい事もできる。

 

「交代。今度は、夕弦の番です――んっ」

「むぅ……!?」

 

 故に七罪は夕弦の皮を被っているのを良い事に、情熱的に士道の唇を奪った。

 もちろん唇を重ねるだけの可愛らしいキスではなく、舌を滑り込ませ絡め合う大人の口付けだ。士道の舌や口の中に舌が触れる度、静電気にも似た衝撃が脳髄を貫き、暖かな幸福感が胸に広がる。今日の士道とのキスはどことなく甘い味わいであり、七罪はそれを夢中で貪った。尤も先ほどの折紙(琴里)のキスに比べれば、じゃれつくような可愛いレベルだったが。

 

「ぷはぁ……快、感……途方も無い、至福です……」

 

 そして口付けを終えれば、夕弦としての演技を忘れそうになるほどの充足感にどうしようもなく頬が緩む。

 愛する男と深い口付けを交わした幸せはもちろん、その愛する男が顔を赤くしてなかなか初心な反応をしているのがまた堪らない。いつも士道にいいように弄ばれ、蕩けるほどにイかされている身としては、猛烈に悪戯心が刺激される素晴らしい反応だった。

 そこまでSでも無い七罪でさえ、これほどに嗜虐心をそそられているのだ。澄ました顔をしているが、折紙(琴里)も絶対に似たような気持ちなのは間違いない。

 

「……では、邪魔が入る前に早速士道の純潔を奪う事にする。既成事実さえ作ればこちらのもの」

「首肯。手早く済ませてしまいましょう。大丈夫です、士道。天井の染みを数えている間に終わらせます」

 

 そうして夕弦(七罪)は折紙(琴里)と共に、士道の服を脱がしにかかる。

 尤もこの悪戯は実際に本番まで行うつもりは無かった。あくまでもその直前まで行き、士道が屈する瞬間を楽しむためのものなのだ。幾ら何でも他の精霊に変身したまま士道と身体を重ねるのは、あまりにも本人に失礼だろう。尤も折紙と夕弦なら真実を知れば、紛い物でなく本物を抱けと士道に迫りそうな気がしなくも無い。

 

「ま、待った……! ちょっと待ってくれ、二人とも!」

「心配はいらない。痛くはしないから、安心して欲しい」

「首肯。夕弦たちも初めての体験ですが、精一杯ご奉仕させて頂きます」

 

 夕弦に化けた七罪が士道のシャツを捲り上げ、折紙(琴里)がそのズボンを脱がす。士道からすればいよいよ食われそうな場面で、相手も相手なので結構な恐怖を感じている事だろう。

 しかし、その割には士道の顔には怯えは見当たらなかった。むしろある種の決意が浮かんでいるように見えて、その真摯な瞳に七罪は思わず手を止めてしまった。

 

「そうじゃなくて……実は俺……もう、童貞は捨ててるんだ……」

「……まさか……そんな、ありえない……」

 

 そして士道は申し訳なさそうに秘密を口走った。この告白には折紙(琴里)も驚きに混乱を示している(ような演技をしている)。一応夕弦の皮を被った七罪も驚きに息を呑んだような反応を取っておいたが、士道の初めての相手が他ならぬ自分だったので、少々微妙な表情になってしまった。

 何にせよ、どうやら士道はもう逃れられないと悟ったらしい。食われる前に自らの爛れた関係を暴露し、あわよくば折紙(琴里)たちが興醒めして凌辱の手を止める事を狙っているのかもしれない。

 

「それに、七罪に四糸乃、琴里に美九とも寝てる……」

「……驚愕。それが事実ならば、あまりにも爛れています……!」

 

 続く士道の告白に、七罪は今度こそ完璧な驚愕の反応を返せた。何せ実際に爛れまくっているのだから、演技すら必要ないレベルだ。

 見た目幼い少女三人に、大人気アイドル。その四人と毎晩のように愛し合い、濃密に身体を重ねている。これが爛れていなくて一体何だと言うのか。

 

「悪いな……けど、事実なんだ。それにこれは秘密だけど――特に七罪と琴里が好きなんだ! いや、愛してる! あの二人が特別愛しくて愛しくて堪らないんだ!」

「……そ、そう」

「……琴里と、七罪が、ですか。驚き、です」

 

 そして何を思ったのか、士道は突然七罪と琴里に対して愛を叫び始めた。状況がアホ臭いし情けない事この上無いが、他ならぬ当人である七罪は愛の叫びに対してちょっと嬉しくなってしまう。微妙にどもっていた辺り、折紙(琴里)も同じように喜びを感じてしまったのかもしれない。

 自分が一応は本命である事は知っていたものの、いつのまにか琴里も勝るとも劣らない位置にランクインしたらしい。琴里は士道にとって長らく一緒に暮らしてきた義理の妹なのだから、別に本命までの道を駆け上がってもおかしくはない。おかしくはないのだが、七罪としては何故四糸乃ではないのかがちょっと不満であった。

 

「ああ。でも、お前たちの気持ちに応えないわけじゃない。こういう事は、俺から誘わせてくれないか? 今は琴里が許可を出さないから無理だけど、もし許可が出たら……一生忘れられない夜にしてやるからさ?」

「っ……!」

 

 そうして実にふざけたロマンチックな台詞を口にした士道に、七罪は思わず息を呑んでしまう。

 確かに今の士道が本気を出せば、それはもう絶対に忘れられない最高の夜になるだろう。童貞全開のがっつきまくる士道を相手にした七罪でさえ、心に色濃く残る素敵な夜を過ごせたのだ。今の色々なテクニックが極まった士道が本気で愛してやれば、人生で最高の夜になるのは明白だった。

 思わず初めての夜を思い出してしまい、嬉しいやら恥ずかしいやらで七罪は夕弦の顔が熱くなるのを感じた。

 

「そう……」

 

 折紙(琴里)も初めての夜を思い浮かべているのか、見た目こそ落ち着いていたがちょっと太腿の辺りを擦り合わせている。

 不慣れで初々しい士道を相手にした七罪とは違い、琴里はそれなりにテクニックを身に着けた状態の士道と身体を重ねたのだ。たぶん初めての夜は七罪よりも深く心に残っているに違いない。

 

「……具体的に、琴里のどういう所を愛している?」

 

 そのせいなのか、何故か折紙(琴里)は先ほどの愛の告白の追及を始めた。

 まあ特別愛していると言われれば、どんなところを愛しているのか知りたくなるのは仕方ない。七罪は自分が本命だと一応知っているので特に追及する気は無かったが、今初めて聞いた琴里に落ち着けと言うのも無理な相談だ。

 

「そうだな……黒いリボンだとできる女って感じでカッコいいのに、白いリボンだと甘えん坊になる所とか、ギャップがあって凄く良いよな。生意気で妙にサディスティックなのも、普段の愛情の裏返しとか照れ隠しだと思うと、凄く可愛く思えてくるぜ。可愛くて頭もキレて大人の魅力も兼ね備えてる琴里と愛し合えるなんて、俺はとんでもない幸せ者だ」

「………………そう」

 

 士道の琴里への情熱的で感動的な言葉に、妙に長い沈黙を挟んで淡白に頷く折紙(琴里)。見た目は折紙なので必死に平静を装っているが、胸の中では恥じらいや喜びが溢れて爆発しそうになっているに違いない。それを表情には出さない辺り、凄まじい精神力である。

 

「七罪はどうにもネガティブでいまいち自分に自信が持ててないけど、俺は本気で可愛いと思ってる。笑顔とか恥ずかしがった顔が特に可愛くてさ、度々変な悪戯しちまって怒られるんだよ。でもそういう風に怒る姿も可愛くて、どうしようもなく愛しくなっちまうんだ。ずっと笑顔でいられるように、幸せにしてやりたいなって」

「……士道、らしいです……」

 

 そして七罪にも似たような熱い告白をしてきたため、不意を突かれた七罪はやはり淡白な言葉しか返せない。しかしその胸の中では喜びと幸せ、そして士道への愛が荒れ狂い、抑え込むのに精いっぱいだった。

 何より本命の告白をされたばかりか、左の薬指に歯型で生々しい指輪を刻まれたことを思い出し、どうしようもなく頬が緩みそうになってしまう。さすがに夕弦の顔でそんなだらしない表情をするわけにはいかず、七罪は必死に頬を引き締めるのであった。

 

「……そういう事なら、仕方がない。士道が誘ってきてくれる時を、楽しみに待っている」

 

 どうやら興が醒めた、というか逆に燃え上がって本番で寸止めが出来なくなりそうなのか、折紙(琴里)は悪戯を止める事にしたらしい。ベッドから降りると、そのまま部屋の入口へと歩いて行った。

 

「……期待。ロマンチックな夜にしてくれることを、願っています」

 

 なので致命的なボロを出す前に、夕弦に化けた七罪もそれに続く。先程の大胆な愛の告白のせいで表情を引き締めるのが実に辛く、あまり長い間夕弦の涼しい顔を維持できなかった。変身とはまた別に時間制限が迫っていたのだ。

 

「ああ、任せろ……いや、待ってくれ。せめて手錠外して行ってくれないか? おい、二人とも? おーい?」

 

 そのため――パタン。士道の手錠を外す事はせず、二人揃って部屋を出る。ちょっと可哀そうだが拘束されるのには慣れているだろうし、一応ベッドに鍵を置いてきたので頑張れば一人で外せるはずだ。

 それにこんなだらしなく緩んだ表情を素面のまま見られたくはない。なので七罪はすぐさま自分たちの変身を解除し、士道の部屋に戻る事を出来なくした。

 

「………………」

「………………」

 

 そのまま七罪は琴里と並んで廊下を歩き、階段を下りる。終始無言でお互いに顔も見なかったが、それはお互いにあまり見せたくない表情をしているからだと分かっていた。仮に琴里がこちらの表情を見ようとしてきた場合、七罪は全力で抵抗する所存である。それこそ美九に捕まりそうになった時以上に。

 

「……七罪」

「ごめん。ちょっと今こっち見ないで。にやけ面が直らない……」

 

 不意に声をかけられたので、顔を背けてそう答える。

 士道にとびきり愛されていることは一応知っていたのだが、こうして二度も告白されてしまうとより一層現実味を感じて、喜びが抑えられなかった。二度目の七罪でさえこれなのだから、一度目の琴里が感じている喜びや至福は相当な物だろう。実際、七罪の名を口にした琴里の声は妙に平坦で、無理やり感情を抑えているような感じだった。

 

「なら、こっちを見なくても良いわ。ただ一つ聞きたいのだけれど……私たちの演技にどこかおかしなところはあったかしら?」

「ど、どうだろ……途中からはともかく、そこまでは完璧だったように思えるけど……」

「なるほど。つまりアレは士道の本音って言う事ね。なるほど……」

 

 そして何やら一人で深く頷き始める。

 直前に演技力について尋ねてきた事も考えるに、恐らくは士道の愛の告白が本音かどうかを確かめたかったのだろう。夕弦と折紙が実は七罪と琴里が変身した姿である事を見抜き、軽い意趣返しに大袈裟な愛の告白をしてきたという可能性が無くも無いからだ。

 とはいえ七罪も琴里も途中までは完璧な演技だったはずだし、その線は無いと言って良いはずだ。確かにちょっと演技がおかしくなった場面はあったが、それは士道が愛の告白をした後だ。琴里が深く納得している通り、アレは士道の本音だったに違いない。それが分かると嬉しさでますますにやけてしまう七罪だった。

 

「……折紙と夕弦を前にしても私の命令を忘れず、その場で手を出す気も無かった。平等に愛する必要があるのに特別に想う相手がいるっていうのは頂けないけれど……私の命令をキッチリ守っている所は評価してあげるべきかもしれないわね。これはご褒美の一つくらいあげても良いと思わない? 七罪?」

「ご褒美って……もしかして、私達三人で……?」

 

 少し考えた結果、浮かんできたご褒美とは七罪と琴里で士道に3Pをさせてあげるというもの。複数人での行為が好きではない琴里がそういう行為を提案してくるとは思えなかったが、今は士道に愛の告白を受けて燃え上がっている状態なはずだ。その上、士道が口にした特別愛している女がここにもう一人いるという状況。ならばご褒美に相応しいものはそれくらいしか思い浮かばなかった。

 そしてその考えは間違っていなかったらしい。緩みまくっている口元を両手で隠しながら琴里の方を見ると、小さな頷きが返ってきた。

 

「まあ、私はそういうのはあまり好みじゃないけれど……士道が特別に想っている女が私たち二人なんだから、ご褒美をあげるならそれくらいはしてあげても良いと思わない? それとも、私とは嫌かしら?」

「嫌……ってわけじゃないけど、ちょっと怖いかも……聞いた話だと、四糸乃が滅茶苦茶苛められたみたいだし……」

 

 四糸乃との3Pは特別枠として、3Pには若干の抵抗がある七罪だ。特に琴里は色々極まっているため、いまいち乗り気になれなかった。琴里が四糸乃たちと3Pをした時には四糸乃を相当ねちっこく苛めたそうだし、自分もそんな目に合うかもしれない事を考えるとどうしても及び腰になってしまう。

 ましてや七罪が琴里と士道と経験した3Pは、黒い方の琴里に変身して二人の琴里で士道と身体を重ねるという心底イカれた3Pだった。その時でさえ結構過激に攻められたのだから、不安を拭うのは正直無理だ。

 

「あなた相手にそんな事はしないから安心しなさい。それでも不安だって言うなら……これでどうかしら?」

「あ、そっちなら、まあ……」

 

 などと口にしてから黒のリボンを外し、白いリボンに付け替える姿に安堵を覚える。こっちの琴里なら基本的にはMなので、そうそう酷い事にはならないはずだ。琴里二人の3Pではこちらの琴里に結構攻められた気がするものの、アレは七罪が琴里に変身していたからこそだと思いたい。

 

「……よし! じゃあ今すぐおにーちゃんの所に戻ろう! 戻っておにーちゃんと熱く燃え上がろう!」

「待って? さっきの今で行ったら明らかに怪しいわよ? 内容が内容だからネタ晴らしするのは分かってるけど、幾ら何でも早すぎない?」

 

 しかしリボンを付け替えて白琴里になった瞬間、琴里が興奮気味に口にした発言にちょっと不安を覚えてしまう。

 実際その不安は杞憂では無かったらしく、琴里は発情しているとしか思えないような表情で股を擦り合わせていた。

 

「だってもう我慢できないもん! おにーちゃんにあんな愛の告白をされて、平気でいられるわけないでしょー!? 今すぐおにーちゃんを押し倒して押し倒されて、色々したいしやられたい!」

「えぇ……涼しい顔の裏でそんな事考えてたの……?」

 

 どうやら先ほどまでの黒琴里の落ち着いた表情は完全に仮面であり、裏ではこんな欲望に塗れた事を考えていたらしい。

 ちょっと呆れてしまったが、元々性欲が底抜けに強い琴里だ。七罪でさえ頭がどうにかなりそうな愛の告白を受けてしまえば、こうなるのも仕方がない事だろう。

 

「さあ、早く戻ろう! 戻って二人でおにーちゃんをたっぷり愛してあげよー!」

「だから気が早いって……せめて深夜まで待たなきゃダメでしょ」

「やだー! おにーちゃんの所に行くのー!」

「うわっ、凄い力……!? ちょ、ちょっと一旦リボン付け替えて! 黒い方付けて!?」

 

 階段を登って戻ろうとする琴里の腕を掴み引き留めた七罪だが、予想外の力にそのままずるずる引きずられてしまう。どうやら士道への愛が溢れて居ても立ってもいられないらしい。

 このまま突撃すると絶対に先ほどの一幕が自分たちの仕業だと即座にバレるので、七罪は愛と性欲に暴走する琴里を何とか抑え込もうと頑張るのであった。

 

 

 

 

 

「ふぅ……助かったぜ、四糸乃。ありがとな」

「いえ、私も楽しませて貰ったので……ふふっ」

 

 心からのお礼を士道が口にすると、四糸乃は妙に上機嫌で笑って頷く。

 折紙と夕弦に拘束されたまま放置されていた士道だが、ニ十分ほどして四糸乃が訪ねてきたので事無きを得た。本当は鍵がベッドの上に落ちていたため自分で外せないか頑張ったものの、絶妙に届かない嫌らしい位置にあったのでダメだった。なので四糸乃が来た時は本当に天の助けだと思ったほどである。

 しかし、今の四糸乃は悪戯っ子。拘束された士道という据え膳のような状況を前に大人しく手錠を外してくれる訳も無く、盛大にくすぐってきてからようやく外してくれた。もちろんその後はこちらもお返しとしてくすぐり倒したわけであるが。

 

「……それより、どうして士道さんは手錠で繋がれていたんですか?」

『まさかセルフ拘束プレイをしてたのー? もーっ、言ってくれれば四糸乃がやってあげるのにー。もちろん四糸乃は拘束される方でもオッケーだよー?』

 

 まずくすぐってきておきながら、ここでようやくそれを尋ねてくる四糸乃たち。状況を掴む前にまず悪戯を働いてきた辺り、今更ながらだいぶ悪に染まってきた感じだ。とはいえ小悪魔四糸乃というのも実に可愛らしいので、特に責める気は無かった。何より四糸乃がこんな風になってしまったのは過保護だった士道のせいなのだから。

 

「……四糸乃。琴里はどこで何してたか分かるか?」

 

 素直に経緯を話そうとした士道だが、その前に声を潜めて四糸乃に問う。七罪はともかくとして、覗き魔の琴里は今この瞬間も覗いている可能性があるからだ。

 

「え? 琴里さんなら、七罪さんと一緒に食器を洗っていましたよ?」

「そうなのか? 珍しい事してるな、アイツ……」

 

 基本琴里は家事の手伝いをしてくれないのだが、今日は珍しく率先して行っているらしい。士道が寝落ちしてしまい手を付けていなかった洗い物をやってくれているようだ。恐らくその理由は――

 

「まあ、そういう事なら言っても平気かな。実は折紙と夕弦に――変身した琴里と七罪に悪戯されたんだよ。で、そのまま放置されてたんだ」

「ええっ!?」

『おっと? なかなか趣のあるプレイをしてるねー?』

 

 ――士道の愛の告白が、相当心に響いたに違いない。

 そう、士道はあの二人が七罪と琴里である事に途中で気が付いていたのだ。だからちょっとわざとらしいくらいに二人への愛を叫び、逆にやり込めてやったというわけである。

 本当は特別愛しているのは七罪なので、琴里に対しての偽の特別告白はちょっと胸が痛んだものの、やってきた悪戯の内容を考えればこれくらい罰は当たらないだろう。あれが悪戯だと気付くまでは、本当に食われると思ってかなり怖かったのだから。

 

「たぶんあの二人に迫られて慌てる俺の姿が見たかったんだろな。けど俺はあれが琴里と七罪だって事に気付けたし、せっかくだから騙された振りをしてやったよ。琴里と七罪を滅茶苦茶愛してるって、盛大に叫びながらな?」

『おおーっ、それはあの二人には効きそうだねー? 特にツンデレの琴里ちゃんは内心大喜びしてそう』

「だろうな。折紙に化けた琴里の表情、ちょっとおかしくなったし。夕弦に化けた七罪に至ってはたぶんどうしても笑顔を戻せなくて、頑なに顔を見せようとしなかったしな。おかげでろくでもない悪戯をする気も失せたみたいで、何とか切り抜ける事ができたよ」

 

 まさかあのまま夕弦と折紙の姿のまま最後までヤる気だったとは思えないが、それに近い所まではする気だったに違いない。そしてそこまでされてしまえば、間違いなく士道は欲望を抑えらなくなっただろう。

 二人が士道の愛に胸を高鳴らせ、良心が疼いて悪戯を止めてくれたのは本当に良かった。

 

『んー……でもそれって、感極まって逆に襲われる可能性もあったんじゃなーい?』

「……言われてみるとそうだな。結構綱渡り染みた事したな、俺……」

 

 なかなか背筋がぞっとする『よしのん』の指摘に、思った以上に危ない状況だった事を悟る。七罪はともかくとして、折紙の皮を被った琴里が絶対にヤバかった。正直な所、あの場で襲われなかったのは奇跡と言って差し支えないだろう。琴里の性欲を持った折紙を相手にするなど、考えるだけで縮み上がりそうになってしまう恐怖である。

 

「あ、あの……士道さん……」

「ん? どうしたんだ、四糸乃?」

 

 などと士道が肝を冷やしていると、不意に四糸乃が服の裾を引っ張ってきた。その可愛らしい所作に冷えた肝が癒されるのを感じながら目を向けると、『よしのん』で口元を隠すようにこちらを見つめる愛らしい姿がそこにあった。しかも窺うようなちょっと不安げな瞳なのが更に庇護欲をそそる。

 

「私の事は……愛していないんですか……?」

 

 その上で、こんなセリフを口にしてくるのだから堪らない。一瞬不安からの言葉かと思って本気で慰めようとしたが、チラリと見えた四糸乃の口元は明らかに微笑んでいた。どうやらこれも悪戯の一環らしい。

 

「……そんなわけないだろ? もちろん愛してるぞ、四糸乃。だから頑張って良い子になろうな?」

「えへへ……嫌、です……」

 

 優しく頭を撫でながら促すと、可愛らしい笑顔と共に明確な拒否が返ってくる。やはり士道の心のオアシスに戻る気は無いようだ。いっそ清々しいほどの否定だった。

 

「この悪い子め! 反省する気の無い奴にはお仕置きだぞ!」

「きゃっ……! ふふっ、負けません……!」

 

 なので悪戯っ子な四糸乃に教育的指導を施す事に決め、押し倒してベッドに組み伏せる。四糸乃は驚いたように小さく悲鳴を上げたが、次の瞬間にはとても楽しそうに笑いながら士道の身体をくすぐってきた。

 

「ははははははっ! くそっ、こっちだって負けないぞ! 四糸乃!」

『おーっと、四糸乃とよしのん相手に勝てると思ってるのかなー? 今こそよしのんのくすぐりテクを披露する時!』

 

 こっちは一人だというのに、四糸乃は『よしのん』と二人がかりで反撃をしてくるのだから実に卑怯だ。そんなズルい子に負けるわけにはいかず、お互いに笑い過ぎで呼吸を怪しくしながらも、士道はベッドの上で四糸乃と健全な絡み合いを続けていった。

 

 

 

 

 

 ちょっと仮眠をして疲労が回復し、更には四糸乃とイチャイチャしてたっぷり英気を養った士道。四糸乃が帰った後、寝落ちしたせいで取り組めなかった家事や掃除を行おうとしたのだが、不思議と士道がすべき事は何も残っていなかった。

 食器は綺麗に洗われてしっかりと拭かれ、食器棚に戻されているし、炊飯器もすでに明日の早朝に炊けるように予約済み。何なら掃除でもしたのかリビングや廊下がやたら綺麗になっているし、トイレまでピカピカに様変わりしていた。

 四糸乃から聞いた七罪と琴里の様子を考えるに、恐らくは二人が代わりに色々とやってくれたのだろう。士道から熱烈な愛の告白を受けた事によって沸き上がる幸福感と猛る気持ちを持て余し、それを家事や掃除にぶつけたに違いない。ちょっとシャレにならない悪戯をされたので後でお仕置きしてやろうかと思ったが、これだけ良い事をしてくれるなら許してやってもいいかもしれない。琴里に関してはむしろお仕置きをした方が喜びそうだが。

 

「――っと、もうこんな時間か。向こうから来ないって事は、俺が来いって事だな」

 

 そうして再びゆっくり羽を伸ばして過ごしていると、時刻は深夜十一時。今夜は琴里の番であり、この時間になっても琴里が突撃してこないため、こっちから向こうの部屋に出向くことにした。

 

「よし、気合入れていくぞ。相手は琴里だし、気を抜くと途端に主導権握られちまうからな……」

 

 相手が相手なので、極力油断はしない。部屋で待っているからといって、今日は押し倒されたい気分……などという甘っちょろい奴ではないのだ。安心して部屋に行ったら入るなり足払いをかけられて転ばされ、そのままのしかかられて床の上でヤられた事もある。カチコミをかけるくらいの気分で行かないと酷い事になってしまうのだ。

 そんなわけで琴里の部屋の前でしばし精神統一を行い、士道は満を持して扉を開いた。

 

「……琴里、準備はできてるか?」

「あっ、やっと来た! もーっ、おにーちゃん遅いー!」

「おっと、今日は白い方か」

 

 ちょっと警戒しつつ扉を開けると、可愛らしい妹が間延びした声で出迎えてくれた。どうやら黒い方ではなく白い方のようだ。薄暗い部屋の中から駆け寄ってくるものの、黒い方の危険度に比べれば可愛いもの。

 なので士道は安心して腕を広げ、可愛い妹を抱きとめてやった。今夜は色気の無いパジャマではなく、生地も薄めで透けて見えるネグリジェをその身に纏っていた。こうして抱きしめるだけで、その小柄な身体の温もりが十分に伝わってくるほどだ。

 

「じゃあ早速ベッドに――って、七罪? 何でお前までいるんだ?」

 

 そこでベッドに目を向けた所、何故か七罪が琴里のベッドの上にいるのを発見する。琴里と同じく、生地が薄めのネグリジェを身に着けており、薄暗い部屋の中でもその未成熟な身体のラインが分かるレベルだ。琴里とは異なりちょっと恥ずかしそうに頬を染めているのがまた可愛らしく、実にそそられてしまう。

 

「い、いたら悪い? あんたの好きな3Pをさせてあげるんだから、むしろ感謝して欲しいくらいなんだけど?」

「3P……って、琴里も含めてか? 珍しいな、お前がそんな事させてくれるなんて……」

 

 七罪の言葉に、ちょっと驚きながら腕の中の琴里を見下ろす。

 基本的に琴里は乱交は好まず、士道と一対一で愛し合い貪りあう事を至上としている。たまに3Pをさせてくれる事もあるにはあるが、それは本人が気乗りする形なので大体内容が酷い。具体的には四糸乃を嫌らしくS的に苛める3Pだったり、七罪を琴里に変身させてダブル琴里で行う3Pだったりと、とにかく嗜好や性癖が如実に表れた3Pとなる。

 しかし白琴里と素の七罪とで行われる3Pでは、そのような悲惨な内容はいまいち想像できない。珍しくまともな3Pになりそうで心底意外だった。

 

「たまにはこういうのも良いかなーって思ったんだー。私はおにーちゃんの可愛い可愛い愛する妹で、気が利くとっても良い女だからね! えっへん!」

 

 士道の腕の中で、これでもかと控えめな胸を張る琴里。そしてベッドの上で無言で顔を赤らめ、ふいっとあらぬ方向に視線を向ける七罪。

 この反応、どうやら悪戯された時に士道が発した愛の告白が相当胸に響いたようだ。それこそ乱交が好きでもない琴里が3Pを提案し、ダブル琴里での3Pでちょっと琴里との3Pに苦手意識を持っていそうな七罪も受け入れるほどに。

 士道としては綺麗な身体のままあの場を切り抜けるためにちょっと過剰に愛を叫んだだけなので、さすがにこんな展開になるとは思ってもいなかった。 

 

「その……今日は、私たちが色々してあげるから……」

「おにーちゃんは何もしなくて良いよ? 全部愛する女たちに任せてくれれば良いからね!」

 

 そしてただの3Pではなく、至れり尽くせりの奉仕3Pになるらしい。七罪は可愛らしく恥じらいながら、琴里は自信満々にやる気に満ちた表情でそう告げてきた。

 七罪と白琴里に誠心誠意ご奉仕され、最高の快楽を味わえる。最早考えただけで士道の下半身はバッキバキに反応するほど、夢に満ち溢れた最高のシチュエーションであった。

 

「……なるほどな。それじゃあ、二人に任せるぞ。たっぷり俺を気持ち良くしてくれよな?」

「う、うん……頑張る……」

「任せて、おにーちゃん!」

 

 遠慮なくお世話になる事に決めた士道は、琴里に腕を引かれてベッドへと座らされた。そうして可愛らしい少女二人が左右から身体を寄せてきて、熱に浮かされたような瞳で見上げてくる。

 苦し紛れの愛の叫びが巻き起こした予想外の結果だが、据え膳食わぬは男の恥。何よりこんな美味しい状況を見逃す事などできるわけもない。なので士道は二人がこうした行動を起こす理由などさも知らない風を装いながら、二人に押し倒されるのであった。

 

 

 




 もちろん次回は3Pのエロ話。琴里がいるにしてはまともな3Pになりそうな予感。そもそも3Pがまともなのかというツッコミは受け付けません。
 余談ですが今回のお話はわりと初期から構想がありました。その時は変身先が折紙と美九でしたが、美九が関係に加わったため夕弦になった感じです。まあノリや流れは今回と特に変わらない感じですが。
 次回は四月一日に投稿予定です……が、まだ書き終わっていません! なので間に合いそうになかったら活動報告で謝罪を入れておきます。エッチな話はどうしてもスムーズに書けなくて……

更新停止期間の執筆状況の進捗はどれくらいの頻度で活動報告に載せるべきか

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