四糸乃にバレた時のお話+四糸乃ファーストの裏側。
四糸乃が加わったからといって七罪の出番を減らす気はないぜ!
しかし自分で書いてるだけじゃ物足りないんだよなぁ……誰か七罪や四糸乃が士道さんとイチャイチャする話書いてくれないかな……。
それから諸事情で一ヶ月ほど執筆活動を休むので、しばらく更新できなくなります。
むしろ今までこんな早いペースで更新できたのがおかしい……。
「うー……」
真夜中を十分に過ぎて日付が変わった頃。
それは本来なら誰もが気持ちよく夢の世界にいる時間だ。
しかし七罪は眠りにつくことができず、ベッドの上でひたすら寝返りを打っていた。
「あー……」
今夜は士道に夢の世界へ連れていってもらう日なのだが、隣どころか部屋にも士道の姿はない。
別に喧嘩したとか、倦怠期的な問題が起きたとかではない。
士道がここにいないのはごく単純な理由。
今頃四糸乃と初めての夜を過ごしているのだ。
だから今夜は一人で眠りにつこうとしているのだが、湧き上がる気持ちのせいで悶々としてどうにも眠れなかった。
「うがー……」
もちろんそれは四糸乃に対する嫉妬や怒りではない。
四糸乃に対してそんな感情などどう足掻いても抱けないし、むしろ四糸乃が幸せに包まれていることを思うと逆に嬉しくて堪らない。
では満たされない性的な欲求で悶々としているのかというと、それも違う。
七罪を不眠に陥れているのは、寂しさだった。
「あー……駄目だ。寝れない……」
ここ最近は士道と触れ合うどころか顔を合わせてすらいない。
それは士道に欲求を溜め込んでもらうためだ。
四糸乃の神聖さに当てられて劣情が吹き飛ばされでもすると、羞恥に耐えながらも身を許そうとしていた四糸乃が浮かばれない。
だから問題なく事に移れる程度には欲求を抱いていて欲しかった。
まぁ持て余し気味な士道なら心配ないかもしれないが、万が一ということもある。
四糸乃にとって幸せな夜になって欲しかったので、念には念を入れておいた。
結果士道はだいぶ溜まったようなので、きっと何の問題もなく四糸乃との情事に移れたことだろう。
ただしその弊害が七罪の抱えている耐え難い寂しさだ。
今までは眠れないほどに苦しむことはなかった。
何故なら寂しさを和らげてくれるものが七罪の身体にあったからだ。
士道からの愛を表す証であり、同時に四糸乃へ関係を伝えてしまったものである、キスマークが。
数日前、七罪は四糸乃を一緒にお風呂に入らないかと誘ってみた。
士道に言われた通り四糸乃なら喜んでくれそうな気がしたし、一緒に入って友達みたいなことをしたかったからだ。
四糸乃もそういったものに憧れていたらしく、見る者全てを癒すほどに可愛らしい笑みを浮かべて頷いてくれた。
四糸乃が喜んでくれたので嬉しい限りだが、誰かと入浴するのはこれでまだ二回目なので七罪はどうにも緊張が拭えない。
琴里と一緒に入った時はさほど緊張は覚えなかったものの、それは琴里がそんな余裕を与えてくれなかったから。
何せ頭のてっぺんから爪先まで舐めるような目つきで見てきたし、執拗なまでのボディタッチを繰り返してきたので、恥ずかしさに悲鳴を上げて暴れるのが精一杯だった。
まぁどこかの残念極まるアイドルのような露骨な下心は感じなかったので、正に遠慮の無い友達同士といった感じで楽しかったというのが本音だ。
ただそれは琴里だからこそできることで、七罪は積極的になれないため今回の気恥ずかしさは消えてくれなかった。
なお、士道とのお風呂は襲われて色々台無しになったのでカウントしていない。
『さー、七罪ちゃん。まずは視線を斜め下に向けて、少しずつ服をずらしていこっかー?』
「な、何でグラビアアイドルのカメラマンみたいなこと言ってるの、よしのん……?」
そんなわけで四糸乃と一緒に洗面所で服を脱ごうとしていると、『よしのん』が実に楽しそうに笑った。
つぶらな黒い瞳は琴里同様、七罪の身体を舐めるような目つきで見てくる。
言っては悪いが、士道を含めて皆趣味が悪い。
『そりゃーこういうのが女の子同士のお風呂での楽しみ方だからだよー? ねー、四糸乃ー?』
「そ、そう、なんですか……?」
「う、うーん……たぶん、そういうのもありだと思うけど……無理にしなくても良いじゃない……?」
やはり初めてなので良く分からないらしく、緊張した様子で尋ねてくる四糸乃。
何と返そうか迷った末、とりあえず当たり障りのない答えを返しておいた。
確かに醍醐味と言えるのかもしれないが、とりあえず七罪には不可能な相談だ。
四糸乃の身体を撫で回したり、舐め回したり、匂いを嗅ぎまくるなどできるわけがない。
……冷静に考えると美九基準で考えたのが間違いなのかもしれない。
『おっ? 七罪ちゃん、それどうしたのー?』
「えっ? それ、って何?」
七罪が上着を脱いで下着姿になったところで、『よしのん』が疑問を投げかけてきた。
まな板の分際で上にも下着をつけていることをおかしく思ったのだろうか。
実際『よしのん』は七罪の胸の辺りを指し――
『ほらほらー、胸の辺りだよー。何か虫刺されみたいになってなーい?』
――予想の斜め上を行く言葉を口にした。
「っ!?」
七罪は反射的に胸元を腕で覆い隠す。
恐る恐る見下ろしてみれば、胸の谷間――はないので胸の間という表現が正しい――の一点が赤く色付いている。
これはたぶん、昨夜士道に付けられたキスマークだ。
昨夜はやたら胸元を責められたので、自然とついてしまったのだろう。
シャワーで汗を流す時に気づきそうなものだが、身体が火照って上気した状態で浴びていたから気がつかなかったのかもしれない。
これはたぶん、バレた。
幾らなんでもこんなところにキスマークがついていたら誰でも分かる。
まぁ四糸乃なら別に構わないのだが、正直恥ずかしいし罪悪感で堪らない。
顔が熱いのか冷たいのか良く分からない状態で視線を上げると、そこにはただ七罪の反応を不思議に思うだけの四糸乃がいた。
「? 七罪さん、どうしたんですか?」
「やっ、あ、えっと……これは……その……」
バレたなら隠す必要も無いのだが、四糸乃はそもそもキスマークだと気づいていないようだ。
覚悟を決めていた七罪も、こうなるとどうすれば良いのか困ってしまう。
『……あー、そういうことかー。七罪ちゃんったら、やるねー。これはよしのんもびっくりだよー』
だが『よしのん』が全てを悟ったような、落ち着きのある呟きをもらした。
もう完全にバレているのかもしれないが、とりあえず確認はしておくべきだ。
別に誤魔化すつもりはないが、自爆したら恥ずかしさと罪の意識で悶死してしまう。
「えっと……もしかして、バレた?」
『まーねー。最近七罪ちゃんの様子が良い方に変わってきてたから、何かあったのかなーって思ってたんだけどさー、さっきの反応で分かっちゃたよー。それって士道くんに付けられた痕だよねー?』
「……うん」
確実に完璧に疑いの余地もなくバレている。
こうなったらもう聞かれたことには全て答える。
黙秘権は行使しないし、弁護士もいらない。
『そんなところに痕がつくってことはさー、もっと凄いこともしてるんじゃなーい?』
「……うん。してる」
『週にどれくらいしてるのかなー?』
「……2、3回くらい」
『んー、思ってたより少ないねー。もしかして一回一回が激しくて、一度終わってもまた始めるとかー?』
「……大体そんな感じ。でも言えばちゃんと優しくしてくれるし、したくないって言えば止めてくれるし……まぁ、大抵断らないけど……」
「あ、あの……何の話を、してるんですか……?」
意味を理解していなかったので話の内容が分からない四糸乃が、困ったような声を上げる。
士道が絡む話なのに自分だけ置いてけぼりにされるのは嫌なのだろう。
七罪は真相を説明しようと口を開きかけたが、何をどう話せば良いのか分からなかった。
『あー、話しにくいのは分かるよー。良かったらよしのんが言おうかー?』
「や、これは、私が言わないといけないことだから……」
なけなしの勇気を振り絞り、四糸乃と目を合わせる。
その穢れの無い蒼い瞳を見ただけで、猛烈な罪の意識が胸を貫く。
しかし話さなければより苦しむことになる。
七罪は心を落ち着けるために深呼吸をしてから、ゆっくりと口を開いた。
「え、えっとね、四糸乃……その、実は私……し、士道と……すごく、えっちなことしてるの……」
「え、えっちなこと、ですか……?」
刺激の少ない言葉を選んで話したのが裏目に出たのか、上手く伝わらなかったようだ。
四糸乃は若干頬を染めているものの、完全に意味を理解した反応には見えない。
『んー、つまりさー……』
「……っ!!」
ボソボソと『よしのん』が耳打ちすると、途端に頬から顔全体へと赤みが広がった。
混乱気味に見開かれた瞳は、七罪と『よしのん』の間を行ったりきたりしている。
この反応からすると濁した言葉ではなく直球で伝えられて理解したらしい。
「ご、ごめん……ずっと、黙ってて……それに、私なんかが士道とそんなことして……」
「えっ……あ……ほ、本当、なんですか……?」
「……うん。本当」
信じられないといった面持ちの四糸乃が、遠慮がちに尋ねてくる。
七罪はただ頷き、俯くしかなかった。
果たして四糸乃は一体どんな表情でどんな言葉をかけてくるのだろうか。
幾ら女神四糸乃とはいえ、仏の顔も三度までという言葉もある。
七罪にとって無限に等しい僅かな沈黙の中、恐る恐る四糸乃の顔を盗み見た。
そこに浮かんでいたのは――あろうことか、何もかもを優しく包み込む、穏やかな微笑みだった。
「……嬉しい、です……」
表情もさることながら、その口から零れ出た言葉も、信じられないほどの慈愛に満ちている。
もしかすると七罪の脳が勝手に四糸乃の反応を好意的に変換してしまったのかもしれない。
「ご、ごめん。四糸乃。私、今聞き間違えたみたい……何か、嬉しいって言ったみたいに聞こえた……」
「い、いえ……本当に、嬉しいって言いました……」
今度こそ七罪は言葉を失う。
何故四糸乃がそんなことを言ってくれるのか全く理解できない。
怒ったり泣いたり、そういう反応は覚悟していたのだが、これは予想外で対応できなかった。
身体も頭も凍りつき、返す言葉を探すことすらできない。
「……す、少し驚きました、けど……七罪さんが、士道さんに心を開いて、気持ちを伝え合ったことが、すごく嬉しいです……七罪さんには、幸せになって欲しいですから……」
「っ! よ、四糸乃ぉ……!」
胸の中に深く浸透していく、優しさと暖かさに溢れる四糸乃の真意。
全身に広がる熱さは凍りついた七罪の身体を暖め、瞳に涙さえ浮かべさせた。
こんな罪深い自分の幸せを願い、喜んでくれるとはさすが女神四糸乃だ。
いや、もう女神以上の存在だ。
優しさを持つ存在などでは定義することはできない。
もう優しさという概念が少女に形を変えた究極の生命体だ。
四糸乃が優しいのではなく、四糸乃自身が優しさだ。
『お話もひと段落したみたいだから、そろそろお風呂入らなーい? 続きは温まりながらゆっくり話そうよー』
「そ、そうね……四糸乃も、それで良い?」
「は、はい……」
咽び泣きながらひざまずいて崇めようとしたところで、『よしのん』が一旦話を切った。
このまま下着姿で話を続けるのは正直寒いので、確かにお風呂に入りながらの方が良い。
何だか今回もあまり期待通りの一緒のお風呂にはならなそうな気もするが、最大の懸念だった四糸乃の反応が予想を裏切って最高のものだったのだ。
もう何の文句もないどころか一緒に入ってくれるだけでも天にも昇る心地だった。
『いやー、それにしてもびっくりしたよー。四糸乃も色々頑張ってたのに、まさか七罪ちゃんに先をこされるなんてさー。思わぬ伏兵の登場! ってやつだねー』
二人で向き合って湯船に浸かり、身体に深く染み入る暖かさに一息ついた頃。
特に機嫌を損ねた様子もなく、上機嫌に喋る『よしのん』の言葉で話が再開された。
やはり七罪などに先をこされるとは、『よしのん』も予想外だったのだろう。
「よ、よしのん! そんな言い方、七罪さんに失礼……!」
「あー、良いのよ四糸乃。本当のことだし。ていうか何でそうなったのか自分でも良く分からないし……」
『えー? じゃあ何で士道くんとイケナイ遊びすることになったのー?』
「それは、その……一緒にお風呂入ることになって、そこで士道に襲われて、なし崩し的にすることになったのよ……」
「そ、そうなんですか?」
正直自分が襲われるに値するのか今でも自信はないが、四糸乃を襲うなら七罪も十分気持ちが理解できる。
こちらを驚いた顔で見つめる四糸乃の瞳は吸い込まれそうなほどに美しい輝きを放っているし、上気した白い肌を伝う汗や水滴には妙なエロスを感じる。
僅かに赤みが差した七罪よりも一回り大きい膨らみは、熟した果実のようでとてもおいしそうだ。
きっとすぐに収穫してその場で味わうのが一番の楽しみ方だろう。
……ふと自分が美九のような考えをしていることに気づいて、七罪はかなりのショックを受けた。
『おおー! 士道くんったら羊の皮を被ったオオカミさんだったみたいだねー。初めてがお風呂場っていうのは中々趣があって楽しかったんじゃなーい?』
「あっ、別にその時にお風呂場でしたわけじゃなくて……後で、ちゃんとベッドでしてもらったから……」
『ほー、じゃあ雰囲気もあってもの凄く楽しい夜になったみたいだねー? 士道くんとの初めての夜の感想、聞かせてもらえるかなー?』
「う……」
幾らなんでもここまで詳細に話すとなると恥ずかしくて堪らない。
しかし何もかも話すと決めたのだから、正直に答える。
それこそが四糸乃に対する誠意というものだ。
「……さ、最初は少し怖くて、もの凄く恥ずかしかったけど……士道が私なんかを愛してくれてることが嬉しくて、嬉しくて……もう士道のことしか考えられないくらい、胸の中が幸せと気持ちよさでいっぱいになるのよ……あれは、その……正直、頭おかしくなるかと思うくらい……」
胸を貫く幸せと快感、全身を包む士道の激しい愛情。
快感は七罪にとって行為で湧き上がる副産物に近いが、あれも相当なものだ。
ピークを迎えると頭の中が真っ白になり、しばらく意識が飛びそうになる。
セックス依存症という病気にかかる人がいる理由も良く理解できた。
『おー……七罪ちゃんでもそんな風になっちゃうんだねー。それとも士道くんのテクニックが凄いのかなー……』
「……っ」
顎に当たる部分に手を当て思案する『よしのん』と、口元に手を当て顔を赤くしている四糸乃。
どちらも同じ反応なら良かったのだが、こう対象的な反応をされると余計に恥ずかしい。
湯船に首元まで浸かっていた七罪は、居心地の悪さに口の辺りまで浸かった。
『……まー、実際に体験してみれば分かることだよねー。じゃあそろそろ四糸乃も士道くんにしてもらおっかー?』
「っ!? ぇ、あ、よ、よしのん……!?」
『よしのん』の言葉に、四糸乃が慌しい反応を見せる。
その様子に胸が暖かくなるほどの可愛らしさを覚える辺り、信じたくないことだがもしかすると七罪も美九のような嗜好を持っているのかもしれない。
『んんー? どったのー四糸乃? 心の準備ならとっくにできてるじゃなーい』
「そ、そんなの、駄目……っ! し、士道さんは……七罪さんの……」
『もしかして七罪ちゃんに遠慮してるー? そんな必要ないんだよー、士道くんは皆の共有財産なんだからさー。ねー、七罪ちゃん?』
湯船に顔を沈めていた七罪に、『よしのん』が同意を求めてきた。
しばらく一人占めしていたとはいえ、自分だけのものにするなどおこがましいにもほどがる。
七罪は湯船から口元まで浮上し、口を開いた。
「うん……よしのんの言う通り、私に遠慮する必要なんてないのよ。士道は私だけのものじゃないし……それに、四糸乃もしてもらった方が良いと思う。あれは本当に、士道の愛を感じられて……幸せ、だから……」
言っておいてなんだが、性的な関係を築けと人に勧めるのはまともな神経とは思えない。
もしかすると頭のネジが緩んでいるのかもしれないが、ネジが何本も抜けている奴が周りに何人かいるので、それに比べれば緩んでいるだけな分まだマシな方だろう。
『……だってよー、四糸乃? 四糸乃だって、士道くんに愛してもらいたいよねー?』
「あ、う、ぅ……」
顔を伏せて黙り込んでしまう四糸乃。
四糸乃も士道に愛してもらいたいと思っているのは、七罪にも分かっている。
それは肉欲に溺れたいという願いではなく、心に強く愛を感じさせて欲しいという純粋な願いということも。
ただ四糸乃は恥ずかしがりやなので、アブノーマルな状況を受け入れるのに抵抗があるのかもしれない。
というか特に抵抗や疑問を持たずに受け入れる方が少ないだろう。
残念ながら七罪はその少数派に属しているので、四糸乃にかける言葉は見当たらない。
しかし一つだけかけられる言葉があった。
「……ねえ、四糸乃。士道も、四糸乃と愛しあいたいって思ってるのよ。士道は皆を愛してるから。私だけじゃなくて……四糸乃も……」
『四糸乃が士道くんと愛し合っても、皆への想いが減るわけじゃないんだよー。むしろ四糸乃を幸せにできるから、士道くんはきっと喜ぶんじゃないかなー?』
四糸乃が士道と深い関係を築いても、それは悪いことではない。
むしろ士道は喜び、四糸乃の愛に幸せを感じてくれる。
その事実を七罪と『よしのん』の二人で伝えることで、四糸乃は決して短くない沈黙の後、反応を返した。
こくりと一回、小さな頷きを。
あの後は四糸乃が湯あたりして倒れかけたので、入浴は中断することになった。
少し残念だったが仕方ないことだし、四糸乃の身体の方が大事だ。
介抱している時に『よしのん』から士道への伝言を頼まれた時はかなり気まずい思いをしたものの、同時に喜びや安心感さえ覚えていた。
もう四糸乃には隠し事をする必要が無くなり肩の重荷が下りたからだ
そのためここ最近は最高に晴れ晴れとした気分でいられた。
士道に会えないのが寂しくて堪らなかったが、胸元を見下ろせばそこには士道のキスマークがある。
多少歪んでいるように思えるが、それを目にすると士道との繋がりを感じられて心から安心できた。
だからこそ寂しさを感じずに安らかな眠りにつくことができたというのに、今はもうその痕が見当たらない。
ダイレクトに心を襲う寂しさは、耐え難いほどに苦しかった。
「……士道……」
その名を口にするとより寂しさが強まり、胸に鋭い痛みが走る。
一週間程度顔を合わせていないだけでこの有様だ。
もう完全に士道に依存してしまっている。
自分に関するあらゆることに自信を持てない七罪だが、士道がいなければ生きていけないという自信だけはあった。
それほどに士道の温もりが、愛情が恋しい。
「…………っ」
もう寂しくてじっとしていられない七罪は、ネグリジェから普段着に着替えて部屋を出た。
しかし向かうのは四糸乃の部屋にいる士道のところではない。
幾ら七罪でも他人の幸せな時間を邪魔するほど無粋な覚えはないし、それが四糸乃ならなおさらのこと。
行き先は士道のところではなく、士道の部屋だ。
少しでも士道を身近に感じることができれば、寂しさが和らぐかもしれない。
そう考えた七罪は、冷たい夜風に耐えながら士道の家へと向かった。
家の前に着いたところで、音を立てないように玄関の扉を開けて下を見る。
そこに靴は見当たらないので、士道はまだ帰ってきていないのだろう。
少し残念な気持ちで静かに階段を上り、士道の部屋へと入る。
予想通り中には誰もいなかったが、部屋の中に微かに士道の匂いが漂っている。
その匂いだけで寂しさが少しずつ和らいでいくのを、七罪は確かに感じた。
「あ……」
その最中、目に留まった士道のベッド。
シーツや枕からはもっと強く士道の匂いが感じ取れるだろう。
しかし嗅ぎに行ったら流石に変態的な行動に思えてくる。
煩悩を振り払い、七罪は部屋の中に漂う微かな匂いで我慢することにした。
「…………ぅ」
しかしどうしても目が行ってしまう。
部屋の中はそれなりに寒い上、七罪は不眠気味で眠気に襲われている。
匂いを抜きにしてもベッドからは強い魅力を感じてしまう。
寒くて眠いのだし、ベッドに横になるくらい悪いことではないだろう。
あくまでも寒さと眠気に耐えられず、七罪はふらふらとベッドに向かった。
「は、あぁぁ……」
横になってシーツに潜り込むと、安堵の溜息が自然と零れた。
求めていた温かさと、副産物である士道の匂いに。
頭までシーツに包まると、意図したものではないが士道の匂いに全身が包み込まれる。
勝手に湧き上がってくる喜びは、士道に抱きしめられているような錯覚を覚えているせいだろう。
寝返りを打つと柔らかい枕に顔が埋まり、何故か士道の胸に顔を埋めているような安心感が浮かんでくる。
不思議なことに七罪の頬は自然と緩み、強い睡魔に襲われてまどろみ始めてしまった。
「んぁ……私、何して……」
意識が薄れてきたところで七罪はようやく正気に戻った。
匂いに包まれて顔を埋めて嗅ぐなど、明らかに変態的な危ない行為だ。
こんな所を帰ってきた士道に見られたら、あまりの恥ずかしさに窓から飛び降りたくなる。
「あ……まずい……落ち……る……」
しかしベッドから抜け出すのは一足遅かった。
何か行動を起こす前に、七罪の意識は夢の世界へと旅立ってしまった。
「……ん……ぅ」
どれくらいの時間が経った頃だろうか。
夢の世界にどっぷり浸かってきたものの、七罪は何とか意識を取り戻した。
重い目蓋を開けてぼやけた視界に映るのは、まだ薄闇の広がる部屋。
どうやらそれほど長く眠っていたわけではないようなので、士道にこの変態行為を見られずに済んだらしい。
七罪は再度枕に顔を埋め、丸まった姿勢のまま安堵の吐息を漏らした。
「お、目が覚めたみたいだな。おはよう、七罪」
するとそんな優しげな声が横から聞こえてきた。
恐る恐る視線を向けると、そこにはベッドに腰かけて笑みを向けてくる士道の姿があった。
「気持ち良さそうに眠ってたから起こさなかったけど、何で俺の部屋で寝てるんだ?」
「……」
七罪は何も言葉を返さなかった。
言葉を返さずに身を起こし、窓に歩み寄る。
「ちょっ、待て! 何してるんだよ、お前!?」
そして窓を開けて外の世界に飛び出そうとすると、士道が力づくで止めにきた。
「気にしないで。ただちょっと死にたくなっただけ」
「気にするに決まってるだろ! 一旦落ち着いて話をしような!?」
声は抑えているが必死に説得してくる士道。
しばらく迷った末、最終的に七罪は思いとどまることにした。
どのみち二階から飛び降りても、かなり打ち所が悪くない限りは骨を折る程度でしかない。
無駄な痛い思いをするのは嫌なので、諦めて全てを話した。
士道と顔を合わせなかった理由から、ついさっき自分がしていたことまで。
「……つまり、俺の匂いを嗅いで寂しさを埋めてたってことか?」
「……うん。キモいわよね。分かってる。変態みたいなことしてすみませんでした」
改めて自分のしていたことを思うと、やはり死にたくなってくる。
あんな馬鹿げた行いのせいで士道に嫌われたら立ち直れない。
「ははっ、この程度のことで嫌ったりするわけないだろ? 心配しすぎだって」
「えっ……そう、なの? でも、少しは引いてるんじゃない……?」
わりと真剣に危惧していたのだが、返ってきたのはごく普通の笑顔。
軽蔑どころか驚きすら浮かんでいない。
「いや、別に何とも思わないぞ? こんなの折紙に比べれば引くどころか驚くにも値しないからな。むしろ寂しさからやったってのが可愛く思えてくるし」
「あー……」
言われてみればその通りだ。
頭のネジが何本か抜けている筆頭の変態がいた。
アレがすることに比べれば七罪の行為は遥かにマシに思える。
何だか悩んだり怯えたりしていたのが馬鹿馬鹿しく思えてきて、七罪の心配はどこかへ吹き飛んでしまった。
「ていうかそんなに寂しかったなら無理しないで会いにくれば良かったじゃないか。幾ら四糸乃のためでも、お前が不幸になったら意味無いんだからな?」
「で、でも……四糸乃が幸せなら、寂しさくらいどうってことないし……」
「どうってことないなら何しにここにきたんだよ? 寂しくて耐えられなかったからきたんだろ?」
「……」
当たっているからこそ、説教じみた士道の言葉に何も言い返せない。
黙り込むしかない七罪に、士道は呆れたような溜息をついた。
「……今度からは四糸乃のためでも、自分が苦しむようなことは絶対するなよ? 俺は四糸乃だけじゃなくて、お前にも幸せになって欲しいんだ。会いたいなら我慢しないで会いにくれば良いし、して欲しいことがあるなら遠慮なく言って良いんだからな?」
「……うん」
言い聞かせるような強さがありつつも、思いやりの溢れる言葉。
何より士道は七罪を四糸乃と同列に想ってくれている。
それが何よりも嬉しくて、七罪は素直に頷いた。
そして今一番して欲しいことを口にすることにした。
「……じゃあ、ちょっとして欲しいことがあるんだけど……」
「お、さっそくきたな。何して欲しいんだ?」
「その……抱きしめて……あ……甘えさせて……」
ベッドの上で愛情に酔いしれている時以外に、こんなことを頼むのは初めてだ。
正直顔から火が出そうなほど恥ずかしい。
しかしそれほどに七罪は寂しさを抱えていた。
流石にこれは予想外だったらしく、士道も一瞬面食らったように目を見開く。
「……ああ。ほら、好きなだけ甘えてこいよ」
しかしすぐに優しげに微笑み、その腕で七罪をかき抱いてくれた。
「っ……うぁぁ……」
恋焦がれていた感触に抑えが効かず、七罪は恍惚に震えた声を零してしまう。
胸の奥深くまで暖かく染み入ってくる、全身を包む士道の温もり。
頭を撫でる穏やかな動きから伝わる、士道が自分に向けてくれている確かな愛情。
やはり匂いから得るような邪道で爛れたものとは違う。
心地よさが胸を締め付け、痛みの代わりに強く熱い幸せをもたらしてくれる。
これなしで生きていくことなどもう考えられない。
最早依存というよりは中毒に近いだろう。
女をここまで自分に夢中にさせるとは信じられないほどに罪深い男だ。
そんな世紀の大悪人の唇に、七罪は寂しさが消えてなくなるまで何度も口付けた。
「……ねぇ、四糸乃には優しくしてくれたのよね?」
やがて心の中が完全に幸せで満たされた七罪は、士道の腕に抱かれたままそれを尋ねた。
きっと四糸乃は幸せな夜を過ごせたのだろうが、一応確認はしておきたい。
期待通り士道は頷いたものの、何故か若干苦い顔をした。
「もちろん優しくしたに決まってるだろ……けど、正直最後の方はちょっと怪しかったな……」
「……まぁ、士道ならそれくらいは仕方ないか……四糸乃は幸せそうだった?」
「……ああ、すごく幸せそうだった。ただお前と違って、興奮して人が変わったりはしなかったけど――なぁっ!?」
余計なことを口にした士道に、七罪は拳による一撃をお見舞いした。
恥ずかしくて死にたくなるから普段は話題にするなと口を酸っぱくして言っているのに、よりにもよって幸せを味わっている時に言うとは許せない。
ゼロ距離なので威力はほとんどなかったが、上手いこと鳩尾に入ってくれた。
「ぐぅ……わ、悪かった……ちょっと、無神経だったよな……」
「……まぁ四糸乃に幸せな夜を過ごさせてくれたみたいだし、今のは聞かなかったことにしてあげるから、次からは気をつけてよね」
「わ、分かった……ていうか聞かなかったことにするなら、何でおれは渾身の一撃をもらったんだ……?」
何にせよ四糸乃が幸せな時を過ごせたのなら、とても喜ばしい。
投げかけられる控えめな疑問は無視して、七罪は士道の胸に顔を埋めた。
そうして時計の秒針が出すような規則正しい鼓動に耳を澄ませる。
身体の温もり以外にも士道がすぐ傍にいるということを感じられて、とても安らげる。
「ふあ……っ……」
「ん、どうしたんだ七罪?」
「何か……また眠くなってきた……」
寂しさが埋まった安心感や満たされた気持ちのせいか、再び睡魔に襲われ欠伸が出てしまう。
シーツと枕で落ちたのだから、幾ら少しの間眠ったとはいえ士道本人の腕の中で耐えられるわけがなかった。
「だったらもう我慢しないで寝ちまえよ。朝がきたら起してやるから」
「えっ、でも士道は……?」
「俺も寝たら下手すると一緒に寝てるところ見つかっちまうぞ? 俺は起きてるから、心配しなくて良いって」
「そういうことじゃなくて……や、まぁ確かにそれもあるけど、士道は寝なくても平気なわけ? その……結構、疲れてるはずだし……」
たぶん士道も四糸乃の部屋で睡眠は取っただろうが、明るくなる前に家に戻る必要があるので二、三時間も寝ていないだろう。
加えて四糸乃と愛を交わしたことによる疲労もあるのだから、どちらかと言えば休んだ方が良いのは士道だ。
「そりゃ確かに疲れてるけど、別に眠いわけじゃないぞ。横になってれば疲れは取れるし、無理に寝るよりはお前を抱いてた方がよっぽど癒されるからな」
「そ、そう……じゃあ、遠慮なく寝させてもらうけど……まさか寝てる間に変なことしないわよね?」
何せ一回では飽きたらず、二回戦を始めることも多い士道だ。
四糸乃と愛を交し合ったとはいえ、それは数時間前のこと。
正直士道ならそれだけの時間があれば、体力とは別の力が回復していそうな気がする。
「幾ら俺でも気持ちよく眠ってるところを襲ったりはしないって。さっきだって何もしなかっただろ?」
「そういえば、そうね……」
確かに何かされたような感覚は無かった。
目覚めたのは気配か何かのせいなのだろう。
心配事がなくなった七罪は、安心して士道と共に横になった。
「じゃあ……おやすみ、士道……」
「ああ、おやすみ。良く眠れよ?」
言葉を返すと、強く抱きしめてくる士道。
士道の温もりと柔らかいベッドのダブルパンチは、簡単に七罪の目蓋を下ろさせる。
胸に溢れる幸せに恍惚の吐息を漏らし、七罪は眠気に逆らうのをやめた。
こんなに安らかで穏やかな雰囲気の中で眠りにつけるのは、本当に久しぶりだった。
「……けど……何かお前を抱いてるとムラムラしてきて、変なことしたくなってくるんだよな。四糸乃は抱いててもそんな風にはならないのに……」
「それ、は……もっと、早く……言い、やが……れぇ……っ!」
だが士道が思い出したようにとんでもないことを口走って、見事に雰囲気をぶち壊した。
何故良い雰囲気のまま終わらせずにそっちへ走るのか。
このまま眠りにつけば意識が無いのを良いことに好き放題身体を弄ばれるかもしれない。
それが分かっていても、半ば落ちていた七罪は怨嗟の呻きを漏らすことしかできなかった。
「まぁ、やるときは起きない程度のことで我慢するから、安心して寝て良いぞ?」
「……安心、できる……わけ……ねぇ……だろう……がぁ……」
最後の力を振り絞って目蓋を上げ、七罪は士道を睨みつける。
ぼやけた視界に映ったのは、とても優しい笑みだった。
裏側に下心が潜んでいることを除けばの話だが。
「おやすみ、七罪。良い夢見ろよ?」
「あぁ……ぁぁ……ぁ……」
その笑みこそ、七罪が最後に目にした光景だった。
思い起こせばいつも士道に良いように弄ばれている。
普段は反応が可愛いと言って苛めてくるし、夜には七罪が嬉しくて断れないのを良いことに二戦目を始めてくる。
流石に我慢にも限度がある。
意識が完全に闇に落ちる寸前、七罪は心に硬く誓った。
いつか絶対、こっちが逆に弄んでやる、と。
ウサギは寂しいと死んじゃうと言われていますが、別に寂しくても平気らしいです。
ちなみに匂いは記憶に密接に結びついている感覚なので、温もりとかを思い出すために匂いを嗅ぐのは理に適った行動。
まぁ、単純に嗅ぎたいから嗅いで興奮するのはアウトですけど。
もしかすると今回「お? 寂しくて自分を慰めるのかな?」と思った方がいるかもしれませんね。
でも期待していた方には申し訳ないんですけど、色々考えた結果それは無しになりました。
人によってはやるかもしれませんけどね、どっかの変態さんとか。
というか読んで下さってる方々は一体どんな性的な趣味・嗜好を持ってるんですかね? 参考までに教えて貰えると嬉しいです。取り入れることが可能なものがあるかもしれないので。
ちなみに私はロリコンで、それを除けばわりとノーマルで生々しいのはあんまり好きじゃないタイプです。
まぁ、必要なら書くんですけどね……その時は全力で書いてやる……!
更新停止期間の執筆状況の進捗はどれくらいの頻度で活動報告に載せるべきか
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