※この作品はR-18です。

士道クリミナル   作:サイエンティスト

8 / 64
 エロ→非エロ→エロと来ていましたが、今回はまた非エロ。
 士道さんと四糸乃のイチャつき話。の筈。
 今回は七罪ビギニング以降、初めてロリ以外の子が登場。
 でもやっぱりロリが一番なんだよなぁ……。
 また、今回はある事情で四糸乃の口調が相当ぶれます。
 大丈夫な方はどうぞ。




○四糸乃ハネムーン

「――う……起きて、し、士道……もう、朝……」

「ん、ぅ……?」

 

 自分を呼ぶ恥じらいの込もった儚げな声。

 心が癒される可愛らしい声に聞き覚えはあるが、どこか口調に違和感がある。

 声の主は士道の身体を優しく揺り動かし、起そうとしている。

 起きるというよりも違和感を確かめるために、士道は鉛のように重い目蓋を開けた。

 

『おはよー、士道くん! もう全然起きないからイタズラしちゃおうかと思ってたよー』

「やっと、起きた……も、もうっ……士道ったら、寝ぼすけさん、なんだから……」

「なっ……!?」

 

 若干ぼやけた視界に映るのは、四糸乃と『よしのん』の姿。

 『よしのん』はいつも通りの姿形と口調で、何の違和感もない。

 ただ四糸乃はいつもと違う。

 士道のことを呼び捨てにしているし、世話焼きの幼馴染のような口調だ。

 その上可愛らしい笑顔の中には、驚くべきことに僅かな怒りが見て取れる。

 

「ど、どうしたんだ四糸乃? まさか、また琴里に何か吹き込まれたのか!?」

 

 真っ先に思い浮かんだ可能性はそれだ。

 そして次に思い浮かんだのは、最悪の可能性。

 すなわち、愛想を尽かされた。

 すでに幾度も夜を共にした仲だが、だからこそ思い当たる節がないわけではない。

 だがその可能性は信じたくなかった。

 四糸乃に愛想を尽かされるなど、世界の終わりに等しい恐怖だ。

 

『んんー? 士道くんまだ寝ぼけてるみたいだねー。四糸乃ー、目を覚まさせてあげなよー』

「う、うん……!」

 

 促された四糸乃は、『よしのん』に張り切り気味の頷きを返す。

 そして恐怖に打ち震える士道の頬に、小さな右手を添えてきた。

 血の気の引いた顔には熱いほどの温もりだ。

 だがそのおかげで眠気が吹き飛び、自身の怯えが杞憂であることに気づいた。

 

「四糸乃……」

 

 自身の顔を覗き込んでくる四糸乃の蒼い瞳には、海のように深い慈しみの光が見えたからだ。

 心の底から安堵した士道は、顔を寄せてくる四糸乃にされるがままになり――

 

「――っ」

 

 ――小さな唇を重ねられた。

 瑞々しい唇から伝わる柔らかさが、胸の奥に切ない痛みを生じさせる。

 そしてその痛みが、寝起きで靄のかかっていた記憶を鮮明に照らした。

 今の四糸乃は、この口調と様子が相応しいと思っているのだ。

 結婚したばかりの、愛する夫に対しては。 

 

「……お、おはよう……し、士道……」

「……ああ、おはよう。えーと……俺の可愛い、お嫁さん……」

「えへへ……」

 

 自分がするべきことを思い出した士道は、そんな台詞を口にした。

 四糸乃は照れながらも、嬉しそうに微笑んでいる。

 俺のお嫁さんとは、もちろん他ならぬ四糸乃のこと。

 そう、士道は四糸乃と結婚したのだ。

 ただしそれは、今日一日の間だけだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 始まりは昨日の夜のことだ。

 その夜、士道は自室で七罪とまったり過ごしていた。

 やはり一緒にいると安らげるようで、最近では七罪は毎晩のように士道のところへやってくる。

 少し依存しすぎではないかと心配になってくるものの、こればかりはどうにもできないので好きにさせている。

 それに一緒にいると士道も安らげるので嫌ではない。

 嫌ではないのだが、隣にいられるとどうにもムラムラしてきてしまうのが困りものだった。

 今も少し性的なイタズラをしたい欲求がじわじわと湧き出てきている。

 

『士道くーん! ちょっと四糸乃と結婚してみなーい?』

「け、結婚!?」

 

 その時何の前触れもなく部屋の扉が開けられ、顔を出した『よしのん』が唐突にそんな提案をしてきた。

 同時に軽く右手を握っている四糸乃も顔を出す。

 たぶん扉をノックしようとしたところで、『よしのん』がその前に開けてしまったのだろう。

 

「えーと……その式って私も呼んでくれる……?」

「真に受けるなよ、七罪……」

 

 意図の読めない提案に首を傾げる士道だが、隣に腰かける七罪は極めて冷静に受け入れている。

 

「あ、あの……ノックしようと、したんですけど……」

「気にしなくて良いよ、四糸乃。それより、結婚って一体どういうことなんだ?」

『んー、結婚っていうよりは単純に新婚さんみたいになってみようってことだよー。四糸乃がそういう生活に憧れてるみたいだからさー、プレイの一環にどうかなー?』

「ああ、そういうことか。けど、プレイの一環っていうほどのものじゃないだろ」 

 

 プレイというよりは、恋人間の遊びと言った方が近いだろう。

 七罪ともそうだが、士道と四糸乃はもう恋人と言っても差し支えない関係なのだから。

 

「本当にやってみたいのか、四糸乃?」

「えっと、その……は、はい……でも、迷惑になるなら……」

 

 頷きつつも、申し訳無さそうに小さくなる四糸乃。

 

「迷惑になんてなるわけないだろ? その……愛する四糸乃の、お願いなんだからさ。むしろもっと遠慮なく甘えてくれた方が、俺は嬉しいよ」

「し、士道さん……!」

 

 笑いかけて頭を撫でてやると、四糸乃は感極まったような瞳で見上げてきた。

 本当の気持ちなので口にしたのだが、歯が浮くような台詞で恥ずかしい。

 

「前にも言ったけど、お前も遠慮なく甘えて良いんだからな、七罪」

「……そんなの分かってるわよ。だからこうしていつも部屋にきてるんじゃない」

「それで甘えてるつもりだったのかよ、お前……全然甘えてないだろ……」

 

 呆れた視線を向けると、心外だとでも言いた気な顔をされた。

 いつかのように抱きついてキスをしてくるのは、寂しくて堪らない時のみの甘え方らしい。

 

『じゃー七罪ちゃんも一緒に新婚さんプレイやらなーい? よしのんたちと三人で士道くんに甘えちゃおうよー?』

「よ、四人での新婚生活って凄い状況ね……どういう設定なの、それ……?」

 

 七罪は設定のぶっ飛び具合に呆れた声を漏らしている。

 士道としてはその癖満更でもない表情をしている七罪にこそ呆れてしまう。

 

「……まぁ、四糸乃が良いなら、私も構わないけど……今回は四糸乃たちでした方が良いんじゃない? 三人でしか楽しめないこともあるだろうし……」

 

 居心地悪そうに視線をそらして呟く七罪。

 四糸乃と『よしのん』が離れられないので仕方ないのだが、三人という言葉には違和感を覚えてしまう。

普通そこは二人で、と言う場面だ。

 

『あー……それもそうだよねー。じゃー4Pはまたの機会にしよっかー』

「今凄いこと言わなかったかよしのん!?」

「んー、夜は最後にしたいし、新婚さんプレイは明日からかなー。四糸乃も士道くんもそれで良いよねー?」

 

 士道の驚愕を無視して、『よしのん』は話を進めていく。

 まぁそういう意味での発言ではないはずなので、蒸し返すのはやめておいた。

 

「……俺はそれで構わないけど、明日も平日だから日中は一緒にいてやれないぞ? 朝とか夕方とかは一緒にいてやれるけど、その時には琴里も家にいるだろうから、あんまり変なことはできないし……明日じゃなくて休日にしないか?」

「い、いえ……明日で、構いません……お休みの日は、士道さんも忙しいですから……」

 

 何故か赤面していた四糸乃は、そんな気遣いを見せて頷く。

 確かに休日は他の精霊との約束やら何やらで埋まることが多い。

 遠慮しなくて良いと言った手前心苦しいものの、その方が都合が良いのは確かだ。

 

「……分かった。じゃあ明日やろうな。けどできる時間が少ないんだから、その分遠慮なんてしないで自分のやりたいようにやるんだぞ、四糸乃?」

「は、はい……えっと……あ、あなた……!」

「っ!」

 

 そんな四糸乃の一言に胸を貫かれる。

 練習も兼ねて呼んでみただけなのだろうが、破壊力は抜群だった。

 花も恥らうほどに可愛らしい笑顔で、照れながら繰り出されるのだから堪らない。

 出血するように溢れ出す高揚感に胸を押さえながら、士道はその一言の素晴らしさを何度も噛み締めた。

 

「な、何か……胸の奥が、滅茶苦茶熱くなってきた……」

「お、お前もか、七罪……」

 

 同じ反応を示した七罪と士道の心情を知らぬ四糸乃は、未だ魅力的な照れ笑いを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、今日は新婚生活始まりの日だ。

 やれることは本当に僅かだが、感じられる楽しさは相当なものだ。

 お嫁さんである四糸乃のモーニングコールは、普段の遠慮がちなものとは違いとても新鮮だった。

 混乱していたその場ではショックしか覚えなかったものの、思い返してみると怒った四糸乃もなかなか可愛らしい。

 あんな風に頬を膨らませた四糸乃に起して貰えるのなら、毎朝寝坊したくなってしまう。

 

「じゃあおにーちゃん、学校いってきまーす!」

「ああ、いってらっしゃい」

 

 朝食を終えてしばらく時間が過ぎた頃。

 登校時間になったので琴里(白)は元気良く登校して行った。

 それまでは琴里がいたので普段通りの朝を過ごしていたが、ここからは少々異なる朝になる。

 

『さー、大人のおままごとを始めよっかー!』

「す、すごい表現だな、よしのん……」

 

 琴里の見送りをしてリビングに戻ると、士道の鞄を持って立つ四糸乃と、意味ありげな笑みを形作った『よしのん』が待っていた。

 出迎えた『よしのん』の極めて妖しい響きの言葉に、思わず興奮を覚えて息を呑む士道。

 しかし待ちわびたように駆けてくる四糸乃の純真さには、そんな言葉は相応しくない。

 

「えっと……し、士道……ハンカチと、ティッシュ、持った……?」

「ああ、心配しなくてもちゃんと持ってるよ」

 

 鞄を受け取り、笑顔で答える。

 これはたまに普段の四糸乃にも尋ねられることなので、当たり障りのないよう普段どおりの反応を返しておいた。

 

『士道くん分かってないなー。そこは持ってても持ってないって言わないとー』

「え、あ、悪い……」

 

 肩をすくめているのか『よしのん』が士道の言葉に両手を広げ、無い首を横に振る。

 仕方ないのでやり直すことにして、士道は制服のポケットを弄るふりをした。

 

「ん? おかしいな、入れたと思ってたけどポケットに入ってないぞ?」

「ほ、ほら……ちゃんと、持って……忘れちゃ、駄目……」

 

 『よしのん』が頷きながらポケットティッシュを差し出し、四糸乃は呆れたような顔でハンカチを差し出してきた。

 花柄な上にピンク色でとてもファンシーだが、お嫁さんが渡してくれたものだと思うと気にならないのが不思議だった。

 

「えーと……ごめんな、四糸乃。いつも世話かけさせて」

「も、もうっ……そんなことは、良いの……士道、のお世話をするのは……好き、だから……」

「ははっ。本当に可愛いやつだな、四糸乃は」

「えへへ……」

 

 朱色に染まった頬を、幸せそうに緩める四糸乃。

 分かりきっていることだが実に可愛らしい笑顔だ。

 本当に結婚するなら、こういう笑顔を見せてくれる子が良いかもしれない。

 

「良し。それじゃ、そろそろ行ってくる。留守番よろしくな、四糸乃?」

「ま、待って、士道……ネクタイが、緩んでる……っ」

「ん? 別に緩んでなんて――」

 

 玄関へ向かおうとしたところで後ろから呼び止められる。

 ネクタイは綺麗に結んであって緩んではいない。

 反射的に否定しそうになって、士道は咄嗟に口をつぐんだ。

 そしてあえてネクタイを緩めてから振り返る。

 

「――うわ、本当だ。自分じゃ上手く結べないんだよな……やっぱり四糸乃に結んでもらわないと駄目みたいだ」

「じゃ、じゃあ……結んであげるから、こっち、きて?」

「ありがとな、四糸乃。四糸乃みたいな良いお嫁さんを貰えて、俺は幸せ者だよ」

「も、もうっ……おだてても……何も出ない、よ……?」

 

 士道の見え透いたお世辞を叱りつつも、満更でもない表情でネクタイを結ぼうとする四糸乃。

 四糸乃は完璧にお嫁さんを演じているように思えるが、士道の方は上手くできているかいまいち実感がない。

 まぁ四糸乃は士道の言葉に嬉しそうな反応を返してくれるので、間違ってはいないだろう。

 

「……あ、あれ……?」

『あれれー?』

「ん、どうしたんだ二人とも?」

 

 二人で協力して結んでいた四糸乃と『よしのん』が、同時に困り声を上げた。

 見れば四糸乃の表情からは微笑が抜け、焦りが見えている。

 

「む……結べ、ない……」

 

 その呟きに『よしのん』との呼吸が合わなくて結べないのかと思ったが、どうも違うようだ。 

 リボン結びや硬結びやらを試しに結んでいるあたり、たぶんネクタイの結び方が分からないのだろう。

 

「良いんだよ、本当に結べなくても。頑張って結ぼうとしてくれただけで、十分嬉しいからさ」

 

 頭を撫でてやり、優しく言葉をかけて慰める。

 それに士道としては結べなかったことは嬉しい誤算だった。

 懸命に結ぼうとする健気な四糸乃の姿に、この上ないほど心が温まっている。

 

「す、すみま、せん……結び方が、分からなくて……結べません、でした……」

『四糸乃ー。素に戻っちゃってるよー』

 

 不測の事態に慌てた四糸乃は、口調が元に戻ってしまった。

 結べないことがよほどショックだったのか、今にも泣きそうな瞳で見上げてくる。

 一瞬可愛いと思ってしまったものの、流石に四糸乃の泣く姿で心が温まりはしない。

 

「本当に結びたいなら結び方教えてやるぞ? あんまり難しくないし、やってみるか?」

「は、はい……お、お願いします……!」

 

 途端に四糸乃の表情が輝きを取り戻す。

 結ぶふりではなく、どうしても本当に結んであげたかったらしい。

 健気に教えを乞う四糸乃に、士道はネクタイの結び方を説明しながら実演して見せた。

 ちゃんと説明を聞いていれば難しいことではない。

 四糸乃は最初から最後まで真剣な面持ちで説明を聞いていた。

 

「えっと……こっちに、上から巻いて……もう一度、巻いて……」

 

 教えたことを復唱しながら実行し、ネクタイを結んでいく四糸乃と『よしのん』。

 今度は手ごたえがあるようで、徐々に穏やかな微笑みが広がっていく。

 最早愛しさすら浮かぶ表情でネクタイを結んでくれるその姿に、士道も堪らなく四糸乃が愛しくなってくる。

 懸命に結ぼうとする姿とはまるで違う暖かみだ。

 

「こっち側から、ここに、通して……っ! で、できました……!」

 

 自分の力で結び終え、達成感に満ちた瞳を向けてくる四糸乃。

 多少形は歪んでいるが、そんなことはどうでも良い。

 

「おお、教えたばっかりなのに綺麗にできてるぞ。さすが四糸乃だな。やっぱり誰かに取られる前に、俺が四糸乃を貰っといて良かったぜ」

「えへへ……も、もうっ……士道、ったら……」

 

 頭を撫でながら誉めてやると、余裕を取り戻したのか再び口調が戻った。

 手の感触を楽しむために瞳を閉じ、可愛らしい笑みを零すお嫁さんの姿にはついつい和んでしまう。

 時間も忘れてそのまま和んでいると、徐に『よしのん』が身振り手振りで四糸乃の唇を指した。

 一瞬意図が分からなかったものの、すぐに何のことか気づいた。

 今士道と四糸乃は新婚さんなのだから、出かける前にはあれをするべきなのだ。

 

「じゃあ俺はそろそろ行ってくるけど、その前に……」

「? どうしたの、士道――んっ……」

 

 士道は手を頭の上から柔らかな頬へと滑らせ、引き寄せるようにして唇を重ねた。

 いわばいってらっしゃいのキスだ。

 軽く触れ合わせる程度のものだが、だからこそ新婚特有の初々しさがある。

 十分に胸の中を幸せで満たしてから、士道はキスを終えた。

 

「……じゃあ、いってきます。四糸乃」

『いってらっしゃーい! だーりーん!』

「は、はい……いってらっしゃい……あなた……!」

 

 手を振る二人の姿を背に、士道は玄関を出た。

 明るい日差しに身体を包み込まれるものの、今は胸の中の方が暖かい。

 際限なく高鳴りそうな鼓動を抑えこむために、胸を押さえる。

 

「やっぱり、四糸乃の『あなた』には破壊力があるよな……」

 

 あの愛らしい笑顔と、僅かな恥じらいの混じる澄んだ声音で紡がれる、あなたという言葉の響き。

 思い出すだけで胸に心地よい痛みが走る。

 帰ってきた時にはもう一度それが出迎えてくれるのだ。

 たった今出てきたばかりだというのに、もう帰ってきた時が楽しみで堪らない。

 

「おはよう、シドー! む……どうしたのだ? 胸が痛いのか?」

 

 余韻に浸っていると、ちょうど十香の声が横合いから聞こえた。

 どうやら士道が出てくるのを家の外で待っていたらしい。

 士道が胸を押さえていたので、何かあったのかと心配そうな顔で駆け寄ってくる。

 

「ああ、おはよう十香。痛いっていってもちょっとだけだし、もう治まったから平気だよ」

「ならば良いのだが……また痛み出したなら我慢せずに言うのだぞ? 私が看病してやるからな?」

「分かった。その時は正直に言うから、看病よろしくな?」

「うむ、任せろ!」

 

 頼りにされたことが嬉しいのか、眩しい笑みを浮かべて頷く十香。

 四糸乃に勝るとも劣らない良い笑顔だ。

 

「良し、そろそろ行くか。あんまりゆっくりしてると遅刻しちまうからな」

「うむ。本当は士道と、二人でゆっくり歩きたかったのだがな……」

 

 そう呟く十香は、俯きがちに隣を歩く。

 たぶんそのために士道が出てくるのを待っていたのだ。

 しかし士道は四糸乃にネクタイの結び方を教えたりしていたので、十香の望んでいた時間が過ごせなくなってしまった。

 責任を取る意味でも七罪や四糸乃に対して愛情を注ぐのは当然だ。

 しかし他の精霊をないがしろにして良いわけではないし、する気もない。

 

「……ほら、十香」

「シドー……?」

 

 落ち込む十香の前に、士道は自分の手を差し伸べた。

 その手を目にして、十香は顔を上げる。

 

「時間がないからゆっくり行くことはできないけど、手を繋いで歩くことはできるだろ? これじゃ代わりにはならないか?」

「……いや、十分だ!」

 

 嬉しそうに答えると、十香はその手を強く握ってきた。

 必然的に士道に身を寄せ、お互いの肩が触れ合いそうな距離に近づく。

 こういった互いの距離感や温もりが大事だということが段々と分かってきたのは、それらを最も好む七罪の影響によるものだろう。

 十香も手の平から伝わる温もりに幸福さえ覚えているようで、満面の笑みを浮かべていた。

 

「む……?」

 

 しかし唐突にその笑顔を崩し、眉を寄せた。

 

「ん、どうしたんだ十香?」

「いや……どうも最近、士道から七罪と四糸乃の匂いがするのだが……今日は七罪の匂いが強いな……」

「っ!」

 

 士道に顔を寄せ、匂いを確かめる十香。

 嗅覚の鋭い十香ならいつか気づくと覚悟はしていたが、実際にそうなると動揺を隠せない。

 というか十香の口振りから察すると前々から気づいていた上に、昨日の晩の相手も分かるらしい。

 昨日の晩の相手は十香の嗅覚が指し示す通り、七罪だ。

 

「えーと、それは、その……最近良く二人が起しに来てくれるからだと思うぞ? きょ、今日は七罪が起しにきてくれたしな」

「む、そうだったのか。だがこの匂い……以前までの七罪とは匂いが変わってきているような……」

「……匂いが変わってきてる?」

 

 予想外の話題に、士道は話をそらす意味でも乗っておいた。

 

「うむ。どう変わっているのかは、上手く言えないのだがな……」

 

 返ってきたのは要領を得ない答え。

 しかし十香の言うことが本当なら、士道には何となく想像がついていた。

 士道に自分のことを心から認めて貰えたことが嬉しくて、ようやく自分の姿に自信をつけてきたのだ。

 きっと色々なことをして自分を磨いているのだろう。

 シャンプーやボディソープを変えたり、髪や肌に気を遣ったり。

 十香や朝食の席での『よしのん』たちが言った七罪の変化が、それを証明している。

 そんな七罪の心境の変化が、恋人といっても差し支えない関係の士道には、自分のことのように嬉しかった。

 

「……そっか。でも悪くない変化なんだろ?」

「うむ。どちらかと言えば良い匂いになってきているぞ。何だか食欲が沸きそうな匂いだ」

「……十香まで七罪を食べようとしないようにな? 既に美九に狙われてるし、これ以上はちょっと可愛そうだぞ……」

 

 捕食者が一人増えたような気がして、士道は七罪が不憫で堪らなくなった。

 まぁ既においしく頂いた上に、定期的に頂いてもいる士道が不憫と言うのも、おかしな話だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー。帰ったぞー、四糸乃」

 

 夕方、学校が終わると士道は真っ直ぐ家へと向かった。

 可愛いお嫁さんが待っているのだから、寄り道などしていられない。

 きっと琴里も帰ってきているはずなので場合によっては何もできないが、それでも一秒でも早くお嫁さんに会いたい。

 精霊用マンションの前で十香たちと別れると、士道は駆け足で家の中へと入った。

 

「あ……! お、おかえりなさい、しど……あ、あなた……!」

『おかえりー、旦那様ー!』

 

 玄関で出迎えを待っていると、四糸乃がリビングの方から駆けてきた。

 あろうことか純白のエプロン姿だ。

 流石に裸にエプロンという刺激的な格好ではないが、新妻そのものという格好だ。

 そんな可愛い姿で、あなたという素晴らしい響きの言葉で迎えられる。

 最早下手な色っぽい格好で誘われるよりも胸に来るものがあった。

 

「新婚って良いな。出迎えされただけで疲れが吹き飛んだぜ……」

『ほら、士道くん。感動してないで、帰ってきたらすることあるでしょー?』

「あ、ああ、そうだったな。ただいま、四糸乃」

「んっ――」

 

 感動させて貰ったのだから今度はこちらの番だ。

 士道は可愛いお嫁さんにただいまのキスをした。

 キスを終えてその顔を覗きこむと、蒼い瞳は幸せに揺れていた。

 

「ふぁ……はい……おかえり、なさい……士道、さん……」

『だから素に戻ってるってばー、四糸乃ー』

 

 『よしのん』の指摘に我を取り戻した四糸乃は、慌てた様子で次に何を言うべきか考えていた。

 だがどうしても気になったので、その前に士道が口を開いてしまった。

 

「なぁ、琴里は帰ってきてないのか? もうとっくに学校終わってる時間なんだけどな」

 

 足元を見下ろしても玄関に琴里の靴は見当たらなかった。

 だからこそ四糸乃に躊躇い無くキスしたのだ。

 

『んー、何か用事あるから遅くなるって言ってたよー? 朝誰かと携帯で話してたみたいだし、おでかけの約束でもあるんじゃないかなー?』

 

 どうやら新婚生活はもう少し続けられるようだ。

 正直朝の見送りまでで終わりということも覚悟していたので、士道はその誰かに心から感謝した。

 

『そんなことよりも四糸乃ー、ほら、あの台詞を言わないと駄目だよー?』

「あ、えっと……ごはんに、する? お風呂に、する? それとも、あの……その……っ」

 

 四糸乃が口にしたのはお決まりの台詞。

 しかし少しハードルが高かったようで、徐々に顔を真っ赤にして途中で俯いてしまった。

 ここで三つ目の選択肢を選んだらどうなるのか大いに興味をそそられるところだ。

 しかし非常に残念だが今の状況では三つ目は選択できない。

 二つ目は琴里が早めに帰ってくる危険性と不慮の事故の可能性があるので止めた方が無難だ。

 

「ほぼ一択だな、これ。それなら、ご飯かな……もしかして、用意してあるのか?」

「う、うん……士道が、会社に行ってる間に、作ったの……」

「おお、四糸乃が作ったのか。ていうか、俺は会社員って設定だったのか」

 

 打ち合わせなどはしていないので、設定の詳細は初めて知った。

 まぁ特にアレンジを行わない設定だと、士道は幼女との学生結婚という若気の至りの大爆発を起した設定になる。

 それでも冥府魔道を落下中である現実に比べると、多少はマシな設定だという事実が恐ろしい。

 ひとまず着替えは後回しにして、四糸乃が作ってくれたという夕食を食べることにした。

 玄関ではまだ分からなかったが、リビングに入ると微かに刺激のある香りに鼻をくすぐられた。

 刺激といっても鼻をつくような不快な匂いではなく、食欲を誘う香辛料の類の匂いだ。

 

「この匂い……カレーか?」

『ピンポーン! 四糸乃が頑張って作ったんだよー! まぁ……ちょっとよしのん、玉ねぎ臭くなっちゃったけどさー……』

 

 『よしのん』は自分の手を嗅ぐまねをして、がっくりとうなだれる。

 流石に四糸乃が右手だけで料理をするのは難しいので、やむを得なかったのだろう。 

 

「よしのんも頑張ってくれたんだな。ありがとう」

『んー、どういたしまして士道くーん!』

「ははは……って、本当に玉ねぎ臭いな。目に染みるから止めてくれ……」

 

 ぐりぐりと顔を寄せてくる『よしのん』に、ついつい眉を寄せてしまう士道。

 言っては悪いが本当に少し臭っている。

 

「じゃあ、士道は座って、待ってて……? 今、ご飯をよそって、来るから……」

「いや、それくらい俺が――」

「だ、駄目、です……っ! あ……じゃなくて、駄目……! 私が、してあげたい、の……!」

 

 叱り付けるように言う四糸乃。

 まぁ好きなようにやらせてあげたいので、士道は大人しく座って待つことにした。

 どうも四糸乃にとっては相手に尽くすのがお嫁さんのイメージらしい。

 

「は、はい……どうぞ、召し上がれ……」

「おお、上手そうだな……いただきます」

 

 心を弾ませて待っていると、やがて四糸乃が料理を運んできた。

 テーブルに置かれたカレーは、見た目は申し分ない出来だ。

 問題の玉ねぎも含めて野菜は全て綺麗に切り揃えられているし、肉も十分に火が通っているように見える。

 とても上手そうだし、何より四糸乃の手料理だ。

 辛抱溜まらず、士道はすぐさま添えられたスプーンに手を伸ばすが――

 

「ま、待って……! まだ、駄目……!」

「えぇ……!?」

 

 ――先に隣から伸びてきた四糸乃の手に遮られた。

 おあずけを食らい、士道は情けない声を出してしまう。

 表情も同様に情けなく崩れているようで、『よしのん』も四糸乃もくすくす笑い始めた。

 

『あはははっ! 士道くん、四糸乃の手料理がそんなに食べたかったのー?』

「あ、当たり前だろ! 俺のために作ってくれたんだから! 頼むから食べさせてくれよ!」

『だってよー、四糸乃? どうするー?』

「た、食べちゃ、駄目……」

「ひ、酷いぞ……四糸乃……」

 

 召し上がれと言っておきながら、この仕打ち。

 まさか純真さと優しさに溢れた四糸乃が、こんな惨いことをするとは思わなかった。

 結婚すると人が変わってしまうらしい。

 昔の四糸乃が恋しくて、士道はがっくりとうなだれた。

 

「さ、最初の一口は、私が食べさせて……あげたい、から……」

「……え?」

「は、はい……あーん、して……?」

 

 顔を上げてみると、隣に座る四糸乃はこちらにスプーンを突き出していた。

 空ではなく、ご飯とカレーをすくったスプーンだ。

 そのまま緊張した面持ちで、士道の行動を待っている。

 四糸乃は変わってなどいなかった。

 嬉しさと安心感で涙が出そうになりながらも、士道は何とかそれを抑え込んで口を開ける。

 

「あ、あーん……」

 

 すると四糸乃が何の意地悪もせずに食べさせてくれた。

 見た目からも想像できた通り、とても美味しい。

 その上四糸乃の手料理であり、四糸乃が食べさせてくれたカレーだ。

 感動と香辛料の刺激で、噛み殺したものとは別の涙が滲んできてしまった。

 

『あれれー? 何か士道くん泣いてない?』

「ど、どうした、の……? おいしく、なかった……?」

「いや……ちょっとスパイスが目にきただけだよ。すごくおいしいぞ、四糸乃。こんなに料理上手なお嫁さんを貰えて、俺は幸せだ」

「よ、良かった……。も、もうっ……士道、ったら……」

 

 どうやら泣くほどまずかったのかと不安に思ったらしい。

 四糸乃は安堵の息を零し、照れ笑いを浮かべた。

 

「なぁ、四糸乃。もう一回食べさせてくれるか?」

「う、うん……士道が、してほしいなら……何回でも……」

「ありがとな。でも、今度は俺の番だ」

 

 今度は士道が食べさせる番。

 士道は四糸乃の分であるカレーのスプーンを手に取り、一口分すくった。

 それを四糸乃の口元へ持っていき、口を開けるように促す。

 

「ほら。あーん」

「あ、あーん……っ」

 

 小さな口で受け取り、夢心地で頬張る四糸乃。

 

「どうだ? おいしいか?」

「う、うん……士道に、食べさせて貰ったから……」

「そっか。俺も四糸乃に食べさせて貰ったから、すごくおいしかったよ。じゃあ今度はまた四糸乃の……いや、よしのんの番だな」

『オッケー! 四糸乃ー、スプーンちょうだい!』

 

 ちらりと『よしのん』に視線を注ぐと、待ってましたと言わんばかりに上機嫌で答えた。

 そして四糸乃からスプーンを両手で受け取り、カレーを一口分すくって士道の前に突き出してくる。

 

『はい、士道くん。あーんしてー?』

「せめてご飯もすくってくれよ。玉ねぎしかないぞ……」

『いやー、士道くんもお仲間にしちゃおうかなーと思ってさー。お口開けてくれないなら無理やり捻じ込んじゃうよー?』

「分かった分かった。食べるから押し付けるなって」

 

 『よしのん』の物言いに苦笑しながらも、士道はそれを口にした。

 火を通しているので別に臭くはないし、甘みもあるからだ。

 まぁ四糸乃の手料理なら多少生でも食べられる自身はある。

 

「じゃ、じゃあ、今度は私の番……!」

 

 再び四糸乃がスプーンを手にして張り切る。

 そこからは互いの目の前のカレーを、四糸乃と『よしのん』の二人と食べさせあった。

 時には口を空ぶらせたり、食べさせると見せかけて自分で食べたりと、軽く意地悪もしてみた。

 新鮮なのは四糸乃もそれを真似してきたことだ。

 そういう趣味はないはずなのだが、四糸乃に意地悪をされると悪い気はしなかった。

 

「ふぅ……ごちそうさま。とってもおいしかったぞ、四糸乃?」

「お、お粗末様、でした……」

 

 気づけば皿はすぐに空になっていた。

 時間のかかる食べ方だったので、おかわりしようにもすでに満腹だ。

 残念ながらもう一度楽しむことはできない。 

 

「? どうしたの、士道……?」

「ごめんな、四糸乃。結局、これくらいのことしかさせてやれなくて。俺もそうだけど、四糸乃も全然物足りないよな……」

 

 本来ならこの後は二人で風呂に入ったりと、できることは色々あっただろう。

 しかし琴里が早く帰ってきてしまう危険性を考慮すると、もうできることはなかった。

 とても楽しかったからこそ、こんなすぐに終わってしまうのは残念極まりない。

 

「……私は、物足りなくなんて、ありません……十分、幸せです。士道さんと、一緒に過ごせましたから……」

「四糸乃……」

 

 至福に満ちた声音で答えると、四糸乃は身体を預けてくる。

 この僅かな幸せの時間の余韻を噛み締めるように瞳を閉じ、肩に寄り添う。

 欲の無い四糸乃はこれだけで満足してしまっている。

 しかしもう少しだけ何かしてやりたかった。

 

「なぁ、よしのん。他に何かできることってないか?」

『んー、何だろうねー。一緒にお風呂に入るのも良いけどさー、士道くん辛抱溜まらず七罪ちゃんを頂きそうになったっていうし……四糸乃もそれはウェルカムなんだけど、士道くん琴里ちゃんが帰ってくるまで夢中になっちゃうだろうからこれはちょっと駄目かなー?」

「だ、だよな……」

 

 避けた理由を完璧に言い当てられ、苦い顔をするしかない士道。

 ここまで自分の行動を予測されると、実際の結婚生活は過ごしにくいだろう。

 あるいはお嫁さんの手の中で踊らされる恐妻家となってしまうか。

 どちらにせよ恋人の時から手玉に取られそうだ。

 

「お! 一つあったぞ、できること!」

 

 そこまで考えた時、士道は一つだけできることを思いついた。

 

『んー? なになにー?』

 

 『よしのん』と四糸乃が首を傾げる。

 分からないのも無理はない。

正確に言えばこれは新婚生活の中でできることではない。

  

「新婚生活って一緒に暮らしてるところからだったし、それまでにあるはずのことはやってないだろ? 例えば……結婚式とかな」

 

 そう、あくまでも新婚生活だったので、そこに至るまでの過程は素通りしている。

 あろうことか結婚式も挙げずに新婚さんの生活を送っていたのだ。

 

『おー! なるほどー、よしのんもその発想はなかったなー。じゃー今からでも結婚式するー?」

「ああ。よしのん、神父役頼んで良いか?」

『オッケー! さぁさぁ二人とも立ってー!』

「え……あ、あの……」

 

 今までの事柄だけで満足してしまっていた四糸乃は、多少遠慮気味だ。

 士道と『よしのん』の二人がかりで半ば無理やり立たせ、互いに向かいあう。

 

『四糸乃ー! あなたは士道くんを健やかなる時も何とかなる時も愛すると誓うかー!』

「あ……そ、その……誓い、ます……!」

 

 かなり大雑把な上にあまり雰囲気の出ない神父の台詞だが、贅沢は言っていられない。

 

『士道くーん! あなたは四糸乃を健やかなる時も他の子と色んな意味でイチャついてる時も愛すると誓うかー!』

「誓います……ん?」

 

 文言が違った気がするが、とりあえず誓っておいた。

 

『じゃー誓いのキスをー!』

 

 テンション最高潮の『よしのん』に促され、士道は四糸乃の両肩に手を置いた。

 

「し……士道、さん……」

 

 まるで本当の結婚式を行っているかのように、身を硬くしている四糸乃。

 華奢な肩からその強張りが手の平に伝わってくる。

 それでも四糸乃はこくりと唾を飲むと、僅かに顔を上向け瞳を閉じた。

 無防備に口付けを待つその姿は、不思議と士道の胸を高鳴らせる。

 高鳴りに促され、四糸乃の唇へと吸い寄せられるように顔を寄せていった。

 距離が縮まるにつれ、高鳴りは徐々に激しくなっていく。

 耳の奥に聞こえてくるほど鼓動が高まったその時――

 

「――っ」

 

 ――四糸乃との唇の距離がゼロになった。

 

『イェーイ! 結婚おめでとー!』

 

 さっきまで神父だった『よしのん』が、招待客の如くはやし立ててくる。

 誓いのキスを終えた士道は本当の結婚式のような反応をする『よしのん』に苦笑しかけたが、自分の心が同様の反応を示しているので人のことは言えなかった。

 

「……これからもよろしくな、四糸乃。いっぱい、幸せにしてやるから……」

 

 何か言うべきことがある筈なので、心の赴くままに口にした。

 四糸乃は恥じらいを見せながらも、恍惚とも取れる笑みで頷いた。

 

「はい……よろしくお願いします、士道さん……」

 

 それは今日一番の、とても幸せそうな笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、結局結婚したってことね。おめでと。後で祝儀送るから」

「お前まさか本気で言ってるんじゃないよな? 冗談にしては妙に真面目な顔してないか……?」

 

 その夜は七罪に今日のことを尋ねられたので、大体の出来事を話した。

 予想外にも七罪は自分から士道の元へやってきたが、やはり気を遣っていたらしい。

 やってきたのは間違いなく新婚プレイの終わっているであろう、琴里が帰ってきた後のことだ。

 一日二日会わなくても大丈夫と口にしていたが、その割には普段よりも士道に寄り添ってきている。

 二人でベッドに腰を下ろしているものの、肩が触れ合うほどに距離が近い。

 

「一応冗談だけど……実は本当に四糸乃と結婚したって言われても驚かないっていうか……それより、本当にそれだけのことしかしてないわけ? そりゃあ四糸乃が幸せなら問題ないけど、それくらい普段でもできるようなことじゃない。せっかく色んなことができるように、琴里を遠ざけたのに……」

「琴里に電話したのってお前か。ありがとな、気を遣ってくれて」

「は、話すり替えないでよ……」

 

 純粋に感謝の気持ちを込めて頭を撫でてやると、七罪は不機嫌そうに睨みつけてきた。

 ただその表情が嬉しさで塗りつぶされそうになったのか、途中で顔を逸らしてしまう。

 

「……まぁ、俺も途中から気づいた。新婚みたいなことって言っても、関係が疑われるほどのことはしなかったしな。これなら最初からそういう遊びをするって、琴里に話しておけば良かったぜ」

 

 話しておけば朝食の席や、琴里が帰ってきてからでもやれることがあっただろう。

 どうやら気づくのが少々遅かったようだ。

 士道はふがいない自分に呆れの溜息をついた。

 

「新婚……そういえば、今日の夜って、確か四糸乃の……」

 

 反面、七罪は真面目な顔をして何か呟いていた。

 目付きが若干悪いせいか、真面目な顔をすると意外にかっこ良く思える。

 様になるその姿を見ていると、不思議と士道の胸は高鳴ってきた。

 しかし興奮で鼓動が早まってきた、というのが正しい表現でもある。

 

「……ところで七罪。何か、その……」 

「……冗談でしょ? 何で新婚プレイで他の子に手を出そうとしてるのよ。しかもこんな時間からって……」

「いや、どうにも抑えられないっていうか……」

 

 士道の様子から事情を察したのか、七罪は軽蔑の眼差しを向けてくる。

 自分でも不思議に思うほど落ち着けない。

 もちろんまだ夜も浅いし琴里も寝ていないので、部屋にいるときの七罪はキスとハグ程度しかさせてくれない。

 まぁ粘り強く、あるいは真摯に頼めば多少の性的なイタズラは許容してくれることは分かっている。

 

「心配しなくても危ないことはしないって。だから少しくらいなら、許してくれるか?」

「その台詞を信じて酷い目にあった覚えがあるんだけど……しかも何回も……」

「うっ……」

 

 痛いところを突かれて士道は声を詰まらせてしまう。

 実際、似たような状況では辛抱溜まらず何度か約束を破りそうになった覚えがある。

 その度当然ながら琴里にバレそうになるので、七罪が言うことももっともだ。

 ただ毎回そんな目に合いながらも、士道の頼みだからなのか結局は次からも折れてくれる。

 しかし今回だけは首を横に振られた。

 

「今日は我慢しなさいよ。完璧に浮気になるでしょ。幸せな新婚なんだから、そういうのは良くないわよ……」

「いや、残念だけどそれはもう終わっちまったからさ……」

「……じゃあ、私帰る。これ以上ここにいると絶対襲われるし……」

 

 何か機嫌を損ねたとしか思えないほど唐突に、七罪は部屋から出て行った。

 普段は士道に遠慮がちにキスをしてから帰るのだが、今回はそれすらもない。

 新婚プレイはすでに終わったはずだというのに、その姿はまだ四糸乃に遠慮しているかのような様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ……そういうことだったのか……」

 

 真夜中、士道は愛を交わすために訪れた部屋の中で、七罪の行動の理由を理解した。

 考えてみれば四糸乃がイメージしていたお嫁さんは、夫である士道の世話を焼き、尽くしていた。

 要するに士道が喜び、幸せになるようなことをしていたのだ。

 となれば望んでいたプラトニックな触れ合いに加え、士道のためにすることがもう一つある。

 

「あ、あの……ご飯に、する? お風呂に、する? それとも……わ……わた……私……?」

 

 真夜中のお楽しみへの、お誘いだ。

 士道を出迎えた四糸乃は、白い肌の上に面積の少ない純白のエプロンしか身に着けていなかった。

 エプロンに匹敵する白さの太股や、両胸の膨らみを彩る桜色が微かに覗いている。

 

『そーれっ!』

「っ……!」

 

 『よしのん』が首の後ろの結び目を解く。

 途端にエプロンは重力に引かれて落下し、四糸乃の生まれたままの姿が露になる。

 すぐさま身体を腕で覆い隠すものの、幼さに反して肉感的な身体は一瞬で網膜に焼きついた。

 そして身体が隠されようと、劣情を刺激する羞恥に耐える表情は隠せていない。

 

『さー、どれにする士道くーん?』

 

 身体を隠す協力をしている『よしのん』が、士道に尋ねてくる。

 風呂はとっくの昔に入った。

 食事もだいぶ前にすませた。

 今は誰にも邪魔されない真夜中だ。

 選択肢は当然決まっている。

 

「……ああ。それじゃ、四糸乃にさせてもらおうかな。今日は寝かせないからな、俺の優しいお嫁さん?」

「きゃっ……!」

 

 四糸乃の身体を抱き上げ、お姫様抱っこで寝室へと運んでいく。

 臭い台詞だが、一度くらいは言ってみたかった。

 

「……や、優しくして、ね? あ、あなた……」

 

 腕の中で縮こまって赤くなりながらも、四糸乃は士道の想いに瞳を酔わせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 新婚さんって憧れるなぁ……私も結婚したいなぁ、ロリと……。
 それはともかく、今回のお話はこれで終了です。
 今回は夏休みなのに書き終わるまで意外と時間がかかりました。
 色々理由はありますが、一番の理由は加筆と修正に手間取ったこと。
 推敲に入った時点で文字数が現在の二倍ありました。
 都合上、泣く泣く全カットした場面もあります。
 まぁそういう場面はいつかやるとして、次はエロ話の予定です。
 『よしのん』も参加するから3Pに該当するか意見が分かれるところだな……。

更新停止期間の執筆状況の進捗はどれくらいの頻度で活動報告に載せるべきか

  • 1ヵ月
  • 2ヵ月
  • 3ヵ月
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。