THA BEAST ROAD!! 〜ケモノミチ〜 作:アンダーグラウンド
泳がないと死ぬマグロみたいです。
『お前、ほんと何やってもダメだよな』
硬いアスファルト、ブロック塀──。まるで僕を拒んでいるみたいだ。お前の居場所はここじゃない──お前は社会に必要とされていない──。
電子レンジが唸りを上げる。パソコンは目を閉じたまま笑う。テレビは小言を言い続ける。部屋の灯りは必要もないのに瞬きを繰り返す。冷蔵庫は冷たくなり、生暖かい息を吐き出す。エアコンは延々と咳をこじらせる。掃除機はさっきから歌い続けている。
「ダメだな、こりゃ」
父さんは早速ドライバーを取り出して、中古品の電子機器を解体する。プラスドライバー、マイナスドライバー、それぞれ大きさが違う。中には見たことのないドライバーも混じっている。
「父さん、僕も手伝うよ」
「ありがたいけどよ、得意分野ってのは人それぞれだ」
──僕はこの〈科学信仰時代〉に於いて、もっとも科学から嫌われた存在だった。
僕は意識しなくても〈魔法〉を使えてしまう。その魔法は〈生命を与える〉。
「お父さん、僕は何なのかな」
「コウ、おまえ──好きな奴でも出来たのか?」
イキナリ言われて動揺する。しかしそれ以上は何も言われなかった。
「──おいっ、コウ、どうなんだよっ!!」
「わわわっ」
僕は〈休眠中のロボット〉から転げ落ちる。
「いてっ!!」
「ごめん、エクス」
エクスは黒い鳥の翼を羽ばたかせ、一呼吸置いて着地する。
「なんか最近変だぞ、コウ」
「ちょっと風邪かもしんない」
とっさに言い訳をするものの、エクスの金の瞳が、疑うように僕を見つめる。
「誰かになんか言われたか?」
「僕に話し掛ける友達なんていないよ」
「俺はおまえに話し掛けてるけどな」
僕はエクスから目を逸らす。
──エクスってば鈍いんだから。──そりゃ、言い出せない自分も悪いけどさ。
「で、こいつはどうなんだ」
エクスが視線を向ける先に、僕の作った機械人形があった。
僕の魔法は〈生命を与える〉。正確には、〈人の意思で無機物を操ることができる〉。
「エクスの脳波に合ってるし、動きも自然だよ」
エクスは動物の姿をしているので、人用に造られた建物では不便なことがある。そこで補助する機械人形を、専門の職人が作る。
「なあ、マジでおまえ、すげえんじゃねえか?」
「い、今更!? もう何年、付き……一緒にいると思ってるの」
「身近に居ると、案外気付かないものなんだなぁ」
もっと気付いてほしいことがあるけど、男同士の恋愛なんて、あり得ないよね、フツー。
僕は手袋を脱いで、油まみれの身体を洗いに行く。
この仕事はやっぱり体力が要るので、油と一緒に男のイメージがこびり付く。母さんがやっていなかったら、全く知ることなく一生を終えていたと思う。
「ふぅー」
シャワーを浴びているときが一番、女性になれる時間だった。汗も油も流せる。それから男のイメージも洗い流せる気がする。
「入るぞ」
「ちょ、ちょっと!!」
「時々入ると妙に距離を取るよなー」
「誰だって一人になりたい時ぐらい──」
「未だにチンコ隠そうとすんの、おまえだけだぞ」
じぃっ、と手の甲を見つめるエクスに、僕は思わずゲンコツをぶつける。
「いった!! おいっ、このっ」
「ハ、ハレンチ」
「はぁ?」
「うっ──」
動揺で随分と古めかしい言葉を使ってしまって、僕はどうでもよくなってしまった。
「はい、目をつむってくださーい」
「やめろって、この」
僕は頭からエクスにシャワーを浴びせる。
高等魔術学学校入学──。
レベルSクラスの〈特殊な人間〉は、こういう時だけ注目を浴びる。
「おおう、コウ、久し振り」
「なんだ、やっぱり同じになるのね」
中学で同じ市に住んでいた、レベルSクラスの顔見知り。区が別々だったから、頻繁に会うことはなかったけど。
魔法を意識的にコントロールできない人を中心に、魔術学学校は建てられる。中学卒業を機に、ほとんどの人が〈普通の人〉になるので、高校は極端に数を減らす。県単位で高校が一桁なんてのがフツーだ。〈金が異常にかかる〉〈偏差値が高い〉〈レベルA以上の生徒が当たり前〉のため、お坊ちゃん学校と言われる。どうせだったら本場イギリスで、という人も多い。
そんな中、物珍しさだけで僕はここにいる。特別頭がいいとか、特別人より優れた魔法が使えるわけではない。ただ〈人よりズレた〉ところに居て、親もそれでお金持ちなだけだ。
「うふふ、ひがんでる、ひがんでる」
「さすがに知られてるよなー」
この二人は、レベルSクラスを狙った国際犯罪組織を一網打尽にし、有名どころの話ではない。
僕はというと、エクスに助けられて──それがきっかけで──。
「全部で7人か」
「エクス──」
僕らのほかに三人、レベルSクラスを謳う新入生が寄ってきた。
ああ、おにぎりが美味しい。
「純日本人って感じね」
「うまそうだな、オレにもくれよ」
トウマは興味のあることには積極的だ。食堂──なんてレベルじゃない。生徒一人につきシェフが一人居るのに、わざわざ僕の皿から、おにぎりを取ってくる。
「おー、これはうまい」
確かに庶民から見たら、隔世の美味しさだ。だが所詮は、梅の入っただけのおにぎりだ。よほど酸っぱさが応えたのだろうと納得して、僕は泣くトウマを目の端で見つめる。
「あらこのトリュフ……」
ミカは何やらトリュフの産地で、シェフと盛り上がっている。
僕は早くも家に帰りたくなる。汗や油、金属の濃厚な匂いが恋しい。
──そうだ、エクス。
用から帰ってきたエクスは、かじりかけの肉に食らいついている。ガサツな性格とは裏腹に、こんなに綺麗に食べるんだと、毎度感心させられる。
「エクス、どう、美味しい?」
ぶっきらぼうに喉を鳴らして、エクスは返事を返す。