色々あって遅れてしまい申し訳ありません……。
春のうららかな日射しが降り注ぐ昼下がりのミストヴィレッジには、爽やかな潮風が吹いていた。
小さな庭の真ん中で日除けの傘をさした日陰に
緋毛氈の横に黄金色のオーラを放つヤカンを置き、時折手元にある急須にお湯を注いで香り高い緑茶を淹れながら穏やかに凪いでいる浜辺の眩しさに目を細め、二人は三色の串団子と緑茶に舌鼓を打っていた。
「はぁー、美味しいー……。たまにはこういう風にのんびりするのもいいねー。」
「うふふ、そうね。最近は何ていうか……異常事態が続き過ぎていたから余計にそう感じるのかも知れないわね。」
しみじみと言葉を交わしながら、二人は白波がキラキラと輝く海原を見つめて大きく深呼吸をする。
普段はエオルゼアに生きる光の戦士として慌ただしい毎日を過ごしている彼女達なのだが、今日は『プリンセスデー』というウルダハで
「……ララちゃん、ミコにゃんはどこに行ったの?さっきから姿を見ないけど。」
ヒュラ子がふと気がついてララちゃんに視線を向けてたずねると、ララちゃんはヒュラ子の顔をみて表情を曇らせる。
「ああ、バカ猫はウルダハで三歌姫のステージとコスプレイベントを見に行ってるよ。「今日は可愛い子を堂々と盗さt……じゃなくてスクリーンショットに収める事が出来るウハウハな日なのにゃー!」とか言ってたから、誰かに迷惑をかけていないといいけど……。」
「……そうなの……。まぁ最悪あの子の事は、お縄にならなければ良しとしましょう。」
「お縄はさすがに大丈夫だとは思うけど……。今回の三歌姫を手伝って手に入れた装備、凄く気に入ったみたいだしさ。……それにさっき、例によってアジス・ラーに行ったアウラさんと楽しそうに染色してたしね。」
そう言ってニヤリ意味深なと笑みを浮かべるララちゃんにヒュラ子がクスクスと笑うと、二人は再び海を眺めて茶碗に入った緑茶を口に運んだ。
「……でも、こうしてララちゃんと二人きりになるのって結構久しぶりのような気がするわ。」
「んー?……そう言われてみたら、そうかも。」
ややあって何気なく呟いたヒュラ子の一言に、ララちゃんもうなずきながら微笑む。
「うふふっ、何だか懐かしいわね。……丁度こんな晴れた日じゃなかった?私達が初めて会ったのって。」
「あー、あれねー。あたしが西ラノシアでレベル上げしてた時に、うっかりまだレベルの足りないFATEに一人で突っ込んじゃったんだよねー。」
「あれって確か灯台の前に出る蟹のやつだったわよね。何て言う名前なのかは忘れたけれど……。」
「いやー、あの時はマジでヤバかった!偶然通りかかったヒュラ子が助けてくれなかったら詰んでたね。」
あははは……。と笑って頭をかいたララちゃんは、力を抜くように息をつくとヒュラ子を見つめてはにかんだ。
「……でも何だか不思議だよね。あの時たまたま共闘したあたし達が長い間色々なクエストを一緒にやって、今はこうして家族みたいに暮らしているなんて。」
「そうね……。最初に私とララちゃんが出会って、次にミコにゃん。そしてアウラさんも加わって……。音信不通になった人も多いけれど、今はこの四人であちこち行くのが一番ベストだと思うわ。人数が足りなければ募集やファインダーがあるんだし。」
思い出話に花を咲かせながら、ヒュラ子とララちゃんは少し蒸らす時間を長めに淹れた緑茶を飲み、ちびちびと団子を食べる。
そうしているうちに、不意に二人の背後から黒い球体が音もなく近付いてきた。
『 ヒュラ子 ララチャン オ茶ノオ代ワリト追加ノオ菓子ヲオ持チシマシタ』
「あら、ありがとう玉ちゃん。丁度淹れたお茶が薄くなってきていたところなのよ。」
玉ちゃんの側面には蝶結びにされた黒いリボンが巻かれており、球体の上には銀のトレイの上にイシュガルディアン・ティーセットが器用に乗せられている。
上のものを揺らす事すら無く二人の側に近寄ってきたところでララちゃんがトレイに乗せられたティーセットを受け取ると、玉ちゃんは楽しそうにその場で二、三度飛び跳ねた。
『先程ミコニャンカラ 今日ハ女ノ子ガオ姫様ニナル日ダカラ 皆様ノ執事ニナル様ニ トノ命令ヲ受ケテオリマス ゴ用ノ際ハ 本システムニ何ナリトオ申シ付ケ下サイ』
ピコピコと電子音を放ちつつ話す玉ちゃんに微笑みながら、ララちゃんはティーポットから紅茶を淹れて甘くまろやかなミルクティーの風味を楽しむ。
「んんー……っ、紅茶も美味しいー!蒸らし加減もバッチリだし、さすが玉ちゃんだね!……あれ?ヒュラ子飲まないの?」
「……うーん、飲みたいのはやまやまなんだけど……。ミコにゃんが用意するものって、いつも何か仕掛けてあるから………。」
困った顔をしたヒュラ子の言葉に、ララちゃんはハッと顔と体を強ばらせる。その様子に玉ちゃんは体をクルクルと回転させると少しだけ浮遊している高度を下げた。
『ソノ心配ハアリマセン 仮ニ飲食物ニ媚薬等ガ混入サレテイテモ ゴ命令ガアレバ スグニ解毒薬ヲオ渡シ致シマス
……所デ、現在本システム内ニアル アラガントームストーンニ ミコニャンガ プリンセスデーノ為ニ用意シタ映像データガ アルノデスガ……』
「ええっ!?何それ聞いてない!あのバカ猫、また何か企んでるの?」
玉ちゃんの話を聞いて、ララちゃんは思わず勢いよく身を乗り出す。その様に驚いたように玉ちゃんはピョコンと飛び跳ねると、逃げるように少しだけ後ずさった。
「ララちゃん落ち着いて。……玉ちゃん、その映像データってどういったものなの?」
ヒュラ子はララちゃんの肩を抑えながらいぶかしげな顔で問いかけると、玉ちゃんは表面の模様を赤く光らせる。
『映像データハ エオルゼア中ノアラユル種族ノ容姿ガ端麗ナ男性ヲ 数多ク取リ揃エテオリマス 仮想データヘノ転用モ可能デスノデ 会話ヤ接触モ可能デス』
容姿端麗な男性。という単語にヒュラ子までもがビクッと反応し、ララちゃんと共にゴクリと唾を飲み込みながら玉ちゃんの側に膝を進めると、玉ちゃんは戸惑うようにせわしなく体を回転させる。
「……た、玉ちゃん。今、容姿端麗な男性って言ったわよね?」
『ハイ ソレガ ドウカシマシタカ?』
「と言う事は、バーチャルな世界でイケメンに囲まれ放題って訳!?」
『ソウデス オ二人ガオ望ミナラバ 慰安モードヘノ転用モ可能デス』
心なしか目を血走らせて鼻息を荒くした二人に左右からガッシリと鷲掴みにされている玉ちゃんが音声を発すると、ヒュラ子とララちゃんは互いの顔を真剣な表情で見合わせて頷いた。
「……玉ちゃん?そういう事なら、ひとまずお茶とお菓子を片付けて家の中に入ろう。」
「そうね。きっとミコにゃんの事だから十中八九何らかの罠なんでしょうけれど、このところ私達アウラさん達に当てられっぱなしなんですもの。イケメンに色々したりされたり出来るのなら、そんな事構うものですか!」
再び玉ちゃんに向き直った二人の鬼気迫る剣幕に、玉ちゃんは恐れをなしたかの様にブルブルと震えながら、ピーッ!と甲高い悲鳴のような音を出す。
そんな事はどうでもいいと言わんばかりに、ヒュラ子は助けを求めるようにピーピーと鳴る玉ちゃんを小脇に抱えて足早に家の中へと入って行く。それを横目にララちゃんは手早く調理家具を片付け、興奮で目を爛々と輝かせながら家のドアをくぐっていった。