※この作品はR-18です。

艦隊これくしょん【貴方】   作:呉のしいたけ

7 / 8
神通と男提督のR18小説です。
各提督の神通のイメージと異なる可能性が大いにあるので、注意してお読みください。
また、今回は他のキャラクターにも違和感を感じると思います。

内容は本当に暗くて黒いです。決して純愛とは呼べません。
それでもいいと言ってくださるる方は、どうかお楽しみください。


【神通】貴方へ想いを。

 

 

 

 神通(私)にとってあのヒトは平穏の象徴だったのです。

 沈めるか沈められるかの戦場から戻った時、彼は必ずといっていいほど出迎えてくれました。

 雨の日でも風の日でも――喩え、雷雨と暴風が吹き荒れる嵐の日にでも。

 母艦で、母港で。

「お帰りなさい」

 その一言と共に。温かい場所を用意してくれて。

 理解できずに戸惑いました。

 私は今でも人付き合いが苦手ですから、彼の言葉と行動にどう応えるのかが適切なのか分からなかったのです。

 なぜそこまでしてくれるのか、しようとするのか……理解できませんでした。

 本当に小さな声で「ありがとうございます」と言うのが精一杯な有り様で。

 ですが、何度も繰り返している内に戸惑いは感謝の気持ちに変わっていきました。

 喜び勇む駆逐艦の子たちが子犬のようにじゃれつく様に心が温まりました。

 手に、肩に、胸に、お腹に、背中に、どうしてか私は無性に嬉しくなったのです。

 幸せな気分で心がいっぱいになりました。

 その光景を眺めるのが何よりもの安らぎでした。

 誰もが楽しそうな笑顔を、幸せそうな微笑みを浮かべていたのです。

 鋼鉄の躰であった時には望むべくもありません。

 艦娘特有のこの感覚は、現代の方には理解し難いと思いますが……。

 眩しすぎる夢がすぐ近くにあって。

 だから、この尊い光景を必ず護ってみせる。

 強く、固く、心身共に誓ったのです。

 

 

 私はただソレを護りたかっただけなのに。

 

 

 

 

 提督が艦娘たちと肉体関係を結んでから二週間余りが経過した。

 一般人とは比べものにならないほど体力のある艦娘と、毎晩のように寝る。

 二週間はおろか、一週間程度でも搾り取られ腹上死していてもおかしくない。

 普通なら、一般人である筈なら。

 それなのに提督は結ばれる前と変わらない様子でいる。むしろ、交わった艦娘ともども体調が改善されているようですらあった。男は奪われる側の筈なのに、そんな馬鹿げた話があるだろうか?

 川内型二番艦『神通』にとっては予想外の事態であった。

 何かあれば即座にでも別れさせるつもりだったというのに。

「どうしてですか……」

 暗雲が空を覆う夜、神通はひとり自室の机に両肘を乗せて顔を覆っていた。

「本当は交わっていない……? いや、そんなはずはありません」

 多少強引ではあったが夜を共に過ごした艦娘の確認は全員とっている。

 皆が肯定し、同じ軽巡洋艦の矢矧も「ちゃんとしたわ」と答えた。

 視線を俯かせて、頬を赤らめて、両手の指を絡ませて、熱に浮かされたように。

 見るからに幸せそうに。

 妄想を振り払うために、バン、と両手を机に叩きつける。

「全員が、矢矧も、最低でも二回以上はしていて、翔鶴さんに至っては一晩中。これで何故体調に異常をきたさないんですか、提督っ」

 少女のような細身の外見にも関わらず、体力のある方だとは感心していた。

 大規模の作戦の時などは否が応にも睡眠時間は削られ、殆んど徹夜と変わらない日々を過ごす場合だってある。それでも提督が倒れ伏したことはなく、集中力が途切れたこともない。

 安心して指揮を任せられる方だと思い、幾多の海戦を勝ち抜いてきた今、この身の命さえも託せられると思っている。

 仮令、どんな苦境に立たされたとしても貴方となら乗り越えられる。

 私はそう確信していた。私以外の艦娘だってそうだった!

 提督として艦娘として、これ以上ない理想の関係だったのだ。

 それなのにどうしてこんなことに……!

「提督……貴方が真摯な表情で艦娘(私達)に向かって、何かしてあげられることはないか、と言ってくださった時、私は嬉しかったです。本当ですよ? 貴方のその言葉で私は大いに満たされました」

 あのときは熱が内側から溢れ出そうになった。

 通じ合っているのか分かったから。

「でも、すぐに怖くなりました。貴方の善意に付け込み、良からぬことを企てる艦娘が出てくるのではないか、と。実際そうなりましたね」

 俗に提督LOVEと呼ばれる艦娘たちが集められ、そして話し合いの結果、十人を優に上回る艦娘が提督に直談判した。

 ヴェールヌイによれば提督はかなり困惑したそうだ。当たり前ではないか。艦娘が自分の身体を求めてくるなんて、あの人に想像できるわけがない。

 提督は戸惑い――当然、拒絶するものだと神通は予測していた。

 だからこそメンバーに加わらずに忠告するだけで邪魔もしなかった。

 断られても退かない艦娘の存在も考慮し、僭越ながら護衛艦の任を頂くつもりであった。

「けれど貴方は……」

 なのに、提督は艦娘の要求を受け入れた。

 これまで培ってきた絆を丸ごと裏切られた気持ちだった。

 要求が通った艦娘たちの喜びようは凄まじかった。

 思い出すと今でも腸が煮えくり返る激情に襲われる。

 視界が烈火のように赤く染まり、目に付くもの全てを木端微塵に壊したくなる。

「こんな筈じゃなかったのに」

 愚鈍すぎた自分を嗤うかのように口元がヒクつく。

 信頼できる古強者のヴェールヌイ、共に研鑽を積んだ朋友の矢矧、そして何より提督が一気に遠くに行ってしまったような寂寥感と焦燥感に、神通はこの二週間思い悩まされ続けていた。

 姉の川内、妹の那珂とも上手く話せず、教導している駆逐艦たちとも。

(誰もかれも腫れ物に触るような接し方をして……私が間違っているとでも言う気ですか!?)

 客観的に視ても正しいのはこちらだ。

 多くの艦娘に嫌悪されようとも止めておけばよかった。

 彼には綺麗なままでいてほしかったのに。

 いや、いなければならなかったのだ。

 平穏の象徴である貴方は純潔のままでなくてはならなかったんです……!

「まだです……まだ間に合います」

 最大のチャンスを逃しただけで止めること自体はできる。

 すでに提督の純潔は失われている。

 絶対に、確実に、何人もの艦娘に犯されてしまっている。

 何度も何度も、幾度となく交わっている。

 艦娘に望まれて、あるいは、極少の確率で自分から望んでか。

 もう消すことは叶わない真実。

 そのことを考えると脳が膨らむような感覚に襲われ、胸の中が苦しくなって罪悪感に押し潰されそうになる。提督を救い出した時、どう詫びればいいのだろうか。

 神通の澱んだ眼差しが熱を帯び、ぎゅっと股が閉められる。

(今夜はもう寝ましょう……)

 そう思い椅子から立ち上がり、新緑のリボンを解こうとした矢先にであった。

 部屋のインターホンが鳴らされ、

「神通――起きているかな?」

 聞き慣れた声が心臓を揺らした。

 

 

 

 

 

「特別異常が見られる艦娘は今のところ神通だけデース」

「想定より少ないな」

「Goodダネ。山城は扶桑が、大井は北上と木曾が抑えてるみたいデスネ」

「比叡は?」

「あの娘は特に抵抗ないみたいヨ」

 妖精を手の平に載せて会話していた金剛は窓際の提督に寄っていく。

 執務は済ませていたが二人はまだ執務室にいた。

 寝室に行く前に話しておかなければならない事があったからだ。

 提督と艦娘が交じったことによる艦隊の影響と変化――提督が危惧していた件でもある。

 金剛も気になっていた。だから、妖精たちに見張らせていた。手の平の妖精はそのうちの一人だ。よく調べてくれたので先ほどクッキーをあげた。

(できれば直行したかったワ)

 正式な形、夢にまでみた念願の日なのに。

 これも役得として受け入れないといけないのか。

 我慢はできなくもないが憤懣やるかたない。

「集中力の減衰、食欲の低下、他の艦娘との接し方。このまま放置しておくのは危ないかもネ。どうするノ? テートク?」

「事前に言っておいた通りだ。私が神通を説得する」

「それだけどサァ。ヴェールヌイに任せたほうがいい気がスルヨ」

「ヴェールヌイは容赦がなさすぎる。必ず火に油を注ぐことになる。金剛も本人以外が話しに来ても納得しないだろう?」

「んー……そうデスネー……」

 ヴェールヌイだったら腹が立つだけ。

 あの女の冷静な言い草は時として神経をガリガリ逆撫でしてくる。

 今の神通には遭わせない方が得策か。

「いつ行くつもりナノ? まさか今夜とか言わないヨネ~?」

 溶けたチョコレートのように甘くトロリとした声で言う。が、普通の男なら飲み込んでしまうだろう甘露も相手が悪かった。

「悪いけど今夜にさせてもらう」

 提督は気にしもしない。ちらりとも動揺してくれない。

 愛するヒトは申し訳なさそうにするだけで。

 こういう御方だと知っていてもこんなに悔しいことがあろうか。

「Siht」と舌打ち交じりに吐き捨て、金剛は「埋め合わせはしっかりしてもらうんだからネッ!」とそっぽを向く。

「最悪デス最悪! どれだけ楽しみにしていたか読めない貴方じゃないのに!」

「すまない。でも、そういう約束だったからね」

「ワタシの日にしなくてもいいデショウッ。だいたいネェ……」

 延々と文句を言い続け、効果なしと視るや、がっくりと肩を落とす。

 妖精が「どんまい」と云った。

「ワタシが本気で愛してるのは判ってるヨネ?」

「金剛」

「ま・さ・か、神通が特別だからとかじゃないヨネ?」

 言わせるべきではないだろうが些細な仕返しをしてやる。

「いいや、違う。これは責任感」

「メンバーに加わろうとしなかった神通の自業自得ダヨ」

 神通の考えていることなんて全てお見通しだ。

 自分好みの独り善がりの幻想に浸かり、中途半端な位置のままでいる。

 くだらないし、どうでもいいし、嫌悪感しか湧いてこない。

 世界最強の水雷戦隊の誉れ、鉄血の鬼教官の名が泣くというものだ。

 そんな小娘が自分と提督の時間を奪うのだから腹が立ってしょうがない。

「どうしてこう一癖二癖ある艦娘が寄りついてくるネー……。全員、加賀とか鈴谷みたいな無害な娘にしてヨ……ワタシ疲れちゃいマース」

 提督が吃驚した風に見てくる。

 金剛は自分の顔が苦っていくのを自覚した。

「アァ? ナンデスカ?」

「自分はまるで真面みたいな言い方だったから。正直ね、貴女も結構変わっていると思う。その口調も性格も嗜好も全部、演技なんだからね。だから金剛、その演技は無理に続けなくてもいいんだよ。私は素の貴女も嫌いじゃないし、始めの頃はみんな戸惑うだろうけど――」

「Shut up! 高慢な女は一番嫌われるタイプデース!」

 ボリュームたっぷりの声量で言い切り、呆れたと言わんばかりに腰に手を当てる。

 だが、表情そのものは不機嫌そうではなかった。

 一つ咳払いを挟むと態度を改める。

「――艦娘金剛の方が好かれやすい性格をしているんだもの。利用しない手はないわ。素の私なんか出してたら嫌われるじゃない。ピエロは……いやね。クラウンみたいに振る舞って艦隊を盛り上げるのが金剛(ワタシ)の役目よ」

 もう二十年以上続けているから、どっちが本物の自分なのかなんて曖昧になっているが。

 別段何でもないよくある話だ。記憶を丸ごと捨てた少女もいるぐらいだし。

「まぁ、ありがとね。普通の女の子だった頃の私を気に掛けてくれるヒトなんて貴方くらいよ。……チョロイとか思ってたら怒るから」

「思わないよ、そんなことは」

「よろしい。あとこれでチャラになったとか勘違いしないようにね。明日の夜はいっぱい愛してあげるから覚悟しておきなさい?」

「尽力しよう」

 見上げられている提督は確りと頷く。

 損ねてしまった分を取り戻せるなら多少の無茶は受け入れるつもりであった。

 金剛はにんまり笑い、胡桃色の髪を揺らして離れた。

 変質していた雰囲気が手品のように元通りになる。

「はやく神通を『慰め』に行って下サーイ。本当のワタシがBurningする前にネ」

 提督を執務室から押し出して向かわせる。

 彼が廊下を歩き、階段を下り、彼の足音が完全に聴こえなくなると、

「これで印象が良くなるなら儲けものデース――――別にもう経験済みダヨ」

 にぃっと童話の化猫のように口角をつり上げた。

 金髪の妖精は微笑むばかり。

 

 

 

 

 訪問してきたのはヴェールヌイだった。細い肩には妖精が一人載っている。

 ほんの少しだけ気落ちしたが、顔には出さないように努め、彼女と対面する。

 扉を開けて肌に感じたのは『冷たい』だった。

 まだ春なのに……暖かい季節なのに。

「起こしてしまったかな」

 平時と変わらない風体の駆逐艦は声を抑えて言ってきた。

「いえ、今から就寝しようとしていたところです」

「それは失礼。ちょっと用事があって遅れてしまったんだ」

 罰が悪そうに帽子を押さえてしまったので、神通は一度廊下を見回してから「話があるなら中でしましょう」と早口で告げる。

「えっと……飲み物は、用意……しましょうか?」

 テーブルの前に腰を下ろし、ベッドの方に視線を向けていたヴェールヌイが神通の方に振り向く。

 完璧な無表情だった。肩の妖精さえも。

 不気味とは感じないが、一応は部屋の主なのに此方が緊張してしまう。

「ありがとう。けど、遠慮しておくよ。この部屋に長居するつもりはないんだ」

「そ、そうですか」

 言われてしまっては冷蔵庫の前に立ってもいられない。

 ヴェールヌイと向かい合う形で神通も腰を下ろした。

 自然と視線が合う。

「で……話とは?」

「単刀直入に言わせてもらうと司令官のことだね」

「提督のこと――あ、っ」

 その一言で心臓を鷲掴みにされた。

 二水戦の華が乱れても、ヴェールヌイは冷静のまま怖いくらいに落ち着いている。

 神通がようやく呼吸を取り戻した頃には、大粒の汗が額に浮かんでいた。

「続けても?」

 案ずる言葉の筈なのに気遣いが感じられなかった。

「は、はい」

「神通、君は司令官をどう想ってる?」

「どうって」

「艦娘としてではないよ。一人の女としてどう想ってるのかが訊きたい」

「そんなことは」

 答えられないに決まってる。

「……答えられません」

「だったら『愛している』ことにしよう」

「ど、どうしてそうなるんですかっ」

「なら『愛していない』ことにしようか。メンバーにも加わらなかったしね」

 即座の返しに歯噛みする。

 狼狽も戸惑いも予測できていたような対応ではないか。

 神通はヴェールヌイを無意識に睨む。

「好き勝手言わないでください」

 ここで反論しないようなら、それは敗北を認めるのと同意義だ。

 提督の善意を利用し、大勢で集い、押し掛けた艦娘たちの一人なんかに押し負けてたまるものか。

「ええ、愛していますとも! だから私は彼を慮ったのです! 我欲を優先したあなた達にどうこう言われる筋合いはありません。これが私の気持ちです、ヴェールヌイ!」

 ちゃんと言えられた――その達成感と誇りに己が昂る。

 そうだ、正しいのは私だ。断じてあなた達なんかじゃないっ!

 大和も長門も陸奥も金剛も榛名も赤城も加賀も翔鶴も瑞鶴も鈴谷も、ヴェールヌイも――矢矧も、誰もかれも全員が間違っている。

 誤った選択をしたのだ。

「可笑しなことを言うね」

 ここにきてヴェールヌイは初めて表情を変えた。

 顔を少しだけ斜めに、唇を少しだけ歪めて。

 ただ瞳ばかりは侮蔑してきていた。

 背筋に寒気。強大なる深海棲艦と相対した時と同じ戦慄が奔る。

 いったいなんなの、この駆逐艦は。

「真実。本当に司令官を慮っていたなら何故、本気で止めに来なかったんだい?」

 胸の内の昂りの炎が掻き消された。

 氷雪に生きる狼が如き鋭さと冷たさによって。

「は……? なにを言っているんですッ。私はちゃんと止めたでしょう!?」

「捏造はよくないな。〝無茶な要求はしないでくださいね〟――集った私たちに君が言ったのはこれだけだ。これ以上は何もない。ただの一言も言おうとしなかった。己が持つ力で艦娘を脅そうともしなければ、側にいて司令官を護ろうともしなかった。彼を説得することすら放棄した」

「……‼」

「あれが君の想いだというのなら随分と浅くて脆い想いだね」

「ちが、ちがいますっ。私はあなたたちを信頼していたからっ‼」

 分かってくれると、伝ってくれると、そう信じたから。

 自分が心中でどれだけ虚仮にしたのかも忘れて神通は弁解しようとする。

「ハッ……君の信頼と司令官への想い、どちらを優先すると?」

 ヴェールヌイは赦さない。

 どこの国の過去か、怪しき者は徹底的に粛清した処刑人のように追い詰める。

 中途半端な気持ちで彼を愛そうとするなんて断固として認めない。

 相応の覚悟をしてもらう。

「君が本気で止めていれば現状に至らなかった可能性は、僅かだとしてもあっただろうね。二水戦の華である艦娘『神通』の実力は侮れるものじゃない」

 白銀の番狼は静かに狩り立てる。

「神通、どうして止めようとしなかったんだ」

 ヴェールヌイの眼差しは零度も同然で神通を凍り付かせる。

 この駆逐艦は自分の想像を遥かに超える存在だった。氷の狼だ。コレに比べれば夕立と時雨は何と愛らしい子犬だろうか。

 この短時間の門答で既に神通の心は折れかかっていた。元より逼迫していた彼女の精神状態にヴェールヌイの言葉は鉄槌に等しかったのだ。

 肩を消沈させ、面を深く下げる姿は赦しを願う罪人に似ていすらいた。

「わかり、ません……私はただ、彼に綺麗なままでいてほしくて……」

 押しつけがましい。

 無言のままヴェールヌイは柳眉を逆立てる。

「教えてあげようか?」

 躊躇したあとに頷く――それが、自らに止めを刺すこととも分からずに。

 頬を鷲掴み、ヴェールヌイは迷わず叩き落した。

 奈落の底へと。

 

 

「司令官が別の女に触れられて■■する女なんだよ、君は」

 

 

 

 

 季節外れの寒さをもった夜を歩き、提督は軽巡洋艦の寮近くにまで来ていた。

 寮、と言ってもその大きさは破格だ。ちょっとした旅館くらいはあるだろうか。その分離れることになり、庁舎本館から歩くと時間がそれなりに必要となる距離にあった。

 腕に自信のあるエリート妖精たちによって幾度もの改装と改築が成された呉鎮守府の規模と設備は、他の鎮守府のソレとはちょっと比べられない。巨大な軍艦からヒトガタに……戦力たる者の縮小化と、人間の士官が一人としていないからスペースが大きく使えるのだ。

「東洋一と言われた鎮守府の名は伊達ではないか」と他の鎮守府から訪れてきた将兵たちには唸られ、着任してくる艦娘は「ここに本当に住んでいいんですか?」とオドオドしてしまう。

 姉妹で一部屋を使うのではなく、自分だけの部屋を持てるのは贅沢に過ぎると。

 それは、この鎮守府の成長を一時ではあるが、見届けた者としては誇らしかった。

(神通が一人部屋を望んだのはよかった)

 駆逐艦の教導役を務める彼女は出来る限り一人で過ごせる時間を求めた。

 各駆逐艦の状態を考え、それに合わせた訓練の内容と計画を建てるためだ。

 夜遅くまで起きているのは当たり前の生活。無理だけはしないで欲しいが、今夜ばかりは都合が合った。いや、合ってしまったというべきだろうか。

 提督は、彼自身――艦娘たちと肉体的な関係を持ってしまったことについては、悩むと同時に己を責めていた。

 単純に言うならば、彼は恩返しがしたかった。

 二十数年前の最初期こそ軍艦同等の戦闘能力を持つ艦娘を恐れる人は大勢いたが、今では感謝の手紙と共に贈り物を贈ってくれる方が多くなってきた。が、艦娘が人間を護るのは当然だと声高く主張する人間は少なからず残っており、そういう心ない者たちは艦娘の傷付いた姿を目の当たりにしても、怖気ついても労ったりはしない。

 その本質は恐怖からくる恐喝だ。

 提督は『提督』になるまでの人生の中で確かに見てきていた。

 人々を護ろうと戦う少女が、その護ろうとした存在によって摩耗し、砕け散った光景を。

 だからせめて、自分の部下の艦娘たちが望むことは余さず叶えるつもりであった。

(私は間違っていますか、三笠元帥)

 自分を育てた艦娘とは対極の考えに至らせた運命は、なんという皮肉者か。

 人々の為に己を潰し、部下の艦娘を切り捨て、肉親さえも犠牲にしてきたヒト。

 勝つために、護るために、ただひたすらに……。

 アレこそが全ての艦娘が目指すべき境地だと大本営の方々は語る。

 ヴェールヌイの時とは異なり自分から応じて艦娘を受け入れたことについて、彼女は「見損ないました」と静かに激昂しながら罵ってきた。

 彼女にしてみれば懇切丁寧に育ててきたのだ……失望するのも当然と云えば当然だろう。

 だが、後悔はしていない。

 自分は譲れても部下の艦娘だけは譲れない。

 必要とあらば無辜の民人も他の鎮守府の将兵も見捨てよう。

 そうするだけの理由が私にはある。

 穢れる覚悟は疾うに済ませている。

「はやかったね、司令官。今夜は金剛と過ごすかと思っていたよ」

 ――その覚悟がついているからこそ。

 たった今寮からでてきた腹心と対面しても、提督はいささかも動じなかった。

 金剛が調べを終わらせていたのだ。

 彼女より神通と近くにいる駆逐艦はもっと早くわかっていただろう。

 少し服装が乱れているように見えるヴェールヌイは、やはり抑揚のない声で「荒療治ではあるけど済ませておいた」と水気でも払うかのように両手を振りつつ言う。

「……釘は刺しておいたね。礼は言わないよ」

「うん、今回は私が独断でしたことだからね。罰を与えたいなら甘んじて受けるつもりさ。でも、後でだ。今は神通を慰めてあげるのが先決。まだ部屋にいるから早く行ってあげてほしい」

 手が届く距離にまで来たヴェールヌイからは、明らかに彼女のものではない少女の香りが匂った。記憶違いでなければ神通の匂いだろう。

「どうやってかは分からないけど。私が来ることは知っていたのか?」

「まさか、絶対に来ない日を選んだつもりだよ」

「何故こんなことを?」

「教導艦の神通の調子が悪かったら駆逐艦の子たちが困る――というのは建前だね。神通は現実を受け入れるべきだった。司令官が自分の思い通りの存在じゃなかった、ってことを」

「どこまで私と貴女の過去の話を?」

「〝司令官の初めての相手は目の前にいる駆逐艦だよ〟」

 どうやら、かなり危うい橋を渡ったらしい。

 理解した提督はそれから必要最小限に聞き出すと早足に歩き出した。

 寮の受付の妖精は「防音性が良すぎるのもちょっと考えものですねぇ」と細目で苦笑し、念のために鍵を渡してきた。

(つくづく学ばないな、私も)

 神通の部屋の前につく。そして特別焦っていない自分を虚仮にした。

 無邪気だった頃からそうだ。

 なぜこうも遅れてしまうのか、なぜタイミングが狂ってしまうのか。

 インターホンは鳴らさず、一度ドアノブを確認してみれば施錠されていなかった。

 少しだけ開くと身を滑り込ませる。後ろ手で鍵を閉める。

 室内は暗闇に飲み込まれていた。カーテンも閉められているらしく、月明りは僅かにしか差し込んでいない。ほぼ完全な暗中。

 ただ女特有の芳香が鼻につき、すすり泣く少女の嗚咽ばかりが耳に届く。

 軍靴を脱ぎ、提督は框を踏んだ。

 時間を要さずベッドの上で布団を被り、胎児のように丸まっている少女の側まで辿り着く。

 ベッドのシーツは乱れ――ただ、想定していた液体には濡れていなかった。

 神通は提督に気付いているのかいないのか、壁の方に躰を向けたまま泣き続ける。

「ヴェールヌイじゃない。私だよ、神通。提督だ」

 その声と言葉にビクンと少女が揺れる。

 暫くしてから、恐る恐る振り返った神通の瞳は涙で沈みそうであった。

 深く自身に被せた布団を握る手に力がこもる。

「提督ですか……?」

 首肯すれば安堵したような表情も束の間、見る見るうちに恐怖のソレに変わってしまう。

 瞳孔が広がり、過呼吸を起こしかける。

「私、提督……私は……私っ!」

 咄嗟に神通の頭と肩に手を遣った。

「大丈夫、大丈夫だから。落ち着いて息をして。話はそれからにしよう」

 やさしく語りかけ、少女が呼吸を取り戻すのをひた待った。

「……ヴェールヌイから話はあらかた聞いたよ」

「そう、です……か……」

「訊きたい事はたくさんあると思う。けど、まずは謝らせてくれ。――私の護衛艦が貴女に酷いことをしてしまってすまない」

 床に正座して頭を深く下げる。

 今この瞬間でも親愛している提督のそのような姿を目にした神通は慌てふためき、「お体を起こしてくださいっ!」と頼み込んだ。

「いいや。貴女が苦悩していたのも、ヴェールヌイがこんな行動を取ってしまったのも、元はと言えば私が原因だ。こうなってしまう可能性をちゃんと考慮すべきだったんだ」

 予測ができていても対処が不完全なら無意味だ。

「本当にすまない……すべては私の配慮のなさゆえに起こったことだ」

「そんな……こんな風になるなんて誰も考えません……」

 掠れた声で神通は呟き、今度こそ提督に躰を起こしてもらった。

 沈黙は長くはなかった。

「……あ、あの……質問をしても」

「遠慮なくして。余程のものじゃない限りは答えるつもりだ」

「今晩は金剛さんのはずでは……?」

「貴女が不調だと金剛本人に伝えられて、今夜だけは我慢してもらった」

「あの金剛さんが」

 提督LOVEを公言している艦娘が譲った。俄かには信じられない話だった。

「だから今夜を選んだんだろうね、ヴェールヌイも」

 なのに提督は来てしまった。

 タイミングがズレていたら最悪の展開になっていた――神通は背筋を固くした。

「提督とヴェールヌイは一体どういう関係なのですか」

 問いを剣呑に投げかける。

「あの娘は、あの駆逐艦は、貴方の初めての相手だと言いました」

 自分が知る提督の初めての艦娘と異なる。見過ごせない問題だ。

 だって、だとすれば貴方はいつからっ。

 神通は上官を見下ろし、何一つ見逃さぬまいと睨む。

「誰にも教えないと約束してくれ」

「……承知しました。この口が裂かれようとも話しません」

 頼むと目下の青年は念を押し、

「ヴェールヌイとは私が十歳からの付き合いになる。共に過ごした時間の長さは、記憶している限りの中では一番だ。……いや、きっとそうだろうね」

 少女の視線を受け止めたまま語り口を切った。

「その間、本当に色々なことがあったよ。幼い私は無邪気でね……自らの無知と無力さを思い知らされた。共に人類の守護者となろうと誓った艦娘たちが大勢いなくなった。みんな、とても良いヒトたちだった。私によくしてくれて、春の花見、夏の遊泳、秋の月見、冬の雪遊び。どれもこれも楽しかった。ヴェールヌイの雪だるまとかまくらは凄かったよ。十歳まで箱入りだった私は外に出る機会が殆どなかったからね。それはもう大はしゃぎで……懐かしいな」

 過去に思いを馳せる提督の面影は穏やかさと辛さが入り混じっていた。

「幼い私はずっとこの日々が続くと、根拠もなしに信じていた。どうしようもなく未熟だった。当たり前のように感じていた平穏な日々がどれほどの犠牲の下に成り立っているのかも知らないまま過ごした。……幸福な思い出を得た対価は支払わされたよ。

 やがては大切な艦娘を多く喪い、この世界の現実をようやく受け止めた私は憔悴した。毎日を空虚に過ごし、思考を放棄し、言われた事だけを淡々とこなす人形と化していた。その頃の記憶は曖昧だ。辛くて苦しくて、ロボットになろうとしていたんだろうね。感情がなければ苦しまないで済む。立ち向かわず、歯向かわず、望まれた事を成し続ければ……と」

「……」

「そんな私を現実に引き戻してくれたのが、生き残ってくれたヴェルだった。ヴェルは私の激情を引き出して受け止めた。散々に犯され、凄惨な姿にさせられたのに、正気に戻った私を見て『よかった』と言った。……ヴェルほど心が強い艦娘はいない」

 私がここにいるのは間違いなくヴェルのお陰だ――そう締めくくり、提督は口を閉じた。

 微動だにせず聞き届けた神通の面持ちは青褪めていた。

 本心としては今すぐにでもヴェールヌイに会い、土下座をしてでも謝りたかった。

 彼女がいなければ何もかもが失われ、この鎮守府での生活はありえなかったのだから。

 知らなかったでは済まされない。

 我欲を優先した――――?

 それは、ヴェールヌイだけには言ってはならなかった言葉ではなかったのか?

 神通は精神病を患った病人のように躰を掻き抱く。

 桜色の爪が根深く喰い込む。

「ヴェールヌイに酷いことを言ってしまいました……自分の欲を優先したなんて……」

 流れ落ちる涙は止めようがなかった。

 いっそのこと沈んでしまいたい――少女の心は擦り切れそうになっていた。

「ゆ、優先していたのは私なのに」

 ヒ、ヒ、ヒ、と阿呆みたいな笑いが漏れる。

 目蓋は眼球が零れ落ちそうなぐらいにまで開かれていた。

 頬を引き攣り、歯を剥いた顔は、人間に幽鬼と恐れられる形相だった。

 華の美貌は一枚たりとも残っていない。

「わた、わたし、ですねっ。貴方がっ、駆逐艦の子たちと触れ合っているのを眺めるのが、好きだったんです。曙ちゃんや初風ちゃんみたいな、あまり人と関わろうとしない子たちまで、懐いて、うれしくて、うれしくて……ずっと続いてほしくて、だから護ろうと……」

 

 

 ――――けれど、それは建前だったんです。

 

 

「私が護ると誓った本当の理由は、私自身が永く愉しみたかったから」

 声が震える。

 口が嗤うのを止めない。

「仲間に加わろうとせず、提督が艦娘と繋がるのを命懸けで止めようともしないで……この二週間、何をしていたと思います? 夜を過ごした艦娘から体位やら回数やら感想やらを聞き出していたんですよ、私ってば。赤城さんも、加賀さんも、榛名さんも、矢矧も、翔鶴さんも、瑞鶴さんも、鈴谷さんも……くふ、ふふふふうふふ、あははは……そんな時だけ強気で馬鹿みたいでした。なんで、あんなに熱心に確認したのか、さっきヴェールヌイに突きつけられて、やっと自覚しました。当然、認めたくなんてありませんが」

 告白する。

「そうです、そうなんです。提督ならもう答えが解りますよね?」

 毒を吐き出す。

 

 

 神通(私)は貴方が艦娘に犯されるのが堪らなかったの。

 

 

 ヴェールヌイが番狼なら――私は、いったいなんなの?

「綺麗な貴方が艦娘の欲望で穢れていっていると想うと、どうしようもなく躰が熱くなりました。頭がぼうっとして、息が苦しくて、このベッドに潜り込みました」

 抱いた感情は怒りではなく悦びだったのだ。

「特に翔鶴さんは凄かったそうですね。初めてなのに一晩中ですもの。白いのに存外、貪欲で吃驚しました。提督もよく枯れませんでしたね。いえむしろ、お二人とも艶々していましたか?」

 本人も自覚していないだろう挑発の言葉に青年は動じない。

 憐み、痛ましげに泣いている少女を見上げる。

 この期に及んでも彼は静けさを湛えたままだった。

 恐怖もなければ嫌悪もない。

 神通は奥歯を軋ませ、壁際に寄り両膝を抱えると頭を押しつける。

「こんな醜い女……いなくなってしまえばいいんです。どうぞ軽蔑してください」

「断じてしない」

 どうして、と返す前にベッドが僅かに沈んだ。

「自分の旗下の艦娘だけは何があっても見捨てるつもりはない」

 提督がすぐ近くに、逃れられない距離に。

「誰に責められようとも私の艦娘だけは護り抜いてみせる」

 執念と憎悪が深海色の瞳に浮かび上がり、鮮血の紅い色が混じった。

「誰かがいなくなるのは――もうたくさんだ」

 傷付いた子供のように、怒っているのに泣き出しそうな顔。

 狂おしいほどの愛情がそこにはあった。

「貴女が自分のことを歪んでいると言うなら、私だって歪んでいる」

 ああ、あぁ……提督、貴方という御方は。

 背徳感に酔い痴れていた私さえも離すつもりはないのですね。

 大切だと言ってくれるのですね。

 おかしい、おかしい、オカシイ。

 おかしなことです。だってそうではありませんか?

 私の両肩を掴んできた提督は明らかに尋常ではなかった。

 忌むべき仇敵の深海棲艦と酷似した憎悪が感じ取れる。

 常人なら、とてもではないが恐れることだろう。

 されど、このとき神通の胸中に芽生えたのは――海の底にも匹敵する深い悲哀だった。

 僅かながらではあるが、提督の過去の断片を本人の口から教えられた彼女は、水が細道を駆け抜けるかのように抵抗なく、尚且つ即座に受け止めることができたのだ。

 このヒトが私たちに尽くそうとするのは、完全なる慈善からきたものじゃなかった。

 負の感情の濁りが奥底に溜まっていたのだ。

 このヒトは自分の艦娘を護ることに憑りつかれている。

 水面上があまりにも献身的すぎて見抜けなかった。

 秘されていた真実の果実の苦さに、神通は正気を取り戻していく。

 誰に責められようとも――声低く提督はそう口にした。

(この鎮守府に貴方以外に士官が……人間がいないのは〝そういうこと〟ですか?)

 深海棲艦によっていなくなった、とは言っていない。

 過去にどんな悲劇を味あわせられたのか。

「……浅慮でした。提督の前でいなくなりたいだなんて」

「理由は違えど私にも経験はあるから、気持ちはよくわかる」

「……最後に一つだけ、教えてもらいたいことがあります」

 対等の目線になった二人。

 どんな状況でもしてはらないだろう問いを少女は投げかけた。

「川内型二番艦『神通』は貴方を悲しませたことがありますか?」

 最低最悪の質問。

 でも、これだけは確認しておきたかった。

 この瞬間に訊けなかったら、もう二度と訊けないような気がしたから。

 神通の真意を汲み取った提督は答えを返す。

 安らかに、けれど断固として。

「ない」

 湧き上がった感情が『安堵』だったことに神通は安堵した。

 そこまで堕ちてはいなかった――頬を一筋の光が伝っていく。

 それを最後にしようと少女は懸命に笑う。

 華のように儚く、触れれば散ってしまいそうな微笑みだった。

「ずっと……」

 否、と自分から進んで彼の顔に両手を伸ばす。

「ずっと、お慕いしておりました」

 少女はやっと自分の想いを伝えられた。

 互いの歪みを是として受け入れた二人に、これ以上の言葉は必要なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 初めてのキスは涙の味で永遠のように感じられた。

 自分からしたのはいいけれど、いつ離れたらいいのか予測できなくて、躊躇していることを悟った彼が先に引いてくれた。

 ふぁ、と掠れた吐息のあとに神通は頽れてしまう。

 身体を預けた提督の胸板から聴こえてくる心臓の音が心地良い。

「……きゅぅぅ……」

 けれど安心してばかりもいられない。

 夜伽は始まったばかりなのだ。なのにたった一度の接吻でこの有り様では、彼の男性器を迎え入れるまでには朝を迎えていそうだった。

(だ、男性器……男根、ペニス、肉棒……)

 言葉の連想に神通は顔をザクロの色に沸騰させた。

 夜な夜な愛するヒトが他の女に犯されている場面を妄想し、あまつさえ聞き出していたような少女である。実際に見て触れた経験がなくとも、頭の中に正確な形をイメージするのは艤装を装備するのも同然の容易さであった。

 しかも視線は丁度、提督の股を見られる位置にあるものだから、余計に。

「存外むっつりなんだね」

 耳朶に囁かれた声にはからかいの色。

 咄嗟に顔を上げたが、事実だから弁解も否定もしようがない。

 幾度か空気を咬むと可憐な唇は噤んでしまった。

 頭の天辺から足の爪先まで羞恥心でいっぱいにされる。

 もうどうにもならなくて、八つ当たりにキスをしようとしたら先にされた。

「提督っんぅぅっっ」

 端から端まで覆われた、と感じた刹那の後には離れ、今度は別の角度から合わせられる。

 何人もの艦娘と触れ合った唇はその分だけ熟れているのか、甘く柔らかかった。

 さり気なく後ろ髪、背中、腰を撫でてくる手は温かくて優しい。

 長針が二度回る頃には神通の、きつく閉じられていた瞼は緩み、強張っていた四肢は程よく弛緩し、街を歩けば十人が十人とも振り返るであろう和の美貌を誇る顔は、どうしようもなく蕩けセックスの快楽への期待に恍惚としていた。

「あふ、ふぁ……キスって、……素晴らしいですね。あぁ癖になってしまいそうです……」

 一度滲み込んでしまえば後は流れるままに。

「ちゅぷ、んくっ、はあっ。ふ、あぅっんんっうぅ、んぷっ、ぢゅぅ……」

 互いの唇を啄む官能的な性感を愉しみ、口の中に舌を差し入れると形をなぞるように絡み合わせる。整列とした歯茎を舐め、滑らかな頬の内側を擦り、次から次へと湧き出る唾液を交換する。味わい、喉の奥に流し込む。

「じゅうぅっ、ちゅ……はぷじゅぷぷっ……はっ、あっは……とてもいいです……」

 こちらの背中に両手を回して抱きつき、更に神通が積極的になり求めてくるようになると、提督は片手を伸ばした。 寝間着の上から乳房に手の平を乗せる。

「どうぞ。お好きなように弄ってください」

 瞳を潤ませた少女は悩ましい吐息と一緒に躰を押しつける。

 その分だけ提督の五指が沈み込み、乳房は柔らかさを主張してきた。

たゆまぬ訓練によって引き締まった躰をしている神通だが、女性的なふくよかさがない訳ではなかった。むしろ、艦娘の中でも育っている方と言えるだろう。提督の手が男性としては小さめであることを差し引いても神通の胸は張りがあり、よく実っていた。

(提督の触り方、いやらしいです……)

 夜伽なのだから当たり前。至極当然のことなのに。

 いつの日も正しく在ろうとした提督が本当は手練だった。

 何時の間にか右だけじゃなく左も……迷いのない手慣れた手つきで愛撫してくれている。

 殊更に意識して我慢しないと無様な悲鳴が出そうになる。

 このヒトは異性を性的に悦ばせる手段を、鳴かせる方法を熟知していた。その認識が神通を昂らせ、はやくも両胸の頭頂部を尖らせる。その姿は寝間着の上からでも窺えた。

「直接、触って……」

「いいのかい」

「大丈夫ですっ」

 恥ずかしがりながらも頼み、提督はやはり慣れた風にボタンを上から外すと脱がした。次にシンプルなデザインのブラジャーのホックも、あっさりと解いてみせた。

 白百合のように汚れなく、そして白皙の肌が淡い月光の下に露わになる。

 愛する男性の視線に晒されて、もうこれ以上はないと想えるような恥ずかしさに襲われる。思わず両腕で胸部を隠しそうになるが、『触って欲しい』と頼んだのにそれをするのは駄目だとギリギリのところで押し留まれた。

「ほ、他の方と比べると見劣りするでしょうが……」

 胸に限っては自分よりも大きい艦娘が多く先に交わっている。流石にまじまじと確認したことはないが、女としての魅力が劣っている可能性は充分に考えられるだろう。

「そんなことはない、綺麗だ」

 強い語調にはならず、あくまで穏やかに。

「不器用だから上手には言えないけれど。貴女には貴女だけの魅力があるよ、神通」

 ずるい言葉だと思った。

 誰にだって告げられる便利な言葉じゃないですか、って。

でも、絢爛に飾られている台詞を口にされるよりはずっとよかった。

 ベッドに横になると提督は真上まで来て、神通は迎え入れるように両手で抱く。

「んっく!……んっ、あぁ、あっ、やぁ……あっっ!」

 上を向いたままの乳房の側面を手の平で寄せて上げると、親指と人差し指でやや赤が強い乳首をコリコリと摘む。電流じみた刺激に神通は首を横にそらす。嬌声を必死に噛み殺そうとするも、丁寧で優しい愛撫は我慢を忘れさせようとしてくる。

「巧くできてるかな」

 しかも――反応をみれば一目瞭然なのに――不安そうな、気遣うような言葉を注いでくる。

 これは演技なのか素なのか、どちらにしても、神通は顔を向けるしかなかった。

「い、いいですっからぁ……!」

 知らない、しらない、こんなのは全くシラナイ。

 どんなに昂った時の自慰でもなかった。

 多幸感で心さえも浮き上がるような感覚……一度だって体験した事はない。

 提督の愛撫がこんなにも幸せなものだったなんて知らなかった。

 どうりで全員が深みに嵌ってしまうはずだ。

 理性を蒸発させて本能の赴くままに求めてしまうはずだ。

 神通本人も溺れそうになっていた。

「ひっぃあぁぁっ!」

 豊かな双丘を強く掴まれ、痛いくらいに硬くなった乳首が擦り潰されて、首筋に唇を当てられると感極まった甘声をあげる。

 快感の高まりが頂点に達し、背中が弓のようにしなりそうになる。

提督の頭を掻き抱き、弾けた意識を集めることに躍起になった。そうでもしなければ気絶しそうだった。

「きもち、よかったです……はぁあ……こんなによかったの、初めてでした……」

 首筋に吹きかけられる狗のように荒々しい息が鎮まるのを待っていると、神通は途切れ途切れに言い、くたりと両手をシーツに投げる。

 拘束から解放された提督は少女の乱れた髪を指で梳いた。

「考えていたより少し敏感だね」

「んく……やっぱり私は……淫乱なんですね……」

「自分を貶めない。まだ慣れていないだけだよ。これから慣れていけばいい」

 後ろに下がると乳房に顔を近づける。

 真っ赤に充血した二つの頂点部が物欲しげに微動した。実際には新たな快感への期待に神通が身悶えたからなのだが。羞恥心は大分なくなってきたらしい。

「ひゃうんッ」

 キスを繰り返され、唾液にぬめった舌先に舐められたかと思えば咥内に含まれた。唇で締められ、軽く引っ張られる。残った片方も忘れない。五指を大きく開いて鷲掴みながら揉み、甘味なる刺激を与え続ける。まるで搾乳されているようだった。

「くんんっ、ど、どっちもいいです……や、っ、んぅ、ふあぁっ……うぅんッ」

 眼の奥でパチパチと光が点滅した。けれど今度は達さず耐える。提督が自身の乳房と乳首を弄っている光景をしっかりと視界に映す。

(提督が私の胸に顔を埋めて……あんなにも熱心に)

 彼の手に圧力をかけられた自分の胸が歪んでいる。少しだけざらつきのある湿った舌が乳輪をなぞり、汗ではない液体で光沢を帯びた蕾をさらに吸われる。

 愛されたところは異様に熱くなって「もっとして」とねだるようにジンジン疼く。

 釘付けになる。眼が逸らせなくなる。抗いようもなく魅入られる。

 与えられる快楽を甘受して、素直に反応しながらも、うっとりとした表情になった。

 時間を掛け、満遍なく二つの果実を堪能されると次は下半身に手が向けられた。

 惜しむ気持ちと悦びの気持ちは半々。

 祈る乙女のように閉じられていた太股がゆっくり開かれる。

 心身を灼く羞恥の炎が燃え盛る。だが止める術を知らない少女は、青年の指が両脚の間に到達しても拒まなかった。

「あぁっ……」

 そこは花弁から溢れた蜜で濡れていた。ショーツに滴るほどではなかったが、下の寝間着は明らかに湿り、秘所は男根を受け入れる準備を済ませているようだった。

 言われる前に神通は腰を上げた。提督が脱がしやすいように。

 衣擦れの音はあまりなかった。だが、白いショーツが脱がされる時に粘着いた糸が秘所から引いてしまっていて、むやみやたらに暴れたくなった。

「ちゅぅ、っんふ、ちゅく、れろっんっんっぅ……」

 その衝動も口付けの一つや二つで霧散させられ、つくづく、このヒトは純粋でありながら魔性の一面も持ち合わせているのだと思い知らされる。

「み、みないで、ください、ぃぃ……」

 提督はもう花弁に指先を忍び込ませている。とろとろと蜜を垂らす淫裂に這わせ、開き、浅く侵入させると指の腹で壁を擦っていた。

 ただ、視線は神通の顔に固定したままだ。悪意はなく「ちゃんとよくしてあげるから」と囁いてくる。そして愛撫に喘ぎ、震えたりしたら「かわいい」と言ってくる。

 嬉しい。すごく嬉しい。こんな醜い女を可愛いと褒めてくれる提督が愛しい。

「わたし、あっぁあ……んぅっ、かお、へんになって……なってますからぁ」

 でも、恥かしくて、恥ずかしくて、火が出てしまいそうで。

 締まりのない顔になっているのに。涙と汗と涎で汚れているのに。

 指どころか提督の手首まで穢してしまい、酸素を求める魚のように口が開き閉じて。

「は、か、くぁっ……んひぅぅあぁっ……」

 人差し指と中指の二本が狭い膣道を押し上げ、自己主張をし始めていた秘所の突起を軽く潰された。その、針のような鋭い刺激に透明な飛沫が弾けて飛ぶ。神通の鋭利な聴覚はそれがショーツに当たる音を確かに聞き届け、背中から四肢へと力なく脱力した。

 惚けて天井を見上げる華の少女。潤った花弁は弄られる前まではぴったりと閉じられていたものの、今では僅かとはいえ開き、男を誘う女の香りを芳醇に匂わせていた。童貞、あるいは性交の経験の薄い雄ではむしゃぶりつかれていただろう。

 青年はごくりと生唾を飲み込むような愚挙も犯さない。手順を誤らない。

二十年と余りしか生きていない若輩者だが、積み重ねた夜伽は最早並ではないのだ。

 それが望んでいなかったものにしろ、望んでいたものにしても、経験は蓄積されてしまった。故に喩え初々しい処女であっても。

 提督は夜の海の静けさを湛えたまま少女の求めに応じる。

 浜辺に寄せる小波が少しずつ砂を攫っていくように、ゆっくりと時間を費やして。

 口付けを欲しがられたら唇だけでなく舌も絡ませる。

 そしてツンと上向いた乳房や、汗で濡れた臀部や、性感を欲しがるクレバスを。

 時には美しく通った鼠蹊部を、背中まである髪を、肉付きの悪くない太股とを。

 上での交わりが疎かになってしまったり、妨げにならない加減で愛撫する。

 温めるように全身を隈なく欲情させていく。

「提督……好きです、愛しています……神通は貴方が」

 少女は可愛らしい嬌声を思うままに上げ、華の微笑みを咲かせる。

「伝わっている。私は貴女に愛されている。……嬉しい、ありがとう」

「あぁっ……私もです……」

 互いの顔も近くに睦言を贈り合う。

 提督は服を脱いだ。神通と同じく裸体になる。

 筋骨隆々であるべき軍人には似つかわしくない、細く柔軟そうな肢体が露わにされる。少女同然に白い肉体は男としては頼りなさげに思えても、その実――俄かには信じがたい体力と精力を持っていることを神通は知っている。

『彼……えっと。と、とにかく、すごかったわ』

 朋友の赤らんだ声が脳裏を掠める。

 気丈で乱れることのない彼女が、もみ上げをクルクルと指に巻いて惚気ていた。

 人間より何倍にも何十倍にも頑丈な艦娘が腰を抜かしてしまうほどなのだ。

 克明に既知でいる、妄想してしまっている――頭の中が溶けてしまいそうだった。

 躰も心も蕩け切っている処女は、六寸以上は優にあるであろう逸物を見ても、生理的恐怖を覚えなかった。赤黒いモノは存在を象徴するように腹にまで反り返っていた。

(あれが提督の……皆さんが言っていた通りです。なんて雄々しく、逞しいんでしょう……)

ちゃんと入るのか、どれだけ痛いのか。そういう初心な心配は掻き消されていた。

 はやく挿入されて気持ち良くなりたい。

 愛するヒトの逸物を受け入れて、自分の中で気持ち良くしてあげたい。

 我を捨てて提督と夢中に愛し合いたい。

 今の神通にはそれしか考えられなかった。

「一息に、一気に入れてっ。構いませんからっ。欲しいんですっ。あそこが疼くんですっ。だから……提督の立派なおち○ち○を神通に捻じ込んでっ!」 

 花弁に雄の象徴が添えられると我慢できずに懇願した。

 次の瞬間――少女の痴態に先走りを垂らしていた肉棒が、凶悪な硬さと長さと熱さで貫かんとする。処女膜を容赦なく破り、膣道を割り開き、願いの通りに子宮口まで到達する。

「んあぅっあ゛あ゛あ゛あ゛――――あひぁっああぁあッ!?」

 ゴリュ、と歪な音がお腹の奥からしたと思ったら、激しく絶頂させられていた。

 破瓜の鮮血が流れ出るよりも前に、潮が提督の腹部に飛び散る。

 あっさりと初めてを奪い去った征服者に膣は困惑したのかビクビクと震え……子を孕むには上々に過ぎる精悍な雄だと解るや否や、我先にと絡みついて締め付けた。

 まるで、他の雌たちに先を越された分の遅れを取り戻さんと言わんばかりに。

 愛おしそうに囲い込み、されど、狂ったようにキツく縛り上げる。

「うそ……な、に、これ……指と、全然ちがっ…………」

 強めの突き込みだったとはいえ、挿れられただけで容易くイカされてしまった。

 膣内を入口から最奥に至るまで完全に満たした肉棒の存在は圧倒的すぎて、背中が突っ張り、大きく開いた口の端からは唾液が滑り落ちる。

「――ごめんね。少し、我慢できなかった」

 柔らかさは乳房とまではいかなくとも、上等な絹にも勝る触り心地の太腿を、裏側から抱え込んでいる提督は小さく詫びた。

「だ、大丈夫です……痛くはありませんから……」

 念入りに愛撫されたからか、それとも艦娘が持つ痛みへの耐性からか。

 深々と秘肉を貫かれても泣き叫ぶようなことはなかった。

「本当に、全部……入ってるんですね」

 腰が当たっている感触はあるから見なくても分かる事だったが、根本まで差し込まれているのをちゃんと確認すると 無意識の内に力が加えられた。

 当然、提督にもそれが伝わる。

「もう慣れてきた?」

「どちらの『もう』です……?」

「心配しているほうだよ」

「…………なら、私の躰は大丈夫です」

 動かれても構いませんから、と甘えた声で誘い細首に両手を遣った。

 己を捕えてきた両腕に眼差しを数秒だけ移し、提督は腰をゆっくりと引いていく。

 精液を出さないまま去ろうとする肉棒を膣は引っ張ってくるが、構わない。

 今度は最初のようにではなく静かに沈みこませる。

「んっ……ふっ……はっあ、ふぁ……」

 絶頂の余韻がまだ微かに残っているのだろう。

 亀頭の出っ張りに膣壁の細かな粒を擦られると、鼻にかかった喘ぎが。

 痛みがないと言ったのは痩せ我慢ではないらしい。……そこまで手心は必要ではなさそうだった。むしろ、このままゆっくりとしていては神通が先に物足りなくなるだろう。

 提督は前傾になると太腿を抱え直し、ズチュズチュと音の鳴る抽迭をし始めた。全力ではないが、神通は子宮口まで侵してくる逸物の打突に表情を歪める。

「はふんっあふぁ、んあ゛っあ゛く゛ぅっ! はっ、はっ、はぁんっ、んんぅっ!」

 苦悶ではない。興奮と悦楽ばかりが占めていた。

 煮え滾るように疼いている膣内を突かれ、擦られ、引っ掻かれるのが嬉しいのだ。提督も、たっぷりと愛液が溢れている蜜壺を抜き差しするのは、我慢し難い快感があった。

 うっかり気を抜いてしまえば吸い取られる――だが、射精してしまいたい。自分の女にしてしまいたい。雌を孕ませるという雄の欲求に従ってしまいそうだった。

 彼とて一人の男である。神通の『愛するヒトが他の同性と交わることに興奮する』性癖は毒薬であると同時に麻薬だ。脳裏に張り付き、思考を危うい方向に向かわせようとする。

「うふふ、提督のおち○ち○イイっ。おち○ぽ気持ちいいですっ。もうっ、もうっ。なんでこんなにいいんですかぁ。反則です、卑怯です。けど……最高ですっ。あはっ、んはあぁぁ! 硬くて太い先っぽが子宮口にゴツゴツ当たってぇッ……!!」

 自分は何人もの艦娘に求められて抱いた。恐らくはこれからも抱くのだろう。

 言葉で、両手で、唇で、心身共に使えるものは全て使って。

 今この瞬間――神通を女の快楽に咽び悦ばせている肉棒も間違いなく利用する。

 明日の夜には、神通を犯したコレで金剛を犯すことになっているのだから。

 背筋を覆う寒気に、まずい、と思ったときには遅かった。手遅れになっていた。

 潜んでいた獣性が刺激されて抽迭が激しくなる。

「はんう゛っあ゛あ゛あ゛ぁ゛っ! そんな、ま、まだ強くなって……っ。こんなにされたら、わたし何度でもイってしまって、はぁぁぁん!」

 雌の蜜の味に歓喜するように逸物は成長し、膣道が呼応したかのようにざわつく。精液を受け止める子宮はピンクの口を少しずつ開き、射精されるのを焦がれていた。

 そうしてふと、まぐわいに酔い乱れながらも神通は察知した。

「提督のどんどん膨らんできてます……そろそろ私の中に出したいんですね……? そうなんですね? 思いっきり精液で種付けしたいのですよねッ!?」

 今はまだ孕めない躰だが、互いの情欲を高めようと敢えて強調する少女。

 果たして効は奏した。

餓えに苦しむ狼のような唸り声が青年から発せられる。おおよそ、耳にしたことのないものだった。艦娘の話にもなかった。が、怖くはない。少女は頬を朱くして息を荒ぶかせる。

 甘い言葉を紡ぐ唇、上下にふるふると揺さぶられる乳房、くびれた胴体と臍。

 そして子宮を奥に収めているであろう、なだらかな腹部。

 提督は視線を彷徨わせ、しばらく迷ったうちにソコを強く睨んだ。

「もう、私だめですっ。大きいのが……! 果てて、しまいそうです……はやく提督もぉ……!」

 白濁とした欲望を可憐な身体にぶち撒けるのもそそられるが、一回は胎内に出しておかないと気が済まない。染め上げるのは中からだ。外はあとでいい。

 第一、そもそも……どうせ一回の絶頂では私も神通も治まらないのだ。

 長く悩む必要がどこにあろうか。

「ああ出すよ、神通ッ! 貴女の子宮に射精してあげるからッ!!」

「うれしい……! きて、きてください。いっぱい出してくださいっ。私が全部受け止めますから! 今夜は他の艦娘じゃなくてっ……神通が提督の子種を!」

 今ここにいる提督だけは誰にも譲らない。

 私のものだ、私の愛しい彼だ、私だけを愛してくれる男だ。

 渡すものか、離してなるものか。……絶対に逃がすものですか。

 私の歪んだ想いを受け止めてくれたヒトを力いっぱい引き寄せる。

 汗まみれの肢体が密着して顔が近づき、互いに示し合わせなくても唇を深く重ねた。

 破裂しそうなくらい膨張した逸物が子宮口をゴリュッと押し上げ……亀頭が赤子を育てる胎内に捻じ込まれる。ついに最奥を超えられてしまったのだ。

 神通は歓喜に打ち震え多量の潮を噴き、提督も濃縮された白濁の迸りを流し込むのを開始した。肉棒を杭に見立て、上からベッドに少女を抑えつけながら。

「ん゛ん゛ぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ~~!!」

 みっちりと根本まで残さず沈められた雄肉が力強く脈打つ。その度に精液の塊が子宮内に放出される。到底飲み込み切れる量ではないが、出口が亀頭で封じられてしまっている以上、子宮は飲み干す他になかった。

(まだこんなに出て……ひ、あ、アァ……せーえき、あついです)

子袋が無理矢理に拡張される。白い精子が泳ぎ回る。人間の少女であったら危険日でなくとも確実に孕まされるだろう。そう思ってしまうほどに射精は恐ろしく長く続いた。

 亀頭が膣道に戻ると程なくして、蜜と混ざった精液が花弁から流出してきた。破瓜の鮮血は痕跡さえも窺えない。たった一度目にして一人の女として作り変えられていた。

 提督専用の愛玩艦娘に。二水戦の華の私が散らされた。

「ねえ神通――私の声が聴こえる?」

 魔性の魅力を発露している赤眼の獣がやさしく耳元で。

 耳朶をくすぐる吐息すら甘く愛おしく感じられてならない。

「……はぁい」

 多幸感に満ち溢れた表情。

 飽くなき本能に従って神通は提督との更なる悦楽を素直に求める。

 だって中のアレはまだまだ元気なのだから。期待してもいいですよね?

「神通はまだ火照っています……どうか鎮めてもらえませんか、提督」

 返事の代わりに冷たく無機質な壁に躰を向けさせられた。

 四つん這いではなく縋りつくような体勢。向ける横顔は堕落した乙女が浮かべるのに相応しい扇情さと淫靡さを誇っていた。眼差しだけでも雄の獣欲を燃え上がらせる。

 覚悟しておいて――そう宣告すると再び蜜壺の奥底に逸物を叩きつけた。

「はあぁぁぁぁぁぁん゛っ!! て、提督のおちんちんまた来ましたぁ……!」

 然時間を置かず戻ってきてくれた雄を膣は歓迎する。

 何度も出し入れされ、こなれた淫肉はどこが感じやすいのかを探るように擦り寄る。ただ締めつけるばかりではなく、献身的に奉仕しようとしていた。少しでも夢中にさせる為であり、また自身の味を覚えさせ次の夜を確約させる為にだ。

「きもちいい、いいっ、いいっ、提督ぅ!」

 なにせ、この雄は他の雌を多く味わっていることが間違いないのだから。

 遅れは取り戻す必要がある。有りっ丈の熱情を伝えて虜にしなければならない。

 微細な壁の一枚一枚まで適応させ、僅かな隙間もなく絡めとる。大きく張った亀頭の先走り汁を貪欲に舐め取り、奥に貯蔵されている精液を求める。

 そしてそれは順調に進んでいた。

「あ゛ひぃぃあっ、あンっ。強いっ、です。亀頭、太くなってるッ」

 提督は神通の豊かな乳房を掴み、餅を捏ねる要領で揉み回して下腹部をぶつけている。

 進んで押し当ててくる臀部との衝突の際に発せられる音は水気を多分に含み、暗闇の室内に高らかに響き渡る。それが抽迭の激しさを物語っていた。

 まだ二度目という事実を考慮せず、提督は神通を犯し続ける。

「あ゛っあ゛っうぅんっ! はうぁあぁぁ!」

 口角から涎を飛ばし、目尻が垂れ下がった瞳からは涙を散らし、快楽に耐えかねて乱れる茶色の髪は汗の粒と芳香を振り撒く。

「だめ、だめですっ。そ、そこは敏感って……! 乳首もそんなに摘ままな、んんっ、ひああっ! くうぅ! わ、わかりましたからぁ! もう激しくしないでください……!」

 言葉ばかりの抵抗をして甘美な快感を堪能する。

 無造作で暴力的な抜き差しを繰り返しているようだが、提督は神通の弱いところを把握しつつあった。膣にしても乳房にしても弱点を見つけ出し、微妙な緩急をつけて重点的に愛撫する。上等なベッドのスプリングを利用して叩き上げる。

「んっ、んっ、はっ、あ、ああっ、あっあんぅ……くぅぅっ」

 逸物に子宮を打ち拉がれ、ついに両手から力が抜ける。

ずり落ちそうになる神通を提督は片手を差し向ける。少女の両手をまとめ、その上に己の手を重ねることで押し留めた。もう一方の腕は腰に回し、挿れる度にぐっぐっと引き寄せる。

「んはっ! ひあ、あァ……や、イく、これすきっ! だいすきですっ、んひゃぁ!」

 磔刑に近い体勢だった。提督に磔にされている……捕まえられてる。

 きゅうぅ、と熟れた雌肉が急激に狭まった。

 幾度目のかの強烈な収縮にとうとう青年も堪えが利かなくなったようで、ラストスパートに入っていく。前後に腰を熱烈に動かして射精感を高める。滾る愚息に精液を充填させる。

 根底より沸き立つどす黒い衝動に全身を任せる。

「中を締めて神通っ。私の精液を出すからっ……孕むくらい射精してやるッ!!」

 喉から迫り上げる唸りはケモノのそれ。

 子を孕ませ産ませ、増やさんとする狗の律動を絶え間なく繰り返し、命令された神通が万力機具を想起させる押し潰すような締め付けてで肉棒を包めば――

「あひぁあ゛っ、あ゛っん゛あぁぁあぁぁぁ! せ、精液でてる……っっ!」

 二度目の種付けを行う。一度目よりも尚のこと量と勢いを増した射精だった。窮屈な膣壁に構わず収縮する逸物は子宮内に侵入を果たしており、ドロドロの精液を噴出している。絶頂を迎え、これ以上ない雄の熱の塊を注ぎ込まれる雌穴が法悦に震える。

 だが、提督は全部を膣内で出すつもりはなかった。最後に胎内に一射すればズルりと引き抜き、臀部の谷間に擦りつけながら白濁液を出す。自分の雌だと誇示するにおい付けであった。

 マーキング行為に背中が波打ち、口付けが無性に欲しくなり、振り向いてねだる。

「唇にも……。はぁん、んちゅ、ちゅぷ、はふ、ちゅぅ……んふぅっ」

 咥内を貪りあう合間に肉棒へと手を伸ばし、下から上に撫でると残滓が滲み出てきた。

「もう一度……いえ、それじゃあ足りませんよね。でしたら何度でも交わりましょう。もっと深く、もっと熱くなりたいです。貴方と一緒に……ふふっ愉しみですね……てーとく」

 私の想いはこの程度じゃあないんだから。

 華の乙女は淫靡に微笑んだ。そうして望むままに二人は交わる。

 満月の青白い月明りにうっすら照らされながら、ケダモノのように……。

 

 

 獣に変容した者たちの交配が終わりを迎えたのは夜の帳がだんだんと薄れていく時合。

 誰の話にも出てこなかった狂暴な提督からようやく解放された神通は、膝立ちの彼の股間に顔を近づけ、丁寧に、念入りに、名残惜しむように肉棒を咥えていた。

 すごかった……。

 何度続けられたか記憶していない。いや、できなかったというのが正しかった。野太い逸物に幾度となく気を遣り、善がり狂わされたのだから。驚愕もあるが歓喜のほうが断然大きい。

 パンッパンッと倒錯的で間髪置かない後背位、上下にガクガク揺さぶられる騎乗位、片足を持ち上げられての松葉くずし……あれは本当に深いところまで来られておかしくなりそうだった。

 ほんの一夜だけで夜伽の多種多様な体位を味わった。

 当然ながら下の口のみならず上の口での奉仕も教え込まれた。

「はぁっ、じゅるる……ずずっんぷ、じゅぅ、ぢゅぅ……れろぉ……ふんんぅん」

 喉奥に当たるまで飲み込んでも苦しげな様子にはならない。どちらかといえば喜んでいた。最初は強く吸って肉竿全体を綺麗にし、あとから舌端を尿道に差し込み掘る。

 目を瞑って最後の最後まで味わい、口の外にゆっくりと出す。

 ビクン、と温かな粘膜に包まれていた逸物が外気に放り出され、何度か跳ねた。

 子供がごねるような様子を愛おしく想い、神通は亀頭に口付ける

「汚れちゃいましたね」

 子宮はもちろん、身体のあらゆる部分に大量の雄汁をぶち撒けられたのだ。

 提督に抱きしめられているのと似た充足感があるけれど、流石にこのままでいる事はできない。夜伽は終わり、これから朝を迎えるのだ。ひとまずは正しい姿に戻らないといけないだろう。

「提督……私もメンバーに加わってもいいですよね?」

 心ゆくまで交尾をしたヒトに神通は寄り添う。

 小さな頭を引き寄せ、鼻梁を擦り当て髪に接吻をする提督。

 これが返答だと神通は慎んで受け取る。

「私は貴方のものです……いなくなりませんからね」

 曝け出された獣性は新たな雌を確保したことで満足したのか鳴りをひそめ、理性を宿した瞳は深海色に戻っている。

 ゆったりとした二人だけの時が流れる。聞こえるのは互いの浅い呼吸だけ。

 神通は幸福と同時に後悔の念を覚える。

 こんなにも素晴らしい悦びを取り逃がしかけていたなんて。

(勿体ないことをしていました)

 心中の動きを苦もなく見透かした提督は口を開く。

 

 

 

 

 三十分と少しが経過した後――ベッドの上から二人の姿はなくなっていた。

 部屋の備え付けのバスルームに行ったのだ。硝子戸は閉められており、中の様子は窺えない。が、内側でいったい何が行われているのかは〝音〟で凡そ察しがつくだろう。

 よくよく耳を澄ましてみれば聴こえてくる。

 汚れた身体を洗うだけには長い時間をどう過ごしていたのかが。

「ぁは……てい、と……ぁ……ぁっ、も……きっ……てっ」

 少女の高らかな嬌声……。

 硬い肉が軟らかい肉を打ち付ける濁音……。

 限界まで強く設定したシャワーでも掻き消されていない、生々しい性交の音。

「あ、あ、あ、あ……ん、むぅ……っあっ、はぁ」

 神通を軽々と持ち上げた提督は抱きかかえたまま壁際に追いやっていた。

 正面から抱き、胸と胸を合わせて、豪雨のように降りかかる温水を浴びながら。

 子宮へ既に一回程度は射精してしまったのか、新鮮な精液が刺突される度に飛び出ている。それは温水に流され、排水口が黙々と底知らずに処理する。

 あまり残されていない時間、ここは汚れてもいい場所だという認識が二人のタガを外す。

 神通は長い脚を腰に絡め、提督は全身の筋肉を使い剛直をストロークさせる。

 より深く、より強く――天井知らずに高め合う。

 何人の侵入もない愛の巣で情欲を交わし放つ。

 

 

 

 

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