※この作品はR-18です。

運命のシナリオ   作:薔薇大書館の管理人

10 / 122
 誰でもそういう時はあるさ。


訪問の知らせ

 

 

 

 

 あの事件から一か月後、無事に誠斗の減俸も終わり、気楽な毎日を椿は送っていた。しかし、華族の御令嬢である椿にはやらないといけない事がたくさんある。礼儀作法、マナー、異国語の勉強、教養、生け花、茶道、舞に伝統的な龍笛の稽古がこの屋敷での椿の日課だった。だからこうも詰め込まれてくると、嫌気が差してくる訳で…。

 

 

 「もう、嫌!! こんなにびっしり稽古ばかりしてたら身が持たないわ!休憩させてくれてもいいはずなのに、全然させてくれないし! 外の空気を吸いにも行けないなんてありえないわ!」

 

 

 今まさに、溜めてきた不満が我慢の限界を超え、一気に鬱憤を放出していた。それを護衛のためにそばで見守る誠斗は椿には聞こえないようにそっと溜息を吐き、『またか…。』と今日だけで何度目になるかの突っ込みを心の内でした。

 さっきから家庭教師として招いている教授や専門家が稽古のための入れ替わりをしているほんの数分間の二人だけのこの時間の時だけこんな感じだ。さすがに見飽きたというか、面倒くさくなり誠斗が椿に話しかける。

 

 

 「椿お嬢様、さっきからやっているそれ、やめてもらってもいいっすか?

  見てるこっちは気落ちする一方ですよ。」

 

 

 誠斗の言葉を耳に入れ、キィッと視線を誠斗に向けて睨みつけてくるが、誠斗から見ればウサギが頑張って睨みつけているようなもので、可愛いという言葉に尽きるわけだ。そうと思っている事を椿はまったく分からず、(当たり前だけど)誠斗に八つ当たりし出す。

 

 

 「何よ! 誠斗はいいよね! 誠斗は私がずっと稽古している間、そうやって壁に背もたれして見ているだけだもの! 」

 

 

 「いや~、俺は椿お嬢様の護衛としてここにいるわけなんで、お嬢様を見ているのは当たり前ですし。それに俺が代わりにできる稽古ではありませんよ?」

 

 

 「ム~~~!! 誠斗のくせに、生意気~!! 終いには、窓辺に座り込んで、寝てるじゃない!?」

 

 

 「だってこんなにいい天気だと眠くなりません? 俺は自由を愛する男。寝たい時に寝るのが俺の流儀ですよ。」

 

 

 「何が”寝たい時に寝るのが俺の流儀ですよ。”ですって~! 誠斗が抜けた顔で寝ているから私、思わず笑って先生に怒られたんだからね!」

 

 

 「…つまり俺の顔を見て見惚れていたんですね?」

 

 

 「!! そんなんじゃないわ! もう黙りなさい!!」

 

 

 そういうと、さっきまでの稽古で使っていた書物やペン、ポット等を誠斗に投げ始めた。それを誠斗はまたまた易々と躱しまくる。果物が飛んできた時は受け止めて、美味しそうに齧り付く。椿はその余裕な態度がまた癪に障り、次々と手当たり次第投げていく。そうしていると、次の稽古の時間があっという間に来て、部屋に入ってきた舞の稽古の先生は部屋の散らかった現状に驚く。しかし、椿は何事もなかったかのように笑顔で振る舞い、先生を出迎える。不審に感じながらも今日の舞の説明をしている間、誠斗が素早く片付ける。

 

 (やれやれ。 大分発散できたみたいでよかったぜ。この調子なら今日の稽古は最後まで持ちそうだ。後は…、司様にあれを報告しておくか。)

 

 稽古を始めた椿はすっきりした顔で舞を踊り始めた。誠斗に八つ当たりする事で鬱憤を晴らす事ができ、ピリピリした調子でしていた今までの稽古と違って、真剣に取り組んでいた。まぁ、そうさせたのは誠斗であり、誠斗が考えた段取りであった。

 

 

 

 しかし、椿はさっきまで溜まっていた鬱憤とは違った別の鬱憤を溜める事になる。誠斗が椿の赫々した舞を見て、お腹を押さえながら悪びれもなく笑う事で。

 

 

 

 

 その夜、久しぶりに屋敷に帰ってきた司と夕食を共にする椿に司が話しかける。

 

 「椿、最近稽古の方はどうだ? しっかり励んでいるか?」

 

 

 「ええ、休まずに稽古は励んでいます。 ただ、休む暇もないから正直体が持ちませんわ、お父様。」

 

 

 椿は正直に司に話す。そうすれば、稽古を減らしてくれるのではないかと期待して。その考えは半分当たっていた。

 

 

 「ふむ、やはりそうか。 なら、明日の稽古は取りやめにして、一日のんびり過ごしなさい。」

 

 

 「あ、ありがとう!お父様!」

 

 

 「ただし、明後日は元に戻すからそのつもりでいるように。」

 

 

 「………」

 

 

 喜びもつかの間の勢いで告げられた明後日の予定で気落ちする。そこに司は今思い出したかのように椿に告げる。

 

 

 「そういえば、明日は久しぶりに泰正殿が此方の道場に顔を出してくれる事になった。」

 

 

 「えっ!! 泰ジイが!! 明日、来るの!? 」

 

 

 娘の喜び様に司の表情も綻ぶ。

 

 

 「ああ。 どうやら今度の旅での武勇伝を話してくれるらしい。 まぁ、実は本人が話したいって感じだけどね。」

 

 

 「私も泰ジイに会いたい! いつ来られるの!? 」

 

 

 「明日の午前中だったと思うが?」

 

 

 「じゃ、私は早めに上がらせてもらうわ! お父様、おやすみなさい! 」

 

 

 泰ジイの訪問を聞き、夕食を食べ終え、私室に戻る。いつも泰ジイが来るときは”規則正しい生活を心懸ける事!”という泰ジイの決まり台詞を守っている椿。

 昔から変わらない娘の行動に微笑ましく感じる司。そして、椿の後を追おうとする誠斗に一言添える。

 

 

 「明日は誠斗も楽しんできなさい。」

 

 

 「ありがとうございます。 では失礼いたします。」

 

 

 一礼する誠斗の顔は嬉しそうな表情をした。

 

 

 

 

 二人を見送った司はこれで気分転換できればと、誠斗の願いで泰ジイを呼び、椿の稽古休みを取るという作戦がうまく行ったことを満足して、書斎室へと足を運び、政府からの送られてきた仕事を片付けに行った。

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 そして、翌日。

 

 

 

 

 屋敷に設けられている道場にて老師・秋里泰正が姿を現した。

 

 

 





泰ジイ…、武勇伝聞かせてくれ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。