ここで一気に貴臣の株を上げるぞ!!
誠斗が椿の私室を後にしたその後、しばらくお互いに距離を取って、背中を向い合せにして、恥ずかしくて赤くなっている顔を元に戻すために、尽力する二人だった。
そして、ようやく平常心……を演じる事が出来た二人は、互いに息がぴったりというタイミングで振り返り、微笑み合うのだった。
好きな相手が目の前にいて、しかも二人きり…。
平常心でいられるはずもない。
ただ、ここはそうしておかないと、先に進めないと判断したからだ。
「……ははは。誠斗には悪い事したね。 僕たちに気を使ったんだね。」
「ほ、ほんとうね! で、でも誠斗は優しい人だから、気にしなくてもいいと思うわ。」
「………そうだね。」
「そうだわ、貴臣、この前の手紙ありがとう!! 返事をくれた時嬉しかった。手紙を読んだ時、胸がいっぱいになって、今すぐにでも逢いたくなったくらいよ!!
誠斗には感謝ね!!
私が落ち込んでいるのを見かねたみたいで、貴臣に手紙を渡してくれるために、わざわざ行ってくれたんだもの。あの後色々あって、熱出してまで。
今度、何か作って食べさ………」
久しぶりの貴臣と会って、何から話せばいいか分からず、とにかく最近の出来事から貴臣が手紙の返事をくれた事をまだお礼言ってなかったと思い出し、慌てて、話を繰り出す。
しかし、熱心に話を続けていた椿は、貴臣がいつもみたいに笑みを浮かべて話を聞いてくれる表情ではなくなっている事に気付かなかった。
そして、突如として、貴臣が椿の身体を抱き上げ、ベッドの方へと歩く……。
ベッドに椿を少し荒く下ろすと、そのまま椿を押し倒し、椿の身体を跨いで椿の脱出を阻止する。
顔のすぐ近くに貴臣の大きくてしっかりとした両手が置かれ、顔を逸らす事が出来ずにただ貴臣の顔を見つめるしかできない。
「え?貴臣…?どうし……」
「椿ちゃん、酷いね。 僕といるのに、誠斗の事ばかり話してる…。まぁ…、僕が話を振ってしまったんだから、悪いのだけどね。
でも…、やっぱり嫌だ……。」
「? 何で誠斗の事を話しては駄目なの?」
意味が分からない…。
貴臣と誠斗は昔から親友で、幼馴染で、お互いの事を認め合っているのに。
貴臣は誠斗の事が嫌いになったのかな?
椿が首を傾げ、必死に貴臣と誠斗を何とか仲直りさせられないかと思い始めたのを、分かりやすい椿の表情で椿の考え事が理解できた貴臣は、溜息を吐くと、苦笑しながら椿を見下ろして否定する。
「椿ちゃんが考えているような事はないよ。僕も誠斗が大好きだからね。誠斗の事は今でも認めているし、尊敬もしている。
喧嘩もしてないよ。」
「?? ますますわからないわ? じゃあなんで、こんな事をするの?
誠斗の事で何か………」
椿の唇に親指を当てて、口を閉ざしながら、椿の白くてもっちりとした頬を優しく撫でながら、椿の瞳を覗き込む貴臣の顔は、どこか悲しくて、どこか怒っているようだった。
それを椿も察したのか、何も言わずにただ黙って、貴臣の言葉を待った。
「だから、大好きな椿ちゃんの口から誠斗の話も…、名も…聞きたくないんだ。
もちろん、他の男の事も聞きたくない…。
椿ちゃんが今考えていいのは、その唇で名を呼んでいいのは…、愛していいのは…、
…………僕だけだよ?」
貴臣の気持ちを聞いて、ようやく何で貴臣がこんな事をしたのかわかった椿。
(そうだったのね…。
貴臣は…、”嫉妬”していたのね…。
私が貴臣がいるのに、それに気づかずに誠斗の事ばかり話していたから…。)
もし、自分が同じ立場なら、きっと同じく嫉妬していたと思うと、胸が苦しくなった。
その思いは、舞踏会の時に感じた想いと同じで、余計に胸が苦しくなる。
貴臣に悲しい思いをさせたと思うと、申し訳ないという気持ちになり、椿は無意識に貴臣の背中に腕を回して、涙を流していた。
「…ごめんなさい、貴臣。
あなたを不安にさせてしまって…。
私、なんて謝れば……」
「……僕もごめんね。 君があまりにも楽しそうに話すものだから、ヤキモチ焼いてしまった。
まったく、僕もまだまだだね。椿ちゃんの事となると、こんなに感情を溢れてくるようになってしまった。
君ともうすぐ一緒に暮らせると思っただけで、今まで抱いていた想いが止められないなんて…。」
どうすればいいのか分からないという貴臣の顔には、若干頬が赤く染まっていた。
いつもほんわかに笑って、傍にいてくれる貴臣を見てきた椿は、戸惑ったり、嫉妬したり、照れたりする貴臣を見た事がなかった。
貴臣の知らなかった一面を見る事ができ、思わず笑ってしまう。
その表情を見て、貴臣がまた照れてしまっていると、椿が片手を貴臣の頬に触れ、微笑を浮かべる。
「……大丈夫よ、私は貴臣の事を愛しています。
貴臣が一番好きよ。 だから、心配しないで。
私、貴臣が嫉妬してくれて、不謹慎かもしれないけど、嬉しいの…!」
椿の告白を聞いて、照れていた貴臣は、一層椿に接近し、それを椿はドキドキと胸の鼓動が早くなるのを感じながら、目を閉じる。
そして、唇に柔らかくて、優しい…生暖かい感触が椿に訪れた…。
これが、貴臣と椿の初めてで………………のキスになるとは、この時は想像する事もなかった…。
キャ~~~~~~~!!!!
とうとう!!! とうとう貴臣が前に出た~~~~~!!!!
今まで誠斗が押しまくっていたけど、貴臣が一気に距離を縮めに掛かった~~~!!!
これは一体どうなる事やら!!