「……あまり詳しい事は言えねぇ~けど、異国から入ってきた粉に、人格を変えてしまう催眠効果があるんだ。それが高級料理店を中心に、広まっていって、被害が増えていっているんだ。」
「そうだったのか…。だから、近頃、急に錯乱する人たちが出始めたんだね。
なら、その異国から輸入している調味料をすぐに取り締まらないといけないね。それなら僕に任せて。これでも商人達には顔が効くから、取扱い禁止令を伝えてくる。」
「……いや、それも重要なんだけどよ、やるからには徹底的に取引禁止にしてくれ。」
「…?もちろんそのつもりだけど、気合が入っているね。誠斗は僕の実力を理解してくれていない訳じゃないよね?」
「もちろん、貴臣の事は十分に信頼しているし、分かっているつもりだ。だからこそ、徹底的に取引・商売禁止を形にしてほしいんだよ。」
「………そうか、なるほどね。誠斗はそれを狙っているんだ? なら、僕の腕の見せ所だね。大丈夫、任せて。僕がその悪手を誘い出してみせるよ。」
「…悪い、助かる。こればかりは俺はまだまだだからな。」
「そんな事はないよ。お互いにできる事をすればいいだけの話だよ。…では、さっそく取り掛かるとしますか。」
「ああ…、頼む。」
お互いに言葉を交わし、作戦を実行に移すため、貴臣が港に戻っていくのを見届ける誠斗。
作戦について、口には出していないが、お互い通じているものがあるからか、言わなくても理解し合う事が出来た。
誠斗は、いまだに通じている絆に温かさを感じつつも、親友をこの剣に巻き込んでしまった自分に悔しさややるせなさを感じる。しかし、それと同時に頼もしい親友がいてくれるだけで安堵する自分がいる。それがおかしくて、思わず苦笑してしまうのだった。
「本当に、これでよかったかなんて俺には分からねぇ~が、これで港町がまた元に戻れるなら……」
昔から変わらない人の活気に満ちた港町を思い出し、懐かしい人たちを思い浮かべた。
「貴臣、巻き込んですまない…。でも、俺にはどうしてもこの港町を守らないといけない理由があるんだ。
それは、お前の為でもあるし、司様の為でもあるし、この港町の人達の為でもあるし、椿のためでもある。そして……」
もういないあの人達の為でもある…。
口に出す事を憚れた台詞を誠斗は呑み込み、早速港で商売の算段を話し合っている商人に話をつけている貴臣を見て、誠斗は仕掛けていた罠を動かすため、港に併設された倉庫街の屋根を伝って、目的地へと向かうのだった…。
その日から、公に『マリハ』を仕込んだ調味料は取引禁止令が発令され、調味料は全て押収され、廃棄処分となった。そしてそれを持ち込んだ異国との貿易を一時的に停止する事にした。
港町にも警備する者が増え、更に調味料を扱っている所も、御用検めを受ける事になった。
こうして、港町から『マリハ』の脅威は消え去った。
………表では。
★★★
『マリハ』の取引禁止令が発令されてから、早数日。
港の警備の目が届かない死角に入る倉庫で、商人とは違った服装をした者達が屯していた。
その中には、あの黒い布で顔を覆った覆面の男が布の隙間から見せる鋭い視線で、周りの連中に睨みを効かせ、誰かの到着を待っているのであった。
誠斗と貴臣は何をしようとしているのか。
そして、あの覆面の残虐な男がまた動き出しました!!