※この作品はR-18です。

運命のシナリオ   作:薔薇大書館の管理人

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泰ジイ、会いたかったぜ!!


老師と愛弟子の組手

 

 

 

 「泰ジイ!! おかえりなさい!!」

 

 

 泰ジイが道場に入ってくるや挨拶と同時に泰ジイ抱きつく椿。それを嬉しそうに泰ジイも抱きしめ返す。

 

 

 「おうおう。椿お嬢様も元気そうで何よりじゃわい! 数年見ないうちに偉い美人さんになっちまいおって…、儂の可愛いお嬢様が…! うむっ!!」

 

 

 感涙と悔し涙を流していた泰ジイは背後からの攻撃を気配で察し、振り向き様で腕を盾にする。物凄い爆音と共に、泰ジイの腕には手刀が受け止められていた。手刀を振り下ろした張本人である誠斗は強い者を相手にした時の含み笑いをして、泰ジイを見ていた。

 

 

 「ジジイ…。お嬢はあんたの物じゃないっすよ。そんな気持ち悪い顔はやめてくれよ。」

 

 

 「ふふふ、お主も随分見ないうちに背が伸びやがって…。 腕も上げたな。儂の背後に立つとはなかなかできん事じゃぞ?」

 

 

 「そうですね。 背丈もジジイ超えたし、ジジイより強くなったかもな。もう引退してくれていいぞ? ジジイ?」

 

 

 挑発的な眼差しと口調で泰ジイとの組み手を誘う。泰ジイもうずうずしていたので、それに応じ、誠斗に飛びかかる。それを避ける誠斗。泰ジイは次々と掌底を繰り出すが、誠斗が掌で受け止めたり、逸らしたりして攻撃を流している。しかし傍から見ている椿には目にも見えないほどの速さで拳の蓬莱をしている風にしか見えない。それでも、当の本人達はまだ本気を出していないようで、さっきから互いを見て笑い合っている。

 

 

 「…なぜ、このじっちゃんの愛の鉄拳を受け取らないんじゃ?」

 

 

 「何を言ってるのか、さっぱりわかんねぇ~な。ジジイ。」

 

 

 「儂は久しぶりに会ったお主とも抱きしめたいだけじゃぞ!」

 

 

 「くくく。 それは遠慮しとくぜ、ジジイ。俺はシワシワなジジイと抱き合う趣味はないんで。それに、あんたが言う”愛の鉄拳”も一方受け取ってるぜ。掌でな。」

 

 

 「ふぅ~。ならば、押し責めるまでじゃ! どりゃ~!!」

 

 

 拳の蓬莱を変えたのは泰ジイ。一歩踏み出し、回し蹴りをする。それを横飛びで躱す誠斗。そこに素早い足運びで追い立てる泰ジイ。誠斗は横飛びから側転をし、そのまま壁に足で蹴って、回転の威力も入れた蹴りを泰ジイに放つ。泰ジイは右拳を床から擦れ擦れの所から打ち上げる。これで決まると思った椿は一瞬も見逃すまいと瞬きせず見守る。そして見事誠斗の蹴りが泰ジイの顔面に直撃した。直撃を受けた泰ジイは床にうつ伏せで倒れる。誠斗は倒れた泰ジイを見下ろす。

 

 

 「あ…。 誠斗が勝っちゃった…?」

 

 

 「ぐおおおおおおおぉぉぉぉぉ~~~~~~~~!!!」

 

 

 勝敗を見守っていた椿は誠斗の勝利の確認にぼやいたが、泰ジイから発せられた悲鳴で掻き消された。慌てて泰ジイに近づくと、腰を抑えながら掠れた悲鳴を上げている。

 

 

 「はぁ~。ジジイ、自分の年を考えろよ。もう現役じゃねぇんだからさ。無茶な動きすれば、ぎっくり腰になるんだよ。」

 

 

 呆れながら泰ジイの腰を軽くバシッと叩く誠斗。その衝撃でさらに泰ジイがつらそうな悲鳴を上げる。

 

 

 「ちょっと、誠斗! ご老人に対してそんな真似したらいけないわ! 泰ジイ、大丈夫!? 今、お医者様をお呼びするわ!」

 

 

 誠斗に叱咤した後、急いで医者を呼びに行こうとした椿を誠斗が呼び止める。

 

 

 「これくらいなら医者ごとき呼ばなくてもいいっすよ。…治せますから。」

 

 

 「え?」

 

 

 不思議そうに首をちょこっと傾ける椿を視界に入れつつ、誠斗は泰ジイの身体をつんつんと指で叩く。そして人差し指と中指をそろえ、腕を上げると、勢いよく泰ジイの身体に突き刺した。

 

 「…!! ぎゃああああああぁあおおおおお~~~~~!!」

 

 

 「きゃあああああ~~~~!!」

 

 

 突かれた泰ジイは大声で悲鳴を上げ、泰ジイの悲鳴と容赦なしに指を突き刺した誠斗の行動に驚き、思わず椿も悲鳴を上げる。それから数分後、軽く気絶していた泰ジイが目を覚まし、普通通りに起き上がり座り込んだ。

 

 

 「儂は一体どうしたのじゃ?」

 

 

 「ちょっと! 泰ジイ!! 起き上がって大丈夫なの!? ぎっくり腰になってたじゃないっ!!」

 

 

 あれだけ痛がっていたのに、それを気にせずに座り込む泰ジイに驚愕と心配の眼差しで椿は話しかける。椿の言葉で泰ジイは気を失う直前の事を思い出し、「そうじゃった!」と叫ぶ。誠斗は二人の反応がおかしくて、笑いを堪えていた。しかし、二人の説明を求める熱い視線に押され、笑いを押し殺して説明する事にした。

 

 

 「何も難しい事はしていないけど? 俺はジジイにぎっくり腰に効く快楽点、ツボを指圧で刺激を与えただけだ。癒しのツボは一応頭に入れていたからな。実際には初めてだが、うまくいったようで何よりだぜ?ジジイ。」

 

 

 微笑を浮かべた誠斗の目は「これは貸しにしとくぜ。」と言っていた。それを理解した上で、泰ジイはそっぽを向いて礼を言う。

 

 

 「助かった。 恩に着る。」

 

 

 椿はそういった泰ジイの頬が少し赤みかかっていたのを見て、照れている泰ジイが可愛いなと思い、くすくすと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 秋里泰正、みんなは”泰ジイ”って親しみを込めて呼んでる。本人もそう呼ばれて接してくれるのが嬉しいらしく、私が呼ぶと表情が柔らかくなり、甘えさせようとする。その時は誠斗が喝を入れるけど。そういえば誠斗には昔から「じっちゃん」と呼べっていつも言っているけど、何でなのかはわからない。本人に聞いてみても「さぁな。」って逸らされるし。でもあまり深く聞かなくてもいいかなって理解している。

 

 そんなみんなから好かれている泰ジイは元々大阪にある諸藩に属していた藩士だった。藩内でも一目置かれるほどの武芸を擁し、温厚で知略にも長けていた泰ジイは藩内だけでなく、藩の領地の人々からも人望を持っていた。しかし、戊辰戦争の際、仕えていた藩主が旧幕府軍に属したため、敗戦後、藩は解体させられた。その時、藩主は自らが決めた事で、皆はただ私の言うとおりに行動させただけだと訴えた。その男気に感銘した役人が藩主のみの刑だけでこの場を抑えた。泰ジイは直談判するが、願いは聞きとられず、藩を脱藩し、浪士となった。

 当てもない旅で神戸港まで来た泰ジイはそこで警官に追いかけられる泥棒と遭遇。足を払い、抑え込み見事泥棒を捕まえる。その活躍を見たこの港町を経営していた前華族の男性が泰ジイの腕と勇気ある行動に惚れ込み、武術全般の師範として雇ったのだった。泰ジイは自分の掲げる”己に嘘をつかない生き様”の信念を武術稽古を通して教えたいと思い、それを了承し、港町では名声を得る老師となった。

 

 今は道場を閉め、この前勃発した武士と政府軍との戦争――後の西南戦争の戦場を回り、戦況を見て回っていた。危うく命を落としかけなかったのに、「武士の最期の生き様をこの眼に焼き付けたかったんじゃ…。」と頑なに譲らず、旅に出ていた。

 

 

 という訳で、無事に生還してきた(戦いに行ってはいないけど)泰ジイは経営者が変わってもよく屋敷に顔を見せ、遊んでくれた私たちに会いに来てくれたのだった。

 

 

 「ったく。愛弟子に負けるようでは本当に引退を考えないといけないかもしれないか…。」

 

 

 「何を言ってるの。あの戦場から生きて帰ってくることはとてもすごいんですよ?泰ジイ。」

 

 

 「そうだぜ、俺に鳩尾喰らわせてくれたんだから、まだ腕は訛っていないぜ?まぁ、身体は訛るどころか、ガタがきてるけどな。」

 

 

 誠斗の言葉に私は頭に疑問が浮かぶ。

 

 

 「?? 誠斗そうなの? 全然そんな風には見れなかったけど?」

 

 

 「俺が蹴りを入れた時、床に倒れす前にジジイが鳩尾に一発決めたんですよ。いや~、床に膝を付けないようにするのが大変でしたね。相変わらず重い拳でした。」

 

 

 「ふっ、普通はあまりの激痛に耐えきれずに崩れ落ちるというのに…。お主は平気そうな顔で耐えていたのか。もう儂が教える事がないな。」

 

 

 「どうだかな~。ほかの面ではまだまだ学ぶところとかあるし。だから俺がすべてを盗むまで生きてろよ、ジジイ。」

 

 

 「ぐははははははは!! この老いぼれにそこまでいうかっ! よし、その言葉、忘れる出ないぞ!」

 

 

 一番の愛弟子からの逞しい台詞を聞き、泰ジイは嬉しそうに笑い続け、誠斗の頭をぐちゃぐちゃに撫でまわした。

 

 

 その師匠と弟子の関係が羨ましく感じ、ジ~っと二人を私は見続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 「ところで、どうして”泰ジイ”って呼ばれるようになったんだろう?」

 

 

 いつの間にか誰もが呼んでいたけど、ふとそんな疑問が頭をよぎった。独り言に近いものだったのに、地獄耳(椿に関してのみ)の誠斗がこの問いに答えた。

 

 

                     ・・      ・・       

 「知らなかったんですか? ”前港町経営者が安い給料で雇ったジイさん”だから、

  ・・・・   ・・・

  安いじいさん、安ジイ。名前にもある通りの泰で、泰ジイって事で呼ばれるようになったんですよ。」

 

 

 「「そう(なの/じゃったのか)!!」」

 

 

 初耳すぎる意外な答えに私は固まる。当の本人もそれを聞き、固まる。それをみて、誠斗は吹き出し、爆笑する。更にしばらくするとお腹を抱え、床を転げまくって爆笑する誠斗から言葉が紡がれる。

 

 

 「嘘だっての!! ぷぅぅぅははははははは!! そんなあだ名付ける訳ないだろ!! ひゃひゃひゃ!! その顔、傑作だったぜ!」

 

 

 衝撃の告白を聞き、私と泰ジイは怒りを燃え上がらせ、誠斗を懲らしめるため結託する。私が道場中の木刀やら道場着を誠斗に投げ、それを避ける誠斗に泰ジイが私の投げた木刀を掴み、木刀を高速で突き出す。それさえも避け続ける誠斗。それに不満を覚え、最後の漬物石を私が投げた時、命中し、気絶したため、この”誠斗を懲らしめよう”は終了する。

 

 

 

 

 

 

 ……老師が気絶したためである。

 




 みんなも身体には気を付けてね!
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