覆面の男の部下が、木箱を運んできた。
その木箱に待ち合わせしていた人物が腰かける。
そして、覆面の男と正面で見つめ合いながら、話の続きをする。
「それで? ここに俺様を呼びつけておきながら、呼び出したあんたが遅れてきたのは何でだろうな~~…。」
「まぁまぁ。そんなに殺気を放つな。念のためだ。近頃、港町の警備が厳しくなってきたからな。昼間ならまだしも真夜中になると、この儂がうろついているのは不自然だろう?少しばかり遠回りしたり、警備の目を掻い潜ってきたのよ~。」
「……部下にあんたを迎えに寄越したはずだ。警備の目を盗める道を案内するためにな…。会わなかったか?」
「会ったぞ。しかし、あやつは……」
「使えなかったのか…。」
覆面の男は、呆れた事を隠そうともしないため息を吐く。そして怒りを露わにした視線を八つ当たり気味に部下達に向ける。案内するだけなら使えそうだと送り出したが、向かっている途中で警備に見つかってしまったのだろう。自分の判断違いかと、己に恥を掻かせた使えなかった部下に怒りを覚える。
それを面白そうに拝んでいる来訪者は含み笑いをし、事実を伝える。
「いやそうではない。案内中、やたらと私の前をちょこまかと動き回るものだから、目障りになってきての…。つい護衛として付き従わせていた従者に処分させた。
初めての大役を仰せつかったと舞い上がっていたみたいだからな。あれだと、こちらの身が危ない。悪いが、あれはまだまだだったと言わざる得ない。」
「…結局は使えなかったという訳だろ? そいつの死体は何処だ?後で、俺がズタズタに切り刻んでやる…!!」
「まぁ、待て。今、従者に後片付けをしてもらっている最中だ。直にこちらに運んでくるように言ってある。遅れたせめてもの詫びだ。
それに言っておくが、お前の判断は間違っていない。あれは、道具から人形になっただけだ。」
来訪者の言葉を聞いて、覆面の男はくぐもった薄気味悪い笑みを浮かべたような雰囲気を出し、目も狂気的な笑みが含まれたものになった。
「そうか、それは楽しみだ…。 やはり俺様を楽しませてくれるのは、血肉だけだな…。くくくはははははは。」
人を斬るのが堪らないと身体を震わせる覆面の男に、来訪者も同意する。
「そうだな、儂もこの身なりでなかったら、久しぶりに斬ってみてもよかったんだがな。昔みたいに自分の自由がきかないのは、困ったものだ。」
「確かに行動の自由は制限されるだろうさ。だが、裏で企む事にも秀でるようになって、まんざらでもないんだろう?」
「気付かれていたか。 やはりお前にも俺と同じ天下を狙える素質があるな。」
「だからこそ、俺様に仕事を頼んできているのだと思っていたけどな。」
「そう思ってくれて構わん。ところで首尾はどうだ? 順調だろうな?」
世間話?からようやく本題に移った来訪者の顔は、嘘は決して許さんと何もかも見透かす気でいる強い眼差しを放っていた。
それを真っ向から受け止め、覆面の男も真剣な空気になり、来訪者の問いに答える。覆面の男に嘘を言うつもりもない。
「それが、少し厄介な事になった…。 あいつらがとうとう動き出してきた。」
「……花菱か。大人しくしておればいいものを。」
「そう言うあんたの今の顔は、とても困り果てた顔ではないがな。」
来訪者は冷酷で、獲物が引っかかったと驚喜的に喜ぶ野獣の顔になっていた。
「ついに、花菱を陥れるんだ。 昔を思い出すぞ…! また花菱に絶望を与えてやろう…!!」
「あんたのその執念に感激するね~。
…………鳳不二生殿?」
覆面の男の口から発せられた名を呼ばれた来訪者は、脂の乗った顔で人を食った笑みを浮かべ、司を容赦なく甚振る算段を脳裏に思い浮かべた…。
不二生だったのか!!? うわ~!! 悪者感が一気に増したよ!!
覆面男とも相性ピッタリだし。これは司の身に危険が!?