屋敷に戻った誠斗は、司が神戸の方での仕事があり、不在にしていたため、報告は朝にし、軽く一眠りをする事にした。朝日が昇れば、朝食の準備に赴き、頃合いで椿を起こしに行く、いつもの日常を送るために…。
そして目を瞑り、緊張感を常に持って調査していたからか、すぐに眠りにつく…。
★★★
”ここは…、屋敷か?”
見覚えのありすぎる屋敷の廊下に一人でポツンと立ち尽くしている誠斗。窓から暖かい日差しが入り込み、冷えた身体を包み込んでくれているみたいで落ち着く。しかし、屋敷の壁や廊下には真新しさがあり、つい最近建てられたかのような綺麗さだ。いくら何年もここに住んでいると言っても、汚れや傷みが現れてくるもの。こんな事はあり得ない。誠斗は、天然癖毛の黒髪の頭を掻いて、廊下を歩き続ける。
庭が見渡せる場所まで来た誠斗は、そこで人影を見つけた。
そこには、会いたくて、懐かしい人が花畑の中で立っていた。
”あ、あれは…!!”
震える足で庭に下りると、更に人影が増えた。そこには清楚な金髪の美人女性がいて、その足元でははしゃぎ回る小さな男の子が、最初に見かけた人…、がっしりした体型に一本の芯を胸に秘めたような目をした紳士と女性の手を引っ張って笑っていた。
幸せそうに花畑で笑っている三人を、誠斗は近寄る事はせず、ただ遠くから眺めていた。
そして、目からは一筋の涙が流れ落ちる…。
”……父上。……母上。”
涙を流しながら、見つめる先の美人女性と紳士に向かって、そう呟いた。
そして誠斗は、自分の夢だと認識した。
だって………
”そうだ…、父上も母上ももうこの世にはいない…。死んだじゃないか…。”
掌を握りしめ、ずっと視線を固定させたまま、呟く。それは夢だからと、現実的ではないと自分に言い聞かせるためのように感じられる声だった。そしてそれは間違いなく、誠斗は久しぶりに見た両親と幼い自分が幸せだった時の夢を振り払い、両親がいない事実を納得させたくて、呟いたのだった。
だけど、両親と一緒にいる幼い頃の自分の笑顔を見て、ついつられて笑ってしまう。
”あんな事が起きる前の俺はあんなだったんだな…。”
いつの間にか昔の事を思い出さないでおこうとして、幸せだった時の頃の記憶も忘れていた誠斗は、ずっとこの光景を見ていたいと思った。
そう思って眺めていたら、誠斗の父親が大きくなった誠斗の方を見てきた。そして、父親が母親と幼い頃の誠斗から離れてこっちに向かってくる。
”え?”
両親たちには自分は見えていないと思っていた。…というかここは誠斗の夢の中だ。しかし、両親たちが花畑で笑い合っているのを見るだけだと思い込んでいた誠斗は、父親が近づいてくるのに焦った。
”ああ…! もしかしたら、どこかに向かうつもりなんだ。 俺を素通りで…”
”…大きくなったな。誠斗…。”
”うわぁ!”
素通りしていくと思って横に逸らした誠斗だったが、それと同時に父親も方向転換して誠斗と正面から接して優しく微笑み、声を掛けてきた。突然話しかけられて驚き、反射神経で少し後ずさる。
”ははははは! 相変わらずすばしっこい身のこなしをしているな!誠斗! 父さんと屋敷内で鬼ごっこした時は、いつもそれでなかなか捕まえられなかった…! 今思い出しても悔しい!!”
拳を握りしめ、本当に悔しがる父親を見て、昔の面影が蘇り、声を姿もあの時のままだと懐かしむ。…夢の中だから当たり前だが。
”だって、父上はいつも「何事にも手加減なぞするなっ!男なら決めた事はしっかり守れっ! 全身全霊で応えなければ、失礼に値するっ!!」って言ってたじゃないか。”
”ああ、何か間違っているのか? ”
腕を組んで、首を盛大に傾げる父親に呆れながらも、楽しい気持ちは止まらない。
”…いや、俺は父上のそんな真っ直ぐなところが好きだったんだ。そしてそれは俺の支えになってくれている…。”
”……なら、なぜそんな顔をする? 父さんに会ったというのに、どこか暗いぞ?”
久しぶりに夢でもいいから話せてよかった…。そう思っていた誠斗だったが、やはり父親か…。心の奥底の気持ちまで見抜かされ、軽く目を見開く。だけど、どうしても父親に言ってみたかったことがある。
”……あのさ、父上。”
”……なんだ、誠斗。”
”………何で!父上が殺されなければいけなかったんだ!!”
”…………………”
声を荒げて父親に問いかける誠斗を、悲しそうに、そして苦しそうに無言で見つめる
のであった…。
そうなんです…。誠斗は既に両親とは死別しています…。それが明かされる日がいよいよ来てしまいました…。