目の前でソファの背もたれに大きく背を預けて偉そうに座り込んでいる突然の来客者に固まる誠斗と司。
しかし、すぐに二人とも我を取り戻す。
司はまさかの来客者が最も誠斗に会わせたくなかった人物であるため、この事態をどうにかしようという焦りと心配から復活する。
誠斗は今まで顔を拝まずにいた来客者に、幼い頃に見た憎き相手の顔と重なり、今まで辛さと悲しみから記憶があやふやだった過去の事が鮮明に脳内に浮かび上がり、怒りで復活した。
(なんという事だ…。誠斗に会わせるつもりは今までも、そしてこれからもなかったのに…!)
今更この状況を取り消す事は出来ない。何もかもなかった事にしたいと心から願ってもそれは叶わないのは分かっている。しかし、それでも司はそう願わずにはいられなかった。
「おい、司殿!いつまでそこに座っているつもりなんだね。早くこっちに座りたまえ。君に話があってわざわざ時間を割いてやってきたのだ。」
「………今行きますよ。」
穏やかな表情を一切封印した司は、無表情を浮かべた顔で立ち上がる。
「……すまないが、今からこの来客の相手をしなければいけなくなった。話はこれで打ち切りにして、今日はもう切り上げてもらって構わない。後は、若葉にしてもらう。」
「………………」
司の言葉を無視し、ただ来客者を睨みつける誠斗は無言でいる。本来なら主人の命に逆らったとして、許されるものではないが、司には自分の言葉が耳に入らないくらい、来客者に意識が向いているという事が理解できていた。
司は、強制的に誠斗の顔を両手で押さえて、首を回し自分の顔と向かい合わせる。
「もう一度言う。今日はもう引き上げてくれていいから、出なさい。」
「……………………はい、畏まりました。司様。」
やるせない思いを抱いた誠斗だが、司の命に従う。ここで恨みに任せて殺せば、その大罪を目の前で起こさせてしまった司に責任を問い詰められ、今の地位を剥奪されかねない。そうなれば、あの悪夢のように司の身が危うくなると思ったのだ。
しばらく黙考した誠斗は、司に命じられたとおり、ドアに向かって歩く。
「それでは、失礼いたします。」
ドアの前で一礼すると、若葉さんに視線で後の事を託すと告げた後、書斎室から出ていった。
誠斗が出ていくのを見送った司は、不機嫌さを醸し出し、応接用のソファに座る。来客の目の前に座ると同時に、タイミングを見計らっていた若葉さんがカフェイン抜きの紅茶を二人に差し出す。
「ほう…。これはなかなかの茶葉を使っているな、司殿。もてなしにはもったいないくらいだ。」
「そうですね、あなたに出すくらいの茶でもないと私も思っていますよ。そして勝手にこんな真夜中に押し掛けてくる客ですからね。
ですが、どんな客でも一通りは持て成すのが礼儀というものです。」
「相変わらず、皮肉な事を言うな。先程も言ったとおり、時間を割いてまでやってきたと言う忙しい身のこの儂に文句を言うのか?」
「貴重な時間を割いてまで私に会ってほしいとはまったく思ってませんから。それはあなたの方の人騒がせな言い分であって、私には関係ない事です。」
「………可愛くない男であるな。」
「それで結構です。あなたに”可愛い”などと言われたくもないですから。もっと言うなら、顔さえ見たくないです。」
「お前も随分と生意気な事を言うようになったものだな。あの時は私にいつも深く頭を下げて震えていたというのに…。」
「十二年も経てば、人間変わらない者もいれば、変わる者もいます。そして私はもうあの時の愚かな私ではないですよ!」
心に決めた志を感じさせる強い眼差しを来客に向ける司。それを生意気だと思う一方、昔と違って楽しませてくれるような気がし面白がる一面を持って、眼差しを受ける来客は、唇が綻んでいる。
その表情を見て、司はやはり十二年前と何も変わらない来客者に怒りを覚え、目も鋭くなる。
「そうか、あれからもう十二年も経つのか。面白いな。それだけの時間が流れておきながら、お前がまだ私に楯突こうとするのが実に滑稽な事だ。
これもそれも、あの男の影響を受けているからなのか。それこそ愚かというものだ。自分から寿命を縮めているのだからな!」
「私は私のやりたいようにしているだけです! 彼の意思を継いでこの港町を守る事こそが私ができる唯一の償いなのですよ。あなたのように人を踏み台にする人生で成り上がるなぞ、虫唾が走ります!」
「…この儂を愚弄する気か!?ただの華族の身分であるお前如きがっ!?
儂が誰だか、分からんお前ではあるまい! 」
「ええ…。知ってますよ、良く……ね。
鳳不二生………。
私はあなたを絶対に許す事はないし、もう二度とあなたから大事なものを奪わせないっ!」
お互いに強い眼差しを向け、火花が散る。
突然の来客者…、鳳不二生は額に脈が浮き上がるほど、怒りを覚え、腸が煮えぐり返った。
そして、司は穏やかないつもの表情からは考えられないほど、獰猛な怒りと正義を感じさせる真っ直ぐな瞳をしていた。
その瞳の奥には、司の心を強くし、目の前の不二生と対峙する勇気へと結びつかせてくれるあの時に誓った想いが込められていた。
その想いには、儚い悲しみと後悔からの怒りも混ざっていたのであった。
鳳不二生が誠斗の仇…。
そして、司と不二生にも因縁が…。近々過去編に突入するので、そこで明かされる事でしょう!