「……………正義?」
窓から入ってきた人物に司は掠れそうな声で名を呟いた。その名はかつての親友の名…。
しかし、それは一瞬にして、消える。
「いえ、誠斗です。司様。」
苦笑してやんわりと否定するのは、先程この部屋を出た誠斗だった。
「ああ…、すまない。どうやら夢を見てしまったようだね。」
「いえ、別に…。」
司も誠斗もお互い声を掛けずに無言の状態が続く。しかしいつまでもこうしている訳にはいかないと思いきって誠斗が口を開く。
「司様…、先程の非常識な来客は帰られたのですね?どのような用件だったのでしょうか?」
口調は完全に使用人仕様になっている誠斗の言葉に司は隠し通す事は出来ないと察した。既に不二生の顔をしっかりと見て、思い出してしまった誠斗にいくら言葉を並べても、いくら嘘を突き通してもいけないと感じた。
「ああ、帰ったよ。 用件は……、いつも通りだった。」
「………では、やはりあいつが”鳳不二生”でしたか…。……なぜ今まで黙っていたんですか? 」
誠斗の声色には怒りが混じっていた。 その怒りも当然と司は捉え、話を続ける。
「……君をこれ以上不二生から切り外しておきたかったんだ。もしも君があの時の事を完全に思い出し、復讐しようとすれば、たちまち不二生に君の存在が知られてしまう。それは君の命に係わる大事な事だ。私はもう、大事なものを失いたくないんだ。
…君は私の親友の忘れ形見だからね。それに私の息子だと思ってもいる。
君には椿と一緒に生きてほしかったんだ。あの子の傍にいれば、君は幸せになれると思っていたから…。」
「司様らしいですね。そういうあなただから俺は道を外れる事なく、ここまで生きて来れたと思いますよ。司様には感謝しかありません。」
「そう言ってくれるのはありがたい…しかし…」
「確かにあいつを見た瞬間、俺は目の前にいるあいつを今すぐこの手で殺してやりたいと思いました。あいつの所為で俺は……、大事な人を失った…。何もかも奪われた…。
あいつを殺して、仇を取りたかった。
でも…、そんな俺を司様は止めてくれました。あれで、俺が生きている理由を再認識する事が出来たんです。
たとえ仇を取っても、戻ってこない。まだ幼かった俺はあの時何もできなかった。後悔と悔しさで一杯だった。もうあんな事は…二度と味わいたくない…。
だから、俺は誓ったんです。『今度こそ大事なものを命を懸けてでも護って見せる』と。
そのために俺は強くなるために武術も更に励んできました。全ては俺を引き取ってくれた司様と俺に癒しをくれた椿のために…。
俺は前に進む事にしました。だから司様、どうか俺に司様を守らせてください!お願いします!」
頭を深く下げ、司にお願いする誠斗の心には、復讐の炎よりも、護りたいものを護りたいという強い想いが表れていた。その姿を見て、司は懐かしい人物と誠斗が重なったような気がした。
彼も誠斗と同じく、前に進む男だった。
真っ直ぐに進み、己が一つの信念に貫き、前に向かって行く…。
それが彼の持つ魅力だった。
それが、誠斗にも感じられ、懐かしさから司は思わず涙を流す。
(………正義。本当に君の子だよ。 血の繋がりは強いものだ。)
心の中で、親友の正義…、誠斗の父親にそう語るのだった。
子が親に似るっていうけど、良い所を受け継いでいるっていいよね~!
そしてここであっさりと誠斗の父親の名を明かしてしまいました!
名の通りの人生の歩みを過去編としてお送りするので、お楽しみに~!!