突然の司による事実の一端を語られ、誠斗は頭が真っ白になる。
覚悟はしていたとはいえ、やはり他人から告げられるのはキツイ。
誠斗は、不二生を直に見てから、どこかで会っていた感じを受けていた。しかし、それが司のもたらした事実で、完全に結びついた。
貴臣が婚約を持ち掛けてきた時、一緒にいた中年男性が放っていた嫌な感じと同じ雰囲気を持っていた事を。今まで顔は見ていなかったため、胸騒ぎだけしていたが、腑に落ちる事がいくつもあり、誠斗は受け入れたくなかったが、認めるしかないと自分に言い聞かせるしか自分を取り持てる自信がなかった。
「………そう、ですか…。貴臣がアイツの……。だけど、貴臣は豪商の家柄であるし、アイツとは接点なんて何も…。」
「若葉に調べてもらった限りでは、どうやら貴臣は不二生の妾の子らしい。政略結婚した正妻との間には子供は出来なかったからな…。自分の血筋を残すためにそうしたのだろう。」
「………貴臣はそれを知っているのですか?」
誠斗は強い眼差しで司に問いかける。この応え次第で誠斗と貴臣との関係が大きく左右されるという事が分かるくらい、誠斗が耳を澄まして答えを待っている事はすぐに理解できた。
「いや、私が見てみた限り、貴臣君は不二生の裏の事も一切聞かされていないだろう…、まだ。
あの子の事は私の家に遊びに来ていた幼い頃より知っているからね…。とても不二生の子だと思えないほど、人として申し分ない律儀な子だよ…。」
「そうですか…。俺も貴臣は、鳳不二生のような奴ではないと信じています。」
「ああ…、もちろん私も貴臣君の事は信じている。貴臣君なら椿とも上手くいくだろう…。私から見ても、椿は貴臣君が好きだからな。幸せな家庭を築けるかもしれない…。」
司の言葉で、誠斗は嬉しさと寂しさと苦しさを感じた。
司も貴臣の事を認めており、信じている事が嬉しかった。だけどそれと同じくらい、貴臣が自分の両親を殺した仇でもある不二生の息子だと知り、今まで通りに接する事が出来るかどうか分からない…。もう昔のように冗談を言い合って話したり、笑い合ったりできなくなるかもしれない。貴臣がしても、それに応えられない自分になりそうで怖いし、寂しくもあった。
そして、司自身も貴臣と椿が良い雰囲気になっている事を知っていて、お似合いだと思っている事を告げられ、二人がもし結ばれれば、二人の幸せそうな姿を一歩引いた場所から否応なく目に焼き付けるようになる…。この前の貴臣が内緒で会いに来ていた時の事を思い出し、その日も近いと、誠斗は胸が苦しくなった。
「貴臣ならお嬢を絶対に泣かせたりしませんよ。貴臣はアイツと違って、人を慈しむ奴ですから。…ま、いつもヘラヘラしてますから、頼りなさ気はありますけど。」
「…………だがね、私はたとえ二人の想いが通じていて、私が認めていても、二人を引き離す気は変わらないんだよ、誠斗。婚約は絶対にさせない…! 貴臣君以外の者を椿の夫として迎えようと思っている。」
「…なっ! そんな事すれば、お嬢は…!」
「…わかっている。椿は私を許さないだろう…。だが、怨まれてもいい。
これで椿…、それに誠斗…、君も守れるんだ。私の大事な子供達の命を守れるなら、私は心を鬼にして、阻止する…。
もう私は決めた…。
………決めたのだよ、………誠斗。」
握り合う拳を強くし、一点をずっと見つめ続ける司の思いつめた表情ではあるが、そこには愛情が見られた。
反論しようとした誠斗だったが、司がなぜそこまで貴臣と椿の婚約を頑なに反対し、潰そうとしているのか、ここでようやく理解したために何も言えなくなってしまった。
不二生が貴臣の父親だと知らなければ、ただの親馬鹿で、娘を手放したくないというわがままを通したいんだろうな~…と不躾な考えを巡らせて、呆れ笑をしていただろう。
だが、貴臣と不二生の関係を知ってしまった今となれば、司が何を危惧しているのかは言われなくても理解できた。
もし貴臣と椿が晴れて夫婦になったとしても、不二生と血縁を結んだことになり、不二生の魔の手が花菱家に伸びてくることになる。それは、司だけでなく、椿にも危険が及ぶかもしれないのだ。
そして、花菱家を操ろうと貴臣を使ってくるかもしれない。残虐非道を貫いて生きてきたような男だ。これくらいは序の口で、きっと想像せぬ仕掛けを施してくるに違いない。
そんな男を決して、近づけてはいけないのだ。
…何も知らずにいる椿には特に。
だから、司はずっとこの事実を一人で抱えていたのだった。
その司の愛するが故に決断した事に誠斗は、これからの椿の人生を護るためにも、ただ唇を噛み締め、固く口を噤むしか方法はなかった…。
ずっと二人が結ばれればいいと思っていた誠斗の思いにヒビが入る…。
不二生の所為で、誠斗も貴臣も椿も、三人が取り巻く環境が狂ってきました!!
ここからもっと荒れる展開が来ますので、気を付けて~~!!